ミリ知ら転生超銀河悪役領主   作:新人X

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第13話:エインヘリヤル

 コロニーの外壁に取り付いていた、一隻の巨大艦艇が動き出す。

 

 嚮導艦オーディン――ライン領が保持していたトール級戦艦『ヤールングレイプル』を改修した大型艦艇。

 その外装及び主兵装、基本スペックに元となった艦艇とほとんど差異はない。

 

 だが、その内部に秘められた力は旧式戦艦とは全く異なる。

 

 最大の特徴は、艦の中枢に据えられた大型の星源変換炉(アストラルコンバーター)

 本来ならU.S.E.R.個人が持つ星源力を増幅・伝達するその機構を、艦船規模にまで拡大したシステム。

 これによりクラウス・フォン・ラインが持つ、連星同調(バイナリー・レゾナンス)による星源力供給の範囲が拡大。

 二機のヴァルキュリアの戦域及び稼働時間を大きく拡張可能となった。

 

 すなわちオーディンは、戦艦ではない。

 ヴァルキュリアの母艦——より正確に言えば、ヴァルキュリアを核とした複合兵器系を構成するための中枢であった。

 

 そして、艦艇を更に特筆すべきものとする機構がもう一つ。

 それは今、まさにフリストと並んで、第二格納庫から出撃しようとしていた。

 

「準備はいいか、ティーン」

 

 クラウスがブリッジから通信を入れる。

 

『いつでも。っていうか、もうちょっと早く出してくれりゃよかったのに。待ちくたびれたぜ』

「急かすな。手順がある」

『はいはい、ごもっとも』

 

 通信越しに肩を竦めるような気配。

 ティーン・ベインの声はどこまでも軽い。

 今から帝国の機動艦隊に突っ込もうというのに、まるで気負いがない。

 それが虚勢でも強がりでもなく、純粋に本人の性質によるものだということを、クラウスは共に過ごした訓練期間で理解していた。

 

『んじゃ、お嬢さん方……遅れんなよ?』

『愚問』

『偉そうに、ここじゃ私たちの方が先輩なんだけど?』

 

 二人の返事を聞いて、ティーンは苦笑する。

 第二格納庫の発射口が開き、一機の戦闘機が宙域へと滑り出ていく。

 

 ティーン・ベインという人間の何が異常なのかを、クラウスたちは幾度のテストを経て掴んでいた。

 

 彼の能力は、U.S.E.R.のように星源力を操るでもなければ超感覚でない。

 彼を逸脱のパイロットたらしめしているのは、その単位時間あたりの情報処理&操作入力速度。

 まるで一画面で複数の軍勢を動かす熟練のRTSプレイヤーのように――普通の人間が一つの操縦桿に集中している間に、彼は十の情報を処理し、十の判断を下し、十の行動を実行する。

 彼が非合理な人型機動兵器を操縦できていたのは、その人類の外れ値たる能力があってのことだった。

 

 ライラはその能力を鑑みて、彼のために一つの専用機を設計した。

 

 嚮導機エインヘリヤル。

 

 それはオーディンとの連携を前提とした新型の戦闘機。

 通常の戦闘機と比べて大きな外形を持つそれの中身は動力機構ではなく、大量の『子機』。

 すなわち、エインヘリヤルは一機にして、軍勢であるティーンの能力を最大限に活かした機体だ。

 加えて、それは連星同調(バイナリー・レゾナンス)の生体アンテナとしての役割を果たし、ヴァルキュリアの戦線を更に前方へと広げる。

 まさに、戦乙女を導く、命知らずの先駆けの戦士である。

 

 ***

 

 帝国第十三機動艦隊の旗艦艦橋で、ヴォルフ准将は眼前の状況を冷静に観察していた。

 

 当初の計画通り、テロリストたちはコロニーの制圧に手こずっていた。

 だが、それでいい。これは最初から「手こずらせる」ための作戦だ。

 

 中立自治区アルフヘイムのプライムコロニー。

 帝国が直接手を出せば、銀河の世論は帝国を悪役と断じる。

 だが第三者が起こした混乱を帝国が収拾するならば話は別だ。

 

 治安を回復し、住民を守り、秩序を取り戻した英雄として中立区に足掛かりを作る。

 やがて、増長するヴァン派の首を静かに締め上げる布石に——それが、机上で描かれた絵だった。

 

「准将、コロニーの外壁から艦影が離脱しつつあります」

 

 オペレーターの報告に、ヴォルフは画面を一瞥する。

 コロニーの外壁から離れていくのは、旧式戦艦一隻とその周囲を纏わりつく機影の群れ。

 

「ヤールングレイプル……ライン家の旗艦か? 何故、こんなところに?」

「分かりません。ですが、付近にいくつかの機影があります。あれは……」

「ヴァルキュリア、か」

 

 ヴォルフは鼻を鳴らした。

 ライン家が開発した人型機動兵器『ヴァルキュリア』。

 ライン家を侵攻したヴァン派の艦隊の全滅に、帝国の植民星系であったイグニア王国の解放。

 その裏には、どちらもあの機体の存在があると言われていた。

 

