アストレアファミリアのハーレムクソ野郎   作:神崎せもぽぬめ

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 ダンまちの中でもここら辺のシーンは十指に数えられるくらいには大好きです。



第四話 覚醒道中

 

 

 

 

 

「し、死ぬかと思った…………」

 

 ベルは全身傷だらけのまま、帰路に着いていた。

 

 想起するのは、一年ぶりに会った血の繋がらない兄、ユースとのダンジョン攻略、そして苛烈を通り過ぎる程の地獄のしごきだった。

 

 ミノタウロスに対して無意識下でトラウマになっていなかったとしたら、恐らくユースは躊躇なくベルを中層へと連れ出していただろう。

 

 ベルが受けた地獄とは、そういう上級冒険者が徒党を組んでなんとか乗り越えられるか乗り越えられないかという境目の─────つまりは駆け出し(ルーキー)に対して、過酷な『試練』であったのだ。

 

 しかし、終わり際。ユースはヘトヘトのベルにこうも言っていた。

 

『ベル、ソロでのダンジョン攻略ってのは、こういうこともあるんだ。足りないものを補ってくれる”仲間”がいないのは、きっと思っている以上に孤独だぞ』

 

 ベル・クラネルには、エルフのような優れた魔法がない。窮地に頼れる起死回生の一撃は、ベルには微笑まない。

 彼には、ドワーフのような打たれ強さがない。どんな攻撃も受け止める前衛壁役(ウォール)に、ベルは果てしなく向いていない。

 彼には、小人族(パルゥム)のような優れた視野がない。暗闇を見通す優れた視覚を持たないベルは、ダンジョン攻略で不利に立たされる。

 彼には、獣人のような優れた身体能力(フィジカル)がない。鋭い蹴り、剛腕、聞き分ける聴覚と嗅覚、どれもベルには望めないものだ。

 彼には、アマゾネスのような闘争本能がない。田舎出身のベルは、戦闘経験が圧倒的に不足している。

 

 だが、無いもの尽くしのベルにあるもの。

 それは『逃げ』の選択肢である。

 

『ソロの良いところは、自分の命以外背負うものがないところだ。最悪怪物進呈(パスパレード)で場を切り抜けられるだとかもできるしな』

 

 意志を統一する必要はない。

 己の身一つで挑み、隠れ、逃げる。

 力量を正確に把握することで、ソロの生存率は格段に上昇する。

 

『まぁ、パーティメンバーはいつか必要になる。そういう”いつか”に備えて、自分で何とかできる事を増やしていこうな』

『良い事言ってる風にしてるが、お前のやってることは殺人と大差ないからな?』

『ごめん、輝夜………』

『謝る相手が違うだろう』

『ごめん、ベル………』

 

 ()()()

 

 そう、ベル・クラネルの冒険は始まったばかりなのだ。

 

 だから”いつか”素敵な仲間と出会い、パーティを組んで、様々な過酷を乗り越えて……それで………憧れの【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインへ想いを告げる。

 

 

 だから………

 

 

 だから……………

 

 

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインに釣り合わねえ」

 

 

 

 

 衝撃だった。

 

 真っ白になる頭に、爆発するように膨れ上がる羞恥。

 ただベルは、1秒さえも惜しむように、『豊穣の女主人』という酒場から外へ飛び出した。あの場にはアルフィアがいたというのに、置いていってしまった。

 

 

 けれど、そのことすら考えられない程、ベルは激情に支配されていたのだ。

 

 

 

 

 何を勘違いしていた?

 

 英雄候補に名を連ねるユースと、ただ理不尽に強いアルフィア、【フレイヤファミリア】に喧嘩を売りにいけるほどの強者であるザルド。

 彼らに育てられて、英雄への最短距離を歩めたつもりだったのか?そんなわけが無い!

 ”いつか”を唱えているうちは叶いっこないって、自分が一番分かっているはずなのに!!

 

『機会があったら、紹介するぞ』

 

 憧れの兄に紹介してもらえると浮かれていた自分を蹴飛ばしたい。

 

 いつかと唱えていた自分が目の前にいたらきっと、ベルは殴り飛ばしてしまうだろう。

 

 お義母さんが教えてくれた、兄さんの険しい道程(いぎょう)を知っている癖に、勘違いしていたんだ………ッ!!

 

 待ってるだけじゃ、その時は来ない。

 その時がきたって、今のベルじゃ惨めに逃げ出すだけだ!

 

 なら、一分でも一秒でも一瞬でも────高みに手を伸ばさなくちゃ駄目だろう!?

