娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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お気に入り登録、感想ありがとうございます!
改めて見返したら、CDの売り上げとか、チャンネル登録者とかめちゃくちゃで、あと印税とか収益とか考えたら年収も差異がありまくりだったので、大幅に修正しました。
結構勢いでテキトーに書いてたから、ガバガバだったわい。

あとライブ回と打ち上げ回は、長くなってダレる可能性があったので、分割しました。

それではどうぞ


20

 クリスマスライブ当日。

 

 

 

 新宿FOLTのステージ上では、【結束バンド】の4人がサウンドチェックとリハーサルを進めていた。

 

 まだ開場前で、客は一人もいない。

 

 客席は暗く、照明はステージだけを照らし、PAからテストトーンが響き、虹夏がドラムセットに座り、軽くスティックを回した。

 

 

 「よーし!みんな、準備OK?」

 

 「はい!いつでも行けます!」

 

 「大丈夫だ、問題ない」

 

 「あっはい。大丈夫です」

 

 

 喜多はマイクスタンドの前に立ち、ギターを肩にかけながら笑顔で頷いた。

 

 リョウもベースを構えながら、クールに一言。

 

 そしてひとりも、Schecterを調整しながら、小さく頷いた。

 

 以前の【結束バンド】なら、キャパ500人の箱にすらプレッシャーを感じて、虹夏はドラムを叩く手が震え、喜多は口の中がカラカラで声が思うように出ず、リョウはベースの弦を何度も確認し、ひとりも走り気味になっていただろう。

 

 

 

 でも、今は違う。

 

 

 

 東京ドームの5〜6万人の歓声。

 

 【NEW GLORY】の新曲『We are Alive』で響いた──

 

 『ここまで登ってこい!!!!』という言葉。

 

 あの圧倒的なステージを目の当たりにした後、FOLTの500人なんて……まるでホームのスターリーのように感じる。

 

 プレッシャーどころか、むしろ落ち着いていた。

 

 虹夏は、ドラムを軽く叩きながら、笑顔で言った。

 

 

 「あの体験の後だと、全然緊張とか感じなくなるね!でも……ここがあたしたちのスタート地点だもん。今日も全力でいくよ!」

 

 「はい! ここからまた、みんなと一緒に……もっと大きくなりましょう!」

 

 「まずは、今日来た客全員…満足させよう」

 

 「あっはい…!頑張ります…!」

 

 

 ひとりは、みんなの言葉に、胸が熱くなった。

 

 お父さんたちに負けないバンドになる。

 

 その決意が、今、改めて固まる。

 

 スタッフの声が響いた。

 

 

 「サウンドチェックOKでーす!リハ始めまーす!」

 

 「はーい!よろしくお願いしまーす!」

 

 

 虹夏がスティックを掲げた。

 

 

 「じゃあ1曲目の頭と、2曲目のサビやろうか。行くよー!!1.2.3.4!」

 

 

 ドラムが鳴り、ベースが絡み、ギターが響き、歌声が重なる。

 

 FOLTのステージが、4人の音で満ちていく。

 

 緊張なんて、どこにもない。

 

 

 

 ただ──純粋に、音楽を楽しむ。

 

 

 

 ここが、【結束バンド】のスタート地点。

 

 そして、次のステップへの確かな一歩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 FOLTの楽屋に戻った【結束バンド】の4人は、静かに休憩に入った。

 

 リハーサルは特にミスもなく、全員落ち着いていた。

 

 東京ドームでの経験が、500人規模の箱を「小さく」感じさせ、プレッシャーはほとんどなかった。

 

 虹夏は、ソファに座ってKyoyaからもらったメモを見て、目をキラキラさせながら何度も読み返していた。

 

 

 「手首のスナップを返して……叩く意識……」

 

 

 その言葉を指でなぞりながら、頭の中で叩き方を再現する。

 

 胸の奥で、練習への意欲が燃え上がる。

 

 

 

 リョウは、ベースを膝の上に置いたまま、目を閉じてRoÉのアドバイスを反復していた。

 

 親指の角度、手首の返し、タッピングの指の独立性、中域のブースト……

 

 一つ一つを頭の中でシミュレーションし、指を軽く動かして感覚を確かめる。

 

 

 

