娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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オリジナル回ラストです。
結束バンドの決意表明と打ち上げ回です。

それではどうぞ


18

 

 

 こうして、ドームツアー追加公演の東京ドーム1日目が、最高のカタルシスと共に完全終幕した。

 

 歴史的な初MCと初のアンコールを終え、バックステージの広い楽屋に戻った【NEW GLORY】のメンバーたちは、心地よい疲労感の中で汗を拭きながらようやく一息ついていた。

 4人は、ステージの上の獰猛な覇気を綺麗に消し去り、全員が本番用の衣装から普段着のラフな格好へと着替え、ソファに身を委ねてのんびりとした時間を過ごしている。

 静かで、どこまでも心地よいロックの余韻が漂う中、部屋の重厚なドアが規則正しくノックされた。

 

 入ってきたのは【結束バンド】の4人。

 

 ひとりがジャージの袖を握りしめながら先頭に立ち、そのすぐ後ろに虹夏・喜多・リョウの3人が横一列になって凛と並ぶ。

 直樹は笑顔で温かく迎え入れようとしたが──次の瞬間、そのロックスターとしての強固な身体の動きが、一瞬にしてピタリと止まった。

 

 

(…なんだ?この子たちの、雰囲気…)

 

 

 直樹だけでなく、ソファでくつろいでいたLavielも、RoÉも、Kyoyaも、4人の少女たちが放つ尋常ではない空気の密度の変化に気づき、静かに視線を向け直す。

 

 

 全員の目が、本気だった。

 

 

 覚悟を決めた、情熱のこもった目。

 

 

 先ほどのライブの余韻ではなく、何かを決意した炎のような瞳。

 

 

 NaokIは、次にかけようとした労いの言葉をそっと喉の奥へと飲み込み、ただ静かに、眼前の少女たちの凛とした佇まいを見つめた。

 張り詰めた静寂の中、ジャージの袖を強く握りしめたひとりが代表して一歩前に出て、これまでの人生で一番、深く頭を下げた。

 

 

「…ラヴィさん、RoÉさん、Kyoyaさん…そしてお父さん。今日のライブ…本当にありがとうございました。お父さんたちの音…全部…胸に響きました……」

 

「……そっか。それなら招待した甲斐があったよ」

 

 

 直樹は一人の父親として、そして一人のロックの先達として、愛娘のひたむきな礼を穏やかな声で受け止めた。

 するとひとりはゆっくりと顔を上げ、前髪の奥の目を熱い涙で潤ませながらも、自らの魂に灯った消えない炎を証明するように、強く、力強く言葉を続けた。

 

 

 

 

「……私…決めた。お父さんみたいな…じゃなくて

 

 お父さんにも負けない…最高のギタリストになる。

 

 そして【結束バンド】を…

 

 【NEW GLORY】にも負けないくらい

 

 最高のバンドにする!

 

 

 私たちは…本気でプロになる!」

 

 

 

 

 かつてちやほやされることだけを夢見ていた孤独なギターヒーローの面影は、もうそこにはなかった。

 自分を見つけ、愛してくれた大切な3人の仲間たちと共に、お父さんのいるあの綺麗な世界の頂点へと絶対に這い上がってみせる──その命懸けの覚醒の叫びが、広い楽屋の中に轟然と響き渡った。

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに虹夏は、ひとりのすぐ横で「その通りだよ」と伝えるように力強く頷いた。

 フロントマンとしての覚悟を固めた喜多も、その綺麗な目をうるうると潤ませながらも、小さな拳を胸の前でぎゅっと強く握りしめ、一人の求道者として這い上がる意思を決めた山田リョウも、静かに、しかし地鳴りのような重みを持って力強く頷いた。

 

 大人たちの理不尽な酷評も、格の違いへの恐怖も、【NEW GLORY】の放ったの爆音の中で、全てが4人の絆を限界突破させる最高の燃料へと引っ繰り返った。

 

 誰一人としてブレることのない、本物のアーティストの眼光。

 

 お父さんたちの目の前で、下北沢の学生バンドの殻を木っ端微塵にぶち破り──

 

 

 【結束バンド】の4人の心は、今度こそ寸分の狂いもなく完全に一つになったのだった。

 

 

 直樹は、愛娘ひとりの口から放たれたあまりにも眩しく、気高い決意の言葉を聞いて、静かに自らの目を閉じた。 世界の頂点で張り詰めていた彼の一人の父親としての心の防壁が、そのあまりの尊さに一瞬で融解し、透明な涙が、一筋、熱く頰を伝って流れ落ちる。

 

 

(自分の気づかないうちに、娘はこんなに成長したんだな…)

 

 

 家では、誰にも見つからないように俯きながらギターを掻き鳴らしていたあの小さな背中。

 

 それが今、これほどまでに素晴らしい仲間たちと巡り合い、自分の背中を超えると、本気で世界の頂点を目指すと宣言している。

 

 どうしようもない感慨が胸を強く締めつけ、直樹は溢れた涙を静かに拭ったあと、ゆっくりと、力強く顔を上げた。

 

 今度はただの心配性で親バカなひとりの父親としてではなく──全世界のロックシーンの頂点に君臨する【NEW GLORY】のNaokIとして、【結束バンド】の4人全員を真っ直ぐに見据えた。

 

 

 

 

「全力でかかってこい【結束バンド】。

 

 いつかここを埋められるくらい大きくなって、

 

 有名になったら……

 

 

 対バンしよう」

 

 

 

 

 その言葉は、どこまでも優しく、暖かかったのに、胸の奥底が焦げ付くほどに烈しく熱かった。

 まだ結成1年未満の彼女たちの夢を、ただの子供の戯言だと笑うことなど絶対にしない。いつか世界のどこかのスタジアムで相まみえる、対等な未来のライバルに向けるような、どこまでも燃えるような熱い目線。

 

 NaokIの瞳に、かつてないほど真っ直ぐな娘への深い誇りと、【結束バンド】という最高の仲間たちへの、一人のバンドマンとしての最大級の敬意が、確かに美しく宿っていたのだった。

 

 

 ひとりは、堪えきれなくなった熱い涙をボロボロと頬にこぼしながら、一人のギタリストとして力強く深く頷いた。

 

 

「…うん!絶対、有名になる!…だから、それまで待ってて!!」

 

 

 続いて、昨日やみに夢の全てを踏みにじられて大号泣していたリーダーの虹夏は、自らの拳をギチギチに握りしめて広い楽屋へ向かって真っ直ぐに叫んだ。

 

 

「絶対ここを埋めます!!!対バン、待っててください!!!」

 

 

 自分の歌をカラオケレベルだと自嘲し、挫折感に俯いていた喜多も、真っ赤になった涙目でその細い声を張り上げた。

 

 

「私たち、最高のバンドになります!!!それまで…待っててください!!!」

 

 

 そして、かつて一足先にメジャーの残酷さに触れて夢を諦めかけていたリョウは、静かに、しかし地鳴りのような重みを持って力強く言った。

 

 

「絶対、追いついてみせる…!今度こそ…このバンドで頑張りたい…!!」

 

 

 世界の頂点の楽屋の中に、これまでのインディーズの歴史のどこにも存在しなかったような、どこまでも熱く、激しい、ロックの空気が満ち満ちていった。

 

