娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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今回から【NEW GLORY】のメンバーが、登場します。
注意書きに書いてあった通り、オリジナルキャラなので御了承ください。

それではどうぞ


15

 

 

 ついに、東京ドーム公演の日が来た。

 

 現在の時刻は9時58分。

 まだ静けさの残る下北沢の路地裏、スターリーの近くのコインパーキングの片隅に、【結束バンド】のメンバーたちが集まっていた。

 ひとりは既に、NaokI(直樹)や【NEW GLORY】の他のメンバーと一緒にドーム入りしているので、残りは虹夏・喜多・リョウの3人だけ。

 NaokI直々の招待という奇跡の切符を手にした3人は、少し緊張しながらスマホで時間を見比べていた。

 

 

「そろそろ10時だね…もうすぐ来るかな……?」

 

「確かひとりちゃんがグループロインで、黒のヴェルファイアで迎えに来るって言ってましたね」

 

「とりあえず待とう。向こうは大忙しだと思うし、多少の遅れは考慮しとかないと…」

 

 

 虹夏たちが不安げに呟くと、ちょうどその時──

 

 黒い高級ミニバン──最新型のヴェルファイアが、エンジン音をほとんど響かせることなく静かに駐車場に入ってきた。

 

 車が停まると、運転席から仕立てのいい上質なスーツを着た女性が降りてきた。

 年齢は30代後半くらいの、落ち着いた雰囲気のショートカットの女性。

 彼女はパーキングの隅で固まっている3人の女子高生を見つけると、その凛とした佇まいのまま優しく微笑んでまっすぐ近づいてきた。

 

 

「伊地知虹夏さん、喜多郁代さん、山田リョウさん……ですね?初めまして。【NEW GLORY】のマネージャーを担当している、●●と申します。NaokIさんからお話を伺っています。今日はよろしくお願いします」

 

 

 洗練された所作で、マネージャーは自身の所属と名誉が刻まれたプロの名刺を3人へと丁寧に差し出した。

 虹夏たちは、その本物のプロの圧倒的なエスコートに度肝を抜きながら、慌てて両手で名刺を受け取り、何度もペコペコと頭を下げた。

 

 

「はっはい!よろしくお願いします!!あの…!本当にありがとうございます!」

 

「【NEW GLORY】のマネージャーさん…!私たち……本当に招待してもらえるなんて……夢みたいです!」

 

「ありがとうございます」

 

 

 マネージャーはそんな彼女たちの愛らしいパニックを優しく受け止めるように微笑むと、自動で静かに開いたヴェルファイアのスライドドアを指差した。

 

 

「それでは、お乗りください。東京ドームまでご案内します」

 

 

 3人は、これから自分たちが世界の中心へと運ばれていくのだという、張り裂けんばかりの緊張と興奮で胸を激しく高鳴らせながら、ラグジュアリーなヴェルファイアの後部座席の空間へと乗り込んだ。

 ファーストクラスさながらの高級感あふれる車内は、防音パネルによって外界の雑音が完全に遮断されており、腰掛けたキャプテンシートは包み込まれるように柔らかい。静かにシステムが起動し、滑らかに車体が発進する。

 マネージャーはバックミラー越しに運転席から振り返って、固くなっている彼女たちの心を解きほぐすように、どこまでも優しく言った。

 

 

「道中、少しお時間かかりますが…どうぞリラックスしてくださいね。NaokIさんもひとりちゃんも…楽しみに待ってますよ」

 

 

 マネージャーの運転するヴェルファイアは静かに下北沢の喧騒を離れ、都心のビル群を縫うようにして東京ドームへと向かった。

 

 道中、流れる窓から見える景色が徐々に変わっていく。

 水道橋のエリア、そして東京ドーム周辺に近づくにつれて、路道には信じられないほどの凄まじい人だかりが目立ち始めた。

 広場に設営されたグッズ販売の特大ブースには、何重にも折り返された気が遠くなるような長蛇の列。大勢のツアースタッフたちがメガホンを片手に整理券の確認をしたり、最後尾の列へと手際よく誘導したりなど、大イベントの成功に向けて忙しなく動き回っている。

 集まったファンたちは、思い思いに【NEW GLORY】のバンドTシャツやプレミアものの限定パーカーを着て記念写真を撮ったり、手に入れたばかりのグッズを嬉しそうに掲げたりしている。

 驚くべきことに、まだライブ開始の開演まで何時間もあるというのに、ドームの敷地内には明らかに5万人以上の熱狂的なオーディエンスが既に集結していた。

 

 【結束バンド】の3人は、防音の効いた高級な車窓からその地鳴りのような熱気の光景を文字通り見下ろして、圧倒されるように深く息を飲んだ。

 

 

「……伊地知先輩がファンが大勢いるって言ってたから、人気なのは知ってましたけど……本当に【NEW GLORY】ってファンが多いんですね……」

 

「うん…こんなに人だかりが…まだ開演まで時間あるのに……」

 

 

 リョウは窓の外の物凄い景色をじっと見つめながら、思い出すように静かに呟いた。

 

 

「…中学の時に日本最大級のスタジアムにライブ行った時も、朝からこれくらいかこれ以上いたな……懐かしい」

 

 

