常闇の邪竜戦記   作:星乃 望夢

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第十七話

 

紫電を纏う神牛が蹄を鳴らし、巨大な戦車が再び宙へと浮き上がる。

 

「わはははは! いやはや愉快! 実に重畳!」

 

御者台の上で、征服王イスカンダルは腹の底から笑っていた。

 

その隣で、ウェイバー・ベルベットは手すりにしがみつきながら、涙目で抗議の声を上げる。

 

「な、なな、何が『愉快』だよライダーのバカァッ!! あんなのデタラメじゃないか! セイバーがビーム撃つのは百歩譲っていいよ! でも、あの織姫って魔術師! 『影の国』とか言っといて、なんでセイバーと同じ聖剣持ってるんだよ!? しかも黒くなるし! ドロドロしてるし!」

 

ウェイバーの魔術師としての理性が、先程の光景を拒絶していた。

 

神話体系の矛盾。魔術師による宝具の模倣と、それをオリジナル以上の出力で運用する異常性。

 

あんな「例外」が闊歩していては、聖杯戦争のセオリーなど通用しない。

 

「それにあの金ピカ! あいつも大概だよ! 宝具を雨みたいに降らせて……! あんな化け物たちと戦って勝てるわけないだろぉぉっ!!」

 

頭を抱える小さなマスターを、巨漢の王はバシッと背中を叩いて激励した。

 

「ぐえっ!?」

 

「何を情けない声を出すか、坊主! 敵が強大であること、それこそが征服の醍醐味ではないか!」

 

イスカンダルは、眼下に広がる冬木の夜景──今まさに離れつつある倉庫街の方角を振り返り、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。

 

「騎士王の清廉なる覇気。金ピカの傲慢なる財力。そして……あの魔術師の、王に傅きながらも王を凌駕するごとき献身と武勇。どいつもこいつも、余の胸を躍らせる好敵手ばかりよ!」

 

彼は手綱を強く握りしめ、神牛たちに号令をかける。

 

「心せよマスター! 我らの覇道は、あやつらを全てねじ伏せ、彼奴等の抱く『王道』すらも飲み込んでこそ成されるのだ! あのような輝きを前にして、尻尾を巻くなど王の沽券に関わるぞ!」

 

「うぅぅ……ボク、もうお家に帰りたい……」

 

ウェイバーの弱音は、轟く雷鳴にかき消された。

 

戦車は雷光となり、夜空を駆け抜けていく。

 

嵐のような一夜は、征服王の高笑いと共に、ひとまずの幕を下ろしたのだった。

 

「……織姫」

 

ふと、強張っていた僕の腕に、冷たい手甲の感触が優しく触れた。

 

振り返れば、アルトリアが痛ましげな、しかし深い慈愛に満ちた瞳で僕を見上げていた。

 

「無茶をします。あのような怪物と正面から撃ち合うなど……。それに、その力は……」

 

彼女は言葉を濁したが、言いたいことは分かった。

 

卑王ヴォーティガーン。かつて彼女の国を脅かした常闇の力を使ってまで、彼女を守ったことへの複雑な思いと、それ以上の感謝。

 

「毒を以て毒を制す、と言いますからね。それに……貴女がかつてあの影に立ち向かった勇気に比べれば、僕のやったことなど些細なことです」

 

僕が強がって見せると、彼女はふっと表情を緩め、小さく首を振った。

 

「いいえ。貴方は私の誇りです。……ありがとう、我が騎士よ」

 

「織姫さん! セイバー!」

 

 そこへ、解除された結界の中からアイリスフィールが駆け寄ってきた。

 

その顔には、先程までの死闘を目撃した興奮よりも、二人が無事であることへの安堵の色が濃く浮かんでいた。

 

「よかった……二人とも、怪我はない? あんなすごい戦い、私、生きた心地がしなかったわ」

 

「ええ、問題ありませんアイリスフィール。少しばかり、肝が冷えましたが」

 

僕が肩をすくめてみせると、張り詰めていた空気がふわりと緩んだ。

 

