娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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感想欄が予想通りの反応すぎて草

今回はお待ちかねの親子バレに対する結束バンド、大人組、ぽやみさんのリアクション回です
今回の話は、結構長くなって、途中でダレる可能性が高かったんで、二分割にしました。
この話の翌日に14話投稿します。

それではどうぞ


13

 

 

 スターリーの店内は、もはや収拾がつかない大混乱に陥っていた。

 

 世界最高峰のロックバンド【NEW GLORY】のギタリスト・NaokIの予期せぬ生身での登場と、それを受け止めたひとりの消え入りそうな「あっお父さん…!」という禁断の一言。

 

 その2つの激震がほぼ同時に炸裂したことで、フロアにいた全員の脳が一斉に過電流で焼き切れ、完全にショート。

 

 そのあと、スターリーを物理的に震わせるほどの轟音で、誰一人として例外なく全員が大絶叫をあげる破目になった。

 

 中でも、これまで【結束バンド】のリーダーとして気丈に振る舞い、ついさっきは悔し涙を流していたはずの虹夏は、あまりにも唐突かつ巨大すぎる衝撃事実の前に、完全に情緒がおかしくなっていた。

 

 

「うわっうわっうわ…うわああああああああああああ!!!NaokI!?いやNaokIさん!!?本物!?本当に【NEW GLORY】のNaokIさん!!!?え!?えっえっえっ!!?えええええ!!!?【NEW GLORY】のNaokIさんが!?ここに!?スターリーに!!?そしてギターヒーローの…お父さん!?そしてぼっちちゃんの…お父さん!?つまり親子!!!!??…うわああああああ!!!どっちも好き!どっちも大好き!NaokIさんのギター!ギターヒーローのギター!つまり同じ血!?同じ遺伝子!?うわああああああ!!!脳が!脳がバグる!!!おかしくなる!!NaokIさん!ギターヒーロー!ぼっちちゃん!お父さん!【結束バンド】!!!【NEW GLORY】!!!!うわああああああああ!!!わああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 目の前に立つ【NEW GLORY】のNaokIと、その傍らで涙目で口を押さえているひとりの姿を交互に見つめながら、虹夏は上半身を激しく揺らして両手をバタバタと痙攣させ、床の上をぴょんぴょんと壊れたおもちゃのように可愛く飛び跳ねた。

 その感情の暴走と同期するように、彼女の頭のてっぺんにあるトレードマークのアホ毛が、もはや業務用扇風機くらいの超高速でグルグルと爆音を立てて回り、ただ大声を叫び続け、口から放たれる言葉がぐちゃぐちゃのドロドロになっていく。

 

 世界一好きなバンドのギタリストが、あのひとりの父親。

 その狂気的な因果関係を処理しようとした彼女の脳内は、興奮と混乱で完全に思考が全壊しており、完全に文法崩壊を起こしていた。

 

「好き!好き!すごい!すごいすごいすごいすごいすごい!!!!!! お父さん!ギター!遺伝!うわあああ!!!」と、視界がうるうるに霞むほどの勢いで狂ったように飛び跳ね、その弾みでドリンクカウンターの固い天板に頭を勢いよくぶつけそうになる。

 

 

 次にそのキャパシティを超えた衝撃を受けたのは、喜多だった。

 

 喜多は、その綺麗な目をこれ以上ないほど丸くして、入り口に立つNaokIと、横でおどおどしているひとりを交互に何度も何度も見つめていた。

 興奮の過電流によって顔が耳の付け根まで真っ赤になり、両手を自身の柔らかい頰に当てて、フロア全体に響き渡る大声を張り上げた。

 

 

「え……えええええ!?ひとりちゃんのお父さんが……【NEW GLORY】のNaokIさん!!?…あぁ!だからひとりちゃんの家、あんなに大金持ちで、【NEW GLORY】のCDやBlu-rayがいっぱいあったんだ!!そりゃあ父親がバンドメンバーでタダでもらえるから【結束バンド】全員に配布してもノーダメージよね!…うわああああ!!!ひとりちゃんすごい!私、こんなすごい人のバンド仲間だったんだ!」

 

「あっえっ!喜多ちゃん!?」

 

 

 あの日、あの高級住宅街の要塞みたいな大豪邸で目撃した、未開封のままのプレミア物の限定盤やデビュー前の廃盤グッズの山。

 それら全ての謎が、目の前の絶対的な存在によって瞬時に氷解したのだ。

 喜多も嬉しさと興奮で完全に涙目になりながら、パニックを起こしているひとりの身体に向かって、勢いよくギュッと抱きついた。

 

 

 そしてそれは、リョウも例外ではなかった。

 

 ついさっきまでやみの個人情報をハックし、誰よりも毅然とした態度で立ち塞がっていたリョウは、これまでの人生で一度も人に見せたことのないレベルで激しく取り乱して、隠しきれない狼狽えが全身の表面に出てしまっている。

