今回はぽやみさん突撃回です
それではどうぞ
「着いた。ここがスターリーか…」
私はぽいずんやみ。音楽ライター(自称)だ。
今、下北沢のライブハウス、スターリーの前に立ってる。
秀華高校の文化祭ライブで、ダイブ失敗した女子高生バンドのネタ記事を取材しに来た。
……本当はこんなクソ記事書きたくないんだけどね。
道中を思い出すと、ため息しか出ない。
最初は学校特定から始めた。
ダイブ動画の背景に映ってた校章と制服から、秀華高校だってわかった。
正門辺りに待ち構えて、秀華高校の生徒たちに何人かに聞き込みしたが、進展はない。
校内に侵入して聞き込みしようとした矢先、秀華高校の先生たちが数人駆けつけてきて、事情聴取。
「生徒に迷惑をかけるな」「次不法侵入したら警察に通報する」って言われて追い出された。
私…ただの取材だったのに……
三文記事書くために高校侵入とか……自分最低すぎるわ…
(本当はロッキンとかギタマガの編集者になりたかったんじゃい……!!いいバンドのライブレポート書いて、インタビューして、読者に「このバンド知らなかったけど聴いてみよう」って思わせたかったのに……なんで今、女子高生ダイブ失敗のネタ記事書いてんだよ……ちくしょ━━━━━━!!)
…でも中学生って言われた。
あたしもまだまだいけるな……へへっ♪
(痛い格好してるかいあったわ。今度から14歳って名乗ろう…)
私は秀華高校の正門前で先生たちに追い出されたあと、とりあえず近くの適当なカフェに入った。
店内に入って、注文した後にスマホを取り出した。
(…にしても学校入れなくなっちゃったしどうしよう…あっ動画載せてた子にきけばいいじゃん!)
トゥイッターで動画の投稿者を探すと、アカウントはすぐ見つかった。
早速DMを開いて、テキトーに打った。
『はじめまして、音楽ライターのぽいずん♡やみって言います!文化祭ライブのダイブ動画、拝見しました!例のダイブしてた女の子について少しお話聞かせてもらえませんか?名前とかバンド名とか取材させてください!』
よし…送信っと。
すると、1分もしないうちに返信が来た。
『えっライターさんすか!?すげぇww』
『確か後藤さんとかいって【結束バンド】とかいうバンドっすwww』
…あっさり名前もバンド名も全部開示してきた。
私はスマホを見つめて、呆然とした。
(今時の若い子口軽すぎない?DMでいきなり個人情報ペラペラと話して…ネットリテラシーとかないんかねぇ)
でも、内心ホッとした。
これで記事のネタは揃った。
調べたらスターリーってライブハウスで、今日やる予定だって。
あとは取材に行けばいいだけ。
私はフラペチーノを一口飲んで、トゥイッターを開き、ネタトゥイを打つ。
『高校に不法侵入しようとして追い出されちゃった⭐︎』
投稿。
すると、すぐにリプがいくつか来た。
『草』
『ぽいずんまたやらかしたwww』
『不法侵入未遂乙』
私はため息をつきながら、スマホをポケットにしまった。
(人のこと言えないな。私も…高校に不法侵入しようとして追い出された人間が、ネットリテラシーとか語る資格ないわ……)
そのままカフェを出て、スターリーに向かう。
(とりあえず、取材してクソ記事書いて……生きていくしかないか……)
スターリーの前に到着、そして今に至る。
私は深呼吸して、ドアを開けた。
……よし、行くか
「こんにちは〜!」
◆
【結束バンド】のライブ前、その女は突然現れた。
「ばんらぼってバンド批評サイトで記事書いてる者ですが、【結束バンド】さんに取材お願いしたく〜。あっあたしぽいずん♡やみ14歳で〜す⭐︎」
