シーン1:白き獅子の悔恨と決意
青空からの陽光は、かつてのように暖かくアジャニの白い毛並みを照らしていた。しかし、その光が彼の心まで温めることはない。
黄金のたてがみのアジャニは、切り立った崖の上に座り、遠く広がる草原を眺めていた。その手は無意識に今は亡き戦友が遺した、砕け散った黒き剣の欠片をなぞるような動きを見せる。
あるいは、かつて自分の身体を蝕んでいた悪しき「油」の感触を、幻肢痛のように探しているのかもしれない。
かつて多元宇宙を支配しようとした機械の軍団「新ファイレクシア」との死闘。それは多元宇宙の勝利で幕を閉じたが、アジャニの魂に刻まれた傷跡は、癒えるどころか疼き続けていた。
彼は「完成」という名の洗脳を受け、同胞を傷つけ、守るべき世界を蹂躙した。その罪の意識は、どれほど善行を重ねようとも消えることはない。
(……多元宇宙は変わってしまった)
アジャニは一つ、深く重い吐息を漏らした。
白き独裁者「エリシュ・ノーン」という絶対的な悪が去り、皮肉にも多元宇宙には奇妙な空白が生まれていた。
かつての「ゲートウォッチ」――多元宇宙の守護者たちは、今やバラバラだった。
彼は、ゲートウォッチが実質的に機能不全に陥った原因を、冷徹なまでに分析し始める。
第一の理由は、「共通の敵」の喪失だ。 世界を弄んだ邪龍「ニコル・ボーラス」、そして新ファイレクシア。
それら「次元そのものを滅ぼす巨大な悪」が存在したからこそ、個性の強すぎるゲートウォッチたちは手を取り合うことができた。
しかし、平穏が訪れた瞬間、彼らを繋ぎ止めていた鎖は脆くも崩れ去った。
第二の理由は、「個々の目的の乖離」。
ジェイスは彼自身の深淵へと消え、チャンドラは愛する者との生活や故郷の復興に心を砕き、テフェリーは失われた時間と向き合い続けている。
彼らには守るべき場所があり、戻るべき日常がある。それは決して悪いことではない。むしろ、彼らが戦い抜いた末に勝ち取った当然の権利だ。
だが、アジャニは知っている。平和とは、次の嵐が来るまでの束の間の休息に過ぎないということを。
「再び、あの規模の脅威が現れた時……今の私たちは、かつてのように立ち上がれるだろうか」
アジャニの隻眼が鋭く細められた。
多元宇宙を渡れる「プレインズウォーカー」であるということは、かつては選ばれた特別な存在であることを意味した。
しかし、今の多元宇宙は違う。各世界を繋ぐ「領界路」が開かれ、資格を持たぬ者たちもまた、次元の壁を越え始めた。
世界は混沌としている。それは危ういことだが、同時に「希望」でもある。
(灯を持つ者だけで世界を守る必要はないのだ)
アジャニの脳裏に、一つの画期的な、それでいて無謀な考えが浮かぶ。
これまでのゲートウォッチは、完成された英雄たちの互助組織だった。ならば、これからのゲートウォッチは、「育てる組織」であるべきではないか。
灯を持たずとも、強い意志を持ち、守るべきもののために命を懸けられる若き英雄たち。
彼らを見出し、次元を渡る術を教え、多元宇宙の守護者としての誇りを受け継がせる。
プレインズウォーカーが「天性の才能」であるなら、新たなる守護者は「鍛え上げられた意志」の結晶であらねばならない。
「私は教官になろう。かつて私が失い、そして奪ってしまった命の代わりに……新しい光を導くために」
アジャニは立ち上がった。その背筋は、かつての将としての威厳を取り戻していた。
彼はまず、最初の一人を探さねばならない。異世界の文化に即座に適応でき、それでいて揺るぎない正義の心を持つ若き魂を。
その時、アジャニの視界の端で、空間が揺らぎ始めた。領界路だ。
その裂け目の向こう側から近代的な、あるいは幻想的な「異世界」の気配が流れ込んでくる。
アジャニは重い足取りで歩き出した。新たなるゲートウォッチの歴史は、ここから始まる。
◆キャラクター紹介
「黄金のたてがみのアジャニ」
元ゲートウォッチの一人でプレインズウォーカー。本作では「学校」の校長として中心的な役割を担います。
正義感に溢れる優しいレオニンです。
(要するに元アベンジャーズみたい人物で、めちゃくちゃ強い魔法使い(しかも異世界を巡る力をもっている!)、かつライオンのような人間です。)
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