新たなるゲートウォッチ   作:Dr.ヤマブキ

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シーン13:嵐を呼ぶ実験

「スタンバイ、メインフェイズ……。さて、変数(パラメータ)を追加しようか」

 

ニヴ=ミゼットは手札から次なる実験体をフィールドに放り投げた。

下水道の蓋が弾け飛ぶような低い音と共に、悪臭と魔力の混じった蒸気を噴出する異形の怪物が現れる。

 

「召喚! 《どぶ潜み(ガッタースナイプ)》!」

 

**【どぶ潜み】**

星3/炎/悪魔族/攻1500/守1500

 

背中に巨大な銅製のタンクを背負い、そこから伸びるパイプが両腕に直結した小柄なゴブリン変種。その目は狂気と興奮で血走っている。

 

「《どぶ潜み》……? 攻撃力はそこまで高くないけど……」

遊戯が警戒するように眉をひそめる。

 

「クックック……このモンスターは、我輩が呪文(スペル)を唱えるたびに歓喜し、その余波を敵に撒き散らす素晴らしい触媒なのだ」

 

ニヴ=ミゼットは手札のマジックカードを高々と掲げた。

 

「さあ、イゼットの実験は連鎖(チェイン)する! 手札より魔法カード発動! 《信仰無き物あさり》!」

 

**【信仰無き物あさり】**

通常魔法

カードを2枚ドローし、その後手札を2枚捨てる。

 

「フィールドに《ゴブリンの電術師》がいるため、コストや発動条件は最適化される。2枚ドローし、2枚捨てる……。この墓地へ送る行為こそが、次の実験への投資となるのだ!」

 

ニヴ=ミゼットの手札が高速で回転する。

その瞬間、《どぶ潜み》の背中のタンクが赤熱し、甲高い蒸気音を上げた。

 

「そしてこの瞬間、《どぶ潜み》の効果発動! 魔法・罠が発動する度、相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与える! 『ショック・ウェイブ』!」

 

「うわあぁっ!」

 

《どぶ潜み》の腕から放たれた衝撃波が、遊戯の身体を直撃する。

ソリッドビジョンとはいえ、その衝撃は精神に直接響く重さを持っていた。

 

**遊戯 LP 8000 → 7500**

 

「まだまだ! 墓地に送られた魔法カード《フラッシュバック》の効果発動! 墓地から再利用する! もう一度ドローし、捨てる!」

 

「くっ……!」

 

ドンッ!

再び衝撃波が遊戯を襲う。

 

**遊戯 LP 7500 → 7000**

 

アジャニが顔をしかめた。

「魔法を使うだけでダメージが入るのか……。しかも、彼の手札は減るどころか、質の高いカードに入れ替わっている」

 

ケルシーがタブレット端末のようなものを操作しながら、冷徹に補足する。

「イゼット団の戦術ドクトリンにおける『呪文連鎖』ね。1つのアクションが次のアクションのトリガーとなり、その連鎖プロセス自体が火力(ダメージソース)に変換される。……厄介なのは、これがまだ『準備運動』に過ぎないということよ」

 

ケルシーの予言通り、ニヴ=ミゼットの猛攻はここからが本番だった。

 

「邪魔な伏せカードを排除させて貰おうか。速攻魔法発動! 《サイクロンの裂け目》!」

 

ニヴ=ミゼットの鉤爪が空間を引き裂くようなジェスチャーを行うと、フィールド中央に青白い竜巻が発生した。

それは物理的な嵐ではなく、マナの結合を強制的に解く「解離の嵐」だ。

 

「手札を1枚捨てることで『超過(オーバーロード)』コストを支払い、効果範囲を拡大する! 貴様のフィールドのカードをすべて手札に戻せ! 『サイクロニック・リフト』!」

 

「なっ……全体除去!?」

 

遊戯のフィールドにあった《グリーン・ガジェット》と、伏せてあった2枚のカードが、逆巻く風に巻き上げられ、強制的に手札へと戻される。

遊戯のフィールドは、一瞬にして更地となった。

 

「これで貴様は丸裸だ! バトルフェイズ! 《ゴブリンの電術師》(攻1000)と《どぶ潜み》(攻1500)でダイレクトアタック!」

 

二体のモンスターが、守る術のない遊戯へと殺到する。

電撃と衝撃波の挟撃。まともに食らえばライフの3割を失う一撃だ。

 

「……やっぱり、一筋縄じゃいかないね」

 

遊戯は吹き荒れる風の中で、しかし不敵に微笑んだ。

彼の手札から、一枚のカードが飛び出し、実体化する。

 

「手札から《クリボー》の効果発動! このカードを墓地に捨てることで、戦闘ダメージを1度だけ0にする!」

 

「クリクリ~!」

 

愛らしい毛玉のようなモンスターが現れ、《ゴブリンの電術師》の電撃をその身で受け止める。

爆発と共にクリボーは消滅したが、遊戯へのダメージは防がれた。

 

「チッ、小癪な防衛本能だ。だが、もう一撃は通るぞ!」

 

