ミリ知ら転生超銀河悪役領主   作:新人X

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第3話:やっちゃった

「……は?」

 

 俺とティーンの声が見事にハモった。

 あまりにも予想外すぎる方角からの異議申し立てに、思考が一瞬停止する。

 

「いや、ライラ。ちょっと待て。意味が分からん。確かに、こいつを乗せるとなると本来の趣旨から外れるのは分かるけど性別は別に関係――」

 

 俺はこめかみを揉みほぐしながら、目の前の天才を宥めようとするが――

 

「あるの! ありまくりまくるの!」

 

 机が両手でバンと強く叩かれて発言が妨げられる。

 

「これを見なよ!!」

 

 絶叫というに近い声で言って、宙空にホログラムが表示される。

 フリストとヘルヤの、外装データの3DCGだ。

 

「このくびれ! この脚線美! そして胸部装甲の絶妙なライン! これらは全て、女性的な優美さを表現するために計算され尽くしたデザインなの! なのに、男の人を乗せるなんて言語道断でしょ!」

 

 声を荒らげて力説するライラ。

 だが、女性しか乗れないというのならともかく、乗せないというのは完全に個人の趣味嗜好の話だ。

 そこには何の合理性もないし、必然性もない。

 

「とにかく! ヴァルキュリアには女の子しか乗っちゃダメなの!」

 

 再び、バンッと執務机が両手で強く叩かれる。

 

「いや、ライラ……気持ちは理解できたけど、俺らには戦力が――」

「だったらアタシ、もう作んないから」

「は?」

「こだわりを捨てるくらいなら作らないし、チームも全員引き上げるから」

 

 目を真っ直ぐに見据えて、おちゃらけ無しの真剣な口調で言われる。

 

 め、めんどくせぇ……。

 こだわりが強めなのは分かっていたが、ここまでとは……。

 俺が強行しようとすれば、本当にチームを引き上げる気だ。

 

 しかし、基本フレームだけの量産機ならともかく、ヴァルキュリアはU.S.E.R.個々の特性に合わせた機構を必要とする。

 ライラをはじめとした優秀なスペシャリストたちのチームをなくして、現状のライン領の技術班だけでそれをゼロから作るのは無理だ。

 

「……ヒルデちゃん、こいつ女にできたりしない?」 

 

 考えた末に、この謎のパイロットよりも流石にライラを優先すべきとの結論に至った。

 技術チートを持つ開発者と、腕はいいが代替の利く傭兵。

 天秤にかければ答えは明白だ。

 

「技術的には可能です」

「うぉいッ!! やばいこと言ってんじゃねーぞ!!」

 

 ヒルデの無機質な肯定に、芋虫状態のティーンが悲鳴を上げて飛び退いた。

 

「ライラ、それならヴァルキュリアに乗せても?」

「ん~……それで身も心も女の子になってくれるならいいけど……」

「誰がなるか! まだ使い足りてねーのに、切り落とされてたまるか!」

 

 ん~……流石にダメそうだな。

 

 そもそも闘争心が機体に乗る原動力になっている男だ。

 イチモツを切り落としたら、それがまるまる失われてしまうかもしれない。

 

「……はぁ。分かった、一旦ストップだ」

 

 俺は手を挙げて場を制する。

 

「ヒルデちゃん、こいつは一旦しまっといて」

「承知いたしました」

「待て待て待て! しまうってなんだよ! 俺は物かよ!?」

 

 抗議するティーンの首根っこを、ヒルデが無言でむんずと掴む。

 

「あ、ちょ、離せ! くそっ、このアマ……! 力強ぇ……!」

「静かに。処遇が決まるまで、地下ろ……ゲストルームにご案内します」

「地下牢って言ったよな!? 今確かに地下牢って……うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ドナドナされるティーンの叫び声が、廊下の奥へと消えていく。

 後に残されたのは静寂と、まだ少し不満げに頬を膨らませているライラだけだった。

 

 ***

 

 その日の夜。

 溜まっていた書類の山を片付けて、自室に戻った俺は早めの床に就こうとしていた。

 昼間の騒動で気疲れしたせいか、今日は泥のように眠りたい気分だったのだ。

 

 ベッドシーツを捲り、片足を滑り込ませようとしたところで――

 

 ――コンコン。

 

 と、控えめなノックの音が静寂を破った。

 

「誰だ?」

「あー……アタシ、だけど……」

 

 扉の向こうから聞こえたのは、いつもとは少し違うもじもじとしたライラの声だった。

 