 喜多はLavielおすすめの、はちみつレモン水(常温)の入った水筒を手に取り、紙コップに半分程度入れて、ゆっくり飲んで喉を温めていた。

 

 温かさが喉を通り、声帯を優しく包む。

 

 メモに書かれた「息を吐きながら声を出すイメージ」を思い出しながら、小さく「アー」と発声してみる。

 

 音程が安定し、喉が締まらない。

 

 

 

 ひとりは、ソファに座って深呼吸していた。

 

 お父さんたちの音を思い出しながら、心を落ち着かせる。

 

 でも──胸の奥は、静かに、しかし強く躍っていた。

 

 

 (早く、自分たちの成長を発揮したい。お父さんにも負けないギタリストになる。みんなと一緒に、もっと高い場所へ登りたい。)

 

 

 以前のひとりや喜多なら、【SIDEROS】や【SICK HACK】のリハを見て、自分たちは全然だと気落ちして、『ライブパフォーマンスでど派手にするしかない』と、変な方向に進んでしまいそうだった。

 

 だが、東京ドームの経験が、4人を強くした。

 

 自分たちの成長を、信じられるようになった。

 

 そんなこんなで、時間は少しずつ進んだ。

 

 楽屋の空気は、ライブ前の独特な緊張と、クリスマス特有の浮ついた雰囲気が混ざり合っていた。

 

 リョウは、ベースを膝の上に置いたまま、「……クリスマスにわざわざロック聴きに来る奴なんて、恋人の居ないヒマ人に違いない」とぼそっと呟いた。

 

 ひとりは、ソファの端で膝を抱え、病んだような顔で頷いた。

 

 虹夏は、リョウとひとりを見ながらツッコミを入れ、喜多も明るくフォローした。

 

 

 

 そんな時、楽屋のドアがノックされた。

 

 入ってきたのは、【SIDEROS】のメンバー──

 

 長谷川(はせがわ)あくび(ドラム)。

 

 本城(ほんじょう)楓子(ふうこ)(リズムギター)。

 

 内田(うちだ)幽々(ゆゆ)(ベース)。

 

 そして、【SIDEROS】リーダーの大槻(おおつき)ヨヨコ(ギター&ボーカル)。

 

 ヨヨコは少し離れたところで黙って立っていた。

 

 あくびがゆっくり前に出て、ダウナーな声で挨拶した。

 

 

 「【結束バンド】のみなさん初めまして。自分【SIDEROS】の長谷川あくびです」

 

 「私は本城楓子です♪」

 

 「内田幽々です~」

 

 「あっどうも…!【結束バンド】の伊地知虹夏です…!」

 

 「同じく【結束バンド】の喜多い………喜多です…」

 

 「山田リョウ」

 

 「あっ後藤ひとりです……」

 

 

 ヨヨコ以外は全員自己紹介を終えて、あくびは、無表情に近いクールな顔で、ゆっくりと続けた。

 

 

 「初めての箱なのに緊張した様子もないし、リハも安定してて凄かったっす。それと【結束バンド】の曲、自分は好きっす。同世代のバンドと出会う機会少ないんで仲良くしましょう」

 

 

 あくびは、両手に【結束バンド】のデモCDを持って、虹夏に見せた。

 

 虹夏は、あくびの優しい振る舞いに安心する。

 

 

 「こちらこそ〜。それにしても…【SIDEROS】はメンバーの入れ替わり激しいって聞いてたから、もっと殺伐としてるのかと思ってた」

 

 「全然そんな感じなさそうですね。それより長谷川さん…それって、私たちのデモCD…?長谷川さんのこと、物販で見た覚えないんだけど…いつ…?」

 

 「あ〜それは…」

 

 

 

 

 「【結束バンド】」

 

 

 あくびが理由を言いかけたところで、ずっと黙っていたヨヨコが、突然割って入った。

 

 

 「私が【SIDEROS】のリーダー、大槻ヨヨコよ。…それと、ゲストだからって【SIDEROS】と同じ土俵に立ったと思わない方がいい。言っておくけど…私のトゥイッターフォロワー数は1万人だから」

 

 「なんで唐突にフォロワーの話してんだ……」

 

 

 初対面で突然急カーブして、謎マウントを取ってきたヨヨコ。

 

 そして、それを冷めた目で見るリョウ。

 