《どぶ潜み》の追撃が遊戯を襲う。

遊戯は腕をクロスして防御姿勢を取ったが、衝撃で数メートル後退させられた。

 

**遊戯 LP 7000 → 5500**

 

「ターンエンドだ。……フン、かろうじて生き延びたか。だが、フィールドは空(カラ)、ライフも削られた。貴様の『観察』とやらも、そろそろ限界ではないか?」

 

ニヴ=ミゼットは余裕綽々で翼を広げた。

彼のフィールドには二体のモンスター。手札は潤沢。対して遊戯はフィールド0枚。

誰が見ても、圧倒的な劣勢だった。

 

「……ふふ」

 

土煙の中、遊戯が立ち上がる。

服についた埃を払いながら、彼は静かに笑っていた。

 

「限界? ……まさか。ようやく『見えてきた』ところだよ」

「何?」

 

「あなたの魔法は確かに強力だ。無駄がなく、流れるように美しい。……でも、それは『完璧すぎる』んだよ」

 

遊戯はデッキに手をかけた。

その瞳に宿る光が、一段と鋭さを増す。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

遊戯が引いたカードを見ることもなく、そのままフィールドに叩きつける。

 

「僕は《サイレント・ソードマン LV3》を召喚!」

 

戦場に静寂が訪れる。

現れたのは、身の丈ほどの剣を携えた、幼い剣士だった。

派手な装飾はなく、ボロボロのマントを羽織っているが、その瞳は澄み渡り、決して折れない意志を感じさせる。

 

**【サイレント・ソードマン LV3】**

星3/光/戦士族/攻1000/守1000

 

「攻撃力1000? また随分とか弱い実験体を……」

ニヴ=ミゼットが呆れたように鼻を鳴らした。

「そんな貧弱な剣で、我輩の鱗一枚でも傷つけられると思っているのか?」

 

「今はまだね」

遊戯は冷静に応じた。「でも、このカードは『時間』と共に強くなる。あなたの連鎖する魔法の嵐の中でさえ、彼は静かに、研ぎ澄まされていくんだ」

 

その言葉を聞いたケルシーが、ハッと息を呑んだ。

彼女の猫耳がピクリと反応し、モニターに映るソードマンのデータを解析し始める。

 

「……なるほど。あの少年の狙いは『時間軸』への干渉か」

 

「どういうことだ、ケルシー?」 アジャニが問う。

 

「通常の召喚獣や兵器は、場に出た瞬間がピークの性能(スペック)であることが多い。だが、あの剣士は違う。自身の存在定義の中に『成長係数』が組み込まれているわ。ターン経過そのものをリソースとして進化する……。ニヴ=ミゼットが手数を増やして『空間』を支配しようとしているのに対し、遊戯は『時間』そのものを味方につけようとしているのよ」

 

遊戯は手札からカードを1枚セットし、ニヴを見据える。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「スタンバイフェイズ……この瞬間、《サイレント・ソードマン LV3》の効果発動!」

 

遊戯が宣言すると、ソードマンの身体が淡い光に包まれた。

 

「自分ターンのスタンバイフェイズ時、このカードを墓地に送ることで、手札またはデッキから《サイレント・ソードマン LV5》を特殊召喚できる! ……と言いたいところだけど、この効果は『次の自分のターン』だ。今はまだ、その時じゃない」

 

ニヴ=ミゼットは目を細めた。

「ほう? 成長する騎士か。だが、芽が出る前に摘んでしまえばそれまでよ!」

 

ニヴ=ミゼットのターン。

「ドロー! ……消え去れ、小僧! 手札より速攻魔法《稲妻》を発動! モンスター1体を破壊する!」

 

天空より紅蓮の雷が《サイレント・ソードマン》を目掛けて降り注ぐ。

イゼットの空を焦がす一撃。直撃すればひとたまりもない。

 

「させないよ! 罠発動! 《亜空間物質転送装置》!」

 

遊戯の伏せカードが開き、空間に歪みが生じる。

 

「自分フィールドのモンスター1体を、エンドフェイズまで除外する! ソードマン、一時退避だ!」

 

雷が直撃する寸前、幼い剣士の姿が陽炎のように揺らぎ、亜空間へと消え去った。

稲妻は空しく地面を穿つのみ。

 

「避けたか……! だが、これで貴様のフィールドはまたしても空(ガラ)空きだ!」

 

「いいえ、守り切ってみせる。僕はあなたの『魔法』を見せてもらった。……次は、僕の『戦術』を見せる番だ!」

 

遊戯の声には、確かな自信が漲っていた。

ニヴ=ミゼットの猛攻をかわし、ライフを削られながらも、彼の中にある「勝利へのロード」は、盤上の混沌を通してより鮮明に見え始めていたのだ。

 

フィールドに何もなくとも、遊戯の背後には巨大なプレッシャーが立ち昇る。

傲慢な竜も、その気配にわずかに鱗を逆立たせた。

 

「……面白い。ならばその自信、絶望に変えてやろう。見せてみろ、人の子の底力を!」

 




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