アストレアファミリアの掛け合いをシリアスに書きたいのに、なんでこうなる……!!
『ブラックライノス』。
前傾二足歩行をする犀型のモンスター。全長は2
『デフォルミス・スパイダー』。
八本の長脚と複眼を有する赤紫の巨大グモ。特徴は見た目からも鋭いことが分かる凶悪な大顎。
51階層の主たるモンスターの情報は、予め脳みそに叩き込まれた。
なにせここは深層の───それも攻略の最前線に最も近い場所だ。知識はあるだけ良いのだ、とライラは言っていた。
そして迎える俺たちアストレアファミリアの初めての50階層以下の攻略は、滞りなく順調そのものだった。
「シィッ────!!」
鋼と同等以上の硬度である『ブラックライノス』は紙も同然のように斬り伏せられる。
返す刀で頭上から奇襲する
「『フォモール』より硬え……が、意外とアタシでも何とかなるな」
自作の爆薬と短槍で魔石を的確に潰したライラは冷静に分析を重ねる。
非力で役立たないという懸念が晴れた彼女の表情は、明るいに違いない。
「行動自体も、他のモンスターと明確に異なる部分は見受けられません。数で来られるのが最大の脅威でしょうか?」
「あとは打撃よりも斬撃が有効だね。私のオシャレな拳があまり通じないや……」
「蜘蛛の方は防御注意かもです……大顎もそうだけど、長い手脚が盾を避けて絡みついてくる………ドワーフにとって嫌な相手、です」
直ぐさま戦闘の所感を共有し合うのはリオン、アマゾネスのイスカ、そしてドワーフのアスタ。
ギルドから提供された情報に上乗せされた生きた情報は、冒険者にとって何よりも得難いものと言える。
「おっ、『ブラックライノス』の大角採れましたよ〜」
「やっと出ましたか……」
「あと何個なの?」
セルティとリャーナが魔法でモンスターの群れを薙ぎ払う中、黒々と光る歪な角を見付けたのはマリューだった。
「『デフォルミス・スパイダー』の大顎刃は7個、『ブラックライノス』の大角は一本、厚皮は二枚。『カドモス』系は無しかな」
リャーナの疑問に、ノインは諳んじてみせる。バックパックを管理している彼女にそういった抜かりは存在しなかった。
「ま、カドモスは泉にしかいないしな。どうする団長、泉に行くか?」
「…………」
「団長?」
『
『力』だけなら『
泉水を縄張りとする
その
ネーゼは
少し間を置いて、彼女は言う。
「……ごめん、みんな、ここで引き返しましょう」
『!!』
「理由はわかんないけど、
自身も説明の術を持たないアリーゼは、心の警鐘に従ってそう叫んだ。
こういう冒険者の本能のような焦燥に突き動かされるアリーゼは度々ある。
理論とか理屈を二個か三個すっ飛ばした、フィンに近い『虫の報せ』のようなものを感じ取ってしまう
もし従わなかったら…………という未来も想像したことはあるが、現実になったことはない。
なぜなら、俺たちはどんな突飛な理屈だろうと、
『了解!』
「ありがとう、みんな────全速力で引き返すわ!50階層に!!」
瞬間瞬転。
来た道を倍以上の速度で駆け抜ける。
51階層以下の層域は、所謂『迷路』型だ。
不揃いかつ巨大な段差、丁字路に、三つも四つも枝分かれする道、錯綜する天然の巨大迷宮。
それらから瞬時に正解を導くのは我らが参謀のライラの知恵、そしてここぞと光るアリーゼの直感だ。
ドロップアイテム採集の為敢えて正規ルートから外れていた往路。復路では正規ルートを探し当てて、最速の帰還を目指す。
先頭はアリーゼ、殿は俺。
すれ違うモンスターを一蹴し、行進を続け─────
「何あれッ!?気持ち悪いわ!」
「芋虫………?」
「恐らく、新種のモンスターでしょう」
巨大な芋虫と形容するのが相応しいその容貌に体躯。
極彩色の紋様が毒々しく刻まれている黄緑の体表は、何かが詰まっているようにぶくぶくと波打つ。
4
虫嫌いなやつには越えられない
「気持ち悪ぃモンスターだなっ!」
「斬ってしまえば、ただの灰だ!」
ライラの
が、しかし。
「っ!?」
「───自爆!?」
「ちょっ、輝夜!?」
恐らくはあの芋虫モンスターの後ろを斬りつけた一撃の後、輝夜の至近距離でその巨躯が
いや、爆発の威力は問題じゃない!