 

 「そのくらい人を惹きつけてるって事。幕張イベントホールと同じ」

 

 「へー」

 

 「こんな事言ってますけど、実は大槻先輩…【結束バンド】のライブ見に行って、デモCD買ってたんですよ。あと、このCDは大槻先輩から借りました」

 

 「なっ何言ってんのよあくび!? 余計なこと言わないで!!!」

 

 

 あくびの唐突な告げ口に、ヨヨコは慌てふためき、両手をブンブン振って否定した。

 

 まるで猫が水をかけられたようなリアクションで、顔を覆ったり、足をバタバタさせたり。

 

 あくびは、ダウナーな表情のまま淡々と続けた。

 

 

 「あと大槻先輩。【結束バンド】のデモCD買ってから、ずっと聴いてたっすよ」

 

 「うっうるさい!!! それは……ただ……敵の情報収集で……!!!絶対ファンじゃないから!!!」

 

 

 ヨヨコは、顔を真っ赤にして叫んだ。

 

 喜多は、目を輝かせて手を叩き、虹夏も、純粋な目でヨヨコを見て笑顔で言った。

 

 

 「…えええ!? 私たちのライブ見にきてくれたんですか!?それにCDも買ってくれたんですか!?嬉しい!!! ありがとうございます!!!」

 

 「それにフォロワー1万人って、大槻さんすごい!!あたし達もがんばらないと!」

 

 

 ヨヨコは、二人の反応に満更でもない顔になった。

 

 顔はパッと明るくなり、口元が緩み、誇らしげにドヤ顔をする。

 

 

 「こっこれくらい大したことないけど…!!1万人くらい普通だから…!!」

 

 「でも、1万人って凄いですよ!!【結束バンド】はまだ、トゥイッターのフォロワーそんなに居ないので、尊敬します!」

 

 「そっそう?…ま、まぁ…確かに!同世代じゃあ頭ひとつ抜けてる自負はあるわね!しかも個人アカだしね!」

 

 「大槻さんすごいな〜!個人アカウントで1万人って…本当に人気者なんだね〜!」

 

 

 (あっ…ヤバいコレ…!めちゃくちゃ承認欲求満たされるッ…!!)

 

 

 「初対面でいきなりマウント取ってきたのに、伊地知さんも喜多さんも優しく対応してて、器デカいっすね…」

 

 

 あくびは、そんなヨヨコの様子を見て、ゆっくりと呟いた。

 

 楓子は、穏やかに微笑み、幽々は静かに頷いた。

 

 気をよくしたヨヨコは、自慢げに胸を張りながら、一番近くにいた喜多に目を向けた。

 

 

 「まぁ…あんたたちも頑張れば、いずれはこれくらいフォロワー増えるわよ…!ちなみに赤髪のあんた。SNSのフォロワーは何人いるの?」

 

 「え?私ですか?私のイソスタの個人アカでいいなら…ちょっと待ってください……」

 

 

 喜多は、スマホを取り出してイソスタを開き、プロフィール画面を見ながら普通に答えた。

 

 

 「イソスタなら、最近人気投稿に入ったみたいで…15000人いるんですけど…」

 

 「なっ!?」

 

 

 ヨヨコの目が一瞬で点になった。

 

 

 「……1万……5千……?」

 

 「え〜!15000人ってすごいね!」

 

 「喜多さん、武道館レベルですね〜」

 

 

 楓子は、純粋に目を輝かせて言った。

 

 幽々は、眠たげな目で淡々と呟いた。

 

 ヨヨコは、顔を真っ赤にして、慌てて声を張り上げた。

 

 

 「…〜〜っ! バンドマンなら演奏技術で勝負しなきゃだめでしょーが!」

 

 「自分から言い始めたのに」

 

 

 自分からフォロワー数の話題を振っておきながら、負け惜しみのように言い放つヨヨコと、それにツッコミを入れるリョウ。

 

 平静を装ってるが、声が上ずってて完全に動揺してるのがバレバレだった。

 

 あくびは、ダウナーな声でゆっくりとフォローした。

 

 

 「…こんな感じで、大槻先輩がコミュニケーション下手なので、人間関係上手くいかないだけっす。それが【SIDEROS】の入れ替わりが激しい理由ですね」

 

 「なるほど」

 

