娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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今回から【NEW GLORY】のメンバーが、登場します。
注意書きに書いてあった通り、オリジナルキャラなので御了承ください。

それではどうぞ


15

 

 

 ついに、東京ドーム公演の日が来た。

 

 現在の時刻は9時58分。

 スターリーの近くのパーキングに、【結束バンド】のメンバーたちが集まっていた。

 ひとりは既に、NaokI(直樹)や【NEW GLORY】の他のメンバーと一緒にドーム入りしているので、残りは虹夏・喜多・リョウの3人だけ。

 3人は少し緊張しながら、スマホで時間を見比べていた。

 

 

 「そろそろ10時だね…もうすぐ来るかな……?」

 

 「確かひとりちゃんがグループロインで、黒のヴェルファイアで迎えに来るって言ってましたね」

 

 「とりあえず待とう。向こうは大忙しだと思うし、多少の遅れは考慮しとかないと…」

 

 

 虹夏たちが不安げに呟くと、ちょうどその時──

 

 黒い高級ミニバン──最新型のヴェルファイアが、静かに駐車場に入ってきた。

 

 車が停まると、運転席からスーツを着た女性が降りてきた。

 30代後半くらいの、落ち着いた雰囲気のショートカット。

 彼女は3人を見つけると、優しく微笑んで近づいてきた。

 

 

 「伊地知虹夏さん、喜多郁代さん、山田リョウさん……ですね?初めまして。【NEW GLORY】のマネージャーを担当している、●●と申します。NaokIさんからお話を伺っています。今日はよろしくお願いします」

 

 

 マネージャーは、名刺を3人に差し出した。

 虹夏たちは、慌てて受け取りながら頭を下げた。

 

 

 「は、はい!よろしくお願いします!!あの……本当に……ありがとうございます……!」

 

 「【NEW GLORY】のマネージャーさん…!私たち……本当に招待してもらえるなんて……夢みたいです!」

 

 「ありがとうございます」

 

 

 マネージャーは、微笑んで車を指差した。

 

 

 「それでは、お乗りください。東京ドームまでご案内します」

 

 

 3人は緊張と興奮で胸を高鳴らせながら、ヴェルファイアの後部座席に乗り込んだ。

 車内は高級感あふれ、シートは柔らかく、静かにエンジンがかかる。

 マネージャーが運転席から振り返って、優しく言った。

 

 

 「道中、少しお時間かかりますが…どうぞリラックスしてくださいね。NaokIさんもひとりちゃんも…楽しみに待ってますよ」

 

 

 車は静かに下北沢を離れ、東京ドームへ向かった。

 道中、窓から見える景色が徐々に変わっていく。

 東京ドーム周辺に近づくにつれ、人だかりが目立ち始めた。

 グッズ販売の特大ブースには、長蛇の列。

 大勢のスタッフが整理券の確認をしたり、列に誘導したりなど忙しなく動き回っている。

 ファンたちは【NEW GLORY】のバンドTシャツやパーカーを着て写真を撮ったり、グッズを手にしている。

 まだライブ開始まで何時間もあるのに、明らかに5万人以上はいる。

 【結束バンド】は、窓からその光景を見て息を飲んだ。

 

 

 「……伊地知先輩がファンが大勢いるって言ってたから、人気なのは知ってましたけど……本当に【NEW GLORY】ってファンが多いんですね……」

 

 「うん…こんなに人だかりが…まだ開演まで時間あるのに……」

 

 

 リョウは窓の外を見ながら、静かに呟いた。

 

 

 「…中学の時に日本最大級のスタジアムにライブ行った時も、朝からこれくらいかこれ以上いたな……懐かしい」

 

 

 虹夏は、スマホで現在の入場待ち状況を検索して目を丸くした。

 

 

 「これチケット倍率やばいよね……あたしたち、本当にこんなすごいライブに招待してもらえたんだ…!」

 

 「はい…!ひとりちゃんのお父さんが……NaokIさんだから……本当に夢みたい!ウキウキしちゃう……!」

 

 「ヤバい。本当に奇跡だよこれ…早く着かないかな…!」

 

 

