禊新の二度目の謳歌 〜絶望して逃げ出した「俺」に代わって、平行世界で成り上がる   作:お粥のぶぶ漬け

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4話

放課後のハンバーガーショップでの検証会から数日たち、俺は放課後に職員室に向かった。

 

 担任の教師に「ダンジョンに入ってみたい」と相談するためだ。あっちの俺たちがどれほどの落ちこぼれだったにせよ、一応は学生だ。無断で入ってトラブルになるようなリスクは避けるべきだという、前世の三十代らしい慎重さが働いた。

 

 「ダンジョン、だと? 禊、本気か?」

 

 教師は眼鏡の奥の目を丸くして俺を見た。

 

 「あそこは遊び場じゃない。ギルドに登録さえすれば、法的には誰でも入れる。だがな、うちの高校としてはダンジョン探索を推奨はしていない。命の保証はないし、あくまで『自己責任』だ。それでも行くというなら、私は止めんが……」

 

 教師の言葉は冷ややかだったが、同時に「勝手にしてくれ」という放任主義も透けて見えた。どうやら、この世界では高校生がダンジョンに潜ること自体は珍しくもなければ犯罪でもないらしい。ただ、エリート校でもない限り、学校がそれをバックアップすることはない、というだけのことだ。

 

 「ありがとうございます。自己責任、承知しました」

 

 俺が短く返して職員室を出ようとすると、背中に「死ぬなよ」という、事務的ながらも少しだけ温かみのある声が投げかけられた。

 放課後、校門の前で待っていた健太、直樹、美咲の三人と合流し、俺たちは市街地にある「探索者ギルド・支部」を訪れた。

 コンクリート造りの無機質な建物の中は、独特の熱気に包まれていた。傷だらけの甲冑を着た戦士や、ローブを纏った魔導士が、巨大な電光掲示板に表示される依頼を睨みつけている。

 

 「……すげえ。本当にファンタジーの世界だな」

 

 健太が感心したように周囲を見渡す。俺たちは受付に向かい、新規登録の意志を伝えた。

 

 「はい、学生さんの仮登録ですね。こちらの『魔力波長登録機』に手を置いてください」

 受付嬢が指し示したのは、複雑な模様が刻まれたクリスタルの盤面だった。

 

 「魔力の波長には、指紋と同じように厳密な個人差があります。それをこの機械で読み取り、発行される固有ナンバーと紐付けることで、登録証が完成します」

 

 俺が盤面に手を置くと、淡い青光が肌を撫でるような感覚があった。

 数分後。俺たちの手元には、鈍い銀色に光る金属製のプレート――登録証(ドックタグ)が手渡された。

 

 「これが登録証か……」

 

 俺はその冷たい感触を掌で確かめた。表面には名前とナンバー、そして現在の魔力レベルが刻印されている。

 

「魔力レベルがどれくらい上がったか定期的に更新しに来てください」との受付嬢の言葉を聞きつつふと、隣で自分のタグを見つめていた直樹が、皮肉めいた笑みを浮かべて呟いた。

 

 「……新、これを見て確信したよ。あっちの僕たちは、このタグすら持っていなかったんだね」

 

 「えっ、どういうこと?」

 

 美咲が不思議そうに首を傾げる。

 

 「だって、あっちの僕たちは『自分たちが落ちこぼれだから逃げ出す』という手紙を残した。でも、このギルドのデータベースには僕たちの魔力波長は一つも登録されていなかった。……つまり、彼らは一度もダンジョンの入り口に立つことさえせず、潜ろうと思う間もなく、恐怖だけで逃げ出したってことだ」

 

 直樹の指摘に、俺たちは一瞬沈黙した。

 手紙の内容から、てっきり実戦で挫折したのかと思っていたが、現実はもっと残酷で滑稽だった。彼らは「戦って負けた」のではない。「戦う前から、想像上の恐怖に屈して世界を丸ごと捨てた」のだ。

 

 「……徹底してるな。挫折する前に逃げ出したのか」

 

 俺は苦笑し、手の中のドックタグを強く握りしめた。

 逃げ出した彼らを責めるつもりはない。だが、その臆病さのおかげで、俺はこの「二度目のチャンス」を手に入れたのだ。

 

 「いいか。あっちの連中が入り口で引き返したなら、俺たちはその一歩先へ行く。……行くぞ、まずはF級ダンジョンからだ」

 

 「おう! 腕が鳴るぜ!」

 

 健太が力強く拳を叩き、俺たちはギルドの門を潜り抜けた。

 向かう先は、公園の地下に広がる「名もなき廃道」。

 臆病者たちが決して見ることのなかった景色を、俺たちが代わりに見に行く番だ。

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