問題はその後!黒と紫の
ライラは助かった。
得物の
しかし、輝夜は────
「くっ、うぅ、これ、はッ───!!」
特殊効果を有する液体だと察した輝夜は、避けきれないと判断し、自分の
だが、その液体の溶解力は想定以上だった。
「アリーゼッ!
「アッ、はい!───【アガリス・アルヴェシンス】」
聖剣、抜剣。
煌々たる輝きを放つ愛剣『
最後尾から疾走を開始する俺は、聖剣をアリーゼの炎鎧へと突き刺し、
聖剣、焔光。
「熱を帯びろ、
この剣には、アストレア様の
その血で繋がっている限り、例え他者の魔法でも、力になってくれる────巡る正義の如く!!
振り抜く。
渾身の力と、煮え滾るこの
「
♦♦────────♦♦
「輝夜、平気!?」
「だ……ん……ちょ……」
「って服がほぼ溶けちゃってるわ!!これじゃ痴女じゃない!胸もポロリよ!ポロリ!」
「う……る……さぃ……!」
「アリーゼちゃんちょおっと黙っててねぇ〜」
金属すら容易に溶かした液体を至近距離で浴びた輝夜の容態は、第一級冒険者の
あられもない姿に卒倒しかけるアリーゼだったが、マリューによって力ずくで黙らされた。
皮膚を徐々に溶かし、時々呻吟の声を上げる彼女を診るのは、アストレアファミリア唯一の
彼女は痛みに呻く輝夜にそっと手を翳し、
「【
マリュー・レアージュ。
Lv4である彼女は、純粋な回復能力という分野において『銀の聖女』アミッド・テアサナーレや『黄金の魔女』ヘイズ・ベルベットの『オラリオ二大
しかし彼女が真に優れているのは治療効率だった。
損傷の状態を深く知ることで治療効果と効率を上げるスキル【
この二つを併用することで、最小の痛みで最大の癒しを施す、都市でも有数の
「【苦悩の羽、悲哀の檻。全ては慈愛の抱擁の中】」
「【痛みを認め、傷を癒し。過去を認め、明日に生きよ】」
「【死は遠く、闇は淡く、貴方に星光の施しを───闇夜を照らせ】」
「【レア・ヴィンデミア】!!」
暖かな魔力光が注ぎ、輝夜から苦痛を取り去る。母なる慈愛の如く、傷を癒す姿は天使のよう。
重傷だった輝夜の容態がみるみると改善し、瞬く間に完治。痛みに耐えていた表情から険が取れる。
そのまま深く寝入ってしまいそうになるが、治ったのならば、と輝夜は直ぐに目を開いた。
「ダメよ輝夜ちゃん、今は魔法効果の麻酔が効いてるけど本来なら暫く安静よ。腕なんて溶けすぎて骨が見えてたのよ?」
パーティーの命を預かる
だが、それを聞いて止まる輝夜ではない。
「そんなもの知るかっ………あのクソ虫共には借りを返さねば、怒りのあまり自死してしまう!!」
輝夜はキレていた。
大事な
大事な大事な愛刀『彼岸花』も無惨に溶かされ。
そして───最も大切な、ユースからもらった簪さえ、もうこの世には無くなってしまった!!