 

 

「う、うああああああああっ!!!!!」

 

 

 走る。奔る。疾走る。

 

 ダンジョンへ駆け込み、1階層を過ぎ、2階層、3階層………そして、7()()()

 

『ィィァア!!』

 

 すれ違いざま振り抜くナイフ。

 崩れ落ちるモンスターと、走り去るベル。

 

『………』

 

 幽霊のように佇む影、『ウォーシャドウ』の群れに囲まれる。

 けれど関係ない。関係ないんだ。

 あの人なら、兄さんなら、きっと華麗に切り抜けるッ!!

 

『………』

「くっ!?……ハァ!!」

『……!!』

 

 今のベルには回避しきれない『ウォーシャドウ』の長い爪の檻。

 見様見真似の回避の代償は、背中の傷で支払った。

 

「(痛い!痛い……けど!()()()()()()()っ!)」

 

 馬鹿みたいに熱い背中が、背中の裂傷を誤魔化してくれる。

 その熱に押されるのではなく、蹴飛ばされるような勢いでベルは突貫し、一振りで目の前の影を倒して包囲網から脱出する。

 

「(数は……()()……)」

 

 一体倒しても、残りは五体。

 

 無理だ!引き返そう!それが『ソロ』の利点だって、兄さんは言っていた!

 

 ベルの中にいる冷静な自分(ベル)は、怯えるよにそう告げた。────でも。

 

「(ごめん兄さん………アドバイス、守れないや)」

 

 尊敬する兄の助言を、金言を、初めて破る。

 

「(ごめんお義母さん………無事に帰って来れそうにない)」

 

 恋しくなる義母の温もりを、今だけは忘れた。

 

「(ごめん神様………でも!)」

 

 帰りを待つ主神を一人ぼっちにさせない。最初の約束。それすら破る訳にはいかない。

 

 だから!

 

 

「だからッ!!」

 

 

 ただ立つな!歩くな!走れ!!

 

 ベルが本当に、命懸けで!あの人の隣に立つ事を望んでいるのなら!!!

 

 

「うおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦────────♦♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルさんッ!?」

「…………」

 

 気が進まなかった。

 『豊穣の女主人』?嫌な女神(おんな)の匂いがする。

 けれど、ベルが、私たちの息子が、誘ってくれた食事を無下に断ることは出来なかった。

 

 フードを深く被る。

 それは当たり前のこと。

 何故ならアルフィアは、七年前の『正邪大戦』の重要人物。というか、闇側の最大戦力の一人だった。

 許されるはずがないその罪。それを共に背負ってくれたのは、もう一人の息子、ユースだった。

 

『いつかその罪が許されるどころか、お釣りがくるくらい、立派な偉業を成し遂げるからさ!』

 

 青臭く笑うようになったユースに、ほんの少しだけ俯いて、本心からの微笑を零した。

 

 だから、オラリオに来て、大人しくしているのは、アルフィアにとって当たり前なのだ。

 

 ユースの顔に泥を塗る、なんて。許されていいわけが無いのだから。

 

 アルフィアは、そう決意をしたのだ。

 

 でも。

 

 今、アルフィアは初めて、そんな己に対して無力を覚えていた。

 

「?なんだ、女ァ?」

「…………」

「……?ベート、待て」

 

 偉そうな羽虫(エルフ)が止める。

 

 関係ない。

 

 消えろ。

 

「そこの狼人(ウェアウルフ)

「んだッ──────」

 

 

 ────福音(ゴスペル)

 

 

「なっ………!!」

「ベ、ベートッ!?」

「ベートさああああん!?!?」

 

 無詠唱の方は早いが、精度が雑になるし、手加減が出来ない。

 

 よってアルフィアは詠唱をした。

 

 だが、それは類を見ないほどの超短文詠唱。

 魔法発動の起こりさえ見せぬ超絶技巧と、下手人の狼人(ウェアウルフ)のみを的確に狙うその不可視の音撃は、回避という選択肢を取り上げるようなもの。

 

 だがそれでいいと、アルフィアは思った。

 

「が、ァァ………ァ!!」

 

 手加減はした。

 だが、それは、レベル7という高みから見下ろす、アルフィアの一方的な裁定に過ぎない。

 

 どうやら発展アビリティ【魔防】は取得してないらしい。一撃で判別し、さらに精度を高める。

 

 店の出入口を超えて吹き飛び、メインストリートで倒れ伏す狼人(ウェアウルフ)は呻き声をあげていた。

 無理もない。不可視にして速攻の超火力を無防備に食らったのだ。数分は動けまい。

 