 虹夏は、手元のスマホで現在の入場待ち状況やSNSのトレンドを検索して、数字のバケモノっぷりに大きく目を丸くした。

 

 

「これチケット倍率やばいよね……あたしたち、本当にこんなすごいライブに招待してもらえたんだ…!」

 

「はい…!ひとりちゃんのお父さんが…NaokIさんだから……本当に夢みたい!ウキウキしちゃう……!」

 

「ヤバい…本当に奇跡だよこれ…早く着かないかな…!」

 

 

 3人は、高級感あふれる車内で少しずつ興奮を抑えきれなくなってきた。 マネージャーは、ミラー越しにそんな彼女たちの微笑ましいやり取りを優しく見守りながら、一般のファンやメディアが絶対に立ち入ることのできない、セキュリティに守られた東京ドームの関係者入り口へと車を滑らせていった。

 

 【結束バンド】の3人は、これから始まるプロの最高峰の戦場への期待に胸を最高潮に高鳴らせながら、ゆっくりと車から降りた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 東京ドームの関係者入り口へと足を踏み入れた瞬間、車を降りた虹夏、喜多、リョウの3人は、あまりのスケールの大きさに再び深く息を飲んだ。

 無機質でどこまでも広く、何台もの機材車が整然と並ぶ地下パーキング。そこからマネージャーは3人を優しく誘導しながら、一般人は立ち入りを厳しく制限された、セキュリティ完備の関係者用通路へと案内した。

 

 通路の入り口では、インカムをつけた屈強なセキュリティスタッフが、3人に吊り下げ式の名札を渡してくる。

 

 

「これを首にかけてください。関係者エリアに入るためのIDです」

 

 

 虹夏たちは恐縮しながら慌てて名札を受け取り、それぞれの首にかけた。

 厚みのあるその特別なプラスチックカードには、『GUEST:結束バンド』とシンプルに書かれていて、3人はそれをまじまじと眺めながら、自分が世界の頂点に最も近い場所にいるのだという興奮をどうしても抑えきれなかった。

 

 静かな緊張感が漂う長い廊下を進み、楽屋エリアへ向かうと、ひときわ頑丈な広い控室のドアが開いた。

 中にはすでにNaokIとひとりがいて、ひとりはいつものピンクジャージ姿で、少し緊張した顔で座っていた。

 NaokIは【結束バンド】のメンバーたちが入ってきたことに気づくと、世界のカリスマのオーラを和らげて、優しく声をかけた。

 

 

「おはようみんな。よく来たね」

 

「あっ虹夏ちゃん、喜多ちゃん、リョウさん。おはようございます」

 

 

 その瞬間、マネージャーが唐突にため息をついて、NaokIに釘を刺した。

 

 

「NaokIさん…唐突にこういうことするのやめてくださいね。もう、ひとりちゃんで慣れましたけど…毎回大変なんですから」

 

 

 前日リハの夜に急に「娘のバンド仲間を招待するから送迎車を回してくれ」などと無茶振りをされたのだから、マネージャー側の苦労は並大抵ではなかったはずだ。

 マネージャーは、仕方なさそうに苦笑いしながら呆れたように肩をすくめた。

 NaokIは、いたずらがバレた少年のように照れくさそうに頭を掻いた。

 

 

「ごめんごめん。でも、どうしても誘いたくてね」

 

「あっごめんなさい。私が…みんなと見たいって…言ったから……」

 

「大丈夫、ひとりちゃんは気にしなくていいのよ。みんなと楽しんでね」

 

「なんかひとりの方が、扱い丁寧じゃない?」

 

「日頃の行いです」

 

 

 マネージャーは愛おしそうにひとりの頭を優しく撫でながら、もう諦めたような顔で、しかし確かな信頼を込めて言った。

 

 

「せめて1週間…いや、3日くらい前に伝えてくださいよ。…私は仕事があるのでこれで失礼しますね。皆さん、楽しんでください」

 

 

 マネージャーは、軽く会釈して部屋を出て行った。

 

 楽屋に残されたメンバーたちは、ソファーから立ち上がったNaokIとひとりの前に横一列に並んで立った。

 すでに昨日からこの空気に慣れているひとりを除く【結束バンド】の3人は、これ以上ないほど興奮で目を輝かせて、感謝の言葉を次々に口にした。

 

 

「NaokIさん!!本当にありがとうございます!私たちがこんなすごいライブに招待してもらえるなんて……!」

 

「ひとりちゃんのお父さんに直々に招待してもらえるなんて、夢みたいです!!」

 

「ぼっちと仲間で本当によかった…あの【NEW GLORY】のライブがタダで見れるなんて…!」

 

 

 直樹は、娘の窮地から救ってくれた仲間たちの興奮した顔を見て優しく微笑んだ。

 

 

「これからサウンドチェックに行くけど…みんなも来るかい?ステージの近くから観れるぞ」

 

 

 サウンドチェック──つまり、開演前の誰もいないドームの空間で行われる、プロの厳密な音響調整と生演奏。

 

 そんな関係者ですら一握りしか立ち入ることのできない神聖なリハーサルの現場へ、ステージの至近距離から招待するという夢のような誘い。

 その言葉にメンバーたちは一斉に目を限界までキラキラさせて、千切れんばかりの勢いで猛烈に頷いた。

 

