悟飯「ボク、秀知院に通いたいな」 作:親子孫
「なあ四宮、孫が昼飯食べてるところって見たことがあるか?」
「はい?どうしてそんなこと聞くんです会長」
生徒会室での昼食中、唐突に白銀は四宮に尋ねた。四宮は質問の意図を掴みかねて、つい問い返してしまう。
再びの登場『四宮かぐや』───生徒会副会長。彼女はこのエリート御曹司まみれの秀知院においても数段上の家柄である。総資産200兆、四大財閥のひとつと称される『四宮グループ』の本家本流の令嬢と説明されれば、その凄さが伝わるだろうか。(現実でも200兆を超える企業は大抵金融系。トヨタでさえ100兆くらい)
因みにだが、悟飯が出身として騙っているブルマのカプセルコーポレーションは世界一のお金持ちの企業なので、これを超えるものと考えると恐ろしい。
「いやな、最近俺が弁当作ってるだろ?そのときにふと、あいつが何かを食べてるところを見たことないと思ってな」
「たしかに、わたしも見たことはありませんね」
白銀の口にだし巻き卵が運ばれ、それが喉を通ると白銀は話を続ける。普段は弁当ではない彼だが、祖父母から野菜が送られてきたため無駄遣いしないよう弁当を手作りしてもってきていると、数日前に語っていたのを四宮は忘れていない。
そのとき四宮は初めてタコさんウインナーというものを口にしたことは記憶に新しい。
「一応四宮、おなじクラスなんじゃないのか?」
「いえ……昼食の時間には彼、すぐどこかいってしまうんですよ。弁当を持ってきているのも見たことないですね、そういえば」
「学食で見たこともないしな。ちゃんと食ってんだろうかアイツ」
茹でブロッコリーに少量のマヨネーズをつけた物を頬張りながら、白銀は呟いた。四宮はまた白銀の弁当の中身が気になり覗き込もうとするが、そうすれば一品欲しいあまり空回って痛い目を見る気がするので遠慮した。
白銀は口の中のものを飲み込み、味噌汁を口に潜らせると、何かを決心するかのように立ち上がる。
「よし、今度聞いてみるか」
「そこまで気になるのですか?」
「そりゃ気になるだろ、友人が今のご時世に毎日二食生活なんて、心配でしょーがない。芯の細そうな悟飯にダイエットなんて似合わないしな。だろ四宮」
「え、ええそうですね会長……」
四宮は恥ずかしげもなく言いきった白銀から目を背ける。彼女の頬は紅潮していた。白銀のこういった、誰にでも注がれる優しさに四宮は弱いのだ。
(どうして会長は堂々とそんなことを言えるのかしら!?こっちまで恥ずかしくなってくるじゃない……)
◆◆◆
そんな会話がされていたとはつゆ知らず、悟飯はいつものお気に入りの場所で昼食をとっていた。
「うーん、やっぱりここが一番落ち着くや」
ここは秀知院……ではなく、まったく無関係の山の山頂。
悟飯は通学したては学食や教室で食べていたのだが、一度怪訝な目つきで見られていることに気付いてからは、隙を見てこの山に飛んできて昼食をとることにしているのだ。(雨の日は仙豆のカケラを齧って凌ぐ)
「まったく、なんでボクがわざわざこんなことしなくちゃならないんだ。別にボクがどれだけ食べててもいいじゃないか!ボクが田舎者でもいいじゃないか!もう……そう考えるとなんかムカついてきたぞ。今日は久しぶりに運動しよっかな」
悟飯は山のように積み上げられた弁当箱に、さらにもう一段追加しながら悪態をついた。流石の悟飯でも、やはり慢性的に自分を抑えるのはかなり辛いらしく、こういうひとりの場所では不満をぶち撒ける貴重な場ともなっていた。
開けた場所にシートを敷いて、ブルマから頂戴した『ホイポイカプセル』というカプセルコーポの知恵の結晶からさらに昼食を取り出す。