 だから、アルフィアはその数分で事を済ませる気だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 紛れもない本心だった。「嘘やない……」ロキの戦慄が、それを物語る。

 

 狼人(ウェアウルフ)のこの男の背格好や重心、加えて装備の豊富さから、脚を主軸として戦うスタイルだと見抜いたアルフィアは、本当に、これだけは親切心で言ったのだ。

 

 『お前の自慢の脚だけは勘弁してやる。だが、腕は貰う』と。

 

 そして自ら切り落とす。これも慈悲に違いなかった。

 

 最早『才禍の怪物』と呼ばれた頃の才能は発揮できないが、それでも剣士の真似事はできる。

 痛みもなく、切断するのは、アルフィアの細い腕でも可能だった。

 

「ハッ……ク……ソがァ………!」

「答える気力もないか?なら、私が選ぶぞ」

 

 そしてアルフィアは黒髪の凡人からいつの間にか奪った長剣を振りかぶり────

 

「そこまでだ、フードの君」

「全く……あの女神(ヘラ)の眷属は本当に行動が早い……」

「だが、今回の件は我々に責任があるだろう」

「…………」

 

 アルフィアの首、腕、脇。

 

 三箇所に突き出された武具はそれぞれ長槍、盾、杖。

 

 思考停止に追いやられた他団員よりも素早く現状を認識できたのは、フィン、ガレス、リヴェリアの三首領だけだった。

 

「二度は言わない。失せろ。今の私は、抑えが効かない」

「いいや、()()()()()()()()()()()。僕の名誉に賭けてもいい」

「……………どこまでも悪知恵の働く小人族(パルゥム)だ」

 

 掲げる剣を下げる。

 

 それを持ち主の足元に放り投げれば、黒髪の凡人は震える手でそれを拾う。

 

 どうやらアルフィアの正体に至ってしまったようだ。

 

「君の大切な人を、我々の不手際で危険な目に晒してしまったこと。ここに謝罪させて欲しい。申し訳なかった」

「………それで?」

「手打ちにしたい。ここの情報統制はもちろんする。その上で賠償金や武具、改めて謝罪の場を─────」

「必要ない」

 アルフィアは、今この場で暴れたい。

 

 この抑える激情の分だけ、報復を果たしたい。

 

 だから────それを飲み込む。

 それをしてしまえば、本当に取り返しがつかない。

 

「嗚呼………呪うぞ、この不覚」

 

 

 頭を下げ続けるフィンへ背を向け、アルフィアはその場を去った。

 

 そしてまだ間に合うと、()()()()()

 

 

 

 

 

 

♦♦────────♦♦

 

 

 

 

 

 

 

 誰もいない迷宮を走る。

 

 

 漆黒のドレスが大袈裟に揺れ、灰色のローブから顔が半分程はみ出しているが、気にしない。気にする余裕もない。

 

 夜半のダンジョンは静かで、だからこそ戦闘音の有無が分かりやすかった。

 

 まばらに落ちている魔石。回収されてないそれを辿り、何も聞こえないまま5階層まで下りた。

 

(ベル……)

 

 不安と焦燥に支配されかかる頭の中、まるで不吉な予感のように、ベルとの思い出が蘇る。

 

 初めて会った、七つの頃の幼いベル。

 

 最愛の妹と本当にそっくりで可愛く、でも瞳だけは妹を奪った男に似ていて憎く…………やっぱり愛おしかった。

 

(どこだ……!)

 

 流行病を患った時。

 

 初めて血の気が引いた。

 

 アルフィアと妹の先天的な病。

 それはスキルに悪性として発現してしまうほど強力なものだった。

 もしかしたら遺伝してしまったのではないかと、気が気でなかった。

 

 看病している間は、不安で夜も眠れない。

 ただただ、傍でずっと祈ることしか出来なかった。

 

(どこにいる………!!)

 

 笑顔を沢山くれる子だった。

 

 無愛想な自分を、母と慕ってくれる、そんな子だ。

 

 そんなあの子の命が終わっていいわけが無い。いいはずがない!

 

 アルフィアは自分に言い聞かせながら、しかし的確にベルの歩んだ道筋を辿っていった。

 

 そして。

 

(八階層……?)

 

 信じられないという思い反面、物的証拠は存在するという理性が働く反面。

 

 恩恵(ファルナ)を授かったばかりの人間に許されていい攻略速度じゃない。

 

 だが、アルフィアの耳に届いた僅かな金属音が、冷静な分析なんかを投げ捨てた。誰かが戦っている。ならそれはきっと……!!

