——エイトマン・リボーン—— 比企谷8幡は鋼鉄の夢を見るか 作:りかるど
一挙投稿はここまでになります。
一方その頃──。
千葉市内のとある一画では、およそ現代の日本とは思えない、異様極まりない光景が繰り広げられていた。
「……ねぇ、羽佐間さん。あれ、私の知ってるファミレスのネコちゃんとだいぶ見た目が違う気がするんだけど……」
「お、俺に聞かないでくれ……。一体何がどうなっていやがるんだ……」
物陰から様子を窺う由比ヶ浜結衣と羽佐間刑事は、引き攣った顔で完全にドン引きしていた。
二人の視線の先では、かつて比企谷家の一員(?)として迎え入れられたはずの配膳ロボット、通称『ベラ』が狂暴なまでの戦闘機械(バトルドロイド)と化して暴れ回っていた。
「ゴミを掃除するにゃー ♫」
うぃいいんと極めて愛らしい駆動音を響かせながら、ベラの全身のハッチからは、およそファミリーレストランには存在しないありとあらゆる重火器や怪しげな兵器がこれでもかと展開されている。
「くっ、来るなぁああーーーーッ!?」
襲撃を仕掛けてきたはずのサイボーグ別動隊の男が、恐怖に顔を歪めて悲鳴を上げた。最新型サイボーグを相手に、ベラは縦横無尽どころか、完全に一方的な蹂躙劇を展開していた。
「行くにゃー!」
可愛らしい声と共に、ベラの各部から頑強な硬質ワイヤーが射出される。その先端に備えられたマジックハンドや金属製のクローには、悍ましいほどの威圧感と超振動を伴う輝きが宿っていた。
妖しく光るワイヤーの一本が、超音速移動で逃れようとしたサイボーグの一体を正確に捕らえる。
「はっっ離せ──ぇええええ!?」
「おかわりをお持ちしますにゃー!」
ベラは無慈悲なシステム音声を鳴らしながら、捕らえたサイボーグの巨体を慣性のままに宙で派手にブン回した。そして、そのまま対角線上から突入しようとしていた別のサイボーグめがけて、力任せに投げつける。
ドゴォオオンッッ!!!
「「ぎゃああああああ!!」」
正面衝突した二体は、ぷしゅーと無残な煙を噴き出しながらそのまま再起不能のスクラップとなった。
敵を二体まとめて片付けたベラは、その凄まじい勢いのまま、きゅぃいいいんっと足元の高出力ローラーを高速逆回転させ、実に見事なブレーキターンを決めて次の標的へとそのデジタルディスプレイの目を向けた。
「な、なんだこのふざけたロボットはー!?」
別動隊であるαチームは、完全に混乱の極みに落とし込まれていた。
エスパーである由比ヶ浜結衣を確実に回収せよという命令を受け、万全の態勢で現地に突入したはずだった。しかし、いざ着いてみれば、突如として上空から乱入してきたマヌケなネコ型配膳ロボット一体によって、精鋭部隊は唖然と立ち尽くすほかになかったのだ。
さらに最悪なことに、この間抜けな外見のネコロボットは──やたらに強い。強すぎる。
「チッ、蜂の巣にしろ!!」
サイボーグたちが放つ超音速の打撃や一斉銃撃は、ドクトル・デーモンが施した対防弾・対光学特殊複合装甲の前にはただ虚しく火花を散らすだけで、傷一つつけることができない。
それどころか、ベラは全身のハッチから高磁気マシンガン、光学ビーム、さらにはマイクロミサイルを嵐のようにブッ放して反撃してくるのだ。路上で展開されるそのあまりの重火力に、最新型とはいえ人間ベースのサイボーグの手におえる代物ではなかった。
「ゴミを片付けるにゃーん!」
キラッ☆
ベラはデジタルモニター上の目を無邪気に輝かせながら、正面部分の主砲発射口のロックオンを完了した。
「
ドガァアアアアッッ!!!
「ハグァアアッッ!?」
「な、なんだこれはーっ!?」
超高速で射出された数十本の硬質アンカーワイヤーが、サイボーグたちの強固な表面装甲を容易く貫通し、その内部構造へと深く突き刺さる。身動きを完全に封じられた、残る三体の敵に向けて、ベラの可愛らしい電子音声による死刑判決が無慈悲に響き渡った。
「つづいて、エレクトリック・バーストをごちそうするにゃーん☆」
バリバリバリバリ!!!
