——エイトマン・リボーン—— 比企谷8幡は鋼鉄の夢を見るか 作:りかるど
冬休みに入ったばかりの校舎には、生命の気配が希薄だった。
窓の外を眺めれば、日はすでに落ち、残照さえも冬の寒色に塗りつぶされている。時折、グラウンドから運動部の掛け声が風に乗って微かに届くが、それも海から吹き付ける鋭い突風にかき消されてしまう。人影のない校庭を、校舎の窓から漏れる頼りない光と、古びた街灯が寒々と照らし出していた。
ガタガタと、建付けの悪い窓が風に揺れる。
けれど、そんな外の荒涼とした景色とは対照的に、部室の中はうっすらとした暖房の熱気と、立ち上る紅茶の香りに満たされていた。
「はぁー……。紅茶が美味しいねー……」
はす向かいに座っていた結衣が、安堵のため息を漏らしながらマグカップを机に置いた。その表情には、張り詰めていた糸が解けたような、柔らかい温もりが宿っている。
「クリスマスイベント、うまくいって良かったねぇ……」
「そうね。どうなることかと思ったけれど、ようやく肩の荷が下りたといったところかしら」
雪乃もふっと、氷が溶けるような小さな笑みをこぼした。その横顔には、企画を完遂した達成感と、それ以上に「この場所」に戻ってこれたことへの安らぎが見て取れた。
「そーだな。なんか、こうしてゆっくりすんのも久しぶりな気がするな……」
八幡は同意しながら、手元のマグカップの温もりを手のひらで確かめる。
実際、ここしばらくは、息つく暇もないほどに何かに追われ、擦り切れるような焦燥感の中にいた。
文化祭での熱闘
超人サイバーの叛乱による、死の一歩手前。
修学旅行、奉仕部の崩壊。
生徒会選挙の泥仕合。
デーモン博士とユピテールの襲撃による、物理的な破壊の恐怖。
そして、あの電脳空間での悪性マルウェアとの死闘……。
脳裏を過る記憶の断片(ログ)を辿るたびに、八幡は眉根を寄せた。
(……我ながら、よく生きてるよな、本当に)
普通に生きていれば、一生かかっても遭遇しないような絶望と破壊のオンパレード。下手したら走馬灯になりかねないほど「濃い」――というよりは、毒が強すぎる二学期だった。
振り返るのもそこそこにして、八幡はマグに残っていた紅茶を最後の一口まで飲み干した。中身がなくなっても、陶器の肌はまだ、ほんのりと手のひらを温めてくれている。
「ふぅ……」
短い吐息が三つ、重なった。
誰が合図したわけでもない。ただ、あまりにも長く険しい道のりを共に越えてきた者たちが共有する、静かな凪(なぎ)の時間。
「由比ヶ浜さん、紅茶のお替わりはいかが?」
雪乃がポットを傾けながら、慈しむような声音で問いかける。
「あ、ありがとー、ゆきのん!」
結衣は嬉しそうに目を細め、マグカップを机の上でついっと押し出した。そのやり取りは、まるで完成された絵画のように調和している。
「比企谷くん、マグを出しなさい」
「ん」
特に疑問も抱かず、八幡は使い古されたマグを差し出した。だが、数秒遅れて脳内の論理回路が違和感を検知する。
「……いや、なんか待遇違くない? 差のつけ方が露骨すぎだろ。片や聖母、片や事務官かよ」
「あら、何か不満かしら?」
雪乃は視線すら合わせず、正確な手つきで茶を注ぐ。湯呑みに注がれる液体の音まで、どこか突き放したような、それでいて手慣れた響きがした。
「待遇の差ではなく、適材適所と言ってほしいわね。それと、このクッキーの余りがあるから、あなたが処分してもらえるかしら」
雪乃は机の上に置かれた、可愛らしくラッピングされた箱に指先を添えた。
「話聞いてねぇし……。まあ、クッキーはいただきますけどね。冬休みでしばらく学校来ないし、置いといても湿気るだけだ」