死ぬ寸前に自爆する最悪の性質を持つあの芋虫では、この赫灼たる激情をぶつける
予備の武装である短刀『双葉』を犠牲にして、せめて一矢報いてみせる───と意気込んだが。
「えーとね、輝夜。あの芋虫ーズは今、ほら」
あっち、とアリーゼが指差す方向では。
蹂躙劇が繰り広げられていた。
「おいユース!やり過ぎ───って聞け!おい!」
ライラの制止の声が届いていたことすら怪しい程の激闘。
爆ぜて解き放たれるはずの凶悪な溶解液も瞬時に蒸発するほどの火力で、ユースは強引に道をこじ開けていた。
蹂躙である。
それ以上の言葉が見つからない程の、蹂躙である。
「………」
「あのね、輝夜。わかった?」
「………言うな」
「ユースがね、輝夜の姿見てもう怒っちゃってみたいで」
「………言うんじゃないっ」
「私も『アリーゼ!魔法使え!』って言われて思わず敬語使っちゃったのよねー!ちょっと怖くて今もドキドキしてるわ!もーホント、愛されてるわねえ!!」
「ぐうぅぅぅぅぅああああああ!!!」
アリーゼ の 真相 暴露 !!!
輝夜 に 0 の ダメージ!
輝夜 は 謎の高鳴り に 襲われた!!
輝夜 に 1000000 の ダメージ!!!
「ッ輝夜ちゃんの心拍数が激的に増加してる!!不味いわね……【
「カルテの死因の欄に『キュン死』って書こうとするなアホヒーラー」
「末代までの恥になるからやめとこー?」
「ていうかその理屈だと輝夜が末代じゃん」
ボロクソに言い放つのはライラ達。
それは、輝夜がマリューの手によって救われていなければ死体蹴りと言われている行為だった。
「何故輝夜はあんなに悶えている……?」
一方このやり取りに首を傾げているのはリオン。
『学区』に教科:恋愛が存在すれば間違いなく赤点。あの
リオンは素直ないい子である。
多少潔癖のきらいはあるが、ドが六つ付くくらい真面目な妖精である。
なので、彼女は分からないのなら聞けばいいじゃん、と結論付けた。
誰に?
かぐやに!!(りゅーりおんちゃんにじゅういっさい)
「輝夜、貴女はどうしてそんなにも苦しんでいるのですか?」
「や、やめろリオンッ!?」
「確かに淑女として、こんな野外に己の裸体を晒してしまう悲劇は理解できますが……」
「それ以上近付くなァ!私の傍に、近寄るなァーー!!!」
「自らの
「────」
「お前もうホントは分かって言ってんだろ!?輝夜息してねーぞ!!」
「輝夜が死んだわ!この人でなし!」
「死体蹴りどころか超火力ぶっぱなしてきた!?火葬まで一気に済ませるつもりでしょ!」
「本当に死因に『キュン死』って書かないといけない……?」
「『恥ずか死』も追加する必要がありますね、これは」
「わ、私はやりすぎてしまった……?」
もうお前は黙ってろ、とライラに猿轡をされたリオンはシュンと萎れてしまった。
「ま、リオンのことは放っておきましょう。幸い、ユースは見ての通り暴れてるし、50階層に着くのは時間の問題ね」
彼女達はかなりハイペースで正規ルートを逆走────つまり50階層へ戻る最短ルートを走っている。
先頭で芋虫モンスターを殲滅し続けているユースがこれ以上加速してしまうと
一度脇道から芋虫モンスターが襲ってくるアクシデントもあったが、一番近くにいたライラではなく、何故かユースに釣られていく習性を見せたことで、一行は『魔力』に惹かれる性質があることを看破。
ここでユースに負担がかかり過ぎることから、下げるべきでは?という意見が出てきたが………
アリーゼは現状維持を主張する。
「何か気付かない?みんな」
「じれってぇ話はやめにしてくれアリーゼ。結論が知りたい」
「まぁそうよね、ごめんなさい。とりあえず結論から言うと、多分、50階層の
アリーゼは辿ってきた道が50階層への最短距離であることを簡潔に話す。そして芋虫モンスターは彼女達の常に前にいた───大量の数が列となって。