「あばばっばばっばばっばば!?!?」
「ひぎゃあああああああああ!?!?」
「助けてぇええええええええ!?!?」
ワイヤーを伝って数百万ボルトの超高圧電流が一気に流れ込む。電流はサイボーグたちの複雑な電子頭脳と駆動系を瞬時にスパークさせ、絶叫と共に彼らをあっという間に黒焦げのスクラップへと変貌させた。
白煙が周囲に立ち上る静寂の中、ベラの暢気なアナウンスだけが街に響いた。
「クズテツの電気炒め、お持ちしましたにゃーん!」
別動隊を完全に沈黙させたベラは、ゆっくりと由比ヶ浜結衣の方に向き直ると、デジタルモニターの目をパチリと瞬かせて完璧なウインクを決めた。
「……あ、ありがと……? や、いらないんだけどね……」
目の前で繰り広げられたあまりのワンサイドゲームに、結衣は完全に引き攣った笑みを浮かべ、恐る恐るベラに感謝の言葉を述べた。
羽佐間刑事に車で自宅へと送り届けられる途中、突如として不気味なサイボーグ部隊に襲撃され、一時は本当にもうダメかと思った。そこに突如、凄まじいロケット噴射の音と共に空から飛び込んできたのが、ファミレスの店内でよく見かけるあのネコ型ロボットだったのだ。
正直、展開がSFか特撮のジャンルばりにぶっ飛びすぎていて、結衣の脳の処理は全く追いついていなかった。それは隣で完全に腰が抜けたようになっている羽佐間刑事も同様だった。
呆然とする結衣の目の前に、「ゆい様ー」と可愛らしい声を上げながら、ベラが足元のローラーを滑らせてちょこちょこと近寄ってきた。
「はちまん様のおともだちのゆい様ですにゃ?」
「え……? あなた、もしかしてヒッキーの知り合い?」
結衣が目を丸くして問いかけると、ベラはモニターの表示をさらに柔らかく変化させた。
「そうですにゃ。ゆい様を守るようにと博士からご注文が入りましたにゃ ♫ だから最高速で到着しましたにゃーん」
デジタルモニター上のヒゲをうれしそうにぴこぴこと揺らすベラ。そのコミカルで愛らしい仕草を見て、結衣は先ほどまでの恐怖もどこかへ吹き飛び、不覚にも「……可愛いかも」と思ってしまうのだった。
──
「──と、言うわけで、たった今別動隊は全滅したぞ。一分も掛からなかったな?」
通信機を片手に不敵な笑みを浮かべるデーモン博士が、淡々と状況を伝え終えた。その声音には、自らの最高傑作の成果を当然と受け止める絶対的な自信が満ちていた。
「そんなバカなぁあ!? エリートサイボーグ部隊が一分も掛からずにぜ……全滅だとー!?」
両腕を失って漏電している005が、信じられないというように絶叫し、激しく狼狽する。そんな敵の醜態を余所に、エイトマンはガックリと肩を落としていた。
「……俺より早く倒してんな……」
「比企谷……アンタ、立場ないわね」
自分があれほど苦戦し、全パワーを解放してようやく一撃を叩き込んだというのに、留守番のベラが自分よりも遥かに早く部隊を完全制圧したという事実に、八幡は背中を煤けさせて落ち込んでいた。そんな彼を、物陰から歩み寄ってきた川崎沙希がジト目で見つめる。
「──で、どうするんだでくのぼう? 続きをやると言うなら私は構わんぞ」
「……俺も全然平気」
デーモンが冷徹な宣告と共にスパイ・ボールを浮遊させると、エイトマンもなんとかプライドを立て直して戦闘態勢を取った。
二人の圧倒的な強者に挟まれ、005はキョロキョロと視線を彷徨わせながら激しく動揺していた。両腕を失い、別動隊という切り札まで一瞬で潰されたのだ。これ以上の戦闘は自滅を意味する。
「……う……運が良かったな。きょ、今日のところは見逃してやる!」
まるで古典的な三流の悪党のような、テンプレ通りの捨て台詞を残すと、005は回れ右をして尻尾を巻いて猛スピードで逃走していった。
「逃げたわね、アイツ」
「ああ……」
敵が完全に視界から消え去ったのを確認し、エイトマンは青白い光を収束させ、比企谷八幡の姿へと戻りながらゲンナリとため息をついた。
結果的にさしたるダメージは喰らっていないが、精神的にドッと疲れが押し寄せてくる。今までの敵がスマートでインテリジェンスだった分、こんな間抜けで締まらない決着は初めてだった。
「おまえともあろう者が、あんなパワーだけの愚か者に手こずるとはな、エイトマンよ」
ツカツカと規則正しい音を響かせ、ドクトル・デーモンが八幡の目の前へと歩み寄ってきた。
デーモン博士は八幡に対し、情けないと言わんばかりの冷ややかな視線を向けた。
「大方、女と乳繰り合ってフヌケていたのだろう? 我が宿敵として情けない限りだ」
「乳繰り合うっておまえ……」
「……言い方が下品。っていうかオヤジ臭い」
