ミリ知ら転生超銀河悪役領主   作:新人X

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第三章:主神が降り立つ時
第1話:新妻王女とハーレム許容型の激重補佐官


 ――ライン領主星ローレライ、領主執務室。

 広大な星系を支配する領主の居城として殺風景なその部屋で、俺はメインモニターに映る『妻』と向き合っていた。

 

『――というわけで、イグナティウムの採掘の件なんだけど……難航してるわ。ごめんなさい』

 

 モニターの向こうで申し訳なさそうに眉を下げているのは、イグニア王国の新女王セリア・イグニスだ。

 背景には復興作業が進む王都の景色が見えている。

 

『イグナティウムの正確な採掘場所と特殊な精製方法は、王家の一部の人間しか知らない秘伝だったの。王族や技術者の多くが処刑されちゃった今、その情報はほとんど失われてしまっていて……』

 

 セリアは悔しげに唇を噛む。

 

『今、私の子供の頃の記憶と、王宮のデータベースに残ってた僅かな断片データを繋ぎ合わせて復旧させてるけど、完全な採掘再開にはまだしばらく時間がかかりそう。私がもっとしっかりしてれば良かったんだけど……』

「謝らなくていい。むしろ、ホッとした」

 

 俺は落ち込む彼女を遮るように、努めて明るい声で言った。

 

「その秘匿性のおかげで、イグナティウム目当てに侵攻した帝国にも見つけられなかったわけだからな」

『クラウス……』

「レーヴァテインの弾頭素材については、今の備蓄でしばらくはやりくりできる。焦らず、確実に復旧させてくれ」

『うん……! 私、頑張る……!』

 

 セリアは安堵したように息を吐くと、気を取り直したように表情を引き締めた。

 

『その他の業務については順調よ。グスタフが陣頭指揮を執ってくれてるおかげで、私は象徴として各地を回って、民衆の不安を取り除くことに専念できてる』

 

 セリアは少し疲れた様子を見せつつも、その瞳には充実した光が宿っていた。

 王族としての誇りを取り戻し、国を背負う覚悟を決めた顔だ。

 

『それから貴方に頼まれてた未開惑星の調査についても進めてるわよ。ドローンによる簡易スキャンだけど、いくつか星源力の反応がある座標も見つかった』

「ああ、助かる。そちらのデータは直接、こっちのサーバーに転送しておいてくれ」

『了解!』

 

 業務連絡が一通り終わると、セリアは少しだけ頬を染め、モニター越しに上目遣いを向けてきた。

 

『あのね……クラウス』

「ん? どうした? 他になにかあるのか?」

『えっと……しばらく会えてないし、その……夫婦らしいことも全然できてないから、ちょっと寂しい……かなって』

 

 もじもじと言い淀む姿は、先ほどまでの凛とした女王とは別人のようだ。

 

『あと一週間くらいでこっちの公務も一段落するから。そうしたら……一旦、そっちに戻るから……その時は、ね?』

「……ああ、待ってる」

『うん! それじゃあ、またね。マイ・ロード』

 

 愛おしげな声色と共に通信が切断され、モニターが暗転する。

 俺は執務椅子に深く沈み込み、天井を仰いで大きくため息を吐いた。

 

「『マイ・ロード』って……どうしてこうなった……」

 

 本来の俺の計画では、イグニアの解放は全てヴァルキュリアを正義の象徴とするプロモーション。

 統治には直接関与せず、恩義にかこつけておいしいところだけを頂く算段だったはず。

 

 それがどうだ。

 蓋を開けてみれば英雄として祭り上げられたのは、ヴァルキュリアよりも俺自身。

 そして、あろうことか公の場で女王からの婚約発表。

 表立っては英雄を気取っている以上、断れるはずもなくイグニアの王という面倒極まりない肩書きまで背負わされてしまった。

 

「全く、その通りです」

 

 傍らに控えていた首席補佐官のヒルデが、涼しい顔でお茶を淹れながら同意する。

 

「だよなぁ、ヒルデちゃん……! 分かってくれるか、この苦悩を!」

「はい。銀河の覇王と成られるクラウス様をお呼びになる際の、呼称は『ユア・マジェスティ』であるべきでしょう」

「……そっちかよ」

 

 俺はガクッと肩を落とす。

 こっちも相変わらずブレないなぁ……。

 

「ところで、ヒルデちゃんはなんとも思ってくれないわけ?」

「なんとも、とは?」

 

