ここまで長かったな~
それではどうぞ
楽屋に戻ってから、時間がゆっくりと過ぎていった。
【NEW GLORY】のメンバーたちはそれぞれヘアメイクや本番で着る衣装を選ぶために部屋を出たり入ったりし始め、スタッフの声や笑い声が遠くに聞こえる中、【結束バンド】の4人は、ソファや椅子に座ってそれぞれ時間を潰していた。
ひとりは、ギターを膝の上に置いて、弦を軽く弾きながら、みんなの様子をちらちらと窺っていた。
さっきのセッションで褒められた嬉しさがまだ胸に残っているのに、【結束バンド】の3人の雰囲気が……少しよそよそしい。
笑顔を作ってくれているのはわかるけど、目がどこか遠くを見ている。
ひとりは、弦を弾く指を止め、胸の奥に小さな寂しさが広がるのを感じた。
◆
虹夏は、楽屋のソファに座ったまま、膝の上に置いたスマホの画面をぼんやりと眺めていた。
画面には何も映っていない。ただの黒いガラスに、自分の顔が映り込んでいるだけ。
指先で画面を軽く叩く仕草を繰り返しながら、頭の中ではさっきのひとりと【NEW GLORY】のセッションの光景が、何度も何度もリプレイされていた。
ひとりの本気のギター
──あの超絶ソロ。
指が弦を切り裂くように動き、感情が爆発して音になる瞬間。
そのギターを、Kyoyaのドラムが完璧に支えていた。
Kyoyaのキックは、0.01秒の誤差もなく先頭を切り、タムのフィルインは機械のように正確で、感情を乗せながらも揺らがない。
楽器隊全体と完璧なユニゾンを保ち、ひとりのギターを最高の形で引き立てていた。
あの土台は……完璧だった。
虹夏は、自分のドラムを思い出す。
(サウンドチェックでKyoyaさんに指導してもらって、良くなったと言ってもらったけど……あれは、多少マシになっただけだ)
(ぼっちちゃんの本気と、Kyoyaさんの音を前にしたら、私のドラムはまだまだ荒削りで、テンパってミスを連発する。土台として完璧に役割を果たすどころか、バンドの足を引っ張ってる…)
(……ぼっちちゃん……もっと上手い人たちと組んだ方が……輝けるんじゃないかな…?Kyoyaさんみたいなドラマーと……NaokIさんみたいなギタリストと……私なんか……土台として……不十分なんじゃ……)
昨日のぽいずん♡やみの言葉が、頭の中で何度もリフレインする。
『ドラムってバンドの土台なのに、あんなに不安定じゃ話にならないんだけど?』
あの冷たい声が、耳の奥で繰り返される。
虹夏は、スマホを握った手が微かに震えるのを感じた。
サウンドチェックで少し改善できたと思った瞬間が、急にちっぽけに思えてきた。
ひとりのギターは、感情を爆発させて、【NEW GLORY】のメンバーたちと完全に溶け合っていた。
自分のドラムは、まだテンパってリズムが崩れ、みんなを引っ張れない。
土台として……ひとりに相応しいドラムを叩けていない。
その事実に、胸が締めつけられる。
虹夏は、スマホを膝に置いたまま、静かに目を伏せた。
息を吐くのも、忘れたように、ただ黙って座っていた。
楽屋の空気は、静かで、少し冷たく、重かった。
やみの言葉が、虹夏の心に深く刺さったまま。
ひとりに相応しい土台になれているのか。
足手まといになっていないか。
【結束バンド】は、本当にひとりを支えられるのか──
そんな思いが、静かに、しかし確実に、虹夏の胸を締めつけていた。
◆
喜多は、楽屋のソファに座ったまま、テーブルに置かれたケータリングのスムージーを手に取った。
有名店のフルーツスムージー──マンゴーとパイナップルがベースで、鮮やかなオレンジ色がカップの中で揺れている。