 3人は、車内で少しずつ興奮を抑えきれなくなってきた。

 マネージャーは、ミラー越しに微笑みながら見ていた。

 車は、東京ドームの関係者入り口へ向かった。

 

 【結束バンド】たちは、胸を高鳴らせながら車から降りた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 東京ドームの関係者入り口に到着した瞬間、虹夏、喜多、リョウの3人は車から降りて息を飲んだ。

 マネージャーは3人を優しく誘導しながら、関係者用の通路へ案内した。

 入口で、スタッフが吊り下げ式の名札を渡してくる。

 

 

 「これを首にかけてください。関係者エリアに入るためのIDです」

 

 

 虹夏たちは慌てて受け取り、首にかけた。

 名札には「【結束バンド】ゲスト」とシンプルに書かれていて、3人はそれを眺めながら興奮を抑えきれなかった。

 そのまま楽屋エリアへ向かうと、広い控室のドアが開いた。

 中にはすでにNaokI(直樹)とひとりがいて、ひとりはいつものピンクジャージ姿で、少し緊張した顔で座っていた。

 NaokIは【結束バンド】たちに気づくと、優しく声をかけた。

 

 

 「おはようみんな。よく来たね」

 

 「あっ虹夏ちゃん、喜多ちゃん、リョウさん。おはようございます」

 

 

 その瞬間、マネージャーが唐突にため息をついて、NaokIに釘を刺した。

 

 

 「NaokIさん…唐突にこういうことするのやめてくださいね。もう、ひとりちゃんで慣れましたけど…毎回大変なんですから」

 

 

 マネージャーは、仕方なさそうに苦笑いしながら肩をすくめた。

 NaokIは、照れくさそうに頭を掻いた。

 

 

 「ごめんごめん。でも、どうしても誘いたくてね」

 

 「あっごめんなさい。私が…みんなと見たいって…言ったから……」

 

 「大丈夫、ひとりちゃんは気にしなくていいのよ。みんなと楽しんでね」

 

 「なんかひとりの方が、扱い丁寧じゃない?」

 

 「日頃の行いです」

 

 

 マネージャーはひとりの頭を優しく撫でながら、もう諦めたような顔で言った。

 

 

 「せめて1週間…いや、3日くらい前に伝えてくださいよ。…私は仕事があるのでこれで失礼しますね。皆さん、楽しんでください」

 

 

 マネージャーは、軽く会釈して部屋を出て行った。

 残されたメンバーたちは、NaokIとひとりの前に立った。

 ひとりを除く【結束バンド】のメンバーは、興奮で目を輝かせて言った。

 

 

 「NaokIさん!!本当にありがとうございます!私たちがこんなすごいライブに招待してもらえるなんて……!」

 

 「ひとりちゃんのお父さんに直々に招待してもらえるなんて、夢みたいです!!」

 

 「ぼっちと仲間で本当によかった…あの【NEW GLORY】のライブがタダで見れるなんて…!」

 

 

 直樹は、みんなの興奮した顔を見て優しく微笑んだ。

 

 

 「これからサウンドチェックに行くけど…みんなも来るかい?ステージの近くから観れるぞ」

 

 

 その言葉にメンバーたちは目をキラキラさせて、勢いよく頷いた。

 

 

 「行きます!!! 絶対行きます!!!」

 

 「サウンドチェック…!【NEW GLORY】の生演奏が聴けるんですか…!?うわあああ楽しみ!!」

 

 「絶対行きます…!近くでステージ見てみたい…!」

 

 「じゃあ行こうか」

 

 

 NaokIは、笑いながら立ち上がった。

 

 虹夏たちはNaokIやスタッフたちについて、楽屋を出てステージ裏へ向かった。

 道中、喜多がひとりにそっと聞いた。

 

 

 「ねぇひとりちゃん。ここにはお父さんと一緒に来たの?」

 

 「あっはい…そのままメンバーたちと一緒に車で来ました」

 

 

 ひとりは恥ずかしそうに頷いた。

 

 その言葉に、虹夏と喜多とリョウは羨ましそうに目を輝かせた。

 

 

