ミリ知ら転生超銀河悪役領主   作:新人X

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第12話:戦乙女(後編)

「だ、第一巡洋艦隊全滅しました! 敵機、本隊へと向かってきます!」

「狼狽えるな! 敵は単機だ! 艦隊を対空防御の第三航行序列へ移行せよ!」

 

 混迷を極める艦橋で、エイギルの怒声が雷のように響いた。

 彼の冷静な指示が、恐怖に凍りつきかけていたクルーたちの思考を強制的に再起動させる。

 

 エイギル・ゼークトは優秀な軍人であった。

 士官学校を優秀な成績で卒業し、若くしていくつもの戦場に立ち、幾度も戦果を上げてきた。

 化け物じみた才覚こそはなく、決して不敗ではなかったが、着実に戦果を積み重ね、時には敗北からも多くの学びを得てきた。

 

「化け物じみた強さを見せたとて、所詮は一兵器だ! 艦隊の防衛線を強固に張れ!」

 

 エイギルは冷や汗を拭いもせずに、コンソールを素早く操作する。

 

(あの異常な機動力に反応速度……人間には不可能だ。ならば、中身は最新鋭の戦闘AIか?」

 

 彼は瞬時に仮説を立て、対策を講じる。

 

「FCS(火器管制システム)のロジックを更新。対象を『高機動無人機』として認識。偏差射撃の予測アルゴリズムの学習強度を最大化しろ」

「りょ、了解……!」

 

 彼の指示に従い、残る戦艦群が迎撃体制を整える。

 接近する青い流星に対し、数百もの砲身から対空砲火が放たれた。

 

 それは、計算し尽くされた死の雨。

 AIの予測すら塗りつぶす密度の弾幕だったが――

 

「あ、当たりません! 全て回避されました! 敵機、未だ健在です!」

 

 敵機は弾幕の僅かな隙間を、まるで針の穴を通すような精度ですり抜けていく。

 

 右へ、左へ、上へ、下へ――宇宙空間を舞うように。

 その動きはAIの合理的な判断を超越した、有機的で直感的な動作だった。

 

「な、なんなんだ……こいつは……」

「俺たちは夢でも見てるのか……?」

「あ、悪魔だ……悪魔が俺たちを殺しに来たんだ……! 逃げろ! 逃げないとやられるぞ!」

「席を立つなッ!」

 

 再びパニックに陥りかけた艦橋を、エイギルが一喝して鎮める。

 

「よく見ろ! 敵は神話に出てくるような神でも怪物でもない! 質量を持った、ただの機体だ! 存在する以上は、必ず落とせる!」

 

 彼は腕を振り上げ、自らを鼓舞するように叫ぶ。

 

「弾幕を薄めるな! 徹底的に飽和射撃を続けろ! 動きを誘導しろ! 逃げ場を塞いでいけば、いずれは回避不能な『詰み』の形に嵌まる!」

 

 指揮官の揺るぎない理性に、兵士たちが正気を取り戻す。

 

 そうだ。敵が実体を持っているなら、撃ち続ければいつかは当たる。

 あの大きさなら、一発の対空砲弾でさえ、致命弾になりうる。

 

 その希望に縋り、5隻の戦艦群は必死の砲火を吐き出し続けた。

 そして、エイギルの読み通り、その瞬間は訪れた。

 

 上下左右前後、全方位からの同時射撃。

 

 回避空間ゼロ。

 物理的に絶対に避けられない、必殺の包囲網が完成した。

 

「捉えたッ!」

 

 エイギルが勝利を確信し、拳を握った刹那。

 

氷獄結界(ニブルヘイム)

 

 どこからか、凛とした女の声が響いた気がした。

 

 直後、機体から青白い粒子が爆発的に放出され、球状の領域を形成した。

 領域に触れたミサイルは瞬時に凍結して機能を停止し、ビームは粒子に阻まれて霧散する。

 

「な……ッ!?」

 

 絶対防御。物理法則への干渉。

 科学技術の範疇を超えた超常現象を前に、エイギルの思考が白く染まる。

 だが、その恐怖の裏側で、彼の中にある古い記憶の扉が開いた。

 

 それは、まだ彼が戦場で功績を挙げて、騎士になる前の士官学校時代の記憶。

 座学、戦術、射撃。

 あらゆる科目でトップの成績だった彼が、唯一、手も足も出ずに完敗した戦い。

 剣を握ったその相手は、人間離れした反応速度と、空間を支配するような威圧感を放っていた。

 

 あの時、自分を見下ろしていた圧倒的な存在。

 選ばれた者にしか扱えぬ、宇宙の根源たる力との共鳴が可能な者。

 

(AIではない……これは……!)