現れたのは、黒髪に派手なピンクのインナーカラーが目立つ、姫カットでハーフツインの髪型。
ロゴプリントの入ったロングスリーブカットソーに黒ニーソ、首に包帯を巻いた萌え袖の女性。
店内が一瞬、静まり返った。
PAさんがカウンターから出て、冷静に声をかけた。
「アポとか取ってらっしゃいますか?」
「ごめんなさ〜い☆とってないですぅ☆」
ぽいずん♡やみは、ニッコリ笑って名刺を差し出した。
「アポ無し突撃取材です〜♡下北沢で活動中の若手バンド特集記事を書こうと思ってまして〜⭐︎ちゃちゃっと終わらせますんで〜!」
『取材』
その言葉に虹夏の目がキラキラ光った。
喜多も虹夏に抱きつきながら、キャッキャとはしゃいだ。
「え!? 記事!? 私たちに取材!?私たちってもうそんなに注目されてるの!?あっ…ありがとうございます!」
「伊地知先輩凄いですね!」
やみは、スマホの録音ボタンをオンにして、早速質問した。
「じゃあしつも〜ん!今後の【結束バンド】の目標は?」
「メジャーデビュー!」
「エンドース契約して、タダで楽器もらう」
「みんなでずっと、楽しく続ける事かしら」
「あっ…世界平和…」
全員の答えがバラバラで、具体的な活動目標はゼロ。
やみは、この時点で【結束バンド】に見切りをつけ、棒読みで取り繕った。
「夢がいっぱいなのは素晴らしいですよネ⭐︎」
(…所詮お遊びバンドか。目標はあやふやで方向性ゼロ…PV取れるネタ以外価値なさそう…まあいいや、本題行くか)
やみは、ニコニコしながらひとりに視線を移した。
「あっ…そういえばギターの方って、少し前にダイブで話題になった人ですよね?」
「あっあ…えっ…!!?…ダ…ダイブ!?」
「あれ〜?知らないんですか〜?ネットに文化祭ライブのダイブのシーンが転載されてたんですよ〜☆ホラこれ♬」
「あっえ!?…い…いつの間に!!?」
ひとりは、突然矛先が自分に向きパニックになる。
そして初めて、SNSで自分のダイブシーンが公開されてると知り、驚愕するひとり。
だが、そんなひとりの事など気にもせず、取材と称して根掘り葉掘り聞き出すやみ。
「何であの時ダイブしたんですかぁ〜?普段のライブからダイブしてるんですかぁ?」
「あっえっ…」
「あの〜…このキャラは設定でぇ…聞こえてます?何か喋ってください〜」
虹夏は、ライターの興味が自分たちから消え失せたことを悟り、すぐに警戒モードに入った。
(……この人ひょっとして、バンドの取材じゃなくて…ぼっちちゃんをネタにした記事書くつもりなんじゃ…幸い初めて見る人種にぼっちちゃんが心閉ざしてるからよかったけど…)
「伊地知先輩…」
「……」
「店長。変な子入って来ちゃったんで、注意してくれません?」
「…ったく。しゃーねェな…」
喜多も最初は取材と浮かれていたが、虹夏の表情を見て少し不安げになった。
リョウは、少し離れた場所でスマホをいじっている。
PAさんが星歌に声をかけ、注意を促す。
星歌はカウンターから立ち上がり、ゆっくり声をかけた。
「すみません。うちでの迷惑行為はやめてもらえま…」
「ふぇ…ごめんなさい…」
(ふぇ!?)
ぽいずん♡やみは、即座にぶりっ子モード全開。
目をうりゅうりゅさせて、両手を胸の前で合わせて肩を震わせる。(ギトギトの演技)
星歌は、内心で(きもちわりー!!)と思いながら、若干引き気味で言った。
「セツドアルコウドウオネガイシマスネ…」
「はぁ〜い♡」(チョロ☆)
(おねーちゃんの役立たず!!!!)