 いつもは省エネでクールに一言二言しか言わないリョウが、珍しくその声を小さく震わせて呟いた。

 

 

「【NEW GLORY】…NaokI…本物?…そしてぼっちが…NaokIの娘?…ヤバい…規格外にも程がある…」

 

 

 リョウは興奮で言葉が途切れ途切れになりながらも、フラフラとひとりの方へ近づこうとして、テーブルに思いっきり足をつまずかせて派手に転びそうになる。

 普段のクールさが完全に木っ端微塵に崩壊して、子供のように珍しく狼狽えまくってるリョウの姿を前に、抱きつかれているひとりは、驚きのあまり一瞬だけ涙を忘れてポカンとした表情を浮かべてしまうのだった。

 

 

 そして、あの金沢八景の花火大会の夜にひとりの最初のファンになってくれたファン1号とファン2号の二人は、スマホを壊れ物のように握りしめたまま、ただただ呆然とフロアに立ち尽くしていた。

 

 1号は目を丸くしてNaokIを見つめ、震える声で呟いた。

 2号もスマホを落としそうになりながら、興奮で声を上ずらせた。

 

 

「…NaokIさん……?【NEW GLORY】の…NaokIさん…?本物…!?」

 

「うそ…うそでしょ…さすがにバンド名と顔は知ってたけど…まさか…ひとりちゃんのお父さんが…NaokIさん!?うわああああ!!!ひとりちゃんすごすぎる…!【NEW GLORY】のNaokIさんがここに…!」

 

 

 二人は互いに顔を見合わせて、キャッキャと悲鳴に近い声を上げながら興奮で飛び跳ね始めた。

 その時、ファン2号の脳裏を、ずっと引っかかっていたあの夜の強烈な既視感が駆け抜け、ふと何かを思い出したようにポンと激しく手を叩いた。

 

 

「あー!あの時の路上ライブ!!ひとりちゃんの横で演奏してた鬼のお面の人!!!あの人NaokIさんだったの!?」

 

 

 その言葉に、ファン1号も「あっ!」とぱちんと手を叩いてあの衝撃のセッションを思い出した。

 

 

「そういえばそうだ!鬼のお面かぶってたお兄さん…ギターめっちゃ上手くて、ひとりちゃんの音に合わせて、完璧にハモってた!あれNaokIさんだったんだ!!」

 

 

 その決定的な少女たちの証言が放たれた瞬間、【結束バンド】のメンバー全員の身体がびくついた。そして、狂ったような速度で一斉にひとりの方へと振り返った。

 リーダーの虹夏はひとりに猛ダッシュで詰め寄って、興奮で声を裏返らせながら上ずらせた。

 

 

「えっ!!?ぼっちちゃん…NaokIさんと路上で演奏したの!?さっき2号さんが鬼のお面のあの人って…!?えっ…えええええ!? いつ!? どうして!?」

 

「あっその…お姉さん…きくりさんが、路上ライブしてチケット売ろうと提案した時……お父さんが、たまたまやってきて…そのままお父さんもリズムギターとして、参加してくれて………」

 

「だからあの時、ロインで『チケット売れた』ってメッセ来てたのね!それよりNaokIさんが…ひとりちゃんの路上ライブに!!?うわあああ!!!すごいすごい!」

 

 

 あの花火大会の夜、ひとりから届いた完売の報告。

 その裏で、まさかNaokIが娘のために鬼のお面を被ってバッキングをしていたという異次元の優しさに、喜多も目をキラキラと輝かせて深く納得した。

 

 そして、先ほどまで抜け殻のようになっていたリョウは、ここである核心に気がつき、珍しくその声をガタガタと震わせてひとりに信じられない質問をぶつけた。

 

 

「え? 待ってぼっち…じゃあNaokIが…【結束バンド】の曲弾いたってこと……?」

 

「「!!!!??」」

 

「あっはい…そうです」

 

 

 リョウの震えるような質問に対し、何でもない日常の出来事のようにあっさりと頷いて肯定するひとり。

 世界の音楽シーンの最先端を走る神様が、自分たちの作ったインディーズの曲を実際に掻き鳴らしていた。その事実に、虹夏と喜多はまたも驚愕して本日何度目かわからない絶叫を店内に響かせた。

 

 

「えっ…えええええええ!!!私たちの曲をNaokIさんが!!?うわああああ!!!見たかった!!!私もあの時ぼっちちゃんのチケット売り手伝えばよかった!!!」

 

「私もです!!!NaokIさんが私のバッキング・パートを…【結束バンド】の曲を!ひとりちゃんすごすぎる!」

 

(NaokIが…私の作ったフレーズを弾いてくれたんだ…!ヤバい…これ本当にヤバい……)

 

 

 リョウは一人の作曲者として、自分の最愛の【NEW GLORY】のギタリストに自分の曲を弾いてもらえたという天にも昇るような奇跡に、胸の奥をこれ以上ないほど激しく焦がされ、完全に感極まってしまうのだった。

 

