埃が払われ、最低限の明かりが灯された地下工房。中央の円卓を囲むように、アジャニ、テフェリー、ケルシー、そして遊戯が座っていた。
「さて、遊戯くん。君がこれから歩もうとしている道が、どれほど広大で、そして危ういものか……まずはそれを知ってもらわなければならない」
テフェリーが穏やかに切り出すと、その指先から青白い光の粒が溢れ出した。
光は空中で静かに回転し、いくつもの輝く球体を描き出す。そ
れは、多元宇宙に点在する無数の「次元」を模した地図だった。
「僕たちが住むこの世界――ラヴニカも、アジャニの故郷ナヤも、そして君の世界も、かつては『久遠の闇』という虚空に隔てられた独立した世界だった。本来、その境界を越えられるのは、我々のような特別な『灯(スパーク)』を持つプレインズウォーカーだけだったんだ」
遊戯はその光の地図を、吸い込まれるような瞳で見つめていた。彼の住む世界にも「精霊界」や「記憶の世界」といった概念はあったが、これほどまでに膨大な「外の世界」があるという事実は、彼の想像力を激しく揺さぶった。
「だが、その法則は崩れた」
アジャニの声が重く響く。彼の大きな手が、地図の一角を指した。
「『新ファイレクシア』……機械の怪物たちが、全次元を支配しようと侵略を開始したんだ。彼らは『次元壊し』という巨大な樹を育て、次元の壁を無理やり引き裂いた」
アジャニの表情に、微かな陰りが差すのを遊戯は見逃さなかった。
かつて自身がその侵略の尖兵にされ、友を傷つけたという消えない罪悪感。
その心の痛みが、遊戯の胸にもチリリと伝わってくる。
「侵略は阻止された。だが、引き裂かれた傷跡は残ったんだ」 テフェリーが魔法を操作すると、球体と球体の間に、光の糸のような亀裂が生じた。
「それが『領界路(オーメンパス)』だ。今や、灯を持たない普通の人々であっても、この道を通れば他の次元へ渡ることができるようになってしまった」
沈黙が場を支配した。テフェリーとアジャニは、遊戯がこの壮大な事実を消化するのを待った。しかし、遊戯の反応は彼らの予想よりも早かった。
遊戯は地図の一点を見つめたまま、独り言のように呟いた。 「……それは、ゲームのルールそのものが書き換えられたようなものですね」
「ゲームのルール?」 テフェリーが眉を上げる。
「ええ。今までそれぞれのプレイヤーが自分の盤面だけで戦っていたのに、突然、すべての盤面が繋がってしまった。……これは、とても危険な状態です」
遊戯の声には、単なる恐怖ではなく、戦術家としての冷徹な分析が混じっていた。
「これまでは次元の壁が『盾』になって、悪意のある存在が外へ広がるのを防いでいた。でも、誰もが行き来できるようになったということは、その盾がなくなったということです。もし……多元宇宙全体を飲み込もうとするような大きな脅威が再び現れたら、その敵にとって、これほど有利な条件はありません。一箇所を制圧するだけで、すべての世界に毒を流し込めるんですから」
ケルシーが、感情の読めない瞳を遊戯に向けた。
「……妥当な推論だ。君は、個々の事象から全体の脆弱性を即座に導き出した。組織の防御的な優位性が失われた現状において、領界路は利便性よりもリスクの方が大きい。私の故郷においても、未知の領域との接続は常に破滅の前兆だった」
彼女は封印していた難解な言い回しを避け、端的に遊戯の言葉を肯定した。
テフェリーとアジャニは顔を見合わせた。 彼らが何年もかけて理解し、苦悩してきた多元宇宙の「今」を、この少年はわずか数分の説明で本質まで見抜いてしまった。
「……驚いたな」テフェリーが感心したように息をつく。
「君の言う通りだよ、遊戯くん。今、多元宇宙はかつてないほど脆弱だ。だからこそ、次元を越えて協力し、綻びを修復する『ゲートウォッチ』の意志が必要なんだ。君のような、戦わずして戦場を俯瞰できる者の知恵がね」
アジャニもまた、遊戯の肩に優しく手を置いた。 「君をここに呼んだ私の判断は間違っていなかった。君には、この混沌とした盤面を収める力がある」
遊戯は少し照れたように笑ったが、その瞳の奥にある決意はより強固なものになっていた。
「ありがとうございます。……でも、まずは僕にできることを教えてください。この新しい『ルール』の中で、どうやって皆を守ればいいのかを」
◆専門用語解説 「次元壊し(レルムブレイカー)」
本来は行き来できない世界と世界を強制的に接続し、物理的なパス(通り道)を開くための巨大な樹。新ファイレクシアが全宇宙を征服するために建造しました。
(例えるなら、**インターネットに繋がれていなかったPC(世界)に、無理やりLANケーブルを突き刺してウィルス(軍団)を送り込むためのハッキングツール**です。これにより、特別な能力を持たない兵士でも異世界へ侵攻可能になりました。)
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