 「えええ!?【NEW GLORY】のメンバー達と、一緒に車で!?うわあああ!!! 羨ましすぎる!!!」

 

 「いいな〜!私も乗りたかった〜!」

 

 「ぼっち羨ましい。これが身内効果か…」

 

 

 ひとりは、みんなの反応に顔を真っ赤にしながらもニヤニヤしていた。

 

 

 「あっ…へへ…そんな大したことじゃないです…うへへ……」

 

 

 3人は興奮を抑えきれず、ステージ裏の通路を歩きながら、笑い合った。

 NaokIは、その様子を見て静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ステージ裏の通路を抜け、関係者用のエレベーターで上がると──

 虹夏、喜多、リョウの3人は、初めて東京ドームのステージに足を踏み入れた。

 

 

 「……うわ……」

 

 

 虹夏が、思わず息を飲んだ。

 目の前に広がるのは、想像を絶する広大な空間。

 ステージはスターリーの何十倍もの大きさ。

 巨大なLEDスクリーンが天井から吊り下げられ、眩い光を放ちながら待機中。

 客席はスタンド席以外オールスタンディング仕様で、フロアがどこまでも広がっている。

 まだ照明が落ちていない状態でも、圧倒的なスケールに3人は言葉を失った。

 

 

 「これが東京ドーム!?ステージ広すぎるし、スタンド席がめちゃくちゃ遠いし、奥のスタンド席なんて豆粒にしか見えない!実際に立ってみたらこんな景色なんだ!!」

 

 

 喜多は目を丸くして、ステージの端から端まで見渡した。

 

 

 「うわあぁ!凄い!スクリーンって近くで見たらこんなに大きいのね!」

 

 

 リョウは、ステージ脇に並ぶ音響機材に目を奪われていた。

 巨大なPAスピーカー、Neveコンソール、Pro Toolsのラック、Genelecのモニタースピーカー…

 ハイエンド機材がずらりと並び、スタッフが最終調整をしている。

 

 

 「…このPA!Neve 88RS…Genelec 1238Aだ…!ベースここで鳴らしたらどうなるんだろ…!」

 

 

 3人が呆然としていると、ステージ上で【NEW GLORY】のメンバーたちがサウンドチェックの準備をしていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ステージ脇の関係者エリアで【結束バンド】の3人はそれぞれ、息を潜めて【NEW GLORY】のメンバーたちを眺めていた。

 

 

 (うわあああ…!Kyoya(キョウヤ)さんだ…!!凄い…!!本物だ…!!!!)

 

 

 虹夏は、ドラムを軽く試奏しているKyoyaに目を奪われていた。

 

 

 【NEW GLORY】Kyoya(キョウヤ)-Drums

 

 

 【NEW GLORY】のメンバーの中で二番目の年長者。

 リーダーのNaokIが酔った勢いで唐突なことしたり、勢いではっちゃけたり、見栄を張って変な事をする面があるため、実質的にバンドのまとめ役を担う常識人。

 圧倒的なパワーと唯一無二のグルーヴの持ち主で、テクニック、表現力、パワフルなプレイスタイルのドラミングでファンを魅了し続けている。

 テクニックだけでなく感情的な深みも伴っており、バンドのサウンドに欠かせない重要な役割を果たしている。

 そして歴代の最高峰のドラマーたちを差し置いて、圧倒的実力の持ち主と言われている世界最高峰のドラマー。

 虹夏にとって、数多くいるドラマーの中でKyoyaは、特に目標にしている存在だった。

 Kyoyaはスティックを軽く回しながら、バスドラムを一発踏んで音を確認していた。

 その音が、ドーム全体に低く響き渡る。

 虹夏は、思わず息を飲んだ。

 

 

 「Kyoyaさんのバスドラムの音…重い…でも、切れがある…あたしもあんな音、出したい……」

 

 

 Kyoyaは虹夏に気づくとスティックを置き、ドラムセットから離れて近づいてきた。

 優しく笑いながら、虹夏に話しかけた。

 

 

 「ひとりちゃんのとこの、バンドメンバーだよね?初めまして、【NEW GLORY】のドラム担当のKyoyaです。よろしくね」

 

 

 虹夏は顔を真っ赤にして、慌てて頭を下げた。

 

 

 「キョ…Kyoyaさん!!!は…初めまして!!わっ私、伊地知虹夏って言います!!わっ…わた…私もドラム叩いてます!!ずっとKyoyaさんのドラムを目標にしてて!!あのグルーヴにパワー…感情…全部憧れてます!生でお会いできるなんて光栄です!!!」

 

 (うわ…うわあああああああ!!!!すごいすごいすごい!!!あたし、あのKyoyaさんと話してる!!!!)