 

「行きます!!! 絶対行きます!!!」

 

「サウンドチェック…!【NEW GLORY】の生演奏が聴けるんですか…!?うわあああ楽しみ!!」

 

「絶対行きます…!近くでステージ見てみたい…!」

 

「じゃあ行こうか」

 

 

 NaokIは、少女たちの無邪気な大はしゃぎっぷりに嬉しそうに笑いながら立ち上がった。

 

 虹夏たちはNaokIやスタッフたちについて、広い楽屋を出て、いよいよ本番の舞台である巨大なステージ裏の通路へと向かった。

 静かな廊下を歩く道中、喜多がひとりの袖をツンツンと引っ張ってそっと聞いた。

 

 

「ねぇひとりちゃん。ここにはお父さんと一緒に来たの?」

 

「あっはい…そのままメンバーたちと一緒に車で来ました」

 

 

 ひとりは恥ずかしそうに頷いた。

 その言葉に、虹夏と喜多とリョウは羨ましそうに目を輝かせた。

 

 

「えええ!?【NEW GLORY】のメンバー達と、一緒に車で!?うわあああ!!! 羨ましすぎる!!!」

 

「いいな〜!私も乗りたかった〜!」

 

「ぼっち羨ましい。これが身内効果か…」

 

 

 ひとりは、みんなの反応に顔を真っ赤にしながらもニヤニヤしていた。

 

 

「あっ…へへ…そんな大したことじゃないです…うへへ……」

 

 

 3人は興奮を抑えきれず、ステージ裏の通路を歩きながら、笑い合った。

 NaokIは、その様子を見て静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 薄暗いステージ裏の通路を抜け、厳重なセキュリティで守られた関係者用の大型エレベーターで一気に上がると──

 金属製の重厚な遮光扉が左右に開き、虹夏・喜多・リョウの3人は、ついに人生で初めて東京ドームの本番用巨大ステージへと足を踏み入れた

 

 

「……うわ……」

 

 

 先頭を歩いていた虹夏が、圧倒的な威容の前に思わず息を飲んだ。

 

 目の前に広がっていたのは、どこまでも果てしのない広大な空間だった。

 彼女たちが立っているステージは、スターリーの何十倍もの途方もない大きさを誇り、上空を見上げれば、スタジアム用の巨大なLEDスクリーンが何枚も天井から堅牢に吊り下げられ、眩い光を放ちながら静かに開演の瞬間を待機している

 

 客席エリアはアナウンスした通り、スタンド席以外が全てパイプ椅子を撤去したオールスタンディング仕様へと大胆に変更されており、まだ誰もいないフロアが海の底のようにどこまでも広がっている。

 まだ会場の全体照明が落とされていない状態であるにもかかわらず、その空間が持つ圧倒的なスケールと、世界のトップアーティストにしか許されない贅沢な構造に、3人は言葉を完全に失って立ち尽くした

 

 

「これが東京ドーム!?ステージ広すぎるし、スタンド席がめちゃくちゃ遠いし、奥のスタンド席なんて豆粒にしか見えない!実際に立ってみたらこんな景色なんだ!!」

 

 

 喜多は興奮で顔を紅潮させながらその目を大きく丸くして、地平線のように広がるステージの端から端までを何度も見渡した。

 

 

「うわあぁ!凄い!スクリーンって近くで見たらこんなに大きいのね!」

 

 

 リョウは、ステージ脇に並ぶ音響機材に目を奪われていた。

 ドーム全体の空気を物理的に揺らすための巨大なPAスピーカーの壁、Neveの最高級アナログミキシングコンソール、要塞のようにそびえ立つPro Toolsの最新ラック、そして無数のGenelecの大型モニタースピーカー。

 ハイエンド機材が信じられない密度でずらりと並び、インカムをつけた何十人ものトップスタッフたちが、ミリ単位の職人技で最終調整のツマミを動かしている。

 

 

「…このPA!Neve 88RS…Genelec 1238Aだ…!ベースここで鳴らしたらどうなるんだろ…!」

 

 

 リョウはベースオタクとして、その機材の暴力的なまでの美しさに喉を鳴らし、瞳をキラキラと輝かせていた

 3人が呆然としていると、ステージ上で【NEW GLORY】のメンバーたちがサウンドチェックの準備をしていた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ステージ脇の関係者エリアで【結束バンド】の3人はそれぞれ、息を潜めて【NEW GLORY】のメンバーたちを眺めていた。

 

 

(うわあああ…!Kyoya(キョウヤ)さんだ…!!凄い…!!本物だ…!!!!)