 

「ベルッ……!」

 

 なりふり構わず走る。

 レベル7の身体能力を駆使しているはずなのに、遅く感じる。泥の中を泳いでいるみたいだ。それでも手足を駆使して走った。

「グッ……!」

 

 口端から血が零れる。

 

 とあるスキルの発現により、アルフィアは基本的に先天的な病からくる発作が発生しにくくなった。だが、それは安静時のみ、という制限付き。冒険者としてのアルフィアは死んだも同然。

 そして限界活動時間である15分を超過すると、発作が再発してしまう。またもや、病に蝕まれるのだ。

 

────だがそれは、足を止める理由にはならない。

 

 そしてようやく見えた景色の先で。

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 

 戦っていた。

 

 アルフィアの目から見ても危なっかしく、見てられないような拙い戦いっぷり。

 

 それでも吠えていた。

 

 ベルは、戦いを諦めてなかった。

 

「っ!もっと、もっと………!!」

 

 鼓舞するように叫び、果敢に飛び込む。

 

 モンスターの群れ。短い得物。不利な条件を数えればキリがない。

 

 でも、アルフィアは、目が離せなかった。

 

(14………そうだ。あの子()もう、14歳なのか……)

 

 それは、奇しくもあの時のユースと同じ年齢。

 雄々しい横顔に、血が滲む背中。

 けれど、闘志は絶えることのない。

 その瞳は、燃えていた。

 

(そうか………そう、か…………)

 

 同じだった。

 ベルも、いつの間にか男の顔をして。

 そしてアルフィアの元から飛び立っていく。

 

 寂しくはある。

 でも、嬉しくて………やっぱり寂しい。

 

(才能は……なかったはずだ)

 

 少なくとも、目を見張るような才能はなかった。

 ユースは異常なほどの吸収力を見せたが、ベルはそうではなかった。

 

 でも、今。

 

 こうしてアルフィアの予想を裏切り、冒険者としての階段を二段も三段も飛ばして、ベルは駆け上がっている。

 

 それを見て、アルフィアは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……世話が焼ける。貸してみろ」

 

『グギャァァァァァ!!!』

 

 音の速さで手の中から消えた短刀。

 

 聞き覚えのある声がすると同時。

 

 モンスターの大群は斬撃の雨の中で苦しみ、灰となった。

 

「手のかかる子……そう思っていたのは、やはり間違いではないな」

 

 灰の舞う迷宮の洞窟で、ベルは目を見開く。

 想像も出来ないほどの高みをベルに魅せつけたのは、他でもない彼の義母、アルフィアだったから。

 そのことを認識した瞬間、ベルは義母を置いて店から飛び出してしまったことを思い出した。しかも無銭飲食!

 

 やばい!怒られる!

 

「お、お義母さん……あの、ごめ───」

「何を惚けている?それよりも構えろ。夜半の迷宮は、モンスターが押し寄せてくるぞ」

「え、あ、うん!」

 

 放物線を描いた短刀をキャッチ。

 しっかり握り締めたそれを構え、無尽に湧く怪物へと、ベルは目の焦点を合わせ────

 

「違う」

「ったァ!?え、ナンデ!?」

 

 殴られた!?早すぎて見えない!!

 

「構えがなっていない。正面からの攻撃ばかり警戒してどうする?敵は四方から来るぞ」

「!!」

 

 ベルはようやく理解した。

 

 今だけはあの優しいお義母さんじゃない。

 元冒険者で、理不尽に強い、アルフィアとしてベルに接していることを!!

 

「脇を締めろ。半身に構えろ。得物は緩く持て。そんな様では断つものも断てん」

「はい!」

「そして、帰ったら説教だ。今日はまともに寝れると思うな」

「はい!………ぇええ!?」

「当然だ。私を置き去りにした罰だ。金も払ってない……これは明日にでも行くとするか」

「ば、罰……」

 

 滔々(とうとう)と語り出すアルフィアはどこか嬉しそうだった。

 ベルは早くも後悔しそうになる。

 

 汗を流し顔を青ざめていると、不意に、伸ばされた手が白い髪を梳く。

 

 ややあって、

 

「だから、もう少しだけ、一緒にいさせてほしい」

「………うんっ!」

 

 瞼が開かれ、美しい双眸がベルの背中を見送る。

 

 力強く踏み出したその一歩を、かつての『英雄』に見届けられながら、ベルは駆ける。

 

 険しくも厳しい、憧憬へと続く道を、歩み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 アルフィアさん無双を望んだ皆さん。申し訳ない!ベートさんの片腕(健在)で許してください!

 ちなみにフィン達がアルフィアの名を口に出さなかったのは、そういう配慮です。

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