 

 

 Kyoyaは、笑いながら虹夏の肩を軽く叩いた。

 

 

 「ありがとう虹夏ちゃん。NaokIさんやひとりちゃんから聞いてたよ。ドラムやってるって…よかったら叩いてるとこ、見る?」

 

 

 虹夏の目が一瞬で輝いた。

 アホ毛がブンブンと振り回され、興奮で声が上ずる。

 

 

 「……え!? いいんですか!!?Kyoyaさんのドラムを生で……!?うわああああ!!! 見たい!!! 見たいです!!!」

 

 「決まりだね。こっちにおいで」

 

 「はい!!!!やったー!!Kyoyaさんのドラムを近くで見れる!!」

 

 (…可愛いなこの子)

 

 

 Kyoyaは、落ち着いた声で穏やかに笑った。

 虹夏はぴょんぴょんと可愛く跳ねながら、Kyoyaの元へ駆け寄った。

 Kyoyaは、新品のイヤープロテクター(耳栓)を取り出し、虹夏に手渡した。

 

 

 「すぐ近くで鳴るから、これつけておいて。音量ヤバいから」

 

 「ありがとうございます!Kyoyaさん!!」

 

 

 虹夏は目をキラキラさせながら、すぐに耳栓を装着した。

 Kyoyaはドラムセットに座り直し、軽くスティックを回しながら言った。

 

 

 「……じゃあ……サウンドチェックがてら……叩くぞ」

 

 

 Kyoyaがバスドラムを一発踏んだ瞬間──

 重厚で、圧倒的な低音がドーム全体に響き渡った。

 キックのパワーが床を震わせ、ハイハットのシャープな切れ味、タムの感情的な響き、スネアのクラックが完璧に融合する。

 テクニックの精度、グルーヴの深み、パワフルさと繊細さが同居する唯一無二のドラミング。

 虹夏はすぐ近くでその音を浴びて、体や脳に衝撃が走り興奮の限界を超えた。

 

 

 「……うわああああ!!!Kyoyaさんのバスドラム……!重い……! でも切れがすごい!タムは感情乗ってる……!ハイハットはシャープすぎる……!私もこんな音出したい!!Kyoyaさん神!!!」

 

 

 虹夏は可愛くぴょんぴょんと跳ねまくり、アホ毛がブンブン振り回され、両手を握りしめて興奮を抑えきれなかった。

 Kyoyaは、そんな虹夏の仕草を横目で見ながら内心で思った。

 

 

 (……この子天使かな?それにしても…熱い目してる。俺のドラム見て、こんなに喜んでくれるなんて……いいドラマーになるよ、きっと)

 

 

 Kyoyaは、落ち着いた声で虹夏に言った。

 

 

 「じゃあ今度は虹夏ちゃんが叩いてみるといい。俺のセット使っていいから」

 

 

 虹夏は、Kyoyaの言葉に一瞬固まった。

 目を丸くして、アホ毛がピョコンと跳ねる。

 

 

 「……え……?私が……Kyoyaさんのセットで……叩けるんですか……!?」

 

 

 Kyoyaは、落ち着いた声で優しく頷いた。

 

 

 「うん。サウンドチェックがてら、ちょっとだけね。虹夏ちゃんの音、俺も聴いてみたい」

 

 

 虹夏の顔が、一瞬で真っ赤になった。

 次の瞬間、アホ毛がブンブン振り回され、興奮で声が上ずる。

 

 

 「…いいんですか!!?Kyoyaさんのドラムセットで……!?やったー!!! ありがとうございます!!!」

 

