——エイトマン・リボーン—— 比企谷8幡は鋼鉄の夢を見るか   作:りかるど

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 005は原作でも野蛮なお方です



第九十二話:殺人ロボット005

 

 ドゴォォォン!!!

 

 005が振るう巨拳が地面を激しく粉砕し、周辺の古い構造物を次々に破壊していく。その凄まじい質量破壊を前に、エイトマンは巧みなステップで距離を取りつつ、冷静に戦況を見極めていた。

 

(なんつーバカ力だよおい。出力と装甲の厚さに関しては完全に格上だ。迂闊に接近戦を挑むのはやめといた方がいいな)

 

「逃げてんじゃねぇ!!」

 

 加速装置の咆哮とともに、005がエイトマンを猛追する。

 周囲のすべてを薙ぎ倒しながら前進するその姿は、文字通り装甲車さながらの圧倒的破壊力だった。その純粋なパワーと力任せの突進力という点においては、明らかに005の方が上だった。

 

(あんなもんに正面からアタックされたら一発でペシャンコだ。かと言って遠距離攻撃は……)

 

 エイトマンは走りながら急反転し、牽制のプラズマ・シューターを発射する。しかし、眩い紫電が激突する直前、005は巨躯を滑らせるようにして器用にその軌道から身をかわした。ただ猪突猛進するだけの猪武者ではない。戦闘サイボーグとしての確かな判断力と機動力を持ち合わせているようだ。

 

「ちまちまと目障りだぞ! とっととブッ潰されちまいなー!!」

「チッ……墓場で派手に暴れんじゃねぇよ。この罰当たりヤローが」

 

 エイトマンが不快感を露わに通信を飛ばすと、005は醜い顔を歪めて下劣に鼻で笑った。

 

「バチだぁ!? 死体を燃やしちまうような国の人間に言われたくねえぞ!! 黄色い猿野郎!!」

 

 差別的な暴言を撒き散らしながら、なおも激しい突進を繰り返す005。エイトマンはその超音速の猛攻を最小限のフレーム回避でかわし続ける。

 激しい攻防の中で縦横無尽に位置を変える両者だったが、やがて、その足跡は墓地の一角──先ほど手を合わせたばかりの、谷家の墓石の前へとたどり着いてしまった。ケンの魂が眠る、その場所である。

 

「ああ? ここは……」

 

 005がのっそりと足を止める。エイトマンの電子頭脳に焦燥のノイズが走った。

 

(くっ……よりによってこんな場所に連れてきちまったか)

 

 005もその墓碑の裏に小さく刻まれた名に気づいたのか、その醜い顔に下卑た笑みを浮かべ、土足で墓石を指差した。

 

「フン! そういえばコレはケンの野郎の墓だったな?」

「……それがどうした」

 

 エイトマンの蒼白い双眸が、一段と冷たく輝く。005は金属製の拳をギリギリと鳴らしながら、かつての同僚への忌々しい記憶をぶちまけた。

 

「あのヤロウは前から気に入らなかったぜ! ちょっと優秀だからってエリート面しやがって。この俺に対して偉そうに命令してきやがった! 薄汚えジャップの血を引く日系人のクセによ!」

 

 005は顔を怒りに歪め、死してなおケンへの劣等感と憎悪を剥き出しにする。そして、エイトマンの動揺を誘うように、あるいはその存在そのものを歴史から消し去るかのように、ケンの墓石に向かって巨大な右腕を高く振り上げた。

 

「──! おい、やめろ!!」

 

 その最悪の意図を察知したエイトマンの叫びが墓地に響く。

 

「それも死んじまったらザマァねえぜ!! コイツにはお似合いだな!!」

 

 ──ゴシャァアッッ!!!