 そのひたむきで愛おしい4人の女子高生たちの本物のガチの覚悟を前に、NaokIをはじめとする【NEW GLORY】のメンバーたちは、未来の最強のライバルたちを心から歓迎するように、互いに笑い合い、細い肩を力強く叩き合い、音楽という至高の芸術が出逢わせた前代未聞の興奮を、全員で熱く熱く分かち合うのだった。

 

 

 そして緊張感が解け、安心した空気が楽屋に広がった瞬間──

 

 

 グーグーッ

 

 

「……お腹空いた。そういえば、お昼食べてないや…」

 

 

 静まり返った空間に、あまりにも身も蓋もないリョウの盛大な腹の虫の音が、気の抜けたトーンで響き渡った。

 虹夏は、そのあまりの落差に耐えかねてぷっと吹き出し、いつも通りの日常を取り戻すように可愛くツッコんだ。

 

 

「もう〜リョウったら雰囲気台無しだよー!せっかくの感動的なシーンなのにぃ〜!」

 

 

 でも、次の瞬間──

 

 

 グゥゥゥ……

 

 

 今度は、虹夏自身の下腹部からも、なんとも可愛らしい音が、控えめながらもハッキリと響き渡った。

 

 

「ひゃっ!? 私も!?うぅ……恥ずかしい…!」

 

 

 自分の腹の虫による裏切りを直撃された虹夏は、耳の付け根まで一瞬で顔を真っ赤に染め上げ、慌てて両手で自分のお腹をギューッと強く押さえた。

 喜多は、そんな二人の愛らしいポンコツっぷりをくすくすと楽しそうに笑いながら、みんなの顔を優しく見回した。

 

 

「そういえばケータリングの食事、結局手をつけてませんでしたね…」

 

「あっすみません。私のせいで……」

 

 

 プロの圧倒的な格の違いと、やみの酷評の呪いにボロボロに引き裂かれていた数時間。

 ひとりは、みんなが自分のためにそれほどまで心を痛め、食事を喉に通さずにいてくれたのだとびっくりしつつ、申し訳なさそうに俯いた。

 

 

「気にしないでひとりちゃん。とりあえず、どこかで食事でもしません?」

 

「いいね〜どこ行く?ファミレス?」

 

「お金ないから誰か奢って」

 

「コラ リョウ!」

 

 

 安定のリョウの銭ゲバ無心ムーブが炸裂し、楽屋の空気がいつもの【結束バンド】の混沌に包まれかけた。

 その時、直樹が優しく笑って手を挙げた。

 

 

「大丈夫だよみんな。こんなこともあろうかと焼肉屋の予約をしておいたんだ。みんなで行こう」

 

 

 突然の至高のご褒美の提示に、【結束バンド】のメンバーたちは一瞬ぽかんとした。

 直樹は、照れくさそうに片手で頭を掻きながら、優しい父親の顔で言葉を続けた。

 

 

「ライブ終わって、みんなも腹減ってるだろ?マネージャーが運転手連れて、送迎のバスを用意してくれてる。今から行こう」

 

 

 直樹はこの日のために、スケジュールを裏で完璧にハックして段取りを組んでいたのだ。

 その配慮を聞いた瞬間、少女たちはその瞳を限界まで輝かせて、床の上をすごい勢いで飛び上がった。

 

 

「えっ!焼肉!?【NEW GLORY】の方達と一緒に!?…やっやったー!!ありがとうございます!!!」

 

「神様仏様NaokI様!!!ありがとうございます!!」

 

「【NEW GLORY】のみなさんと!?すごいすごーい!夢みたいです!!ねっ!ひとりちゃん!!」

 

「あっはい…!」

 

 

 虹夏はアホ毛をサーキュレーター並みに大回転させ、リョウは神への熱烈な賛辞を叫び、喜多は「キターン!」とした光を最大出力で放ってひとりの細い肩を揺らす。ひとりはみんなの激しいはしゃぎっぷりに圧倒されながらも、大好きな仲間たちに最高の笑顔が戻ったことが嬉しくて、小さくコクコクと頷いた。

 

 そこへマネージャーの●●が、完璧なタイミングで笑顔で楽屋へと入ってきた。

 

 

「車、用意できました。みなさんお乗りください」

 

『はい!!!』

 

 

「ハハ。若いっていいな」

 

「俺らも楽しむか。……まァ明日もあるから酒飲めねェけど…」

 

「まぁいいじゃないか。この子達がこんな喜んでくれてるんだから」

 

 

 楽屋にいた全員がソファから立ち上がり、これまでの絶望や涙を完璧に忘れた、これ以上ないほど最高の興奮と感謝の笑顔をその顔に宿して、送迎の車へ向かって真っ直ぐに歩き出した。

 

 夜の帳が下りた東京ドームの地下駐車場を抜け、大都会・東京の美しい夜景が広がる夜道を、防音パネルに守られた最高級のロケバスが、滑らかに、静かに走り出す。

 流れる車窓の光に照らされた車内は、世界一のライブが残した本物のガチな熱い余韻と、これから始まる極上の高級焼肉への止められない期待で、どこまでも温かく、幸せな空気に包まれていくのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 東京ドームの地下駐車場を後にした高級ロケバスの車内は、先ほど幕を閉じたばかりのライブの余韻がまだ冷めやらぬ、濃密な熱気で満ち満ちていた。

 

 広々とした革張りシートが並ぶ後部座席に【結束バンド】の4人が一列に並び、すぐ近くの特等席にはNaokIをはじめとする【NEW GLORY】のメンバーたちも同乗している。

 今朝下北沢のパーキングに乗って来たあの最新型のミニバン(ヴェルファイア)も十分に広くて快適だったが、この漆黒のロケバスはそれを遥かに凌駕する高級感が溢れており、乗り心地は文句なしの抜群だった。

 このバスは、分刻みのスケジュールで世界を飛び回るトップタレントや海外のVIPが、究極の快適性と移動中のリラックスを最優先するために特別にカスタマイズされた、豪華なホテルのラウンジのような内装を特徴とする特殊な車両なのだ。

 重厚な遮音壁に守られた高級ロケバスは、首都高速道路の滑らかなアスファルトを捉え、夜の東京の美しいイルミネーションの中を静かに走り出す。

 

 そんな車内で【結束バンド】の3人は、先ほど舞台袖の最前線で浴びた『AXELL of the Universe』や『Mirror』、『Chase After Your Self!』、そして新曲『We are Alive』の放った圧倒的な音の暴力を思い出し、それぞれの興奮した感想を熱く熱く語り合った。

 

 虹夏は、ホールド感のあるシートに深く身体を預けながら、興奮冷めやらぬ様子で声を弾ませて叫び。

 喜多も、すぐ隣で自分の両手を強く握りしめて、今にも座席の上で跳ねるようにして何度も激しく頷く。

 普段は省エネで寡黙なリョウも、流れ去る窓の外の東京タワーの光を見つめながら、一人のベースオタクとして珍しく口数が多めになって熱弁を振るっていた。

 そしてひとりも、大好きな仲間たちがこれほどまでに自分の家族の音楽を愛してくれているという至高の幸福感に引っ張られるように、顔のニヤニヤを隠しきれず、ニコニコしながら嬉しそうに頷いた。

 

 そんな4人の間で楽しげな会話が弾む中、喜多がふと、ずっと胸の奥で気になっていた、ある素朴な疑問を口にした。

 

 

「そういえば…ひとりちゃんって、【NEW GLORY】のライブ……いつもタダで見てたの?」

 