 すると、大パニックの渦中で喜多は少しだけ落ち着きを取り戻して、その場に立ち尽くしているファン1号と2号に向けてある質問をした。

 

 

「ねぇ…1号さん2号さん。そういえば、その路上ライブの演奏って動画とかないのかしら?祭りの時に弾いたなら、一人くらいSNSにあげてても、おかしくなさそうだけど…」

 

 

 喜多の切実な質問に、ファン1号と2号は即座に首を横に振って否定する。

 

 

「それはないと思う…!あの時近くにいた人たちは、完全に魅入ってたし。周りの祭りの客も全員、生の演奏に釘付けだったし」

 

「正直スマホ開く時間も惜しかったよ。最初は私たちも動画撮ろうとしたけど、途中から演奏に夢中で手が止まっちゃって…結局何も撮らなかったし、それにあのあとSNSで路上ライブの動画エゴサしたけど、どこにも動画なかったよ」

 

 

 そこまで話して1号と2号は、自分たちが体験したあの金沢八景の奇跡の夜を反芻するように互いに顔を見合わせて、改めてその規格外の事実を実感した。

 

 

「…考えてみたら私たち…あの時、本当にすごい現場に遭遇してたんだね…」

 

「うん…!あの余韻、今でも覚えてる…!ひとりちゃんのギターにNaokIさんのギター、二人の音が重なって…ベースのお姉さんの音もすごくて…祭りの客も全員息を呑んでて本当にすごかった…!今思うとあれって、NaokIさんとひとりちゃんの夢の親子共演だったんだ…!」

 

 

 何百万人もの頂点に立つ神様と、その遺伝子を継いだネットの怪物が、路上という剥き出しの戦場で重なり合っていた。

 虹夏と喜多は、ファン2号の紡ぐ生々しい言葉の熱量に、ただただ羨ましさと衝撃で胸を押さえた。

 

 

「夢のコラボすぎるよ…!!NaokIさんとぼっちちゃん…ギターヒーローと…廣井さんが、私たちの曲を…生で弾いてくれた…!…うわあああ!!!悔しい!!!私も見たかった!!!」

 

「【NEW GLORY】と【SICK HACK】が…私たちの曲を…私も生で聴きたかった…!」

 

 

 ロックシーンの頂点とインディーズの最前線が、自分たちの生み出した『あのバンド』のメロディをストリートでセッションしていた。

 その音楽的な価値のすさまじさに、いつもはクールを気取っているリョウはついに耐えきれなくなり、冷たい地面に両手両膝をガタガタとついて、これまでの人生で誰も見たことがないほど珍しく悔しそうな顔をした。

 

 

「なんで私はその場にいなかったんだ…!!【NEW GLORY】のNaokIと【SICK HACK】の廣井さんが…!【結束バンド】の曲を生で演奏してたのに…!!こんな夢のコラボ、対バンでも絶対実現しないってのに…!!」

 

 

 一方。

 

 店内の阿鼻叫喚の渦から少し離れたPA卓の奥では、PAさんが機材の後ろで彫刻のように完全に固まっていた。

 

 彼女は、店内の誰よりも比較的落ち着いていた。

 

 別段、虹夏やリョウ、あるいはぽいずん♡やみのように【NEW GLORY】の大ファンというわけではなく、一人の裏方の音楽業界の人間として「【NEW GLORY】のNaokI=世界トップレベルのロックバンドのギタリスト」というネームバリューは当然知っている程度。

 だからこそ、目の前の超展開に驚きはするが、虹夏たちのように自我を崩壊させて床でのたうち回るような「絶叫レベル」のパニックにまではいたらない。

 

 それでも目の前に本人が立っている事実に、さすがの彼女も限界まで目を見開いて、指先を小さく震えさせていた。

 

 

(本当に【NEW GLORY】のNaokIさん…?世界トップのギタリストが…スターリーに?…世の中、何が起こるか分からないものですね…)

 

 

 現実逃避気味にそんなモノローグを脳内で呟きながら、PAさんは大型コンソール機材の後ろからそっと顔を出して、NaokIの素顔をプロの目で凝視した。

 ポケットから私用のスマホを取り出し、【NEW GLORY】の公式ウェブサイトを開き、最新のアー写の陰影と、目の前に佇む男を冷徹に見比べる。

 

 内心で(この人やっぱり本人だ…後藤さんのお父さん、規格外すぎる)と、あまりの格の違いに冷や汗を流しながら、彼女はまだ大パニックで叫んでいる星歌のすぐ横へと静かに近づき、その耳元へ小声で話しかけたのだった。

 

 

「店長。確か昔、【NEW GLORY】の大ファンでしたよね?NaokIさん本物ですよ?………?店長?」

 

 

 スマホのアー写と入り口の男を冷徹に見比べたPAさんがそう声をかけるが、いつもなら「うるせェ」と一蹴するはずの星歌の様子が、明らかにいつもと違っていた。

 

