色々つけ加えてたら遅くなりました。
多分今回過去一の長さだと思います。
…ライブ回より打ち上げのが長いってどゆこと?
それではどうぞ
『メリークリスマス!』
「今日はスターリークリスマスパーティーに集まって頂き、ありがとうございます!司会進行は伊地知と喜多が務めさせていただきます!」
「そして!兼クリスマスライブの打ち上げも兼ねてますので、短い間ですが【SICK HACK】のみなさんに、【SIDEROS】のみなさんも楽しんでくださーい!」
『ありがとーございまーす!!』
「【結束バンド】のみなさん。今回は誘ってくれて、ありがとうございます」
「あっ…ありがとう…ございます……」
FOLTでのクリスマスライブは大盛況のうちに幕を閉じた。
客席は満員で、500人の歓声と手拍子が小さな箱を震わせ、ステージ上の【結束バンド】は汗だくになりながらも笑顔で手を振って退場した。
終演後、すぐに打ち上げ会場のスターリーへ移動。
店内はクリスマスパーティー仕様に飾り付けられ、ツリーの電飾がキラキラ光り、BGMにはクリスマスソングが小さく流れている。
「さらに、兼うちのお姉ちゃんの誕生日会でーす!」
『店長おめでとー!』
「いや、兼ねすぎだろ…」
「え〜と、店長は今日で…30歳なんですね!!」
「それ以上誕生日会の事は掘り下げなくていい…」
参加者計11名。
【結束バンド】4人(伊地知虹夏・喜多郁代・山田リョウ・後藤ひとり)。
【SIDEROS】4人(長谷川あくび・本城楓子・内田幽々・大槻ヨヨコ)。
伊地知星歌。
【SICK HACK】2人(廣井きくり・岩下志麻)。
イライザは同人誌の締め切りで欠席だった。
店内はすぐに賑やかになった。
テーブルには、クリスマスケーキ・ピザ・フライドポテト・チーズフォンデュ・KF○のフライドチキンなど様々な料理や、みんなが持ち寄ったお菓子や飲み物が並び、クリスマスソングが流れ、笑い声が絶えない。
虹夏と喜多は、【SIDEROS】のあくび・楓子・幽々と自然に固まって会話していた。
喜多と楓子は、同じ今どきな女子感がぴったり合った。
すぐに「喜多ちゃん」「ふーちゃん」と呼び合い、キャッキャと笑う。
「ふーちゃんの私服可愛い! そのニットとスキニーの組み合わせすごく似合ってる!それどこで買ったの?」
「えへへ〜ありがとう喜多ちゃん♪どっちもUNIQL○で見つけたんだ〜。喜多ちゃんの今日のコーデも可愛いよ! そのジャケットと白のトップス、シンプルだけどおしゃれ! アクセサリーはどうやって選んでるの?」
「これ最近ハマってるシルバーのネックレス! プチプラだけど重ね付けすると可愛いんだよね〜。てかふーちゃんのネックレスも可愛い! その雫の形のやつどこで買ったの?」
「これBLO○Mで買ったやつだよ~安いけど可愛いんだよね〜♪ねぇ喜多ちゃん!今度一緒に原宿行って、服屋巡りしない? 私、喜多ちゃんのセンス参考にしたい!」
「いいよ絶対行こう! 原宿で買い物して、カフェ行って、プリクラ撮って……最高の休日になるね!」
二人はロイン交換をして、すぐに予定を調整し始めた。
「この日空いてる?」「うん! じゃあ原宿集合ね!」と、キャッキャと笑いながら約束を決めた。
虹夏は、幽々とあくびの間に座って、衣装の話などで盛り上がっていた。
「え、幽々ちゃんが【SIDEROS】のステージ衣装作ってるの!?全部手作りってすごい!!!」
「ありがとぉ〜♪頑張って作ったから嬉しい〜。【結束バンド】のロゴも素敵よ〜」
「ありがとう! 実は【結束バンド】のロゴ、私が作ったんだよ!一生懸命デザインして、みんなに使ってもらえてるの!」
「マジすか。あのロゴ…虹夏ちゃんが考えたんすね。シンプルで覚えやすいし、すごく好きです」
「えへへ〜ありがと〜♪ねぇねぇ!二人ともロイン交換しよう! 」
「うん〜いいわよ〜」
「ウチもいいっすよ」
「やった〜ありがとう!でも幽々ちゃん服作れるってすごいね!あたしなんて裁縫が精々なのに」
「それでも十分すごいわよ〜。それに幽々の家 大家族だから〜。節約のために自然とするようになっただけだしぃ〜」
「幽々ちゃんこう見えて、【SIDEROS】の経理も担当してんすよ。家でも家事とかしてるし」
「え〜!幽々ちゃん経理担当だったんだ!あたしもだよ!バンド活動以外は、バイトに勉強に家事とかやってるし…あたしたち似た者同士だね!」
「虹夏ちゃんも、めちゃくちゃ働き者じゃないすか。ちなみに高校ってどこなんすか?」
「下北沢高校だよ〜。でもウチの高校、進学校だから勉強着いていくの結構大変で…」
「下高って、偏差値高いわよね〜。虹夏ちゃんすご〜い♪」
