After the surprised Rainy   作:くのみち

1 / 7
プロローグ

期末試験からの解放。

忌々しいことこの上ない勉学に明け暮れる日々に対し、一時の別れを告げられたことに強く安堵を覚えながら俺は家路についていた。

試験休みに入ってから早くも何日か経った訳だが、一応加えてあともう何日間かはテスト休みという体である。それからあとは一週間後に答案返却や終業式なんぞがあるだけだ。

即ち、今の日々はほぼほぼ夏休みの開始と同義である。

 

しかしながら今日の俺はというと、怠惰の日々に相応しいような軽装なんぞではなく、半袖のYシャツにスラックスというここ最近のいつもの制服姿だった。

というのも、試験休み序盤ということで我らが団長様もいよいよご機嫌そのもの。早朝から部室に集合となり、普段通りの登校を余儀なくされていたからだ。そうして俺たちは早くも夏休みのカレンダーの半分を埋めにかかる作業に入っていたのだ。

各位のスケジュールをあれこれと確認し帳尻を合わせること実に十時間。そうして気付けば夕飯時をとうに過ぎた頃合となっていた。

やれやれ、この夏も安息などとはさぞ無縁になるのだろう。憂鬱感もないではなかったが、意外にもそれを楽しみにしつつある俺も居た。悪いか?

 

そう物思いに耽りながら、なんとなしに道中のコンビニの灯りの方を見てみるとだ。その店内には見慣れた細い背なが認められた。

一見して見慣れない格好だったが、恐らくはこいつの学校の夏服だろう。寧ろ前に会った時よりもシンプルでなおかつ、俺の記憶に刻まれている奴の格好により近いとあり、誰であるのかは不思議と瞬きひとつで充分に理解した。

俺の知識および文化レベルではこれをショートヘアという大きなグループ分けをするほかない。いやどうか、一応これもミディアムヘアに分類されるのだろうか。

ともかく他の知人のものとは明確に異なる、一緒くたにすると方々から怒られるような気もしないではない独特な髪型。

仮にこいつがどんな衣装を着ていたとしても、だ。そうだな、さしあたり朝比奈さんのようにメイド服だのバニー服だのを着せられていたり、長門のように『朝比奈ミクルの冒険 Episode0』に続き『長門ユキの逆襲 Episode0』でまで続投した魔女の恰好を強要されていたり、あるいは俺や古泉なんぞのようなむさくるしい男子生徒用の制服をやんごとなき事情で着たりしていたとしても、きっとこいつはこの髪とそのやたら端正な顔立ちで、自分はここにいるのだと俺の認識をハックしてくることだろう。

……ああ、すまん友よ。少しお前の妙な姿を想像してしまったが、そのどれもが健全な人類の目線で行く限り見苦しく感じないものではあったと弁解させてほしい。

ともかくそれ程までに馴染み深さを覚えたその後ろ姿は、俺の視線に呼応したかのように不意にこちらに振り向きひらひらと手を振ってきた。

なぜここに? と聞くのはきっと野暮だろう。この人生、生きていればこうも思いがけぬ再会はきっと一度や二度ではないのだろうから。

 

 

「──やあ親友。意外と早い同窓会になったね」

 

 

ブーン、という無機質な自動ドアの開閉音が止むや否や、早々にそいつ──佐々木は声を掛けてきた。

あまりにも唐突な再会だったが、俺の心は平穏そのものであった。驚きもなく、佐々木がそこにいるということを自然と受け入れられていた。

きっとそれはこいつも同じことだろう。俺の声帯もそれに対応してこれ以上になく落ち着き、この大気圏に「おう、佐々木か」と言霊を残した。

 

「たまたまこちらの方の書店に所用があってね。そちらは不発だったが、キミの健在を確かめられたならばお釣りが来る」

 

そりゃあどうも。今日も塾だったのか? 遅くまでご苦労なことだ。

 

「うん。相も変わらず勉強のための勉強ときた。

僕の把握する限り既に高校範囲は一通り教わりきったと思うのだが、どうしても受験というものは憐れな我々学徒どもに小手先のテクニックを身に着けさせることにばかりご執心のようでね。