 星歌は目がぐるぐる回り始め、頭のてっぺんのアホ毛が妹の虹夏を遥かに凌駕する業務用の大型サーキュレーター以上にグルグルと爆音を立てて回り出し、顔が耳の裏まで真っ赤になり、口が半開きになって、ハァハァと息が荒くなっていく。

 

 

「…NaokI…さん…?本物?ここに…?私のライブハウスに…NaokIさんが?」

 

 

 星歌の脳が、かつてない過電流で完全にバグった。

 星歌にとって【NEW GLORY】というバンドは、ただの「ちょっと好きなバンド」なんていう生ぬるいレベルの存在じゃなかった。

 

 

 自分がバンドを始めたいと思ったきっかけ。

 

 

 中学〜大学の頃の、青春を鮮やかに彩ってくれた、かけがえのない存在。

 そして当然、メンバー4人の中で一番狂おしいほど好きなのはNaokI。

 

 NaokIの弾くあのあまりにも鋭利なギターに激しく憧れて、生まれて初めてギターを握った。

 

 NaokIのプレイスタイルを狂ったように真似して、夜通し部屋に引きこもって指から血を流しながら練習した。

 

 NaokIの演奏を、それこそ擦り切れるほどDVDで何度もリピートして、自分のちっぽけな心を震わせ、音楽の道へと進んだのだ。

 

 

 そんなNaokIが、今、目の前に立っている。

 

 

 しかも──

 

 

 世界一可愛らしくて愛でたい対象のぼっちちゃんが──NaokIの娘。

 

 

 その2つの天文学的な事実が脳内でガチリと噛み合わさった瞬間、星歌の頭の中で、常人の許容量を遥かに超えた限界妄想が大爆発を起こした。

 

 

(もしNaokIさんと結婚したらぼっちちゃんが娘になってもしぼっちちゃんと結婚したらNaokIさんがお義父さんになるどっちも最高NaokIさんは私の夫でありお義父様であり私はぼっちちゃんのママであり伴侶だったのか!!!!!!!!!)

 

 

 星歌は脳内で息継ぎなしで、キチガイみてェなことを抜かしてやがった。

 

 そして、あまりの多幸感と脳内バグの熱量に耐えきれなくなった星歌は、突然勢いで立ち上がると、狂ったように両手を天へと大きく広げて絶叫した。

 

 

「NaokIさんは私の夫であり、お義父様であり…!私はぼっちちゃんのママであり、伴侶だったのか…!」

 

「何言ってるんですか店長!?」

 

「僕の妻は美智代だけだよ」

 

 

 隣で冷や汗を流していたPAさんは、いつもは冷徹な店長のあまりの唐突すぎるキャラ崩壊と、電波を受信したかのようなヤバすぎる発言の数々を聞いて、一瞬でツッコミ役を忘れてガチでドン引きの驚愕に顔を歪ませた。

 そしてフロアの様子を伺っていた直樹も、一人のまともな既婚者として、そのあまりの不審者っぷりに引き気味になりながらボソッと冷徹なツッコミを静かに入れるのだった。

 

 

 星歌は、もはや完全に現世の理から切り離され、頬を染めて夢見心地でぼんやりした様子になっていた。

 周りの阿鼻叫喚の絶叫も一切聞こえていない様子で、独り言のように、しかし脳内麻薬が過剰分泌されるにつれてどんどん声が大きくなっていく。

 そして、ごち○さのシャ○ちゃん*1みたいな、普段のドスの効いた声からは天地がひっくり返っても出ないような、とてつもなくかわいい声を出して、脳内の妄想を垂れ流した。

 

 

「NaokIさん…私の夫。毎朝起きたら隣で寝てるNaokIさんが『おはよう、星歌。今日も可愛いな』って優しい声で一緒に朝ごはん食べて…『今日もスターリー頑張れよ』って頭ポンポンしてくれて…それから毎日ギターのセッション…!NaokIさんのSchecterと私のギターでジャムって…NaokIさんが『星歌のコード進行、好きだよ』って褒めてくれて…私は照れながら『NaokIさんのリフに合わせてるだけですよー』って…えへへwwww」

 

「店長、何言ってるんですか!?」

 

 

 普段は下北沢の誰もが恐れる鉄の女が、信じられないような甘ったるいロリボイスで虚空に向かって身悶えしている。PAさんは隣で固まっていたが、星歌の口から漏れ出たその生々しすぎる怪電波を聞いてガチで青ざめた。

 

 しかし星歌の暴走は止まらない。

 NaokIへのガチ恋とひとりへの歪んだ溺愛が核融合を起こし、さらに妄想が加速していく。

 

 

「出かける時は玄関で『行ってきます』のチュー!NaokIさんが私のほっぺにチュッて…『早く帰ってこいよ』って照れながら言ってくれて…私は『はーいNaokIさんも曲作りがんばってー!』って…帰ってきたらラブソング作って待っててくれて『星歌に捧げる曲だ』って弾いてくれて…!…私は感動して泣いちゃって…NaokIさんに抱きしめられて『泣くなよ……お前がいるから弾けるんだ』って…うわああああああ!!!」

