「
徐々に黒い粒子となって消えていく蛸人間を見ながら呟く。上裸の爺さんとか片腕無かったし強いのかと思ったが、単なる見かけ倒しだったらしい。
そうだ爺さんの片腕!
ワンチャン1人死ぬかもしれない現状を思い出し、慌てて上裸の爺さんに駆け寄る。この人もこの人で返り血まみれだな。........いや、これ本人の血か?尚更死にかけだな!?
「爺さん爺さん!腕!どれくらい前にそうなりました!?」
「あ、ああ.......なに、ほんの数分前だ。大したことはない(なんなんだこいつ、あの呪霊を一撃で祓いやがった。その上雑魚と言ったか?それにこの呪力量、もしや特級術師か?だが、こんな小僧の話など聞いた覚えはない..........何者だ?)」
「!良かった、
そう言いながら千切られた腕に触れ、
「な!?」
「はあ!?」
「これは一体........」
「嘘だろ........!」
「
「..................」
返答はない。だが混乱してる訳でもなさそうだし、たぶん大丈夫だろう。
「大丈夫そうっすね。それじゃあ次」
その後は金髪の男性と同い年っぽい眼鏡ちゃん、そしてついでに彼女が持っていたへし折れた元薙刀を上裸の爺さんと
「それじゃあ、俺はもう行きますね。地下鉄に逃げればどうにかなると思ってましたけど、そうでもなさそうなので他の場所を探します」
「おい、待てよ」
さっさとこんな危険地帯からおさらばしようと踵を返したその時、眼鏡ちゃんから呼び止められる。その鋭い語気からは、何故だか敵意と警戒心のようなものを感じる。参ったなぁ、眼鏡ちゃんも金髪さんも武装してたから悪霊共をぶっ殺できるすごい人たちだと思って助けたんだけど、予想は半分違ってたかも。
いつ攻撃されても対応できるように集中しながら、できるだけ自然に振り返る。
「.........えっと、何かな?」
「惚けんじゃねぇ。お前、さっきの蛸を一撃で祓いやがったな。何をした」
「何をって言われても.........見たまんまだけど?」
「ふざけんじゃねぇ!あれは特級呪霊の中でも上澄みだ。それを一撃で祓うなんて、並みの術師にできることじゃねぇ。返答次第ではこのまま逃がす訳には行かない―――何者だ」
なんか眼鏡ちゃんにすんごい睨まれてる件。てか爺さんと金髪さんもバリバリに警戒してんすけど?こいつら俺が怪我やらスタミナやら戻してやったこともう忘れたのか?唯一少年くんだけ俺には無警戒っぽいけど、ぜぇぜぇ言ってるし疲れてるだけ説。とにかく勘弁してくれ。俺はさっさと避難したいだけだっての。
「言っとくけど、そっちが思ってるような奴じゃないよ。たぶん勘違いしてると思うんだけど、俺はただハロウィンに渋谷歩いてただけの一般人だから」
「それを信じられると?」
「少なくともそっちが『敵意はないから話してくれ』って言うよりは信用できると思うけど?」
「チッ!」
えぇ.........なんか舌打ちされたんすけど。そんなゴリゴリに敵意向けられたら、こっちだって理由も必要もメリットも無い戦闘に備えることになるから嫌なんだけど。確かに逆の立場なら同じ選択をする可能性があるとは言え、それでもやられた側からしたらとても良い気分にはならない。
すると今度は、青いシャツを着た金髪さんが口を開く。
「では質問を変えます。君は呪霊という言葉に聞き覚えは?」
どうやら先ほどのやり取りを思い出したのか、そんな質問をしてくる。
「いいえ全く。てか、あいつらにそんな名称があるなんて思ってませんでした。俺は勝手に悪霊って呼んでましたので」
「では呪術界のことは知らないと?」
「は?呪術?..........悪いっすけど、俺はそのタイプの中二病になったことはありませんよ」
え、なに。実はこの人達って空想と現実の区別がつかない残念な脳みそしてる?マジかぁ.........金髪さんは理性的でまともそうな印象あったけどそう来るかぁ...........こんなひでぇトラップ聞いたことねぇよ。ある意味地獄だろ。
「...............真希さん、もういいでしょう。どうやら彼は、本当に何も知らないようです」
真希と呼ばれた眼鏡ちゃんが、金髪さんにそう言われて渋々薙刀を降ろす。しかし、依然として警戒心たっぷりのガン飛ばしスタイルはそのままである。うん、そろそろ不快。一回くらいキレてもいいよね?