 

 

 虹夏は、要塞のようなあのSJCカスタムドラムセットの椅子に腰掛け、軽くスネアやシンバルを試奏しているKyoyaのその一挙手一投足に、一瞬で目を奪われていた。

 

 

 【NEW GLORY】Drums : Kyoya(キョウヤ)

 

 

 【NEW GLORY】のメンバーの中で二番目の年長者。

 リーダーのNaokIが酔った勢いで唐突なことしたり、勢いではっちゃけたり、見栄を張って変な事をする面があるため、実質的にバンドのまとめ役を担う常識人。

 

 圧倒的なパワーと唯一無二のグルーヴの持ち主で、一分の狂いもない超絶技巧のテクニック、一打で空間を支配する表現力、そして狂気的なまでにパワフルなプレイスタイルのドラミングで、世界中のファンを魅了し続けている。

 

 彼の叩き出すビートは単なる機械的な正確さだけでなく、魂の底を揺さぶるような感情的な深みも完璧に伴っており、バンドの構築する『NGコア』の骨格として欠かせない絶対的に重要な役割を果たしていた。

 

 その実力は、世界のロックの歴史における歴代の最高峰のレジェンドドラマーたちを全て差し置いて、今や「現代における世界最高峰のドラマー」と誰もが認める絶対王座の持ち主。

 虹夏にとって、数多くいるドラマーの中でKyoyaは、特に目標にしている存在だった。

 

 Kyoyaは、自分の指先で特注のスティックを軽く綺麗に一回転させると、動作の確認のために、26インチの大口径バスドラムのペダルを一発、強く踏み込んで音を確認していた。

 

 "ドゥ━━━━━ン!!!"

 

 アンプを通していない生音であるにもかかわらず、その一撃は東京ドームの広大な空間全体の空気を物理的に激しく圧縮し、床を伝って低く、重く響き渡る。

 あまりの次元の違いに、虹夏は胸元を押さえて、思わず息を飲んだ。

 

 

「Kyoyaさんのバスドラムの音…重い…でも、切れがある…あたしもあんな音、出したい……」

 

 

 Kyoyaは虹夏に気づくとスティックを置き、ドラムセットから離れて近づいてきた。

 優しく笑いながら、虹夏に話しかけた。

 

 

「ひとりちゃんのとこの、バンドメンバーだよね?初めまして、【NEW GLORY】のドラム担当のKyoyaです。よろしくね」

 

 

 虹夏は興奮のあまり一瞬で顔をリンゴのように真っ赤にして、背筋を限界まで伸ばすと、慌てて何度も頭を下げた。

 

 

「キョ…Kyoyaさん!!!は…初めまして!!わっ私、伊地知虹夏って言います!!わっ…わた…私もドラム叩いてます!!ずっとKyoyaさんのドラムを目標にしてて!!あのグルーヴにパワー…感情…全部憧れてます!生でお会いできるなんて光栄です!!!」

 

(うわ…うわあああああああ!!!!すごいすごいすごい!!!あたし、あのKyoyaさんと話してる!!!!)

 

 

 虹夏は、自分の人生の教科書であり、神様そのものだった男が、自分を「ひとりの仲間」として対等に認識して挨拶をしてくれている事実に大興奮。

 トレードマークのアホ毛を超高速大回転させながら、あまりの至高の幸福感に、胸の中で言葉にならない歓喜の悲鳴を上げ続けるのだった。

 

 

「ありがとう虹夏ちゃん。NaokIさんやひとりちゃんから聞いてたよ。ドラムやってるって…よかったら叩いてるとこ、見る?」

 

 

 その瞬間、虹夏の大きな瞳が一瞬でこれ以上ないほど眩しく輝いた。

 アホ毛が喜びのあまりブンブンと狂ったように振り回され、あまりの栄誉に興奮で声が完全に上ずる。

 

 

「……え!? いいんですか!!?Kyoyaさんのドラムを生で……!?うわああああ!!! 見たい!!! 見たいです!!!」

 

「決まりだね。こっちにおいで」

 

「はい!!!!やったー!!Kyoyaさんのドラムを近くで見れる!!」

 

(…可愛いなこの子)

 

 

 Kyoyaは、落ち着いた声で穏やかに笑った。

 虹夏は嬉しさのあまりフロアの床をぴょんぴょんと可愛く跳ねながら、憧れのコンソールの主であるKyoyaの元へ弾むように駆け寄った。

 するとKyoyaは、ドラム機材の横のケースから、まだ誰も使っていないピカピカの新品のイヤープロテクター(高機能耳栓)を取り出し、虹夏の手のひらの上へと優しく手渡した。

 

 

「すぐ近くで鳴るから、これつけておいて。音量ヤバいから」

 

「ありがとうございます!Kyoyaさん!!」

 

 

 虹夏は目をキラキラと輝かせながら、渡された耳栓をすぐに自分の両耳へとしっかりと装着した。

 準備が整ったのを確認し、Kyoyaは再び要塞のような特注SJCカスタムドラムセットの椅子へと座り直し、軽く両手のスティックを滑らかに回しながら静かに言った。

 

 

「……じゃあ……サウンドチェックがてら……叩くぞ」

 

 

 Kyoyaがその右足のペダルを深く踏み込み、26インチの大口径バスドラムを一発強く叩き込んだ、まさにその瞬間───

 

 ドーム全体の広大な空間に、鼓膜を引き裂くような重厚で、圧倒的な超重低音の地響きが激しく響き渡った。

 

 キックのパワーが床を震わせ、ハイハットのシャープな切れ味、タムの感情的な響き、スネアのクラックが完璧に融合する。

 テクニックの精度、グルーヴの深み、パワフルさと繊細さが同居する唯一無二のドラミング。

 

 虹夏はすぐ近くでその音を浴びて、体や脳に衝撃が走り興奮の限界を超えた。

 

