【完結済】全てを殺す魔法   作:らっきー(16代目)

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5話ぐらいで終わる予定です


死にたくない系魔族

 勇者ヒンメルの死から千年前──

 

 一人の魔族が産まれた。概ね他の魔族と変わったところは無く、人を襲いその肉を食べ、魔法に興味を持ち、人類と敵対する。何の変哲もない一匹の魔族。

 

 ただ一点、彼を他の魔族と分けたものがあった。それは『死にたくない』という生物なら誰もがもつ生存本能。それが少しばかり他の生き物より強くて、少しばかり熱心にそれと向き合っていた。

 

 なればこそ。大魔族と呼ばれていいほどに力を付けるまでに、然程の時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死から数百年前

 

 魔王と呼ばれる存在によって率いられた魔族達と人類の争い。『人類との共存のため』と魔王は宣っていたが、俺からすれば迷惑極まりない話だった。戦乱によって人類は強くなる。戦士は腕を磨き、武器を鍛え、魔法使いは魔力を高め様々な魔法を開発し、僧侶は必死で新たな女神の魔法を読み解く。獲物が強くなっていいことなど一つたりともありはしないのに。

 

「お前達もそう思うだろう?」

 

 目の前で倒れている戦士と魔法使いに語り掛けてみる。別に返事は期待していない。同意も反論も求めちゃいないから。もっと言えば、別に会話すら求めてはいない。

 

「だが、お前らの強さに敬意を表して、取引を提案させてくれ」

 

 ピクリと反応が返ってくる。取引という言葉にはそれだけの効果がある。人間と戦う中で学んだことの一つだ。

 

「取引?」

 

「ああ。そこの魔法使いを差し出してくれ。そうしたら戦士のお前は助けてやる」

 

「断る」

 

「何故だ? このままでは二人とも死ぬだけだろう?」

 

 少なくとも俺が逆の立場なら喜んで差し出す。少なくとも他の奴が食われてる間は俺が食われることはないのだから。実際他の魔族を人間にけしかけてその場を立ち去ったことも過去にはある。今ではそんな不確実なやり方をしようとは思わないが。

 

「愛する人を人食いの化け物に差し出す馬鹿がどこにいる」

 

「酷いことを言う。俺はただ人間の魔法に興味があるだけなのに」

 

 愛。人間が戦う理由としてよく使う言葉だ。『愛する故郷のため』『愛する人のため』……『愛する飯の味を守るため』なんて奴もいたな。

 

 ともあれこの言葉を言い出した人間がそうそう意思を変えることはないことは学んでいる。故にやり方を変えるべきだ。

 

「……ではそっちの魔法使い。俺にお前の魔法を教えてくれ。断るなら──」

 

 食材を切る魔法。元々は人間が料理をする為に産み出されたらしいが、魔族の俺にとっては人間だって『食材』だ。

 

「お前の……なんと呼ぶんだ? 夫? 妻? ……ともかく、この戦士を可能な限り惨たらしく殺す。どうだ? 少しはその気になってくれるといいんだが」

 

 人間は愛する者を傷つけられることが耐え難いらしい。どういう理屈なのかは分からないが自身が傷つけられること以上に。

 

「……どうしてそこまでして私の魔法を?」

 

 だから、愛を語る人間との交渉は別の人間を挟んだ方が成功しやすい。

 

「魔法を極めるためには数多くのサンプルが必要だろう?」

 

 尤も、同族から理解は得られなかったが。魔族というのはプライドが高く、自分の編み出した魔法こそが唯一絶対に素晴らしいと信じ切っている。他と比べなければ優れているかも分からないだろうに。

 

「……分かった。けど約束して。魔法を教える代わりに彼に手出しはしないって」

 

「──いいだろう。ただし、拘束はさせてもらうぞ。逃げて仲間を呼ばれては困る」

 

 触れたものの動きを止める魔法。戦闘の際には使う暇が無いし手足を斬った方が拘束も楽。そう思っていたがなるほどこういう時に使うことを想定して作られた魔法であったのかもしれない。傷つけてはいけないというのは実に面倒であることだし。

 

「それで、どうやって魔法を覚える気? 生憎私も魔法を教えた経験なんてないのだけど」

 

「魔法をコピーする魔法がある。相手が同意していないと使えないが」

 

 正確にはその魔法を使っている所を見て、相手が魔法をコピーすることに同意し、ようやく同じ結果を再現できるようになるという使い勝手の酷く悪い魔法。魔導書の形で魔法を受け渡す魔法でもあればいいのにな。

 

「……終わったな。試させてもらおうか」

 