 俺は怪訝に思いながらも扉を開ける。

 そこには部屋着のダボッとしたパーカー姿で、少しバツが悪そうに立っている彼女の姿があった。

 パーカーのサイズが合っていないのか、袖から指先が少しだけ覗く、萌え袖状態で、下はショートパンツなのか殆ど見えない。

 手には古めかしい記録媒体のケースを数枚抱えている。

 

「どうした? こんな時間に。ラボで何かトラブルか?」

「あのさ……領主くん。まだ時間あるなら、ちょっと付き合ってくんない?」

「付き合うって、何にだ?」

「アニメ鑑賞」

「は?」

 

 俺が素っ頓狂な声を上げると、ライラは抱えていたケースを俺に見せるように掲げた。

 

「昼間の件、ちょっと考えたんだけどさ……。ヴァルキュリアに男を乗せるのは生理的にマジ無理だけど、別のコンセプトのロボットなら……まあ、妥協できなくもないかなって」

「なるほど」

「で、その参考にこれ見ようと思って。どうせなら領主くんと一緒に見たいなー的な? ……ダメ?」

 

 上目遣いで尋ねてくるライラ。

 お前が観たいだけだろと思いながらも、普段の態度とのギャップに毒気が抜かれてしまう。

 

「まあ、今日は仕事も早めに終わって時間はあるし。息抜きが要るって言うなら付き合うが」

「やった! じゃ、お邪魔しまーす!」

 

 許可を出した途端、ライラはパァっと表情を明るくして、俺の部屋に雪崩れ込んできた。

 俺の部屋の大型ホロスクリーンではなく、彼女が持参した旧式の平面モニターが設置され、古い再生機が繋がれる。

 ソファに二人並んで座り、彼女が再生ボタンを押すと、レトロなファンファーレと共にタイトルが表示された。

 

『機甲聖者ゴッドカイザー』

 

「なんだこりゃ。スーパーロボット系か?」

 

 映し出されたのは、合理性を追求したヴァルキュリアとは真逆のデザインのケレン味全開な巨大ロボットだった。 

 

「そう! 『聖者ロボシリーズ』の一作目! 見てよ、この無骨なデザイン! ヴァルキュリアみたいなスマートなのもいいけど、こういうリアリティなんて二の次、三の次なケレン味全振りの合体ロボもいいよね! 男の子って、こういうの好きでしょ?」

「偏見が凄いな……まあ、嫌いじゃないが」

 

 画面の中で、角ばったロボットが物理法則を無視して合体し、必殺技名を叫びながら敵を粉砕していく。

 

「ここ! 今のロケットパンチの射出シークエンス見た!? あえてスプリング駆動のSE入れてるのがちょーエモいの! それにこのパイロットの熱血シャウト! これがロボットアニメの原点にして頂点……マジ神……ブツブツ……」

 

 隣でスナック菓子を齧りながら、オタク特有の早口解説を繰り広げるライラ。

 画面が進むにつれて、興奮した彼女の身体が少しずつ俺の方へと寄ってくる。

 最初は肩が触れる程度だったのが、いつの間にか彼女の柔らかい二の腕が、俺の腕に押し付けられるようになっていた。

 

 一方で俺も最初は呆れて聞いていたが、何も考えずに見られる単純明快なストーリーと、妙に熱い展開に次第に引き込まれていく。

 

 そうして気がつくと、1クール分を一気見してしまっていた。

 

「……ふぅ。意外と面白かったな」

「でしょでしょ! じゃあ次は『ゴッドカイザー対暗黒将軍』の劇場版を……」

「いや、まだ観るのかよ」

「そりゃもちのろんでしょ! シリーズ全部通しで見て、最後は集合映画も観ないと! ここからが沼なんだから!」

 

 溜息を吐きながらも、これでこいつの気が紛れるならいいかとソファに座り直す。

 思えば、雇ってからほとんど毎日、いつ寝てるのかも分からないくらい働いているところしか見ていない。

 

 もちろん好きでやっているんだろうが、多少はストレスも溜まっているだろう。

 そのガス抜きに付き合ってやるのも、雇い主の仕事か……。

 

「……あのさ、領主くん」

 

 再生機にディスクを入れて、読み込みを待っている間にライラが少し躊躇いがちに声をかけてきた。

 

「ん?」

「さっきは……昼間は、なんか嫌なこと言って、ゴメンね的な……?」

 

 彼女は読み込み画面を見つめたまま、ぽつりと呟いた。

 