 

「店長、現実に戻ってください!!!NaokIさんがそんなこと言うわけないでしょ!!!妄想が暴走しすぎです!!!」

 

 

 世界的な孤高のカリスマが、そんなコテコテのトレンディドラマみたいな激甘ムーブをかますわけがないと、PAさんは常識人として両手で頭を抱えた。

 

 けれど星歌は完全に夢見心地のトランス状態であり、もはや誰の声も届かない桃源郷の領域で、さらに一線を超えた究極の地獄絵図を垂れ流し続けた。

 

 

「そしてぼっちちゃん!!!世界一可愛くて愛おしいぼっちちゃんを、毎日ギューって抱きしめて…ぼっちちゃんは私に『ママ大好きー!』って甘えてきて!私は『ぼっちちゃん可愛いー!』ってギューってして!一緒にぬいぐるみ集めて一緒に遊んで一緒に風呂に入って…夜はNaokIさんとぼっちちゃんと三人で一緒に寝て…NaokIさんがぼっちちゃんの頭撫でながら私に『お前も一緒に寝ろよ』って…私はNaokIさんの胸に…ぼっちちゃんを真ん中に挟んで…世界一憧れて大好きなNaokIさんと世界一可愛いぼっちちゃんに囲まれて…幸せすぎて…毎日泣いちゃう!NaokIさんは私の夫であり、お義父様で……私はぼっちちゃんのママであり、伴侶だったのか…!うわああああああ!!! 最高すぎる!!!」

 

「何言ってるんですか!!!?店長!!! 完全に頭おかしくなってますよ!!!NaokIさんが夫で、お義父様とか…後藤さんのママで伴侶って…!!!そんな関係成り立たないでしょ!!!妄想が気持ち悪すぎますって!!!現実に戻ってください!!!」

 

 

 戸籍的にも倫理的にも完全に時空が歪んでいる。NaokIが夫でありながら娘のひとりを伴侶にするという、全方位に対して一発アウトな破滅的マルチタスク婚姻関係。

 PAさんは、あまりの気持ち悪さに背筋を凍らせ、ついに本気で絶叫した。

 

 しかし星歌は、その渾身の正論ツッコミにすら全く気づかず、完全に限界を迎えて恍惚(アヘ)った表情で、よだれを垂らしそうになりながら天井を見上げた。

 

 

「えへへ…NaokIさんとぼっちちゃん…私の家族……」

 

「誰か助けて。手に負えない…」

 

 

(……なんか、スターリーって賑やかな所だな)

 

 

 スターリーの店内は、星歌のとち狂った妄想の垂れ流しによって、元々酷かったパニックがさらに何十倍もの致死量に達し、底なしのカオスに陥っていた。

 店長のあまりの急激な脳の退化を前に、PAさんはただただ頭を抱え、絶望の表情で小さく呟いた。

 

 そして直樹は、目の前の状況についていけずに呆然と眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中──────

 

 

 この閉ざされた空間の誰よりも興奮し、誰よりも限界突破した狂喜の涙を流して歓喜していたのは──

 

 

 ぽいずん♡やみだった。

 

 

 さっきリョウの警察通報フェイクに怯えて出口へダッシュした姿はどこへやら、彼女はいまだに床に尻餅をついたまま、両手で顔を覆い、肩を激しく震わせて人目もはばからず大号泣していた。

 

 あまりの尊さに涙がどうしても止まらない。

 

 喉の奥からはヒィヒィと壊れた玩具のような激しい嗚咽が漏れる。

 

 だが、その両手の隙間からのぞく口元はこれ以上ないほどにやにやとだらしなく緩み、その瞳は限界オタク特有のハートマークのように爛々と輝き狂っていた。

 

 

(NaokI…NaokIさん!本物…!!私の…世界一好きなバンド…!【NEW GLORY】で一番好きな人…!世界一好きなギタリストで…世界一の曲を作ってくれて…そして、あのギターヒーローさんをこの世に誕生させてくれた…!!!!神!!!!うわあああああああああ!!!神!!!神!!! NaokI神!!!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡)

 

 

 自分の人生を救ってくれた絶対神が、目の前に立っている。

 あまりの幸福感にやみは床にペタンと座り込んだまま、信者としての歓喜の全てを込めて両手を天へと高く掲げた。

 

 

(本当によくやったぞ、私!!!あのクソ記事のためにスターリーに来たこと…あの時、ダイブ失敗動画を見て「これネタになる!」って思ったこと…全部全部正解だった!!!!!私が国のトップなら国民栄誉賞を1000回はあげる!!!いや10000回!!!私天才すぎる!ぽいずん♡やみ最高!!!NaokIさんに会えた!ギターヒーローさんの正体も発見した!!うわあああああああああ!!!今日ほど生きててよかったと思う日はない!!!)