いつもなら、自撮りしてイソスタに上げるテンションのはずだった。
でも、今はカップを握った手が微かに震え、ストローを口に運ぶことすらためらっていた。
気持ちは沈んでいた。
先程のひとりの本気が、頭から離れない。
あのギターソロ──
感情が爆発し、指が弦を切り裂くように動く姿。
NaokIたちに完全に溶け合い、まるで最初から一緒に演奏していたかのように自然だった。
そして……Lavielの声。
1分を超えるロングシャウト、ハイトーンからスクリームへの切り替え、息継ぎ一つで持続する透明感。
あの声は、ただ「上手い」ではなく、心を直接抉るような力があった。
喜多の歌は……まだ音程が不安定で、息が続かず、感情を乗せようとしても叫び声にしかならない。
Lavielの前では、自分の歌なんて……カラオケで友達と盛り上がる程度のものだったんだな、と改めて実感してしまう。
そしてやみの言葉が、胸に突き刺さったまま抜けない。
『で、肝心の歌は……酷いの一言に尽きますね〜♡♡』
『こんなのがギターヒーローさんと一緒に演奏するなんて、烏滸がましいにもほどがあんだけど?』
あの時、頭では「そんなことない!」と思っていた。
でも、今は違う。
Lavielの本当の歌唱力を目の当たりにして、言い訳が通用しないことを痛感した。
自分の歌は……カラオケで盛り上がる程度しかなかった。
ひとりのギターに、あんなに感情を爆発させて、NaokIたちと溶け合える声……
(私には……出せない)
喜多は、スムージーのカップを握ったまま、視線を落とした。
ストローを口に近づけるが、飲む気になれない。
胸の奥で、挫折感が静かに広がっていく。
(ひとりちゃんの隣に立つ資格……本当に自分にあるのかな……)
『烏滸がましい』──あの言葉が、頭の中で冷たく繰り返される。
カップの中のスムージーが、ゆっくりと揺れていた。
喜多は、ただ黙って、唇を噛んでいた。
◆
リョウは、楽屋のソファの端に座ったまま、テーブルに並べられたケータリングの食事に一切手をつけなかった。
いつもならタダ飯にありつけると、いの一番に飛びつくのに、今はそんな気分ではなかった。
目の前の色とりどりの料理や有名店の料理は、ただの飾り物のように見える。
箸を握ったまま、視線は宙をさまよい、頭の中は先程のひとりの演奏で埋め尽くされていた。
あの超絶メロディアスなソロ、高密度の高速リフ、変拍子の中で一切揺らがないピッキングの精度。
虹夏や喜多より実力が頭ひとつ抜けている分、余計にひとりとの差を感じてしまう。
ひとりは、あの鬼畜曲を全力で、トランス状態で弾き切った。
一方でリョウは……RoÉのベースの音を、ただ聴いて 眺めていただけ。
RoÉのベースは、リョウの理想そのものだった。
低域の厚みとハイの切れ味、アクティブEQで完璧に調整された中域、スラップのポップ音の鋭さ。
あのベースは、RoÉのプレイスタイルに完全に最適化されていて、バンドの低域を支えつつ、攻撃的な存在感を放っていた。
埋もれることなく、むしろ楽曲の中心に立っていた。
やみは「ベースだけは文句がない」と言っていたそうだが、あの演奏を聴いた後だと「だからなんだ」としか思えなかった。
RoÉの音を前にしたら、自分のベースなんて……存在感すら感じられない。
ひとりのギターに、あっさり着いていくRoÉの姿を見て、挫折感が胸を締めつける。
(このままじゃ……私は、足手まといだ。……あのやみって女の「ガチじゃないですよね?」という言葉は、実は、私に一番当てはまるんじゃないか…?)