 

「……うわああああ!!!Kyoyaさんのバスドラム重い…!でも切れがすごい!タムは感情乗ってるし、ハイハットはシャープすぎる!私もこんな音出したい!!Kyoyaさん神!!!」

 

 

 虹夏は嬉しさと感動で可愛くぴょんぴょんとその場で跳ねまくり、頭のアホ毛をブンブンとプロペラのように振り回されながら、両手を胸の前で強く握りしめて溢れ出る興奮をどうしても抑えきれなかった。

 Kyoyaは、自分のドラムを穴が開くほど見つめながらそんな風に全身で大喜びしてくれている虹夏の愛らしい仕草を、演奏しながら横目で見つめ、内心で静かに思った。

 

 

(……この子天使かな?それにしても…熱い目してる。俺のドラム見て、こんなに喜んでくれるなんて……いいドラマーになるよ、きっと)

 

 

 Kyoyaは、彼女の内に眠る本物のドラマーとしての素質を確信し、叩いていたスティックの動きを止めると、どこまでも落ち着いた優しい声で虹夏に信じられない提案を告げた。

 

 

「じゃあ今度は虹夏ちゃんが叩いてみるといい。俺のセット使っていいから」

 

 

 虹夏は感動のあまり一瞬だけ思考がカチリと固まった。

 驚きで大きな目を真ん丸に見開き、頭のてっぺんのアホ毛が喜びの衝撃でピョコンと可愛く垂直に跳ね上がる。

 

 

「……え……?私が……Kyoyaさんのセットで……叩けるんですか……!?」

 

 

 Kyoyaは、落ち着いた声で優しく頷いた。

 

 

「うん。サウンドチェックがてら、ちょっとだけね。虹夏ちゃんの音、俺も聴いてみたい」

 

 

 虹夏の顔が、一瞬で真っ赤になった。

 次の瞬間、アホ毛がブンブン振り回され、興奮で声が上ずる。

 

 

「…いいんですか!!?Kyoyaさんのドラムセットで…!?やったー!!! ありがとうございます!!!」

 

 

 虹夏は、ぴょんぴょんと跳ねながらKyoyaの隣に駆け寄った。

 Kyoyaは席を譲り、虹夏に新品のイヤープロテクターをもう一度確認させてから、優しく言った。

 

 

「音量ヤバいから、耳栓しっかりつけてね」

 

「はい…!!!」

 

 

 虹夏は、恐る恐るドラムセットに座った。

 Kyoyaの調整されたセットは、虹夏の体にぴったりフィットする。

 そして虹夏は、Kyoyaのドラムセットの前に座った瞬間、息を飲んだ。

 

 26インチ×2のダブル・ベース・ドラムが巨大な存在感を放ち、10・12・14インチタム、16・18インチフロアタム、14インチブラススネア、MEINLのシンバルがキラキラ輝いている。

 Remoコーテッドヘッドの張り具合、チューニングの完璧さ…全てがプロの現場そのもの。

 

 Kyoyaは虹夏に席を譲った後、虹夏のすぐ後ろに立って優しく見守った。

 虹夏は緊張と興奮で手が震えながらも、スティックを握り、深呼吸してドラムセットに向き合った。

 

 

「……じゃあ…いきます!」

 

 

 そして──バスドラムを一発踏んだ。

 

 

 ドゥン!!

 

 

 重厚で圧倒的な低音が、ドーム全体を震わせる。

 

 Kyoyaの特注セットが、虹夏の内に眠るドラマーとしてのポテンシャルを最大限に引き出したのだ。

 その素晴らしいレスポンスに魂を奮い立たせ、彼女は【結束バンド】の基本のリズムを、その神聖な打面へ向けて叩き始めた。

 

 まずは、4ビートのシンプルなビート。

 自分の足跡を確かめるように、バスドラム、タム、スネア、ハイハットを一つずつ正確に刻んでいく。Kyoyaのセットは、驚くほど素直に、虹夏の叩き方を最大限に引き出してくれる。

 

 虹夏は、興奮で顔を真っ赤にしながら叩き続けた。

 フィルイン、タム、スネア、ハイハット──

 さっき間近で浴びたばかりのKyoyaのグルーヴを思い出しながら、自分のリズムを乗せる。

 

 そして、Kyoyaは──すぐに改善点に気づいた。

 

 虹夏が一通り叩き終えて、息を切らしながらKyoyaを見上げた。

 

 

「……ど、どうですか?私…ちゃんと叩けてましたか?」

 

 

 Kyoyaは、腕を組んで穏やかに微笑んだ。

 落ち着いた声で、まるで親しみのある先輩のようにゆっくりと話し始めた。

 

 

「虹夏ちゃん、いい音だったよ。パワーもあって気持ちも乗ってる。でも…いくつかもっと良くなるポイントがある。俺が今叩いた音と比べてみて…一緒に直していこうか」

 

 

 Kyoyaは、虹夏の隣にしゃがみ込み優しく一つずつ解説を始めた。

 そこらのドラム講師とは比べ物にならないほど、わかりやすく、丁寧で、虹夏の目線に立った言葉だった。

 

 

