それではどうぞ
いよいよ【結束バンド】の新曲『グルーミーグッドバイ』のレコーディングがスタートした。
直樹はコントロールルームのコンソールの前に座り、マイク越しに冷静に指示を出した。
『順番はドラム→ベース→ギター→ボーカル順に撮るから、まずは虹夏ちゃんのドラムパートから。セッティング終わったら、ヘッドホン付けてスタンバイして』
「はい!」
虹夏はドラムセット前に座り、軽く叩いて調整した。
スティックを握り、ヘッドホンを装着すると、耳に直樹の声がクリアに入ってきた。
『虹夏ちゃん、準備OK?』
「はい!いつでも行けます!」
『OK。じゃあ…カウント入れるよ』
虹夏は、深呼吸して目を閉じた。
頭の中に、Kyoyaからもらったメモがよぎる。
(手首を返して、叩く意識……)
(キックは先頭を切る…)
(グルーヴは体で感じて…)
Kyoyaの言葉をそっくりそのまま真似するのではなく、自分なりに噛み砕いて消化したものだった。
虹夏はKyoyaの教えを「土台として」受け止め、そこに自分の感情とリズム感を乗せた。
だからこそ──自然と落ち着いていた。
『1、2、3、4──スタート』
虹夏はスティックを構え、カウントが入った瞬間──ドラムを叩き始めた。
スティックがハイハットに落ちる瞬間、シャープな「チッ」という音がブースに響いた。
オープンクローズのタイミングは完璧で、ハイハットのエッジが空気を切り裂くように鋭く、16ビートの細かいニュアンスを微妙な力加減で表現。
キックは右足のヒールダウンで先頭を切り、バスドラムのヘッドが低く唸るように振動し、ブース全体を震わせる。
スネアのバックビートは、手首のスナップを利かせて「パン!」と乾いた音を叩き出し、リムショットのアクセントを加えてリズムに深みを出す。
タムのフィルインは、左手のロールを滑らかに繋げ、右足のキックと同期させてグルーヴを強調──感情を乗せながらも、機械のようにブレない精度。
クラッシュシンバルは、タイミングを少しずらして「シャーン!」と広がる余韻をコントロールし、全体のリズムが揺るがない。
そして虹夏の体は自然と揺れ、心の底から楽しんで叩いているのが、汗の飛び散る様子や、口元の緩んだ笑みから伝わってくる。
ブース内のマイクが、その一打一打を忠実に捉え、コントロールルームに送り込む。
直樹はコントロールルームでフェーダーを微調整しながら、静かに感心していた。
Kyoyaの教えを「真似」しているのではなく、虹夏なりに昇華させ、自分だけのプレイスタイルを築いている。
それは、単なるテクニックの向上ではなく、ドラマーとしての「個性」の芽生えだった。
ドラムパートの録音が終わると、直樹はマイク越しに優しく声をかけた。
『虹夏ちゃんOKだ。まだまだ荒削りだけど、ドームのサウンドチェックの時より、テクニックも格段に向上してるし…何より安定感がすごい。それに心の底から楽しんで叩いてるのが、音に乗ってる。バンドの土台として…相応しくなってきたよ』
虹夏はヘッドホンを外して、顔を真っ赤にしながら拳を握った。
「NaokIさん、ありがとうございます!私、もっともっとがんばります!最高のドラムで…【結束バンド】を支えられるように!」
◆
虹夏のドラムパートが完璧に録り終わり、直樹はコンソールでテイクを確認しながら、満足げにマイクを押した。
『次はベースパートだ。リョウちゃんはブースに入って、スタンバイしてくれ』
リョウは無言でケースから愛機のベースを取り出し、ブースへ移動した。
レコーディングブースの椅子に座り、Darkglass Infinityのヘッドを目の前のアンプに接続。
RoÉからもらったアドバイスが、頭の中で何度もリプレイされる。
(親指の角度を80度近くまで立てて……手首をスナップ……)
(タッピングの指の独立性……B弦からG弦まで素早く移動する時は指を浮かせる意識……)
(中域を800Hz〜1.2kHzでピンポイントブースト……低域は100Hz以下をカット……)
リョウは弦を軽く弾いてチューニングを確認し、ヘッドホンを装着した。