 

 

 やみは涙で顔もぐしゃぐしゃにしながら、自分の引きの強さと過去の全ての行動を脳内で存分に讃え始めた。

 

 そんな床の上で大号泣しながら天を仰いでいる奇妙なフリフリ服の少女を、当の直樹は(…なんか、この子さっきから大丈夫かな…?)と、心底心配そうな父親の目で上から見下ろしていた。

 直樹は自分のせいで彼女が腰を抜かしてしまったのだと勘違いし、尻餅をついたやみの目の前へ優しく屈むと、その大きな手のひらを差し伸べた。

 

 

「君、大丈夫?いきなりぶつかってごめんよ」

 

 

 直樹は、ぐしゃぐしゃになったやみの目をしっかりと見つめ、どこまでも優しく、穏やかなトーンで言った。

 それは自宅で娘のひとりやふたりを相手にするような、包み込むような安心感のある父親の声色そのものだった。

 

 

「怪我はない?ほら…立てる?」

 

 

 直樹は差し出した手でやみの小さな手をそのまま優しく繋ぎ、体重を支えるようにしてゆっくりと彼女を床から立ち上がらせた。

 一般のファンなら末代までの家宝にするレベルの、あまりにも完璧すぎる神対応。

 その手のひらの温もりに触れた瞬間、やみの目頭からはさらに大粒の涙が滝のように溢れ出した。

 

 

(NaokIさん…神対応すぎる!!!うぇぇぇぇん!!世界一の推しに…!!神のような存在のNaokIさんに…!!手を差し伸べられて、手を繋いで、立ち上がらせてもらった!!!最高すぎる!!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡)

 

 

 繋がった手の感触から伝わる絶対的な優しさに、やみの脳内はもう完全にピンク色の♡マークだけで埋め尽くされていた。

 元々天を突いていたNaokIへの好感度メーターはさらに急上昇を続け、もはや成層圏を軽く超えて宇宙の果て、銀河の深淵まで到達する勢いだった。

 彼女は涙で視界をぐしゃぐしゃに歪ませながら、骨が軋むほどの愛を込めて、直樹の手を全力でギュッと握り返す。

 

 

(NaokIさん好き♡好き好き好き好き好き大好き♡♡♡♡大大大大大好き♡♡♡♡♡愛してる♡♡♡♡♡♡♡)

 

 

 心の中で猛烈な愛の呪文を唱えながらハァハァと息を荒くするやみの異様な反応に、直樹は少し困惑し、引き気味になりながらも再び優しく声をかけた。

 

 

「え?本当に大丈夫?どっか怪我してない?」

 

 

 その心配してくれる声すら愛おしい──と本気で感激するやみ。

 やみは必死に涙を拭いながら、小刻みに震える声を絞り出して答えた。

 

 

「…NaokIさん…ありがとうございます……私、ぽいずん♡やみって言います…ずっとずっと大好きで…【NEW GLORY】のNaokIさんは、人生の光です…うぇぇぇぇん…!!」

 

「あっ【NEW GLORY(ウチ)】のファンなのか…ってまだ泣いてる!?」

 

 

 まさか自分の熱狂的な信者だとは思わなかった直樹は、ようやく合点がいったものの、目の前でなおも幼児のように大号泣を続ける彼女の熱量に圧倒されるばかりだった。

 

 そしてスターリーの店内は、このやみの手が付けられないほどの大号泣と、床でのたうち回って悔しがる【結束バンド】のメンバーたち、そしてカウンターの奥でアヘ顔電波妄想を垂れ流す星歌の狂気が三位一体となり、さらにカオスに包まれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スターリーの店内は、ようやく少し落ち着きを取り戻し始めていた。

 

 【NEW GLORY】のNaokIの突如たる降臨、そしてNaokIとひとりの驚愕すべき親子バレの衝撃から数分が経ち、鼓膜を震わせ続けていたみんなの絶叫も徐々に収まり、代わりに重い興奮の余韻と、現実感が乖離した戸惑いが混じった異様なざわめきがフロアに低く残っている。

 

 虹夏はまだ乱れた息を荒げて「NaokIさん…やっぱり本物だ…」と金縛りに遭ったように呟き。

 喜多は真っ赤になった目を潤ませて涙を拭きながら「ひとりちゃんのお父さん…すごすぎる」と壊れた蓄音機のように繰り返し。

 リョウは魂が抜けたように壁に寄りかかって「規格外…」とぼそぼそ消え入るような声で呟いている。

 ファン1号と2号は、自分たちが歴史の目撃者になってしまったことにスマホを握りしめて固まっている。

 星歌は相変わらずカウンターの奥で完全にトリップしたまま「NaokIさんは私のお義父様…そして私はぼっちちゃんのママ…」とアヘ顔で呟き、横に立つPAさんが「店長、もういい加減に…」と諦め顔で深い絶望を滲ませて頭を抱えている。

 

 

 そんな中───

 

 