リョウは、静かに目を伏せた。
結局何も食べず箸を置いて、ただ黙って座っていた。
胸の奥で、ひとりとの差が、冷たく、重く、広がっていくのを感じていた。
◆
ライブ開始2〜3分前。
ひとり、虹夏、喜多、リョウの4人は、【NEW GLORY】のメンバーたちと一緒に、ステージのすぐ間近の、舞台袖に案内された。
暗転したドームの客席が、照明のわずかな漏れで浮かび上がる。
スタンド席はもちろん、フロアのオールスタンディングエリアも、隙間なく埋め尽くされている。
明らかに5〜6万人は余裕で超えている。
開演前のざわめきと歓声の波が、壁越しに押し寄せてくる。
来た時のテンションなら、虹夏や喜多は「うわあああ!!こんな間近で見れるなんてすごい!!!」とはしゃいでいただろう。
でも今は違う。
ひとりと【NEW GLORY】のセッションを見てから、【結束バンド】の3人は少し元気がない。
胸の奥に、ぽいずん♡やみの「ガチじゃない」という言葉と、ひとりの本気の実力が突き刺さったまま。
虹夏は拳を握りしめて唇を噛み、喜多は目を伏せて息を整え、リョウは無言でステージを見据えている。
ひとりだけは、緊張しながらも少しだけ胸を張っていた。
NaokIは、そんな4人の様子を見て、静かに近づいた。
ステージ袖の暗がりで、ひとりを中心に優しく、でも真剣な声で語りかけた。
「……みんな。今から僕たちの本気を見せる。プロの世界を……肌で感じてほしい。【結束バンド】としてもっと上を目指すために、このライブを糧にしてくれ」
その言葉は、穏やかだったのに、胸に深く響いた。
ひとりは、お父さんの横顔を見てそっと頷いた。
虹夏は、目を潤ませながら力強く頷いた。
喜多は、唇を噛んで涙を堪えながら頷いた。
リョウは、無言で深く頷いた。
4人の緊張感が、少しだけ別の形に変わった。
不安や劣等感ではなく──覚悟に。
NaokIの想いが、確かに届いた。
◆
そして、開演時刻。
東京ドームの照明が一斉に落ち、暗闇がドーム全体を包んだ瞬間──
5〜6万人の観客から、大歓声と叫び声が爆発的に沸き上がった。
空気が震え、胸が鳴る。
【結束バンド】の4人は、改めて高品質の耳栓を装着した。
ひとり、虹夏、喜多、リョウは緊張と期待で息を殺す。
そして──NaokIお手製のオープニングSEが鳴り響いた。
ドーム公演用にわざわざNaokIが作ったものだ。
重厚なシンセのレイヤー、歪んだギターのリフ、爆発的なドラムロール、電子音の不気味な上昇──
全体として、スピードコアのような高速感と、プログレッシブロックの複雑さをミックスした曲調──
一度聴いたら頭から離れず、ライブの導入として完璧にテンションをMAXに引き上げる設計で、一瞬で会場を支配する、圧倒的な緊張感と高揚感を同時に呼び起こす音。
先ほどまでの暗い気持ちは、一瞬で吹き飛んだ。
「うわああああ!!! また新しいSEだ!!! NaokIさんのSE!!! めっちゃカッコいい!!! テンション爆上がりだよ!!!」
「NaokIさんのSE大好きです!!! こんな生で聴けるなんて……! やばい!!! やばすぎる!!!」
「このSE最高すぎる…!電子音の不気味な上昇に歪んだギターのリフ、ドラムロールの密度にシンセのレイヤーが重なって、会場全体を飲み込む音圧…!スピードコアのような高速感なのに、プログレの複雑さ…!ヤバい…NaokIさんのセンス神すぎる…!!」
「お父さんのSE、やっぱりカッコいい……!」
虹夏は、耳栓越しに響くSEに目を丸くし、拳を握りしめて叫んだ。
喜多は、両手を頰に当てて興奮で跳ねる。
リョウは、普段のクールさを忘れ珍しく声に出して呟いた。
ひとりは、いつも見ている光景なのにやっぱりテンションが上がりまくり、小さく跳ねた。
NaokIは、ステージ袖でみんなの反応を見て、笑顔で軽く手を振った。