 

 制止の声など届くはずもなく、005の容赦ない一撃が硬い墓石に炸裂した。爆音とともに、ケン・ヴァレリーの名が刻まれていた墓碑は木っ端微塵に粉砕され、周囲に破片となって飛び散った。

 

「──!!」

 

 かつて命を賭けて戦った「兄弟」であり、その死を悼む者が世界に自分たちしかいない男の墓を完全に汚され、エイトマンは怒りと衝撃のあまり言葉を失い絶句した。

 遠目の物陰からその光景を見ていた沙希も、そのあまりにも非道で理不尽な暴挙に愕然とし、恐怖と怒りで震える口元を両手で強く抑えるしかなかった。

 

「ハハハハハ! おまえもこんな風に粉微塵にブッ潰してやるわ! 覚悟するんだなぁ!!」

 

 粉々になったケンの墓石を指差しながら、005は傲慢と残忍さを隠そうともせず、下品な笑い声を墓地に響かせた。

 

 ──ヴ、ウゥゥン……。

 

 だが次の瞬間、005の全周囲センサーが空気を激しく振動させるような、不気味で鈍い『音』を捉えた。本能的な警戒信号に弾かれ、005はその発信源である対象──エイトマンへと目を向け、笑いを止めた。

 

「なんだ……?」

「──もう……絶対に許さねぇぞ。テメェ!!!」

 

 エイトマンが怒りを込めて右手を天に掲げた。その瞬間、彼の右腕の周りの空気が悲鳴を上げるように軋み、猛烈な勢いで一点へと集中していく。

 右腕に収束しつつある超圧縮された空気の渦──それは、エイトマンの最高速であるマッハ15の移動エネルギーを全てその一腕に集中させたものだった。かつてデーモン博士の最高傑作『ユピテール』に致命的なダメージを与えた、エイトマンの絶対的な切り札。

 

 エイトマンは今にも暴発しそうなその破壊的エネルギーの照準を、真っ直ぐに005の巨躯へと合わせた。

 

「くたばれ!!」

 

 ──ドォオオオオオオンッッッ!!!

 

 腕が振り下ろされた瞬間、圧縮されたマッハ15の衝撃が、目に見えない風圧の鉄槌と化して005に襲いかかった。

 

「ぐおおおおおお!?」

「うわっ……!?」

 

 ベイパーコーンを容易く突き破ったハイパーソニックブームの凄まじい爆音が墓地全体に鳴り響く。あまりの衝撃と音量に、物陰の沙希は思わず両耳を強く抑えてその場に蹲った。

 避ける暇など一分(いちぶ)もありはしなかった。正面から衝撃波の直撃を喰らった005の巨体は、その圧倒的な質量をあざ笑うかのように、一瞬で空中に高く放り出される。

 

「──っし、しまっ……!!?」

「もう遅い!!!」

 

 エイトマンは休むことなく、両腕の照準を寸分狂わずに空中で制御を失っている005へと固定した。眼下に向けられた漆黒のプラズマ発射口を目にした瞬間、005の顔に一気に焦りの表情が浮かぶ。

 

「プラズマ・シューター!!」

 

 ズバァアアアアアアアアアア!!!

 

「ぐがぁああああああ!!!」

 

 指向性電流波の蒼白い閃光が005のボディを貫いた。

 超音速移動を得意とする高速サイボーグにとっての、最大の弱点──すなわち『自由落下中は加速することも減速することもできず、軌道修正が不可能である』という物理的な盲点を突いた、完璧な一撃だった。

 

 10万キロワットの凄まじいプラズマが005の全身を焼き尽くし、やがて完全に黒焦げとなった巨体は、重力に従ってまっすぐ落下し、激しい音を立てて地面に激突した。

 

「はぁ……ど、どうだこの野郎……」

 

 胸部内の超小型原子炉に無理な過負荷をかけたのか、エイトマンはガタガタとフレームを震わせ、胸を抑えて激しく息を切らした。完全修復後とはいえ、極超音速移動の連続使用に加えて、十万キロワットもの最大出力を惜しみなく叩き込んだのだ。処理冷却が追いつかないのも無理からぬ話だった。

 

「ちょっとあんた、大丈夫なの!?」

 

 先ほどの凄まじい爆音のせいか、未だに両耳を小さく抑えたままの沙希が、必死の形相で物陰から駆け寄ってきた。八幡は視覚センサーの明滅をなんとか安定させながら、彼女に酷い音を聴かせてしまったことを内心で少し後悔する。

 

「も、問題ない……。ちょっとカッとなって一瞬だけ全パワーを解放しただけだ。時間経過で無事に治る」

「そ、そう? それならよか──」

 

 沙希の安堵の言葉は、途中で鋭い悲鳴へと変わった。

 

「──後ろ!!」

「うっ!?」

 

 エイトマンが警告に反応して振り返るよりも早く、自身の脚部が、骨をも砕くような強烈なパワーでガッチリと掴まれたことを駆動回路が感知した。

 