そんなキミこそ今帰りかい? まだ受験に本腰は入れてないと見ていたが、心変わりでもしたのかな。

もしならいい塾を紹介するし、僕のところも否やとは言わないよ。入塾費だけは少し覚悟しなければならないが、キミの家はそれなりに裕福そうに見えるし問題なかろう」

 

そうだな、来年になったら考えておこう。こちとら試験明けでな。うちの団長様が大はしゃぎだったと言えばわかるだろ。

 

「くっくっ。目に浮かぶようだね。──立ち話もなんだし、時間があるならそこで少し話してかないかい。ここ最近は夜でも暑くて困る」

 

いいだろう。元よりこちとら帰って風呂入って寝るだけの身だ。

前に会ってからほんの数ヶ月だが、積もる話は山ほどある。

 

適当な飲み物を買い、俺たちはコンビニのイートインスペースの奥の方に腰掛けた。

プルタブのささやかな反抗を無に返し、喉に清涼感を押し流す。冷房もよく効いたこの空間も然り、数刻先の名残惜しさを予感させた。

佐々木もこの涼やかな空気を味わっているようで、少しの間無言が続いた。分かるぜ、なんと言っても今日は丑三つ時にして三十度に迫ろうかという熱帯夜の予報だからな。

不思議とそこに気まずさはなく、ただ自然な時間がゆったりと流れていく。

 

ただそれも長くは続かず、佐々木の方から話を切り出された。

 

「時にキョン。これは一般論だが、病に耐性をつけておくというのは大事だとは思わないか?」

 

おいおい、これから季節外れの予防注射でも打ちに行こうってか?

医療費には詳しくないが、時間外診療が安く済むとは思えんぞ。

 

「ふふ。まあ、似たりよったりなものさ。前に会った時、告白されたという話はしただろ?あれは結局ご破算になった訳だが」

 

そんな話もあったなと思い出しつつ、あっけらかんとした佐々木の語り口に俺は自然と聞き入っていた。

ふむ、なんだろう。『異性のパートナーを作る』というあらゆる生命体における至上命題にてこの友人に先を越されていたことに対し、悔しいとかそういう思いがどうも全くなかったわけでもなかったらしい。どことなく安堵する俺が居ることにも気付いた。

 

「元より僕にその気があった訳では無いからね。うん、勢いに押されて保留にしてしまったことまではキミにも話したか。

あれから何となくのらりくらりと、学校の試験や外部模試に向けた勉学に明け暮れた結果、いよいよあちらさんからキャンセルを突きつけられてしまったという訳さ。

そうだね、もう少し僕の要領がよければ違ったエンドも有り得たかもしれないな。それこそキミから聞いた今の涼宮さんの人物像は、要領の良さという意味でその理想のひとつと言えるかもしれない」

 

ああ、ハルヒのそういった基礎能力の高さは俺も認めざるを得ない。授業中は俺と共に盛大な午睡をかましていたと思いきや、俺の古文は赤点ギリギリ、他方で奴は余裕の九割オーバーと来ている。

恋愛とやらに対しその要領の良さが発揮されるかまでは保証しかねるが、いざなって見たらひょいひょいと障壁を乗り越えてしまう姿が想像できる。対象が何であれ、好きなものを目にした奴の輝いた瞳には不可能があると思えない。

しかし、ひとつだけ異を唱えさせてもらうぞ佐々木。中坊の時に塾で見ていた限りだが、俺から見ればお前の要領も大概桁が外れている。シレっと言ってやがったが既に高校範囲を終わらせたってのは俺の聞き間違いじゃないよな。

 

それでそうだな、さしずめ古泉の手に掛かれば気の効いたことのひとつやふたつ言ってやれるんだろうがな。あるいは鶴屋さんでもいい。こういう話には長けていらっしゃることだろう。

だが生憎俺の脳と知識とではこうしたありきたりな感想しか出てこない。「お互いそれで納得してるならいいんじゃないか」と。谷口よりはマシな感想だと思いたいね。

 

「納得、か。それなんだけどね」

 

ほう。お前に限って納得してないことがあると。それともあちらさんが?