「マジすか。…勉強とバイトと家事して、バンド活動までしてるって…虹夏ちゃん、めちゃくちゃハイスペじゃないすか。ウチだったらキャパオーバーしちゃいますよ」
「えへへ〜♪そうかな〜?でも、幽々ちゃんとあくびちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ〜!」
「いやマジですごいっすよ。ウチなんて暇な時、ゲームばっかやってますからね。あとゲーセン行きまくってて、家事とかも全然しないっす」
「あくびちゃんゲームが好きなんだ!じゃあさ!今度三人でゲーセン行って遊ぼうよ!あたしプリクラ撮りたい!」
「幽々も賛成ですぅ〜。ついでに、衣装の生地とかも見に行きましょ〜」
「いいっすねソレ。じゃあ今度三人で集まって遊びましょう」
「やったー!じゃあ時間と場所決めよ〜!」
虹夏は持ち前のコミュ力で、すぐにあくび・幽々と仲良くなり、二人の事を名前呼びするほど仲良くなっていた。
あくびと幽々も虹夏の事を「虹夏ちゃん」と呼び、仲良く会話していた。
そして、それを聞いた喜多と楓子も、すぐに乗ってきた。
「わぁ〜いいな〜!喜多ちゃん!私たちも混ぜてもらお!」
「ふーちゃんナイスアイディア!…あっ!じゃあいっその事全員で遊びに行きましょう!!原宿行ったり、ゲームセンターとか服屋とか色々行きましょう!あとカラオケとかも行きませんか!」
「わぁ〜!いいねカラオケ!行こ行こ!」
「とりあえずグループロインでも作りましょうか…あと1日じゃ終わらなさそうなんで…何日かに分けて、色々巡りましょう。…ウチも遊びに行くのが、楽しみになってきたっす」
「幽々も楽しみ〜」
「あたしもあたしも!よーし、みんなで行こ〜!」
『お〜!!!!』
全員大賛成で大盛り上がり。
会話は途切れる事なく、予定もどんどん決まっていく。
虹夏・喜多・あくび・楓子・幽々はロインを交換して、遊ぶ場所や時間を決めていた。
一方、陰キャ組のテーブル──
『………………………』
ひとり・ヨヨコ・リョウは、虹夏たち陽キャ組の笑い声が遠くに響く中、完全に孤立していた。
会話がなく、ただ料理を摘む音だけがポツポツと響く。
テーブル上のポテトはみるみる減り、ピザの切れ端が消え、お菓子の袋が空になっていく。
三人とも、無言で手を伸ばしては食べ、食べては手を伸ばす。
沈黙が重く、気まずく続いていた。
(まさか…【SIDEROS】の皆も来るなんて……新しい人がいると気まずい…)
「…………」
(皆が行くって行ったから、仕方なく着いてきたけど…私は3人以上の集まりが苦手なのに!!)
ひとりは端でポテトを黙々と摘み、ヨヨコはテーブルに肘をついて ぼーっと俯いてポテトを摘んでいた。
リョウもスマホをいじりながら、ポテトを無言で摘み続けている。
虹夏たちの笑い声が響く中、陰キャ組のテーブルだけ料理の無くなる速度が異常だった。
会話がない分、料理を食べ続ける事で間を持たせている。
「あ ポテトない…」
「…………」
(本当は姐さんの元に行きたいけど、志麻さんや伊地知虹夏の姉と一緒居るから、無闇に入れないし……陽キャ組のノリはきついから陰キャテーブルに来たけど……こっちも気まずい。しょうがない…私が話題を出してあげるか)
ヨヨコは、流石に耐えきれなくなった。
このままじゃ本当にBGM以下だと思ったのか、カバンから取り出したのは、さっき買ったばかりのトゥイッチ2。
開封したばかりの本体を、ぎこちなくテーブルに置く。
「あれ?こんな所にトゥイッチ2が落ちてる。暇だし3人でゲームでもする?」*1
棒読みだった。
声が小さく、目が泳いでいて、明らかに無理やり話題を作ろうとしているのが丸わかり。
トゥイッチ2の画面を点けようとするが、指が震えて電源ボタンを何度も外す。
リョウは、スマホから目を上げることなく、ジュースを飲みながら──
「いやいい」
拒絶。
一言、4文字でバッサリ。
無表情で、スマホから視線すら動かさない。
ヨヨコの指が、ピタッと止まった。
トゥイッチ2の電源が入りかけた画面が、すぐに暗くなる。
「あっリョウ先輩は、一人が好きな人で……」
「……」
「あっ気にしなくて大丈夫ですよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
『………………………………………』
もう話題がない。
ひとりは膝を抱えて俯き、リョウはスマホをスクロールし続け、ヨヨコは天井を見上げてため息をつく。
虹夏たちの笑い声が、遠くから聞こえてくる。
陰キャ組のテーブルは、ただ沈黙が続く。
クリスマスの賑わいの中で、三人は、ただひたすら料理の皿に手を伸ばしていた。
