悟飯「ボク、秀知院に通いたいな」 作:親子孫
孫親子らによって恐怖の人造人間、セルは倒された!
ひとびとはセルの魔の手から救われ、平和な暮らしを取り戻すことができた……
そしてそのセルを倒した張本人、いま地球で最も強い人間である孫悟飯は───大きな悩みに直面していた。
「……やっぱり、ここの途中式でつまづいちゃうな。ブルマさんのところに聞きにいこっかな」
学習環境である!
幼稚園児の年頃から戦闘に明け暮れていた彼は、自ら勝ち取った平和で勉学を謳歌していた。小さいころ父に語った、学者になりたいという夢を叶えるために。
それが、ここにきて大きな停滞を見せていた。
孫悟飯は学校に通っていない。住んでいるパオズ山の周辺には学校そのものが存在しないのである。
悟飯はこれまで自主的な学習と通信教育(かつて家庭教師に痛い目を見たのでそれはしていない)で過ごしてきたのだが、それも限界を迎え始めてきていたのだった。
(いや、思い出した。ブルマさんは天才肌すぎて『ここをちゃちゃっと纏めてね、そこの文字を整えて……』って、解説もなにもあったもんじゃなかった。
それにあそこに顔を出すと、ついついトランクスくんと遊んでしまうし)
そもそも、何か分からなくなるたびにカプセルコーポに顔を出していたら、非効率すぎる。
そんな悟飯を察してか、母であるチチはある日、悟飯にとって渡りに船的な提案をするのであった。
「悟飯ちゃん、ひとりでウンウン唸るよりかは、思いきって学校に通ってみるってのはどうだか?」
「え?学校?」
「んだ。そろそろおめえも高校生くらいになるだ?そんだら────」
「そっそうか!学校でなら、いつでも先生になんでも聞ける!」
いままで戦友や動物たちとしか交流がなかった悟飯からしてみれば、薪を割るような衝撃が走った。
学校、それは孫悟飯にとって未知の、また憧れの場所であった。互いに競い合い、高め合う生徒たち。なんでも知っているような知恵の結晶である教師。学校を知らない悟飯には、学校は学問の聖堂という認識が強かった。
それゆえ、学校に行くという発想が今まで出てこなかったのである。
「そ、そうだべ。学校なら、分からないところがあってもセンセイにすぐ聞くことができるだよ。んだら、早速学校に入れるように頼んでくるだ。悟飯ちゃんもそれでいいけ?」
「あ、ま、まって! それならボク……」
本来の歴史なら、悟飯はここで首を縦に振っていた。サタンシティという町にあるオレンジハイスクールに通うことになっていただろう。
そこで、未来の妻たちと出会い、新たな敵と動乱に巻き込まれていくことになる……はずだが。
「ちょっと気になっている学校があるんです」
「気になってる?」
「は、はい。ブルマさんがこの前言ってた、すごく頭のいい学校があるって」
チチは予想となかなか反する言葉に、困惑した。断られるか、二つ返事だと彼女は思っていたけれど、まさか悟飯のほうから提案があるとは。
悟飯は「ちょっと待っててください」と言って、ブルマに電話をかける。その様子をチチは少し不安になりながら見守る。数分後、戻ってきた彼はにこやかに答えた。
「ボク、秀知院学園に通いたいな」
私立秀知院学園!
かつて貴族や士族を教育する機関として創立され、200年の歴史を持つ由緒正しい名門校。貴族制が廃止された今もなお、富豪名家に生まれ、将来国を背負うであろう人材が数多く就学している。幼等部から大学までの一貫校であり、外部入学は極端に少ない学校である。
「って、どこだべ?」
そんな学校を、チチが知るはずもなかった。今度はチチがブルマに電話をかける。すると面白いことに、みるみるうちに顔が真っ青に変わっていき、しまいには電話を切る間も無く、
「んなもんダメだ──────っ!!!」
と言ってしまった。
当然である。孫家はそろそろお金が無くなりそうなのだ。
まず一番に、稼ぎ手である悟空がセルとの戦いで死んでしまっている。かといって田舎育ちのチチが働ける場も時間もなく、悟飯とその弟、悟天は大食漢。
悟飯の祖父牛魔王のため込んだ財宝を切り崩して生活しているが、それもそろそろ底が見え始めてしまっていたのだった。
そんな孫家が富豪御用達の学校へ入るとどうなるか。家柄からの村八分は当然として、待っているのは破産である。
「で、ですよねー……」
「ダメだダメだ!オラも出来ることならそんなお偉い所に行かしてやりてーけんど、無理なもんは無理だ」
「すいません、忘れてください」
「んだんだ。じゃあ、オラは元から考えてたところに……」