アイリスフィールの無邪気な安堵は、戦場の血生臭さを中和してくれる得難い清涼剤だ。

 

一通りの安否確認を終え、僕は最後に、瓦礫の山に佇む“彼”へと向き直った。

 

ランサー、ディルムッド・オディナ。

 

征服王イスカンダルが豪快に雷鳴と共に去った後も、彼は律儀にその場に留まり、こちらの終息を待っていたのだ。

 

僕は居住まいを正し、影の国の流儀に則り、拳を胸に当てる。

 

「見苦しいものを見せました、フィオナ騎士団の第一の槍よ。同郷のよしみとはいえ、興を削いでしまったことを重ねて詫びましょう」

 

「何を言うか。貴殿の武勇、この目にしかと焼き付けた。影の国の王……いや、今は高潔なる騎士殿」

 

ディルムッドもまた、双槍を収め、深く一礼を返してくる。

 

そこには、敵味方の垣根を超えた、戦士としての敬意があった。

 

「傷を癒やして頂いた恩、決して忘れぬ。だが、次に会う時は互いに主の命を背負うサーヴァント同士。……その時は、手加減無用と願いたい」

 

「ええ。その時は我が君と我が聖剣でお相手しましょう。万全の貴殿との決着が曇りなきものであることを、僕も祈っています」

 

言葉は短く、それで十分だった。

 

夜風が吹き抜ける中、二人のケルトの戦士は視線だけで約定を交わす。

 

互いに背を向け、それぞれの帰路につく。

 

それは、必ず訪れるであろう再戦の日に向けた、静かなる誓いの儀式だった。

 

 

◇◇◇

 

 

冬木の埠頭に漂っていた、鉄と魔力の焦げ付くような匂いが、冷たい夜風に流されていく。

 

ディルムッドの足音が遠ざかり、静寂が戻った埠頭で、僕は一つ大きく伸びをした。邪竜の心臓が刻む激しい鼓動も、ようやくいつもの一定のリズムへと落ち着き始めている。

 

「さて、と……。長居は無用ですね。アイリスフィール、そして我が君。せっかくですから僕の魔術で拠点までお送りしましょうか?」

 

僕が冗談めかして杖を振ると、アルトリアはまだ少し呆然とした様子からやがて優しく微笑んで僕を見た。

 

「いいえ。少し、歩きませんか。この街の空気を感じながら……貴方と、もう少しだけ言葉を交わしたいのです」

 

その言葉に、アイリスフィールも「そうね、私も賛成だわ! まだ心臓がドキドキしているけれど、この月夜を歩けば落ち着きそう」と、アルトリアの言葉に同意した。

 

こうして、僕たちは月明かりに照らされた冬木の街を歩き出した。

 

道中、アルトリアは僕が身に纏った「卑王」の力について、それ以上深くは尋ねてこなかった。ただ、僕が彼女を守るためにその『毒』を呑み込み、己の力として制御していること。その献身と覚悟を、彼女は言葉以外のすべてで受け止めてくれていた。

 

「……織姫。貴方は、あの頃から何も変わっていませんね」

 

ふと、街灯の下でアルトリアが足を止めて言った。

 

「私が迷う時、貴方はいつも、私が最も必要とする形で隣に立ってくれる。……マルセイユの海辺でも、そして、この異国の戦場でも」

 

「それは買い被りすぎですよ、我が君。僕はただの、強欲な魔導師に過ぎませんから」

 

僕は照れ隠しに空を仰いだ。

 

けれど、繋いだ手の先から伝わってくる彼女の熱は、穏やかな春の陽光のようだった。

 

僕はふと視線を感じて闇の奥を見やった。

 

そこには、遠くからこちらを監視し続ける、鋼のように冷徹な「魔術師殺し」の気配。

 

衛宮切嗣。

 

彼が今のこの光景を、どうスコープ越しに覗いているのか。

 

(……切嗣。君が救おうとしている世界に、この『王』の幸福は含まれているのかな?)

