——エイトマン・リボーン—— 比企谷8幡は鋼鉄の夢を見るか 作:りかるど
休憩を終えて小会議室に戻った面々は、着席して再び谷博士の説明を受けることとなった。羽佐間刑事が壁のスイッチを操作すると、部屋の明かりが落とされ、前方の大型スクリーンに鮮烈な光が灯る。
そこに映し出されたのは、先日エイトマンを肉体・精神ともに完膚なきまでに敗北させた、あの全身真っ黒な巨躯を持つロボット──『
「以前、ドイツの極秘研究資料の中に、これと酷似した設計思想を見たことがあってね」
谷博士は険しい表情でスクリーンを見つめながら、静かに語り始める。
「開発者の名はアルフレッド博士。ロボット開発において、わずか九歳で博士号を取得したという、人知を超えた機械工学の超天才だ。今回のエルケーニヒは、そのアルフレッド博士が遺した試作品の改良型と見て間違いないだろう」
画面が切り替わり、漆黒のエルケーニヒの推定スペックが次々と表示されていく。
「先日のエイトマンとの直接接触によって判明した、エルケーニヒの推定出力は約70万キロワット。馬力に換算すれば、実に『百万馬力』に迫るという、次元の違う圧倒的なパワーだ」
「ひゃく、まん……」
結衣がその桁違いの数字に、呆然とした声を漏らす。沙希や平塚先生も表情を硬くしていた。だが、博士の説明はそれだけにとどまらない。
ちなみにエイトマンの最高出力は10万キロワット。馬力にして13万6千馬力である。
「さらに、エイトマンの超合金の胴体を一撃で両断した、ツインアイから放たれる熱線攻撃。その熱量は少なくとも十万度を超えると予想される。そして何より最大の脅威がこれだ……『重力制御装置』の存在だよ」
スクリーンのグラフィックが、周囲の空間を歪めるエルケーニヒのイメージを映し出す。
「超重力と無重力を自在に操る、現代の物理法則を嘲笑うかのような超常のシステム。……もはや戦闘兵器の枠を超えた、純粋な破壊兵器と言っても過言ではない」
谷博士は苦渋に満ちた声を響かせ、一度、八幡へと視線を向けた。
「いくらエイトマンが人知を超えた高性能を誇ろうとも、それはどこまでいっても安全と探索を前提とした『宇宙開発用ロボット』の域を出ない。ハナから戦うために、壊すために作られたエルケーニヒのパワーや兵装の前では、今の君ではとても太刀打ちできない」
突きつけられた圧倒的な戦力差。小会議室は、言葉を失った面々の絶望的な沈黙に支配された。平塚先生は唇を噛み締め、沙希は腕を組んだままスクリーンを睨みつけている。八幡自身も、自分のボディが容易く引き裂かれたあの感覚を思い出し、喉の奥が乾くのを感じていた。
その重苦しい静寂を破ったのは、スッとまっすぐに手を挙げた一人の男だった。
「博士、よろしいでしょうか」
声をあげたのは、羽佐間刑事だった。
羽佐間刑事は一同を見渡しながら、確信を込めた声で切り出した。
「エルケーニヒは先日の戦闘時、一貫して由比ヶ浜さんを執拗に狙っていました。奴の目的がそこにあるのだとすれば、再び彼女を狙って襲ってくる可能性は極めて高いと予想されます」
超能力者として覚醒した結衣の身柄を回収することが謎の組織の目的なのだとすれば、その推測は十分に理にかなっていた。田中課長は深く頷き、神妙な面持ちで口を開く。
「うむ。今後の由比ヶ浜くんに対する警護体制の強化と継続は、警察としても最優先事項として進める。……そこでだ、比企谷くん」
田中課長は視線を八幡へと移し、大真面目な顔で問いかけた。
「警察の警備に加え、エイトマンである君による『二十四時間の身辺警護』を頼めないだろうか?」
「えっ……に、二十四時間……!?」
そのあまりにも具体的で過剰なパワーワードに、結衣が過敏に反応した。
もしかしなくても、それは二十四時間ずっと片時も離れず、自分の家に一緒に寝泊まりしろという意味なのではないか──。そこまで思考が至った瞬間、結衣の顔はみるみるうちに真っ赤に染まり、湯気が出そうなほどフリーズしてしまった。
