【彼についてどう思いますか?】
ミレニアムサイエンススクール 早瀬ユウカの場合
「あの人についてですか? そうですね...仕事に関してはとても優秀で尊敬に値する方だと思いますね。引継ぎについても分かりやすく纏めてくれますし事務処理のスピードもかなり速いです。ただ、私生活...というか趣味については正直尊敬どころか軽蔑すら覚えてしまう時がありますね。先生もご存知でしょうがあの人タバコ吸いすぎですよ! この間もデスクに箱買いしたタバコを置いてましたし! っていうか箱ですよ箱! カートンなら百歩譲って納得しますが箱買いなんて聞いたことないですよ! しかもその箱も一月も経たないペースで買ってきますし! あれじゃ間違いなく早死にしますよ! ま、まぁこっちに気を遣って基本的に吸った後は必ず消臭していますし最近は電子タバコに替えているので、だいぶマシになりましたけど.それでもやめて欲しい気持ちは強いです。人柄についてですか? そうですね.凄い明るい人の印象が強いですね。私たちとお話するときも砕けた感じなのでそう言った印象が強いと感じますね。とても矯正局に投獄されるような方には見えません。ただ、偶に凄く悲しい顔で笑うんです。まるで何かを懐かしむような感じで」
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学園都市キヴォトス、数千の学園と生徒たちが統治する巨大都市。
つい先日、とある人物に呼ばれ俺はこの連邦捜査部シャーレに呼ばれている。
なんだよシャーレって、理科の授業で使ったあの皿かよ。あれペトリ皿だっけ? いやでもシャーレってBDで言ってた気がする。いややっぱペトリ皿か? まぁ、どっちでもいいか
「突っ立っていないでさっさと入ったらどうですか」
「そうは言うがね尾刃ちゃん。俺だって入りたいのは山々なんだけどね、やっぱこういう所に入るときって緊張しちゃうじゃん? それとも尾刀ちゃんはこういうのは全然なんちゃ「先生、失礼します」わぁ、ごめんごめん! なんで、そんな躊躇なく開けちゃうのかなぁ!?」
最近思うこと多くなったけど、この子俺に対して対応がすごい雑になってきてない? もう1年の付き合いになるとは言え年上への礼節って大事だと思うのん。塀にぶち込まれてる時点で人としてカス? それはそう。
‘’いらっしゃい、カンナ。連れてきてくれてありがとう‘’
そういうと、こちらに近づいて朗らかな笑顔を見せる爽やか系イケメン。なるほどコイツが「先生」か。如何にも人畜無害ですよって顔してるけど、絶対に敵に回したくないタイプだな。多分、相手すると死ぬほど怠いタイプ。コイツ自体は強い感じしないから多分、後方支援系か?
‘’そんなに警戒しなくても君に危害を加える気はないよ。てか、こんなキス出来る距離で人にガンを飛ばすものじゃないよ‘’
「おい! 何やってるんだお前!!」
そう言って手錠に着いた縄を尾刀ちゃんが思いっきり引っ張ることで先生と離れる。
「誰が野郎とキスなんかするかよ。てめぇとするぐらいなら便器とした方がまだましだね」
‘’随分と手厳しいことを言うね。私としても君とキスはごめんだけどね。それに便器とキスしなくても後で鏡を送って上げるからさ‘’
「ちょっ、先生!?」
「教師がそう言うのはどうなんだよ。ルッキズムの権化か? その貧相な体の何処ででも呼吸できるようにしてやろうか」
‘’女の子に文字通り手綱を握られて何ができるっていうのさ。強い言葉を使う前にまず自分の状況を考えなよ。私の力を使えば君を如何様にもできるんだよ? ‘’
「...助けてオガえもーん!」
「口喧嘩で勝てないからって私に泣きつかないでください。あと、私は狸じゃなくて異名にもあるように犬です。なんで後先考えずに突っ込んだんですか」
そもそも狸じゃなくて、ネコ型ロボットなんだけどね。
それにファーストインパクトとアイスブレイクって大事じゃん。
場の空気もゆるくなってきたところで本題に入っていこうじゃないの。ロクでもない理由で俺と尾刀ちゃんの時間をつぶそうとしたならマジでおでこで煙草吸えるようにしてやる。
そこから先生から俺を呼びつけた理由の説明を聞いた。
あまりに長いんで要約すると
①現状キヴォトス唯一の男子兼、卒業生(卒業じゃなくて除籍だけど)を見てみたかった
②シャーレの業務量が現在の当番制では回らなくなってきたため常駐の事務員を置きたい