 カップを差し出す彼女の手元を見ながら、俺は探りを入れるように尋ねた。

 

「ほら、全ては銀河を牛耳るためとはいえ……俺とセリアが夫婦になっちゃたわけじゃん? それについて、こう……嫉妬とかさ」

 

 彼女は俺(というかライン家の血)に対して、異常なまでの執着を見せるヤンデレだ。

 レティシアという前例もあるし、他の女が近づけば、刺し殺されるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのだが――

 

「嫉妬、ですか。愚問ですね」

 

 ヒルデは表情一つ変えず、淡々と言い放った。

 

「我が生命の至上命題は、クラウス様という至高の存在に仕え、ライン家の血脈を繁栄させることにあります。その点において、セリア・イグニスは合格です」

「合格?」

「はい。私個人の好感はさておき、由緒あるイグニア王家の血筋であり、現在は女王の座にあります。側室として迎え入れ、ライン家の血と交わらせて、優秀な因子を残す母体としては申し分ありません」

 

 側室扱いかよ。

 一応、向こうは一国の女王なんだが。

 

「加えて、他ではライラ・ブラウン博士も候補の一人として捉えています。高貴な血筋ではありませんが、ヴァルキュリア計画の大半を一人で支える頭脳は銀河でも随一のもの。その才能を遺伝子レベルで取り込むことは、ライン家の未来にとって有益かと」

「それ、本人の前で言っちゃダメだぞ。今の時代はセクハラになるから」

「失敬。ですが、ライン家の血を繋ぐ優秀な遺伝子候補の選定も私の義務なので」

「お、おぅ……」

 

 そのハーレム許容タイプの血統至上主義系ヤンデレっぷりに若干引いてしまうが、独占欲で斬り殺される心配はなさそうで少し安心した。

 

「まあ、小国を次々と取り込んで、その王女を妻に娶っていく……というのは、覇道シナリオにおける外交戦略の一つではあるか」

 

 俺は思考を切り替える。

 これ以上嫁が増えるのは胃が痛いが、リソースが増えるのは歓迎だ。

 シナリオ攻略という点に関してだけ考えれば、一つの方針として取り入れるべきだと思うが、憂慮すべき点もある。

 

「ところで、これは仮定の話なんだけど……もしも俺が銀河を支配する前にその内の誰かと、セッ……じゃなくて、『自然交接』しちゃったら……どうなる?」

 

 ヒルデ曰く、それは銀河の覇者のみに許された神聖なる儀式。

 だが後から調べたところによると、そんな古風なしきたりをわざわざ守っているのは、銀河広しといえど、このお硬い首席補佐官くらいだった。

 正直、セリアはゲームのヒロインだけあってかなりの美少女だし、夫婦だからと本気で迫られたら拒絶できる気がしない。

 それに、この方法を取っていくなら肉欲的な誘惑は更に増えていく予感がする。

 

 今のうちに妥協してもらって、せめて被せ物をすればセーフくらいの言質はとっておきたいと、恐る恐る尋ねるが――

 

「……そのような恐ろしいことを私の口から言わせないでください」

 

 ヒルデは少し逡巡した後に、一切冗談を含んでいない口調で言った。

 その腰に携えた細身の刀剣が、いつでも俺を斬れるのだと妖しく光る。

 俺は理性を以て欲望を律することこそが、人間が人間である所以だと固く決意した。

 

 そうしてまたしばらく執務していると、ヒルデの懐にある端末が短く震えた。

 彼女はそれを確認すると、スッと背筋を伸ばす。

 

「クラウス様。『例の物』が到着したようです」

「おっ、来たか」

 

 俺たちは執務室を出て、屋敷の敷地内にあるドローンポートへと向かった。

 

 ***

 

 ポートには、小型の無人輸送機が着陸していた。

 ハッチが開き、中から厳重にロックされたコンテナが自動搬送されてくる。

 

「んじゃ、まずはヒルデちゃんが試してみて」

「はい」

 

 ヒルデが歩み寄り、コンテナの中心に左手首をかざす。

 そこには、U.S.E.R.の証である銀色のリングが浮かび上がっている。

 

 ピピッ、と電子音が鳴る。

 次の瞬間、コンテナの隙間から淡い光の粒子が溢れ出し、ヒルデの身体へと吸い込まれていった。

 

 ヒルデは目を閉じ、その光を全身で受け止める。

 数秒後、光が収まると、彼女は静かに目を開けた。

 