直樹のカウントが入る。
『リョウちゃん、準備OK?』
「はい。大丈夫です」
『じゃあ始めるよ。1、2、3、4──スタート』
ベースの弦に親指が触れた瞬間、リョウのプレイスタイルが爆発した。
スラップのポップ音は爆発的にクリアで、親指をほぼ垂直に立て、手首を鋭く返して叩く意識が、RoÉの教えを完全に体現しながらも、リョウ独自の「柔らかさと鋭さの両立」を加えていた。
低域は100Hz以下をカットしてクリーンに保ち、中域の800Hz〜1.2kHzをピンポイントでブーストした音が、突き抜けるように抜ける。
タッピングのフレーズでは、薬指と小指の独立性が飛躍的に向上し、B弦からG弦への高速移動で指を「浮かせる」意識が完璧に機能。
指先が弦を叩くたびに「ポンッ!ポンッ!」と鋭く、しかし感情を乗せたニュアンスが乗る。
スラップとタッピングを織り交ぜたソロパートでは、RoÉのクールでテクニカルなスタイルを基盤に、リョウの「静かな情熱」が加わり、音に深みと緊張感が生まれていた。
親指と人差し指のダブルポップで爆発的な連打を繰り出し、指がネックを駆け上がる瞬間、ブース全体が低域の振動で震えた。
全体として、以前の動画では感じられなかった「存在感」と「情感」の融合──スラップの切れ味はプロ級に鋭く、タッピングのスピードは1.5倍以上高速化し、ベースラインがバンドの「心臓」として機能している。
リョウ自身も、指が弦を弾くたびに今までにない手応えを感じ、口角が自然と上がっていた。
(…この感覚、今までにない感覚だ…!私も成長してる…!)
直樹はコントロールルームでフェーダーを微調整しながら、静かに驚愕していた。
元々上手かったリョウの実力が、スタジオミュージシャンクラスまで跳ね上がっている。
RoÉに教えてもらったことを、どんどん吸収して自分なりに昇華していた。
テクニックの精度はもちろん、音色のコントロール、グルーヴの深さ、感情の乗せ方──
全てがプロの域に達していた。
直樹は、思わず口元を緩めた。
ベースパートの録音が終わると、直樹はマイク越しに静かに、しかし力強く言った。
『リョウちゃんもOKだよ。動画でも元々センスがあったけど…今はもうスタジオミュージシャンの域に入ってる。RoÉの教えをただ真似したんじゃなく、自分なりに噛み砕いて昇華させてる。音の抜け方、グルーヴの深さ……全部がバンドを支えてる。今までにない手応え……感じてるだろ?』
「はい。今までにない手応えを感じました…」
リョウはヘッドホンを外して、ベースを膝に置いた。
口角が、わずかに上がる。
普段の無表情が崩れ、珍しく小さな笑みが浮かんだ。
◆
虹夏のドラム、リョウのベースが完璧に録り終わり、直樹はコンソールでテイクを確認しながら、静かに言った。
『よし……次はひとりのギターパートだ。ブースに入ってスタンバイしてくれ』
「うん」
ひとりは愛機のSchecterのギターを手に取り、静かにレコーディングブースへ移動した。
普段はコミュ症で人見知り、外部のスタジオなら緊張で指が震えるはずだったが──今回は違う。
自宅の地下スタジオ。
透明防音ガラス越しに見えるのは、お父さんだけ。
外部の人間は一人もいない。
ブース内は完全に遮断されたデッド空間で、外の音は一切入らず、ひとりはまるで自分の部屋にいるような安心感に包まれていた。
ひとりはSchecterを肩にかけ、深呼吸した。
ヘッドホンを装着すると、NaokIの声が優しく耳に届いた。
『ひとり……準備OK?』
「あっうん。いつでも行ける」
『よし。じゃあ…いつものギターヒーローの収録みたいに好きに弾いてくれ。……カウント入れるよ。1、2、3、4──スタート』
ひとりは、目を閉じた。
指がネックに触れた瞬間、いつもの「ギターヒーロー」の収録モードに入った。
トランス状態に入り、世界が消え、音だけが残る。
Schecterの弦にピックが触れると、まずリフが爆発的に鳴り響いた。
ピッキングの精度は異常で、右手のダウンストロークとアップストロークのバランスが完璧に取れている。