「ありがとう。みんな楽しんでくれよ」
【NEW GLORY】のメンバーたちは、円陣を組んだ。
NaokIを中心に、Laviel、RoÉ、Kyoyaが肩を寄せ合い、静かに気合いを入れる。
「…………行くぞ」
『応ッ!!!』
その瞬間──全員の雰囲気が変わった。
空気が切り替わる。
圧倒的なオーラと存在感が、ステージ袖からでも伝わってくる。
プロの、世界トップバンドの本物のカリスマ性が、一気に宿った。
ドーム全体が、息を殺して彼らを待っている──
そんな空気を、彼らは一瞬で支配した。
カリスマ性の塊。
世界最高峰のバンドの、絶対的な存在感。
SEがサビに突入したタイミングで──
メンバーたちが一気にステージへ飛び出した。
会場の熱気が大爆発した。
5〜6万人の歓声が、ドーム全体を揺らす。
ボルテージは最大。
【結束バンド】の4人も、ステージ袖で大はしゃぎ。
「うわああああ!!!始まった!!!Kyoyaさん!!!!NaokIさん!!! みんな!!!」
「やばい!!!ラヴィさん、最高すぎる!!!」
「始まった…!!ぼっちも一緒に見よう…!」
「あっはい!!」
【結束バンド】はステージ上のメンバーたちを見て、目を輝かせた。
サビの後のサビで、会場全体が一体となって手拍子。
ドームが、一つになる。
ひとりは、みんなと一緒に手拍子しながら、笑顔になった。
虹夏、喜多、リョウも、テンションが上がりまくり、自然と一緒に手拍子。
先ほどの重い気持ちは、完全に吹き飛んでいた。
SEが最高潮に達し、クライマックスのシンセ上昇音がピークを迎えた瞬間──
間髪入れずに、ドーム全体を明るく照らす照明が一気に点灯した。
一曲目──【NEW GLORY】の先発曲として長年愛され続けている名曲──
『
イントロから明るくクリアなシンセのメロディが飛び出し、Kyoyaの軽快でパワフルなドラムが一気に加速。
RoÉのベースがファンキーなスラップでリズムを刻み、Lavielのハイトーンが叫ぶように歌い始める。
疾走感のあるアップテンポで、ポップさとロックの融合が完璧。
ギターのリフはキャッチーで中毒性が高く、聴いた瞬間体が勝手に動き出す。
会場全体が、まるで巨大なクラブのように変わった。
5〜6万人の観客が一斉に跳ね始め、歓声が渦を巻く。
オールスタンディングのフロアでは、ファンたちが踊り、はしゃぐ。
スタンド席でも、立ち上がって手を振り、歌い、叫ぶ。
ボルテージが一気にMAXを超え、ドームが生き物のように脈打つ。
喜多は、ステージ袖で、両手を高く上げて大はしゃぎしていた。
「うわああああ!!!カッコよすぎる!!明るくてクリアで、疾走感すごいし体が勝手に動く!!!ラヴィさんの声やばい!!!最高!!! 最高すぎる!!!」
喜多は、飛び跳ねながら手を叩き、Lavielのハイトーンに合わせて一緒に歌い、興奮で顔を真っ赤にしていた。
先ほどの重い気持ちは、この曲の明るさと疾走感に完全に吹き飛ばされた。
会場全体が一つになり、踊り、はしゃぎ、歌う。
【NEW GLORY】の先発曲として完璧な曲。
明るくクリアで、疾走感のあるメロディが、ドームを巨大なダンスフロアに変えた。
曲はどんどん進み、会場全体の熱気がさらに高まっていく中、次の曲が始まった。
一曲目の余韻がまだ残る中、照明が一瞬暗転し、再びスポットライトがステージ中央に集中。
Lavielがマイクを握り、軽く息を整えると──
イントロが鳴り始める前に、突然バク宙を披露した。
高く跳び上がり、空中で体を回転させ、完璧なフォームで着地。
観客の歓声が爆発し、ドーム全体が揺れる。
そのままLavielはマイクを口元に近づけ、デスボイスで低く唸るように歌い始めた。
次の曲───『