陽キャの笑い声と、陰キャの沈黙が、奇妙に交錯しながら。
奥のカウンターでは、大人組の会話が自然と弾んでいた。
星歌は、久しぶりに会った志麻と目を合わせた。
大学時代からの付き合いで、星歌は志麻の先輩にあたる。
志麻は今でも敬語混じりで話すが、距離感は近い。
「久しぶりだな岩下。最後に会ったの大学振りか?」
「そうですね。伊地知先輩もお変わりないようで、それと誕生日おめでとうございます」
「…………」
「ありがとな。ホラ、お前も飲めよ」
「ありがとうございます。いただきます」
「…………」
星歌は、志麻のグラスにビールを注いだ。
志麻は、星歌に頭を下げてグラスを傾ける。
一口飲むと、穏やかな笑みを浮かべた。
星歌はビール瓶を置いて、志麻をまっすぐ見た。
「それにしてもお前ら出世したな。来年の2月に幕張でワンマンやるんだろ?しかも二日間も。あそこのキャパ、15000人なのにすげェな…しかも既にソールドアウトだろ?」
「……私も正直、あんな大舞台でワンマンするなんて思いもしませんでしたよ。今でもあまり実感が湧かないと言うか……」
「…………」
「お前ら音楽だけじゃなくて…バンドとしてちゃんと成長したよな。バンド結成してそろそろ7〜8年くらいなのに、今も続いてる。それって簡単なことじゃねェ。私もライブハウス経営して、それなりに色んなバンド見てきたから分かるよ…バンドが続くってことは、奇跡に近い」
志麻は、少し照れくさそうにグラスを置いて、静かに頷いた。
「……そうですね…伊地知先輩の言う通りです。私たちも…何度も挫けそうになりました。でも…音楽をやめられなくて……」
「それだけ本気なんだからすげェよ。もっと自信待て」
「…………」
「ありがとうございます。…伊地知先輩もその若さでライブハウス経営して……凄いですよ」
「おいおい…私なんて、お前らと比べたら大した事ねェよ」
「違いますよ、先輩。ライブハウスを続けてるだけで、十分すごいことです。ネットで写真とか動画見ましたけど、雰囲気も良くていい箱でした」
「…………」
「そっ…そうか?まぁ…ありがとな。いつかスターリーでもライブしに来いよ」
「はい。私も、スターリーでライブやりたいです。伊地知先輩の前で、かっこいい【SICK HACK】を見せます」
「楽しみにしてるよ。お前らの音…私も聞きたいからな。とりあえず、今日のライブお疲れさん。乾杯」
「ありがとうございます。乾杯」
「…………」
志麻と星歌は、グラスを掲げて軽く触れ合わせた。
二人の会話は、大学時代の思い出話から、最近の音楽シーンの話、互いの苦労話、そしてこれからの夢まで──途切れることなく続いた。
お互いリスペクトを持って、大人な距離感で、しかし温かく。
その横できくりは、ミニスカサンタコス姿で星歌に頭を撫でられていた。
きくりは顔を真っ赤にして、両手でスカートを押さえながら硬直していた。
「あっあの…せっ先輩………は…恥ずかしい…です…」
「なんで?可愛いじゃん。それに『先輩の誕生日なので、何かして欲しい事はありますか?』って聞いてきたのお前じゃん」
「そっ…そうですけど……うぅ…スカートも短いし…やっぱり…恥ずかしい………」
(あ〜!マジで可愛すぎるわコイツ!!マジ天使!最近じゃぼっちちゃんと同じくらい可愛く見える!もう一生シラフでいいのに!!)
星歌は志麻からきくりに視線を向け、じっくりと眺めた。
きくりは星歌のリクエストに応えて、サンタコスに着替えた。
ミニスカのサンタコスに着替えたきくりは、赤い生地が白いフリルとふわふわの縁取りで縁取られ、胸元の大きなリボンが揺れるたびに小さく弾む。
スカートは膝上20cmはあろうかという短さで、きくりが少し動くだけで白い太ももがチラチラと覗く。
頭のサンタ帽は少し大きめで、きくりが恥ずかしそうに俯くたびに、帽子の白いポンポンがぴょこぴょこと揺れる。
頰は真っ赤に染まり、瞳は潤んでいて、唇をきゅっと噛む仕草がまた愛らしい。
酒カスとは別人のような、守ってあげたくなるような可愛さ。
倍増どころか、三倍、四倍に膨れ上がった可愛さが、そこにあった。
「うぅ……わっ私も、ひとりちゃんや…大槻さんのテーブルに……ひぅ…!」
きくりは気まずさと羞恥で耐えられなくなり、陰キャテーブルに行こうとする。
だが星歌は絶対逃がさんと言わんばかりに、きくりの肩に手を置いた。
きくりはびくっと体を震わせ、顔を上げられない。
そんな小動物のような可愛らしい反応に、星歌は胸がキュンキュンする。
(本来ならぼっちちゃんにも着せてあげて、廣井とダブルで楽しみたいが私は大人!あっちから提案しない限りは…絶対に暴走したりしない!)