虹夏は姉が役に立たないと悟り、咄嗟に大声を出した。
「……みんな!そろそろライブの準備しなきゃ!」
「あっそうですね!」
「ぼっちちゃんも行こう!すみません。後はライブ後でいいですか?」
虹夏はひとりを引っ張って、楽屋の方へ向かう。
喜多とリョウも、虹夏の後ろについてくる。
ぽいずん♡やみは、ニコニコしながら手を振った。
「わかった〜♡ ライブ後で待ってるね〜!楽しみにしてるよ〜♡」
ドアが閉まった後、虹夏はひとりの手を握ったまま、楽屋で立ち止まった。
「ぼっちちゃん大丈夫?あの人、なんか怪しいよね」
ひとりは、無言で頷くだけ。
そんなひとりを、虹夏は抱きしめた。
「大丈夫だよ。私たちがいるから…あの人にぼっちちゃんをネタになんかさせない。ライブで、最高のステージ見せて…あの人も黙らせよう」
「…あっはい」
楽屋の扉の向こうで、ぽいずん♡やみの笑顔が、まだ残っていた。
でも、結束バンドのメンバーたちは、決意を新たにした。
ライブで───音で、勝負する。
【結束バンド】の音で、心を掴んで、ネタ記事なんて吹き飛ばすと。
◆
ふぅ…なんとか記事になりそうでよかったわ…
ダイブ失敗ネタと、メンバーたちのバラバラな目標。
適当に盛れば、PV取れるクソ記事完成だ。
よし、一安心。
………でも、ライブを観ていかなきゃいけないのは…ぶっちゃけだるい。
(早く帰りたい……この子たち、レベル低そうだし…観てても時間の無駄かも……)
私は、スマホをいじりながら、ぼんやりステージを眺めた。
ステージライトが点き、ドラムがカウントを刻む。
色々考えてるうちに、1曲目が始まった。
ドラムは、さっきの金髪の子か…
最初からテンポが少しもたついてる。
キックが弱くて、リズムの土台がふわふわ。
ミスったらテンパってるのが伝わってくる。
ハイハットも開きが甘くて、シャープさが足りない。
(ドラムは基本のフィルインすら安定してない。これじゃリズムセクションとして機能してないよ。ガッカリ…)
次に、赤髪の陽キャっぽいギターボーカルの子…
声が楽器の音に負けてる。
カラオケレベルで、ビブラートが浅いし、ピッチが少し不安定。
バッキングギターもお粗末。
コードの押さえが甘くて、音が濁ってる。
ストロークのタイミングがドラムと合ってない。
(ボーカルは声量ないし、表現力ゼロ。ギターも初心者丸出し……これじゃあインディーズの底辺だよ。酷評せざるを得ないわ…)
そしてリードギターは、例のダイブ動画のピンクの子。
最初は音がバラバラで、他のメンバーと合ってない。
ストロークのキレはあるけど、全体のアンサンブルが崩れてる。
(リードギターも合ってない…基本技術は完璧っぽいけど、音がズレてるだけで台無し…もったいない……これじゃあライブとして成立してない…)
ベースの青髪の子だけは唯一文句なし。
低音が安定してて、グルーヴを作ってる。
スラップも滑らかで、指弾きのニュアンスがいい。
(ベースは相当上手いわね。今の時点でメジャーでもなんとかやっていけるレベルだし、高校生ってことを考えれば、まだまだ伸びしろも期待できる。この子がいなかったら、完全に崩壊してる……)
なんか【結束バンド】…全体的にレベル低いな。
ベースの子は頭一つ抜けてるけど、総合的に見た場合、インディーズにも声がかからないレベル。
正直言って、普通の学生バンドに毛が生えた程度。
(前言撤回。これじゃ記事にならないわ…ダイブ失敗ネタだけじゃ弱い。正直がっかり…この子たち売れる気配ゼロじゃん。あ~あ…時間とチケット代無駄にした…)
………そういえば、あのダイブの子のギター… SchecterのPA-SXじゃん。
ギターヒーローさんの新しいギターと同じやつだ…
意外と使ってる人多いのかな?