「あっはい。そうです…ライブ見たい時は、お父さんがいつも連れてってくれて……へへ」

 

 

 ひとりは、少し照れくさそうに指先でいじりながらも、みんなの前でお父さん呼びまで暴かれてしまった今となっては(自爆)、今更取り繕う必要も隠す必要も一切ないと思い、素直に事実を答えた。

 そのあまりにも規格外な爆弾回答に、それまで機材の熱弁をしていた虹夏とリョウの二人の身体がびくついた。そして、驚愕のあまり一瞬で同時にガバッとひとりの方へ振り返った。

 

 

「……えええええ!!!?毎回タダで!!!?ぼっちちゃん羨ましすぎる!!!私なんて倍率高すぎて、チケット一回も取れたことないのに~!」

 

「ぼっちズルいぞ…!!身内の特権フル活用しやがって…!!」

 

「ひとりちゃんいいな〜!【NEW GLORY】のライブ、毎回タダで見れるなんて夢みたい!」

 

 

 その賑やかな嫉妬の応酬を耳の奥で受け止めながら、シートに深く腰掛けていたLavielが、楽しげに笑いながら会話に口を挟んだ。

 

 

「まぁひとりちゃんはNaokI君の娘だし、俺たちとも10年くらいの付き合いだから特別なんだよ。俺たちも、ひとりちゃんのことは親戚の子みたいに思ってるし」

 

 

 世界の象徴から放たれた、あまりにも尊すぎる幼少期からのファミリー発言。

 喜多が「10年ものの親戚…!キャ~!」とその歴史の深さに悶絶する横で、RoÉはクールに、窓の外を見ながら呟いた。

 

 

「……でも、ひとりちゃんのバンド仲間だからって、今回みたいに特別扱いしたり、贔屓する気はねェけどな」

 

 

 それは、馴れ合いを一切許さないプロとしての冷徹な一線。

 さらにKyoyaも、RoÉの言葉に重ねるようにして、穏やかに、しかし優しくプロの厳格な言葉を付け加えた。

 

 

「今回はNaokIさんの頼みで受け入れた、特例中の特例だからね。またライブが見たかったらチケット買ってから来てね。じゃないと、他のお客さんからしたら不公平だからね」

 

 

 どれほど仲が良くても、音楽の戦場に立つ以上は一人のアーティスト同士。そして、命懸けでチケットを勝ち取ってドームを埋め尽くしてくれたファンへの絶対的な誠実さ。

 虹夏・喜多・リョウは、彼らの放つそのプロとしての当たり前の矜持を、さすがに弁えていた。

 

 でも──それはそれとして、羨ましいことには変わりない。

 

 

「はい!次はちゃんとチケット取って絶対見に来ます!!……でも、やっぱりいいな〜!!ぼっちちゃん、タダで見れるなんてズルい!!」

 

「確かにそうですね。ひとりちゃん羨ましい~!」

 

「ぼっちが羨ましすぎる…!私も娘になりたかった…!!」

 

「大丈夫ですリョウ先輩!!私がリョウ先輩の娘になります!!」

 

「喜多ちゃ〜ん。それなんの解決にもなってないよ〜」

 

 

 ひとりは、大好きな仲間たちにこれでもかと羨ましがられ、口元を隠して顔を真っ赤に染め上げながらも、自分がこの最高な3人の真ん中に確かに存在できていることが嬉しくて、心の底から嬉しそうに笑った。

 

 高級ロケバスのラグジュアリーな車内は、下北沢での嵐が嘘のように、そんな優しくて温かな、かけがえのない幸福な雰囲気でいっぱいに満たされた。

 助手席のシートから振り返って、そんな愛娘とその愛おしい仲間たちが紡ぎ出す最高の笑顔の連鎖をじっと見つめていた直樹は、これ以上ないほど優しく、愛おしげに微笑ませるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 高級ロケバスは首都高速道路を滑らかに降り、日本一のオフィス街と大人の街が交錯する、東京の新橋エリアへと静かに滑り込んだ。

 

 車が目立たないビルの裏口近くのプライベート駐車スペースに停まると、先ほどまで気さくに話していた【NEW GLORY】のメンバーたちは一瞬でプロの隠密モードへと切り替わり、それぞれ手際よく帽子、マスク、メガネを深くかけて完璧な変装を済ませ、外界の目を遮断するように素早く車を降りた。

 ひとりはいつものピンクジャージ姿だが、みんなに囲まれるようにして歩く。

 【結束バンド】の虹夏、喜多、リョウも、興奮と緊張で少しおどおどしながら後ろからついていく。

 

 店内に入ると、格式高い店員がすぐに予約済みの大きめの完全プライベート個室へと一行をスムーズに案内した。

 案内された高級感あふれる個室には、贅沢な造りの10人掛けの無垢材テーブルが中央にどっしりと置かれ、壁は落ち着いた気品ある木目調で統一されており、間接照明の柔らかい光がフロアを優しく照らし、外の喧騒を完全に遮断してプライバシーがこれ以上ないほどしっかり守られている。

 そしてテーブルの上にはすでに、彼らの到着時間から逆算して極上の状態に管理された最高級肉の盛り合わせが、芸術品のように美しく並び始め、素人の目で見ても最高級だとわかる細やかな霜降りの和牛サーロイン、一頭からわずかしか取れない幻のシャトーブリアン、美しく肉厚にカットされた特選牛タン、厳選された大ぶりのホルモン盛り合わせ、そしてみずみずしい有機野菜の盛り合わせが敷き詰められていた。

 さらに、乾杯用のソフトドリンクも高級クリスタルグラスの横に、冷えた特製烏龍茶、天然水、数々の濃厚な果汁ジュースが万全の体制で用意されている。

 【NEW GLORY】のメンバーたちも、明日には2日目の東京ドーム追加公演本番が控えているため、一人の表現者としての絶対的なプロ意識から今夜はアルコールを徹底して我慢し、全員が潔く烏龍茶や冷水を自らのグラスへと頼んだ。

 

 宴の準備が完璧に整ったのを見届け、敏腕マネージャーの●●は、皆にグラスが行き渡ったのを確認しながらスッと背筋を伸ばして立ち上がった。 世界ツアーを回る凛とした笑顔のまま、しかし大切な家族たちへの愛を込めて、少し緊張した心地よい声を個室に響かせて音頭を取る。

 

 

「それでは、僭越ながら乾杯の音頭を取らせて頂きます。東京ドーム公演1日目…お疲れ様でした。今回の打ち上げの食事代は全て、リーダーのNaokIさんから出ています。なので、遠慮なく楽しんでくださいね。それでは……東京ドーム1日目が無事に成功したことを祝して、乾杯!」

 

『乾杯!!!』

 

 

 全員がそれぞれの未来と今夜の栄光を込めて、一斉にグラスを高く掲げた。

 個室の空気のど真ん中で、クリスタルのグラスが軽く触れ合い、チーンとこれ以上ないほど高貴で美しい透き通った音が響き渡る。

 

 その乾杯の合図と共に、網の上で極上の霜降り肉がジューッと極上の音を立てて脂を躍らせ、至高の食事が始まると、閉ざされた高級な個室の中は、すぐに【結束バンド】の弾けるような笑顔と【NEW GLORY】の温かい笑い声で、これ以上ないほど賑やかで幸福な最高のカタルシスに満たされていくのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 個室の中は、網から立ち上る香ばしい煙と極上の肉の香りでいっぱいに満たされていた。