「まずバスドラムのキック。今のは力強いんだけど…タイミングが少し遅れてるんだ。ドラムの土台は、キックが『先頭』を切るのが大事。0.1秒でも遅れると、バンド全体が引っ張られちゃう。だから…キックを『先頭』に意識して……少し早めに踏むイメージ。こうやって…」

 

 

 Kyoyaは、自分の手でバスドラムペダルを軽く踏んで見せた。

 「タン……!」と、先にキックが鳴る感覚を虹夏に体感させた。

 

 

「次にタムのフィルイン。感情は乗ってるんだけど…リズムが少し揺れてるね。タムは『メロディ』じゃなくて『リズム』なんだ。だからメトロノームを頭に叩き込んで…正確に刻む。今のはちょっと『歌う』感じになってるから…もっと『刻む』意識で叩いてみて。こう……タカタカタカ…って、機械みたいに正確に」

 

 

 Kyoyaは、虹夏のタムを指で軽く叩いてリズムの正確さを体感させた。

 

 

「ハイハットもオープンクローズの切り替えが少し甘い。シャープに切る意識を強く持てば、音がもっと抜けるよ。今のは…少し『ふわっ』としてるから…『シャッ!』って、鋭く閉じるイメージでやってみて」

 

 

 Kyoyaはハイハットを自分で叩いて、シャープな切り替えをデモンストレーション。

 虹夏は、目を輝かせて真似した。

 

 

「最後にスネアのクラック…もっと手首のスナップを使ってみて。今のままだと…音が少しぼやける。手首を…こう、鞭みたいに使って…『パン!』って鳴らす。これだけでバンド全体の輪郭がクッキリするよ」

 

 

 Kyoyaの解説は専門用語を最小限に抑え、虹夏が今叩いた音を一つ一つ分解して、「ここをこう変えるとこう変わるよ」と、具体的に優しく伝えるものだった。

 虹夏は、言われた通りに叩き直した。

 

 ──ドゥン!(早めのキック)

 

 シャカタカタカ!(正確なタム)

 

 シャッ!(シャープなハイハット)

 

 パン!(スナップの強いスネア)

 

 音がまったく違う。

 響きがクリアになり、リズムが安定し、バンド全体を支える土台のような重厚感が出た。

 虹夏は、手応えを感じて目を輝かせた。

 

 

「…うわ!さっきと全然違う!キックは先頭に切れてる…!タムも揺れてない…!ハイハットはシャープで…!スネアはパンって鳴った…!…Kyoyaさんありがとうございます!!!私…こんな音、出せたことなかった!!」

 

 Kyoyaは、優しく虹夏の頭を撫でた。

 

 

「素晴らしいよ虹夏ちゃん。一回教えただけでよくここまで出来たね。…ドラムはバンドにとっての土台だから…その感覚を絶対に忘れないでね。…これからもがんばれ」

 

 

 虹夏は、嬉しさと感動で満面の笑みを浮かべ、その大きな目に熱い大粒の涙をいっぱいに潤ませながら、力強く深く深く頷いた。

 

 

「…はい!!!Kyoyaさん…ありがとうございます!!私絶対……!Kyoyaさんみたいになる!!!土台を、ちゃんと支えられるドラマーになります!!!」

 

 

 Kyoyaは、虹夏の気高き覚悟に、穏やかに微笑んだ。

 

 

「楽しみにしてるよ。虹夏ちゃんのドラム…俺ももっと聴きたいからね」

 

「はい!!!!」

 

「…じゃあ、また俺が叩くから…よく見ててね」

 

「はい!!お願いします!!」

 

 

 虹夏は、涙をこぼしながらKyoyaに深く頭を下げた。

 ステージ脇で喜多とリョウも、虹夏の成長を見て微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 リョウは、ステージ脇の関係者エリアで静かに全体を見渡していた。

 周り全てが圧倒的だったが、彼女の視線は自然とベースに引き寄せられた。

 

 そこには──Ken Smithの5弦ハイエンドモデルが輝いていた。

 

 

 ──BSR5MW(Multi-Wood仕様)。

 

 

 AAAフレイムメイプルのトップ材が木目立体的で美しく、ブビンガバックにウェンジ指板、カーボンファイバー強化ネック、Ken Smithオリジナルピックアップにアクティブ3バンドEQ搭載。

 

 リョウはその圧倒的な美しさを前に思わず深く息を飲んだ。

 普段はクールに振る舞う彼女の瞳が、珍しくキラキラと輝き始めた。

 

 

「凄い…本物のKen SmithのBSR5MWだ。フレイムメイプルトップにブビンガバック、ウェンジ指板にスルーネック構造。これ、ただの木材の組み合わせじゃない、低音の立ち上がりを極限までタイトにするための完璧な黄金比だ…カーボンファイバーで強化されたネックのテンションが、5弦のローBを1ミリもブレさせずに完璧に支えてる…だからあのスラップの時、親指を叩きつけた瞬間の『ポンッ!』っていうポップ音が、これだけアリーナの広さがあっても、一切ぼやけずに輪郭を保ったまま脳髄に刺さるんだ…」

 

 

 リョウは興奮を抑えきれず、ペラペラと特徴を語り始めた。

 普段の一言二言の話し方とは打って変わって、熱く、詳細に。

 声が少し上ずり、手が震えていた。

 