【NEW GLORY】のMVで一番再生されている曲、現在103億再生を突破し、音楽史に残る伝説のナンバー。
イントロは、重く歪んだギターのリフとシンセの不協和音が絡み合い、暗く重厚な雰囲気で始まる。
Lavielのデスボイスが低く唸り、Kyoyaのドラムが重いキックでリズムを刻む。
RoÉのベースが低域を震わせ、NaokIのリズムギターが不気味なアルペジオを重ねる。
1分ほどで転調───突然クリアなメロディに変わり、Lavielの声が透明度の高いハイトーンボイスに切り替わり、伸びやかに歌い上げ、会場全体を包み込む。
メロディは切なくも力強く、聴く者の心を直接掴む。
ギターソロは感情を乗せたビブラートとベンドが効き、ベースはファンキーなスラップでリズムを支え、ドラムは疾走感のあるビートで加速。
全体として、暗闇から光へ、絶望から希望へというストーリーを音で描いた曲。
一度聴いたら忘れられない中毒性があり、103億再生の理由がわかる圧倒的な完成度。
イントロ終了前にLavielのバク宙が決まった瞬間、会場はさらに沸いた。
着地と同時にデスボイスで歌い始め、転調でハイトーンに切り替わると、5〜6万人の歓声が天井を突き破る勢い。
そして、RoÉがアドリブのスラップを披露。
高速でネックを駆け上がり、親指と人差し指のダブルポップで爆発的な音を連発。
その音がドーム全体に響き渡り、観客のボルテージは最大に膨れ上がった。
フロアのファンたちが一斉にジャンプし、手を振り、叫ぶ。
「RoÉさんのスラップを、こんな間近で…神すぎる…!!こんな音を生で……!!ここに来て、本当によかった…!!!」
リョウは、普段のクールさを完全に忘れ、柄にもなく大はしゃぎしていた。
両手を高く上げ、涙目で珍しく声を張り上げて叫んだ。
1時間ほど経過し、ライブは中盤に差し掛かっていた。
【NEW GLORY】はMCを一切挟まず、曲から曲へシームレスに繋ぎ、interludeを流して短い休憩を挟んだ。
会場は息つく間もなく熱狂し続け、汗と歓声がドーム全体を満たしていた。
少し休んだ後、照明が再び暗転。
静寂が訪れた瞬間、次の曲のイントロが静かに流れ始めた。
『
虹夏の一番大好きな曲。
ライブでも滅多に披露しない激レア中の激レア。
最後に演奏したのは10年以上前のフェス以来で、MVもライブの映像化もされていない伝説のナンバー。
イントロは、シンセのピコピコ音から始まり、徐々にドラムとベースが加わり、Lavielがクリアなハイトーンで歌い出す。
Aメロは明るく疾走感のあるメロディで、Kyoyaの軽快なビートとRoÉのファンキーなベースが絡み、NaokIのギターがキャッチーなリフを刻む。
Aメロ終わりの間奏で、ピアノのアルペジオが美しく挟まれ、弾き終わると同時に転調。
メンバーが一斉にジャンプしながら演奏を再開し、会場は地鳴りがするほどの熱気と大歓声の嵐に包まれた。
虹夏は、目を丸くし、両手を高く上げて大はしゃぎした。
「うわああああ!!!『Chase After Your Self!』だー!!私の…一番大好きな曲!!やばい!!! やばすぎる!!!ライブでも滅多にやらないのに、神すぎる!!!!」
虹夏は、飛び跳ねながら手を叩き、Lavielのハイトーンに合わせて一緒に歌い、興奮で顔を真っ赤にして曲のリズムに合わせて体を揺らした。
◆
ライブはどんどん進み、激しい曲、バラード、アップテンポのダンスナンバー、感情を揺さぶるヘヴィなナンバー……
【NEW GLORY】のセットリストは、予定通りすべて終了した。
5〜6万人の観客は、汗と歓声でぐったりしながらも、興奮の余韻に浸り、アンコールのコールが鳴り止まない。
しかし、【NEW GLORY】はアンコールをしないバンドで有名。
会場は「もう終わりか……」という空気に包まれ、照明がゆっくりと落ち始めた。