③②の人員として生徒は使えないが、現在進行形で矯正局でプー太郎してる奴がいるから社会復帰兼奉仕作業として動員したい
まったく誰がプー太郎だ失礼な。別に矯正局に居たくているわけじゃない。抜けられるなら何時でも抜けるとも。え? 狐坂ちゃんが開けた穴? 出ようとしたらちょうどカンナちゃんがかつ丼持って来てくれて飯食ってたから断ったなり。
‘’で、どうかな? 入ってくれればちゃんとお給料もだすし、部屋もシャーレに設けるよ。自由行動についても制限をかける気は無いんだけど‘’
「そうなぁ。めっちゃ破格の契約内容すぎて怪しさ満点・雨空レストランなんだけど.尾刀ちゃんがここまで信用してる人間ならそこまで警戒しなくてもいいか。OK、その契約受けてやる」
‘’ホント! じゃあこれからよろしくね! 芦江カナン君! ‘’
「カナンでいいぜシャーレの先生。明日から早速業務をさせて貰うから後で俺の部屋の場所モモトークに送ってくれ」
そう言って荷物を取りにカンナちゃんと矯正局に戻った。
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矯正局に戻ってきて荷物を纏めた後、局の子たち一人一人に挨拶回りをした。あ、バイオレンスな方じゃないよ? オレ、オンナノコ、キズツケナイ。
そうして最後に尾刀ちゃんを残して全員に挨拶したあと、モモトークから尾刀ちゃんから屋上に居る旨の連絡をもらい彼女の元に向かう。
尾刀ちゃんは夕日を背にしてコーヒーを飲んで待っていた。その隣に腰をかけて胸ポケットから煙草とジッポーを取り出す。
「...未成年ですよね?」
「見なかったことにしてくれると嬉しいなぁ」
そう言って彼は白いタバコを口に付けてライターに火をつけた。
いつもと変わらない明るい表情で居る彼を見るとこの1年少しの関係に終止符が打たれることに哀愁を感じているのはどうやら私だけのようだ。それはそうだ、あくまでも看守と囚人の関係だったわけで。彼からすればようやくの解放なのだから、喜びしかないに決まっている。ましてや看守もしていた私となんて1秒でも早く離れたいに違いない。
「にしてもようやく出所かぁ。短いようで意外と長かったなぁ。もう知っている人間の方が少ないって考えると中々悲しいね。いや、黒歴史知っている人間が少ない分むしろありがたいか?」
「相変わらずですね。それとシャーレへの奉仕活動込みなんで仮出所のようなものですので、行動には気をつけてください」
もちろんと笑う口元からは青白い煙が吐き出されていく。吐き出された煙を目で追いかけて上を見上げると星が見え始めていた。そう言えば、彼が今吸っているタバコのパッケージにも星が見えた。さっきの黒歴史とやらはタバコを始めて吸った時のこととかなのだろうか。吸い始めは皆むせるとこの人から教えてもらった事がある。そんなことを思っていると隣に腰掛けた彼からタバコを一本差し出される。
「...何のつもりですか?」
「いや、そんなに気になるなら吸ってみるかなと思って」
「それを吸ったら君も共犯とか言うでしょう」
「煙草友達が増えるチャンスなんだ。そんな野暮なことは言わないよ」
「どの口がッ」
凄い悪い顔をしていた。奈落のような暗い目をしながら、でも口元は三日月を作って。
これを吸えば彼と同じ匂いになれる。彼と同じ状態になれる。そう言う良くない感情が湧き出る。
頭ではダメだと分かっているのに体は差し出された毒の星を手に掴んで口に入れていた。ここまで来てしまうともう逃れられない。
「...火を下さい」
「じゃあこっちを向いて」
そう言われて彼の方を向くと自分のタバコを私の火のついていないタバコに付けて吸えと言われた。こんなに至近距離に顔が近づいてしまうともう頭が回らなくなってしまう。
始めて吸ったタバコはとても吸えたものではなく、すぐにむせてしまう。彼が言っていた通りだった。頭痛とぐらつく体の中、暫くふかしていると彼は色々教えてくれた。
「始めてがセッターはちょっとキツかったかもね。最初は皆そんなもんだよ。あと、吸った後は必ず消臭すること。匂いがつくと中々落ちないから。あぁ。それと」
「さっきのは俗にシガレットキスって言うんだよ」
その後の事は覚えていない。部屋に戻った後、服を消臭しながらきっとあの哀愁は恋心によるものだと理解した。
消臭した後に服を嗅ぐと少しだけ残り香が付いていた。彼と同じ匂いが.きっとこの匂いは暫く取れそうにないと思った。