 超高級和牛の美しい霜降りがジュージューと心地よい音を立てて脂を躍らせ、網の上に並ぶ肉が熟練のスタッフやメンバーの手によって次々と最高の状態に焼き上がっていく。

 

 【結束バンド】の4人は、5万人を揺らしたライブの興奮がまだ冷めやらぬまま、世界の神々に囲まれて贅沢な大人のテーブルを囲んでいた。

 中でも、昼ごはんを食べ損ねた空腹を限界まで溜め込んでいたリョウは、その飢えを一気に大爆発させていた。

 いつもなら「お金がないから」と他人の皿をハイエナのように狙うクズ全開の彼女だったが、今夜はNaokIの奢りという合法的なタダ飯の最高峰。リョウは目の前で美しく焼けていくカルビをマイトングで豪快につまみ、網の上でリズミカルにひっくり返しながら、一人の職人のようにその完璧な焼き加減を見極めていた。

 「ジュッ……」という脂の弾ける音が個室に響き、極上の肉汁が今にも滴る最高の瞬間を絶対に見逃さず、そのままハフハフと熱い肉を口へと運ぶ。

 

 

「──ッ!!!」

 

 

 あまりの脳髄を溶かすような美味さに、いつもは冷徹な彼女の頰が一瞬にしてデレデレに緩み、それと同時に左手に持った大盛りの白ごはんを猛烈な勢いでかき込む。

 二口、三口……ともはや箸が止まらない。

 「すみません、ごはん大盛りでおかわり。あとこの特選カルビと特上リブロース追加で1人前…」と、遠慮なんて言葉はドブに捨てたリョウは次々とハイペースで頼む。

 店員が新し炊き立てのごはんやお肉のお皿を持ってくるたび、リョウは無言のままペコペコと機械的に頭を受け取り、ただ黙々と、一心不乱に食べ続けた。

 普段は一言二言しか話さないリョウが、今日は目の前の極上肉に全神経を集中させすぎて、逆に不気味なほどほとんど無言のまま胃袋を満たしていく。

 

 凄まじい勢いで食べ進めるリョウの姿を、隣の席からRoÉが静かに声をかけた。

 

 

「いい食いっぷりだな。そんなに腹減ってたのか?」

 

 

 RoÉからの突然の問いかけに、リョウは肉を掴んだまま箸を止めてぴくっと細い肩を震わせた。

 いきなり至近距離から神の声を浴びせられて、前髪の隙間からその綺麗な目が丸くなる。RoÉの鋭い視線が完全に自分だけにまっすぐ向いていることに気づき、リョウは慌てて口の中のサーロインをゴクッと喉の奥へ飲み込んだ。

 

 

「RoÉさん…!あの……はい……昼、食べ損ねて……」

 

 

 さっきまでの無言の暴食っぷりを見られて流石に気まずそうにするリョウ。けれど、RoÉはその切れ上がった目元にクールな笑みを浮かべると、自分が育てていた網の上から、ちょうど食べ頃に焼き上がった最高級の肉たちを、自身のトングでリョウの取り皿へと滑らかに移し始めた。

 『おかわりもいいぞ!』『遠慮するな、今までの分食え…』と言わんばかりに、シャトーブリアン、特上ロース、霜降りサーロインをリョウの皿に盛り付ける。

 

 

「ほら、食えよ」

 

 

 リョウはRoÉからその極上の肉の山を受け取り、これまでの人生で誰も見たことがないほど、欲望と感動でその瞳をキラキラと眩しく輝かせた。

 

 

「ありがとうございます…!」

 

 

 リョウは溢れ出る多幸感に浸りながら、再び箸をフル稼働させ、RoÉのくれたシャトーブリアンを口に放り込んでは「ウメ ウメ ウメ」と文字通り肉と白ごはんを両頬がパンパンに膨らむまでがむしゃらに頬張るのだった。

 

 RoÉは、トングを一度ロースターの脇へ静かに置くと、それまでのクールな表情に、一人のバンドマンとしての深い真摯さを宿して言葉を続けた。

 

 

「…お前…ひとりちゃんを引き抜きに来たライターに、毅然とした態度で物申したンだろ?仲間を庇ったって聞いたぞ」

 

 

 その言葉に、リョウは次の一口を運ぼうとしていた箸をピタリと止め、不意に顔を少し赤らめた。

 普段は冷徹で、バンドの人間関係にも一歩引いたような態度を取っている自分。そんな自分の泥臭い行動を、世界の頂点に立つ人間がしっかりと見て、評価してくれていたのだ。リョウは気恥ずかしそうに視線を泳がせながらも、小さく、けれど迷いのない確かな動きで頷いた。

 

 

「…はい……ぼっち…いや、ひとりを……守りたかった…だから……」

 

 

 大好きな【結束バンド】をバラバラにさせないために、自らの音楽の尊厳を守るために、あの個室の戦場で放った「ぼっちは絶対渡さない」という覚悟。

 RoÉはその少女の内に秘められた本物のロック精神を認めるように、短く、しかし地鳴りのような力強さをその声に込めて言った。

 

 

「……仲間、大事にしろよ。俺も【結束バンド】には死んでほしくないからな」

 

 

 かつてインディーズの荒波の中で傷つき、一度は音楽の道を諦めかけたリョウ。けれど今、世界一のベーシストから、自分たちのバンドの存在をこれ以上ないほどストレートに全肯定されたのだ。

 やみから向けられた「お遊びバンド」という呪いの言葉は、このRoÉからの「死んでほしくない」という最高の激励の前に、完全に粉々に砕け散った。

 リョウは感動のあまりその綺麗な瞳を潤ませながら、RoÉの真っ直ぐな目線を見据え、静かに、しかし魂の底から力強く返事をした。

 

 

「…はい!RoÉさん……ありがとうございます…!私…【結束バンド】…大事にします……!」

 

 

 その言葉をきっかけに、二人の会話が弾み始めた。

 

 お互いにお肉を咀嚼するのも忘れるほど熱を帯びていく中、話題は自然とリョウの日頃のベースの練習法の話になり、彼女のベースの基礎設計に興味を持ったRoÉは、リョウがスマホに保存していた自身の演奏・スタ練の動画を見せてもらうことになった。

 真剣な眼光で画面を見つめていたRoÉは、動画が止まると同時に、リョウのベースの弾き方に対して、プロの冷徹さで具体的な改善点を挙げ始めた。

 

 

「お前のベース、センスはある。でも、まだ粗いところが多い」

 

 

 リョウはいきなり本題に入られて、目が少し大きくなる。

 RoÉはクールだが丁寧に、言葉を選ぶように話し始めた。

 

 

「まず、スラップの親指の角度。今のお前は親指を45度くらいに倒して弾いてるだろ?それじゃ音が散らばる。もっと手首を返して…こう80度近くまで立てて、指先で弦を『叩く』意識に変えろ。叩く瞬間、手首をスナップさせるイメージだ。そうすると…ポンッ!って音が鋭く抜ける。低域がぼやけずに、バンドの中で埋もれなくなる」

 

 

 リョウは箸をテーブルに置き、普段は冷めているはずの瞳をギラギラと燃え上がらせながら、スマホのメモアプリを開いて電光石火の速さでメモを取り始めた。

 RoÉは、ゆっくりと自分の手を見せながら言葉を続けた。

 

 