「小僧、先ほどの呪霊を殺したあの技、一体何をしたのか教えろ」
「え、その質問掘り返すんすか?そんなの見たまんま..............っ!」
あっぶね、0.1秒遅かったら死んでたな。備えておいて良かった。つかなんだこの威力は?人間じゃなくても出せるもんじゃねぇだろ。
「急になんだコラ。いきなり随分なご挨拶だな」
「(生きてるだとっ!?あれを食らって!?私でも無事じゃ済まないってのに.......!)」
「(術式.........か?さっきの陀艮という呪霊を倒した方法とどんな繋がりがある?)」
歩きながら、ぶっ飛ばした方を見る。舞った粉塵が晴れたその先には、
上手いこと受け身を取ったのかノーダメらしい。あんな威力の拳を放てる以上想定していたが、
「――――甚爾か........!」
爺さんが男の名前らしきものを呟いたが、ぶっちゃけ誰かなんてどうでもいい。取り敢えずまともな人間じゃないことだけは確かだし、この人たちには荷が重いだろう。なんか俺を狙ってるっぽいし、仕方ないから相手してやるか。
そう思って声を掛けようとしたその時。
「「「「..............っ!」」」」
「いや最悪でしょ.........」
曲がり角から単眼で火山頭の悪霊―――否、呪霊が姿を現した。
その呪霊は、未だ黒い粒子を撒き散らす蛸人間の亡骸の一部を持つと、まるで仲間の死を悼むかのように呟く。
「逝ったか、陀艮........後は任せろ」
弔うように蛸人間の亡骸を握りしめると、再び口を開く。
「人間などに依らずとも、我々の魂は廻る。100年後の荒野でまた会おう.............さて」
火山頭がこちらを向く。甚爾と呼ばれたバケモノ人間は壁から抜け出すと俺と火山頭を交互に見やり、やがて俺に向き直るとニヤリと大きく口元を歪めた。
は?2対1かよふざけんな。
未来からの警告。いつの間にか近くにいた
「今度は時速350キロでぶっ飛ばしてやったぞ。これで怯みもしなかったら面倒だから終わってくれ」
流石にF1レースの速度でノーダメはダルい。ちょっと動きが鈍るとかのレベルでいいから、ダメージの一つくらい通ってほしい。
果たして、再び舞った粉塵から姿を現したのは―――やはり無傷のバケモノ人間。この程度じゃ効かないとばかりに歩くその男は、未だ口元を歪めたままだ。
まぁ........うん、なんとなくそんな気はしてた。さっきから見せるあのトンデモびっくり挙動、普通あんな速度で動けば身体に掛かる負荷は尋常じゃない。それに耐えてる時点で、肉体強度がイカれてるかリミッターが壊れてるかのどっちかだ。そして無傷である以上、リミッターが壊れてるというより肉体強度がイカれてる方だと予想できる。これくらい耐えてもおかしくない。まったく、これだから人外は嫌になる。
未来からの警告。目の前でいつの間にか眼鏡ちゃんから奪ったらしい薙刀を振りかぶる
ちょっと試してみるか。
亜音速の一撃を受けた
やっべ、流石に殺しちゃったかも。でもなんか普通に生きてそうな気がする。殴った感触も硬すぎて気持ち悪かったし、マジでどうなってんだコイツ。
「距離操作」、瑞原獠太が生まれつき有する術式であり、あらゆる距離を操作することができる。瑞原が「レンジ・レーダー」と呼ぶ機能が備わっており、これにより常に自身を中心とした半径10mの全方位に存在するあらゆる距離を計測している。直毘人らを「巻き戻した」のは、時間距離を操作することによって可能となる「時間逆行」によるものであり、たった今伏黒甚爾を殴り飛ばしたのはその逆の効果、「時間加速」によるもの。
そしてもう一つの条件は―――
「
この二つの条件を達成しなければ、まともに術式を発動することはできない。
またまた中途半端ですが、これ以上お待たせする訳にもいかないので一旦投稿します。それから付け忘れてた不定期投稿のタグを追加しておきました。
そして設定面での変更内容ですが、前話投稿後に設定を確認していたら流石に無法過ぎると思ったので、相応の条件を設けることにしました。それに伴い、瑞原の設定も少し変更することになりました。具体的な変更内容はネタバレになるので伏せますが、予め報告しておきます。
次話投稿までまたしばらくの間空くとは思いますが、気長に待っていただければと思います。