八幡が箱を引き寄せ、ガサガサと中身を物色し始めると、横から結衣がひょいと顔を覗き込んできた。
「あたしも二枚もーらいっ!」
「ええ、どうぞ」
「やったー! ゆきのんが作ったクッキー、本当に美味しいんだよねぇ」
結衣が幸せそうにクッキーにかじりつこうとした、その瞬間。彼女は何かに弾かれたように、ガタっと勢いよく椅子を鳴らして立ち上がった。
「……って、違あああああう!」
静かな部室に、結衣の絶叫が木霊する。
「お、どうした。急に立ち上がって。膝のバネのテストか?」
「紅茶、こぼすわよ。落ち着きなさい、由比ヶ浜さん」
八幡は驚きつつも、雪乃の方は至って冷静だ。その対応は、もはや騒がしい子供を諭す母親の域に達している。その温度差がいささか不満だったのか、結衣はくわっと目を見開き、二人を交互に指差した。
「二人ともまったりしすぎ! 今日、この後どうするか話してたんじゃん!」
「……そういえば、そうだったわね。イベントの残務処理が頭を占拠していて、失念していたわ」
雪乃が小首を傾げ、記憶のインデックスを探る。
「そうそう! で、今日クリスマスどうしよっか? せっかくだし、みんなでぱーっと打ち上げやろうよ!」
結衣の提案は、奉仕部としての「完遂祝い」だった。だが、八幡と雪乃という、人生の大部分を「静寂」に捧げてきた二人に、クリスマスにどんちゃん騒ぎをするという発想はない。
「いや、俺らにそんなパリピな真似ができるわけないだろ。どっかの巨人軍のピッチャーじゃあるまいし、クリスマスに一人で家を飛び出すような真似はしたくないんだよ」
「……え、きょじんぐん? ぴっちゃー?」
結衣が目を点にする。当然の反応だ。昭和のスポ根漫画のネタが女子高生に通じるはずもない。だが、隣で雪乃が「ふっ」と、何かに納得したように頷いた。
「星飛雄馬のことかしら。……確かに、あの悲劇を繰り返すのは避けるべきね。あんな寂しいクリスマス、二度と見たくないわ」
「……雪ノ下さん。あんた、まさかの視聴者だったのかよ。どこで仕入れたんだその知識」
八幡は、目の前の完璧超人美少女の意外すぎる視聴傾向に、今日一番の戦慄を覚えるのだった。
「だいたい、クリスマスに集まって何をやるんだ。マニュアル化されているならそれに沿えば簡単だが、あいにく俺の脳内データベースに『リア充の聖夜』という項目は存在しない」
八幡は腕を組み、もっともらしい顔で宣う。こういう時だけ、都合よく融通が利かないのが比企谷八幡という男の仕様(スペック)である。
結衣もまた、人差し指を顎に当てて「うーん、うーん」と唸りながら、必死にひねり出そうとしていた。
「あ、そーだっ!」
「何か思いついたみたいね。聞かせてもらえるかしら」
雪乃が慈悲深い聖母のような手つきで紅茶を差し出すと、結衣はぴっと指を立てて、それをくるくる回しながら、若干自信なさげに口を開いた。
「ええっと……み、みんなでチキン食べる、とか……!」
「……いつでも食べられるじゃない」
雪乃の即答は、あまりにも無慈悲だった。八幡もそれに追従するように鼻を鳴らす。
「その理論で行くと、駅前の焼き鳥屋なんて毎日がクリスマスじゃねーか。サンタもトナカイも、ねぎまとつくねに姿を変えてるってか。それにチキンくらい、うちにも常備してあるしな」
八幡が投げやりに言うと、雪乃はくるりと彼の方へ向き直り、どこか楽しげな、にこやかな微笑を浮かべた。
「ある? 『いる』の間違いではなくて?」
「おいおい。うちにいるチキンを、そこらの安っぽいチキンと一緒にしてもらっちゃ困るぞ。骨もないし、驚くほど臆病(デリケート)で食べやすい。親父も含めて、うちは二羽(ふたり)も飼ってるからな。そこらの一般家庭よりよっぽど豪華だ」