「次、タッピング。お前のタッピングは速いけど、指の独立性がまだ弱ェ。特に薬指と小指の動きが追いついてねェ。毎日指のストレッチと独立練習をしろ。俺が昔やってたのは1フレットから12フレットまで、1弦ずつタッピングして戻る練習だ。B弦からG弦まで、素早く移動する時は、指を『浮かせる』意識を持て。弦に引っかからないように、軽く浮かせて移動するんだ。それだけでスピードが1.5倍になる」

 

 

 リョウの目が、宝の山のような最高峰の情報に触れてキラキラと美しく輝き始めた。

 これまでの自己流の限界を遥かに超越する至高の技術論に、一人のベースオタクとしての心が激しく震える。

 RoÉは、さらに具体的かつディープな、プロの音響補正のアドバイスを重ねた。

 

 

「次は、アクティブEQの使い方だけど…お前の動画だと、中域を少しブーストしてンだろ?でも、800Hz〜1.2kHzあたりをピンポイントでブーストするともっと抜ける。低域は100Hz以下をカットしてクリーンに保て。そうすりゃスラップのポップ音がギターと共鳴して、バンド全体の輪郭がクッキリする」

 

 

 リョウは、1文字たりとも漏らしてなるものかとメモを取りながら、必死に、何度も深く頷いた。

 いつも以上の異常なほどの真面目さと真剣さで、彼女の瞳は新しい音楽の地平を見据えて燃えるように輝いている。

 RoÉの授けてくれる言葉はレベルが高すぎて、そこらのベース講師とは比べ物にならないほど的確で、どこまでも丁寧だった。

 一つ一つが、リョウのベースを次のステージへ引き上げる鍵のように感じられた。

 

 

「RoÉさん、ありがとうございます…!私これ…全部試します…!早速自主練で参考にします…!」

 

 

 RoÉはそんな少女の剥き出しのハングリー精神に満足したようにクールに頷きながら、トングを滑らかに動かして、網の上で完璧に焼き上がった極上の肉を一枚、リョウの取り皿の上へと静かに置いた。

 

 

「楽しみにしてるよ。お前のベース、もっと聴きたい」

 

 

 リョウはRoÉの言葉に静かに、しかし力強く頷いた。

 彼女の胸の奥には、今までにないほど烈しい練習への意欲と情熱が、炎となって燃え上がっていた。

 

 このアドバイスを、絶対に活かしてみせる──

 

 リョウは、一人の誇り高きベーシストとして、心の中で強く強く、不滅の誓いを刻みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 リョウがRoÉの神指導によって覚醒を遂げる横で、Lavielは網の上でジュージューと香ばしく焼ける特選タンをトングで返しながら、ふと隣にいる喜多に目を向けた。

 

 

「そういえば喜多ちゃん。最初のライブバックレたって聞いたけど…マジ?」

 

「……えっ!!?なんでそれを…!!?…あっ!ひとりちゃんからNaokIさん経由で…!…………はい……そうです」

 

 

 かつてギターが全く弾けない恐怖から、初ライブの直前に結束バンドから逃げ出してしまったという、自らの黒歴史の最たるもの。それがまさか、ひとりからNaokI経由でLavielにまで共有されていた。

 そのあまりの衝撃に、喜多は持っていた箸をピタリと止めて顔を耳の裏まで真っ赤に染め上げた。

 Lavielは腹を抱えて大笑いした。

 

 

「ははははは!!!喜多ちゃんロックすぎンだろ!?初ライブ バックレるって最高じゃん!!生粋のロックンローラーだな!!」

 

「うぅ……あの時は、本当に怖くて……」

 

 

 腹の底から愉快そうにゲラゲラと笑うLavielを前に、喜多はあまりの恥ずかしさに両手で顔を覆い、身体を限界まで小さく縮こまらせた。

 けれど、Lavielはひとしきり笑った後、その笑いをふっと抑えながら、傷つきやすい十代の少女の心を包み込むようにすぐさまフォローした。その声はどこまでも優しく、けれど一人の真摯なフロントマンとしての真剣な響きを帯びていた。

 

 

「……でもさ、こうして戻ってきて、ちゃんとギターボーカルこなしてンだろ?逃げずに自分に向き合って…すごいよ喜多ちゃん」

 

 

 喜多は顔を覆っていた手をそっと下ろし、その本物のリスペクトが詰まった言葉に、照れくさそうな苦笑いを浮かべながら小さくコクコクと頷いた。

 

 

「ありがとうございます……でも私、まだギターも歌も下手くそなので……本当にひとりちゃんを支えられるか……心配で……」

 

 

 やみに「テクニックが追いついてなくてただの叫び声、酷いの一言」と全否定された、自分の不器用な歌声。

 けれどLavielは、焼き上がった極上のタンを一切れ口に運び、その旨味を噛み締めながら、世界を回ってきた歴史を振り返るようにどこか感慨深く言った。

 

 

「………今まで、色んなやつらに応援してますだの、世界一になれますよだの…色々言われてたけどさ。面と向かって『【NEW GLORY】にも負けない最高のバンドにする』って堂々と宣言したやつ…【結束バンド】が初めてだったな」

 

 

 その言葉の圧倒的な重みに、喜多は目を丸くした。

 Lavielは肉を頰張りながら、酒も入ってないのに少し酔ったように笑った。

 

 

「だから嬉しいンだよ。俺らに挑んでくるバンドがいるのが…支えるだけじゃなくて……いっそ世界レベルの歌姫くらいになって、みんなを惹きつけて引っ張ってやれよ」

 

 

 ただ他人の顔色を窺ってバズるためだけに記事を書く安い大人の酷評なんて、この世界一のフロントマンからの絶対的な宣戦布告の前には、何の意味もない。

 

 Lavielはニッとその美しい口角を上げて、喜多の魂に火をつけるような熱い情熱の視線を真っ直ぐに送った。

 喜多は胸が熱くなり、涙目になりながらも、いつもの明るい笑顔で元気よく返事した。

 

 

「……はい!!!ラヴィさん…私絶対…!世界レベルの歌姫になります!!!ひとりちゃんの隣で…みんなを惹きつける声を出してみせます!!!」

 

 

 やみから向けられた「烏滸がましい」という屈辱の言葉は、このLavielの「世界レベルの歌姫になれ」という祝福の言葉の前に、今度こそ完全に、跡形もなく粉々に吹き飛んで消滅したのだった。

 Lavielは彼女の放ったその眩しい覚醒の返事に満足そうに頷き、ポケットから自身の私用スマホを取り出した。

 

 

「……喜多ちゃん、イソスタやってる?」

 

「え?あぁはい…やってます!……このアカウントです」

 

「よ〜し。じゃあこれ見て練習しな」

 

 

 Lavielがスマホを操作し始め、数分後──喜多のスマホの画面に、電子音と共に新着DMの通知がポップアップで届いた。

 

 Lavielのメッセージは、丁寧で、死ぬほどわかりやすいメモ形式だった。

 

 


 

 

 喜多ちゃんへ

 

 俺の経験から、喉と歌の基礎をまとめたよ。

 これを毎日続けてみてね。無理せず少しずつでいいから。

 

 

 1. 発声練習の基本ルーティン(毎日5〜10分)

 

 ・まずはリップロール(唇をブルブル振るわせながら「ブブブ〜」と音を出す)で喉を温める。  

 → 息を均等に吐きながら、音程をゆっくり上下させて。喉が締まらないように注意。

 