星歌は立ち上がって、きくりをそっと抱き寄せ、頭を撫でた。
きくりは星歌の胸に顔を埋めて、恥ずかしさで体を縮こまらせる。
サンタ帽のポンポンが、星歌の肩に当たってぴょこぴょこ揺れる。
ミニスカの裾が少し捲れ上がり、白い太ももがさらに露わになる。
星歌はきくりを抱きしめながら、耳元で囁いた。
「ホント可愛すぎるわお前…最高の誕生日プレゼントありがとな」
「…先輩には、お世話になりましたので………私にできる事なら…でも…恥ずかしい……」
きくりの可愛らしい言葉と愛らしい仕草に、星歌は耐えられなくなった。
きくりをぎゅっと抱きしめたまま、頭を撫でながらベタ褒めを始めた。
声はデカく、端まで響くくらいのテンションだ。
「いやマジでさ廣井…お前すげェよ。あの【NEW GLORY】とコラボして、フルアルバムもいい曲ばっか出して、ZIPPERも全公演ソールドアウト。酒に頼らなくてもポテンシャル全開でステージ立ってるじゃん。昔はあがり症だったのに、今じゃシラフでぶちかましてるし…しかも幕張で二日間もワンマンやって、3万人も動員するって…お前マジで化け物だよ!可愛い化け物!!」
「伊地知先輩、いつにも増して上機嫌ですね」
きくりは、星歌の胸に顔を埋めたまま、最初は褒められて小さく喜んでいたが──
すぐに根暗陰キャモード全開。
体が縮こまり、声が蚊の鳴くように小さくなる。
そして、呪詛のように小声でブツブツと不安の連鎖が始まった。
「……今はいいけど売れなくなったらどうしよう。音楽なんて流行り廃り激しいし短期間で消費されるし。人気落ちて次のアルバム売れなかったら…ライブ動員減ったら会場貸してくれなくなるかもだし…そもそも会場代払えないかも。バンド解散したらどうしよう…解散して就職しようと思っても…何の資格もスキルもないし精々運転免許くらい……履歴書の職歴欄ってバイトは含まれないって聞くし、書けることなんて『元バンドマン』しかないよ。面接で『前職は何してました?』って聞かれたら『音楽やってました』って…『具体的に?』って聞かれたら『歌ってベース弾いてました』って…それで終わりじゃん。というか職歴なしのいい歳した26歳アラサー女なんてどこも雇わないよ。少なくとも私が採用側だったらそんな地雷絶対いらないし、履歴書見た時点で真っ先に落とすよ……じゃあバイトで食い繋ぐ?コンビニとか?いや、コンビニも今はマルチタスクで大変って聞いたし、前にタバコの銘柄覚えてないだけでクレーム付けられてるとこ見たし、絶対根暗陰キャコミュ症の私には無理だ。…売れなくなったら税金どうやって払おう…?前年度と収入違いすぎるからごっそり持っていかれるだろうし…年金未納したら?将来…生活保護……?いや生活保護も審査厳しいって…じゃあ私…路頭に迷うの?…売れてる時は税金ゴッソリ持っていって…売れなくなったら手助けもなしで放置…?………死ぬ…死にます……」
ブツブツブツブツ……と、きくりは星歌の胸に顔を押しつけたまま、落ち込みの連鎖を止まらない。
星歌は涙目のきくりを撫でながら、ニヤニヤが止まらない。
グラスを片手に、もう一杯ビールを注ぎながら、楽しそうに笑う。
「あ〜相変わらず心配性で可愛いなお前!どんだけ私の事喜ばせてくれンだよ!」
きくりは顔を上げて、涙目で可愛く睨む。
「……先輩のバカ…私、本当に不安なんですよ…?」
「そんな心配すンなって。岩下から聞いたけど…お前ここ最近ほとんどシラフなんだろ?機材も壊してねェし、前の分は全部弁償したり、借金も色つけて返したって聞いたぞ?」
「はい。廣井から今までの借金、全額返してもらいました。しかも2倍の金額で…私は借りた分だけでいいって言ったんですけど……」
「……いえ、岩下さんには…ずっと迷惑をかけてきたので……自分なりのケジメです…」
「おっおう。そうか……」(やりにく…)
「借金もないし、曲の印税やライブ収益もあるし蓄えも十分あるだろ?だからそんな落ち込むなって…人生なんてもっと気楽でいいんだよ。困ったことがあったら私も相談に乗るから…な?」
「先輩…」
「……にしても、ここ数年で一番最高の誕生日だわ。マジでありがとな廣井♪」
星歌は、きくりをもう一度ぎゅっと抱きしめて、頭を撫でまくった。
志麻は、そんな二人を横目で見ながら、グラスをゆっくり傾けていた。
ビールを味わうように一口飲んで、静かに微笑む。
「伊地知先輩ほどほどにしてくださいね。廣井…そろそろ限界そうですよ」
「そう言うなよ岩下。もうコイツは、滅多に会えないくらい忙しくなってんだから、今のうちに可愛い後輩に甘えさせてくれよ」
「うぅ………下手な事言わなきゃよかった…でも…先輩が喜んでくれるなら………」
きくりは、星歌の胸に顔を埋めたまま、小さく呟いた。
スターリーのカウンターは、大人たちの温かな会話ときくりの可愛らしいミニスカサンタ姿で、賑やかになった。