 

 虹夏は、ぴょんぴょんと跳ねながらKyoyaの隣に駆け寄った。

 Kyoyaは席を譲り、虹夏に新品のイヤープロテクターをもう一度確認させてから、優しく言った。

 

 

 「音量ヤバいから、耳栓しっかりつけてね」

 

 「はい…!!!」

 

 

 虹夏は、恐る恐るドラムセットに座った。

 Kyoyaの調整されたセットは、虹夏の体にぴったりフィットする。

 そして虹夏は、Kyoyaのドラムセットの前に座った瞬間、息を飲んだ。

 26インチ×2のダブル・ベース・ドラムが巨大な存在感を放ち、10・12・14インチタム、16・18インチフロアタム、14インチブラススネア、MEINLのシンバルがキラキラ輝いている。

 Remoコーテッドヘッドの張り具合、チューニングの完璧さ…全てがプロの現場そのもの。

 Kyoyaは虹夏に席を譲った後、虹夏のすぐ後ろに立って優しく見守った。

 虹夏は緊張と興奮で手が震えながらも、スティックを握り、深呼吸してドラムセットに向き合った。

 

 

 「……じゃあ…いきます!」

 

 

 そして──バスドラムを一発踏んだ。

 

 

 ドゥン!!

 

 

 重厚で圧倒的な低音が、ドーム全体を震わせる。

 Kyoyaのセットが、虹夏の音を最大限に引き出した。

 そして、基本のリズムを叩き始めた。

 4ビートのシンプルなビート。

 バスドラム、タム、スネア、ハイハットを刻む。

 Kyoyaのセットは、虹夏の叩き方を最大限に引き出してくれる。

 虹夏は、興奮で顔を真っ赤にしながら叩き続けた。

 フィルイン、タム、スネア、ハイハット──

 Kyoyaのグルーヴを思い出しながら、自分のリズムを乗せる。

 

 そして、Kyoyaは──すぐに改善点に気づいた。

 

 虹夏が一通り叩き終えて、息を切らしながらKyoyaを見上げた。

 

 

 「……ど、どうですか?私…ちゃんと叩けてましたか?」

 

 

 Kyoyaは、腕を組んで穏やかに微笑んだ。

 落ち着いた声で、まるで親しみのある先輩のようにゆっくりと話し始めた。

 

 

 「虹夏ちゃん、いい音だったよ。パワーもあって気持ちも乗ってる。でも…いくつかもっと良くなるポイントがある。俺が今叩いた音と比べてみて…一緒に直していこうか」

 

 

 Kyoyaは、虹夏の隣にしゃがみ込み優しく一つずつ解説を始めた。

 そこらのドラム講師とは比べ物にならないほど、わかりやすく、丁寧で、虹夏の目線に立った言葉だった。

 

 

 「まずバスドラムのキック。今のは力強いんだけど…タイミングが少し遅れてるんだ。ドラムの土台は、キックが『先頭』を切るのが大事。0.1秒でも遅れると、バンド全体が引っ張られちゃう。だから…キックを『先頭』に意識して……少し早めに踏むイメージ。こうやって…」

 

 

 Kyoyaは、自分の手でバスドラムペダルを軽く踏んで見せた。

 「タン……!」と、先にキックが鳴る感覚を虹夏に体感させた。

 

 

 「次にタムのフィルイン。感情は乗ってるんだけど…リズムが少し揺れてるね。タムは『メロディ』じゃなくて『リズム』なんだ。だからメトロノームを頭に叩き込んで…正確に刻む。今のはちょっと『歌う』感じになってるから…もっと『刻む』意識で叩いてみて。こう……タカタカタカ…って、機械みたいに正確に」

 

 

 Kyoyaは、虹夏のタムを指で軽く叩いてリズムの正確さを体感させた。

 

 

 「ハイハットもオープンクローズの切り替えが少し甘い。シャープに切る意識を強く持てば、音がもっと抜けるよ。今のは…少し『ふわっ』としてるから…『シャッ!』って、鋭く閉じるイメージでやってみて」

 

 