 ぽいずん♡やみは、地上の出口へと続くドアの近くで、未だにしゃくり上げながら萌え袖で涙を拭き、興奮冷めやらぬ様子でガバッと顔を上げた。

 

 脳髄を推しの優しさで破壊されながらも、プロのライターとしての本能が、この世界をひっくり返す特大のスクープを前に強制駆動したのだ。

 やみは深呼吸を何度も何度も繰り返し、胸元を上下させながら、ようやく言葉を絞り出すようにして、店内に響く声で言った。

 

 

「ギターヒーローさんの腕前や機材関係、設備…ようやく全部わかった。あのSchecterのトーン、Bogner Ecstasy2台並列の分厚いハイゲイン、Free The Toneのエフェクト。全部一級品でプロ仕様…いやプロを超えてる…そして、NaokIさんを彷彿とさせるギターテクニック…!!そりゃ【NEW GLORY】のNaokIさんの子供なら神レベルで演奏も似るし、上手いでしょうよ…!!努力もめちゃくちゃしてたんだろうけど…遺伝子が…遺伝子が最強すぎる!!!…うわああああ!!!【NEW GLORY】のNaokIさんの娘がギターヒーローさんとか!!ガチでヤバい!!!ヤバすぎる!!!!こんな、世界のロック界の歴史に刻まれる出来事、絶対見逃せない!!!!!!」

 

 

 全ての方程式が、このスターリーの地下で完璧に噛み合った。

 やみは、興奮で指先をガタガタと震えさせながらスマホを取り出すと、取材用のメモアプリを開いて、残像が見えるほどの速度で指を高速で動かし始めた。

 

 

「タイトル…『衝撃スクープ!登録者150万人の人気オーチューバーである天才ギタリスト【ギターヒーロー】【NEW GLORY】ギタリストのNaokIと親子だった!!』……内容……最強遺伝子…努力の賜物…神の血…うへへへへぇ♡♡…最高の記事になる!!これは世界トレンドすらも簡単に取れる!!!」

 

「ちょっといいかな?」

 

 

 その時──直樹が、静かに前に出た。

 

 やみは直樹の圧倒的なオーラを見上げて、感動でまた大粒の涙がブワッと溢れた。

 けれど直樹は、そんな彼女の狂信的な視線を柔らかく受け流しながら、小さな子を優しく諭すような、どこまでも穏やかで優しい声で言った。

 

 

「あっ♡♡♡NaokIさん♡♡♡♡なんですか?♡♡」

 

「やみちゃんだっけ?記事にするのは、ちょっとやめてほしいな」

 

 

 神様からの直々のストップに、やみは一瞬固まった。

 

 でもプロとしての執念と、推しへの歪んだ愛が勝ってしまった。

 彼女はすぐに大きな目をじわっと潤ませて、フリフリの萌え袖をぎゅっと握りしめながら、ぶりっ子モード全開で首を左右に激しく振った。

 

 

「え〜NaokIさん♡♡♡♡♡でも、こんな音楽界どころか世界中を揺るがす大大大大大スクープ、見逃すわけにはいかないんですよぉ〜♡♡♡【NEW GLORY】とギターヒーローのファンとして、そして音楽ライターとして絶対に!♡♡♡」

 

(まいったな、これ本気の目だ。………仕方ない。この子【NEW GLORY(ウチ)】のファンっぽいし、あまりこの手は使いたくなかったけど…)

 

 

 直樹は、少し困った顔をした。

 そして、ちょっと手荒だけど仕方ないと思い、静かに、しかしはっきりと言った。

 

 

「あの〜♡♡NaokIさん♡♡♡♡ついでに【NEW GLORY】の単独取材とかしたいんですけどいいですかぁ~♡♡♡♡♡あと、ギターヒーローさんとのスペシャルコラボで、親子対談インタビューも………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし記事にしたら訴訟起こす。それと【NEW GLORY】のライブも永久出禁にする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スターリーの地下フロアの全ての空気が、一瞬にして極低温の氷河期へと叩き落とされたかのように、静まり返った。

 

 それは、世界を支配する大ロックスター・NaokIとしての、感情の乗らない冷徹で絶対的な本物のガチのトーン。

 

 NaokIの口から放たれたその無慈悲な二大宣告──『世界トップクラスの弁護団による容赦のない法的措置(訴訟)』と、ファンにとって何よりも残酷な『ライブへの物理的な永久追放』。

 

 それを真正面から脳髄に受けたやみの顔面は、みるみるうちに血の気が引いて、土気色を通り越して真っ青に青ざめていった。

 瞳がガタガタと激しく震え、さっきまでよく動いていた唇が震え、スマホを持った手がガクガクと激しく震えた。

 

 

「……え?」

 

 

 言葉の意味が脳に浸透するまでの、わずかコンマ数秒の不気味な空白。

 

 次の瞬間──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やみの大絶叫が、空間全体へと響き渡った。

 