 ・次に「ンー」→「アー」→「イー」の母音練習。

 → 鼻腔に響かせる意識で「ンー」、胸に響かせる意識で「アー」、頭に響かせる意識で「イー」。→ 音域は中音域からスタートして、少しずつ上下に広げて。

 

 ・最後はサイレン(「ウー」から「イー」へスライドしながら音を上げる)。

 → 喉が締まらないように、息をたっぷり使って滑らかに。

 

 2. 喉を痛めない歌い方

 

 ・喉を締めない! 喉で声を押さえつけないで、お腹(横隔膜)で息を支える。

 → 息を吐きながら声を出すイメージ。喉に力を入れず、息で声を乗せる。

 

 ・高音が出ない時は喉を上げない。胸を張って肩を落とし、喉の位置を低く保つ。

 

 ・ロングトーン練習時は、息を「漏らす」意識で。喉を締めて声を絞らない。

 

 ・水分補給は必須。 歌う前後に常温の水をこまめに。冷たいものはNG。

 

 3. 腹から声を出すコツ

 

 ・お腹に手を当てて、息を吐く時に「お腹を凹ませる」感覚を覚える。→ 腹式呼吸で、息を吐き切ってから声を出す。

 

 ・「フッ!」と短く息を吐く練習を繰り返す。お腹が凹む感覚を体に覚えさせる。

 

 ・声を出す時は「フッ!」の延長線上で声を乗せるイメージ。喉じゃなく、お腹で押す。

 

 ・最初は「ハー」と息を吐きながら声を出す練習から。徐々に音程をつけて。

 

 4. 息継ぎのタイミング

 

 ・歌詞の句読点や、子音の強いところで息継ぎを入れる。

 

 ・ロングトーン中は、息を「漏らす」意識で。喉を締めないで、少しずつ息を吐きながら声を維持。

 

 ・ライブでは、フレーズの終わりで必ず息を補充。息継ぎを「恥ずかしい」と思わないで。

 

 おすすめ動画リンク

 

 ・俺の普段の発声練習動画

 

 MP4リンク

 

 ・腹式呼吸と喉の開き方と解説

 

 MP4リンク

 

 ・ハイトーンへの移行練習

 

 MP4リンク

 

 ・喉を痛めないロングトーン練習

 

 MP4リンク

 

 喉にいい飲み物(俺が毎日飲んでるやつ)

 

 ・カモミールティー(常温):喉の炎症を抑えてリラックス効果抜群。

 

 ・はちみつレモン水(常温):はちみつが喉をコーティング、レモンが殺菌。

 

 ・生姜湯(薄め):血行促進で喉の血流アップ。

 

 ・ペパーミントティー(常温):スッキリして高音が出やすい。

 

 冷たいものは絶対NG。常温か温かいもので喉を労わってね。

 

 


 

 

 喜多は、DMを開いた瞬間にその圧倒的な情報の質量に目をこれ以上ないほど真ん丸に丸くした。

 

 画面を何度スクロールしても終わらない、一文字一文字に魂が込められた死ぬほど丁寧なメモ。

 さらにそこに添付された極秘の動画リンクは、他ならぬのプライベートストレージから直接共有されたものであり、タイトルまで一目で分かるようにきれいに整理されている。

 それだけじゃなく、彼が日頃の喉のメンテナンスで愛飲しているという、門外不出の喉にいい飲み物のリストまで、何から何まで完璧に書き添えられていた。

 

 喜多はスマホを握りしめ、涙目になりながらLavielを見上げた。

 

 

「ラヴィさん…!これ…全部!?…いいんですか!?」

 

「俺たちと対バンするなら、いつまでも駆け出しのままじゃいられないだろ?だからこれ見て、もっと歌上手くなって、みんなを見返してやれ」

 

 

 Lavielは、十代の少女のこれからの音楽人生を全肯定するように、優しく、眩しそうに笑った。

 喜多は涙目になりながらも、いつもの太陽のような満面の笑みをその顔いっぱいに咲かせて、最大級の感謝でお礼を言った。

 

 

「ラヴィさんありがとうございました!これ見て練習します!!!世界レベルの歌姫になってみせます!!!」

 

「おう 楽しみにしてるよ。まぁ…バッキングに関しては、ひとりちゃんかNaokIさんにでも教えてもらいな。俺楽器は全く弾けないから」

 

 

 世界の象徴からの、これ以上ないほど重く、熱い最大級の信頼のメッセージ。

 二人はお互いに声を合わせて笑い合いながら、網の上でジューッと極上の脂を躍らせる肉を丁寧に焼き、音楽という至高の芸術が出逢わせた最高の会話をどこまでも弾ませて続けた。

 

 喜多の細い胸の奥には、Lavielのくれたその温かい言葉と極上のアドバイスが、一人の本物のボーカリストとしての消えない誇りとなって、どこまでも熱く、深く刻み込まれていたのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 リョウ、喜多がそれぞれ世界トップの洗礼を受け、自らの魂に消えないプロの火を灯す中、今度はKyoyaが、冷えた烏龍茶のグラスを静かにテーブルへと置き、隣に座るリーダーの虹夏へと穏やかな視線を向けた。

 

 

「虹夏ちゃん。ひとりちゃんをサポートギターに勧誘して、ライブに出した話……聞いたよ」

 

「あっあはは。今になって考えたら…あの時、ぼっ…ひとりちゃんだったからよかったけど…流石にギター持ってるだけで、いきなり初対面の人をライブに出演させるのは酷かったなって…ちょっと反省してます」

 

 

 下北沢の小さな公園のブランコで、逃げ出した喜多の代わりに偶然見つけたピンクジャージの少女。あの時、藁にもすがる思いでいきなりスターリーのステージへと引っ張っていった。

 そんな自らのむちゃくちゃな結成秘話に、虹夏は持っていた箸を止めて、アホ毛を少し揺らしながら照れくさそうに笑った。

 するとKyoyaは、そんな少女のひたむきな行動力を否定するどころか、お腹の底から穏やかに笑いながら、どこまでも優しくフォローした。

 

「勢いがあっていいじゃん。そういうのも若者の特権だよ。俺たちも昔は無茶なことばっかりやってたからな」

 

 

 虹夏は、Kyoyaの言葉に少しホッとして頷いた。

 

 

「ありがとうございますKyoyaさん。……あの、Kyoyaさん。ひとりちゃんとは…昔から付き合い長いんですか?」

 

 

 NaokIだけでなく、この【NEW GLORY】という世界最高峰のチーム全体が、どうしてこれほどまでにひとりに対して温かい家族のような目を向けているのか──

 

 虹夏がずっと気になっていたその疑問に、Kyoyaは烏龍茶を一口飲み、喉を潤してから静かに頷いた。少し感慨深げな表情をその目元に浮かべ、ゆっくりと、優しい声で話し始めた。

 

 

「ああ、丁度10年くらいになるね。NaokIさんほどじゃないけど、俺もひとりちゃんのことはずっと気にかけてた。ギターの腕はすごいけど…周りに友達がいなくて、ギターばっかり弾いてて、俺たちのライブにもしょっちゅう着いてきてたから…もっと友達と遊んだり、楽しいことがいっぱいあるのに……ひとりちゃんの貴重な時間を奪ってないかって…心配してたんだ」

 

 

 学校にも馴染めず、友達の作り方も分からず、ただ家の中で毎日6時間もギターを掻き鳴らすことしかできなかった、あの孤独な少女の幼少期。

 Kyoyaの口から静かに語られたその優しすぎる深い情愛の言葉に、虹夏は胸がじんわりと熱くなった。

 