「グハハハハァ!! とうとう捕まえたぞ小僧ー!!」

 

 見れば、全身の装甲を真っ黒焦げに変え、内部のフレームを剥き出しにした005が、執念だけでなおも立ち上がり、地獄の底から這い出た死神のようにエイトマンの脚を捕らえていたのだ。

 

「ぐ……!? な、なんてタフな野郎なんだ……!?」

「ガハハハハハハ!! 当たり前だ、あの程度でこの俺がくたばってたまるかぁー!!」

 

 常軌を逸した狂気の笑い声を上げる005。その駆動系は過負荷で限界を迎えているはずだが、それを精神の暴走で無理やり引きずり回している。

 

「今度こそブッ殺してやるわ!! 覚悟しろ小僧ーッッ!!」

「ぐっ……!!」

 

 005がその丸太のような剛腕を高く振りかぶった。脚を掴まれている以上、極超音速での回避は不可能。エイトマンは奥歯を噛み締め、全身の装甲の防御フィールドを最大に引き上げて衝撃に備えた。

 

 ──ボシュンッッ。

 

 突如として、墓地に似つかわしくない奇妙な破裂音が響く。

 

「──へっ?」

 

 その瞬間。エイトマンの脚を掴んでいた005の巨大な腕が、肉体も、超合金の装甲も、あらゆる構造を無視して、まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で『粉々』の塵となって消え去った。

 

「──な、なぁあ〜〜〜〜ッ!?」

 

 005の口から、驚愕と狼狽が入り混じった絶叫が漏れ出た。

 

「おっと……!」

 

 自分を拘束していた質量が突如として霧散したことで、エイトマンの身体が重力に従って落下する。しかし、即座に宙で身を捩って体勢を立て直し、静かに地面へと着地した。一方の005は、自分の身に起きたあまりにも不可解な超常現象を理解できず、残された片腕を上げたままその場に凝固していた。

 

(助かった……。いや、そんなことより今の現象は……)

 

 視覚センサーのログを巻き戻しても、何かが衝突した形跡はない。相手に直接触れることもなく、物質の結合をバラバラに分解し、塵のように消滅させる攻撃。

 そんな神業じみた芸ができる存在を、エイトマンは世界で一人しか知らない。

 

「──そんな()()()()()に何を手間取っている?」

 

 墓地の静寂を破ったのは、人を喰ったような、あまりにも不敵で傲慢な老人の声だった。その声には、聴き覚えがありすぎた。

 

 カツン、カツン──。

 

 墓石の間から、地面を規則正しく突く石突の音が近づいてくる。エイトマンと沙希は、弾かれたようにその音の方角へと目を向けた。

 

「しばらく見ない間に……随分と腑抜けたか? エイトマンよ」

 

 黒マントを美しく翻し、片手に優雅なステッキを携えた白髪の老人が、そこに毅然と佇んでいた。威風堂々としたその姿には、周囲の空気を一瞬で支配するほどの圧倒的なカリスマが宿っている。

 

 エイトマン最大の宿敵であり、その性能を誰よりも理解する男。ロシアが誇る悪の天才科学者──。

 

「──デーモン、博士」

 

 比企谷八幡……エイトマンの前に、ドクトル・デーモンが再びその姿を現した。

 

「あの人……前に海で会った……」

 

 物陰から恐る恐る老人の姿を見つめていた川崎沙希が、驚きに目を見開いて息を呑んだ。

彼女にとってその容姿は記憶に新しい。夏休み前の九十九里浜の海岸で、エイトマンとケンの壮絶な死闘を特等席で目撃させられたもの同士だったからだ。

 怯える沙希へとちらりと言外の視線を向けたドクトル・デーモンは、珍しい物でも見るかのような顔で薄く笑った。

 

「──フッ、ケン・ヴァレリーの墓前で、かつてあの海岸に居合わせた者同士が再び顔を合わせるとはな。神の悪戯か、不思議な縁を感じるぞ」

「相変わらず人を喰ったような爺さんだな、デーモン博士」

 

 エイトマンが呆れたように応じると、デーモンは宿敵に相まみえた純粋な喜びでその口角を大いに吊り上げた。

 