その時──NaokIがギターの弦を軽く鳴らした。
会場がざわつき、照明が再び点灯。
NaokIは、マイクを握った。
「……東京ドーム。楽しんでるか?」
今まで一度もMCなどやったことのない【NEW GLORY】が、初めてMCをする。
ドーム全体がどよめき、5〜6万人の視線が一気にステージに集中した。
NaokIは、静かに、しかしはっきりと語り始めた。
「……みんな、これが最初で最後のMCだ。よく聴いてくれ」
会場が静まり返る。
NaokIは、深呼吸して続けた。
「……この日のために一曲、新曲を作ってきた」
その言葉に、会場が爆発した。
驚愕の嵐。
ファンたちは「新曲!?」「マジか!?」「今!?」と歓声と悲鳴が混じり合い、ドームが揺れる
【結束バンド】の4人も、ステージ袖で、困惑と興奮が入り混じった表情になった。
NaokIは、静かに微笑み、最後に一言だけ伝えた。
「……この曲は、壁にぶつかり、どうしようもなくなった人たちに…夢を追う人たちに……捧げたい」
その言葉に、会場が再び静まり返った。
5〜6万人の視線が、NaokIに集中する。
ひとりは、お父さんの言葉に胸を押さえ、目を潤ませた。
虹夏、喜多、リョウも、息を飲んでステージを見つめた。
NaokIは、ギターを構え直し、メンバーたちに軽く頷いた。
Lavielがマイクを握り、RoÉがベースを構え、Kyoyaがスティックを回す。
新曲が、始まろうとしていた。
【NEW GLORY】の、初めてのMCとアンコール。
この日のために作られた、新曲。
夢を追う人たちに捧げる、一曲。
「this song is called…『
◆
新曲『We are Alive』が始まった瞬間──
ドーム全体の空気が一変した。
NaokIのギターが静かにイントロを刻み、Kyoyaのドラムが低く重く響き、RoÉのベースがタイトに支える。
Lavielの声が、優しく、しかし力強く歌い出す。
曲調は切なくも力強い疾走感、感情を直接胸に突き刺すハイトーン、絶望と希望が交錯するような展開。
イントロは静かなピアノとシンセのレイヤーで始まり、徐々にドラムとベースが加わり、Lavielのクリアなハイトーンで歌い上げる。
Aメロは明るく疾走感のあるメロディで、Kyoyaの軽快なビートとRoÉのファンキーなスラップが絡み、NaokIのギターがキャッチーなリフを刻む。
サビでは一気に爆発──Lavielのハイトーンが天井を突き破るように伸び、NaokIのリードギターが感情を乗せたソロを重ねる。
ラストのサビでは、全員の演奏が完全に共鳴し、ドーム全体が振動するような一体感が生まれた。
歌詞は、壁にぶつかり、どうしようもない夢を追う人たちへのエール──
一度聴いたら忘れられない中毒性があり、聴く者の心に火をつける。
会場は今日一番の盛り上がりを見せ、5〜6万人の歓声が天井を突き破る勢い。
【結束バンド】の4人は、真剣な表情でライブを見ていた。
さっきまでの大はしゃぎとは打って変わって、誰もが息を殺し、一音一音を逃すまいと目を凝らしていた。
ひとりの本気と【NEW GLORY】の圧倒的な実力を目の当たりにした後、この新曲は、まるで自分たちに向けられたエールのように聞こえた。
◆
リョウは、拳を膝の上で強く握りしめていた。
RoÉのベースが鳴るたび、自分のベースとの差が胸を抉る。
あの低域の厚み、ハイの切れ味、スラップの爆発力──
すべてが完璧にバンドを支配している。
ひとりのギターソロに、NaokIが余裕でツインを重ねる姿。
(私……まだまだ足りない。
このままじゃ、ぼっちの隣に立つ資格すらない。
でも──この曲を聴いて、心が奮い立った。
この差を埋めたい。
ぼっちの音に追いつきたい。
いや、超えたい。)
その時、リョウの心の奥で、何かが燃え始めた。