「次の時間まであと10分くらいか。あと三箱は食べれるね」
取り出した弁当箱でさらにもう一段積み上げたあと、ひとりごちた悟飯は三つのホイポイカプセルを取り出し、スイッチを押しながら投げる。カコッと音がしたのち、軽い爆発音と共に具材でギチギチな巨大弁当箱が三箱現れる。
悟飯は空になった箱をカプセルに戻すと、箸で弁当の中身を胃袋へ流し込んでいくのだった。
◆◆◆
「なあ孫、軽い質問なんだがいいか?」
「どうしました会長さん。あ、四宮さん頼まれてたヤツです」
「お前っていつもどこで昼メシ食ってるんだ?見かけたことないんだが」
「え……」
放課後の生徒会室での執務中、白銀が悟飯に切り込んだ。
悟飯が四宮に渡そうとした書類を手から落とす。目からは明らかな動揺と焦りが読み取れる。悟飯の身体が蛇に睨まれたように固まる。もしや学校外でご飯を食べていること、それどころか空を飛んでいたことがバレたのかと思ったのだ。
「えええっと、昼ご飯ですか?そうですね、今日は中庭の端っこの方で……」
「でも今日弁当持ってきてなくね?」
「い! そ、そうですねー」
悟飯が慌てて床に散らばった資料をかき集める。端を整える間もなく、雑に紙の束を四宮に押しつける。しかし状況は全く変わっていない。悟飯に滝のような汗が流れる。
「孫くん、いじめられているのなら言ってください?わたし達生徒会の一員をそのような目に合わせたとなれば、こちらも相応の……」
「そんなことではないです!おおお構いなく!」
「それならいいんだが……んで、どうなんだ実際」きになる
「えーっと遠くのほう、と言いますか。そう屋上!屋上です。空が近いとご飯が美味しくて」
「雨の日にはどうしてるんです?」
「あめ……なら、屋上の入り口のところで」
「空が近いとかもう関係ねーじゃん」
側から見ずとも、怪しすぎる悟飯の行動。それは彼自身も重々理解している。苦しすぎる言い訳にワケの分からない行動理由を添えて、自分でも何がなんだかわかっていなくなっていた。
単純な何気ない質問をしているつもりの二人だったが、悟飯の目には弱った獲物を睨みつける捕食者のように映る。悟飯は鼓動を落ち着けるため、唾を飲み込んだ。
「そこまで話したくないんなら言わなくていいぞ、孫」
「そうですよ会長。孫くんは何か特別な事情があるのでしょう。はい、確認しましたよ。このままの案で通していいと思います」
「あははは、あ、ありがとうございます」
悟飯とて、もう彼らを信頼していないわけではない。生徒会のメンバー全員を、大切な友人と言えるほど悟飯は彼らのことを大事に思っている。その感情はお互いに相違ない。
しかし話せないものは話せないのである。大食漢なことは知られてもさして問題ないが、そこからなし崩しに秘密がバレてしまうのを、悟飯は恐れた。
おかしい異物と見られることを恐れ、知ってしまった友情というものを失うことを恐れた。
愛想笑いの陰に、後ろめたさが澱んだ。
◆◆◆
その時間の授業の終了を告げる鐘が、秀知院じゅうに響き渡る。その鐘が鳴り終えるまでに、ひとつの人影が俊敏に廊下を走る。教室から勢いよく飛び出したソレは、ある教室の門前に立ち塞がる。
(……やっぱ気になる。別に言えないようなことなら俺が黙っときゃいい話だしな)
好奇心に駆られた白銀である。
食事の場所取りや食堂の席取りに赴く生徒達が、続々と教室から出てくる。白銀はそこを通り抜けるふうを装って、のらりくらりと扉の前に居座る。
途中、四宮が弁当をシェフから受け取りに行くのを目にするも、ついていきたい気持ちを抑えて悟飯が出てくるのを待つ。このとき自分のためにやってきたかと勘違いし、悶々としていた四宮がいたのは余談である。