 

僕は心の中で独りごち、城の門を潜った。

 

明日からは、いよいよ聖杯戦争の本番だ。

 

キャスターの狂気、アサシンの暗躍、そして遠坂時臣の策略。

 

けれど、僕の隣で誇り高く剣を握る騎士王がいる限り、この冬木の夜は、もはや彼女にとっての「やり直し」のための地獄ではなくなっているはずだ。

 

 

◇◇◇

 

 

深い森に囲まれたアインツベルンの古城。

 

戦場の喧騒とは無縁の静寂が支配するその一室で、張り詰めていた糸がようやく解けた。

 

「……ふぅ。お疲れ様、二人とも」

 

アイリスフィールが安堵の息と共にソファへ身を沈める。

 

僕は彼女に労いの視線を送りつつ、近くの椅子へと掛けた。

 

すると、それまで黙り込んでいたアルトリアが、真剣な眼差しで歩み寄ってきた。

 

「織姫」

 

 彼女は僕の顔を覗き込み、躊躇いがちに、しかし確かな懸念を込めて問いかけた。

 

「身体は……本当に大事ないのですか?卑王の力を行使し、あれだけの魔力放出と宝具の連発……。いくら貴方が竜の炉心を有しているとはいえ、その負荷は並大抵のものではないはずです」

 

彼女の碧眼には、隠しきれない不安が揺れている。

 

自分のために、かつての敵の力すら飲み込み、泥を被って戦ってくれたことへの負い目。

 

その優しすぎる心根を知っているからこそ、僕は努めて明るく、軽い調子で肩をすくめてみせた。

 

「大袈裟ですよ、我が君。確かに卑王の概念は重いですが、今の僕にとっては少し質の悪い鎧を着た程度の話です。どこも痛んでいませんし、魔力回路の焼き付きもない。ピンピンしてますよ」

 

「ですが……!」

 

なおも食い下がろうとする彼女の言葉を遮るように、僕はニヤリと悪戯っぽく笑った。

 

「それにね、アルトリア。この程度で音を上げていては、『影の国』では三日も生き延びられませんよ。あの師匠のしごきに比べれば、英雄王の宝具も、卑王の呪いも、春風のようなものです」

 

僕の軽口に、アルトリアは虚を突かれたように目を瞬かせた。

 

そして、当時の僕がどれほどの地獄を見てきたのかを想像したのか、呆れたように、けれどどこか嬉しそうに息を吐き出した。

 

「……貴方という人は。世界の脅威を、春風などと……」

 

「事実ですから。だから、そんなに曇った顔をしないでください。貴女が胸を張ってくれないと、僕も格好がつかない」

 

「……ふふ。そうですね。分かりました。貴方のその言葉、信じましょう」

 

彼女の表情から、ようやく険しい色が消える。

 

白百合のような、穏やかな微笑み。

 

それが見られただけで、今日の戦果としては十分すぎるほどだった。

 

「さて、夜も更けました。アイリスフィールも疲れが見えます。今夜はもう休みましょう。戦いは、まだ始まったばかりなのですから」

 

僕は窓の外、暗闇に包まれた森を見つめながら告げる。

 

この城の静寂は心地よいが、冬木の街にはまだ、血生臭い気配が渦巻いている。

 

明日からは、また忙しくなるだろう。

 

 

◇◇◇

 

 

アルトリアとの話を終え、僕は思考の海に沈む。かねてより抱いていた疑問の答え合わせだ。

 

彼女は霊体化ができない。それは魔力不足やクラスの特性などではない。

 

彼女はまだ「死んでいない」からだ。

 

あのカムランの丘で、死の淵にありながら契約を交わし、時間を凍結されたまま座に登録された「生者」。

 

それがセイバー、アルトリア・ペンドラゴンの正体だ。

 

彼女自身、まだその事実──自分が英霊ではなく、生きたまま聖杯を求めて彷徨っている亡霊のような存在であることを、明確には自覚していないようだが。

 

そして、西暦500年代の英雄である彼女が、なぜ僕という存在を、「白百合の君」として記憶しているのか。

 