デーモンの憤慨の言葉に、二人はそれぞれ違ったベクトルで反応した。沙希はセクハラまがいのデリカシーのないセリフに、額に青筋を浮かべて不快感を露わにしている。だが八幡にとっては、ここ最近の由比ヶ浜関連のアレコレに対処していた日々が脳裏をよぎり、当たらずとも遠からずといったところで、苦い顔をして黙るしかなかった。
デーモン博士はそんな八幡の様子に、僅かに苛立ちを孕んだ声で語りかける。
「フン……。貴様が『その気』になれば、あの程度のサイボーグなど容易く打ち倒せているはずだ。そんな簡単なこともわからないから、ベラにすら遅れを取るのだ」
「その気……? 何言ってるんだ」
「貴様が『破壊兵器』として己を受け入れたならば、という話だ」
「──破壊、兵器? 俺が?」
その不穏な響きに、八幡の思考が鋭く跳ねる。つい先ほど、谷博士の口から説明された『
「当然だろう? エイトマン……私はおまえの性能を誰よりも評価している。だからこそ、その性能の全てを破壊に振り切った時、おまえはこの世界で最高の破壊兵器になれると私は確信しているのだ」
「ちょ、ちょっとアンタ! 何勝手なこと言ってるの? コイツが、そんなものになるわけないじゃない!」
デーモンが提示した冷徹な可能性に対し、沙希が思わず一歩前に出て声を荒らげた。彼女にとってのエイトマン、比企谷八幡という男は、世界に無用の破壊をもたらすような怪物ではないと信じているからだ。
「フン……まあいい。どうせ乗り掛かった船だ。このままおまえに手を貸してやるのも一興だろう」
周囲の動揺などどこ吹く風で、傲然と言い放つ老人に、八幡は視線を鋭くした。
「待て、デーモン。おまえが再び日本に帰ってきた目的は何だ? また俺に挑戦するつもりか?」
八幡の問いに、デーモンは少しの間、沈黙を守り、それからゆっくりと不敵な口元を開いた。
「またおまえと戦えるなら、それはそれで存分に楽しみたいところだが……あいにく今回は仕事を優先していてな」
「仕事だと?」
八幡が眉をひそめると、デーモンはステッキの石突でカツンと静かに地面を叩いた。
「前に去る時言っただろう。『超人類』……そしてそれらが操る組織『Genesis』に関してだ」
超人類。以前、デーモンの口から語られた、ロシア政府が国家の威信をかけて全力で対処しなければならないほどの未知の存在。その不穏な単語が再び引き合いに出され、八幡の表情が引き締まる。
「由比ヶ浜結衣をエスパーに仕立て上げたのは奴等の仕業だ。この先、奴等はおまえやその周囲に、さらなる危害を及ぼすことになるだろう。……あんなアメリカの粗悪品どもに苦戦している場合ではないぞ、エイトマン!!」
デーモンは八幡を激しく叱責するや否や、右手で弄んでいたスパイ・ボールを無造作に投げ渡した。八幡は咄嗟に片手を伸ばし、空間を鋭く裂いて飛んできたその黒い球体を掌で受け止める。
「これは……」
「そいつをおまえにくれてやる。谷博士に見せるといい……。おまえが決断に迫られた時、それが必ず役に立つだろう」
デーモンはそう告げると、漆黒のマントを鮮やかに翻して歩き出した。
「おい、何処へ行くんだよ」
呼びかける八幡に、デーモンはちらりと冷徹な眼差しを戻し、今までになく真剣な声を響かせた。
「そろそろ行く時間だ。……おまえもあまり時間は残されていないぞ、エイトマンよ」
一瞬、老科学者の瞳に底知れない暗い影が宿る。
「我が国は超人類殲滅のためなら、あらゆる手段を選ばない姿勢だ。それを肝に命じておくがいい。さらばだ宿敵!!」
圧倒的な警告の余韻だけを残し、ドクトル・デーモンは墓地の向こうへと、煙のようにその姿を消し去っていった。
「比企谷……」
静まり返った墓地で、呆然と立ち尽くす八幡に沙希がそっと話しかけてきた。
「なんだか変な空気だったけど……。とりあえず終わった……って考えていいのか?」
「さぁな。……とりあえず、由比ヶ浜が心配だ。そっちの方に行こう。ベラが付いてるから大丈夫だとは思うけど」
「じゃあ連絡とってからにしなよ。電話でもラインでもいいからさ」
「おう」
沙希に促され、八幡はポケットからスマホを取り出して操作を始めた。しかし、その指先とは裏腹に、彼の頭の中ではデーモンが最後に言い残した言葉が重く、冷たく反芻され続けていた。
(俺が……決断に迫られた時……か)
その言葉が何を意味しているのか。胸を突くような不穏な予感を覚えながら、八幡は画面のタップを続けた。
今日はここまでです。原作エイトマンに出てくる殺人ロボット00五(5ではない)は作者も気に入ってます。あの人の言うことを聞かない脳筋なところとか
それではまた来週。