抜け殻のようになってしまった君へ   作:息抜きのもなか

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どうして予告なく新作を書いてしまうのか。
この雰囲気で書きたくなったから、書き始めました。勢いって怖いね。


一人、彼女は気高く

 レッドウィンター連邦学園 3年生

 部活 227号特別クラス

 

 安静(あんじょう) ミソギ

 

 年齢  17歳

 誕生日 4月2日

 身長  164cm

 趣味  読書

 

【基本情報】

 卒業までの半恒久的な謹慎が決定している、レッドウィンター連邦学園所属、227号特別クラスの生徒。

 

 革命が日常茶飯事のレッドウィンターの中で、227号特別クラスに放り込まれたその処分を受け入れてただ卒業を待っている様子が確認されている。以前の彼女を知る人からは「人が変わったようだ」と言われるほど苛烈な人物だったようで、クーデターによりその身を追われてからはその激しさは鳴りを潜めているようだ。彼女が行動を起こせばレッドウィンターがひっくり返ると言われており、学内だけでなく学外からもマークされているらしい。

 


 

 最初に先生がその生徒を見かけたのは、227号温泉郷が爆破された後、復旧した旧校舎に立ち寄ったときのことだった。

 その日はノドカとシグレが他の227号特別クラスの生徒を連れてたまたま外に出ていたようで、人気のない旧校舎はシンと静まり返っていた。その静寂さと言えば、外で鳴いている鳥の声と、誰かがつけっぱなしにしているPCの稼働音が聞こえてくるほどだ。

 せめてスリープにしておこうか、あるいはノートPCならば画面を閉じておこうか、そんなことを考えてどの部屋から音が聞こえているのか探りながら、先生は校舎内を進んでいく。

 ここも違う。ここも。ここでもない。

 生徒のプライベートの空間を物色するのは教師という立場的にどうなのだろうと自問しつつも、これは善意の行動だからと自答して自身を騙しつつ、一部屋ずつ確認を行っていく。それは善意を盾にした自身の欲望を満たすための加害行為なのかどうか、はっきりと否と言えないが故であることを理解しつつ、好奇心に押し切られてその足が止まることはない。

 とん、とん、ぎい、と復旧させたにしては古さを感じさせる旧校舎の階段の鳴き声に微妙な表情をしつつも、一つ上の階に辿り着いた先生は探し物を再開する。

 数歩廊下を歩いて、部屋の中を覗き見る。何もないことを確認して、また廊下を歩き、戸締りという概念を放念した部屋を覗き込む。その繰り返し。

 その繰り返しの中で、目的の音と自身が床を踏みしめる音以外のものが混ざって耳に届いたことに気が付いた先生は、驚いてその足を止め、声を溢した。

 

「"……あれ?"」

 

 それは、紙と紙の擦れる音だった。小説の(ページ)を捲るような、無機質のはずなのに温かさを感じるような人の動きを示す音。

 それは無人だと思っていた空間に人がいることを示していた。無論風で本がめくれている可能性も考えられないわけではないが、隙間風の音すら聞こえるこの旧校舎において、その音を出せるのは人以外では厳しいであろうことを先生も理解していた。

 もう一度、件の音が聞こえた。

 この音の近さである。数歩先の部屋か、あるいはその一つ奥の部屋か。見逃した、なんてことは考えづらく、既に通り過ぎた部屋ではないだろうと先生は思考する。

 そしてその解答は、廊下が数度音を鳴らした後に示された。

 

「…………」

 

 その部屋の窓際に、彼女は居た。

 椅子に腰かけ、太ももに両の手と本を置いてそこに目を落としている。垂れているはずなのに刺々しさを感じさせる目はその黒い瞳が細かく動いており、先の音の主が彼女であることを示していた。

 背もたれの無い椅子に深く腰掛け、少しだけ背を丸めて読書に耽る彼女の姿はどこか気品を感じさせるものがあり、そのルーズサイドテールにまとめた黒い髪も相まって、絵画のように感じる目の前の場景に反して彼女がこの場所にいることに違和感を禁じ得ない。

 そうして先生が黙って彼女を見つめていると、いつからこちらに気が付いていたのか、彼女は先生の方に目を向けることなく声を投げてきた。

 

「何か用か? 悪いが他のやつらは、どうやら外に出て行ったようでな」

 

 その声と連動していたのは、重たそうな半開きの眼だった。中性的で低く重たい声。

 その容姿を排すれば男のそれと聞き紛うことすらあり得るだろうほどに低く響くその音に目を瞬きつつも、先生はまずもって思っていた質問を投げかける。

 

「"君は行かなかったの?"」

 

 その質問を受けて、彼女はようやく先生の方に視線を向けた。

 向けたのは瞳だけ。顔も姿勢も重心も変えず、ただその瞳だけが先生の方を向いて、すぐに手元で開かれた本に戻される。

 寒さを感じているのか一つ()、と息を吐き出しながら頁をめくり、さも当然のことのように彼女は質問の答えを提供した。

 

「ここから出るなと言われているからな。あいつらが守っていないのか、あるいは行動制限が掛けられているのがあたしだけなのかはわからないが」

 

 それは彼女が他の227号特別クラスの人間とあまり交流を持っていないと暗に言っているようなものだった。彼女から漂うどこか違う浮世離れした空気は天性の物なのか、あるいは人との交流がなくなったことで生まれたものなのか、彼女のことを深く知らない先生には分からない。

 しかしこの場に立つ大人とてキヴォトスに来てから何も考えずに生徒たちと関わってきた訳ではない。彼女がその空気を放つその答えの一つに、先生は既に辿り着きかけていた。

 目の前の少女には、『熱』がないのだ。

 それは革命と抗争を常とし、雪の中で暮らす彼女たちにとって、日々を生きるための燃料とすら言えるもの。日々の不条理に抗い、現状の打破を熱量とするレッドウィンターであればこそ、その温度差は顕著に感じられてしまう。

 同じ227号特別クラスの間宵(まよい)シグレにも同じようなきらいはある。だが、この過酷な環境下ですら自身を曲げず、自らの意思でこの場所に来ることを選んだようにも思える彼女の熱量を思えば、目の前の少女のそれは彼女とも一線を画すほどに、致命的なまでの落差があった。

 どちらも現状に対する受容の認識はあれど、その方向性は真逆のようにすら感じられる。

 

「"抗おうとは思わないの? 他の皆みたいに"」

 

 その質問に彼女は何の反応も示さず、淡々と言葉を返した。

 

「思わない。あたしは敗者だ。敗者は勝者の決めたことに従うだけだ」

 

 まるで何度もそう答えてきたかのような、その質問は聞き飽きたかのような、そんな声音が耳に残った。

 それが彼我の心の距離を示しているようで、明確な拒絶を突きつけられたような気がして、先生は部屋に足を踏み入れることすらできなかった。

 旧校舎には階段が軋む音と、水筒を開ける音が鳴り響き、本を捲る音以外は残らなかった。




タグは基本保険です。勘違い要素も薄いし、曇らせもそこまでです。
プロットもないに等しいので、更新間隔に期待はしないように。
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