「スタンバイ、メインフェイズ……。さて、変数(パラメータ)を追加しようか」
ニヴ=ミゼットは手札から次なる実験体をフィールドに放り投げた。
下水道の蓋が弾け飛ぶような低い音と共に、悪臭と魔力の混じった蒸気を噴出する異形の怪物が現れる。
「召喚! 《どぶ潜み(ガッタースナイプ)》!」
**【どぶ潜み】**
星3/炎/悪魔族/攻1500/守1500
背中に巨大な銅製のタンクを背負い、そこから伸びるパイプが両腕に直結した小柄なゴブリン変種。その目は狂気と興奮で血走っている。
「《どぶ潜み》……? 攻撃力はそこまで高くないけど……」
遊戯が警戒するように眉をひそめる。
「クックック……このモンスターは、我輩が呪文(スペル)を唱えるたびに歓喜し、その余波を敵に撒き散らす素晴らしい触媒なのだ」
ニヴ=ミゼットは手札のマジックカードを高々と掲げた。
「さあ、イゼットの実験は連鎖(チェイン)する! 手札より魔法カード発動! 《信仰無き物あさり》!」
**【信仰無き物あさり】**
通常魔法
カードを2枚ドローし、その後手札を2枚捨てる。
「フィールドに《ゴブリンの電術師》がいるため、コストや発動条件は最適化される。2枚ドローし、2枚捨てる……。この墓地へ送る行為こそが、次の実験への投資となるのだ!」
ニヴ=ミゼットの手札が高速で回転する。
その瞬間、《どぶ潜み》の背中のタンクが赤熱し、甲高い蒸気音を上げた。
「そしてこの瞬間、《どぶ潜み》の効果発動! 魔法・罠が発動する度、相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与える! 『ショック・ウェイブ』!」
「うわあぁっ!」
《どぶ潜み》の腕から放たれた衝撃波が、遊戯の身体を直撃する。
ソリッドビジョンとはいえ、その衝撃は精神に直接響く重さを持っていた。
**遊戯 LP 8000 → 7500**
「まだまだ! 墓地に送られた魔法カード《フラッシュバック》の効果発動! 墓地から再利用する! もう一度ドローし、捨てる!」
「くっ……!」
ドンッ!
再び衝撃波が遊戯を襲う。
**遊戯 LP 7500 → 7000**
アジャニが顔をしかめた。
「魔法を使うだけでダメージが入るのか……。しかも、彼の手札は減るどころか、質の高いカードに入れ替わっている」
ケルシーがタブレット端末のようなものを操作しながら、冷徹に補足する。
「イゼット団の戦術ドクトリンにおける『呪文連鎖』ね。1つのアクションが次のアクションのトリガーとなり、その連鎖プロセス自体が火力(ダメージソース)に変換される。……厄介なのは、これがまだ『準備運動』に過ぎないということよ」
ケルシーの予言通り、ニヴ=ミゼットの猛攻はここからが本番だった。
「邪魔な伏せカードを排除させて貰おうか。速攻魔法発動! 《サイクロンの裂け目》!」
ニヴ=ミゼットの鉤爪が空間を引き裂くようなジェスチャーを行うと、フィールド中央に青白い竜巻が発生した。
それは物理的な嵐ではなく、マナの結合を強制的に解く「解離の嵐」だ。
「手札を1枚捨てることで『超過(オーバーロード)』コストを支払い、効果範囲を拡大する! 貴様のフィールドのカードをすべて手札に戻せ! 『サイクロニック・リフト』!」
「なっ……全体除去!?」
遊戯のフィールドにあった《グリーン・ガジェット》と、伏せてあった2枚のカードが、逆巻く風に巻き上げられ、強制的に手札へと戻される。
遊戯のフィールドは、一瞬にして更地となった。
「これで貴様は丸裸だ! バトルフェイズ! 《ゴブリンの電術師》(攻1000)と《どぶ潜み》(攻1500)でダイレクトアタック!」
二体のモンスターが、守る術のない遊戯へと殺到する。
電撃と衝撃波の挟撃。まともに食らえばライフの3割を失う一撃だ。
「……やっぱり、一筋縄じゃいかないね」
遊戯は吹き荒れる風の中で、しかし不敵に微笑んだ。
彼の手札から、一枚のカードが飛び出し、実体化する。
「手札から《クリボー》の効果発動! このカードを墓地に捨てることで、戦闘ダメージを1度だけ0にする!」
「クリクリ~!」
愛らしい毛玉のようなモンスターが現れ、《ゴブリンの電術師》の電撃をその身で受け止める。
爆発と共にクリボーは消滅したが、遊戯へのダメージは防がれた。
「チッ、小癪な防衛本能だ。だが、もう一撃は通るぞ!」
《どぶ潜み》の追撃が遊戯を襲う。
遊戯は腕をクロスして防御姿勢を取ったが、衝撃で数メートル後退させられた。