◆
星歌はきくりを抱きしめたまま、ふと視線を【結束バンド】のテーブルに移した。
ようやくきくりを解放して、グラスを手に取りながら虹夏たちに声をかけた。
「そういえばライブどうだったの?初めての箱で緊張しなかったか?」
虹夏は、すぐに目を輝かせて答えた。
「ライブはね!今持てる力を十分発揮できたと思う!プレッシャーも全然なくて、むしろみんなの顔が見えてもっと気持ち込められた気がするんだ!手応えめっちゃあったよ!」
「私もステージ袖から眺めてましたけど、演奏すごく安定してましたよ。リズムの揺れがほとんどなくて……初めての箱であれだけ落ち着いてるのはすごいよ」
「あっありがとうございます!【SICK HACK】の志麻さんにそう言ってもらえるなんて…!」
「ライブ終わった後、ファンの1割くらいは【結束バンド】が気になってたらしく、SNSで調べてたっす。結構話題になってましたよ」
「え!?そうなの!?」
志麻も会話に入ってきて、素直に【結束バンド】を賞賛。
あくびもダウナーな声でゆっくり加わり、初めての箱で順調な滑り出しだったと伝えた。
虹夏はテーブルに置いたグラスを軽く回しながら、ふときくりの方を向いた。
少し照れくさそうに、でも真剣な目で言った。
「廣井さん。【結束バンド】をゲストに呼んでくれて…本当にありがとうございます」
「あっいえ…そんな大したことじゃ……」
「今の私たちじゃ絶対出られないような場所だったので、あんな広いステージに立てたのは良い経験になりました」
「あっはい。恐縮です……」
虹夏は、拳を軽く握って意気込んだ。
「大人数の前でのライブの経験も積めたし。あとは曲数増やして、練習を重ねるだけだね!」
「はい!」
「…何かあるんすか?どこかデカい箱でライブとかですか?」
「違うよ。未確認ライオットってフェスに出ようと思ってて…」
あくびはグラスを置いて、ゆっくり首を傾げた。
「……未確認ライオットっすか。何かあったんすか?」
「この前ライターさんがうちに来たんだけど…」
虹夏は少し苦笑いしながら、言葉を選んだ。
もちろん。【NEW GLORY】のNaokIのことや東京ドームの件は伏せて、簡潔に事情を伝えた。
「それ失礼な話ですね〜」
「そうっすよ。ライブあんなに良かったのに…」
「うーん…でも図星な部分も結構あってね。多分あの出来事がないと…明確な目標もなかったと思うし、結果としてはよかったよ」
「そうですね。前から努力してるつもりでしたけど、どこか緩かったですからね……あれがきっかけで、本気でプロになる覚悟が出来ましたからね」
「……………」
その会話を黙って聞いていたヨヨコは、テーブルに肘をついたままスマホの画面を眺めていた。
未確認ライオット──10代限定のロックフェス。
【結束バンド】がそこに出るという話が、頭の中でぐるぐる回る。
(……未確認ライオットか)
ヨヨコは静かに息を吐いた。
胸の奥で、何かがざわついた。
◆
「え〜、ではそろそろ!店長への誕生日プレゼントお渡しタイムに移ります〜!みんな用意してるよね〜〜!?」
「別にそこまでしてくれなくていいのに」
時間は進み、いよいよ星歌へのプレゼントお渡しタイムになった。
星歌は遠慮しながらも、少し照れくさそうに座っていた。
きくりはまだミニスカサンタコスのまま、顔を赤らめて立っている。
【結束バンド】の4人と志麻、きくりが、それぞれプレゼントを用意していた。*2
喜多はハーバリウムとお花のリップを、可愛くラッピングした箱を差し出した。
ハーバリウムは透明なガラス瓶にドライフラワーが美しく浮かび、ピンクと白の花が映えるデザイン。
リップは花びらの形をしたティントで、塗ると自然な血色感が出る人気のアイテム。
映え意識満載で選んだらしい。
リョウは何も用意していなかった。
突然「用意してくる」と外に出て、数十分後に戻ってきた。
手には即席で作った雪だるまのピエールくん。
少し歪んだ雪だるまに、枝でできた腕と石ころの目。
星歌は汚いから室内に入れるなと言ったが、リョウがそれっぽいかわいいエピソードを付け加えて、捨てられなくなると頭を抱える星歌。
「伊地知先輩…これ、私からのプレゼントです」
「おお。ありがとな岩下」
志麻は静かに、小さな封筒を差し出した。
中には、高級スパのチケット。
場所は東京の某高級ホテル内のスパで、90分のアロマトリートメントコースに、ジャグジー、サウナ、岩盤浴、フィッシュテラピー、施術後のアフターティーまで付いたフルコース。
経営者として色々疲れることも多いだろうと考え、星歌の体を癒すために選んだものだった。
「ライブハウスの経営で、いつもお疲れだと思いましたので…たまにはゆっくり体を休めてください」