「久しぶりだなエイトマンよ。ユピテールとの戦い以来、ずいぶん色々なことがあったそうだな? まったく、退屈とは無縁な生活で羨ましい限りだ」

「うるせぇな……。あからさまな皮肉言いやがって。ほんと性格悪いのは変わらねぇんだな」

 

 容赦なく皮肉と悪口を言い合う二人。しかし、一度は死闘の末に一応の決着をつけたもの同士、その言葉の応酬には以前のような純粋な敵意や悪意といった泥臭いものは混じっていなかった。どこか奇妙な信頼関係すら漂う空気感がある。

 

「貴様ら、この俺を無視してんじゃねぇー!!」

 

 そんな二人の静かな邂逅を切り裂くように、右腕を根元から失って激しく漏電している005が、怒りに狂った声を響かせて強引に割り込んできた。

 

「なんだ貴様。まだいたのか? 今私は我が宿敵との再会を喜んでいるのだ。邪魔をするんじゃない」

 

デーモンは鬱陶しそうにしっしっと手を振った。凶悪無比な最新型サイボーグを目の前にしても、その傲岸不遜な態度を一切崩さない。その瞳は、路傍の石ころを見るよりも冷め切っていた。

 

「ジジィー!! これはおまえの仕業かー!? よくも俺の腕を消しやがったなー!?」

 

 激高して吠え立てる005を尻目に、沙希がエイトマンの背中に小声で囁く。

 

「ねぇ比企谷。なんであのお爺さんいつもあんなに偉そうなの?」

「……うーん……デーモンだからとしか言いようがない……」

 

 二人のひそひそ話を無視し、デーモンは005へ冷淡な視線を戻した。

 

「悪いが、私は貴様のようなデリカシーのないでくのぼうには全く興がそそられないのだ。見逃してやるからとっとと私の視界から消えろ」

「ふざけてんじゃねぇぞジジィー!! まずテメェからブッ殺してやるぁー!!」

 

 限界を迎えた005が、残された唯一の左腕を猛然と振り上げた。しかし、デーモンはピクリとも動じない。

 

「でくのぼう、一つ忠告してやろう。それ以上近寄らん方が身の為だぞ」

「あぁあ〜!?」

 

 ──ボシュン。

 

 つい先ほども聞いた、あの気の抜けるような奇妙な音がふたたび墓地に鳴る。

 

「……あ!? な、な、なんじゃあこりゃあ!?」

「ま、またさっきみたいに消えた……?」

 

 005が絶叫し、沙希が驚愕に目を見開いた。005の振り上げた左腕が、先ほどと全く同じように音もなく『消滅』していたのだ。

 だが、エイトマンだけはその現象の正体を知っていた。かつて『あの』見えない攻撃には散々手を焼かされたからだ。

 

「学習能力の無いガラクタだな。人の言うことくらい耳を傾けたらどうだ?」

 

 呆れ果てたデーモンの右手の上にヒュィイインと不気味な駆動音を立てながら、四方に突起が突き出た漆黒の球体が、その姿を現した。

 

「スパイ・ボール。今風に言えば偵察用ドローンというヤツだが、私の作品はもっと洗練されている」

 

 デーモンは黒い円形型ドローンを弄びながら、いまだ狼狽える005をいたぶるように愉しげに話しかけた。

 

「超振動発生装置で接触するあらゆる物質の分子結合を破壊し、消滅させる。以前私の作った傑作にも同じシステムを組み込んだことがある。なあ? エイトマン」

「ああ、おかげさまでな。あの時は本当に死ぬかと思ったぜ」

 

 デーモンが指をパチンと鳴らすと、彼の周囲の空間から、無数のスパイ・ボールが次々と湧き出るように浮遊し始めた。不気味な振動音を発する黒い球体の群れを見た005の巨体が、今度こそ明確に戦慄する。

 

 デーモン博士の目に、狂科学者としての危険な光が宿った。

 

「とっとと消えろと言ったが……。本当に全部消し飛ばしてやろうか?」

「ぬぅう……!!」

 

 それまで騒々しかった005が、その絶対的な死の宣告を前にして、ついに声を詰まらせて押し黙った。流石に状況が圧倒的不利であることを、その頭脳が悟ったのだろう。

 

「……フ、フフフ……」

「どうした、電子頭脳が機能不全を起こしたか?」

 