 

「いや、彼との関係は終わったことさ。彼がどう思っているかは知る由もないが、僕は納得済みだよ。

僕が納得していない事項……というのは聊か語弊があるかな。納得する機会を失い気にしているのは恋愛感情というものに関してだ。

意外そうな顔をしているね? 確かにこうした感情は精神病と言っても過言でない類のものだよ。ああ、これはいつぞやもキミには話したかもしれない。

しかしだ、恋愛感情というものが人類の存続・繁栄に欠かせないピースであることは生憎と紛れもない事実でもある。そこまでも疑う程僕は人類を悲観してはいないし、寧ろ僕のような考え方をする方が多数派ではないことも理解はしているさ。

言葉で否定するのは簡単だが、事実として我らがご先祖による無数の恋愛を糧として僕とキミは今ここにいるのだからね。無論、純粋な恋愛以外で繋がった線が存在する可能性もまた否定は出来ないが。

さて……そして、人間の存在意義、レゾンデートルとは何だろうか。この間、キミの家で猫を撫でさせてもらった時にもひとしきり語らったからその復習にもなるけど、まず一生命体としてはDNA。ジーンと呼ばれるものを残すことだ。しかし一方で僕は、それとはまた異なる、DNA以外の僕が育てた僕の遺伝子を残したいんだ。生物学的遺伝子、ジーンに対し、非生物学的遺伝子、ミームとも呼ばれるものを後世に残したいのだよ。そこには一切の誰の干渉もなく、僕の独力で作り上げたものを、だ。

とはいえ、ジーンを残すということが至上命題であることもまた僕とて例外ではない。僕やキミが今後存在の価値を示していくにあたり、僕が僕だけのミームを残すためにも、少なくともその知識を得るところまでは必修なのだと僕は考える。

そして自分に実際にその機会が訪れたとなると、なるほどそれはそれで興味深くもあった。僕という人間の内側、アイデンティティの一端を知るきっかけにもなるだろうから。しかしその機会は、生憎と僕の失策によって宙に浮いてしまったがね」

 

相も変わらず迂遠な話し方をするやつだ。しかし理屈はどうにか解せた。

病気になりたがる医者はいなくとも、病気に興味がある医者はいる。そういうことだな。

……いや待て。うちの長門が貸してくれた科学史の本には確か、敢えて自らの肌を病原体に曝し標本データを取った医学研究者がいた気がする。そこらの市井の民草を救わんとするお医者様の中にもそういう人種は意外と存在しているのだろうか?

とはいえまあ佐々木に限って言えば、そんな本の知識や実態は別とした、俺の思う医者像をそのまま転写していることだろう。

 

「そして精神疾患は今や立派な現代病でもある。しっかりと知識を付け、予防すべきとは思わないかい?

この興味は意外と脳のリソースを占有するものでね、集中力に欠いている瞬間を自覚することがあるんだ。夏休みが明けたら『残酷模試』だなんて巷で言われている模試を受けることにもなっていてね、これで一定の結果を収めないと教師連中からの目も聊か冷ややかになりかねない。この有り様では宜しくない」

 

それは確かに重症だ。俺には医師になる予定も学力も意志もないが、手伝えることがあるなら聞こうじゃないか。

 

「くっくく、ありがとう。まあ、栓無き事だよキョン。

──ふと、デートというものを体験してみたくなったんだ。異性の誰かとね」

 

 

ああ……あ?? 

 

 

デート?