本来ならば時代が合わない。僕の生きた時代とも、彼女の生きた時代とも乖離している。

 

だが、答えは明白だ。あれは「特異点」での出来事だったからだ。

 

西暦1400年代頃のフランス。

 

本来ありえない歴史の歪みの中で、彼女と僕は出会った。

 

西暦2000年代の僕が、過去であるフランスへ召喚され、アーサー王である彼女もまた時を超えてそこにいた。

 

特異点という特殊な環境下ゆえの邂逅。だからこそ、彼女の記憶に僕が刻まれていても不思議はない。

 

今回の第四次聖杯戦争への召喚もそうだ。

 

ウェイバー・ベルベットがイスカンダルを呼ぶために開いた召喚陣。

 

そこに、僕が内包する『卑王ヴォーティガーン』の因子、『アルトリア・アヴァロン』の概念、そして『星の聖剣』という、アルトリアに縁がありすぎる数え役満のような触媒が反応し、彼女の現界に引っ張られる形で僕もここに落ちてきた。

 

(……僕の感覚で言えば、あと十年もすれば人理焼却とグランドオーダーが始まる、のかもしれないな)

 

フランスでの戦いは、僕の時間軸から見れば未来の出来事(あるいは並行する事象)。

 

そしてこの第四次聖杯戦争は、明確に過去の出来事。

 

順序はあべこべだが、英霊の座や召喚システムを介している以上、時間軸の矛盾を深く考えても意味はない。

 

そして、そんなデタラメな時代の中で、なぜ僕が自分の領地である「影の国」に帰還できるのか。

 

理由は単純だ。

 

あそこは「世界の外側」にある魔境。時間の流れから切り離された場所だ。

 

僕はその国の王であり、神代の魔術を行使する魔導師だ。

 

ゼルレッチ翁の『第二魔法』のような並行世界への渡航能力はなくとも、自分の城へ帰るための扉を開く術くらい、造作もないことだ。

 

 

◇◇◇

 

 

アインツベルンの城にある広大な湯殿。

 

立ち込める湯気の中、僕とアルトリアは互いに戦いの汗を洗い流していた。

 

かつての僕であれば、異性との混浴などという状況に顔を赤らめ、まともに目も合わせられなかっただろう。

 

だが、影の国で師匠やジャンヌ、エリザベートたちと夜を重ねてきた今の僕には、狼狽えるほどの柔な心臓は残っていない。

 

意外だったのは、アルトリアの方だった。

 

湯船に浸かりながら、彼女は白い肌を僅かに桜色に染め、恥ずかしげに視線を逸らしていたのだ。

 

「……王であった頃、湯浴みは常に一人でした」

 

彼女はぽつりと零した。

 

ブリテンを治める王として、男として振る舞わねばならなかった彼女にとって、女の身体を見られることは最大の禁忌。

 

だからこそ、こうして誰かと──それも心を許した相手と肌を重ねて湯に浸かることなど、彼女の生涯において初めての経験なのだ。

 

「これからは一人じゃありませんよ。背中、流しますね」

 

「……はい。お願いします、織姫」

 

僕は彼女の背に触れる。華奢な肩、滑らかな背筋。

 

互いに濡れた肌を洗い合い、労り合うその時間は、王と臣下という関係を超え、一人の男と女、あるいはその逆として向き合う、優しく静謐なひとときだった。

 

湯上がり。

 

タオルで拭う手間すら惜しむように、僕は風の魔術で互いの水滴を瞬時に乾かした。

 

そして、誘われるまま一つのベッドへと身体を横たえる。

 

そこで行われたのは、魔術的な『儀式』であり、魂の『補完』だった。

 

僕は男の魂を持ちながら、魔術によって女の身へと変じた『陰』の器。

 

アルトリアは女の魂を持ちながら、魔術によって男の身へと変じた『陽』の器。

 

あべこべで、けれど完璧に噛み合う陰陽の理。

 

その結合は、僕たちの間に形成された魔力経路を、より強固で太いものへと昇華させていく。

 