 

 虹夏は、あくびの言葉を聞いて、納得したように頷いた。

 

 あくびは、ヨヨコの唐突なマウントに軽くため息をつきながら、虹夏たちに頭を下げた。

 

 

 「うちの先輩が迷惑かけて、ほんとすみません」

 

 「全然迷惑じゃないよ! むしろ【SIDEROS】のみんな、あたし達と年が変わらないのに、落ち着いててすごいね!」

 

 

 虹夏は【SIDEROS】の落ち着きっぷりに感心していたが、あくびはダウナーな声でゆっくり答えた。

 

 

 「いや〜、自分たちよりあがってる人見ると冷静になってくるんですよね」

 

 「あはは、あたし達の事?知らず知らずのうちに、緊張してたのかな?」

 

 「いや…毎回先輩が緊張で、3日くらい寝てこないんすよ。ライブ前は大体エナドリキメてますし」

 

 「…えええ!? 睨んでるんじゃなくて……寝不足で目がキマってただけ!?全然わかんなかった…!」

 

 

 虹夏は、ぽかんとして驚愕した。

 

 そして喜多は、そんなヨヨコの様子を見て、優しく話しかけた。

 

 

 「大槻さん…エナドリよりも、こっち飲んでみてください。おすすめのカモミールティーです。リラックス効果があって、喉の炎症にもいいんですよ」

 

 「……ありがと」

 

 

 喜多はカバンから水筒を取り出し、自前のカモミールティー(常温)を紙コップに半分注いで、ヨヨコに差し出した。

 

 ヨヨコは顔を赤くしたまま受け取り、ゆっくりとちびちび飲む。

 

 温かさが喉を通り、少し肩の力が抜けた。

 

 喜多は、【SIDEROS】のみんなにも紙コップを配りながら、笑顔で言った。

 

 

 「【SIDEROS】のみなさんもよかったらどうぞ。 喉にいいんです」

 

 「えっあぁ…ありがとうございます」

 

 「わぁ〜!ありがとうございます!」

 

 「いただきますぅ〜♪」

 

 

 あくび達も紙コップを受け取りながら、ゆっくり飲んで頷いた。

 

 

 「うわっ美味しいっすねコレ…」

 

 「確かに、喉が良くなった気がするぅ〜」

 

 「このレシピ気になります…!どうやって作ってるんですか?」

 

 

 楓子は紙コップを手に取り、優しい目で喜多に尋ねた。

 

 喜多は快くスマホを取り出して、メモアプリを開いた。

 

 Lavielからもらったメモの内容(名前の部分とかは添削済み)を、そのまま見せながら丁寧に説明した。

 

 楓子は、喜多のスマホ画面に表示されたメモをじっくり眺めながら、穏やかな声で言った。

 

 

 「このメモ、本当に細かくてわかりやすいですね…!飲み物以外にも…歌い方のコツとか、息継ぎのタイミングとか凄く丁寧。喉にいい飲み物のレシピも…はちみつレモン水の割合とか、ペパーミントティーの淹れ方まで……これって喜多さんがまとめたんですか?」

 

 「あっはい…私のおすすめです…!ネットで色々調べて、まとめてみたんです…!喉にいい飲み物とか、発声練習の方法とか…これ飲むと、喉が楽になるんです!」

 

 

 喜多は、少し照れくさそうにスマホを閉じながら、Lavielから教えてもらった事は伏せて答えた。

 

 

 「でも凄いっすね。こんな丁寧なメモ初めて見ましたよ。喜多さん、めちゃくちゃストイックじゃないですか」

 

 「幽々もそう思います〜。この飲み物一覧、普通に風邪予防にもなりそうです〜」

 

 「あの、よかったら他のレシピも詳しく教えてくれませんか?どうやって作るんですか?」

 

 

 楓子は、目を輝かせて喜多に尋ねた。

 

 喜多は、快くスマホを再び開いて、メモを見せながら説明した。

 

 

 「はちみつレモン水は、はちみつ大さじ1、レモン汁小さじ2、常温の水200mlに混ぜるんです。喉に良くて歌う前に飲むと、声が滑らかになるんです。ペパーミントティーは、乾燥葉っぱをお湯で3分蒸らして……」

 

 

