今回からカードゲームによるデュエルシーンが描かれます。
オリジナルカードも混ざりますのでご注意ください。
ラヴニカの空を切り裂くように聳え立つイゼット団の本拠地、ニヴィックス。
その最上階にある広大な実験室は、今、異様な緊張感に包まれていた。
部屋の中央に対峙するのは、この次元きっての天才竜、火想者ニヴ=ミゼット。
そして、異世界から訪れた小柄な青年、武藤遊戯。
アジャニとケルシーは、少し離れた位置でその様子を見守っていた。
「……面白い。貴様が『ゲームの達人』であり、その魂の輝きが多元宇宙を救う鍵になるというのなら、まずはその知性を証明してみせよ」
ニヴ=ミゼットの低い、しかし雷鳴のような声が轟く。
彼は巨大な翼を畳み、長い首を遊戯へと向けた。その瞳は、獲物を狙う捕食者のそれではなく、未知の方程式を解こうとする学者の熱を帯びている。
「貴様の世界の『デュエルモンスターズ』とか言ったか? 良いだろう。我輩が貴様の土俵(ルール)に合わせてやろう。その方が、変数が少なくて比較検討がしやすい」
ニヴ=ミゼットが指(鉤爪)を鳴らすと、実験室の空間が歪んだ。
イゼット団の誇る魔導技術が、遊戯の記憶にある「ソリッドビジョン(立体映像)」システムを完全再現し、空間に幾何学的なフィールドを展開する。
同時に、遊戯の周囲に光が集まり、左腕に見慣れた形状のデバイス――デュエルディスクが具現化した。
「これは……!」
遊戯は驚きに目を見開いたが、すぐに愛着のこもった手つきでそのディスクを撫でた。
「ありがとう、ニヴ=ミゼット。あなたは傲慢だけど、フェアな人だね」
「褒め言葉として受け取っておこう。さあ、構えろ! 人の子よ!」
『デュエル!!』
ニヴ=ミゼット(LP 8000) vs 武藤遊戯(LP 8000)
(※OCGルールに準拠し、初期手札5枚、先行ドローなし)
「先攻は我輩が貰う! ドロー!」
ニヴ=ミゼットの鉤爪が虚空を裂き、魔力で構成されたカードを引く。
「スタンバイ、メインフェイズ。……フン、貴様の世界の魔術体系は興味深いが、効率が悪すぎるな。マナの概念がない分、リソースの循環がすべてだ」
ニヴ=ミゼットは手札を広げ、不敵な笑みを漏らした。
「まずは手札より魔法カード、《渦まく知識(ブレインストーム)》を発動!」
彼の眼前に青い魔方陣が展開され、カードが3枚、凄まじい速度で彼の手元に引き寄せられる。
「デッキから3枚ドローし、その後手札を2枚デッキトップに戻す。思考を加速させ、不要なノイズを排除する……これぞイゼットの真髄!」
ニヴ=ミゼットは瞬時に手札を整理すると、さらに追撃の手を緩めない。
「さらに通常召喚! 出でよ、我が実験の忠実なる助手、《ゴブリンの電術師》!」
パチパチという電気ノイズと共に、背中に巨大なコイルを背負った小柄なゴブリンがフィールドに実体化する。
【ゴブリンの電術師】
星2/炎/雷族/攻1000/守800
「このモンスターがいる限り、我輩が魔法・罠カードを発動するためのコストは軽減される。……さあ、実験開始(テストラン)だ!」
ニヴ=ミゼットは次々と魔法カードを連打した。手札交換、ドロー、デッキ圧縮。
彼のデッキはまるで生き物のように回転し、墓地にはまたたく間に魔法カードが積み上がっていく。
その様子を見ていたケルシーが、冷ややかな瞳で分析を口にした。
「……異常な回転率だ」
「ケルシー……?」アジャニが問う。
「通常、カードゲームにおける初期ターンはリソースの確保と盤面の構築(セットアップ)に費やされる。しかし、あのドラゴンの行動原理は『資源の消費』と『サイクルの加速』に特化している。彼の手札交換速度は、標準的なデュエリストの統計的数値を3.5シグマも逸脱しているわ。これは単なる展開ではない。彼はデッキそのものを『燃料』として、短期決戦における瞬間火力を最大化しようとしている」
ケルシーの難解な解説をアジャニが咀嚼するよりも早く、ニヴ=ミゼットはターンを終了した。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ。……フッ、貴様も精々、我輩を楽しませてくれよ?」
フィールドには《ゴブリンの電術師》と伏せカードが1枚。
一見静かな盤面だが、その背後には圧倒的な手札リソースと、計算され尽くした迎撃態勢が整っている。
「僕のターン、ドロー!」
遊戯の指先が鋭く光る。
彼は引いたカードを確認すると、静かに頷いた。
「ニヴ=ミゼット、あなたのデッキは凄いね。まるで嵐のような勢いだ。でも……その激しさは、時に脆さにもなる」
遊戯は落ち着いた手つきで、1枚のモンスターカードをフィールドに置いた。
「僕は《グリーン・ガジェット》を召喚!」
ガシャン、ガシャン、と重厚な歯車の音と共に、緑色の装甲に包まれた機械兵が現れる。
【グリーン・ガジェット】
星4/地/機械族/攻1400/守600
「召喚成功時、グリーン・ガジェットの効果発動! デッキから《レッド・ガジェット》を手札に加える!」
遊戯のデッキから1枚のカードが飛び出し、彼の手札に収まる。
ニヴ=ミゼットの派手な魔法連打とは対照的な、極めてシンプルで堅実な動き。
「そして、カードを2枚伏せて、ターンエンド」
遊戯のターンは、それだけで終わった。
攻撃もしない。展開もしない。ただ小さな歯車を一つ置き、次への布石を打っただけ。
それを見たニヴ=ミゼットは、鼻から煙を吐き出して嘲笑した。
「ハッ! 何だそれは? ガジェット(玩具)遊びか? 伝説の決闘者と聞いていたが、所詮は子供の遊びだな。我輩の崇高な実験には程遠い」
ドラゴンの嘲笑が実験室に響く。
だが、アジャニは気づいていた。遊戯の瞳が、決して怯えてなどいないことに。
「……いや、違うぞ、ニヴ=ミゼット」
アジャニは低い声で唸った。
「遊戯の目は死んでいない。彼は……観察しているのだ。あなたのその傲慢さを」
「何だと?」
「彼は知っている。力任せの嵐がいずれ過ぎ去ることを。そして、その嵐の隙間にこそ、勝機があることを。……あの小さな歯車は、ただの玩具ではない。あなたという巨大なシステムを狂わせるための、最初の一手だ」
遊戯は何も言い返さず、ただ静かに、対戦相手である巨竜を見据えていた。
その瞳の奥には、かつて神をも倒した「静かなる闘志」が、消えることのない炎のように燃え続けていた。
「……さあ、あなたの番だよ。もっと僕に見せてください。あなたの『叡智』を」
遊戯の声は、挑発的ですらなく、どこまでも透き通っていた。
それが逆に、ニヴ=ミゼットのプライドを逆撫でする。
「……小賢しい! ならばその眼、焼き尽くしてくれるわ!!」
轟音と共にニヴ=ミゼットの全身から紅蓮のオーラが噴き上がる。
アジャニとケルシーさえも顔を背けるほどの熱波。
だが、遊戯だけは瞬き一つせず、その熱風を真正面から受け止めていた。
その瞳は、眼前の巨竜ではなく、すでにその先――勝利へと続く細い糸を見据えているかのように。
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