「ぁ……っ、織姫……っ」

 

アルトリアが、僕の名を呼ぶ。

 

その碧眼から、ひとすじの涙がこぼれ落ちた。

 

それは悲しみではない。王としての責務、隠し続けてきた性別、張り詰めてきた心──それら全てを受け入れられ、愛されることへの、魂の震えからくる涙。

 

僕は彼女を抱きしめるのではなく、彼女に抱かれながら、その涙を指先で拭った。

 

「泣かないで、アルトリア。僕はここにいます」

 

「……ええ。私が、貴方の中に……」

 

男として振る舞いながらも、女として涙を流す彼女。

 

女の身でありながら、男の魂で彼女を包み込む僕。

 

複雑に絡み合う(さが)と魔力が溶け合い、一つになる。

 

僕は彼女から注がれる熱と、激情のような快楽に身を任せた。

 

この夜、僕たちの魂は不可分なほどに混ざり合い、契約という形だけの繋がりを遥かに超えた、絶対的な絆を結んだのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

白いシーツの上に横たわる、その肢体の美しさに、私は息を呑んでいた。

 

織姫。

 

かつて私の旅路を導き、今また私の剣となってくれた、誰よりも信頼する臣下。

 

魔術によって女性の身へと変じた彼は、月の光を浴びて、陶磁器のように白く、滑らかに輝いている。

 

対して、今の私はどうだ。

 

本来の私が隠し続け、殺し続けてきた「女」の部分を覆い隠す、王の鎧。

 

(……ああ、なんという滑稽で、けれど愛しい儀式なのでしょう)

 

女の身に変じた、男の魂を持つ彼。

 

男の身に変じた、女の魂を持つ私。

 

あべこべで、歪で、けれどパズルのピースのように完璧に噛み合う、陰陽の補完。

 

「……来て、アルトリア」

 

彼が──彼女が、慈愛に満ちた声で私を呼ぶ。

 

その細い腕が差し出された瞬間、私の胸の奥で、張り詰めていた何かが音を立てて崩れ落ちた。

 

私は震える指先で、彼女の肌に触れる。

 

熱い。

 

触れた場所から、私の「竜の因子」と、彼の「竜の心臓」が共鳴し、魔力の火花が散るようだ。

 

私は彼を抱きしめる。

 

肉体としては、私が彼を抱いている。けれど、魂においては、私が彼に抱かれているのだと分かった。

 

私が彼の中に沈み込むたび、彼から流れ込んでくる莫大な魔力と、それ以上に温かな「想い」が、私の空っぽだった心の器を満たしていく。

 

「ぁ……っ、織姫……っ!」

 

視界が滲む。

 

ああ、私は泣いているのか。

 

王として剣を握ったあの日から、一度たりとも見せたことのなかった涙が、止まらない。

 

怖いのだと思っていた。

 

誰かに触れることも、触れられることも。

 

自分の醜い嘘が暴かれることが。

 

けれど、彼は全てを知って受け入れている。

 

この身体も、その中に震える女の魂も、王としての重圧も、国を滅ぼした罪も。

 

その全てを愛おしむように、彼はこちらの背中に腕を回し、優しく、強く、受け止めてくれている。

 

(……温かい)

 

繋がりが深まるほどに、快楽と共に安らぎが押し寄せる。

 

彼が与えてくれるのは、単なる魔力ではない。

 

「貴女はここにいていいのだ」という、絶対的な肯定。

 

「我が君。この快楽も、この温もりも……すべて貴女のものです」

 

私は彼に身を委ね、彼を愛し、彼に愛される喜びに打ち震える。

 

ブリテンの王でもなく、円卓の主でもなく。

 

ただ一人の「アルトリア」として、私は今夜、初めて心からの安息を得た。

 

繋がった魔力回路を通じて、彼のリズムが私の鼓動と重なる。

 

この夜が明けるまで、私はこの温もりを手放さない。

 

涙で濡れた頬を彼の胸に埋め、私は万感の想いを込めて、愛しい人の名を呼び続けた。

 

 

 

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