「……そう。生前なら、羽で数えて差し支えないのかしら」
雪乃が顎に手をやり、学術的な検討を始める。
「生前とか言わない! 生々しいの禁止! チキン食べる気が一気に失せちゃうから!」
結衣が悲痛な叫びを上げ、耳を塞いだ。無理もない、自分の提案したメインディッシュが、比企谷家の家系図(あるいは生存確認)にすり替えられてしまったのだから。
しかし、そうなると結衣の「チキン案」は、もはや食卓に上がる前に論理的に崩壊してしまったことになる。部室には再び、平和で不毛な沈黙が流れた。
「じゃ、じゃあさ、チキンはアレだけど、……ケーキ食べようよ、ケーキ!」
結衣が挽回を期すように、パッと顔を輝かせて身を乗り出した。
「ケーキなぁ……」
八幡は天井の染みを数えながら、自身の内部メモリに蓄積された「ケーキ」のログを検索する。つい数日前まで、クリスマスイベントの準備で嫌というほど生クリームを絞り、スポンジの焼き加減を管理していたばかりだ。
この流れで今日もケーキを食べるというのは、なんというか、デバッグ作業の後に同じソフトをプレイするような既視感(デジャヴ)がある。それに、チキンと同様、現代日本においてケーキはコンビニに行けば24時間いつでも入手可能な「定常リソース」だ。クリスマスならではの特別感という条件を満たすには、いささかパンチに欠ける気がする。
うーん、と黙り込む八幡の顔を、結衣が不安げに覗き込んできた。
「あれ、あんま乗り気じゃない……。ヒッキー、甘いの苦手だったっけ?」
問いかけて口を開きかけた八幡だったが、それより早く、隣から流麗な声が遮った。
「いいえ、むしろ甘いものは好きよ」
「なんで雪ノ下(おまえ)が答えたんだよ……。今は俺の自己紹介タイムだったろ? いや、甘いのは好きだけどよ……」
八幡が抗議の視線を送ると、雪乃は肩にかかった艶やかな黒髪をさっと払い、どこか超然とした表情で見返してくる。
「別に、確認するまでもないことよ。あんなに甘ったるいコーヒー、よほどの甘党じゃなきゃ飲めないでしょう」
「はっ、マッカンを舐めすぎだ。あれは甘党じゃなくても、必要に駆られて飲むんだよ。千葉の農家は高確率で箱買いしているからな。肉体疲労時の栄養補給に最適なんだぞ」
実際、千葉の農家の作業場にはMAXコーヒーがケースで積まれているし、休憩時間には4コマ雑誌を読み耽っていたりする。小学校の課外授業で見たあの光景は、今でも俺の網膜に焼き付いている。やっぱり疲れたときは糖分に限るのだ。
「マジで千葉県民、疲れすぎなんじゃないかと思うわ……」
粛々とMAXコーヒーの甘美な素晴らしさと、千葉の労働環境の過酷さについて語ってやろうかと思っていると、結衣が「ほえっ」と不思議そうに小首を傾げた。
「……ねぇ、よく考えたら、ヒッキーってケーキとかチキンとか、食べても大丈夫なの?」
結衣が、今更ながらといった様子で疑問を口にした。
彼女の脳裏には、先の戦いで見た、鋼鉄の皮膚を晒し、戦火の中を突き進む「エイトマン」としての八幡の姿が浮かんでいるのだろう。その正体を他人に漏らさないと心に決めてはいるものの、素朴な疑問までは抑えきれなかったらしい。
「なんだそりゃ。俺だって普通にそういうの好きだし、食うぞ」
八幡はこともなげに答える。
その平然とした態度を見て、結衣は(……そっかぁ、最近のロボットは食べ物食べても平気なんだなぁ)と、極めて呑気な納得をしていた。
彼女の中では、八幡の超人的な秘密も、最新型の多機能家電と同列の「すごいこと」として処理され始めている。それは、比企谷八幡という存在が、どれだけ異形に変わろうとも「奉仕部のヒッキー」という定義から外れないことを意味していた。