そんな結衣の様子を横目で見ていた沙希が、即座にジト目を田中課長に向ける。
「ハァ? いくらなんでもそれは公私混同っていうか、ただの職権乱用でしょ。この変態を二十四時間も密着させるとか、正気ですか?」
「いや川崎、俺まだ一言も引き受けるなんて言ってないし、なぜ当然のように変態扱いされてるんだ俺は」
八幡が心外だとばかりに抗議するが、周囲の大人たちからも容赦なくストップがかかる。羽佐間刑事が慌てたように田中課長を宥めた。
「課長、さすがに年頃の女子高生の自宅に若い男を泊まり込ませるというのは、いくらエイトマンとはいえちょっと……」
「私も教師として、その意見には全面的に同意せざるを得ないな」
平塚先生が腕を組み、完全に教え子を守る「教師の顔」になって田中課長を鋭く睨みつける。
「比企谷と由比ヶ浜は私の預かる大切な生徒だ。健全な育成の観点からも、そんな破廉恥かつ倫理観を疑うような状況は、この私が絶対に認めんぞ」
(いや、そもそも俺だって女子の家に泊まり込みとか、ハードルが高すぎて緊張で回路が焼き切れるわ)
当の八幡は内心で呆れ果て、完全に置いてけぼりの状態だった。
「お、おう……すまん、少し配慮が足りんかったな。わしもちょっと焦りすぎておったようだ」
周囲の女性陣と部下からの猛烈な反発と冷ややかな視線を浴び、さしもの田中課長もタジタジになって前言を撤回した。
「コホン。とにかく、まずは警察による厳重な警護体制を現行のまま維持し、さらに人員を大幅に増強して継続する。そういう方向でいこう」
田中課長がそう締めくくると、ようやく小会議室の殺気立った空気はいくらか和らぐのだった。
──
「そろそろ昼飯時だな……。よし、ここはわしの奢りでみんなで飯を食いに行こうか!」
極秘会議が一通り終わったあと、時計の針がちょうど昼時を指しているのを見て、田中課長が豪快に声をあげた。
そして揃って連れられてやってきたのは、羽佐間刑事の行きつけだという、大通りから一本入った路地裏にある小さなラーメン店だった。だが、店構えを見るなり、平塚先生が目をぎらりと輝かせる。
「ほう……ここは東京ラーメンの隠れた穴場だな。スープは鶏ガラベースの昔ながらの醤油か。羽佐間さん、なかなかいい店を知っているじゃないか」
「はは、恐縮です、平塚先生。ここのチャーシューは絶品なんですよ」
カウンター席に並んで座り、割り箸を割りながら、八幡は思う。なぜ刑事とラーメンというものは、こうも親和性が高いのだろうか。他に思いつくのはあんぱん、牛乳、取調室のカツ丼くらいなものだ。
「ひゃあ……! 美味しい……っ! すごい、スープがすごくてなんかやばい!」
隣の席から、弾けるような感嘆の声が届いた。見れば、結衣がスープを一口啜った瞬間に、その大きな目をらんらんと輝かせている。
「由比ヶ浜くん、本格的なラーメン店は初めてかい?」
田中課長が目を細めて尋ねると、結衣はふうふうと麺を吹きながら、嬉しそうに何度も頷いた。
「はい! いつもはファミレスとか、カップ麺とかばっかりで……。こういうお店、なんだかちょっと大人な感じがして憧れてたんです!」
「そうかそうか。たくさんお代わりするといい」
その横では、いつの間にか平塚先生と羽佐間刑事が、さらにマニアックな領域へと突入したラーメン談義に熱く花を咲かせていた。
「羽佐間さん、ここの麺は低加水のストレートだな? 醤油のキレを引き立たせる実に見事なチョイスだ」
「ええ、まさにその通りです。スープの旨味をしっかり吸い上げてくれるんですよ。先生、本当にお詳しいんですね!」
「ふっ、伊達に千葉中の店を回ってはいないからな」
心なしか、いつもより平塚先生の声のトーンが高い。八幡は口端を少しだけ上げて、二人の横顔をニヤニヤと眺めた。
「先生、よかったですね。趣味の合うお相手と、そんなに楽しそうにお話ができて」
「……比企谷……そういう冗談は今は笑えないぞ……」
平塚先生はピキリと動きを止め、メンマを噛みちぎらんばかりの勢いでギロリと八幡を睨みつけてきた。凄まじい眼力に回路がビビる。