誰が。お前がか。

 

 

「おいおいキョン、まるでエリア五一に迷い込んでしまい哀れな検体と化した宇宙人を発見したかのような目で見つめるんじゃない。そんなものはフィクションで間に合っている。エンターテインメント症候群は相変わらずと見えるから、ここではノンフィクションの話をしよう。

僕とて神仏のような徳の高い人種からは程遠いし、『あくまで観察対象として』ということは強調しておくがそういうことに全く興味を示さない訳ではない。僕は武芸の道に生きる者ではないが、敢えて言うなら『我いまだ木鶏たりえず』とでも言えばよいのかな。

──それともまた別の問題かな? 僕の見てくれか、はたまた自分では完璧に知覚しようのない部分。匂いだとか、ファッションセンスだとか、それらの複合によって感じさせられる総合的な雰囲気だとか、そういうものに致命的欠陥があるから僕を引き留めようとしてくれている、とかそういうことか。

そうだとしたら困ったことだね、一応僕なりにひとかたの手入れはしているつもりだったのだが、この一年半近くを勉学にばかり注いできたこの身ではそれを否定しきる術が思い浮かばない。異性の人類代表としてどうか遠慮なく指摘してくれ、このコンビニに売っている範囲であれば今すぐにでも正させてもらうよ」

 

誰もそんなこと言ってねーしそんなんあったらとうに嫌味のひとつでも言っているぜ。手鏡の一つでも渡して手前の無欠さを気付かせてやりたいところだが、あいにくと鏡の中にお前を助ける答えはないと見た。

流石に俺にもデリカシーってもんはあるつもりだから口には出してやらないが、このクソ暑い日にこの距離で一切の汗臭さを感じない時点で首席合格もいい所だ。見た目に関してはお前を振った某だとか古泉だとかがいたく評価することだろう。

俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな…………ああ、いい。話が進まん。続けろ。

 

「ありがとう、僕にも最低限ここからを話す資格があるものと認識した。

さてと。まずはここでいうデートというもの、僕の話す前提をここに定義させてもらおう。ただ異性と遊びに行くだけならば、小学生とかの無邪気な時期に誰しもが経験しかねないから」

 

佐々木なりのデート論は、確かに俺にとって非常に興味深かった。

恋愛感情なんてものは精神疾患のひとつでしかないと、中坊の身で早くも切って捨てていたような人種だ。

その恋愛における代表的な行動であるデートに対してどのような見解であられることやら。俺は耳を傾けてみた。

 

「まず僕がここで言う異性というのは、幼い時分とは異なる関係性を持った異性。俗に思春期というものを過ごし、性というものに対してもコウノトリがどうとかではない明確な知識を得た──ああ、といってもここでは知識の誤りとかは一旦許容するものとするよ。例えば安全日という概念に関してだとか、その者に対する好意と感度の相関だとか……っと、こうした話はあまりこのような公共の場所で話すべきではないな。キミと僕しか居ないのと、毎晩の勉強による疲れで僕も少し緩んでしまっていたようだ。事前に場所を移すべきだったかもしれない」

 

佐々木はずず、と手元のコーヒーを啜り、少し照れ隠しをするように苦笑いした。

 

「ともかく、男・女としての一定の私見の完成を見た状態の、そんな相応の年頃の異性同士が、誰の介入を経ることもなく二人きりでどこかへと遊びに行くこと。

有識者から見れば異議・反論はあるかもしれないが一旦これを此度の『デート』と定義させて戴こう。少なくとも僕たちくらいの男女がどこかに遊びに行くということ、そのものだ。

──とまあ偉そうに、本来はまったく無縁な立場からも懸命に考察をしてみた訳だが。僕のデートに対する私見はいかほど世間と離れていそうかな」

 

そうだな。所々の言い回しは気になるが、これが佐々木ナイズされた結果としての出力であろうと思えば不思議と納得は出来た。俺とて中坊の頃から佐々木との会話はよくて八十パーセントくらいしか理解できていない気がしているのだが、それでもこう穏当な関係を保てている。この一見早合点のリスクもある納得も、実のところ至極支障なしであろう。

そしてそうした妙な部分を除いた、核となる部分。「年頃の男女で遊びに行くこと」を「デート」と定義する、という主張はこの俺としても概ね非の打ちどころのない同意見であった。

 