我に返った結衣は、一歩も引かない構えでこちらを見据えていた。どうやらクリスマスパーティーの開催については、もはや交渉の余地はないらしい。
「もう、ヒッキー! とにかく、クリスマスパーティーは決まりだからね。絶対なんだから!」
「……強引だなぁ」
思わず本音が漏れる。雪ノ下をいつの間にか自分たちのペースに引き込み、あの頑固さを「調教」してしまった謎の突破力。由比ヶ浜結衣という少女の底知れなさを、八幡は改めて失礼な表現で再定義していた。
だが、渋い顔を続けていると、結衣はふっと勢いを緩め、顔を俯かせた。
「……本当に、ヒッキーが嫌だったら、いい、けど……」
言いながら、まつ毛の隙間からこちらを窺うように、上目づかいで視線をぶつけてくる。その、小動物が捨てられた時のような、あるいは計算だとしたら恐ろしすぎるほどの「弱者」の構え。
「うっ……いや、別に嫌とか、そういうことじゃなくてな。クリスマスっつーイベントにいまいち納得がいかんっつーか……」
案の定、胃のあたりに凄まじい罪悪感が芽生え始めてしまう。だが、ここで「世間一般のクリスマス」を無条件に許容してしまえば、なし崩しに他のことまでなあなあになりそうだ。エイトマンの論理回路をフル稼働させ、自分が納得できる着地点を模索するが――。
「……いや、やっぱり今日は無理だ」
「なんで?」
結衣が雪乃の肩から顔を離し、こちらを向く。その瞳には「まだ抵抗するの?」という呆れが混じっていた。
「チキンだのケーキだので思い出したんだが、今日、予約してあった『パーティーバーレル』を家に持って帰らなきゃならない使命がある。……小町との約束なんだよ」
「え、パーティーバーレル……?」
「ああ。今日は家族にチキンを届ける係なんだ。それに、今日くらいは小町じゃ
なくて、俺が飯の準備とかしてやりたいしな」
俺がそう告げると、結衣は意外そうな、それでいてどこか微笑ましいものを見るような表情になった。
「案外、愛妻家……? あ、愛家族家、かな?」
「比企谷くんに、そんな具体的な予定があるというのも珍しいわね」
雪乃が、紅茶の湯気の向こうで毒を吐く。だがその瞳は、八幡が「家族」という何よりも優先すべきロジックを持ち出したことに対して、一定の理解を示していた。
「悪いな。そんなわけで、今日は無理だ。小町を待たせるわけにはいかない」
「そっかぁ……。予定あるんじゃ、しょうがない、よね……」
うんと自分を納得させるように結衣が小さく頷き、無理やり作ったような「あはは」という笑みを浮かべた。
そして、そっと、窓の外の夕闇に消えてしまいそうな溜息を吐き出した。
突発的な提案だったとはいえ、結衣は結衣なりに、このクリスマスという日を奉仕部の三人で過ごすことを心から楽しみにしていたのだろう。
他にも仲の良い友人は大勢いるだろうし、遊ぶ相手には事欠かないはずなのに。自分程度のために、こんなに寂しげな表情をさせてしまうのは、流石に申し訳なさが胸を突く。
それは雪乃も同じ思いだったのか、結衣を気遣わしげに見つめた後、ついっと八幡の方に視線を転じた。
「……比企谷くん。『今日は』無理だということは、明日なら構わないのよね?」
雪乃が投げかけた言葉の意図を汲み取り、八幡は後頭部をがしがしと掻きながら答えた。
「……。まあ、明日は特に予定はねぇな」
その言葉が持つ意味に気づいた瞬間、結衣は八幡と雪乃を交互に見て、ポンと手を打った。
「え、え、あ、ああ、そっかぁ! じゃあ、明日やろう! 明日、みんなで集まって、準備して、プレゼント買いに行ったりしてさ!」
