ミリ知ら転生超銀河悪役領主   作:新人X

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第11話:戦乙女(前編)

「進路クリア。惑星ローレライ、防衛システム圏内まであと五分。全艦、戦闘態勢へ移行せよ」

 

 エイギル・ゼークト騎士爵は、ニョルズ級戦艦ニーズヘッグの艦橋で、眼前に広がる漆黒の宇宙を冷然と見据えていた。

 彼が乗る旗艦の周囲には、ヴァン派の威信をかけた艦隊が陣形を為している。

 

 銀河の辺境、惑星ローレライ。

 この宙域に、帝国の行く末を大きく左右するワープゲート『ビフレスト』の新たな中継地点と成り得る場所がある。

 それを制圧し、ライン家を見せしめに叩き潰すのが彼に課せられた任務だった。

 

「敵影は未だ無し……か。攻撃通達を行った後にしては、随分と静かだな」

「戦力差は歴然。既に諦めていて、無抵抗で降伏すればまだ助かると考えているのかもしれません」

「ふむ……だが、大公閣下の望みは『見せしめ』だ。こちらから降伏勧告を出すことはない」

 

 副官の言葉に、エイギルは片眼鏡のブリッジを押し上げながら冷淡に言い放った。

 

「全艦、進路そのまま。惑星ローレライへの侵攻を開始する」

 

 エイギルがビッと手を前方スクリーンに映し出された青い惑星を指し示す。

 

 号令に合わせ、大艦隊は躊躇なく進軍していく。

 その重圧に耐えかねたかのように、惑星付近から一つの反応があった。

 

「レーダー、感あり! 熱源反応、急速浮上!」

「来たか。数は?」

「い、一隻です!」

 

 報告を聞き、艦橋のクルーたちの間に失笑が漏れる。

 スクリーンに映し出されたのは、ライン家が保有する唯一の戦力――トール級戦艦『ヤールングレイプル』だった。

 

「くくっ、自殺志願者かよ」

 

 その無謀を間も当たりにした、一人のクルーが嘲るように呟いた、その時だった。

 

「笑うな」

 

 氷のように冷徹な声が、艦橋の空気を凍りつかせた。

 エイギルの鋭い視線が部下たちを射抜く。

 

「彼我の戦力差は歴然。それを承知の上で、彼らは艦首をこちらに向けてきたのだ。その覚悟を笑うのは許さん」

「も、申し訳有りません……!」

 

 部下たちが慌てて居住まいを正す。

 エイギルは再びスクリーンへと向き直り、孤独な出撃を敢行する老朽艦を静かに見据えた。

 

「死中に活を求めるか、あるいは名門としての最後の矜持か……だが、その命運は覆らぬぞ」

 

 彼は一人の武人として、厳かに告げる。

 

「その覚悟には、こちらも全力をもって応えるのが礼儀。全艦、主砲照準合わせ。彼らに、最大級の敬意を以て報いてやれ」

「了解! 全艦、主砲充填!」

 

 ニョルズ級戦艦5隻の巨大な砲門が、一斉にヤールングレイプルへと向けられる。

 

 現在の宇宙艦隊戦に、『寡兵よく大軍を破る』などという言葉は存在しない。

 障害物もなく、三次元に大きく開かれた戦場において、必要なのは圧倒的な数と質。

 その掛け算こそが戦力であり、戦力の多寡のみが勝敗を決める。

 

 先行する駆逐隊が敵を発見し、後方に控える戦艦による遠距離からの飽和砲撃。

 どれだけ退屈なものであっても、それこそが戦場における必勝の戦術であった。

 

「発射。五秒前……四、三――」

 

 同級の戦艦5隻による最大火力が、ライン領唯一の戦力へと放たれようとした……その時だった。

 

「艦長! 先行する第一駆逐隊より緊急入電!」

 

 通信士が悲鳴のような声を上げた。

 

「なんだ? 機雷でも敷設されていたか?」

「い、いえ! 様子が変です! 今、そちらに通信を繋げます!」

 