 

 エイギルは戦慄と共に、敵の正体へと辿り着く。

 

「『U.S.E.R.』か……!」

 

 エイギル・ゼークトは優秀な軍人だった。

 この絶望的な状況においても尚、恐慌に陥ることなく、敵の正体へと辿り着いた。

 

「通信手! 回線を開け! ノアトゥーンのニョルン大公へ至急連絡だ!」

「は、はい!?」

「急げッ! 敵の正体は、U.S.E――」

 

 彼が叫びかけた、その時だった。

 蒼い光が、艦橋の視界を埋め尽くす。

 対空砲火を突破した敵機が、青白く輝く刀剣を振りかぶり、旗艦ニーズヘッグの目前に迫っていた。

 

(……申し訳ありません。大公閣下)

 

 エイギル・ゼークトは、優秀な軍人だった。

 士官学校を一年の飛び級で卒業し、駆逐艦の副艦長として初めて戦場に立った日には三隻の敵駆逐艦を撃沈する戦果を上げ、続く共和国軍とのブラックウッドの戦いでは第三功を挙げ、大公ニョルンより騎士に叙任された。

 その後も大公の懐刀の一人として常に冷静に、時に大胆に戦場を駆け、戦功を挙げ続けた。

 

 だが、彼には運がなかった。

 この宇宙で初めて実戦投入された、『U.S.E.R.専用人型機動兵器ヴァルキュリア』の最初の標的になってしまったのだから。

 

 もしも最初の相手が彼でなければ、あるいは彼がこの情報を持ち帰っていれば。

 この先の銀河の歴史は、大きく変わっていたかもしれない。

 

 閃光と共に、ヴァン派のローレライ侵攻艦隊旗艦ニーズヘッグは爆散し、宇宙の塵へと還っていった。

 

 ***

 

 ――同刻。

 惑星ヴァナ、海王宮『大会議室』。

 

「た、大公閣下!」

「なんだ? 騒々しい、会議中だぞ」

「も、申し訳有りません! ですが、急報です! エイギル卿のローレライ侵攻艦隊、全艦の信号消失を確認! ぜ、全滅した模様です!」

「な、なんだと!? 旗艦ニーズヘッグもか!?」

 

 急転した戦況に、ニョルン大公をはじめとするヴァン派の貴族たちは騒然としていた。

 

 ライン領の戦闘艦艇は戦艦が一隻と、後は精々が数隻の旧型巡洋艦と駆逐艦だけ。

 それに対して、エイギル卿に託した戦力は10倍以上の圧倒的な戦力差があったはずだ。

 それが、多少の損害が出たという報告ならともかく、全滅とは耳を疑う他になかった。

 

「一体、何が起きたのだ!? 本当に全滅したのか!? 通信は!?」

「現在、なんとか試みていますが……あっ! 繋がりました! 旗艦のメイン回線が回復しています!」

「なんだ……一時的に通信が途絶していただけだろう。全滅など、と早とちりを……」

「も、申し訳有りません……今、通信を繋ぎます……」

 

 オペレーターの報告に、貴族たちが一斉にホロモニターを見上げる。

 しかし、そこに映し出されたのは、旗艦ニーズヘッグの艦橋ではなかった。

 

『あー……テステス。聞こえてるか? ヴァン派の貴族諸君』

 

 ノイズ混じりの画面に現れたのは、一人の青年。

 円卓を囲む彼らには、その顔に若干だが見覚えがあった。

 

「だ、誰だ!? 貴様は!?」

「エイギル卿はどうした!?」

 

 狼狽する貴族たちを、青年は冷徹な瞳で見据え、静かに名乗る。

 

『私はクラウス・フォン・ライン。かつての名門、今は没落貴族と嘲笑われるライン家の当主だ』

 

 彼は手元のコンソールを操作し、画面の半分に別の映像を表示させる。

 それはたった今、記録されたばかりの戦闘――単機の人型兵器が、大艦隊を一方的に蹂躙する映像だった。

 

『卿らが送り込んできた手土産はありがたく受け取らせてもらったよ。この、「フリスト」の実地試験のテスト相手としてな』

「なっ……!?」

 

 言葉を失うニョルン大公に対し、クラウスは淡々と告げていく。

 

『今、映像で見てもらった機体は我が家が秘密裏に開発していた新型機動兵器ヴァルキュリアシリーズの一号機「フリスト」だ。そして、今この場を以て宣言させていただこう』

 

 彼は息を大きく吸い込み、高らかに宣言する。

 

『たった今、諸君らの知る戦争は終わった。この機体が終わらせたのだ。ヴァン派、そしてこの通信を傍受しているであろうアース派の諸君もよく聞け。君たちは互いに覇を競い合い、合わせて万を超える膨大な戦闘艦艇を保有しているそうだな』

 

 一拍置き、彼は吐き捨てるように言った。

 

『おめでとう。それらは全て、今この瞬間に旧世代の遺物……単なる鉄屑と化した』

 

 それは、宇宙の軍事バランスを根底から否定する暴論。

 

『我がライン家が保有するこの機体の前では、全てが等しく只のガラクタだ』

 

 ハッタリだ……という言葉が頭に浮かぶが、誰も口にはできなかった。

 新鋭の戦艦5隻を含む艦隊が一瞬で消滅したという事実が、その言葉に否定し得ない重みを与えていた。

 

『我々ライン家は、これより如何なる勢力の干渉も受け付けない。どちらの派閥にも属さず、何者にも従わない』

 

 それは弱小貴族による、二大勢力に対する完全なる独立宣言。

 いや、帝国の覇を競う三つ目の勢力の出現に他ならなかった。

 

『それでも尚、我々に手を出そうという愚物がいるのなら……この戦乙女が貴様らを冥府へと導くだろう』

 

 クラウスがニヤリと好戦的な笑みを浮かべた直後に、プツンと映像が途切れた。

 残された大会議室には、戦慄と沈黙だけが重く漂っていた。

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