——エイトマン・リボーン—— 比企谷8幡は鋼鉄の夢を見るか   作:りかるど

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第五十二話:天帝

 

 

 十一月末の、刺すような冷気。

 佐倉から猿田彦神社へ続く印旛沼のほとり。葦原を揺らす風の音が、世界の終わりのように吹き荒れる。

その風の中に、一人の男が静かに立っていた。

 時代錯誤な黒いマントを翻し、老獪なステッキを大地に突き立てる男──悪の天才科学者、ドクトル・デーモン。

 彼の傍らには、配膳ロボットを改造した猫型の戦闘支援ロボット、ベラがキャタピラをカタカタと鳴らしている。

 

「にゃーん……。博士とはちまん様……ベラはどっちを応援すればいいにゃん?」

 

 ベラの電子音声には、明確な戸惑いが混じっていた。

 デーモンは、マントの襟元に手をやり、空を見上げた。その冷徹な瞳には、底知れぬ愉悦が宿っている。

 

「好きにしろ、ベラ。お前がエイトマンの方に着こうが、私の想定の範囲内だ。むしろ、その方が『遊戯』としては面白い」

 

 そう言うと、デーモンの口角が微かに吊り上がった。

 

──来たか。

 

 デーモンの視線の先、暗くなった奥から、一筋の影が音もなく滑り込んできた。

 総武高校の制服を纏った少年。だが、その瞳に宿るは、普段の比企谷八幡の死んだ魚のようなそれではない。青白い、電子の炎が激しく揺らめいていた。

 

「……よう、待たせたな、デーモン」

 

 八幡の声は低く、しかし確かな熱を帯びていた。

 制服のブレザーの襟元からは、高密度合金製の首筋が覗いている。

 

「何、ちょうど今来たところだ」

 

 デーモンもまた、その冷笑を深める。

 まるで、旧知の友が久しぶりに再会したかのような、あるいは恋人同士が待ち合わせをしたかのような会話。

 だが、その言葉の応酬には、互いを完全に破壊し尽くすという、最大級の敵意と殺意が込められていた。

 そして同時に、誰よりも互いを理解し、認め合っているがゆえの、最大級の敬意。

 

 比企谷八幡──鋼鉄の救世主、エイトマン。

 そして、悪の天才科学者、ドクトル・デーモン。

 

 その最後の戦いが、いま、幕を開けようとしていた。

 

 

──

 

 

「その前に、あんたに言いたいことがある」

 

 八幡の声は、湖畔の冷気を切り裂くように真っ直ぐ届いた。

 彼は戦うための構えをとる代わりに、ドクトル・デーモンの瞳を、その傲岸不遜な眼差しを真っ向から見据えた。

 

「あんたには感謝している」

 

デーモンの眉が、微かに動く。「感謝だと?」

 

「……ああ。あんたに宿敵として追い詰められたおかげで、俺はようやく『向き合う』ことが出来た。雪ノ下や、由比ヶ浜……あいつらと、欺瞞のない対等な関係になるために、何が必要だったのかをな」

 

 それは、己を「不完全な機械」と蔑み、世界から背を向けていたかつての比企谷八幡との決別だった。

 宿敵として自分を全霊で否定し、同時に「比企谷八幡」という存在を最大の障害として認め続けたデーモンの存在が、結果として彼を「本物の戦士」へと磨き上げたのだ。

 デーモンは、無言で八幡の貌(かお)を観察した。

 数週間前までの、どこか迷いを引きずっていた少年の面影は、そこには微塵もない。

 

(……顔つきが変わったな)

 

 デーモンの超知能が、八幡のバイタルデータを瞬時に解析する。

 迷いによる演算のノイズはゼロ。内部核融合炉の鼓動は驚異的な安定を見せている。この短期間で、彼は雪ノ下雪乃との対峙を経て、精神と鋼鉄を完全に合致させたのだ。

 

「面白い! 貴様は、最高の状態で私の前に立ったというわけか……!!」

 

デーモンは狂喜を孕んだ笑い声を上げ、バサリとマントを翻した。

 