星歌は封筒を受け取り、中を見て目を丸くした。
少し照れくさそうに、でも心から感謝を伝える。
「マジで嬉しいよ…ありがとな岩下。暇な時に使わせてもらう」
「ありがとうございます。喜んでもらえたなら、私も渡した甲斐があります」
次はひとりの番。
ひとりは、少し緊張した様子で立ち上がり、紙袋をそのまま星歌に差し出した。
紙袋はシンプルな白地に果物のロゴが入ったもので、中身が透けて見えないようだった。
「あっ店長さん。誕生日おめでとうございます」
「おっおう…!ありがとなぼっちちゃん…!!」
星歌はウキウキしながら紙袋を受け取り、中を覗き込んだ。
が──すぐに目が点になる。
「……え…MacB○ok Pro……?」
『えっ!!!?』
紙袋の中には、M5 Maxチップ搭載の16インチMacBo○k Pro。
それと『店長さん、誕生日おめでとうございます。』と短く書いてあるメッセージカード。
最高スペックの128GB統一メモリ、8TB SSD、Liquid Retina XDRディスプレイ、Nano-textureガラスオプション、Ap○le Intelligenceフル対応……
あと、App○eCare+(延長保証)の加入もされていた。
○ppleCare+は購入時に一緒にオンライン注文し、製品のシリアル番号に紐づけ済み。
3年間の保証と事故対応が付く、フルカバー状態だ。
そして全オプションを合わせたら、100万円は余裕で超える金額。
星歌は紙袋をカウンターに置き、ひとりをまじまじと見た。
「マジかよぼっちちゃん…これ100万は余裕で超えてるぞ。流石にこんな高価なもん…受け取れないって……」
【SIDEROS】のメンバーたちも、カウンターに集まって箱を覗き込み、一斉に息を飲んだ。
「100万!!!?後藤ひとり、あんた何考えてんのよ…!!?」
「マジっすか…!?……ていうかコレ最新型じゃないすか…!しかも、M5 Maxチップ搭載の最高フルスペックっすよ…!!」
「100万円以上って……すごい…こんなのBIKAKINの動画でしか見たことない……」
「高すぎる。ぼっちさんって そんなお金持ちだったの〜?」
ひとりは小さな声で、でもはっきりと言った。
「あっ…前に店長さんが…『パソコンそろそろ新調しようかな』って呟いてたの思い出して。その…店長さんに…使ってほしくて……」
星歌は言葉を失った。
自分の何気ない一言をひとりが覚えていて、わざわざ用意してくれたこと。
サプライズ派の自分にとって、これ以上ないサプライズだった。
高価すぎて遠慮しようと思ったが……ひとりの純粋な気持ちと、思い出してくれたことが胸に刺さる。
星歌はゆっくり息を吐いて、ひとりに微笑んだ。
「ぼっちちゃんありがとう…マジで嬉しいよ。こんな高価なもん…遠慮しようかと思ったけど……私のためにわざわざ用意してくれたんだもんな。絶対大事に使うよ。約束する」
「あっはい。喜んでもらえたなら嬉しいです……うへ…うへへへ……」
(……最高のクリスマスプレゼントをありがとうぼっちちゃん!!!廣井といいぼっちちゃんといい…今日は幸せすぎる!!!!)
「うわっ!?お姉ちゃん泣いちゃった!!!」
星歌は、世界一愛してやまないひとりからの唐突なサプライズと、相手のことを思いやる優しい心遣いに感動して号泣する。
それを見た虹夏は、何処ぞのハチワレのようなセリフを放つ。
「でもぼっちさん…本当に大丈夫なんすか?お金とか…」
「あっ…貯金はそれなりにあるので…大丈夫です」
「………そういえばぼっちさん。 オーチューブの登録者160万人超えてましたね。広告収入とか破格でしょうし……高級車買えるくらいのお金はあるのか……納得っす」
『あ〜』
あくびは金の心配をしていたが、ひとりのオーチューブ登録者が160万人という事と、総再生回数5億回以上だったのを思い出して、ゆっくり頷いた。
他の【SIDEROS】メンバーも納得した声を出す。
その時、リョウが静かにひとりに近づき…耳元でボソボソと囁いた。
「ぼっち。私は高級ベースアンプのAmpeg SVT-CL。あとDarkglass Alpha Omega Ultraお願い。ついでにSpectorのNS Icon Bolt‑Onもね」
「え?あっはい」
「よっしゃー!!!!やったぜ!!!!!」
ひとりはびっくりして流されるまま返事をし、リョウは普段とはかけ離れた大声で喜びまくる。
虹夏はそれに気づいて、即座にリョウの頭を軽くチョップした。
「こらリョウ!何言ってるの!?ぼっちちゃんにたかるのやめなさい!ぼっちちゃんも安請け合いしちゃダメだよ!」
「あっはい」
「うぅ…冗談だよ虹夏………」
「リョウ…あたしの目を見てちゃんと言って」
リョウは虹夏に軽く詰められたが、すぐに目を逸らしてスマホをいじり始めた。