 【SIDEROS】のメンバーたちは、メモの細かさにさらに驚き、喜多の熱心さに感服した。

 

 ヨヨコは、黙って聞いていたが、内心では(この子…意外と勉強熱心なのね…)と思い、少し感心していた。

 

 喜多に飲み物を渡してもらったヨヨコは、ソファにどさっと横になった。

 

 カモミールティーの温かさが喉を通り抜け、少しだけ肩の力が抜けた。

 

 でも、まだ心臓はドクドク鳴ってる。

 

 虹夏はそんなヨヨコの様子を見て、素直な感想を口にした。

 

 

 「人気バンドの大槻さんでも、そんなに緊張するんだね」

 

 「……当たり前でしょ。プロだってライブが怖くなくなる事なんてないはず」

 

 

 ヨヨコは、ソファに横になったまま静かに続けた。

 

 

 「上を目指してバンド活動続けるなら、一生緊張し続ける。その不安を少しでも無くすために……寝る間も惜しんで練習してるの。それが……プロになるってことだから」

 

 

 その言葉に、楽屋の空気が少し重くなった。

 

 楓子は、スマホをいじりながら、穏やかに笑って言った。

 

 

 「だからヨヨコ先輩、毎回ライブ半目なんですよ〜♪うけますよね?」

 

 「え!?そうなの!!?ちょっと見せなさい!……なっ……何これ!?私こんな顔してたの!?」

 

 

 楓子がスマホの画面をみんなに見せると、そこには過去のライブ写真が並んでいて……確かにヨヨコの目が、いつも半開きだった。

 

 ヨヨコは、慌てて体を起こし、スマホを覗き込んで顔を真っ赤にした。

 

 そんなヨヨコを見て、みんなが笑った。

 

 空気が和んだところで、ヨヨコは少し落ち着いて、ソファに座り直した。

 

 そして静かに、でもはっきりと言った。

 

 

 「……話を戻すけど、さっきのリハ、動画の時より格段に良くなってた。ひたむきに努力したことは、褒めてあげる。認めたくないけど……」

 

 「…………」

 

 

 その言葉は、素直じゃないけど……優しかった。

 

 虹夏は、目を輝かせて頭を下げた。

 

 

 「あっ…ありがとうございます!」

 

 「ふんっ」

 

 

 ヨヨコは、みんなの反応に照れくさそうにそっぽを向いた。

 

 顔はまだ赤いけど、口元が少し緩み、続けて言葉を紡ぎ始めた。

 

 

 「私に追いつきたいなら、一日6時間は練習……」

 

 「え〜っぼっちさんってネットでも活動してるんですか?……ってヤバ。再生数えぐいっすね」

 

 

 ヨヨコが何か言いかけたが、あくびがスマホをいじりながら、ダウナーな声でゆっくり言った。

 

 あくびの言葉に、【SIDEROS】のメンバーたちが一気にスマホに集まった。

 

 楓子が目を丸くし、幽々が眠たげな目で覗き込む。

 

 

 「ヨヨコ先輩見てください!すごいですよ〜!」

 

 「え?」

 

 「別名義らしいんですけど、再生回数えぐいっすよね。チャンネル登録者数も見てくださいよ」

 

 

 画面には、ギターヒーローのアカウントが表示されていた。

 

 

 

 登録者数──160万人。

 

 

 

 一番再生されてる動画は1億2600万再生以上を記録し、直近の動画3本も、全部1000万〜2000万再生を超えている。

 

 ギターのテクニックが炸裂する動画のサムネイルが並び、コメント欄は絶賛の嵐。

 

 ヨヨコは、スマホを握りしめ、目を大きく見開き叫んだ。

 

 

 「……ドーム32個分!?!?!?どゆこと!?!?」

 

 「さっきからその単位なんなの!?」

 

 

 その言葉に虹夏は、ついに目を丸くして驚きながらツッコんだ。

 

 

 「はー……それより、本番始まるよ。武道館とドーム…32個分………なら大丈夫…!確信した」

 

 「決め手の理由ひどくない?」

 

 「うるさい!早くステージ上がれば!?」

 

 『ごめんなさーい!』

 

 

 そうこうしているうちに、【結束バンド】の本番が始まる寸前。

 

 虹夏、喜多、リョウ、ひとりは、イヤモニを付け直し、ステージ袖で最終確認をしていた。

 