 それはNaokIが初めてこの場に素顔で現れた時や、ギターヒーローとの親子バレというバグに直面した時よりも、遥かに高く、激しく、烈しい絶叫だった。

 

 この世に響き渡ったその悲鳴は、彼女が23年間の人生の中で最も絶望し、最も大きなエネルギーを放った、魂の最後の叫びそのものだった。

 

 【NEW GLORY】の音楽を聴くためだけにライターになり、【NEW GLORY】の音が生きる糧そのものであるぽいずん♡やみにとって、『ライブの永久出禁』という宣告は、肉体を消滅させられる死刑宣告よりも重い、この世で最も残酷な終わりの宣告だったのだった。

 

 

「……………うっ…うぅ…うぇぇぇぇぇん!!訴訟……?永久出禁……?私の人生……終わった…NaokIさんに嫌われた…神に嫌われた…うわああああああ!!!!!!訴訟も怖い…でもそれ以上に…【NEW GLORY】のライブ…永久出禁?私の…唯一の楽しみが…NaokIさんのギターが…生で聴けなくなる?あの脳に直撃するメロディが…あのステージ上のカリスマが…もう二度と…見られない……?NaokIさんに嫌われる…世界一の推しに嫌われて…私生きていけない…!NaokIさんは…私の光なのに…【NEW GLORY】が…私の人生のすべてなのに…永久出禁なんて…自殺モンの所業…!ごめんなさい!!!記事は絶対書きません!!!このことは墓場まで持って行きます!!!誓います!!NaokIさん許してください!!NaokIさん嫌わないで!!私…NaokIさんのファンで…一生ファンで……永久出禁なんて…耐えられない…!うぇぇぇぇん…!!!うぅ……うわああああああああああああん!!!!!」

 

 

 やみは、完全にプライドもライターとしての打算もかなぐり捨て、床に膝をつき、両手で顔を覆って子供のように大号泣した。

 

 世界の絶対神に嫌われ、己の魂の拠り所である音楽を永遠に奪われるという限界オタクにとっての最大級の絶望。

 

 彼女の叫びは偽りのない本物の懺悔となって、フロアの隅々にまで虚しく響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 数分後──

 

 フロアを揺るがすほどの激しい号泣がようやく少しだけ落ち着きを取り戻した頃。

 顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたやみは、ガタガタと細かく震える手でポケットから名刺を一枚丁寧に取り出すと、畏れ多くも直樹の前へと両手で恭しく差し出した。

 

 

「こ…これ…私の名刺です。もう二度と邪魔しません…!誰にも言いふらじたりしません…全部、ここだけの話にします…!【NEW GLORY】のこと…NaokIさんのこと…世界一大好きです…!NaokIさんの事、死ぬほど愛してます…一生NaokIさんのファンでいます…うぇぇぇぇん!!」

 

 

 直樹は名刺を受け取って財布にしまった後、怯えるやみの頭を優しく撫で、いつも家族に接するような穏やかな声で話した。

 

 

「ありがとう。それと…こっちも酷いこと言ってごめんね。でも約束は守ってね」

 

「うぅ…!…はい…絶対守りますぅぅ!」

 

「じゃあまたね。ライブ当たったら、いつでも遊びにおいで」

 

「ううぅ…はいぃ!ありがとうございます…!!チケット当たったら絶対行きます…♡♡♡」

 

 

 神様から直々に頭を撫でられ、さらに「ライブ当たったら、いつでも遊びにおいで」という永久出禁の完全解除、それどころか最大の免罪符となる優しすぎるエールを貰えたのだ。

 やみの脳内には再び宇宙規模の♡マークが大爆発を起こし、好感度は文字通り天元突破。

 これまでのゴシップ記事によるヘイトは、この圧倒的な神対応の奇跡によって完璧なカタルシスを伴って清算されたのだった。

 

 やみは涙と鼻水で顔を原型が分からないほどぐしゃぐしゃに腫らしながら、夢心地のままフラフラと床から立ち上がった。

 そして、落ちていた帽子を丁寧に両手で手渡しながら、目の前に佇む最愛のNaokIに向かって何度も、何度も腰が折れんばかりに深く頭を下げた後、スマホの取材データをその場で全て消去し、逃げるようにスターリーの階段を駆け上がり、地上へと出ていった。

 パタン、と重厚なドアが閉まる音が、静まり返った店内に静かに、寂しげに響き渡った。

 

 

 残されたメンバーたちは、呆然と立ち尽くした。

 

 

*1
中の人繋がり




若干キャラ崩壊あり「ちっすwww」

はい、ついに注意書きのキャラ崩壊が本領発揮しました。
…若干?若干とは…?
ちょっと星歌に関しては、やりすぎた感が否めないけど、原作でぼっちちゃん盗撮してたしまぁいいか…
あとぽやみさんには退場してもらいましたけど、ちゃんと直樹がアフターケアしてくれました。
後日、冷静になったあと頭を撫でられた事を思い出して、キュンキュンしてます。

ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
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