「ならば、私も最大級の礼節をもって応えねばならんな! 貴様を完全に破壊するべく、私の、私の最強にして最高の『傑作』を用意した! 存分に見るがいい!」

 

 デーモンが、傲慢な仕草で指を弾く。

 

 ――パチン。

 

 その乾いた音が響いた瞬間、静寂だった印旛沼の水面が爆ぜた。

 数トンの水飛沫が月光を反射し、夜の闇を銀色に染める。

 

 

「これこそが、究極の戦闘兵器……『ЮПИТЕР(ユピテール)』だ!!」

 

 

 沼の深淵から、神話の神を彷彿とさせる青白い巨体が、その全貌を現した。

 

 印旛沼の深淵から這い上がったそれは、地響きを立てて湖畔に降り立った。

 エイトマンよりも一回り大きい、圧倒的な質量感。全身を包むのは、特殊なコーティングを施された高密度合金のブルーメタリック。鋭利な装甲の重なりは、古代の騎士の鎧のようでありながら、その内側には最新鋭の駆動系が脈動している。

 頭部で不気味に輝くツインアイが、八幡の熱源をロックオンした。

 

まさに『天帝』。神の威光を機械の形に鋳造したかのような、デーモン博士の狂気の集大成。

 

「……なるほど。確かに、最強の傑作だ」

 

 八幡は、目の前の巨体から放たれる圧倒的な威圧感を、全身のセンサーで受け止めた。

 以前の彼なら、この質量差に絶望したかもしれない。だが今の彼は、その威圧感さえも心地よい「緊張」として処理していた。

 

「──これで最後だ。デーモン博士」

 

 八幡は、着ていた総武高校の制服を乱暴に脱ぎ捨てた。

 もはや、偽りの皮を被って「高校生」を演じる必要はない。この場にいるのは、比企谷八幡という魂を宿した、一躯の鋼鉄のみ。

 

「リミッター解除。全システム、戦闘モードへ移行(フェーズ・シフト)」

 

 八幡の脳内で、超電子頭脳が爆発的な速度で演算を開始した。

 擬態用のナノマシン表皮が瞬時に剥がれ落ち、内部のハイマンガン・スチールの外装が剥き出しになる。背中の排熱ダクトが開き、核融合炉からの廃熱が夜の冷気に触れて白い蒸気を上げた。

 

 カチリ、と。

 心の中のスイッチが切り替わる。

 比企谷八幡としての人間的な迷いを、『エイトマン』としての純粋な闘争本能が上書きしていく。

 

「エイトマン、変身完了──」

 

 瞳の奥、青白い電子の火花が激しく燃え上がる。

 同時に、ユピテールの脚部ブースターが火を噴いた。

 

 ドォォォォォン!!

 

 音速の壁を突破する衝撃波が、印旛沼の水を激しく跳ね上げる。

 エイトマンは加速装置を噛み締め、その「死の突進」へと正面から飛び込んだ。

 鋼鉄と鋼鉄が激突する、終焉の序曲が響き渡った。

 

 

──

 

 

「マッハ2……いや、それ以上か!」

 

 八幡の超電子頭脳が、眼前の巨体が放つ運動エネルギーを瞬時に算出した。

 巨躯に似合わぬ加速性能。ユピテールの脚部スラスターから噴き出す青白い炎は、エイトマンのそれと完全に同等の出力を示している。

 

「加速装置(アクセラレーター)、オン!」

 

 エイトマンがスイッチを入れると同時に、世界は静止した。

 互いに音速の壁を突破し、夜の闇の中で火花を散らす。マッハを越える二つの鋼鉄が衝突するたび、印旛沼には遅れて巨大なソニックブームが巻き起こり、周囲の葦原をなぎ倒した。

 一般人の視力では、そこにあるのはただの「虚空を走る雷光」にしか見えない。

 だが、岸辺に立つドクトル・デーモンは、専用の戦術バイザー越しにその「死の舞踏」を完璧に捉えていた。

 

