新たなるゲートウォッチ   作:Dr.ヤマブキ

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シーン11:龍の英知(ドラゴジーニアス)との交渉

イゼット団の本拠地、天を突く高塔「ニヴィックス」。

 

その最上階に位置する謁見の間は、剥き出しの巨大な歯車と魔力的な雷雲、そして膨大な数の方程式が書き込まれた鏡に囲まれていた。

 

その中央、熱気を帯びた玉座に鎮座していたのは、深紅の鱗を持つ巨大な龍――ニヴ=ミゼットだった。

 

「……先ほどの蒸気エレメンタルの処理、見事だった。計算外の変数が三つ、我が管区に迷い込んだようだが……まずは感謝を述べておこう。我がイゼット団のインフラを救った手際に免じてな」

 

龍の声は、物理的な音というよりも知性の圧力となって室内に響く。

 

遊戯は、その圧倒的な存在感に足がすくむのを感じていた。

 

伝説のカードに描かれた「竜」ではない。

 

目の前にいるのは、呼吸一つで都市を焼き、瞬き一つで一万の数式を解く、生きた神にも等しい超越者だ。

 

(これが……本物のドラゴン……! 呼吸をするだけで、空気が燃えているみたいだ……)

 

遊戯は激しく打つ鼓動を抑え、アジャニの背に隠れたくなる衝動を必死にこらえていた。

 

そんな遊戯を庇うように一歩前へ出たアジャニは、包み隠さず、自分たちの事情を語り始めた。

 

ゲートウォッチの瓦解、多元宇宙を脅かす未知の脅威への懸念、そして、それを防ぐための「学校」という拠点の必要性。

 

アジャニの語り口は、あまりに実直で、あまりに誠実だった。

 

「――だからこそ、ニヴ=ミゼット様。我々には、このラヴニカの英知と場所が必要なのです。共に未来の守護者を育てる礎となってはいただけないでしょうか」

 

その様子を横で見ていたケルシーは、内心で深く溜息をついていた。

 

(……アジャニ、正直すぎるわ。交渉の場において、自分の窮状をすべてさらけ出すのは、相手に首輪を渡すようなもの。ましてや、相手はあの傲慢の化身のような龍だというのに)

 

案の定、ニヴ=ミゼットは喉の奥で低く、嘲笑うような音を立てた。

 

「高潔な理想だな、レオニン。だが、あまりに非論理的だ。我がイゼット団が、いつ訪れるかもわからぬ『多元宇宙の脅威』などという不確定要素のために、貴重なリソースと土地を割く利点はどこにある? 我が関心は、常に『今ここにある真理』の探求にのみ注がれている」

 

「ですが、こちらの提供できる知見もあります」 ケルシーが、冷静に一歩踏み出した。

 

彼女は異世界の医療技術、テラ特有のアーツ理論、そして源石(オリジニウム)に関する研究成果の一部を提示した。

 

「これらは、あなたの知る魔術体系とは異なる物理法則に基づいたものです。知的探求の対価としては十分なはずですが?」

 

ニヴ=ミゼットは、ケルシーが提示した情報を一瞥した。

 

「……フン。原始的な生体工学と、不安定な鉱石エネルギーか。興味を引かぬではないが……我が知性を数分間満足させる程度の娯楽に過ぎんな。土地を貸し、後ろ盾になるための『対価』としては、あまりに軽量だ」

 

ケルシーは眉を潜めた。提示したデータは、テラの世界を揺るがすほどの至宝だ。

 

それを「軽量」と断じる龍の態度は、明らかなブラフだった。彼はもっと、自分たちの「底」を引き出そうとしている。

 

(……厄介ね。こちらの価値を認めながらも、それを認めないことでより有利な条件を引き出そうとしている。あるいは、単に私たちの困惑を楽しんでいるのか)

 

交渉が行き詰まり、重苦しい沈黙が流れる。

 

その時、ずっと黙って龍を観察していた遊戯が、震える足を一歩前に踏み出した。

 

遊戯は気づいていた。 ニヴ=ミゼットの瞳の奥にあるのは、退屈への恐怖だ。

 

この超常的な知性を持つ龍は、この世界に自分を満足させる「未知」が足りないことに、激しく飢えている。

 

「……ニヴ=ミゼットさん。あなたは、本当は僕たちに興味があるんですよね?」

 

小さな声だったが、それは龍の意識を強く惹きつけた。 「……ほう? 小さな人間が、言葉を発したか」

 

「僕たちの持っている知識やデータが欲しいんじゃなくて……あなたは、僕たちがどんな風に『考えて』、どんな風に『戦うのか』を知りたいんだ。だから、こうしてわざわざ時間を割いて、僕たちと話し合っている」

 

遊戯の瞳から、怯えが消えていた。そこにあるのは、無数のデュエルを通じて磨き上げられた、勝負師としての鋭い洞察。

 

「あなたが僕たちの価値を認めてくれないなら……一つ、提案があります。あなたが決めた『ゲーム』で、勝負をしませんか?」

 

アジャニとケルシーが驚愕して遊戯を振り返る。

 

「もし僕たちが勝ったら、学校の設立を認めて、あなたの力を貸してほしい。……負けたら、僕たちが持っているすべての知識も、僕のカードも、全部あなたに差し上げます。どうですか、火想者(ファイアマインド)様?」

 

ニヴ=ミゼットは、初めてその巨大な身体を玉座から起こした。 周囲の鏡が、龍の興奮に呼応するように激しく火花を散らす。

 

「ククク……ハハハハハ! 面白い! 我が知性に『ゲーム』を挑むか! よかろう、名もなき少年よ。単なる知識の取引など、退屈極まりないと思っていたところだ」

 

龍の瞳が、残酷なまでの知的好奇心に燃え上がる。

 

「いいだろう、その挑戦を受けよう。我が用意するは、この『ニヴィックス』そのものを盤面とした、知性と知略の極限遊戯だ。……さあ、始めようではないか」

 




◆キャラクター紹介
「ニヴ=ミゼット」(マジック・ザ・ギャザリング)
本作における現・イゼット団ギルドマスター。

およそ1万年以上を生きる天才竜。

その性格は傲慢かつ気まぐれで、好奇心の赴くままに実験を繰り返す。

本作では後々も「学校」に関わってくる重要なキャラクターです。

(本作の彼はIF設定の余波をモロに食らってます。ヴォーソスな方はご注意ください)

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