左手は指板を滑るように移動し、ビブラートは深く、幅広く、感情を乗せた揺れを正確にコントロール。
ベンドは半音から全音まで、ピッチがブレることなく、ターゲットノートにピタリと着地。
変拍子パートではリズムの揺れを一切感じさせず、虹夏のドラムとリョウのベースに完璧に同期。
ソロのクライマックスでは、タッピングとスウィープを織り交ぜ、指がネックを駆け上がる速度が人間離れしていた。
感情が爆発する瞬間、ひとりは無意識に体を揺らし、口元が緩み、目が虚ろになる──完全に没頭していた。
東京ドームでの【NEW GLORY】とのセッションの時よりも、さらに上手くなっていた。
あの時は、NaokIのギターに追いつくために必死で、全力で集中して弾き切ったが、今は違う。
余裕がある。
指が弦を弾くたびに、音が「伸びる」感覚がある。
ビブラートの深みが増し、ベンドの正確さがさらに研ぎ澄まされ、タッピングの連打はより滑らかで、感情の起伏を細かく表現できるようになっていた。
リフの密度は、以前より1.2倍近く詰まり、音の粒立ちがクリアに抜ける。
トランス状態の集中力は、ドームの時よりも長く持続し、疲れ知らずで最後まで感情を乗せ続けられた。
音はただの「上手い」ではなく、心を直接抉るような表現力を持っていた。
ブース内のマイク(Neumann U87 AiとRoyers R-121のブレンド)が、その一音一音を忠実に捉え、コントロールルームに送り込む。
直樹はコントロールルームでフェーダーを微調整しながら、内心で驚愕していた。
(…また上がってる……ドームの時より、明らかに上手くなってる…ピッキングの精度、ビブラートの深み、ベンドのコントロール…全部が一段階以上上がってる……これでまだ成長途中って……大人になったら、本当に世界一のギタリストになるんじゃないか…)
直樹は、思わず息を飲んだ。
娘の腕前が、予想を超えて伸びている。
東京ドームのセッションでさえ、すでにプロの域に達していたのに……今はさらに先へ進んでいる。
直樹は静かに微笑みながら、マイクを押した。
『ひとりも一発OKだ。トランス状態の集中力、感情の乗せ方、テクニックの精度……全部が桁違いだ。ドームの時よりも更に腕を上げたな…お父さん誇らしいよ』
ひとりは、大好きなお父さんからの褒め言葉を聞いて、顔がフニャフニャと緩んだ。
口元がニヤニヤと上がり、目が三日月になり、頰が赤く染まる。
両手でSchecterを抱きしめ、肩をすくめて小さく跳ねるように喜んだ。
「う…うへへ…お父さんありがとう…うへ…うへへへへ」
(……やっぱりひとりは世界一可愛いな)
ひとしきり喜んだあと──ひとりは、すぐに表情を引き締めた。
現状に満足する事は一切なく、もっともっと上を目指そうと、心の中で強く決心した。
お父さんの褒め言葉は喜びであると同時に、新たな目標の火種になった。
◆
虹夏のドラム、リョウのベース、ひとりのギターが完璧に録り終わり、スタジオの空気が最高潮に達していた。
直樹はコンソールでテイクを最終確認し、静かにマイクを押した。
『よし…最後は喜多ちゃんのボーカルパートだ。ブースに入って、スタンバイしてくれ』
「はい!」
喜多は、レコーディングブースの前に立ち、Neumann U87 Aiの前にマイクを調整した。
ヘッドホンを装着し、Lavielからもらったメモを頭の中で何度も反芻する。
(息を吐きながら声を出すイメージ…)
(喉を開いて、お腹から声を出して…)
(ロングトーンは息を漏らす意識で…)
発声練習のルーティンを終え、はちみつレモン水で喉を温めた状態。
喜多の目には、どこにも迷いがなかった。
むしろ、今の自分の実力を早く発揮したいと、胸の奥がウズウズと疼いていた。
虹夏の安定したドラム、リョウの存在感のあるベース、ひとりの感情を抉るギター──進化した3人の演奏を聴いて、心が熱くなった。
(私も負けてられない…!ラヴィさんの教えを全部活かして…みんなに届く声を出す…!)