しかし。白銀はいくら待っても出てこない悟飯に疑問を抱く。四宮の話なら悟飯はいつの間にかいなくなってると聞いたのに、最初から教室の前を抑えたにもかかわらず悟飯はやってこない。
(おかしいぞ。教室でメシを食べないのなら、ここからしかあいつは出られないはず)
訝しんだ白銀が、堪えきれずに教室を覗く。
「なに?どこにもいないぞ」
そこには、悟飯の姿は何処へ。白銀は教室を隅々まで見渡すが、影も形もなかった。
教室から離れ、廊下に意識を向けるも、人だかりがあるわけでもないのに悟飯の姿が見当たらない。悟飯はもうこの場にはいない。どうやってかは知らないが、悟飯は教室から脱してみせていた。
「くそっ、どうやって消えた?」
白銀は出し抜かれたことに大きな屈辱を感じる。その脳漿を以てしても、あの状況から全く視認されずに移動できた方法は思いつかない。まさか窓から飛び降りたわけでもあるまい。と考える。
一方の悟飯は、単純かつ誰にも真似できない方法で教室からの脱出から成功していた。
(会長さん、悪いけどボク分かってました。会長さんが教室の前でボクを出待ちしてるの)
他の惑星よりも人間の戦闘レベルが格段に低い地球。それでも、他の惑星人とは追随を許さないある技術がある。それは『気』の探知。
肉体の強さを表す気……それは誰にでも僅かながらに有し、各々に違う気を持っている。それを地球の武道の達人は探知、識別できる。もちろん、地球育ちの戦士である悟飯にできない技術ではない。
かつてこの星で一番、現時点でも二番手の悟飯の実力は伊達ではない。走ってこちらにやってくる白銀の気を探知できないほど、悟飯はまだ平和ボケしすぎてはいなかった。
「まさか、俺が教室を覗くタイミングを見計らって、もう一個の出口から抜けてったのか?いや、俺が教室から廊下に視線を移すまで5秒くらいだったぞ?そんなことできるわけないだろ」
そんなことできるのが、孫悟飯である。
現に悟飯は白銀が顔を覗かせるのを見計らい、扉から飛び出すと華麗に人の合間に避けて屋上まで駆け上がった。一般高校生ならまず無理な芸当ゆえ、白銀が勘付かなかったも無理はない。
「でも、このままボクが逃げちゃうと会長さんの食べる時間がなくなっちゃうよな。諦めてほしいけど……どうしよっか」
柔らかいそよ風に前髪を波うたせ、秀知院の敷地を見渡しながら、悟飯は呟く。
悟飯は屋上にやってきていた。ここなら、万一追跡・発見されても、昨日の言い分で言い訳ができる。そう考えたためだ。
ひとまず落ち着いたところで、悟飯はその発言の内容を心配していた。
白銀はこの程度で諦めるような男ではないと、悟飯は知っている。白銀なら、空腹とプライドを天秤にかけてプライドをとる人間だろうということは、これまでの付き合いでなんとなく感じていた。
「まいったなー、ボクのせいでっていうのが、こりゃまた気が引ける」
それに、昼食の度にこの追いかけっこが始まってしまう、というのは避けたい。それはお互いに利益のない不毛な争い。悟飯はどうすればこの状況を打開できるか、想像力を働かせる。
プランA:弁当の量を人並みにする。
「孫くん、頼まれてたの持ってきまし───そっ孫くん!?」
「あ……ああ、ぐぁ……たすけ……」
悟飯は即座にプランAを頭の中からかき消す。たぶん、空腹で死にかけることになる。カラカラに干からびているところを、四宮か藤原に発見されるオチというところまで想像がついた。
悟飯はめげずにプランBを新たに思いつく。
プランB:白状する。
「うおっ、なんじゃそりゃ!」
「え、いつもの弁当ですけど?」
「いやいやフツーそんなに腹に入るわけねーから!キモッ」