「あの、平塚先生?」
「……あ、いや、羽佐間刑事。うちの比企谷がいつもすまないな。こいつは口を開けばこういう減らず口ばかりで……」
困惑する羽佐間刑事の視線に気づくと、一瞬にして、お淑やかで綺麗な「外向けの営業スマイル」へと切り替えた。
(ああやって、いつもお見合いとかでも必死に猫を被って取り繕ってるんだろうな……)
八幡は喉の奥でスープを飲み込みながら、どこか慈しむような、ドラえもんのような生温かい目で、その哀愁漂う後ろ姿をしみじみと見つめるのだった。早く誰か貰ってやってくれ、マジで。
そんなコミカルな空間の中で、不意に、左隣の席から袖を小さく引かれた。
「……ねえ、比企谷」
顔を向けると、沙希が器に視線を落としたまま、静かに麺を運んでいた。周りの喧騒に紛れるような、低く抑えられた声だった。
「ん? なんだ?」
「これ、食べ終わって解散したあとさ……ちょっと私に付き合いなさいよ」
「付き合うって……俺にか?」
八幡は少し目を見張った。沙希は相変わらずラーメンを見つめたまま、ぶっきらぼうに言葉を続ける。
「うん、あんたに。……ちょっと来てほしい場所があるの。別に、用事とかないでしょ?」
「まあ、特に予定はないけどな。連休の初日だし、別に構わんぞ」
いつもと少し違う、どこか真剣な、あるいは迷いを含んだような沙希の声音に、八幡は小さく頷いた。
「……ありがと。じゃあ、サッと食べて出ましょ」
沙希はそれだけ言うと、いつも通りの素っ気ない態度で再びラーメンを啜り始めた。八幡は彼女の横顔を見つめながら、その胸中に去来するものの正体を、静かに思考するのだった。
──
昼食を終えて店を出た一同は一度庁舎に集まった。結衣は安全のために、羽佐間刑事が運転する警察の車両で自宅まで直接送ってもらうことになっている。
「それじゃあ羽佐間、また連絡する。今日の件、いろいろとありがとうな」
「いえ、こちらこそ。先生とラーメンの話ができて楽しかったです。では、また」
平塚静がごく自然な動作で彼と携帯の番号を交換しているのを八幡のメインカメラは見逃さなかった。おいおい、マジか、と八幡は心の中で戦慄する。あの行き遅れ気味の鉄拳聖裁教師が、ついにそっちの方面へ一歩踏み出すということなのだろうか。
田中課長と谷博士は「わしたちはもうしばらく残って、今後の詰めを行うとするよ」とのことで店へ戻っていき、ここでひとまず現地解散となった。
「ヒッキー、また明日ね! ちゃんとゆっくり休むんだよ?」
車の窓から身を乗り出すようにして、結衣が大きく手を振る。
「……おう。また明日な。そっちも気をつけろよ」
学校の崩壊で連休の真っ最中なんだがな、と心の中でぼやきつつも、先日の過酷な戦いを乗り越えた彼女の弾けるような笑顔を久しぶりに目にしたせいか、八幡は素直に言葉を返していた。
車を見送った後、八幡は川崎沙希に促されるままに電車へと乗り込んだ。目的地は千葉市外だという。
──
ガタンゴトンと小気味よく揺れる車内。吊り革に掴まりながらぼんやりと流れる景色を眺めていると、隣に立つ沙希が不意に、周囲の騒音に紛れ込ませるような低いトーンで声をかけてきた。
「……あんたさ、これからどうするつもりなの?」
「どうするって、何がだ?」
「何がって……その身体のこととか、これからの生活のこと。エイトマンとして戦い続けるにしても、限度があるでしょ」
直球すぎる問いかけに、八幡は少しの間を置いてから、自嘲気味に息を吐いた。
「とりあえずいつも通りだよ。ただの人間、ただの高校生として生活するだけだ。それ以外にやりようがないしな」
「……妹や、雪ノ下には言わないの?」
沙希の視線が、じっと八幡の横顔に突き刺さる。
「言えるわけないだろ。小町はもちろん、雪ノ下にまで自分が一度死んでロボットになったなんて、知られたくはない」
「どうして? 隠し通せると思ってるわけ?」
「隠し通すんだよ。お前や由比ヶ浜がそうだったように、これ以上あいつらを巻き込みたくはない。あいつらには、普通の日常にいてほしいんだよ」
