新たなるゲートウォッチ   作:Dr.ヤマブキ

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◆注意
今回からカードゲームによるデュエルシーンが描かれます。
オリジナルカードも混ざりますのでご注意ください。


シーン12:傲慢なる火想者との決闘

ラヴニカの空を切り裂くように聳え立つイゼット団の本拠地、ニヴィックス。

その最上階にある広大な実験室は、今、異様な緊張感に包まれていた。

 

部屋の中央に対峙するのは、この次元きっての天才竜、火想者ニヴ=ミゼット。

そして、異世界から訪れた小柄な青年、武藤遊戯。

 

アジャニとケルシーは、少し離れた位置でその様子を見守っていた。

 

「……面白い。貴様が『ゲームの達人』であり、その魂の輝きが多元宇宙を救う鍵になるというのなら、まずはその知性を証明してみせよ」

 

ニヴ=ミゼットの低い、しかし雷鳴のような声が轟く。

彼は巨大な翼を畳み、長い首を遊戯へと向けた。その瞳は、獲物を狙う捕食者のそれではなく、未知の方程式を解こうとする学者の熱を帯びている。

 

「貴様の世界の『デュエルモンスターズ』とか言ったか? 良いだろう。我輩が貴様の土俵(ルール)に合わせてやろう。その方が、変数が少なくて比較検討がしやすい」

 

ニヴ=ミゼットが指(鉤爪)を鳴らすと、実験室の空間が歪んだ。

イゼット団の誇る魔導技術が、遊戯の記憶にある「ソリッドビジョン(立体映像)」システムを完全再現し、空間に幾何学的なフィールドを展開する。

 

同時に、遊戯の周囲に光が集まり、左腕に見慣れた形状のデバイス――デュエルディスクが具現化した。

 

「これは……!」

 

遊戯は驚きに目を見開いたが、すぐに愛着のこもった手つきでそのディスクを撫でた。

 

「ありがとう、ニヴ=ミゼット。あなたは傲慢だけど、フェアな人だね」

 

「褒め言葉として受け取っておこう。さあ、構えろ! 人の子よ!」

 

『デュエル!!』

 

ニヴ=ミゼット(LP 8000) vs 武藤遊戯(LP 8000)

(※OCGルールに準拠し、初期手札5枚、先行ドローなし)

 

「先攻は我輩が貰う! ドロー!」

 

ニヴ=ミゼットの鉤爪が虚空を裂き、魔力で構成されたカードを引く。

 

「スタンバイ、メインフェイズ。……フン、貴様の世界の魔術体系は興味深いが、効率が悪すぎるな。マナの概念がない分、リソースの循環がすべてだ」

 

ニヴ=ミゼットは手札を広げ、不敵な笑みを漏らした。

 

「まずは手札より魔法カード、《渦まく知識(ブレインストーム)》を発動!」

 

彼の眼前に青い魔方陣が展開され、カードが3枚、凄まじい速度で彼の手元に引き寄せられる。

 

「デッキから3枚ドローし、その後手札を2枚デッキトップに戻す。思考を加速させ、不要なノイズを排除する……これぞイゼットの真髄!」

 

ニヴ=ミゼットは瞬時に手札を整理すると、さらに追撃の手を緩めない。

 

「さらに通常召喚! 出でよ、我が実験の忠実なる助手、《ゴブリンの電術師》!」

 

パチパチという電気ノイズと共に、背中に巨大なコイルを背負った小柄なゴブリンがフィールドに実体化する。

 

【ゴブリンの電術師】

星2/炎/雷族/攻1000/守800

 

「このモンスターがいる限り、我輩が魔法・罠カードを発動するためのコストは軽減される。……さあ、実験開始(テストラン)だ!」

 

ニヴ=ミゼットは次々と魔法カードを連打した。手札交換、ドロー、デッキ圧縮。

彼のデッキはまるで生き物のように回転し、墓地にはまたたく間に魔法カードが積み上がっていく。

 

その様子を見ていたケルシーが、冷ややかな瞳で分析を口にした。

 