一転して、ちぎれんばかりに尻尾を振る子犬のようにはしゃぎ出す結衣。その様子を穏やかに見つめる雪乃も、静かに頷いた。
「ええ。それがいいと思うわ。私も今日は少し……イベントの疲れが出たようだし、ゆっくり準備を整えたいもの」
どうやら、雪乃に助け舟を出されたらしい。おかげで話は円満にまとまった。八幡は椅子から立ち上がり、荷物をまとめる。これから駅前でチキンを受け取って、小町の待つ家へ急がなければならない。
「……じゃ、そういうことで」
部室の扉に手をかける。重い木製のドアを引き寄せて――ふと、八幡は思い直して二人に振り返った。
「また明日、な」
一瞬、雪乃が驚いたように目を見開いた。いつもなら無言で立ち去るか、せいぜい「じゃあな」で済ませる八幡が口にした、明確な再会の約束。
彼女はすぐに、雪解けのような柔らかな微笑を浮かべた。
「ええ。また明日、比企谷くん」
「うんっ! また明日ね、ヒッキー!」
結衣は満面の笑みで、大きく手を振ってくる。
その声を背中に受けて、八幡は部室を後にした。
冬の廊下を歩きながら、胸の奥に小さな灯がともったような感覚を覚える。
『また明日』
そんななんてことない、当たり前すぎる別れの挨拶をするのも、ずいぶんと久しぶりな気がしていた。
──
帰り道、結衣は冬の冷たい空気を心地よく感じながら、弾むような足取りで歩いていた。
マフラーに顔を埋め、白く染まる吐息を眺める。ここ最近、生徒会選挙やイベントの準備で息つく暇もなかったけれど、ようやく奉仕部の三人で一息つける時間が訪れたのだ。
(明日のクリスマスパーティー、楽しみだなぁ……)
結衣にとって、それは単なる打ち上げ以上の意味を持っていた。
自分だけは知っている。比企谷八幡が「エイトマン」という孤独な鋼鉄の救世主として、どれほどボロボロになりながら自分たちの日常を守ってきたか。
血の流れない傷を負い、誰にも言えない秘密を抱えて戦う彼に、せめて明日くらいは「普通」の高校生として楽しんでほしい。心の底から笑ってほしい。
(ヒッキー……幸せになってほしいな)
結衣は、澄み渡った冬の夜空に、凛とした決意を込めてそう願った。
本当に、比企谷八幡の幸せを、自分のこと以上に願っていた。
──だが。
そう願う資格が、自分には一欠片も存在しないということを、この時の彼女は知る由もなかった。
住宅街の街灯が届かない、濃い闇の底。
二つの人影が、獲物を定める猛禽のような冷徹な視線を結衣の背中に注いでいた。
「あれが、雪ノ下家の次女と、エイトマンの周囲にいるという変数(バリアブル)? ……ふん、ただの女子高生にしか見えないけれど」
低く、温度を失った女の声が闇に溶ける。
「計算上は、彼女が最も効率的な『楔(くさび)』になります。エイトマンの定義を内部から崩壊させるためのね」
隣に立つ影が、無機質な事務連絡のように応じた。
「……ま、いっか。理屈はどうでもいいわ。早くやってちょうだい。最高のクリスマスプレゼントを、彼女に贈ってあげるのよ」
「了解しました」
結衣が自宅の玄関に手をかけ、鍵を差し込もうとしたその瞬間。
背後の空気が、絶対零度まで凍りついたような感覚に陥った。
指先が震え、金属の鍵がカチリと音を立てて止まる。
それは、由比ヶ浜結衣にとって、死ぬことよりも遥かに辛い、魔の真実が訪れる前触れ。
今夜、彼女は「由比ヶ浜結衣」という存在そのものに隠された、残酷な欠陥を知ることになる。
聖夜に、彼女を救い出す救世主(エイトマン)は、どこにも存在しなかった。
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