 エイギルの手元のモニターに、ノイズ混じりの映像が映し出された。

 そこに映っていたのは、恐慌状態に陥って艦内を右往左往している駆逐艦の乗組員たちだった。

 

『な、なんだあれは!? 速すぎる!』

『レーダーに映らない! 目視だ! 目視で迎撃しろッ!』

『だ、ダメだ! 来るな! 来るな、うわぁああああ!!』

 

 悲鳴と絶叫が交錯し、映像が激しく乱れる。

 

「どうした!? 落ち着いて状況を報告しろ!」

 

 エイギルが一喝するが、その直後に駆逐艦隊との通信は途絶えてしまった。

 

「第一駆逐隊の信号、ロスト! ぜ、全滅です!」

「馬鹿な! 駆逐艦とはいえ、十隻の艦隊だぞ!?」

 

 副官が信じられないという顔で叫ぶ。

 

 敵戦艦ヤールングレイプルはまだ主砲も撃っていない。

 一体、何が起こっている。

 

「き、緊急入電! 今度は第一巡洋艦隊からです!」

「すぐに繋げ!」

 

 エイギルが言い切るよりも早く、モニターに巡洋艦隊の状況が表示される。

 そこにもやはり、地獄のような叫喚が響いていた。

 

『馬鹿な、こんな小型機が……?』

『対空戦闘用意! 弾幕を張れ! 近づけるな!』

『だ、ダメです! 当たりません!』

 

 次の瞬間、モニター内の艦橋が眩い閃光に包まれた。

 

 一瞬遅れて、ニーズヘッグの前方スクリーンにも信じられない光景が映し出された。

 轟音と共に、味方の巡洋艦が次々と爆散していく。

 

「な、何が起こっている……?」

 

 エイギルは生まれて初めて、戦場で理解不能な恐怖を感じていた。

 見えない何かが、艦隊の防衛線を食い破りながら近づいてきている。

 

「オプティクス、最大望遠! まずは何としても敵影を捕捉せよ!」

「りょ、了解! オプティクス、最大望遠! 動体を自動追尾させます!」

 

 復唱したオペレーターが震える指でコンソールを叩く。

 スクリーンが急速にズームされ、爆炎と残骸が漂う宇宙空間の一点が拡大される。

 そして、吹き上がる炎を切り裂き、その『蒼い流星』は姿を現した。

 

「なっ……!?」

 

 戦場では常に冷静であるべきを信条としているエイギルでさえも、それには動揺と驚愕を出さずにはいられなかった。

 

 全長は約14~15メートル。

 二本の腕と二本の足を持つ人型の戦闘兵器が、黒煙を切り裂いて星の海を疾走していた。

 

 流麗な曲線を描く装甲は、戦場の炎を鏡のように映して輝いている。

 背部のスラスターからは蒼い光の粒子が翼のように散らされ、手には長大なライフルと青白い光を帯びた刀剣を携えていた。

 

「人型……? 局地戦闘機でも、攻撃挺でもないというのか……?」

 

 エイギルは、己の中でこれまで組み上げられてきた戦術論が根底から崩れる音を聞いた。

 

 あんな非合理な形状の機体が艦隊の弾幕を切り抜け、数十隻の駆逐艦と巡洋艦を撃破するなどあり得ない。

 これまで人類が積み上げてきた知見を、全て嘲笑うかのように、それは宇宙空間を自在に駆けていた。

 

 目前の巡洋艦が、正体不明機のライフルでシールドの内側から貫かれる。

 爆発を背に、機体が優雅に翻る。

 

「し、識別コードなし……! 国内外のデータベースにあんな機体の情報は全くありません……!」

「な、なんなんだ……あいつは……」

 

 慄くクルーたちの中で、エイギルだけが呆然とその姿に見惚れていた。

 恐怖と同時に、湧き上がる奇妙な感動。

 その姿はまるで、神話に登場する『戦士の魂を冥府へと誘う戦乙女』のように美しかった。

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