しかし星歌がリョウに視線を移し、静かに口を開いた。
「オイ山田。お前、ぼっちちゃんから金毟り取ってねェよな?」
リョウの指がピタッと止まった。
「…いっいや? そっそそんなことない…けど……」
嘘である。
目は水泳選手くらい泳ぎまくり、これでもかってくらい声も身体も震えている。
するとひとりは、素直に思い出したことをぽつぽつと話し始めた。
「あっ…半年前の喫茶店のお金…まだ返してもらってない。…あと江ノ島でエスカレーター代とアイス代も貸したし。文化祭のオムライス代も…結局私が立て替えたし…それからちょくちょくご飯奢ったりお金貸したりして…全部で5万円くらい…だったような…」
「!!?ぼっちバラしたら…!!………あっ」
その瞬間、リョウの額にコレまでにないくらいの冷や汗が浮かんだ。
体がガクガクと震え始め、スマホを持つ手が微かに揺れる。
虹夏は目を細めてリョウを睨む。
ヨヨコもリョウが借金を踏み倒していた事に、軽く引いていた。
「……リョウ?」
「嘘でしょ…?半年経っても借金返してないの…?それに5万も……」
星歌はカウンターに肘をつき、静かにリョウを睨みつけた。
「おいクズ…金出せ。そンでぼっちちゃんに向かって正座しろ」
「……あっあの……今…手持ちが…スッカラカンで…ですね…また後日…とかには……へへ…」
「出せ!!!!」
「はっはい!!」
この期に及んで出し渋る
膝をつき、頭を下げ、震える手で財布から5万円を取り出す。
両手で紙幣を持ち、ひとりに差し出した。
「おいクズ。返すの遅くなってごめんなさいって言え」
「……ぼっち…返すの遅くなって…ごめんなさい……これ……全部返す」
「あっはい」
ひとりは困惑しながらも、5万円を受け取った。
そして虹夏は改めて、リョウに釘を刺した。
「リョウはぼっちちゃんに甘えすぎ!次はないからね!」
「うぅ…はい。ごめんなさい……」
リョウは正座したまま、涙目で頷いた。
内心では誕生日にプレゼントしてもらった、DINGWALLとLe Fayの新作ヘッドレス。そしてDarkglassのアンプヘッドのことは絶対に伏せようと固く誓っていた。
(これは絶対言わない…墓場まで持っていこう)
星歌は腕を組んだまま、リョウを見据えて言った。
「…まぁ、返したからいいか。でも山田…次はぼっちちゃんに集ンなよ」
「…はい……」
リョウは、涙目で小さく頷いた。
スターリーの中は、そんなやり取りで少し笑いに包まれた。
最後にきくりの番が回ってきた。
きくりはみんなの視線が集まる中、目を逸らしながらプレゼントを星歌に差し出した。
綺麗にラッピングされた包装袋、リボンが丁寧に結ばれ、袋には小さな星の模様が散りばめられている。
きくりは、顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で言った。
「……せっ先輩。…これ……」
星歌はきくりを見て、優しく微笑んだ。
「……開けていいか?」
きくりは、こくりと小さく頷いた。
星歌はリボンを解き、包装袋から丁寧に取り出す。
中から出てきたのは、ふわふわで滑らかな肌触りの、可愛らしいクマのぬいぐるみ。
大きさは抱きしめるとちょうどいいくらいで、丸い黒い目と小さな赤いリボンが付いた耳がチャームポイント。
触ると柔らかくて温かみのある素材で、思わず頰を寄せたくなる抱き心地の良さだった。
星歌はぬいぐるみを優しく抱きしめて、きくりを見た。
「…これ可愛いな。なんでこれを?」
きくりは、顔を真っ赤にして、目を逸らしながら小さな声で説明した。
「先輩…可愛いものが好きだと思って…これがいいかなって。…でも、ひとりちゃんのプレゼントのあとじゃ…霞んじゃうかなって……中々、渡す勇気がなくて…」
星歌は、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、きくりをまっすぐ見た。
声は優しく、でも力強く伝えた。
「バカ言うな。お前が選んでくれたんだろ?ぼっちちゃんのプレゼントも…もちろん嬉しいけど。お前が私のために選んでくれたって思うだけで、胸が熱くなる。これ……絶対大事にするよ」
きくりは星歌の言葉を聞いて、ぱっと顔を上げた。
最初は恥ずかしそうに俯いていたけど、星歌の穏やかな表情を見て、明るい笑顔になった。
目がキラキラして、頰がピンクに染まる。
「あっ…ありがとうございます…嬉しい……」
でも──周りの視線に気づいた瞬間、きくりはまた顔を真っ赤にして縮こまった。
みんなが微笑ましそうに見つめていることに気づき、両手で顔を覆って体を小さくした。
「まさか、廣井さんのこんな一面が見れるなんて思わなかったっす…」
「ふふ♪廣井さん可愛い〜♪」
「廣井さんに憑いてたもの全部浄化されてるわ〜」
(……え?姐さん可愛すぎない…?)