 ステージの照明がゆっくり点き始め、スタッフの合図で4人はステージに向かった。

 

 

 『こんばんは~【結束バンド】です!』

 

 「……」

 

 

 【結束バンド】がステージに向かった後、楽屋に残った【SIDEROS】のメンバーたちは、しばらく静かに座っていた。

 

 空気が少し落ち着いたところで、あくびがスマホを取り出して、ぼそっと呟いた。

 

 

 「それにしても…ぼっちさんのギターヒーローのチャンネル。ホントに凄いですね」

 

 「ね〜!もうオーチューバーとして食べていけるよ〜!」

 

 「しかもギターの腕前もプロ以上ね〜」

 

 

 あくびがオーチューブを開き、ギターヒーローのチャンネルを表示すると──

 

 全員がスマホを覗き込んだ瞬間、息を飲んだ。

 

 登録者数:160万人。

 

 総再生回数:5億以上。

 

 一番再生された動画:1億2600万再生。

 

 直近3本の動画も、それぞれ1000万〜2000万再生を超えている。

 

 背景は本格的な防音室で、機材はハイエンドのギターアンプ、マイク、カメラ、照明……すべてがプロ仕様。

 

 コメント欄は「神」「天才」「これが本物のギターヒーロー」「泣いた」の嵐。

 さらに海外のコメントも多数。

 

 

 「ていうか『Shade Of Gray』完コピして、アレンジまでしてるの本当にすごい!私、序盤のAメロで断念したのに~!」

 

 「周りの機材も本格的だしぃ…背景の防音室も、プロのスタジオレベル。すごいわ〜」

 

 「最新の動画…3本とも…全部1000万〜2000万超えてますね。それに、日本人より海外のコメントの方が多いし…ぼっちさん本物っすね」

 

 

 ヨヨコは、一人ソファに座ってAirP○dsを耳に付け、黙ってギターヒーローの動画を再生した。

 

 直近3本の動画と、そして一番再生されてる『Shade Of Gray』の弾いてみた動画。

 

 2年前の投稿なのに……この時点で、ヨヨコの数倍の腕前。

 

 キレのあるストローク、ピッキングの精度、ビブラートの深み、ベンドの正確さ、感情の乗せ方……

 

 動画のクオリティも、機材のクオリティも、すべてが桁違い。

 

 ライブの時とは明らかにレベルが違う。

 

 ヨヨコは、拳を強く握った。

 

 

 (嘘でしょ……2年前で……このレベル……?私、序盤のギターソロも弾き切れなかったのに……今の私じゃ…到底……追いつけない……)

 

 

 胸の奥で、何かが熱く疼いた。

 

 悔しさと、闘志。

 

 ヨヨコはスマホを閉じて、静かに呟いた。

 

 

 「……私も……負けない……!絶対追いついてみせる…!演奏でも人気でも、【SIDEROS】が一番になるんだから!!」

 

 

 ヨヨコの言葉に、あくびはゆっくり頷いた。

 

 楓子は、穏やかに微笑み、幽々は静かに頷いた。

 

 【結束バンド】の居なくなった楽屋の空気は、再び熱くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……それにしても、後藤ひとり何者?1万人って多いと思ってたけど、そんなことないのか…」

 

 「よっ 数字に惑わされる悲しき現代人」

 

 

 そのあと、冷静になって、登録者の数字を改めて見つめたヨヨコ。

 

 160万人と1万人。

 

 その差に、しょんぼりするヨヨコだった。

 

 




今回も見てくれた方、ありがとうございました!
ここの虹夏ちゃんと喜多ちゃんは、若干アニメ寄りで優しさ増し増しにしてあります。
そして自分から言い出さないと、周りが評価してくれないつっきーは可愛いと思います。

あと、ライブやろうかなって思いましたが、結束バンドとシデロスは、未確認ライオットでやりたいので、ここは省かせてもらいました。
なのでライブシーンは省いて、次回は打ち上げ回にしたいと思います。

つーかずっと思ってたけど、漫画でもアニメでもみんなイヤモニ付けてないのね…
同期音源とかクリックとか聞こえんだろうし、演奏ズレたりせんのかね…?
それにアンプとかドラムの音で、聴覚ぶっ壊れそうな気がする。
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