脳内に響きわたり、反響するイマジナリー白銀の声。悟飯は想像の暴言に、項垂れて落ち込んだ。妄想とはいえ、親友と思っている白銀からそんなこと言われるのはキツかったらしい。白銀ならこんなこと言わないのは理解しているが、悟飯の自己肯定感の低さからこんな想像ができてしまった。
沈んだ感情を押し退けるべく、新たなプランCの存在が入り用になる。
プランC:先に食べたい分を食べて、誤魔化す。
「……うん、いいんじゃないかなこれ」
白銀の行動は好奇心ゆえのことだと、悟飯は推定する。ならばそれを満たし、適当に興味を失わせればいい。先に食べる分だけ食べておき、その後人並みな弁当箱をさりげなく取り出し、ゆっくり食べればいい。
そうすれば白銀は興味をなくして、昼になるたび悟飯を追いかけるなんてことにはならなくなるだろう。
どうやってそのシチュエーションを作り出すか。それは今の状況が適していると悟飯は思う。白銀がおそらくやってくるからだ。多分、白銀の頭脳と行動力なら、いま自分がここにいるということを特定するのは難しくないだろう、と。
「そうと決まれば、さっさと食べちゃわないと」
ポケットのカプセルケースから、弁当用のラベルをしてあるものを、ひとつを除いて全て投げる。数にして七箱。どれも食材が所狭しと詰まったヘビー級で、相撲取りでさえ全部を平らげるのは難しいと思える量である。
それを悟飯は迷わずかき込む。その速度は掃除機に埃が吸い込まれていくがごとく、みるみるうちに一箱、また一箱と空箱の山が積まれていく。
普段も常人には真似できないスピードで食事をしている悟飯だが、彼自身は拙速を心がけて食事をしているわけではない。
その食事スピードは、どれだけ食べても腹にたまるという感覚が少ないからである。空腹なら箸が進むというのは誰しも経験あるだろうが、空腹が腹八分目に到達するまでが非常に長い悟飯は、その空腹ブーストをずっとかけられる。だから食べるのが早い。
そんな悟飯が、食事を急いでいるのだ。当然、食材たちは食べられることにさえ気付かず胃酸に溺れることとなる。
「あと三箱か……急いで食べると、いつも入る量もなんかキツく感じるな」
悟飯がなぜこれだけの食事を摂るのか。それは悟飯に流れる『サイヤ人』の血が作用している。
戦闘民族サイヤ人────惑星ベジータを本拠としていた、非常に好戦的な、地球からすると『宇宙人』となる人類。その形質を、悟飯は有している。
性格は基本的に凶暴で残忍、粗野。民族の通称のとおり、戦闘と殺戮が娯楽の頂点に位置し、銀河系でも頂点に近い戦闘能力を有する。サイヤ人の中でも落ちこぼれで、かつ碌な戦闘訓練を受けていない子供でも、並大抵の地球人は勝つことができないのだから、その能力は凄まじい。
瀕死パワーアップに大猿や超サイヤ人といった、戦闘力をさらに上げる手段が多彩なのも、最強の民族と言わしめる所以だろう。
しかし、現在は絶滅の道を少しずつ歩んでいる。
(あっ、会長さんの気が近付いてきてる……急がないと)
きっかけは今から約40年ほど前。当時サイヤ人は『傭兵業』と称して、他惑星の民族を滅ぼし星を売るという、地上げ屋を生業として生きていた。
宇宙の帝王フリーザの同盟相手として。
体裁はそういう状態だが、実際はフリーザ軍に属しているようなものだった。フリーザは星を買うクライアントではなく星を攻める司令官として、サイヤ人を統制していた。不満に思うサイヤ人は多かったが、フリーザの絶対的な能力を恐れ、唯々諾々と従っていた。
ある日、フリーザはサイヤ人を惑星ベジータに集結させる。任務で別惑星にいる者には配下を多く差し向けた。そしてフリーザは、惑星ごとサイヤ人を消滅させる。