「嫌なことって?」

「ほら、ヴァルキュリアに男の人を乗せたくないとか……だったら作んないとか、チーム引き上げるとか……カーっとしちゃったノリですごいワガママ言っちゃったし」

「あー……」

「アタシ、昔っから変にこだわりが強くてさ……それで、大学も追い出されちゃったし……流石に領主くんも怒ってないかなーって思って……」

 

 その声は、いつになく殊勝だった。

 天才ゆえの破天荒さで周囲を振り回すのが常のライラが、こんな風にしょげているのは珍しい。

 どうやら、昼間の件で俺を怒らせて、追い出されてしまうんじゃないかと危惧していたようだ。

 

「気にするな。お前のこだわりがあってこそのヴァルキュリアだ。それに、俺もお前に頼りっぱなしなんだから、多少のワガママくらいお互い様だろ」

 

 俺が苦笑して言うと、ライラはパッと顔を上げて、花が咲いたような笑顔を見せた。

 

 確かに、ヴァルキュリアに女性しか乗せないというのは合理性の欠片もない無駄な判断だ。

 だが、ライラ・ブラウンという人間の頭脳がその無駄さを含めてのものなら俺は受け入れざるを得ない。

 ヴァルキュリア計画を一人で成り立たせている程に優れた頭脳は、一人のU.S.E.R.と同等以上に価値があるのだから。

 

「……うん!」

 

 その答えに機嫌をよくしたライラがするりと身体を滑らせ、俺の腕に密着してくる。

 パーカー越しに伝わる体温と、工業的なオイルの匂いに紛れ込んだ、甘いバニラのような女の香り。

 さっきよりも密着度は高く、意外と肉感のある確かな柔らかさが俺の腕を包み込む。

 

「アタシね! 領主くんと出会ってから毎日、超楽しいんだよね!」

「楽しい?」

「うん! 予算とか倫理規定とか気にせず、領主くんはアタシのやりたいこと、全部『いいぞ』って許してくれるじゃん? それで好きなものを好きなだけ作れて……遂には、ヴァルキュリアなんて最高傑作まで作れちゃったし」

 

 彼女は俺の肩に頭を預け、猫のようにすり寄ってくる。

 

「前の研究室じゃ、変人扱いされて煙たがられてたけど……ここは居心地イイなーって」

「そりゃお前よりもよっぽどヤバいのが何人かいるからな」

「えへへ、何それ~ウケるんだけど」

 

 ライラの身体が、さらに深く俺に預けられる。

 柔らかい感触と、耳元にかかる上気したような吐息。

 ダボついたパーカーの襟元が大きく開き、そこから覗く白い鎖骨とインナーのストラップが、妙に艶めかしく目に映る。

 

「おい。離れないと、もう始まってるぞ」

「え~……もう何百回も観たから別に画面とか観なくても脳内再生余裕だし~」

「じゃあ、何でわざわざ観に来たんだよ」

「……わかんない?」

 

 ライラは潤んだ瞳で俺を見上げ、悪戯っぽく微笑んだ。

 

「そんなの、領主くんと一緒に観たかったからに決まってんじゃ~ん……とか言ってみたり」

「お前、酔ってるのか?」

 

 その酔っているとしか思えないようなふにゃりとした雰囲気と、頬の赤さに、何らかのフラグ建築の予感が頭を過ぎる。

 

「んーん、酔ってないし。ただのジュースだもん」

「じゃあなんだ、その……変な感じは……」

「ん~、なんていうかさ……領主くんって、アタシのこと……どう思ってるのかな~って?」

 

 ライラは潤んだ瞳で見上げてくる。

 

「ど、どうって……」

「そこは……はっきり言わなくても分かるくない……?」

 

 彼女は身体を起こすと、俺の膝の上に跨るようにして座り直した。

 

「ど、どうだろう……」

「ん~……分かってよぉ……」

 

 彼女の指先が、俺の胸元を這う。

 脳内にいる誰かと誰かが、俺に剣と銃を突きつけて警鐘を鳴らしている。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

 翌朝。

 

 チュンチュンと、小鳥がご機嫌に鳴いている。

 窓から気持ちの良い陽光が差し込んで、温かく辺りを包んでいる。

 絵に描いたような爽やかな朝だ。

 

 そこに置かれた俺の身体も色んな心地よさに包まれているが、心境の方は爽やかとは程遠い。

 床に乱雑に散らばった二人分の衣服に、ソファからベッドにと至るところに残った生々しい痕跡。

 視線を横に向ければ、そこには白いシーツを身体に巻き付けて、俺の腕を枕にして幸せそうに眠るライラの姿。

 

「ん……むにゃ……領主くん……すきぃ……」

 

 ……流れで普通にヤッちゃった。

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