**遊戯 LP 7000 → 5500**
「ターンエンドだ。……フン、かろうじて生き延びたか。だが、フィールドは空(カラ)、ライフも削られた。貴様の『観察』とやらも、そろそろ限界ではないか?」
ニヴ=ミゼットは余裕綽々で翼を広げた。
彼のフィールドには二体のモンスター。手札は潤沢。対して遊戯はフィールド0枚。
誰が見ても、圧倒的な劣勢だった。
「……ふふ」
土煙の中、遊戯が立ち上がる。
服についた埃を払いながら、彼は静かに笑っていた。
「限界? ……まさか。ようやく『見えてきた』ところだよ」
「何?」
「あなたの魔法は確かに強力だ。無駄がなく、流れるように美しい。……でも、それは『完璧すぎる』んだよ」
遊戯はデッキに手をかけた。
その瞳に宿る光が、一段と鋭さを増す。
「僕のターン、ドロー!」
遊戯が引いたカードを見ることもなく、そのままフィールドに叩きつける。
「僕は《サイレント・ソードマン LV3》を召喚!」
戦場に静寂が訪れる。
現れたのは、身の丈ほどの剣を携えた、幼い剣士だった。
派手な装飾はなく、ボロボロのマントを羽織っているが、その瞳は澄み渡り、決して折れない意志を感じさせる。
**【サイレント・ソードマン LV3】**
星3/光/戦士族/攻1000/守1000
「攻撃力1000? また随分とか弱い実験体を……」
ニヴ=ミゼットが呆れたように鼻を鳴らした。
「そんな貧弱な剣で、我輩の鱗一枚でも傷つけられると思っているのか?」
「今はまだね」
遊戯は冷静に応じた。「でも、このカードは『時間』と共に強くなる。あなたの連鎖する魔法の嵐の中でさえ、彼は静かに、研ぎ澄まされていくんだ」
その言葉を聞いたケルシーが、ハッと息を呑んだ。
彼女の猫耳がピクリと反応し、モニターに映るソードマンのデータを解析し始める。
「……なるほど。あの少年の狙いは『時間軸』への干渉か」
「どういうことだ、ケルシー?」 アジャニが問う。
「通常の召喚獣や兵器は、場に出た瞬間がピークの性能(スペック)であることが多い。だが、あの剣士は違う。自身の存在定義の中に『成長係数』が組み込まれているわ。ターン経過そのものをリソースとして進化する……。ニヴ=ミゼットが手数を増やして『空間』を支配しようとしているのに対し、遊戯は『時間』そのものを味方につけようとしているのよ」
遊戯は手札からカードを1枚セットし、ニヴを見据える。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「スタンバイフェイズ……この瞬間、《サイレント・ソードマン LV3》の効果発動!」
遊戯が宣言すると、ソードマンの身体が淡い光に包まれた。
「自分ターンのスタンバイフェイズ時、このカードを墓地に送ることで、手札またはデッキから《サイレント・ソードマン LV5》を特殊召喚できる! ……と言いたいところだけど、この効果は『次の自分のターン』だ。今はまだ、その時じゃない」
ニヴ=ミゼットは目を細めた。
「ほう? 成長する騎士か。だが、芽が出る前に摘んでしまえばそれまでよ!」
ニヴ=ミゼットのターン。
「ドロー! ……消え去れ、小僧! 手札より速攻魔法《稲妻》を発動! モンスター1体を破壊する!」
天空より紅蓮の雷が《サイレント・ソードマン》を目掛けて降り注ぐ。
イゼットの空を焦がす一撃。直撃すればひとたまりもない。
「させないよ! 罠発動! 《亜空間物質転送装置》!」
遊戯の伏せカードが開き、空間に歪みが生じる。
「自分フィールドのモンスター1体を、エンドフェイズまで除外する! ソードマン、一時退避だ!」
雷が直撃する寸前、幼い剣士の姿が陽炎のように揺らぎ、亜空間へと消え去った。
稲妻は空しく地面を穿つのみ。
「避けたか……! だが、これで貴様のフィールドはまたしても空(ガラ)空きだ!」
「いいえ、守り切ってみせる。僕はあなたの『魔法』を見せてもらった。……次は、僕の『戦術』を見せる番だ!」
遊戯の声には、確かな自信が漲っていた。
ニヴ=ミゼットの猛攻をかわし、ライフを削られながらも、彼の中にある「勝利へのロード」は、盤上の混沌を通してより鮮明に見え始めていたのだ。
フィールドに何もなくとも、遊戯の背後には巨大なプレッシャーが立ち昇る。
傲慢な竜も、その気配にわずかに鱗を逆立たせた。
「……面白い。ならばその自信、絶望に変えてやろう。見せてみろ、人の子の底力を!」
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