「うぅ……み、見ないで……」
星歌はそんなきくりを見て、脳内が「可愛い」で埋め尽くされた。
胸がキュンキュンして、ニヤニヤが止まらない。
ぬいぐるみを抱きしめながら、きくりの頭をもう一度撫でた。
スターリーの中は、プレゼントの温かさとみんなの笑顔でさらに賑やかになった。
◆
スターリーの店内は少しずつ静かになっていった。
星歌の誕生日会も兼ねたクリスマスパーティーは、笑い声と温かな空気で最高の盛り上がりを見せたが、時刻はもう深夜を回っていた。
全員で掃除や片付けを済ませた後、パーティーはお開きとなった。
きくりと志麻は改めて全員に挨拶を済ませ、二人でタクシーに乗り込んで帰っていった。
きくりは着替える時間がなく、ミニスカサンタコスのままコートだけ羽織っていた。
顔を赤くして星歌に手を振る姿が可愛らしく、星歌は最後までニヤニヤしながら見送っていた。
【結束バンド】の4人も、【SIDEROS】のメンバーたちに手を振って別れを告げた。
ヨヨコは出口の階段付近で黙って立っていたが、急に【結束バンド】の方を向いて声を張り上げた。
「【結束バンド】!私たちも未確認ライオット出場するから!今決めた!」
【結束バンド】の4人は、一瞬固まった。
「え? 未確認ライオットに…【SIDEROS】も?」
ヨヨコは胸を張って、自信満々に宣言した。
「そうよ。ライブでも急成長してたし……あんたらを、私たち【SIDEROS】のライバルに値するって認めてあげる!でも優勝は私たちがもらうから!!覚悟の準備をしておきなさい!!」
その言葉にあくびが反応して、ダウナーな声でゆっくりと口を開いた。
「……ウチら聞いてないんすけど」
あくびの冷めた目が、ヨヨコをじっと見つめる。
ヨヨコの勢いが、一瞬で萎んだ。
楓子は少し困った顔で頬を膨らませながら、ヨヨコに注意した。
「ヨヨコ先輩、相談はちゃんとしましょうよ〜!そうゆう所で皆やめてくんですよ〜!」
「あっ出ても…いいですか…」
ヨヨコは、急にバツが悪そうに肩を落とし、声が小さくなった。
イマイチ決まらない感じで、みんなと笑い合いながら解散となった。
ヨヨコは少し気まずそうに手を振って、【SIDEROS】のメンバーたちと一緒に店を出た。
◆
解散したあと虹夏と星歌は、スターリーのすぐ上にある3階のマンションに帰ってきた。
部屋に入ると、二人はまず風呂と歯磨きを済ませ、リビングでようやくのんびりした。
虹夏はソファに座り、星歌もその横にどさっと座る。
虹夏は膝を抱えてぼんやりしながら、ぽつりと口を開いた。
「…大槻さん。なんでいきなり出るって決めたんだろう」
「さっき言ってた通りだろ。ライバルとして認めて、意識してんじゃねェの?あの子負けず嫌いっぽいし、お前らの急成長見て…火がついたんだよ」
「全然人気も違うのに?私たちまだ無名なのに…」
「人気なんて今は関係ねぇよ。あの子が見てるのは『可能性』だ。お前らが短期間でここまで上手くなったのを見て、どこか思うところがあったんだろ」
虹夏はふぅと息を吐いて、ソファに背を預けた。
「そうかな…なんか嬉しいような、怖いような」
その時、虹夏はハッとして立ち上がった。
「あっそうだ。あたしだけまだプレゼントあげてなかった!」
虹夏は、部屋の隅に置いてあった小さな紙袋を取り出し、星歌に差し出した。
中には、マッサージ機・湿布のセット・アイマスク・腰痛に効く入浴剤が入っていた。
虹夏は笑顔で言った。
「お姉ちゃんもそろそろ健康に気を使わないとね!肩こりとか腰痛が最近ひどいって言ってたし!これで少しでも楽になってくれたら嬉しいな!」
星歌は紙袋を受け取り、中を見て……
去年まではぬいぐるみだったプレゼントが、今年は健康グッズに変わったことに気づいた。
目が少し潤んで、涙目になる。
「ありがと…」
(去年まではぬいぐるみだったのに今年は健康グッズ…三十路ってこういうことか…)
星歌は悲壮感を漂わせながら、プレゼントを胸に抱いた。
虹夏はプレゼントを渡した後、少し照れくさそうに立ち上がり、星歌の前に立った。
星歌はマッサージ機と湿布の袋を抱えたまま、ソファに座り直して虹夏を見上げた。
「まだこんなのしかあげられないけど…いつかすっごいプレゼントあげるから!」
「なんだよ」
星歌は眉を少し上げて、からかうように聞いた。
虹夏は指を唇に当てて、にこっと笑った。
「それはまだ秘密。お姉ちゃんは私たちのバンド活動応援してて!」
星歌はしばらく虹夏の顔を見つめてから、ふっと息を吐いた。
少し疲れたような、でも優しい笑みを浮かべて。
「…よく分からんけど、期待しとくわ」
虹夏はぴょんと飛び跳ねるように、元気よく返事した。
「うん!絶対期待してて!おやすみお姉ちゃん!」
「……おやすみ。虹夏」
虹夏は明るい足取りで、自分の部屋に戻っていった。
星歌も軽く手を上げて応えた。
星歌は虹夏の背中を見送りながら、プレゼントの袋をそっと膝の上に置いた。
マッサージ機の箱を眺め、湿布の袋を指で撫でる。
三十路という現実を痛感しながらも、どこか温かい気持ちが胸に広がった。
「…お前ら。本当にでかくなるかもな……」
星歌は袋を抱えて、自分の部屋に戻った。
マンションの廊下に、静かな足音が響く。
クリスマスの夜は、静かに終わりを迎えようとしていた。
ここまで見てくれた方、ありがとうございました!
今回は最初からきくり姐さんと志麻さんもいます。
そして会場はスターリーに変更して、ぼっちちゃんときくり姐さんもちゃんとプレゼントを用意してました。
星歌良かったね…スペオキ二人からプレゼントもらえて。
あと、ついに山田の借金事情が露呈されました。
今までがクリーン過ぎたし、きくり姐さんもシラフだから全体的なクズ度が足りないし、ここで本領発揮しとかないと…
次回は2月まで一気に時系列飛んで、『グルーミーグッドバイ』のレコーディングに入ります。