 

「ボディの重さは4.8kg前後…だけど、この人間工学に基づいた絶妙なボディバランスのおかげで、ステージの上で何時間暴れ回っても重心が絶対にブレない。Ken SmithオリジナルのJタイプソープバーピックアップの出力が、アクティブ3バンドEQの中域ブーストと噛み合って、このバケモノみたいな爆音アンプの壁の中でも、ベースのメロディラインを一切埋もれさせずに最前面へ押し出してる…指弾きのほんの僅かなタッチのニュアンスまで全部拾い上げて、サスティンがどこまでも綺麗に伸びていく…完璧だ…こんなの、ベースっていう楽器の、一つの究極の到達点だよ…」

 

 

 その時──背後から声がした。

 

 

「そんなに気になるなら、触ってみるか?」

 

「!!?」

 

 

 リョウは心臓を素手で掴まれたかのようにビクッと肩を激しく震わせ、弾かれたようにバッと勢いよく振り向いた。

 

 そこに立っていたのは、【NEW GLORY】のベーシスト、RoÉ(ロイ)本人。

 

 

 【NEW GLORY】 Bass : RoÉ(ロイ)

 

 

 ステージに立つだけで地鳴りのような歓声を集める、圧倒的なカリスマ性と唯我独尊の存在感、そして人間の構造を無視した超絶技巧なテクニックの持ち主。

 

 ベースの腕前も文句なしに世界最高峰の実力を誇り、特に重低音の壁を一人で支配するようなスラップは神業レベル。

 

 半年前、イギリス最大級のスタジアムライブのど真んで彼が披露した、アドリブのスラップベースソロの映像は、【NEW GLORY】の公式ショート動画の中で一番の人気を誇り、現在驚異の130億再生を叩き出してオーチューブのショート動画再生数世界一という前人未到の記録を保持している。

 

 当然、一人のベーシストとして、リョウもこのRoÉの構築してきたプレイスタイルや変態的なリズムアプローチに強烈な影響を受けていた。

 

 RoÉはクールな目つきで、でも少し興味深げにリョウを見下ろしている。

 

 いつもなら、初めて会う大人に対して「…どうも」「…よろしく」くらいのやる気のないクールな口調で受け流すはずのリョウだったが、ここへきて完全に防衛線が崩壊。

 生まれて初めてのガチガチの緊張に直面し、おどおどした敬語が飛び出し、声が情けなく上ずり散らかした。

 

 

「ロ、RoÉさん…!!あっあの私…山田リョウと申します…!!…わっ私もベースやってます…!!」

 

「NaokIさんから話は聞いてるよ。ひとりちゃんと同じバンドメンバーなんだろ?【結束バンド】だっけ?」

 

「!!?はっはい…!!その、本当にベース触っても…よろしいのでしょうか…?こんな神器に触れるなんて…恐れ多い…です……」

 

 

 RoÉは立てかけてあったベースを手に取り、リョウに手渡した。

 

 

「いいよ。ベースやってンだろ?俺の音、どう感じるか聴かせてくれ」

 

「!!はい…!!!ありがとうございます!!!」

 

 

 RoÉは、ベースをリョウに手渡した。

 

 リョウは宝物のように両手で受け取り、キラキラした目でまじまじと見つめた。

 畏れ多さに細い指先を小さく震わせながらも、滑らかなボディのフレイムメイプルの木目を愛おしげに撫で、5弦ローBの強固なテンションを確かめ、オリジナルピックアップの位置を凝視する。

 リョウはまるで恋に落ちたように頰を赤らめて、うっとりと恍惚の声で呟くのだった。

 

 

「…信じられない。4.8キロの重量があるはずなのに、この体に吸い付くようなパーフェクトな重量バランス。1フレットから最終フレットまで吸い付くような、薄くて強固なネックの握り心地…最高すぎる…!地を這うような分厚いローBの太さがあるのに、どうして中高域のハイがこんなに濁らずにクリアに抜けるの…!?画面越しに聴いて脳髄を灼かれたあのRoÉさんの唯一無二の神の音、全部このベースから叩き出されてるんだ…私…こんな天上の楽器、一生触れることすらできないと思ってた……うぅ…嬉しい…」

 

 

 リョウは、RoÉのベースを肩にかけ、軽く弦を弾いた。

 アンプに繋がれたその神器を軽く弾いた瞬間、東京ドームのエリアに、低く、太く、しかしカミソリのように圧倒的なキレを孕んだ異次元の爆音グルーヴが響き渡る。

 リョウの指が震えながらも、RoÉのプレイスタイルを真似るように動く。

 

 

「ヤバい、この抜け方…RoÉさんの超絶スラップのポップの切れ味も、ゴーストノートを混ぜた指弾きの微細なニュアンスも、弾き手の魂ごと全部、このベースが極限まで引き出してる…!私のいつものベースじゃ逆立ちしたって、こんな異次元の音出せたことない…!」

 

 

 RoÉは、リョウのベースのセンスの高さに感心し、腕を組んでクールに優しく微笑んだ。

 

 

「……いい音だ。リョウちゃんセンスあるな。もっと叩き込んで、俺の音超えてみろよ」

 