 剣を作り出す魔法。空中に浮いた剣は、魔力によってある程度動きをコントロール出来る。射出して砲弾として使うのが一番マシだろうか。俺に剣術の心得の心得でもあれば別だったろうが……外れを引いた気分だ。とはいえ何かの役に立つかもしれないのだから蒐集しないという選択肢はない。

 

「満足した? それなら私……は食べても構わないけど、約束通り彼の拘束を解いて」

 

「手出しはしないと言っただけで、拘束を外すなどと約束した覚えはないんだがな。まあいい。ついでにもう一つ聞きたいこともあるんだ」

 

 戦士にかけた拘束する魔法を解除する。そのまま魔法で作り出した剣を手に取り、立ち上がろうとしていた戦士を背から貫いて地に留める。苦悶の叫びか断末魔の叫びかが聞こえてきたが、特に興味はない。

 

「約束という言葉を使うとどうして人間はそんなに油断するんだ? 何か特別な意味のある言葉なのか?」

 

 魔法契約なら分かる。例えば魔法を教える対価として命を救うというような魔法契約を結んでいたのなら、破った俺は死ぬことになるだろう。

 

 だが俺がこの魔法使いと交わしたのは言葉だけだ。だというのにコイツ……を含め、過去に約束しろと言ってきた相手はそれに諾と答えるだけで安堵していた。理屈が分からない。

 

「────ッ!! 『剣を作り出す魔法』! 『命中するまで止まらない魔法』!」

 

「ああ、すまない。お前の愛する者を殺してしまったことになるのか。それは話などできるわけもないな」

 

 それにしてもこうやって組み合わせて使うものだったのか。そちらもコピーさせてもらいたいのだが……こうも怒らせてしまっては無理だろう。

 

 1,2本であれば何の問題もない。だが数十の剣の群れとなれば話は変わってくる。掠めただけでも命中という扱いになるのはこちらを利する点だったが、結局増やされるのだから数本止まっても意味が無い。いつかは向こうの魔力が切れるだろうが……ああ、もう面倒だ。

 

「痛いのは嫌なんだがなぁ……」

 

 足を止めれば、至極当然の結果として数十の剣が全身を串刺しにする。ゴポリ、と血が逆流してくるのを見るに、内臓もズタボロになっているのだろう。

 

「ざまぁみ────」

 

「『傷を押し付ける魔法』」

 

 死ぬのが嫌だ。痛いのも嫌だ。絶対に死にたくない。そんな俺が死から免れるための魔法を研究するのは当然のことだった。

 

 魔族は一つの魔法を研鑽し、究極の一とするものらしい。ならば俺にとっての自分の魔法と呼ぶべきものはこれなのだろう。人間の魔法を幾つも掛け合わせた末に作り出せたこれを魔族の魔法と呼んでいいのかは分からないが。

 

「その顔は驚愕と呼ぶのだったな? 別に誇るわけではないが、その疑問の解消ぐらいはしてやろう」

 

 傷を癒す魔法、呪いを押し付ける魔法、相手と自分の場所を入れ替える魔法……その他諸々。様々な魔法の掛け合わせで作った俺の魔法は、自分が負ったダメージを任意の対象に移し替えることができる。

 

「要は呪い返しの物理版なんだが、まだまだ改良中でな。視認している範囲にしか押し付けられないし、使おうと思わなければ使えん。要は不意打ちに無力なんだが……」

 

 他人に語り聞かせるのは自分の思考の整理にもなる。他人が聞いて分からない部分は説明が上手くできていない、つまりは感覚で済ませてしまっている部分なのだから。しかし。

 

「ん……もう死んでいるのか。無駄なことをしてしまったな」

 

 死体は何も反応を返さない。独り言を長々と呟いても時間を無駄にしているだけだ。

 

 然程腹が減っているわけでもないが、打ち捨てるのもどうかと思い二つの死体を食べることとする。人間に見つかっても面倒であることだし、痕跡を食べ尽くしてしまうに越したことはない。それにしても。

 

「こうはなりたくないものだな」

 

 死にたくない。何故と聞かれても理由は答えられないが、とにかく俺は死にたくない。こうして人間と戦うのだって本心から嫌なのだ。

 

『人類との共存』

 

 魔王が望むそのためにこうして俺を含めた魔族は人間と争う羽目になっている。共存と争いは対極に位置するものであるはずなのに。

 

 やり方を間違えているのか。或いはそもそも不可能なのか。

 

 答えを出すには、俺は人間のことを知らなすぎる。

 

 百年ぐらいはそれに使ってみてもいいのかもしれない。どうせ人類の魔法も研究するつもりであったことだ。

 

 俺だって、死なない為なら死ぬほど準備するぐらいはするさ。

 

 

 

 

 

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