そうチチが言おうとした瞬間、電話口から大きな声が聞こえてきた。チチが衝撃のあまりブルマとの電話を切っていなかったのだ。慌ててチチはブルマに一言残して電話を切ろうとしたが、ブルマがとても面白いことを言うのである。
「いいじゃない秀知院。もし良かったら、私がいろいろ援助してあげましょうか?」
「ぶ、ブルマさん?」
「うちは世界一の富豪よ? 悟飯くんひとり養うくらいどーってことないわ。うちには悟飯くんより暴れん坊のくせにワガママな王子サマがいるんですから! ほんっと働きもせずトレーニングルームを壊してばっかりであのバカは……」
「そっ、それ本当ですか!?」
「なんなら、いったんうちの血縁ってことにしてもいいわよ?それなら家柄うんぬんでいざこざも起こりにくいでしょーし。あそこの子達って家から情報を制限されがちだから、ちょっとくらい世間知らずでもおかしくないしねぇ」
「ほ、本当にいいんだかブルマさん?」
「逆にこれだけしかしてあげられなくて申し訳ないわよ! セルを悟飯くんが倒してくれたおかげで今の世界があるのよ? じゃ、本当に行きたいなら、あとで私のところ来てちょーだい!」
そう言い残して、電話が切れる。
悟飯とチチの間に沈黙が流れて、お互いを見つめ合う。数秒後、チチが口を開いた。
「悟飯……おめえ、よくセルを倒しただ」
悟飯は久しぶりに、戦いのことを褒められた気がした。
◆◆◆
「いらっしゃい悟飯くーん」
「お邪魔します……」
「あーっ!悟飯さんだ!」
「こらトランクス!ママは悟飯くんとお話があるから、ちょっと向こう行ってて!」
「はぁーい。じゃ、パパのトレーニングルームに遊びにいーこぉっと!」
例の秀知院学園の件で、悟飯はカプセルコーポレーションに訪れていた。チチは「きちんと定期的にこっちに帰ってくるなら、うんと向こうで勉強してくるだ!」と送り出してくれた。悟天は……かなりゴネていたが、カプセルコーポレーションに来れば会えると説得して、なんとか折れてくれた。
トランクスが軽快に走り去るのを見届けたあと、ブルマから話が始まる。
「ま、知っての通り向こうは閉鎖的なところよ。でも、勉強に打ち込みたいのならあそこほど適任な場所はないわね」
「ブルマさんはどうしてそんなに詳しいんですか?もしかして元卒業生とか」
「外部講師として結構お邪魔させてもらってるからね」
悟飯は、さすがブルマさんだなと思いながら、相槌を打った。
「移動は……問題ないわね。悟飯くんなら地球のどこだってひとっ飛びだし。学力も、多分大丈夫よ。入学試験は他の学校に比べても相当難しいけど、悟飯くんならそう手もかからずに突破できるはず」
「な、なるほど」
「家柄はうちの親戚って言えば突破できるとして……」
「う、嘘ついちゃっていいんですか?」
「いいのよそのくらい!実際、トランクスにとっても親戚のお兄さんみたいなカンジだろうしねー」
軽々と嘘を、それも結構グレーなところを許可するブルマの豪胆さには、悟飯も目を剥いた。その後ブルマはポツポツとひとりごとをこぼしながら考えをまとめ始める。
その様子を悟飯は膝に手を置きながらソワソワして眺めていた。
「うん、うん。他は問題なさそうね。いいじゃない悟飯くん、戦いも強くて頭もいいって、完璧じゃない」
「あ、ありがとうございます……」
「じゃ、編入試験とか手続きはこっちの方でしておくから、試験対策とかしてきてね。また何かあったら連絡するわー」
「はいっ!ありがとうございます!」
◆◆◆
かくして、ボクはこのカプセルコーポレーションで居候をすることになった。その後も編入試験、面接もブルマさんとお母さんのサポートを受けながら突破し、晴れて───
「入学おめでとー!!」
「よかっただな悟飯。おっとうも喜んでるだよ」
「フン、学校に入った程度で浮かれるとは。下らんな」
「えー?パパもちょっと嬉しそうだよ?」
「うるさいトランクス!小遣いを減らされたいか」
「い!? そんなあ!そりゃないよパパぁ」
「ははは!トランクスくん、余計なこと言っちゃったね」
「くっそお〜〜〜〜っ、黙っとくんだった」
「あははは……皆さんありがとうございます!ボク、これから一層頑張ります!」
悟飯の入学祝いにこういった宴会をして、彼は期待に胸を膨らませる。悟飯の初めての学園生活というものが、明日から幕を開ける。
宴会がお開きになったあと、カプセルコーポにあてがわれた自室で、悟飯は天国にいるだろう父に向けて一礼し、床についた。
◆◆◆
「孫悟飯くん。君を生徒会庶務に任命したい。受けてくれるな?」
「…………え」
勉学に打ち込んで一年が過ぎた孫悟飯の学年生活に、新しい風が吹き始めた。もっとも、彼がそれを望んでいなくても。
思いつきです。数話は続きます。多分