八幡の頑なな言葉を聞いて、沙希はしばらく窓の外を見つめ、何かを思案するように視線を泳がせていた。だが、やがて意を決したように再び八幡の目をまっすぐに見つめてくる。
「じゃあさ。もし知られちゃったら、その時はどうするの?」
「……」
それは、八幡にとって最も考えたくない、しかし常に背中に突きつけられている最悪のIFだった。もしその時が来たら、彼女らはこの鋼鉄の身体を受け入れてくれるのだろうか。それとも、化け物として忌み嫌われ、拒絶されるのだろうか。
急速に思考の泥沼へと沈みかける八幡の意識を、沙希の強い口調が強引に引き戻した。
「あんたの不安もわからなくはないけどさ……もし知られたら、どんな結果になっても、ちゃんと向き合ってやりな。あんたはいつも、不器用なくせにそうやって向き合ってきたんだから」
「川崎……」
「誤魔化して逃げるのだけは無し。家族として、あるいは親しい間柄としてさ。小町にとっても、雪ノ下にとっても、あんたがちゃんと向き合うことは絶対に疎かにしちゃいけないことでしょ」
下に弟と歳の離れた妹を持つ沙希だからこそ、大切な家族に対して嘘を突き通すことは許さない、と言いたいのだろう。姉としての強い覚悟が滲むその正論に、八幡は静かに頷くしかなかった。
「……そうだな。わかってるよ」
だが──雪ノ下雪乃のことを考えた瞬間。
八幡の電子頭脳(メモリーバンク)は、かつて夜の街で投げかけられた、ある女性の言葉をありありと再生していた。
『あの子を守れるのは、君しかいない──』
そう告げた雪ノ下陽乃の、どこか冷徹で、それでいて哀しげな美しい顔が、回路の奥で何度も、何度も鮮明にリピートし続けていた。
──
千葉市から少し離れた鎌取駅。改札を抜けた時、八幡はてっきり、この近辺にある「谷製作所」にでも用があるのだろうと考えていた。しかし、沙希が迷いのない足取りで進む方向は、製作所とは全く異なっていた。
途中で一軒の花屋に入り、沙希はいくつか新鮮な供え花を見繕う。店を出た後は、二人とも無言のまま目的地へと向かって歩き続けた。
たどり着いた場所は、静寂に包まれた広大な墓地だった。手慣れた様子で桶に水を汲んだ沙希が、一つの墓石の前で足を止める。そこには『谷家之墓』という文字が厳かに刻まれていた。やはり、谷博士の家の墓なのだろうか。
八幡がそんな疑問を抱いていると、沙希が「こっち」と墓石の裏手をそっと指差した。回り込んで視線を落とした八幡は、そこに小さく刻まれた文字を目にして息を呑んだ。
『ケン・ヴァレリー』
「……ケンの墓か」
「うん。時々ここに来て、お墓参りをしてるの」
エイトマンとの決闘の果てに散った、サイボーグ・01ことケンの魂が眠る場所。まさかこんなところに彼の墓があるなんてと、八幡は感慨深げに呟いた。
沙希の話では、夏休みに入った後に谷博士からこの場所を教えてもらったらしい。その後も、こうして何回か掃除や花の取り替えに訪れているのだという。
「もう一度エイトマンに会えたら、ここを教えるつもりだったから。ちょうど良かったわ」
沙希はどこかホッとしたように微笑んだ。
八幡にとってケンは、エイトマンの顔のモデルとなったもう一人の自分であり、ある種の「兄弟」とも言える存在だった。敵として相対せざるを得なかったが、彼との死闘を通して、八幡はサイボーグ同士の高速戦闘の基本を学び、その経験はその後の戦いにも大きく役立っていた。今でも八幡にとって、ケンは胸の奥に深く刻まれた大きな存在である。
沙希がケンを悼み続けるのは、彼が谷博士を激しく憎みながらも、最後まで父親への愛情を捨てきれずにいた部分に、思うところがあったからだ。たとえ自分を誘拐した張本人であっても、今の沙希に恨みや憎しみなどは存在しなかった。むしろ、ただ父親への愛情を求めて彷徨っていた彼の姿を見て、憐れに思うほどだった。
古い花を取り替え、新しい花を供える。柄杓で冷たい水を墓石にかけると、二人は並んで静かに手を合わせ、爆発の閃光の中に散ったケンに思いを馳せた。