「どうだ?」

「……はい。問題なく、正常に動作しているようです。U.S.E.R.能力の取得限度に変化がありました」

 

 その報告に、俺は拳を握りしめる。

 簡単に言えば、レベルが上がって、スキルポイントを獲得できたということだ。

 

「よし、成功だな。『全自動レベルアップシステム』の稼働確認、完了だ」

 

 これこそが、俺が内政の一環として構築したシステムだ。

 

 この世界がRPGを原作にし、スキルツリーが存在するということは、『レベル』という概念が当然存在する。

 だが、ヴァルキュリアを使った宇宙戦争では、それを上げるための経験値を取得できないという大きな問題に気づいた。

 その後、調べたところによると、U.S.E.R.の能力を向上させるには、星源力を持った原生生物――いわゆるモンスターを狩らなければならないというのが分かった。

 しかし、俺は内政をやらないといけないし、MP最大値増加とMP供給スキル以外は何も取っていないクソザコナメクジだ。

 危険なモンスター討伐になんていって万が一があるわけにもいかないし、ヴァルキュリアのパイロットの二人を遠征で留守にさせるわけにもいかない。

 

 そこで俺はまず、調査ドローンを使って、領地内でモンスターの存在する未開の惑星を探し出し、大量の戦闘用ドローンを送り込んだ。

 ドローンたちは現地で星源力を持つ生物を狩り、アストラルコンバーターの技術を応用したカプセルで経験値を回収する。

 そして、そのカプセルを定期便でローレライまで輸送し、こうしてU.S.E.R.が直接吸収するのだ。

 いわば、『自動狩り放置ゲー』のリアル版だ。

 

「さらに、現地のドローン工場も稼働を開始したはずだ。集めた資源で新たなドローンを生産し、その星のモンスターを狩り尽くしたら、次の惑星へと自動で拡張していく」

 

 これはもはやストラテジーというより、工場ゲーの手法に近い。

 ドローンで狩れる程度のモンスターは、ゲーム的に言えば初期の街の外にいるスライム程度のものだろう。

 しかし、塵も積もれば山となる。

 俺自身が戦場に出向かなくとも、寝ている間に少しずつだが無限に強くなれる仕組みがこれで完成した。

 

「さて……これで個人の強化の手はずは整ったが……」

 

 俺はヒルデに向き直る。

 

「肝心の、新たなU.S.E.R.捜索の進捗はどうだ? 経験値タンクがあっても、それを使う器がなきゃ意味がない」

「……申し訳ありません。現状、芳しくありません」

 

 ヒルデは悔しげに眉を寄せた。

 

「新たに加わったイグニアも含め、領内の全住民データを再スキャンしましたが、適合者はゼロ。やはり、U.S.E.R.の発生確率は極めて稀なようです」

「そうか……セリアがすぐに見つかったのは、本当に奇跡だったな……」

 

 主人公を探すのは止めたが、引き続きその他のU.S.E.R.は探す必要がある。

 セリアが加入し、戦力は倍になったと言えるが、帝国本体を相手取るにはまだまだ足りない。

 やはり、捜索範囲を間接統治領や中立自治区にまで広げる必要があるか……と考えた時だった。

 

「領主く~ん! ヒルデっち~!」

 

 遠くから俺たちを呼ぶ声が聞こえた。

 

「やっと見つけた~! こんなところにいたじゃ~ん!」

 

 バタバタという足音と共に、白衣姿のライラが息を切らせて走ってきた。

 

「はぁ……はぁ……も~……執務室にメッセ送っても反応ないからめっちゃ探したんだけどぉ~……」

「どうした? また実験室を爆発させたのか?」

「これ見て! これ! マジでヤバイんだけど!」

 

 要領を得ない言葉を紡ぎながら、ライラが俺たちに向かってタブレット端末を突き出す。

 

「ん~……?」

 

 顔を近づけて、どこかの試験宙域らしき映像が表示された画面を見る。

 そこに、見覚えのある――だが、どこか洗練されていない歪な兵器が映し出されていた。

 

『ィィィっやっほーう!! チョロいもんだぜ!!』

 

 知らない男の声と共に全身を駆動させ、迫りくるダミードローンを次々と撃墜していく。

 ブースターの推進力に頼るだけでなく、人間のように全身の挙動でバランスを取り、手足を振るう鋼鉄の巨人。

 それは紛れもなく、俺たちが独占しているはずの『人型機動兵器』そのものだった。

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