「それは何よりだ、話を続けるね。ところで、今の僕たちというのは少しずつ今後の進路も考えねばならない年頃な訳だが、こうした年相応の経験もまた進路を考えるにあたりひとつの検討事項たりえるのではないか? と僕は考えた。

僕はね、どうしようもなくこの国の人間だ。この国に生きる、高校二年生の、精々平均的な一女子でしかない。そんな変哲のない人種が経験するであろう事項を一切経ずに勉学にのみ打ち込み、その末に得た結果というのは果たして我が人生においてどれ程のプラスになるものかと、彼にフラれた日からふわりふわりと考えていたのさ。

こうも不合理な事項に対して思考リソースを奪われ怠惰な幾星霜を過ごしている自分に対する言い訳としては、お恥ずかしくも稚拙なでっちあげだけどね」

 

なるほど進路ね。デートの体験如きでお前のそれがそんなに揺るぐとも思えんが。

 

だがそうだな、その進路という二文字がここのところぼちぼち耳の痛い単語になり始めてきた頃合いなのは俺としても認めよう。

思い当たるだけでも国木田やハルヒは間違いなく難関校に行くだろうし、目の前のこいつも心配はなさそうに見える。古泉や長門は……敢えて心配をするだけもはや無駄そうだ。

一方で偉大なる先駆者となる先輩方についても、全く懸念事項の欠片も見当たる気はしない。当人からすれば俺の進退などミジンコ並みの大きさになってしまうほどの様々な悩みを抱えておられることだろうが、きっとなるようになるのだろうとも勝手に思っている。特に鶴屋さんに関しては、あの国木田をしてまるで全能神を見るかのように崇めるレベルなのだ。どうも俺たちには関与しがたい政財界にも顔が効くことがこれまでに散々分からされてきているし、天寿を全うするまで変わらず笑顔で陽気にやっておられることも想像に難くない。

さてこうして考えると、唯一俺と同類と断言できるのは現状谷口くらいのもんだ。奴も赤点を鼻先スレスレで回避しているが、考えてみりゃあ大変ご苦労であろうナンパ業と並行してどうにか成績のやり繰りはしている。認めたくないことだが、ただ遊び惚けている俺と比べれば曲がりなりにも経験値を積んでいる奴の方が長期的なアドバンテージを得ているのではないか。そう考えるのは俺が聊かナイーブになり過ぎているだけだろうか?

そしてその他にも親愛なるクラスメイトの何人かを思い浮かべたが、やっぱり心配がありそうな面子は見当たらない。

 

そうなると実のところ──俺の交友関係の中では俺が一番進路に暗雲立ち込めているのではなかろうか、だなんてちょっぴり要らぬ不安を抱えてみたりしている。

ああつまり佐々木、もしやお前も少しはこの俺のように進路に不安があるだとか、そういう話もあるのか。それもこんな、果たして僅かな益になるかもわからん体験にすがるくらいには。お前も俺のような一般人類との共通項があるのだなと少しだけ安心したよ。

 

「そこまで切羽詰まっている訳じゃないが、不安がないと言えば嘘になる。僕はこれを早めに決別すべき課題だと踏んでいてね、遅くとも今月中までには解決したい。

しかし問題は人選だ。彼に今一度声をかけるというのも気が引けるし、ほかの伝手がいるわけもなし。どこかに上手く条件を満たす人材は居ないものか? と、ここのところ思っていたんだ」

 

国木田とかはどうだ。見知った顔だし奴もなかなかに頭が回る。話題にだって事欠かんだろう。

 

「国木田君か。うん、悪くはない。彼とまた、ありし日のように洋楽のCDの貸し借りに勤しむのも有意義だろう。彼とは音楽的趣味がとにかく合っていたから。

ただそうだな、生憎国木田君とはそういう、個人的な話をする程打ち解けられている訳でもない、というのが個人的所感でね。彼とそうなる未来なんてのも微塵とも見えない。

所謂ただの体験会と言えどだよキョン。それなりに気心知れた仲で、なるべく完成度の高い経験はしてみたい。それが僕の要請なんだよ」

 

分からんではないが、意外とあいつも気楽なとこはあるぜ? 