それを免れることができたのは、王子ベジータの一派と孫悟飯の父親、カカロットのみ。ベジータ一派も戦いの最中で命を落としつづけ、カカロットもとい孫悟空もセルとの戦いで死んでしまう。
いま純血のサイヤ人は、悟飯のお世話になっているカプセルコーポレーション社長ブルマの夫であるベジータ王子しか残っていない。
話が逸れたが、そのサイヤ人の特性に、とんでもない食欲がある。悟飯は地球人のチチとの混血サイヤ人ではあるが、その特性は失われてはいない。
「ふぅぅーっ。なんとか食べ切ったぞ」
食べ始めてから時間にして13分。昼食用の昼休みの時間はまだまだ残っている。これなら、白銀もなんとか食事を摂ることができるだろう。悟飯は安心して、伸びをしながら大仰に寝転がった。
視界にはまっすぐに開けた青空が広がる。いつも隣を共に飛んでいる雲も、いまにも落っこちてきて掴めてしまいそうな感覚をおぼえる。鳥が羽ばたいていくのを、自然と目で追う。
すると、さらに数匹の鳥たちが肩を並べてともに羽ばたく。上体を起こし、行く先を見渡すと、そこは悟飯がいつも食事をしている山だった。鳥たちら山中の木々に消えていき、そこまで見届けた悟飯は、その山を見つめながら、ひとり考える。
(ボクも、いつかあんなふうに)
気がさらに近付いてきている。階段を駆け上がり、だんだんとこちらに迫ってきている。だが悟飯の意識は、そこにはもうなかった。
「やっぱりここか孫!もう逃げられないぞ」
ゆっくり悟飯が振り返る。開け放された屋上への扉に、肩で息をする白銀が佇んでいた。悟飯は、自分でも無意識のうちに考えていたことを忘れて、手招きをする。
「会長さん」
「なんで逃げたんだよ、孫」
「先生に呼ばれてたことを思い出して。昼ご飯の時間を減らしたくなかったから急いで行ったんです。探してたなら、それはごめんなさい」
「謝って欲しかったわけじゃないが……」
白銀の視線が動いたことに悟飯は気付いた。そこで悟飯は隠していたカプセルを白銀の死角で解放し、最後の弁当箱の姿を見せた。白銀は目を丸くし、手招きする悟飯に従って近付いていく。
「まだ食べてないのか」
「はい。ちょっと忙しくて、ボクもこっちに来たばかりです」
白銀は悟飯の隣に座って、屋上からの景色を望む。
秀知院の敷地は広大で、徒歩数分の中等部も高等部の屋上からの様子を伺うことができる。こうして眺めているだけで、生徒や教員の様々な営みが知れる。
「どうしてボクを探してたんですか?」
悟飯がそう尋ねると、白銀は少しの間困ったように眉を曲げた。
「いや、隠すことでもないな」
しかし、そう小さく呟くと、本心を語る。心の中で「四宮と違って、そうプライドをかける必要もないからな」と付け加えながら。
「せっかくなら、一緒に食べないかと思ったんだ。俺が弁当なのも、あと数日だし。……どうだ、孫」
悟飯はそこで初めて、隣の白銀の目を見た。すぐに目線を逸らして、屋上からの景色に戻す。……口角を上げて、弁当の箱を開けた。
「……はい!」
◆◆◆
「あら、今日は孫くんも一緒なんですね会長」
「ああ。昨日からな、俺の弁当日も今日までだし、どうだって誘った」
(いいなあ……っていやいやいや!そんなのわたしが思うのがおかしいわよ。このわたしに『一緒に食べさせて下さい」とお願いするならまだしも)
「四宮さんも食べませんか?」
「はい!かまいませんよ!」
そのときの四宮の顔は、さぞ幼稚なものだったろう。
白銀が悟飯の昼食を探っていた理由は、たんに心配というわけではなく一緒に食べたいと思っていたためであった。四宮たちとはすでに食べていたが、悟飯だけ仲間はずれになっていたのは白銀としても寂しかったのだ。
