悟飯「ボク、秀知院に通いたいな」   作:親子孫

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孫悟飯は生徒会になりたくない

 

 悟飯の初めての学園生活は、例えるなら味の薄いスープのようなものだった。

 カプセルコーポの親戚で、ほぼエスカレーター式の秀知院での外部入学。これで全くの庶民の出なら悪い意味で目立つだろうが、なんとも言えない半端な地位なので、いじめられることも大きく興味を持たれることもなかった。

 もちろん編入初日は質問攻めにあうのだが、ボロを出さないよう当たり障りのない受け答えを叩き込まれたおかげで、とってもつまらない結果に終わる。

 本懐は勉強であった悟飯に、友人づくりを頑張るという考えがなかったのも、一因となっているかもしれない。

 

 一週間後には孤立していた。後ろ指を指されることもなかったが、本当に空気のような存在と化した。

 悟飯からすれば、人間の友人など初めての概念であり、あまりその点で苦には思わなかった。無いことの苦しさを知らないので当然である。

 逆に勉強に集中できるとして、好都合に思っていた。その証拠に、質問と学習の鬼となった悟飯はメキメキと学力を上げていき、常に同学年の校内模試では一桁の順位をキープしていた。

 

 その時にも若干、クラスで話題となったが、その人気の火もまた数日後には煙に巻かれて消えてしまった。

 

◆◆◆

 

 そんな調子で一年近くが過ぎた。新生徒会の選挙が行われたことは、悟飯の記憶にも新しい。とりあえず一番人気の人に投票すれば間違いないだろうと演説は適当に聞き流していた。自分が関わることはないだろうと、タカをくくっていた。

 

「孫悟飯くん。君を生徒会庶務に任命したい。受けてくれるな?」

 

「……え」

 

 ある日、生徒会室に悟飯は呼び出された。何か粗相があったのかと不安を覚えながら、小走りで向かう。そんな悟飯を待っていたのが、コレである。

 悟飯は会長が差し伸べるその御手を凝視しながら、額に汗を流していた。まさか生徒会長じきじきに対面することとなるとは、夢にも思っていなかった。

 悟飯の開いた口が塞がらないでいる様子を察して、生徒会に推任しようという理由を語り始める。

 

「君の能力を評価してのことだ。なぜか君の周囲では全くと言っていいほど話題となっていないようだが……君が学園模試の結果、不動の三位という結果を叩き出してるのを知っている。

 君のその実直な努力とたしかな実力を鑑みて、君は生徒会に必要な人材として俺が判断した。もう一度訊くが、受けてくれるな?」

 

(この人が生徒会長、白銀御行くんか。実際に会うのは初めてだな)

 

 質実剛健!聡明英知! 学園模試の頂点を(ほしいまま)にする勉学という概念を体現するような存在。それがこの秀知院学園の生徒会長『白銀御行』である。

 悟飯も彼のことは、身近な生徒よりかは知っていた。学年が変わって常にトップを維持している彼を、悟飯は越えるべき目標としていたのである。もちろん彼個人のことは全く知らない。

 

(会ってみると、意外と普通っぽいな……目のクマは酷いけど。いやいやそれよりも!)

 

 悟飯は白銀を新生徒会の選挙のときに演説で顔を見たことがあるはずだが、それを聞き流していたため今はすっかり記憶から抜け落ちていた。

 

「で、でもボクそんな大層な人間じゃないですよ。生徒会だったら、もっとしっかりした方のほうがいいんじゃないかな」

 

「ほう、この俺の判断が誤っていると言いたいのか」

 

「い!いえ、別にそんな……は、判断力があるから生徒会長に選ばれたのは知ってますけど」

 

「判断力?」

 

「はい。だってそうじゃないんですか?白銀くんって、いっぱい勉強して生徒会長に選ばれたんですよね。みんなが、白銀くんなら正しい判断ができるはずだって思ったから……」

 

 悟飯はその限りではなく、彼の勢いが強かったから投票したのだが。自分の立場を鮮明にせず、周りの意見と自分が一緒のように語ることではぐらかそうとした。

 

 悟飯は聞こえのいい言葉を使って、気分が悪くなられるまえに、オブラートに生徒会の話を断ろうとしたのだ。

 それはひとえに、勉強というものが悟飯にとっての最優先であるからだ。そのために部活やクラブに所属していないのに、生徒会なんて入ってしまえば本末転倒である。

 しかし誤算だったのは、白銀御行の方が上手だったということだ。

 

「ありがとう。じゃ、君は俺の判断が正しいと思ってくれているわけだ」

 

「え? ええっ!」(しまった、ハメられた!)

