新たなるゲートウォッチ   作:Dr.ヤマブキ

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シーン7:賢者の茶、未来への種蒔き

外の猛吹雪が嘘のように、石造りの小部屋の中は心地よい暖かさに満ちていた。

 

カチリ、と小さな音がして、ケルシーが三人分のティーカップを並べる。

 

立ち上る湯気と共に、この極寒の地には似つかわしくない、どこか懐かしく高貴な香りが漂った。

 

「……毒は入っていない。まずは喉を潤すといい。君たちの話を聞くのは、それからだ」

 

ケルシーの口調は、先ほどまでの難解な言葉遊びのような鋭さを潜め、静かで理知的なものに変わっていた。

 

アジャニは大きな手で繊細なカップを壊さぬよう慎重に持ち上げ、一口その液体を口に含む。

 

洗練された苦味と仄かな甘みが、凍えていた内臓にじんわりと染み渡っていく。

 

「ふう……。感謝する、ケルシー。君の話は……その、非常に深淵だったが、こうして一息つくと、ようやく君が我々を拒絶していないことが理解できた」

 

アジャニの言葉に、ケルシーは小さく鼻を鳴らした。

 

彼女は自分のカップを手に取り、窓の外の雪景色を眺める。

 

かつての彼女ならば、一刻の猶予も惜しんで戦場を駆け、あるいは製薬会社「ロドス・アイランド」の舵取りに心血を注いでいただろう。

 

だが、今の彼女には、隠遁者としての穏やかな時間が流れていた。

 

この「テラ」の世界は、彼女が積み上げてきた無数の「策」と、かつての仲間たちの奮闘によって、少なくとも彼女の手を離れても自浄作用が働く程度の平和を手に入れていた。

 

「テラが平穏を取り戻し、私の役割も終わった。……そう思って、ここで余生を過ごすつもりだったのだが。まさか次元の壁を越えて、これほど奇妙な二人組に叩き起こされるとはね」

 

彼女の瞳は、呆れているようでもあり、どこか楽しんでいるようでもあった。

 

だが、ケルシーはすぐに表情を引き締める。

 

「さて、茶を飲んだら本題に入ろう。アジャニ、君の言う『新たなるゲートウォッチ』の理念は理解した。だが、計画が杜撰すぎる。」

 

「プレインズウォーカーを養成すると言うが、誰が、どこで、何を教える? そもそも、まだ見ぬ脅威に対して『武力』だけを蓄えるのは、歴史が証明してきた最も愚かな失敗の一つだ」

 

アジャニは言葉に詰まった。自分は教育者でありたいと願っていたが、その制度設計までは頭が回っていなかった。

 

その時、静かに茶を楽しんでいた遊戯が、カップをソーサーに置いた。

 

「……あの、ケルシーさん。僕たちの世界では、何かを学ぶときや、新しい自分を見つけたいとき、集まる場所があるんです」

 

遊戯の瞳が、優しく輝く。

 

「今はまだ、戦うべき敵がいない。だとしたら、いきなり戦士を育てるんじゃなくて、未来のために種を蒔くのはどうかな? ……『学校』を作るみたいに」

 

その言葉は、アジャニの心に雷鳴のように響いた。 「学校……だと?」

 

「ええ。僕も、カードを通じてたくさんのことを学んだ。友情も、戦術も、負けることの痛みも。」

 

「それを教えてくれる場所があれば、もし将来、多元宇宙に危機が訪れたとしても、そこを卒業した人たちが自分の意志で手を取り合える。」

 

「それはアジャニさんが言っていた『絆』を、もっと確かな形にする場所になると思うんだ」

 

アジャニは、はるか昔のドミナリアの伝承を思い出していた。

 

「……トレイリアのアカデミー。かつて、プレインズウォーカー・ウルザが、ファイレクシアの脅威に対抗するために作った伝説の学び舎があった。そこでは魔法だけでなく、工学や歴史、あらゆる英知が集積されていたという……」

 

アジャニは興奮を隠しきれず、椅子から身を乗り出した。

 

「遊戯、素晴らしい案だ。特定の次元に縛られず、あらゆる世界の才能が集う場所。そして、もし拠点を作るなら……。各次元との繋がりが深く、あらゆる文化が交差する、多元宇宙の中心地のような場所がいい」

 

アジャニの脳裏に、あの摩天楼がそびえ立つギルドの都、ラヴニカの光景が浮かぶ。

 

あるいは、未踏の次元のどこかに、全く新しい理想郷を築くことも可能かもしれない。

 

二人の熱を帯びた対話を、ケルシーは深い溜息と共に聞いていた。

 

「……学校、か。また子供の世話を焼く羽目になるのか。ロドスでも散々経験したというのに」

 

彼女は呆れたように首を振る。

 

だが、その口元には、かすかな苦笑いが浮かんでいた。

 

自分はもう戦わなくていい。そう自分に言い聞かせ、この山奥に隠遁した。

 

だが、心のどこかでは、まだ自分が誰かの道を照らす「火」であることを望んでいたのだと、彼女は認めざるを得なかった。

 

「……いいだろう。アジャニ、君には力があるが計画性がない。遊戯、君には理想があるが、それを現実のシステムに落とし込む冷徹さが足りない。……そして私には、それらすべてを管理し、最悪の事態を想定して運営する『癖』が染み付いている」

 

ケルシーは窓の外の雪を見据えたまま、宣言した。

 

「多元宇宙全土を対象とした教育機関――その設立準備に入る。ただし、私のカリキュラムは厳しい。ただのプレインズウォーカーではなく、世界そのものを理解する賢者を育ててもらう」

 

「ケルシー……! 受けてくれるのか!」

 

アジャニの感嘆の声に、ケルシーは面倒そうに手を振った。

 

「そうと決まれば、まずは『校舎』と『土地』が必要だ。そして、教師となるべき人材の確保。アジャニ、君に心当たりはあるか? 私たちの理想に共鳴し、かつ異世界の存在を許容できる、度量のある者が」

 




◆キャラクター紹介
「ケルシー」(アークナイツ)
次元「テラ」に存在していた製薬会社ロドス・アイランドの元幹部の一人。

年齢、経歴など多くのことが謎の女性。フェリーンという猫耳をもつ人型の種族です。

医学をはじめ様々な学問をおさめたブレーンとして、本作では学校のバックアップをしてくれます。

その深い知識と経験をもとに、暴走ぎみの生徒たちをいさめる役割も担います。

(本作ではIF設定としてすでに引退しており、完全にフリーです。)

本作「新たなるゲートウォッチ」はファンコンテンツ・ポリシーに沿った非公式のファンコンテンツです。ウィザーズ社の認可/許諾は得ていません。題材の一部に、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の財産を含んでいます。©Wizards of the Coast LLC.
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