悟飯も、一日だけなら我慢もできるだろうと、今日は普通の量の弁当を食べていた。一応いつもの量の弁当も、ポケットのカプセルにあるのだが今日はそれを食べるつもりはない。
もちろん腹の虫は治らないが、友人たちと食べる食事というのは新鮮で楽しく、後悔はひとつもなかった。
「それにしても悟飯、お前よく食べるな」
「え?そ、そうですか」
それでも弁当の量は結構多い。二人前くらいの量はある。
楽しく談笑しながら、白銀と悟飯がオカズを交換したのを機に四宮も白銀から直接タコさんウインナーを得ることに成功する。また悟飯は白銀流の冷飯みそ汁マリアージュの方法を授けてもらい、次から汁物のカプセルも持ってこようか、と想像していたところに。
「お!みなさんお昼ご飯ですかーっ」
満面の笑みで、ドアから現れた藤原千花。
孫悟飯はまだ知らない。対象
悟飯は藤原のことをかなり尊敬していた。優しく、明るく、人を安心させるような眩しい人格。能力も高く、大らかな所に孫悟空の姿を思わず重ねてしまうほどに。
今日、幻想に初めての瑕がつく。
「孫くん、それだけで足りるんですか?」
嫌な予感がした。悟飯は首筋を撫でられるような気色の悪い感覚を感じる。止めようとも考えたが、藤原なら悪いようにはならないと慢心し、警戒を怠った。期待に応えるように、目の前の藤原は止まらなかった。
「いやいや藤原よく見ろ、この弁当箱フツーに二人前くらいある……」
「会長知らないんですか、孫くんってスッゴく食べるんですよ。去年に孫くんが入学したてのころ八人前くらいのご飯をみるみるうちに平らげて……」
「ちょちょちょ藤原さん!?」
「もしかして隠してるんですか〜?ダメですよ、食べたいぶんはちゃんと食べないと。もしかして弁当わすれちゃったとか?」
絶句する悟飯。八人前、という突拍子のない数字に白銀と四宮は固まってしまう。藤原は凍りついた場の空気をものともせず、何を思ったのか悟飯のカバンの方へ歩いて行く。
そして断りもなく、悟飯のカバンに手を入れ、ガサガサと漁り始める。
「ほんとに忘れたのか確認してあげますね。こーいうのは意外と友達に探してもらうと出てきたりするんですよ」
「まっ、まって!本当にそれは」
「あっ、これ!『ホイポイカプセル』!孫くんカプセルコーポですもんね、えいっ」
カコッと音が鳴る。生徒会室が真っ白な煙に包まれ、BONとポップな爆発音が。煙はすぐに晴れて、机の上に堂々と大量の弁当箱が聳え立つ。段数にして八段、十人前を超える品々が、それぞれの弁当箱の中に収まっている。
圧巻の光景に白銀たちは言葉を失う。藤原は久々に見たこの弁当山を見て、「ほぉ〜〜」と感心したような声を出している。その隣で悟飯は失神しそうなほど、焦っていた。
「そ、孫?これは……なんだ??」
「こ、これは。藤原さん!なんで知ってるんですか」
「なんでって、忘れちゃったんですか?私一年生のとき孫くんと同じクラスだったんですよ。孫くんが入学したてのとき、スゴい大食いだなって思って」
悟飯の失念は、過去だった。途端に悟飯の脳内に広がる、白銀たちからの幻滅した視線。普通なら超大食いなだけで、友情が壊れるものでもないが、動物との友情くらいしか育んできた経験のない悟飯にはそれがわからないかった。
(ボクがあれこれ考えた意味は……)
悟飯の顔が笑みを張り付けたように固まる。一言も発しなくなった悟飯を心配して四宮は彼の顔を覗き込むが、その状態を見て言葉を失う。
「孫くん?孫くん!?」
(いったい……)
四宮が声をかけるが、反応はない。孫悟飯は白目をむいていた。
本日の勝敗 孫悟飯の敗北
敗因 藤原という存在を知らなかったため