「…はい…RoÉさん…!私…絶対超えます…!このベースの音…忘れません…!ありがとうございます…!!」《/b》

 

 

 リョウは、その綺麗な目を感動のあまりに潤ませ、一人のベーシストとしてのこれ以上ない熱い誓いを胸に宿して、RoÉに向けて深く深く、最大級のリスペクトを込めて綺麗に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 喜多はステージ脇の関係者エリアで、興奮と緊張が入り混じったまま周りの景色を眺めていた。

 巨大なLEDスクリーン、Neveコンソール、Genelecモニター、NaokIのギター、Kyoyaのドラムセット、RoÉのベース…全てが圧倒的で目が忙しかった。

 

 でも──最後に喜多の視線は、ある男に完全に釘付けになった。

 

 

 【NEW GLORY】Vo. : Laviel(ラヴィエル)

 

 

 【NEW GLORY】の全ての作詞を担っている。

 

 【NEW GLORY】最年少であり、バンドの象徴。

 

 ファンの間では、ラヴィと呼ばれている。

 ステージ上でのカリスマ性は、他の【NEW GLORY】メンバーと比べても別次元。

 ライブでは、観客を一瞬で掌握する存在感を発揮。

 一歩ステージに足を踏み入れた瞬間、ドーム全体の空気が変わる──それがLavielのカリスマ性だ。

 

 世界ツアーで数百万人のファンを熱狂させ、SNSでは「Lavielの視線に射抜かれたら動けない」「神の化身」と称賛の嵐。

 彼のボーカルはただ歌うだけでなく、感情を直接脳に注入するような力強さがあり、ファンの心を掴んで離さない。

 【NEW GLORY】の楽曲をハイトーンで昇華させる彼の声は、音楽界で「天使と悪魔の融合」と呼ばれ、ボーカリストの憧れの的。

 

 彼のステージングは単なるパフォーマンスではなく、観客を物語の中に引き込む芸術。

 Lavielのライブ映像は、オーチューブで累計再生160億回超え、音楽フェスのヘッドライナー常連として、世界中のアーティストからリスペクトされている。

 

 Lavielは、最新フルスペックのMacBo○k Pro(M5 Maxチップ搭載の16インチモデル)で、Antares Auto-Tuneの画面をいじっていた。

 ピッチ補正のスライダーを微調整し、エフェクトのFormantシフトを少し下げて、独自のクリアなハイトーンを殺さないように設定。

 隣にはTASCAM TA-1VP(リアルタイムボーカルプロセッサー)が置かれ、Laviel特注のLEWITTの有線マイク──本体もコードも真っ白な超ロングケーブル仕様──を手に持って、軽くマイクチェックを繰り返していた。

 

 

「チェックチェック…1、2…あ〜」

 

 

 Lavielの声が、ドーム全体に響く。

 オートチューンで微調整されているとはいえ、Laviel独自のクリアで伸びやかなハイトーンは一切損なわれていない。

 むしろ補正が最小限だからこそ、生の声の透明感と迫力がそのまま伝わってくる。

 喜多はその声を浴びて、心臓がドキドキと鳴り始めた。

 

 

(…ラヴィさんの声……オートチューン入ってるけど全然不自然じゃないし、ハイトーンがこんなにクリアで…伸びて…私…こんな声出せない…ラヴィさんすごい…!…なんかドキドキしてきた…!)

 

 

 喜多は、両手を胸に当てて息を荒げた。

 Lavielは、マイクを口元に近づけながら軽く笑って言った。

 

 

「よし、いい感じ。本番もこの設定でいけそうだな」

 

 

 その瞬間、喜多は思わず声を漏らした。

 

 

「ラヴィさんの声を生で…!うわあああ!!! 綺麗すぎる!私死ぬ…!」

 

 

 Lavielは、喜多に気づいて優しく微笑んだ。

 

 

「喜多ちゃん?ひとりちゃんのバンド仲間だよね?よろしくね。俺の声……どう?」

 

 

 喜多は、顔を真っ赤にして慌てて頭を下げた。

 

 

「ラヴィさんの声……本当に綺麗です…!!オートチューンも最小限なのに、こんなにクリアで……私も、歌……もっとがんばります……!」

 

「ありがとね。俺も、ひとりちゃんの入ったバンドに興味あるからね…がんばれ」

 

 

 Lavielは、マイクを軽く振って笑った。

 喜多は、胸を押さえながら涙目で頷いた。

 

 

「はい!私、がんばります!!」

 

「うん。楽しみにしてるよ」

 

 

 ステージではLavielがマイクを手に、軽く歌い始めた。

 オートチューンで補正されたクリアなハイトーンが、ドームに響き渡る。

 喜多は、その声を浴びて胸を高鳴らせながら、決意を新たにした。

 

 

ラヴィさんの声…ホントにすごい…!私もいつかこんな風に…!みんなを魅了できるようになりたい…!)

 

 東京ドームのサウンドチェックは、まだ始まったばかり。

 

 【NEW GLORY】の放つ本物の音。

 

 傷つき、大人の壁に阻まれかけていた【結束バンド】の未来は、無限に広がっていた。

 

 




ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
ということで、ここから結束バンドのみんなは徐々に強化していきます。
次回はリハに入ります。
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