「どうされますか? ここは一度、作戦本部の指示を仰ぐために待機でしょうか?」

「構わん。作戦遂行の邪魔をするのであれば、排除するのみだ」

 

 だが、ヴォルフにはその全てを信じてはいなかった。

 人型機動兵器などは存在そのものが不合理な機体であり、そのようなものがあれだけの戦果を挙げられるはずがない。

 すなわち、その戦果の大部分は弱小勢力が自ら大きく見せるためのプロパガンダ……ハッタリに違いがない。

 故に彼はその思いがけない敵の出現にも臆さず、艦隊を前進させる決断をした。

 

 宇宙最強の戦力とは最新鋭の戦艦であり、その行く手を阻む者は蹴散らすのみである。

 彼の指揮する艦艇は、この一分後にフリストによって撃沈されたが、彼の思考は全てが間違っていたわけではない。

 事実として、ヴァルキュリアにはいくつかの欠点が存在し、その対外的評価の半分はクラウスのハッタリによるものだった。

 

 オーディンが、登場するまでは。

 

 帝国第十三機動艦隊の旗艦が、傾く。

 フリストが放った星源術の一撃が旗艦の推進機関を直撃し、艦は制御を失って緩やかに横転し始めた。

 

 戦況モニターでは、ヴォルフ准将の艦隊を示す光点が次々と点滅し、消えていく。

 エインヘリヤルの子機群が推進機関を狙い撃ちにし、ヴァルキュリア二機が降り立つ場所を作る。

 旗艦を失い、指揮系統を崩壊させられた艦隊は、もはや組織的な抵抗を失っていた。

 

『なんだ? こんなもんか?』

 

 オーディンの艦橋に、通信越しのティーン・ベインの声が届いた。

 感嘆でも賞賛でもなく、純粋な拍子抜けだ。

 

『もっと骨のある連中だと思ってたのに。なあ、クラウス。次は——』

「いや、まだまだ来るぞ」

 

 クラウスは戦況図を見つめたまま、静かに言った。

 

「どうやら思った以上に大掛かりな作戦だったみたいだ。この自作自演のアルフヘイム制圧は」

 

 モニターの隅に、新たな光点が次々と浮かび上がってくる。

 一つ、二つ、三つ——いや、それ以上。

 短距離ワープ特有の光跡を引きながら、帝国の増援艦隊が続々とこの宙域に躍り出ていた。

 

『へぇ……んじゃ、ちったぁ楽しめそうか』

 

 ティーンが軽口と共にエインヘリヤルのスラスターを噴かせて、出現したばかりの敵艦隊へと突貫する。

 

「……ったく、扱うのが機体よりも難しい。ヒルデちゃん、セリア。あの馬鹿に続いて、敵艦隊を叩いちゃって。多分、もっと来るから」

『『了解』』

 

 二人の声が重なり、エインヘリヤルを追うように二機のヴァルキュリアがスラスターを吹かす。

 三機は不意の攻撃に混乱する敵艦隊の合間を縦横無尽に駆け抜け、それを確実に一つずつ壊滅させていく。

 しかし、敵もそれに負けじと、次々と新たな戦力を逐次投入し続ける。

 

 戦闘時間は三十分を超え、一時間に達しようとしている。

 これまでのヴァルキュリアであれば、既にパイロットが星源力の限界を迎えていた頃合い。

 帝国勢力は意図せずして、戦力の逐次投入というヴァルキュリアが抱える構造的欠陥を突いていたはずだった。

 

 だが、オーディンという星源力供給の中枢システムを得たことにより、それはもはや弱点たりえなくなっていた。

 自動レベルアップ機構により、さらなる巨大な人間ジェネレーターと化したクラウスから随時前線へとエネルギーが供給され続ける究極の兵站。

 

 増援の第二波、第三波が到来しても三機の動きは、衰えない。

 戦闘時間が二時間を超えてもまだ、二機のヴァルキュリアは宇宙空間を舞い続けた。

 

(……これなら)

 

 クラウスは戦況図を見つめ続けながら、静かに息を吐いた。

 

「これなら勝てる」

 

 誰に言うでもない呟きが、艦橋に落ちた。

 モニター上で弾き続けられる帝国の艦隊を見つめながら、彼は覇道シナリオの勝利条件が着実に整っていくのを感じていた。

 これは、単なるこの場における戦術的な勝利ではない。

 

 完全無欠の宇宙最強の戦力が、今ここに成った。

 後はこれは確実に増強し、着実に版図を広げていけば銀河統一も夢物語ではなくなる。

 そう確信しつつあった彼の後ろ――艦橋の片隅で、小さな声がした。

 

「残念……」

 

 クラウスにも、他に誰にも聞こえない程の小さな声。

 しかし、その声は確かに内に秘めたる巨大な野心を滲ませていた。

 

「私の勝ち」

 

 カノン・シュピーゲルが大きなギターケースを抱えながら、静かに嗤った。

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