「ハハハ! 相変わらず流石のスピードと言ったところか、エイトマン! だが、その程度の古いデータなどもはや何の役にも立たんわ!!」

 

 デーモンの咆哮。それと同時に、ユピテールの全身から放たれる熱源反応が、奇妙なノイズに包まれた。

 

「……何ッ!?」

 

 エイトマンの光学センサーが、ユピテールの輪郭を捉えられなくなる。

 それだけではない。ソナー、赤外線、電磁波、あらゆるセンサーが『ターゲット消失』を叫び始めた。

 ユピテールのブルーメタリックの巨体が、まるで水に溶けるインクのように、夜の空気に溶け込んで『消滅』する。

 人間の、いや、機械の知覚をも超える高周期の振動が、機体の存在を物理的な不確定性の中へと隠蔽したのだ。

 

 その瞬間、エイトマンの内部リアクターが、かつてない『怖気』として警告を発した。

 

 論理ではない。かつて死の淵を見た「比企谷八幡」としての生存本能が、全開の機動を命じる。

 

「うおおおおお!!」

 

 エイトマンが全力でその場を離脱した、コンマ数秒後。

 彼がさっきまで立っていた場所の空間そのものが、巨大なスプーンで抉り取られたかのように、音もなく消失した。

 

「……っ、回避できた、のか?」

 

 着地したエイトマンの装甲が、余波の振動だけでキィキィと悲鳴を上げている。

 目の前に立つユピテールの両の拳。そこには物理的な破壊の跡などない。ただ、触れた場所の物質を分子の結合ごとバラバラに解体し、無へと帰した「結果」だけが転がっていた。

 

 まさに『神の一撃』。

 

 雪ノ下雪乃が「言葉」で敵を論理的に解体するなら、この機体は「振動」で世界の理を物理的に解体する。

 

「驚愕したか、エイトマン! これこそが超振動発生装置(ギガ・バイブレーション)。私が貴様という『傑作』を、完全破壊するために産み出した究極の力だ!」

 

 デーモンが高らかに、印旛沼の夜空に届かんばかりの声を上げる。

 八幡の超電子頭脳は、必死にこの脅威を打破するための数式を編み出そうとしていた。だが、相手は自分と同じ超音速の戦士だ。一瞬の静止も、一瞬の演算ミスも、即ち「消滅」を意味する。

 

「(……当たるどころか、掠るだけで終わりだ。しかも、こっちはその姿を捉えることすら満足にできない……!)」

 

 エイトマンの額(擬体表皮)から、冷汗に似た冷却液が滲む。

 絶望的なスペックの差。だが、デーモンはその思考の猶予すら与えない。

 

「演算する余裕など無いぞ、エイトマン!」

 

 ユピテールの両腕がゆっくりと前方に突き出される。

 直後、空気が重低音の唸りを上げた。ギィィィィィィン……という、鼓膜ではなく脳髄を直接揺さぶるような、不快な共鳴音。

 ブルーメタリックの装甲表面が、視認できないほどの微細な揺らぎを見せる。

 

 ユピテールの掌から、次元の歪みにも似た『何か』が放たれようとしていた。

 

 超電子頭脳の警告(アラート)が鳴り響くより、コンマ数秒早かった。

 八幡を突き動かしたのは、蓄積されたデータではなく、死線を幾度も越えてきた『純粋な直感』。

 かつて九十九里浜で、ケン・ヴァレリーとの戦闘の果てに掴み取った、理屈を超えた戦闘経験。それが、エイトマンの鋼鉄の脚部を無理やり跳ねさせた。

 

「……っ!!」

 

 マッハを超える横っ飛び。

 直後、八幡が先ほどまでいた空間の「大気」が、目に見えるほどの歪みとなって後方へ突き抜けた。音はない。ただ、空間そのものがねじ切れるような、生理的な不快感だけが周囲を支配する。

 見えない波動は、エイトマンの残像を掠め、背後に鎮座していた巨大な岩礁に衝突した。

 

 ──サラサラと。

 