直樹はコントロールルームから、優しく声をかけた。
『喜多ちゃん……準備OK?いつもの練習のように……心から歌ってくれ』
「はい!いつでもどうぞ!」
『OK…じゃあカウント入れるよ。1、2、3、4──スタート』
イントロが流れ始めた瞬間、喜多の喉が自然と開いた。
腹から息が押し出され、最初のフレーズを歌い上げた。
声はクリアで、透明感がありながらも力強い。
腹式呼吸が完璧に機能し、息継ぎのタイミングはLavielのメモに書かれた「句読点や子音の強いところで息を入れる」を忠実に実践。
Aメロの部分では、喉を締めず、息を「漏らす」意識で声を維持し、感情を細かく乗せたビブラートが自然に揺れる。
サビの爆発的な盛り上がりでは、ハイトーンが天井を突き破るように伸び、息切れせずに持続。
高音は苦しさが一切なく、喉が開いたままクリアに抜け、声帯に負担がかかっていないのが音から伝わってくる。
カラオケのような軽い感じの声ではなく、感情と熱がこもった歌声に完全に変わっていた。
3人の進化した演奏に完全に同期しながら、自分の声でバンド全体を「包む」ように歌い、言葉の端々に「想い」が滲み出ていた。
ブース内のマイク(Neumann U87 AiとAKG C414 XLIIのブレンド)が、その透明感とパワーを忠実に捉え、コントロールルームに送り込む。
直樹はコンソールでフェーダーを微調整しながら、驚愕していた。
喜多の歌は、以前動画で見た「カラオケのような軽い声」から完全に脱却し、Lavielの教えを自分なりに昇華させた「心に届く声」になっていた。
息継ぎの自然さ、ハイトーンの伸び、感情の乗せ方──すべてがプロの域に近づいている。
【結束バンド】の楽器隊の演奏もすごかったが、特に才能が開花したのは喜多だった。
直樹は、思わず口元を緩めた。
ボーカルパートの録音が終わると、直樹はマイク越しに優しく、しかし力強く言った。
「喜多ちゃんも一発OKだ。喉の温まり方が完璧で…音程も息継ぎも感情の乗せ方も、全部がレベルアップしてる。喜多ちゃんも…ラヴィの教えをただ真似したんじゃなく、自分なりに噛み砕いて昇華させてる。本当によくやった」
喜多はヘッドホンを外して、顔を真っ赤にしながら拳を握った。
目が潤み、口元が自然と緩む。
今までにない手応えと感覚を覚え、OKが出た瞬間、思いっきり喜んだ。
「NaokIさんありがとうございます!!私…今すっごく……手応え感じました!みんなの演奏にも負けない声を出せました…!もっともっとがんばります!」
喜多はレコーディングブースを出た後、【結束バンド】3人から賞賛の声を浴びた。
「喜多ちゃんすごかったよ〜!喜多ちゃんの歌声、心に響いたよ!!あたし泣きそうになったよ〜!」
「郁代の歌声、更に進化して良くなってた。数ヶ月前と比べたら桁違いに上手くなってる」
「あっ喜多ちゃん…!喜多ちゃんの声、心に響きました…!とてもよかったです…!」
「ありがとうございます!私も、今出せる全力を発揮できたので嬉しいです!」
「褒めて遣わす…よしよし」
「きゃ~!!リョウ先輩好き~~!!♡♡♡♡♡」
スタジオの空気が、達成感と興奮で満たされた。
虹夏はスティックを掲げ、喜多は両手を握りしめ、リョウはベースを抱き、ひとりはSchecterを胸に当てた。
4人は互いに目を合わせ静かに、でも強く頷いた。
◆
レコーディングが終了した。
虹夏のドラム リョウのベース ひとりのギター そして、喜多のボーカル──