…まぁどうでもいいけどね。
私はため息をついて、スマホで時間を確認した。
(……あと何曲でライブ終わるんだろ…早く帰りたい……でも取材するって言っちゃったしなぁ…)
その時──────
リードギターのギターサウンドが、ふと耳に刺さった。
キレのあるストローク。
Schecterの太くて鋭いトーン。
そして……【NEW GLORY】のNaokIを彷彿とさせる演奏のクセ。
(ん?この音…聞き覚えが。ストロークの切れ味…ピッキングの角度…ビブラートの入れ方…これ
私はスマホを見ていた顔を上げ、ステージに…リードギターに視線を集中させる。
リードギターの指の動き。
音がズレてるだけで、基本的な技術は完璧。
いや…完璧以上だ。
速弾きの精度、感情の乗せ方、弦の鳴らし方…
全部ギターヒーローの動画で何度も見た、あのスタイル。
(…噓でしょ?…まさかあの子…)
胸が高鳴った。
ライブが続く間、私はリードギターから目を離せなくなった。
他のメンバーのミスが気にならなくなるほど、リードギターに引き込まれた。
(この音、生で聴くとヤバい…!…間違いない!)
そしてライブが終わり、しばらくして【結束バンド】のメンバーが出てきた。
例のダイブの取材など、もうどうでもよかった。
私は、リードギターの子に近づいた。
「あのっ!!その…まさか、まさかとは思ったんですけど…その歌うようなギタービブラートのかけ方、所々に滲み出る演奏のクセ…絶対そう!間違いない!」
これは……大スクープだ。
「あなた……ギターヒーローさんですよねッ!!」
私は、興奮で輝き胸が高鳴った。
◆
直樹は、東京ドームの駐車場から自家用車をゆっくりと走らせ下見を終えた。
追加公演初日の東京ドーム。
前日リハーサルや機材チェック、スタッフとの打ち合わせは予想より早く終わった。
いつもならメンバーと軽く食事に行ったり、東京からそのまま金沢八景の自宅に帰るが、今日は違う。
胸の奥に、ずっと引っかかっていたものがある。
(……ひとりのライブ……今日も行けなかった……)
ロインで娘に『今日ドームのリハでお父さんも東京行くから、時間が空けばライブ観に行くよ』というメッセージを送った直樹。
(せめて、ひとりの迎えにだけは行こう。とりあえずロイン送ろ)
『ごめんなひとり。ライブには行けなかったけど、迎えには行くから。スターリー近くのパーキングで待ってるよ』
『わかった。○時までにそっちに行くから待ってて』
『了解』
直樹はナビをセットして、下北沢方面へ車を走らせた。
しばらくして、スターリー近くのパーキングに到着。
目立たないように、メガネとマスクを着用しようとしたが……
(しまった……2つとも忘れた…まぁいいか。ひとりが来るまで、とりあえず車で待ってよう)
車から出なきゃいけない状況になったら、帽子を深く被って、なんとか誤魔化すしかない。
駐車場に車を停め、エンジンを切った。
◆
「…………さすがに遅いな。もう1時間近く経ってる…」
時計を見る。
ロインの会話から時間が経ちすぎている。
少し心配になった。
(ちょっと様子を見に行くか。こそっと行って、ひとりを迎えに行けばいい……帽子深く被ってるしバレないだろ…)
直樹は、帽子を深く被り直し車を降りた。
夜の下北沢。
人通りはそこそこあるが、ライブハウス周辺は少し賑やかだ。
スマホのナビアプリを見ながら数分歩いていると、スターリーの看板が見えてきた。
(ここか…ひとりが頑張ってる場所。………よし行こう。全員が全員【NEW GLORY】のこと知ってるわけじゃないだろうし、大丈夫だろ…)
直樹は、静かにスターリーの扉を開けた。
このあと、何が起こるかも知らずに…
今回も見てくれた方、ありがとうございます!
変更点としては、ぼっちちゃんの腕前はもちろん、リョウのベースの腕前も向上してます。
台風ライブ以降から、曲作りと並行して毎日一時間は必ず自主練をするようになりました。
そしてぼっちちゃんの楽器屋試奏から火がついて、反復練習や自分の世界に入り込む癖を矯正して、音を合わせる努力をした結果、メジャーデビューしてもやっていけるくらいの実力になりました。
音楽にストイックなリョウならこれくらいはするだろうと思い、変更しました。