 そのまま逃げ出すかと思われた005だったが、何がおかしいのか、急に不気味な笑い声をあげて胸を張った。

 

「これで勝ったつもりかジジィ! 俺たちの目的がNo.08だけだと思ったら大間違いだ!」

 

 エイトマンとデーモンを指差すように機体を激しく揺らし、哄笑する005。その言葉が示す最悪の事実に、エイトマンと沙希の表情が一瞬で凍りついた。

 

「比企谷、アイツもしかして……。由比ヶ浜のこと言ってるんじゃないの?」

「ああ。俺も同じことを考えていた……クソ、考えが足りなかった。まさか二箇所同時に襲撃するなんてな」

「その通りだ、バカどもめ! 今頃気づいてももう遅いわ! もう別動隊がエスパーだか魔女だかを確保しているはずよ! 残念だったなぁー!?」

 

 グハハハハと下品に笑い続ける005に対し、エイトマンと沙希は悔しさに歯噛みすることしかできなかった。狙いは最初から、エイトマンと由比ヶ浜結衣の二人だったのだ。超音速移動を持つサイボーグの別動隊が相手では、いくら警察が結衣を守っていようとも防ぎきれるわけがない。

 しかし、絶望が満ちるその空間に、デーモンの呆れたような、ひどく退屈そうな声が冷ややかに刺さった。

 

「貴様ご自慢の別動隊とやらは、とっくに私が手を打っておいたぞ。──今頃もう、綺麗に片付いてるだろうな」

「グハハハハ……ハ!?」

 

 自信に満ち溢れていた005の笑い声が、その瞬間にピタリと止まり、石のように固まった。

 

「待て、デーモン。今の話は本当か?」

「全て事実だ」

 

 思わぬ形でもたらされた救援の報に、エイトマンは驚きを隠せずに問いかけた。デーモンは何を今更当たり前のことを聞いているのだと言わんばかりに即答した。

 

「じゃ、じゃあ……由比ヶ浜は無事……なんだな?」

「この私を誰だと思っている?」

 

 物陰から顔を覗かせた沙希の、困惑と安堵が入り混じった質問に対しても、デーモンはニヤリと不敵な笑みを深く浮かべて言い放った。

 

「バッ、バッ……バカな!? そんな話が信じられるかぁー!?」

 

 驚愕と混乱のあまり電子頭脳の処理が追いつかない005が、機体に内蔵された通信機器を無理やり起動させ、別動隊へとコンタクトを試みて絶叫した。

 

「α-1、おい、俺だ! 005だ! そっちのエスパー確保は今どうなっている!? 状況を説明しろ、オーバー!」

 

ノイズの向こうから、別動隊の悲痛極まりない叫びが返ってくる。

 

『こちらα-1! ネ……ネコが!! ネコがぁーッ!!』

「……ああ? ネコだぁ!?」

 

 あまりにも戦場に似つかわしくないマヌケな単語に、005の頭上には目に見えるような疑問符が浮かんでいた。

 

『ファミレスのネコのような……いや、とにかく! バケモノのように強いロボットがぁああああああああ!?!?』

 

 同僚の通信は、背後で鳴り響く凄まじい金属の圧壊音と、絶望的な絶叫と共に途絶えかける。

 

「おいー!? 何がどうなってやがる!? わかるように説明しろ!!」

 

 完全なパニックに陥り、狂ったように通信へ怒鳴り散らす005。すると、その焦燥に満ちた通信回線の向こうから、あまりにもその場に不釣り合いな、気の抜けた可愛らしい電子音声がスピーカーを通じて墓地へと漏れ聞こえてきた。

 

『どいてにゃー♫』

『ぎゃあああああああ!?』

 

 凄まじい悲鳴と、サイボーグの超合金装甲が文字通り木っ端微塵に粉砕される重苦しい破壊音が響き、そして通信は完全に途絶した。

全く状況が掴めない005は、あまりの理不尽さにただただ石のように固まっていた。

 

「……デーモン、まさかおまえ、アレを……」

「アレは元々私が改造を施したものだ。基本的におまえと私の命令は最優先で実行されるようにプログラミングしてあるからな」

 

 エイトマンが引きつった声を漏らすと、デーモンはクックッと実に楽しそうに肩を揺らし、悪魔的な意地悪の笑顔を浮かべた。

 

 

 

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