全てのパートが一発OKで録り終わり、スタジオの空気は達成感と興奮で満たされていた。
直樹はコンソールに座ったまま、静かに言った。
「よし、全パートOKだ。ここからは僕の仕事…データ書き出して、MIXとマスタリングに入るから、みんなは少し休憩してくれ。大体3時間以内に、完成音源出来上がるから」
『よろしくお願いします!』
4人はブースから出て、休憩ブースへ移動した。
その間、直樹は一人コントロールルームに残り、MIXとマスタリング作業に入った。
SSLコンソールのフェーダーを細かく調整し、Neve 1073のプリで音に色付け、1176とLA-2Aでコンプをかけ、SSLバスコンプで全体をまとめ、UADプラグインで微調整。
Prism Soundのコンバーターでアナログからデジタルへ変換し、ATCモニターで何度も確認しながら、バランスを整えていく。
2〜3時間にわたり、集中して作業を続けた。
一方、【結束バンド】の4人は、休憩ブースでソワソワしながら時間を過ごした。
虹夏はお手洗いに行って戻ってきては、ソファに座って足をぶらぶらさせ。
喜多はスマホで発声練習のメモを見返しながら喉を温め。
リョウは軽食を摘みながらベースのフレーズを頭の中で反復練習し。
ひとりはギターを抱えて、ソファの端で小さく弦を弾いては、みんなの様子をチラチラ見ていた。
「NaokIさん、3時間以内に出来るって言ってましたけど…やっぱり、それなりに時間かかるんですね…」
「何言ってんの郁代!!?エディットからマスタリングまで3時間で終わらせられるなんて、エンジニアとして超一流なんだよ郁代!!ラフMIXならまだしも、完成音源だから尚更…!普通はエディットだけでも、3〜4時間は掛かるんだよ郁代!!」
「ああああぁぁあ!!!分かりました!凄さは十分わかりましたから、名前を連呼しないでください!!!私の名前は喜多喜多です!!!!」
「あはは……それにしてもNaokIさん。エンジニアの腕も超一流なんだね〜。色んなアーティストにも頻繁に楽曲提供してるし、やっぱり慣れっこなのかな?」
「あっはい。お父さん…楽曲提供の納品数が多い時は、1日で3〜4曲くらい作ってましたから…多分これくらいなら余裕です」
「ば…化け物すぎるッ…!スピードとスキルが半端ないッ…!!」
「よく分からないけど、やっぱりNaokIさんってすごいのね!あ〜早く出来上がらないかしら…!」
3時間後──
コントロールルームのドアが開き、直樹が入ってきた。
表情は、満足げな笑みを浮かべている。
「みんな、完成したから来てくれ」
4人は一斉に立ち上がり、コントロールルームへ足を運んだ。
緊張と期待で胸を高鳴らせながら、直樹の後を追った。
◆
コントロールルームに入った瞬間、【結束バンド】の4人は息を飲んだ。
直樹はSSLコンソールの前に座り、ゆっくりとフェーダーを上げた。
照明は暖色LEDに切り替わり、部屋全体が柔らかな光に包まれる。
ATC SCM50ASL Proのスピーカーから、静かに音が流れ始めた。
イントロが鳴った瞬間──
身体全体がビリビリと震えた。
虹夏のキックが低く重く響き、リョウのベースがクリアに突き抜け、ひとりのギターが感情を乗せて絡み、喜多のボーカルが天井を突き破るように伸びる。
MIXとマスタリングで調整された音は、まるでスタジオの壁を越えて直接心臓に届くようだった。
低域は深く、しかし濁らず、中域はクッキリと抜け、高域は透明で鋭い。