 Kyoyaはハイハットを自分で叩いて、シャープな切り替えをデモンストレーション。

 虹夏は、目を輝かせて真似した。

 

 

 「最後にスネアのクラック…もっと手首のスナップを使ってみて。今のままだと…音が少しぼやける。手首を…こう、鞭みたいに使って…『パン!』って鳴らす。これだけでバンド全体の輪郭がクッキリするよ」

 

 

 Kyoyaの解説は専門用語を最小限に抑え、虹夏が今叩いた音を一つ一つ分解して、「ここをこう変えるとこう変わるよ」と、具体的に優しく伝えるものだった。

 虹夏は、言われた通りに叩き直した。

 

 ──ドゥン!(早めのキック)

 

 シャカタカタカ!(正確なタム)

 

 シャッ!(シャープなハイハット)

 

 パン!(スナップの強いスネア)

 

 音がまったく違う。

 響きがクリアになり、リズムが安定し、バンド全体を支える土台のような重厚感が出た。

 虹夏は、手応えを感じて目を輝かせた。

 

 

 「…うわ!さっきと全然違う!キックは先頭に切れてる…!タムも揺れてない…!ハイハットはシャープで…!スネアはパンって鳴った…!…Kyoyaさんありがとうございます!!!私…こんな音、出せたことなかった!!」

 

 Kyoyaは、優しく虹夏の頭を撫でた。

 

 

 「素晴らしいよ虹夏ちゃん。一回教えただけでよくここまで出来たね。…ドラムはバンドにとっての土台だから…その感覚を絶対に忘れないでね。…これからもがんばれ」

 

 

 虹夏は、満面の笑みで涙目になりながら、力強く頷いた。

 

 

 「…はい!!!Kyoyaさん…ありがとうございます!!私絶対……!Kyoyaさんみたいになる!!!土台を、ちゃんと支えられるドラマーになります!!!」

 

 

 Kyoyaは、穏やかに微笑んだ。

 

 

 「楽しみにしてるよ。虹夏ちゃんのドラム…俺ももっと聴きたいからね」

 

 「はい!!!!」

 

 「…じゃあ、また俺が叩くから…よく見ててね」

 

 「はい!!お願いします!!」

 

 

 虹夏は、涙をこぼしながらKyoyaに深く頭を下げた。

 ステージ脇で喜多とリョウも、虹夏の成長を見て微笑んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 リョウは、ステージ脇の関係者エリアで静かに全体を見渡していた。

 周り全てが圧倒的だったが、彼女の視線は自然とベースに引き寄せられた。

 

 そこには──Ken Smithの5弦ハイエンドモデルが輝いていた。

 

 

 BSR5MW(Multi-Wood仕様)。

 

 

 AAAフレイムメイプルのトップ材が木目立体的で美しく、ブビンガバックにウェンジ指板、カーボンファイバー強化ネック、Ken Smithオリジナルピックアップにアクティブ3バンドEQ搭載。

 リョウは思わず息を飲んだ。

 普段はクールに振る舞う彼女の瞳が、珍しくキラキラと輝き始めた。

 

 

 「これ…Ken SmithのBSR5MWだ。フレイムメイプルトップ…ブビンガバック…ウェンジ指板…カーボンファイバー強化ネックで…テンション安定…Ken Smithオリジナルピックアップの低域の厚み…アクティブEQで中域の抜けが異常…スラップのポップ音が…こんなにクリアで……指弾きのニュアンスも……全部拾って……ベースのプレイスタイルに完全に最適化されてる……私…こんなベース触ったことない……低音の立ち上がりはタイトなのに、サスティン長すぎ…ハイがキラキラ抜ける……スラップの切れ味は異常…B弦のテンションは狂わない……あのスラップの音……これで出てるんだ」

 

 

 リョウは興奮を抑えきれず、ペラペラと特徴を語り始めた。

 普段の一言二言の話し方とは打って変わって、熱く、詳細に。

 声が少し上ずり、手が震えていた。

 

 