 

「……だから虹夏ちゃんが、ひとりちゃんをバンドに誘ってくれて…毎日楽しそうにしてるって聞いてホッとした。自分のことのように嬉しかったよ」

 

 

 Kyoyaは持っていたグラスをテーブルへとそっと置いて、虹夏の方へと真っ直ぐに向き直った。

 そして、世界一のドラマーとしてのプライドを全て脇に置き、目の前の小さな女子高生のドラマーに向かって、深く、深く丁寧に頭を下げた。

 

 

「虹夏ちゃん。ひとりちゃんを【結束バンド】に誘ってくれて…本当にありがとう。ひとりちゃんは、虹夏ちゃんのバンドに入ってから…毎日楽しそうにしてるから、俺も安心した」

 

 

 あの時、公園のブランコで孤独にうつむいていたひとりの手を引いた、自分の何気ないあの瞬間の選択。それが、世界の頂点に立つこの神様たちの心をこれほどまでに救い、安心させていたのだ。

 

 

「Kyoyaさん…ありがとうございます…私、ひとりちゃんが毎日笑顔でいてくれるのが一番嬉しいんです…!これからも…絶対支えます!」

 

 

 虹夏はKyoyaの放ったその心からの感謝の言葉に胸が烈しく熱くなり、大きな目をじわっと熱い涙目で潤ませながらも、いつもの太陽のような満面の笑顔を咲かせて力強く深く頷いた。

 Kyoyaは満足そうに頷き、スマホを取り出した。

 

 

「じゃあ、俺からもエールを…虹夏ちゃんAir Dr○p受信できる?」

 

「え?あっはい!」

 

 

 Kyoyaは画面を滑らかに操作し、虹夏のスマホの画面に電子音と共に1つの膨大なファイルデータを送り始めた。

 そこへ映し出されたのは、数時間前ドームのサウンドチェックで授けられたキックやスナップの極意をさらに何十倍にも細分化した、丁寧で死ぬほどわかりやすい極秘のメモ。

 

 ドラムの叩き方の細かなコツ、客席に音を真っ直ぐに届けるための改善点、彼自身が毎日裏で実践している門外不出の練習方法、さらにはプロのスタジオでのレコーディングでの厳密な注意点。

 難解な専門用語を全て噛み砕き、これから上を目指す虹夏の目線に完璧に立った言葉で、細かく、優しく、そして詳細に書き尽くされていた。

 

 それだけじゃなく、そこには非公開にされている「Kyoya自身の普段のルーティン練習動画」のシークレットリンクや、彼がプロの目で厳選したおすすめのドラム練習動画のリンクまでもが、完璧な形で添付されていた。

 虹夏は、自分のスマホにハックされたその宝の山の情報量に、驚きのあまりその大きな目を丸くした。

 

 

「Kyoyaさんこんなに丁寧に…!?…ありがとうございます…!!」

 

「……虹夏ちゃんのひたむきに努力する姿に、俺も心打たれたよ。だからこれ見て、もっと上手くなってくれ。俺も虹夏ちゃんのドラム楽しみにしてるから」

 

 

 Kyoyaは、自分の弟子の未来を応援するように、優しく笑った。

 虹夏は、嬉しさと感動で目元に大粒の涙をいっぱいに潤ませながらも、満面の笑顔を浮かべて、自らの人生の最大の師へと最大級のお礼を伝えた。

 

 

「ありがとうございますKyoyaさん…!!!今日のサウンドチェックの時といい、本当にお世話になりました!!【結束バンド】のドラマーとして、みんなを支えてみせます!!!」

 

 

 そのあと二人は、ロースターの網の上で極上の霜降り肉を丁寧に焼きながら、時間が経つのも忘れて、一人のドラマー同士の熱いドラムの話でどこまでも盛り上がった。

 虹夏の胸の奥には、Kyoyaのくれたその温かい言葉と極上のアドバイスが、バンドを世界へと導く鉄壁の土台としての消えない誇りと熱い炎となって、どこまでも熱く、深く刻み込まれていたのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

高級焼肉店の個室は、絶え間ない笑い声と和牛の脂が弾ける極上の音で、どこまでも温かく満たされていた。

 【結束バンド】の4人も、世界の頂点たる神々も、それぞれ最高級の焼肉を心ゆくまで堪能し、笑顔で会話を弾ませながら、忘れられない東京ドームの興奮の余韻を心から楽しんでいた。

 

 直樹は、ひとりの皿にシャトーブリアンを乗せてやりながら優しく言った。

 

 

「ひとり、まだまだ好きなもの頼んでいいぞ。今日はお前たちのために来たんだから」

 

「うん。ありがとうお父さん」

 

 

 ひとりは、父親相手なので特に緊張することなく、素直に頷いた。

 シャトーブリアンを頰張りながら、幸せそうに笑う。

 美味しそうに食べる娘の顔を見て、直樹は優しく頭を撫でる。

 

 やがて、至高のお肉と白ごはんをお腹いっぱいに満たしたひとりは、そっと箸を皿へ置き、真っ直ぐに直樹の顔を見つめた。

 

 

「…お父さん、今日はありがとう。ライブに誘ってくれて…本当に嬉しかった…みんなと一緒に観れて…本当によかった…」

 

「……気にしなくていいよ。…それで、いい経験になったかな?」

 

「うん。【結束バンド】として…目指すべき目標が見えた気がする……お父さんたちの想い、ちゃんと届いたよ…」

 

「…ひとり……」

 

 

 直樹は娘の汚れなき満面の笑顔を見つめながら、ついさっき、東京ドームの楽屋で彼女が自分に向けて放った、あの『お父さんにも負けないギタリストになって、【結束バンド】を最高のバンドにする』という、退路を断ったガチの表現者としての熱い覚悟の目を思い出した。

 

 次の瞬間、一人の父親としての親バカな感慨が胸の奥を一気に締めつけ、威厳なんて木っ端微塵に吹き飛ばした直樹は、目に大量の涙をブワッと浮かべて、子供のように盛大に号泣し始めた。

 当然、明日を控えて酒なんて一滴も入っていないシラフであるにもかかわらず、体をガタガタと震わせて、個室全体に響き渡る声で大泣きする。

 

 

「…ひとり…こんな立派になって………うわあああん!!!お父さん嬉しいよ〜!!!娘が【NEW GLORY】を…最高のバンドって言ってくれた〜!!お父さん幸せすぎて死ぬぅ〜!!!」

 

「おっお父さん!恥ずかしいから泣かないで!」

 

 

 さっきまでドームの5万人を冷酷に支配していた世界一のロックスターが、今や娘の成長に涙腺を全壊させてテーブルの上でのたうち回っている。ひとりは顔面を真っ赤に染め上げ、慌ててお父さんの背中をポカポカと叩きながら大慌てで慰めた。

 

 そのあまりにもギャップが激しすぎる後藤親子の掛け合いを目の当たりにして、対面に座る虹夏たちは、それまでのプロへの畏怖を忘れて思わず揃って苦笑い。

 虹夏は頭のアホ毛を困ったように揺らしながら、「NaokIさんって、こっちが素なのかな…?」と、隣のリョウと喜多へ向けて小声でボソッと呟いた。

 宴を優しく見守っていた有能マネージャーの●●は、冷えたお水を直樹の前に置きながら、微笑んで「本当に親バカですね、NaokIさん」と呆れ交じりの深い信頼を込めて言った。