 破壊音すらなく、数トンはある巨岩が、まるで砂時計が倒れたかのように一瞬で細かい塵へと姿を変えた。崩落ではなく、物質としての「構造」そのものを喪失した、完全な崩壊。

 

「……マジかよ」

 

 着地したエイトマンの右肩の擬体表皮が、かすった余波だけでボロボロに剥がれ落ち、鈍色の装甲が覗く。

 

「ハハハ! 素晴らしい反応だ! だがそれもいつまで持つかな!?」

 

 デーモンは狂喜に顔を歪め、バイザーに流れる膨大なログを貪るように見つめていた。

 

「これこそが超振動砲(ギガ・ブラスター)だ!! かつて我が国の大統領ですら、そのあまりの危険性から製造を中止し、闇に葬った禁忌の兵器よ! 貴様という、世界で唯一私の知を理解できる検体(とも)を前に、この力をお披露目できる……これ以上の悦楽があるか!!」

 

 デーモンはもはや、一介の科学者ではなく、神の業を手に入れた狂信者の如き興奮状態にあった。

 

「さあ、踊れエイトマン! 塵となるか、それともこの私にさらなる『極致』を見せてくれるのか!!」

 

 再装填(リロード)を告げる不気味な高周波音が、再びユピテールの両腕から鳴り響く。

 八幡は、熱を帯び始めた内部核融合炉の鼓動を感じながら、冷徹に「反撃の糸口」を紡ぎ出し始めた。

 

「はちまん様! 大丈夫ですかにゃーん!?」

 

 爆煙の中、ベラがキャタピラを火花が出るほど回転させて叫ぶ。

 彼女の論理回路は、創造主であるデーモン博士への忠誠と、比企谷家で過ごした平穏な日常の記憶の間で激しく火花を散らしていた。だが、ボロボロになりながらも立ち上がる八幡の姿を見た瞬間、彼女の優先順位(プロトコル)は決定した。

 

「もう見てられないにゃ! はちまん様!! 超電導システムだにゃ!!」

 

 その声が、八幡の超電子頭脳に最後のリミッター解除を許可する。

 

「……了解だ、ベラ。ありがとよ」

 

 八幡が腹の底から絞り出すように呟くと、内部核融合炉がこれまでにない重低音の咆哮を上げた。

 ハイマンガン・スチールの外装各部がスライドし、内部から蒼白い光が溢れ出す。

 

「超電導システム ――発動(オーバーロード)!!」

 

 瞬間、エイトマンの周囲に電磁波の円環フィールドが展開された。大気がイオン化し、パチパチと放電現象が夜の印旛沼を照らす。

 八幡の右腕がマトリクス変換を経て、鋭角で無機質な『超電磁加速砲(レールガン)』へと再構成された。

 

「……墜ちろ!!」

 

 マッハ32.5。

 もはや物理現象の限界を超えた速度のプラズマショットが、夜の帳を文字通り「消し飛ばしながら」ユピテールへと連射される。一発一発が戦艦の主砲に匹敵する破壊力。

 だが、その光景を眺めるデーモンの口角は、醜く吊り上がっていた。

 

「 愚かだなエイトマン! そのシステムを誰が作り、誰が改良したか、忘れたわけではあるまいな!?」

 

 デーモンがステッキを振り上げると、ユピテールのブルーメタリックの巨体からも、不吉なまでの蒼白い電光が迸った。

 

「……まさか、こいつもか!?」

 

 八幡の視界、網膜ディスプレイに表示された敵機のエネルギー・プロファイルが、自身のそれと完全に一致した。ユピテールの体表から放たれる超電磁の振動波が、エイトマンの展開したフィールドと干渉し、印旛沼の空間そのものを歪めていく。

 

「驚くには値せん! 貴様ができることは、当然ユピテールにも可能だということよ!」

 

 デーモンの宣言と同時に、ユピテールの両のツインアイが、眩いまでの白光に染まった。

 

「超電導システム、同調。 さあ、焼き尽くすがいい!」

 

 ドオォォォォォン!!