 「ボディの重さは4.8kg前後…でも、バランスが完璧で疲れにくい。ネックの握り心地最高で、ピックアップの出力…低域が太いのにぼやけない。アクティブEQで中域ブーストしたらバンドの中で埋もれない。そしてスラップ……あの『ポンッ!』って音…このベースだから出せるんだ…」

 

 

 その時──背後から声がした。

 

 

 「そんなに気になるなら、触ってみるか?」

 

 「!!?」

 

 

 リョウは、ビクッと肩を震わせて振り向いた。

 

 そこに立っていたのは、【NEW GLORY】のベーシスト、RoÉ(ロイ)本人。

 

 

 【NEW GLORY】RoÉ(ロイ)-Bass

 

 

 圧倒的なカリスマ性に存在感、超絶技巧なテクニックの持ち主。

 ベースの腕も世界最高峰の実力で特にスラップが神業レベル。

 イギリス最大級のスタジアムライブで披露した、アドリブのスラップベースソロは【NEW GLORY】のショート動画で一番再生されており、現在脅威の130億再生を叩き出し、オーチューブのショート動画の再生数世界一を記録。

 当然、リョウもRoÉのプレイスタイルに影響を受けてる

 クールな目つきで、でも少し興味深げにリョウを見下ろしている。

 リョウは、珍しくガチガチに緊張した。

 いつもは「…どうも」「…よろしく」くらいのクールな口調が、完全に崩壊。

 敬語が飛び出し、声が上ずる。

 

 

 「ロ、RoÉさん…!!あっあの私…山田リョウと申します…!!…わっ私もベースやってます…!!」

 

 「NaokIさんから話は聞いてるよ。ひとりちゃんと同じバンドメンバーなんだろ?【結束バンド】だっけ?」

 

 「!!?はっはい…!!その、本当にベース触っても…よろしいのでしょうか…?こんな神器に触れるなんて…恐れ多い…です……」

 

 

 RoÉは立てかけてあったベースを手に取り、リョウに手渡した。

 

 

 「いいよ。ベースやってンだろ?俺の音、どう感じるか聴かせてくれ」

 

 「!!はい…!!!ありがとうございます!!!」

 

 

 RoÉは、ベースをリョウに手渡した。

 リョウは宝物のように両手で受け取り、キラキラした目でまじまじと見つめた。

 指先でボディを撫で、弦のテンションを確認し、ピックアップの位置を凝視。

 まるで恋に落ちたように、頰を赤らめて呟く。

 

 

 「重さのバランス…完璧。ネックの握り心地…最高すぎる…!低音の太さなのに…ハイがこんなに抜ける…!RoÉさんの音、これで出てるんだ…私……こんなベース……一生触れられないと思ってた…うぅ……嬉しい……」

 

 

 リョウは、RoÉのベースを肩にかけ、軽く弦を弾いた。

 低く、太く、しかし切れのある音が響く。

 リョウの指が震えながらも、RoÉのプレイスタイルを真似るように動く。

 

 

 「…RoÉさんのスラップ…ポップの切れ味…指弾きのニュアンス…全部、このベースが引き出してる。私、こんな音出せたことない……」

 

 

 RoÉは、腕を組んでクールに微笑んだ。

 

 

 「……いい音だ。リョウちゃんセンスあるな。もっと叩き込んで、俺の音超えてみろよ」

 

 「…はい…RoÉさん…!私…絶対超えます…!このベースの音…忘れません…!ありがとうございます…!!」

 

 

 リョウは、目を潤ませて深く頭を下げた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 喜多はステージ脇の関係者エリアで、興奮と緊張が入り混じったまま周りの景色を眺めていた。

 巨大なLEDスクリーン、Neveコンソール、Genelecモニター、NaokIのギター、Kyoyaのドラムセット、RoÉのベース…全てが圧倒的で、目が忙しかった。

 

でも──最後に、喜多の視線は、ある男に完全に釘付けになった。

 

 

 【NEW GLORY】Laviel(ラヴィエル)-Vo

 

 

