新たなるゲートウォッチ   作:Dr.ヤマブキ

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シーン2:魂の遊戯、交差する次元

次元の境界、領界路を潜り抜けたアジャニを待っていたのは、かつて経験したことのない奇妙な熱気だった。

 

戦場の血臭でも、テーロスの神聖な静寂でもない。それは、インクと紙の匂い、そして数百、数千という人々の「熱狂」が物理的な圧力となって押し寄せてくる、混沌とした空間だった。

 

(ここは……どこだ。大気の中にマナの揺らぎを感じるが、あまりに微弱……いや、質が違うのか?)

 

アジャニの巨大な体躯がその場に現れても、周囲の反応は彼の予想とは大きく異なっていた。武器を構えて逃げ惑う者も、平伏する者もいない。

 

「うわっ、すっげえ! あのアジャニ、クオリティ高すぎだろ!」 「筋肉の質感とか、マジで本物っぽいな。どこのサークル? 写真撮らせてもらっていいですか?」

 

極彩色の服を着た若者たちが、笑顔で奇妙な四角い板(スマートフォン)を向けてくる。アジャニは困惑し、思わず戦斧の柄を握り直したが、彼らに敵意がないことだけは理解できた。

 

「コスプレ」という言葉の意味は分からなかったが、どうやらこの世界では、自分のような異形の存在も「精巧な作り物」として受け入れられるらしい。

 

アジャニは、喧騒の中をかき分けるように歩き出した。 ここは「ゲームマーケット」と呼ばれる場所。

 

人々が自作の遊戯を持ち寄り、競い、分かち合う祝祭。 一見、平和そのものに見えるこの場所で、アジャニの「魂の光」を見る力は、一つの異質な輝きを捉えた。

 

それは、会場の隅にある、小さなブースの近くから発せられていた。

 

「……おい、言ったはずだぜ。このカードは『俺たち』がいただくってな」

 

ガラの悪い男たちが数人、一人の少女を囲んでいた。少女は震える手で、自作と思わしきカードの束を抱え込んでいる。

 

男たちは彼女のサークルに難癖をつけ、希少なカードや売上を脅し取ろうとしているようだった。

 

アジャニが割って入ろうとした、その時だ。

 

「そこまでにしてもらおうか」

 

凛とした、だがどこか温かみのある声が響いた。 男たちの間に割り込んだのは、アジャニの胸の高さほどしかない、小柄な青年だった。

 

その風貌は、この異世界の群衆の中でもひときわ異彩を放っていた。

 

天を突くような黒と赤、そして金の混じった鋭い髪型。穏やかながら気力に満ちた瞳。

 

「あぁ? 何だお前……あ、お前、武藤遊戯か!」 「伝説のデュエリストが、何の用だ?」

 

男たちが怯えと嘲笑の混じった声を上げる。 武藤遊戯。その名を聞いた周囲の空気が一変した。

 

敬意と、期待。この場にいる者たちにとって、彼は単なる青年ではなく、一つの到達点なのだ。

 

アジャニは足を止め、隻眼を細めて青年を観察した。 遊戯は暴力に訴える様子は微塵もなかった。

 

しかし、その立ち姿には、千の戦場を潜り抜けた戦士にも劣らぬ「静かなる覚悟」が宿っていた。

 

「彼女は自分の作ったゲームを、みんなに楽しんでもらうためにここに来たんだ。それを汚すような真似は、僕が許さない」

 

遊戯の瞳が、意志の強さに輝く。

 

「……どうしても引き下がらないと言うのなら、相手になるよ。――『ゲーム』でね」

 

その言葉が出た瞬間、アジャニの視界に映る遊戯の「魂の光」が、爆発的な輝きを放った。

 

それは黄金の輝き。

 

それも、単一の光ではない。長い年月をかけて磨き上げられた知恵と、仲間を信じる絆、そして、決して折れることのない不屈の精神が重なり合った、多層的な光。

 

アジャニは息を呑んだ。 (これほどまでに……これほどまでに澄んだ、しかし力強い光があるのか)

 

かつてアジャニが共に戦ったプレインズウォーカーたち――ギデオンやテフェリー、あるいはチャンドラ。彼らが持つ「輝き」とは違う。

 

だが、それは間違いなく、多元宇宙を闇から守り抜くために必要な「守護者の資質」そのものだった。

 

遊戯が提示したのは、ごく単純なダイスを使った勝負だった。だが、彼がダイスを振るその一挙手一投足には、運命を自らの手で引き寄せるような圧倒的な理(ことわり)があった。

 

男たちは遊戯の気迫に呑まれ、最後には捨て台詞を吐いて逃げ去っていった。

 

「大丈夫? 怪我はないかい?」

 

遊戯が少女に優しく微笑みかける。その瞬間、先ほどまでの鋭い気迫は霧散し、年相応の穏やかな青年の顔に戻っていた。

 

アジャニは確信した。 この青年は「灯」を持っていない。次元を渡る術も、マナを操る魔法も知らないだろう。

 

しかし、彼の魂には「法」があり、「正義」があり、何より「相手を尊重する心」がある。

 

彼こそが、自分が必要としていた「新たなる世代」の象徴ではないか。

 

プレインズウォーカーという特権階級ではなく、一人の「人間」として、世界を、宇宙を、遊戯を通じて守ろうとする者。

 

アジャニは意を決し、人混みをかき分けて遊戯の前へと歩み出た。

 

「武藤遊戯、と言ったか。少し、話をさせてもらいたい」

 

遊戯は驚いたように顔を上げ、アジャニを見上げた。その瞳には恐怖はなく、ただ純粋な好奇心と、どこか深い洞察が含まれていた。

 

「……すごい。あなたのコスプレ、ただの衣装じゃないね。あなたの瞳……まるで、遠い世界から来た旅人のようだ」

 

遊戯の言葉に、アジャニは微かに口角を上げた。

 

「察しがいいな。私はアジャニ。君に、多元宇宙の存亡に関わる……そして、君自身の力を必要とする『ゲーム』の招待状を持ってきた」

 




◆キャラクター紹介
「武藤 遊戯」
キングオブデュエリスト。
数々の闇のゲームを戦い抜いた、伝説のカードゲーマー。

もう一人の自分と別れてから数年経過した彼は、仲間たちとはそれぞれの異なる道に進むことを選び、再会の約束をしている。心優しきトリックスターでもあります。

そんな彼は本作においてアジャニの学校の生徒の一人です。ときには軍師として、ゲーマー的視点から戦いに参加するかもしれません。

(要するにすごい強いゲーマーです。ていうか説明いるのかこの人?。
銃や魔法が飛び交う戦場でも、「ゲームのルール」さえ把握すれば神すら手玉に取る、ある意味一番恐ろしい男です。)

本作「新たなるゲートウォッチ」はファンコンテンツ・ポリシーに沿った非公式のファンコンテンツです。ウィザーズ社の認可/許諾は得ていません。題材の一部に、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の財産を含んでいます。©Wizards of the Coast LLC.
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