グルーヴはバンド全体を一つにまとめ、感情の起伏が音の波として押し寄せる。
『グルーミーグッドバイ』──未確認ライオットに向けて作った新曲が、完成した形で初めて鳴り響いた。
全員の頭の中に、同じ思考が浮かんだ。
《す…すごい!!これが私たちの…音楽!?》
「…てな感じかな」
「す…すごーい!!これが私たちの曲!?こんなにカッコよく響くなんて…!」
「私の声、こんなに綺麗に伸びてる…!デモCDのときは、何かいまいちだったのに…!それに、ひとりちゃんのギター…伊地知先輩のドラム…リョウ先輩のベース…全部溶け合ってる…!」
虹夏は思わず飛び跳ねて、両手を握りしめて叫んだ。
喜多は目を潤ませて、胸を押さえた。
ひとりとリョウも、静かに頷き同意する。
完成音源が流れ終わって各々感想を言い合った後、コントロールルームに静寂が訪れた。
スピーカーの余韻が消えるまで、誰も言葉を発さなかったが、喜多が最初に口を開いた。
声は少し震えていたが、笑顔だった。
「いい曲になってて本当によかった〜…精一杯歌ってたんですけど……やっぱり初のレコーディングで、ずっと不安の中でやってたんで…でも、この音聴いて安心しました」
「私もまだ実力不足のところがあった…だから次に活かす…」
リョウも喜んではいたが、現状には満足しておらず次に活かすと決意する。
虹夏はみんなの言葉を聞いて、ホッとしたように息を吐いた。
内心では、少し不安なところもあった。
ドラムの安定感は上がったけど、まだKyoyaの域にはほど遠い。
でも──みんな言葉に出さないだけで、同じ気持ちだったんだと気づいて、安心した。
直樹は、コンソールの椅子に座ったまま、ゆっくりとみんなを見回した。
「どんなバンドもレコーディングはこんなもんだ。僕たちだって、必ずと言っていいほど毎回反省点が出る。そこで満足したら、バンドの成長は止まる。だから…その気持ちは正解だ。みんなは現状の力を出し切って、次への課題も見えた」
直樹は立ち上がり、4人に一人ずつ目を合わせて、労いの言葉をかけた。
「虹夏ちゃんのドラムは、バンドの心臓になった。
リョウちゃんのベースは、音の骨格を作った。
ひとりのギターは、魂を吹き込んだ。
喜多ちゃんの声は、みんなの想いを届けた。
みんな…本当によくやった。今回のレコーディングは大成功だ。…今日はお疲れ様」
『はい!!!!ありがとうございました!!!!』
スタジオの空気が、静かな達成感と新たな決意で満たされた。
『グルーミーグッドバイ』──完成した音が、スピーカーから静かに流れ続ける。
【結束バンド】の初のレコーディングは、最高の形に仕上がった。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
今回のレコーディングで結束バンドのレベルを格段に上げました。
虹夏ちゃんは大幅にレベルアップして、リョウはスタジオミュージシャンの域に入り、ぼっちちゃんもいつも通りの演奏が出来て。
そして、喜多ちゃんは特にレベルアップして才能が開花しました。
元々歌上手い上に、ちゃんとした発声方法など理解したので、成長具合が半端ないです。
あと、グルーミーグッドバイの曲調がまだ分からなかったので、想像で色々書いてみました。
2期始まったらはよ聴きたい。
とりあえず3巻でのカラオケ練習回が無くなったので…つっきーにはヒトカラ楽しんでもらうとして。リナさんの扱いどうしよ…出番なくなっちまったよ…
次回は後藤家でお泊り回やります。そのあと一気に時系列進ませます。