「恐らく50階層には今まで以上に大芋虫が雪崩込んでいる
「しかしアリーゼ!今のままではユースにだけ負担が………!!」
「もー忘れちゃったの?ユースの『スキル』よ!リオンったらおっちょこちょいね!」
リオンの危惧に、しかしアリーゼは無い胸を無駄に張ることで対抗した。
彼女は高らかに言う。
「ユースのレアスキル【
「というかやけに説明口調だなっアリーゼ?」
「少しはユースの力をみんなに言っておかないとね☆バチコーン」
「皆?……誰?」
「さあ?分からないわ!これも『直感』よ!」
「勘って便利すぎでしょ!!」
ネーゼはヤケクソ気味に叫んだ。
「そろそろ抜けるッ!」
先頭のユースが叫ぶと、傾斜面の岩壁が見えた。
50階層と51階層を繋げる坂という名の崖は、下る分には一足飛びで駆け下りればいいが、登る分には少し苦労がいる。
「っ!!」
既に聴こえてくる戦闘音と悲鳴に焦燥を募らせながらも、ユース達は手を使わずに跳躍の連続で坂を駆け上がる。
見えてきたのは、完全なる未知だった。
「なん、だアレ……!?」
「蛇……いいえ、
野営地を構えた一枚岩。
その周囲を取り囲むのは無数の芋虫モンスター。あれほどユースが屠ったというのにも関わらず、未だその数は健在であるという。
そして、蛇に酷似する長大な新種。
頭部と思わしき先端部分に、ピッ、ピッ、と幾筋もの線が走り────花のように咲いた。
『オオオオオオオオオオオオ!!!!』
空の無い天井を仰ぎ、
開かれた花弁は極めて毒々しい。
中央の牙がある巨大な口が、花は花でも、人を喰らう『食人花』であることを雄弁に語っていた。
そんなモンスターが地面を押しのけて地中から次々と出現する。
手足のごとく振り回す触手が灰色の森林を壊し、その巨躯を蠢動させて向かうのは
だが問題はそれだけではない。
およそ6
芋虫型モンスターを二回り大きくした体躯に、しかし明確な違いがあった。
小山のように盛り上がっていた上半身に、余りにもおぞましい女性を模したものが乗っかっているということ。
腕の代わりに扁平状の触手が四枚二対あり、頭髪を再現したつもりか、何本も垂れ下がる管が後頭部に生えていた。
これで人類を模倣したつもりなら、作者は明らかに喧嘩を売っているだろう。何せ人体に必要不可欠な目と口が無い。
だと言うのに顔面部分と思わしき部位が分かってしまうのだから、不気味にさえ感じる。
「女型芋虫……?」
「どっちかって言うと
それが
まるで待ち構えていたように、巨立していた。
『────』
『────』
『────』
そしてそれらはまるで祝福を授ける聖女の如く、扁平腕を広げる。
舞い上がるのは光粒。
それらは夜天に浮かぶ星々のように
「ぐうぅッ────!!」
「ばっ……!!」
凄まじい熱気と共にダンジョン内に吹き抜ける爆風。
狙われている訳ではないのにも関わらず、影響はここまで届いた。信じられない威力、ロキファミリアは無事なのか?
錯綜する思考、感情、そして戦慄。
だが、そんな時間すら、未知は与えてくれなかった。
『『『─────』』』
目も鼻もない表情が語る。
「「「「「「ッ!!!」」」」」」
───Tips───
ユース(・アストレア)
『スキル』
【
・魔力炉心。
・疲労に対する高耐久。
・雷属性の高補正。
・被雷時、
マリュー・レアージュ
『魔法』
【レア・ヴィンデミア】
・快癒魔法
・詠唱式
【苦悩の羽、悲哀の檻。全ては慈愛の抱擁の中】
【痛みを認め、傷を癒し。過去を認め、明日に生きよ】
【死は遠く、闇は淡く、貴女に星光の施しを】
【闇夜を照らせ】
【サーチ・ライト】
・診断魔法
・知識の丈により、効果は変動。
・詠唱式
【
『スキル』
【
・損傷状態の把握度合に比例し、治療効果の上昇。
・損傷状態の把握度合に比例し、魔法効率の上昇。
・魔法効果範囲の広域化。範囲はレベルに比例。