お前が乗り気じゃないならいいが、試験が終わった今ならワンコールで応じてくれるくらいの度量もあるはずだ。

 

「はは、キミなりの人選という訳だね。そこは尊重しよう。

だが生憎と、いや幸いというべきだね。既に僕はピッタリな人選を終えていた。いや終えていたと言うのは語弊があるかもしれないね。だけど、事実上終えていたようなものなのは確かだ。それも今思えば高校に入る前には、ね」

 

ほほう、二年前。それも高校に入る前ときたか。

佐々木とは中学の間ほぼ毎日塾を共にしていた以上、少なくとも中学在学中の話でないのは確かだろう。しかし高校に入る前には、と濁した辺り、出会ったのは中学卒業と高校の間の春休みといったところか。確かに中学の勉強にも受験勉強にも追われることのない、出会いがあっても不思議ではない頃合いだ。そして丁度俺がこいつの人間関係なわぞを感知しようがない空白期間でもある。百人中百人が納得するであろう極めて妥当な時期だ。

自慢じゃないがこれでも最近はミステリ研との伝手もできて、読む本のジャンルも増えてきてしまった。会話という事実関係に少々齟齬が発生しやすい形態の情報伝達であっても、この位の時系列の整理であれば五秒で出来るようになっていた。どうだ佐々木よ、ハルヒに俺の勉学の世話をどうこうと言っていたが、お前の覚えていた頃の俺と比べてほんの僅かだが成長はしているんだぜ。

 

それで佐々木、どこのどいつなんだ? そのお前のお眼鏡に適った男は。

お前ほどの偏屈者が認めた男だ、この間ハルヒと会った時のお前じゃないが、そのご尊顔くらいはどこかに隠れて拝ませてもらってもいいよな。

 

「どこのどいつか、と来たか。察しが悪いのは相変わらずと見える。

 

 

────キミのことだよ」

 

 

 

そうか、俺か。

 

 

 

はあ?

 

 

 

特に語調を改める訳でもなく、相も変わらずこの世の物理現象で動かすには奴を殺してしまう以外に手立てがないほどに微笑みで固定化された表情でいる佐々木を前に、俺の頭は純度百の白、カラーコードで言えばRGBすべて二百五十五で固定された状態になっていた。

佐々木と比べたらどう考えても小さいであろう我が双眸をぱちくりとさせながら、微笑みを絶やさない佐々木を改めて見据えてみる。

そういやあの渡橋ヤスミが作っていたSOS団の新サイト、やたら派手な色合いだったものだがカラーコードで何か変な不思議現象を誘き出したりする仕組みにはなっていないだろうな、大元は俺が作ったサイトでもある手前、一応長門に相談すべきかもしれないな……などと心底アンマッチな思案が巡る。

 

俺はいつぞや、佐々木とハルヒは似ているところがあると感じた覚えがある。

最初は見てくれの属性についてだけだと思っていた。黙ってさえいれば目を引くくらいの容姿レベルはあるだとか、喋っている時はどうだとか、そういう話だ。

だがやはり、この連中は異端が目を付けるだけはあったのだ。橘のような奴から神格化されたりもするわけだ。あの忌々しい藤原某めが介入したりもしてくれば、天蓋領域とやらがコンタクトを仕掛けもするというものなのだ。

全く異なる方向を向いているかにも思っていたこの二人の人間性。しかしそれがどことなく似ていることに、数ヶ月前からうすうす気づき始めていた俺だった訳だが。

ああ、佐々木よ。

まさかとは思うが、お前が言うそいつってのはつまり……いや、この俺の認識は俺の自惚れという可能性があるな。

あるいははたまた、この世界に何らかのバグが起きているだとか。そういったトンチキな結論である可能性が、俺の中における全思考において甚だ百パーセント以外の指針を示さない訳だが──

 

「分かりづらかったかい?そうだね、では分かりやすく改めて。

 

 

 

───今度の土曜日、二人でどこかに遊びに行かないか?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。