 

「別に無理強いするわけではないからな。明日の放課後に改めて新生徒会を集めるが、別に来てもらわなくても構わないぞ。もっとも俺としては来てくれた方が俄然嬉しいが」

 

「し、白銀く……」

 

「では俺は別の仕事もあるからな。今日一日よく考えてくれ」

 

 そう言い残して、白銀は退出する。生徒会室に残されたのは、考えがまとまらず固まった悟飯だけだった──────

 

◆◆◆

 

「へぇー。悟飯くんがねぇ」

 

「ボクはどうすればいいんでしょう……断りたいけど、そんな雰囲気じゃなかったし、何より申し訳なくて」

 

「嫌なら嫌って言えばいいんじゃないの〜?無理矢理なんてことは、いくらなんでもしないでしょ」

 

「それは、そうなんですけど」

 

 ブルマの無責任な発言に、悟飯は頭を抱える。なんとか断るための妙案を尋ねたのに、こんな事を言われてしまった。

 悟飯は間食に食べている中華まんの八個目に手を伸ばしながら、深く項垂れる。

 

「チチさんはなんて?」

 

「まだ言ってませんけど、たぶん『そっだらやってみるべきだべ。悟飯のためにわざわざ声をかけてくれるなんて、光栄な事だべ』とか、言いそうじゃないですか?」

 

「あっはは、わかるわ〜。じゃ、もう逃げ道はないみたいねー」

 

「悟飯さん、なに悩んでんの?」

 

 悟飯がブルマの発言に「うっ」と声を出したところ、トランクスが声をかけてくる。彼がテーブルの上にまだまだ盛られている中華まんをひとつ取りながら、悟飯に尋ねた。ちなみに悟飯は九個目に口をつけた。

 

「実は、《中略》で、生徒会にならないかって。ボクは勉強時間が崩れるからあんまりやりたくないんだけどね」

 

「ふーん」

 

「キョーミ、なさそうだね」

 

「うん。だってキョーミないもん。勉強時間をもっと増やしちゃうんじゃダメなの?」

 

「また無責任なコト言ってねぇアンタ。悟飯くんより勉強してから言いなさい!」

 

「で、でもさ、その会長さん?悟飯さんより頭いいんでしょ? なんでそんなに頭がいいのか分かるかもしんないよ」

 

「……確かに」

 

 悟飯はトランクスの発言を聞いた瞬間、項垂れていた頭を挙げて呟く。その様子を見て、ブルマはトランクスに小声で「もっとハッパかけちゃってよ」と伝えた。もちろんトランクスは顔を顰めるが、ブルマが親指で指し示した先に新しいテレビゲームのカセットがあるのを見て、すかさず悟飯の隣に腰掛ける。

 

「しかも生徒会って、悟飯さん以外にも頭のいい人が集まってくるかもしれないよ、代表なんだし。そしたら色んなことも知れるし、勉強も捗るんじゃないかなーって」

 

「……なんだか、ボクを生徒会に入れようとしてない?」

 

「べ、別にそんなことないよ!ねえママ!」

 

「え!ええそうよ。それに秀知院の生徒会はスゴイって聞くわよ、なんでも、所属中は学校の設備とか優先的に使えるらしいし、一年間やり終えたら進学に使える推薦ももらえるとか!」

 

「す、すごいねママ!」

 

「何がスゴイか分かってないでしょ、トランクスくん」

 

 だが、思ったよりも悪くない話だと悟飯の考えはシフトしていた。秀知院の図書館はいつも生徒が詰めているが、それだけ魅力的な文献のある場所だし、共有スペースにある個室を使いやすいっていうのは悟飯にとってもありがたい。

 白銀御行やそれが集めた人間たちには興味もある。メリットは多い。

 それでも、勉強時間が失われるという部分は、決断を渋るほどネックとなっていた。悟飯は生真面目ではあるが何かに対しての奉仕精神は根付いていなかった。

 

「あーもうじれったいわね! なっちゃえばいいのよ生徒会!勉強時間が心配ならその分増やせばいいでしょー?」

 

「ママ、自分の言ったことに責任はないの……?」

 

 悟飯の頭の中が目まぐるしく移り変わる。そして情報が整理されていくにつれ、悟飯は自分がやらないでいいための言い訳を探していることに気付いた。ブルマたちの言う通り、勉強時間を増やせば、悟飯の懸念は解決するためである。

 普通の人なら『勉強時間を今より増やしたら、自由時間が減ってしまう』と考えるかもしれないが、勉強することが好きな悟飯にとってそれはその限りではない。

 

「……よし」

 

 悟飯はあれこれ考えてはいるが、すでに決心はついていた。

 

◆◆◆

 

「会長さん、データ入れ終わりましたよ」

 

「早いな孫。藤原はどうだ」

 

「うへぇ、まだまだです〜。というかなんで今日こんなに忙しいんですか!」

 

「なんで……とおっしゃられましても。多くの文化部のコンクールが近くて、加えて石上君が大した仕事を持ち帰らなかったからでしょうね」

 

「石上くん、たぶんなんとなく察して逃げましたよね。あ、ボク演劇部に話通してきます」

 

「ん、助かる。孫がいなかったらどうなってたことか……マジで破綻してたかもな。そうだ四宮、これ目通しておいて────」

 

 生徒会室から退出した悟飯は、大きく伸びをして大きく息を吸った。今日はいつもよりも格別に忙しく、こんな息つく暇でもありがたい。

 

 あの決心の日から、数ヶ月が過ぎた。その間、悟飯は順調に生徒会へ馴染めつつあった。

 

 それは、この秀知院でかつて起こった出来事や、悟飯の在学中に起こった諍いも、鈍感でマイペースな彼には何一つ関わりがなく、その謙虚な姿勢も相まって、交友関係を築くにあたってなんの障害もなかったのが要因となっている。

 コミュニケーション能力が低いわけでもないので、生徒会で彼は順調に『可愛い弟系』のポジションを確保していた。

 

「……想像と違ったな」

 

 ただ、勉強のためになっていたかというと、そうとは言えなかった。

 





原作の流れでいきたかったんで、原作通りの生徒会に入ってから半年くらい経ってからのスタートです

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