 Lavielも、RoÉも、Kyoyaも、リーダーのその毎度お馴染みの一番情けないプライベートの姿に、肩を揺らして茶化すようにして楽しそうに笑い合った。

 

 

 ある程度盛り上がり、そろそろお開きな雰囲気になった頃、直樹はひとりに改めて向き直った。

 涙を拭き優しく、しかし力強く言った。

 

 

「対バン、楽しみにしてるよ。そして…僕たちも世界一になるから待っててくれ」

 

「!……うん!お父さん…私たちも負けない…!だから、待ってて…!」

 

 

 ひとりはお父さんから贈られた、未来の対等なライバルとしての最大級のメッセージに、その目を強く輝かせながら、力強く、深く深く頷いた。

 

 

 そのあと、素晴らしい宴の締めくくりとして、今夜の奇跡を永遠に刻むための記念写真をみんなで撮ることになった。

 マネージャーの●●が、喜多から手渡されたスマホをしっかりと構える。

 中央には、直樹と照れくさそうにしているひとりの後藤親子が並んで座り、その周りを虹夏、Kyoya、山田リョウ、RoÉ、喜多郁代、Lavielの6人が、それぞれの愛おしい絆を結び直したフォーメーションで賑やかに囲む。

 

 全員がカメラに向かってこれ以上ないほどの満面の笑顔でピースサインを掲げた。

 カシャリ、と高級な個室の中に晴れやかなシャッター音が優しく響き、それと同時に、10年ものの親戚のような温かい笑い声がフロア全体へと広がっていった。

 液晶画面に収まったのは、プロの悪意に傷つき、絶望に引き裂かれかけた、あの最悪だった下北沢の夜を完璧に乗り越えた証。

 

 【NEW GLORY】から託された『神のレッスンメモ』という無敵の武器をその胸に宿し、いつかこの世界の頂点へ4人で必ず這い上がって対バンを叶える。

 

 その不滅のロックの約束を抱きしめた【結束バンド】の4人の未来は、この1枚の写真に刻まれた最高の笑顔とともに、ここから世界の頂点へ向けて、無限に、どこまでも広く鮮やかに広がっていくのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 楽しかった至高の宴もついに完全にお開きになり、敏腕マネージャーの●●が下北沢へ戻る虹夏たちの為に、素早くハイヤー並みのタクシーを店の前に手配してくれた。

 直樹は会計の前に、タクシー代として一人20万円ずつの分厚い現金の束を、何でもない日常の挨拶のように虹夏・喜多・リョウの3人へとスッと差し出した。

 

 

「これ、少ないけど。タクシー代に当ててくれ」

 

「え…えええ!? さすがにもらえないですよ!!!」

 

「そっそうですよ!ライブに招待してくれて、焼肉に連れてってくれただけでもありがたいのに…!!」

 

 

 新橋から下北沢までのメーターを数千回まわしてもお釣りがくる、額面合計60万円という破格なタクシー代。

 虹夏と喜多は常識人としてあまりの金額に泡を吹きそうになりながら、慌ててブンブンと激しく手を振って丁重に固辞しようとするが、直樹は笑ってその分厚い札束をそのまま押しつけた。

 

 

「気にしないで。ちょっとしたお小遣いみたいなもんだから。今日は来てくれてありがとう」

 

 

 一方で、リョウは口元をデロデロにニヤニヤと緩めて笑って、これ以上ないほど嬉しそうにその20万円の束を懐のポケットへと素早くしまった。

 

 

「ありがとうございます神様仏様NaokI様!!!!この20万は大切に使います!!…うへへ…!何に使おうかな…!」

 

「ほんっと現金だねリョウは……」

 

「あっ本当に気にしなくて大丈夫ですよ……お父さんからしたら、多分お菓子奢るくらいの感覚なので…」

 

「そういうことだから気にしないで…っと会計来たか……あれ?思ったより安いな」

 

「いくらですか?……63万ッ!!?……やっぱり、NaokIさんって規格外ね……」

 

 

 直樹はそのまま伝票にブラックカードを乗せて、店員に差し出してスマートに一括会計。

 3人はその規格外の背中に圧倒されてお小遣いを受け取り、手配された高級タクシーに乗り込んで、一生忘れられないドームの夜の余韻に包まれながら下北沢の自宅へと帰路についた。

 

 ひとりと【NEW GLORY】のメンバーたちは、明日のドーム2日目というさらなる本番の戦場に向けて、再びマネージャーの運転するホテルへ戻る車へと滑らかに乗り込んだ。

 

 車は、夜の東京を走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 スターリーのいつもの薄暗い地下フロアに、再び集まった【結束バンド】4人。

 虹夏は、昨日の【NEW GLORY】からのエールを胸に、頼もしい表情でメンバーの3人を真っ直ぐに見回した。

 

 

「『未確認ライオット』10代アーティスト限定のロックフェス。ここからメジャーデビューする人もいるんだって。…これに出て、優勝を目指して…プロになるための足がかりにしよう!そして、皆の力をちゃんと証明しよう!……どうかな…!?」

 

 

 ただ趣味で集まったお遊びの高校生バンドなんかじゃない。あのクソライターに見せつけるためでもない。自分たちの創り上げてきたこの音楽が、世界の頂点に立つお父さんたちへの『本物の挑戦状』になり得るのだと、その価値を自分たちの力で完璧に証明してみせる。

 

 その虹夏の力強い提案にリョウは、拳を膝の上で強く握りしめて静かに頷いた。

 

 

「うん。みんなで出て…優勝目指そう」

 

 

 喜多も、目を輝かせて言った。

 

 

「もちろんです!実は私も、その話を今日しようと思ってた所だったんです…!」

 

 

 そしてひとりは、覚悟を決めた目で言った。

 

 

「【結束バンド】で…グランプリ獲りましょう!」

 

 

 【結束バンド】全員の手が重なり、強く握り合う。

 

 スターリーの小さなステージで、4人の決意が響き合った。

 

 【結束バンド】の物語は、ここから本当のスタートを切った。

 

 『未確認ライオット』への挑戦。

 

 プロへの道。

 

 ひとりの夢。

 

 みんなの夢。

 

 父娘の絆とともに。

 

 メンバーたちの絆とともに。

 

 

 

 これから、もっと大きく、もっと強く、みんなの心に届いていく。

 

 

 

 スターリー開店以来、一番の騒ぎだった夜から、

 

 

 

 一番の、奇跡と絆と感謝の続きが──今、動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとりちゃん。文化祭でダイブしてたらしいけど…危ないよ。打ちどころが悪かったら死ぬかもしれないから…もうやらないでね」

 

「あっ…ごめんなさい…もう……しません……」

 

「うん、分かればいいよ。これからもがんばってね」

 

「あっはい」

 

 

 ちなみに、焼き肉屋の帰りにホテルに戻る道中の車の中で、マネージャーの●●が、ひとりが文化祭でダイブしたことを、小さい子に言い聞かせるように、優しく注意していた。

 

 




これでオリジナル回は終わりです。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
…なんか、打ち切り漫画の最終回みたいな文章になってて草
あと虹夏ちゃんのドラムの助言のところは、サウンドチェックの時にやったので割愛しました。

次から原作ルートに戻り、結束バンドは徐々にレベルアップしていきます。
そして次回は、あのツンデレ先輩視点になります。
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