熱い、激しい炎が。
◆
喜多は、両手を胸に当て、ステージを見つめていた。
Lavielのハイトーンが響くたび、自分の歌がどれだけ未熟かを思い知らされる。
あの息継ぎ一つで持続するロングシャウト、感情を乗せたクリアな声。
自分の歌は、まだ叫び声でしかない。
(ひとりちゃんのギターは、あんなに感情を爆発させて、みんなと溶け合っていたのに……
今の私に……ひとりちゃんの隣に立つ資格なんてない……
でも──この曲を聴いて、変われる気がした。
ひとりちゃんの隣で、もっと輝きたい。
私の声で、みんなを魅了したい。)
喜多の胸の奥で、何かが疼き始めた。
熱い、燃えるような想いが。
◆
虹夏は、拳を握りしめ、唇を噛んでいた。
Kyoyaのドラムが、ひとりのギターを完璧に支える姿が頭から離れない。
あの重厚で正確なキック、タムの感情的な響き、楽器隊との完璧なユニゾン。
(私のドラムは、まだテンパって崩れる。
土台として……ぼっちちゃんを支えきれていない。
ぼっちちゃんは……もっと上手いドラマーと組んだ方が…輝けるんじゃないかって考えてしまう……
でも──この曲を聴いて、諦められないと思った。
【結束バンド】と、もっと高い場所へ行きたい。
スターリーを、もっと有名にしたい。
そして、お姉ちゃんの夢を…叶えたい。)
虹夏の胸の奥で、何かが燃え上がった。
熱い、激しい決意が。
◆
ひとりは、ステージ上で演奏する、お父さんたちの音に包まれていた。
(この新曲──お父さんが、私たちに向けて作ったエール。
壁にぶつかり、どうしようもない夢を追う人たちに捧げたいという言葉。
それは、自分にも向けられている気がした。
お父さんとの差は、とんでもなく遠い。
でも──だからこそ、もっと近づきたい。
そして、ギタリストとして…皆の大切な【結束バンド】を──
最高のバンドにしたい)
ひとりの胸の奥で、何かが爆発した。
熱い、燃え盛る情熱が──
そして終盤で、全員の演奏が完全に共鳴した瞬間──
リョウ・喜多・虹夏・ひとりの胸に、同じ言葉が響いた。
『ここまで登って来い!!!!』
NaokIが、【NEW GLORY】のメンバーがそう言ったわけではない。
歌詞にも、そんなフレーズはない。
でも────確かに、そう聞こえた。
【結束バンド】の全員に、胸の奥深くから突き刺さるように。
「あんなすごいステージに…私も立って、全員惹きつけたい……今度こそ、自分の納得のいく音を見つけたい」
リョウの瞳に、静かな炎が灯った。
「…私の声で、みんなを魅了したい。…今の自分を変えたい」
喜多の胸に、熱い決意が溢れた。
虹夏の拳に、強い意志が宿った。
「……みんなが安心して着いていけるようなドラマーになりたい……【結束バンド】を有名にして、スターリーをもっと盛り上げたい」
ひとりの目に、燃えるような覚悟が浮かんだ。
「みんなの前でギター弾いて、チヤホヤされたい……でも、この4人で…みんなで人気者になりたい」
全員が、覚悟を決めた目をした。
【結束バンド】をもっと有名にしたい。
そして【結束バンド】を、【NEW GLORY】にも負けない最高のバンドにしたい。
《だから……あんなにボロクソに言われて、このまま終われない!!!!》
その瞬間、4人の心が一つになった。
そして、【結束バンド】の未来は、この音とともに、大きく変わろうとしていた。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
ついに結束バンドの覚悟に火がつきました。
ここのエールを送るところは、このssを書き始めたころから絶対やりたいと思っていました。
他では絶対できないような激励で、尚且つ胸アツな展開にできたので、大満足してます。
次回で、オリジナル回は終わりですので、あと一話だけお付き合いください。