ケンの身体はあの戦いで完全に消滅しており、この下には遺骨すら眠っていない。だが、こうして彼の死を悼む存在が世界にいることは、そのものの魂にとっては救いなのではないだろうか──八幡はそんな風に考えた。
そして、いつか来るであろう自分自身の死の際も、こうして誰かが悼んでくれるのだろうかと、静かに考え続けるのだった。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「おう」
墓参りを静かに終えた二人は、夕暮れ時の墓地の出口へと向かって歩き出した。しかしその途中、八幡の全周囲複合センサーと超高感度レーダーが、突如として不穏な無数の『存在』を感知した。
音もなく、陽炎のように自分たちの前方の空間に『六つの影』が潜んでいる。
「川崎」
八幡は沙希の肩を掴み、低く鋭い声をかけた。八幡のただならぬ真剣な表情を見た沙希は、一瞬でただ事ではない異常事態が起こりつつあることを察知する。
八幡が全戦闘センサーの警戒レベルを最大に引き上げ、沙希を庇うように背後に下がらせたその時。どこからともなく、身長二メートルを優に超える巨躯の男が、ヌッと眼前に姿を現した。
「おまえがNo.08だな?」
「……人違いじゃないですかね。俺はただの高校生なんですが」
八幡がいつもの調子でかわそうとすると、巨体の男は八幡を見下し、隠そうともせず鼻で笑った。
「フン……ジョークを言うなんて、よく出来たゼンマイ仕掛けだ」
男の言葉を合図にするように、周囲の木陰や墓石の影からさらに五人の影が現れ、つられて不気味に嘲笑し始めた。この尋常ならざる気配、明らかに普通の人間でも参拝者でもない。八幡は視線を走らせ、六人の微細な駆動音と挙動を慎重に観察する。
「なんの用かは知りませんが、用件ならとりあえず後にしてもらえませんかね。ここは墓地だし、話し合うには少々不便──」
ガキィイインッ!!!
言葉をすべて言い切る前に、八幡の危険察知回路が作動した。咄嗟に両腕を交差させて顔面を庇う。甲高い、肉体同士の衝突ではあり得ない硬質な金属音が墓地に激しく鳴り響いた。
宙を舞い地面に深く突き刺さったのは、鈍い光を放つ二本の特殊ナイフだった。
「グダグダ抜かしてねぇで、大人しくしろって言ってんだよ、小僧」
巨体の男は苛立ちを隠そうともしない声と顔で八幡を恫喝した。男が無造作に腕を振り、すぐ隣にあった巨大な墓石を叩きつけると、爆音とともに墓石が粉砕され破片が飛び散った。明らかに人間の腕力ではない、純然たる機械の怪力だった。
「比企谷……っ」
「大丈夫だ、心配すんな」
背後で息を呑む沙希を左手で制し、八幡は男たちを真っ直ぐに見据えた。
「なんか、話し合うって空気じゃねえよな。アンタたち……」
巨体の男がニヤリと下劣な笑みを浮かべ、手を挙げる。それを攻撃の合図と受け取った八幡は、迷わず先手を取った。
バチチチッ……ズバァアアアアアアアアア!!!!
「うわっ……!」
突然の閃光に沙希が身を竦ませた。八幡は間髪入れず、全身から10万キロワットのプラズマを放電し、男たちめがけて放出した。猛烈な電磁の奔流が、あっという間に六人を包み込んで激しくスパークする。
放電の後にはもうもうと白煙が立ち込め、やがて、時間をおいてゆっくりと煙が晴れていった。
視界が完全に晴れると、そこに先ほどの「人間の服を着た六人」の姿はなかった。代わりに佇んでいたのは、鈍い金属光沢を放つ不気味な装甲を露出させた六人の戦鬼たちだった。
「サイボーグ……」
沙希が息を呑みながら小さく呟いた。だが、その声色には先ほどの怯えや不安は感じられない。なぜなら──
「修理したばかりで……もう実戦か」
彼女のすぐ側には、もう何度も目にした鋼鉄の戦士が立ちはだかっていたからだ。
「慣らし運転にしては、ずいぶんと大袈裟な出迎えだな」
陽光に照らされたサイバネティクスの美しい超合金装甲を輝かせ、完全修復を遂げたエイトマンが、その蒼白い双眸で戦鬼たちを正面から睨み据えた。