 

 音速を超えたプラズマの「豪雨」が、夜の帳を白銀の世界へと変えた。

 ユピテールの両眼から放たれたプラズマショットは、一発一発がエイトマンの放つそれと同等の質量を持ちながら、その連射速度は物理法則をあざ笑うかのように加速していく。

 

「(毎秒一万、二万……三万発……ッ!? 捉えきれない、センサーが焼ける……!)」

 

 エイトマンは右腕のレールガンを盾のように構え、毎秒数万発という狂気の弾幕を必死に感知し、自身のショットで相殺を試みる。しかし、50万キロワットの出力を背景にしたユピテールの掃射は、エイトマンの限界値を冷酷に、そして確実に凌駕していた。

 

「無駄だ! 貴様の最高連射速度を、ユピテールは上回るよう設計してある! 貴様という『点』に対し、ユピテールは『面』で応じるのだよ!」

 

 閃光が、八幡の相殺圏内を突破した。

 一発、二発と、ハイマンガン・スチールの装甲にプラズマが直撃し、超高熱のエネルギーがボディを削り取る。

 

「……ガ、アアアアアアッ!!」

 

 八幡の絶叫が、電子のノイズとなって虚空に響く。

もはや回避も防御も成立しない。

 夜の印旛沼に、数千、数万の電磁の火花が咲き乱れ、エイトマンの銀色の影は、圧倒的な閃光の弾幕の中に飲み込まれていった。

 もうもうと立ち込める爆煙。イオン化した大気の焦げた匂いと、焼けただれた葦の異臭が湖畔に充満していた。

 デーモンは愉悦の眼差しで、閃光が着弾し続けたその中心点を見つめる。

 

「……それでこそ我が宿敵よ」

 

 風が煙を押し流した。

 

 そこには、片膝をつきながらも、泥臭く大地を踏み締める一躯の鋼鉄が立っていた。

 

「……ッ、ガハッ……!」

 

 エイトマンの口元から、冷却液の混じった黒い火花が漏れる。

 マトリクス形成が強制解除された右腕は、装甲がひび割れ、内部の超電導回路がバチバチと痛々しく放電していた。ハイマンガン・スチールのボディは各所が赤熱し、限界以上の負荷を告げる警告音が、八幡の脳内に悲鳴のように鳴り響いている。

 

「 流石だなエイトマン! 50万キロワットの飽和攻撃を浴びてなお形を保つとは! 伊達にその双肩に世界の命運を乗せてはいないわ!!」

 

 デーモンはステッキを掲げ、心底楽しそうに叫んだ。

 彼にとって、エイトマンが耐えることは計算通りであり、同時にそれ以上の「未知」への期待でもあった。

 

「……はは、……ったく。とんでもねーもん、作ったな……」

 

 八幡は、震える左腕で壊れかけた右腕を強引に押さえつけ、荒い排熱を吐き出しながら顔を上げた。

 光学センサーはひび割れ、片方はノイズで点滅している。だが、その奥にある「眼」は、これまでにないほど澄み切っていた。

 

「……そんなに、俺のことを評価してくれるなんてな」

 

 かつては「ぼっち」であることを盾に、誰からも評価されず、誰の目にも留まらないことを良しとしていた。

 だが、今の自分を真正面から見据え、その存在を、その力を、その生存を願う……いや、否定するために全力を尽くす「敵」がいる。

 

 雪乃が。

 結衣が。

 そして目の前の、この狂った科学者が。

 

 誰もが、比企谷八幡という存在を、代替不可能な「本物」として認識している。

 

「……ああ。なんだろうな、これ」

 

 絶望的な戦力差。全身を駆け巡る回路の焼ける痛み。

 それらすべてが、八幡の内部リアクターを、恐怖ではなく「歓喜」で震わせていた。

 

「──今更、武者震いかよ。笑えねーな」

 

 八幡の口元が、不敵に歪んだ。

 ボロボロの鋼鉄の体から、再び蒼白い電子の火花が激しく溢れ出す。

 

「応えなきゃならねーよな。……あんたのその、歪みきった『期待』にさ!」

 

 エイトマンの全身が、再び加速の予兆に鳴動した。

 

 




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