 【NEW GLORY】の全ての作詞を担っている。

 【NEW GLORY】最年少であり、バンドの象徴。

 ファンの間では、ラヴィと呼ばれている。

 ステージ上でのカリスマ性は、他の【NEW GLORY】メンバーと比べても別次元。

 ライブでは、観客を一瞬で掌握する存在感を発揮。

 一歩ステージに足を踏み入れた瞬間、ドーム全体の空気が変わる──それがLavielのカリスマ性だ。

 世界ツアーで数百万人のファンを熱狂させ、SNSでは「Lavielの視線に射抜かれたら動けない」「神の化身」と称賛の嵐。

 彼のボーカルはただ歌うだけでなく、感情を直接脳に注入するような力強さがあり、ファンの心を掴んで離さない。

 【NEW GLORY】の楽曲をハイトーンで昇華させる彼の声は、音楽界で「天使と悪魔の融合」と呼ばれ、ボーカリストの憧れの的。

 彼のステージングは単なるパフォーマンスではなく、観客を物語の中に引き込む芸術。

 Lavielのライブ映像は、オーチューブで累計再生160億回超え、音楽フェスのヘッドライナー常連として、世界中のアーティストからリスペクトされている。

 

 Lavielは、最新フルスペックのMacBo○k Pro(M5 Maxチップ搭載の16インチモデル)で、Antares Auto-Tuneの画面をいじっていた。

 ピッチ補正のスライダーを微調整し、エフェクトのFormantシフトを少し下げて、独自のクリアなハイトーンを殺さないように設定。

 隣にはTASCAM TA-1VP(リアルタイムボーカルプロセッサー)が置かれ、Laviel特注のLEWITTの有線マイク──本体もコードも真っ白な超ロングケーブル仕様──を手に持って、軽くマイクチェックを繰り返していた。

 

 

 「チェックチェック…1、2…あ〜」

 

 

 Lavielの声が、ドーム全体に響く。

 オートチューンで微調整されているとはいえ、Laviel独自のクリアで伸びやかなハイトーンは一切損なわれていない。

 むしろ補正が最小限だからこそ、生の声の透明感と迫力がそのまま伝わってくる。

 喜多はその声を浴びて、心臓がドキドキと鳴り始めた。

 

 

 (…ラヴィさんの声……オートチューン入ってるけど全然不自然じゃないし、ハイトーンがこんなにクリアで…伸びて…私…こんな声出せない…ラヴィさんすごい…!…なんかドキドキしてきた…!)

 

 

 喜多は、両手を胸に当てて息を荒げた。

 Lavielは、マイクを口元に近づけながら軽く笑って言った。

 

 

 「よし、いい感じ。本番もこの設定でいけそうだな」

 

 

 その瞬間、喜多は思わず声を漏らした。

 

 

 「ラヴィさんの声を生で…!うわあああ!!! 綺麗すぎる!私死ぬ…!」

 

 

 Lavielは、喜多に気づいて優しく微笑んだ。

 

 

 「喜多ちゃん?ひとりちゃんのバンド仲間だよね?よろしくね。俺の声……どう?」

 

 

 喜多は、顔を真っ赤にして慌てて頭を下げた。

 

 

 「ラヴィさんの声……本当に綺麗です…!!オートチューンも最小限なのに、こんなにクリアで……私も、歌……もっとがんばります……!」

 

 「ありがとね。俺も、ひとりちゃんの入ったバンドに興味あるからね…がんばれ」

 

 

 Lavielは、マイクを軽く振って笑った。

 喜多は、胸を押さえながら涙目で頷いた。

 

 

 「はい!私、がんばります!!」

 

 「うん。楽しみにしてるよ」

 

 

 ステージではLavielがマイクを手に、軽く歌い始めた。

 オートチューンで補正されたクリアなハイトーンが、ドームに響き渡る。

 喜多は、その声を浴びて胸を高鳴らせながら、決意を新たにした。

 

 

 (ラヴィさんの声…ホントにすごい…!私もいつかこんな風に…!みんなを魅了できるようになりたい…!)

 

 

 東京ドームのサウンドチェックは、まだ始まったばかり。

 【NEW GLORY】の音。

 【結束バンド】の未来は、無限に広がっていた。

 

 




ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
ということで、ここから結束バンドのみんなは徐々に強化していきます。
次回はリハに入ります。
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