「……異常な回転率だ」

 

「ケルシー……?」アジャニが問う。

 

「通常、カードゲームにおける初期ターンはリソースの確保と盤面の構築(セットアップ)に費やされる。しかし、あのドラゴンの行動原理は『資源の消費』と『サイクルの加速』に特化している。彼の手札交換速度は、標準的なデュエリストの統計的数値を3.5シグマも逸脱しているわ。これは単なる展開ではない。彼はデッキそのものを『燃料』として、短期決戦における瞬間火力を最大化しようとしている」

 

ケルシーの難解な解説をアジャニが咀嚼するよりも早く、ニヴ=ミゼットはターンを終了した。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ。……フッ、貴様も精々、我輩を楽しませてくれよ?」

 

フィールドには《ゴブリンの電術師》と伏せカードが1枚。

一見静かな盤面だが、その背後には圧倒的な手札リソースと、計算され尽くした迎撃態勢が整っている。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

遊戯の指先が鋭く光る。

彼は引いたカードを確認すると、静かに頷いた。

 

「ニヴ=ミゼット、あなたのデッキは凄いね。まるで嵐のような勢いだ。でも……その激しさは、時に脆さにもなる」

 

遊戯は落ち着いた手つきで、1枚のモンスターカードをフィールドに置いた。

 

「僕は《グリーン・ガジェット》を召喚!」

 

ガシャン、ガシャン、と重厚な歯車の音と共に、緑色の装甲に包まれた機械兵が現れる。

 

【グリーン・ガジェット】

星4/地/機械族/攻1400/守600

 

「召喚成功時、グリーン・ガジェットの効果発動! デッキから《レッド・ガジェット》を手札に加える!」

 

遊戯のデッキから1枚のカードが飛び出し、彼の手札に収まる。

 

ニヴ=ミゼットの派手な魔法連打とは対照的な、極めてシンプルで堅実な動き。

 

「そして、カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

遊戯のターンは、それだけで終わった。

 

攻撃もしない。展開もしない。ただ小さな歯車を一つ置き、次への布石を打っただけ。

 

それを見たニヴ=ミゼットは、鼻から煙を吐き出して嘲笑した。

 

「ハッ! 何だそれは? ガジェット(玩具)遊びか? 伝説の決闘者と聞いていたが、所詮は子供の遊びだな。我輩の崇高な実験には程遠い」

 

ドラゴンの嘲笑が実験室に響く。

だが、アジャニは気づいていた。遊戯の瞳が、決して怯えてなどいないことに。

 

「……いや、違うぞ、ニヴ=ミゼット」

 

アジャニは低い声で唸った。

 

「遊戯の目は死んでいない。彼は……観察しているのだ。あなたのその傲慢さを」

 

「何だと?」

 

「彼は知っている。力任せの嵐がいずれ過ぎ去ることを。そして、その嵐の隙間にこそ、勝機があることを。……あの小さな歯車は、ただの玩具ではない。あなたという巨大なシステムを狂わせるための、最初の一手だ」

 

遊戯は何も言い返さず、ただ静かに、対戦相手である巨竜を見据えていた。

 

その瞳の奥には、かつて神をも倒した「静かなる闘志」が、消えることのない炎のように燃え続けていた。

 

「……さあ、あなたの番だよ。もっと僕に見せてください。あなたの『叡智』を」

 

遊戯の声は、挑発的ですらなく、どこまでも透き通っていた。

 

それが逆に、ニヴ=ミゼットのプライドを逆撫でする。

 

「……小賢しい! ならばその眼、焼き尽くしてくれるわ!!」

 

轟音と共にニヴ=ミゼットの全身から紅蓮のオーラが噴き上がる。

 

アジャニとケルシーさえも顔を背けるほどの熱波。

 

だが、遊戯だけは瞬き一つせず、その熱風を真正面から受け止めていた。

 

その瞳は、眼前の巨竜ではなく、すでにその先――勝利へと続く細い糸を見据えているかのように。




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