それではどうぞ
「はぁ……はぁ…や…やっと……家に…着いた……」
7月の平日の朝、時刻は8時20分。
直樹は久しぶりに、金沢八景にある自宅に帰ってきた。
直樹率いる【NEW GLORY】は現在、最新フルアルバムのワールドツアーの真っ最中だった。
11th Album『
収録曲全11曲で、【SICK HACK】が楽曲提供した『Psychedelic Collapse』以外は、全て直樹の渾身の力作。
『Shade Of Gray』
『Psychedelic Collapse feat. SICK HACK』
『We are Alive』も収録。
3月の頭に全世界にCDが流通し、初日でトリプルミリオン(300万枚)を突破。
これは現代の音楽業界では極めて異例の快挙だ。
サブスク全盛の時代に、物理CDの売り上げは世界全体で年間数億枚規模だが、世界トップアーティストでも稀で、ロックバンドとしてはほぼ前例がない。
そして7月現在で、『Evolutionary』のCDの売り上げは、5000万枚を突破──
現代の音楽消費はストリーミングサービスがほとんどで、物理CDのグローバルシェアがわずか数十%程度に落ち込んでいる中、歴代の大物アーティストの過去の伝説的アルバムを思わせる数字だった。
現代では、物理CDはコレクターアイテム化し、売り上げ上位アルバムでも年間数百万枚が限界線なのに、5000万枚は「サブスク時代に物理が復活した奇跡」として業界を震撼させた。
これで【NEW GLORY】のCD総売り上げは3億1000万枚を突破し、ついに歴代トップ5入りを果たした。
デジタルダウンロードは4ヶ月で、2億ダウンロードを突破し、世界一の記録を更新──
ダウンロード市場自体がストリーミングに食われて縮小中で、世界的に有名な大人気シンガーでもシングル数億ダウンロードが限界なのに、アルバム単位で2億は「デジタル時代でもアルバムの価値を示した証拠」として称賛された。
ちなみに今回のフルアルバムの印税で、楽曲提供したきくりには莫大な印税が払われ、志麻とイライザにもきくりほどではないが、実演家印税として破格の印税が振り込まれた。
きくりはスマホの通帳アプリを見た瞬間──シラフの状態で珍しく大きい声を上げた。
──が、3月時点で既に貯金9桁後半だった為、すぐ冷静になりパソコンに向き直って 曲のネタ作りに没頭していた。
志麻は絶句しながらも喜び、特注のカスタムドラムセットを購入したり、セキュリティ対策万全で完全防音の物件に引っ越し、あとは親への仕送りに当てた。
イライザは大喜びではっちゃけて、これまで以上に推し活に熱が入り、3割ほどイギリスの家族への仕送りに当てるらしい。
そして4月の頭から始まった、11thフルアルバムのリリースツアー。
『NEW GLORY Evolutionary Tour』
このワールドツアーは、もはや伝説級のモンスターツアーだった。
・4〜5月:北米 104万1000人動員/16公演(平均約6.5万人)
・6月:オーストラリア 71万9000人動員/10公演(平均約7.2万人)
・ 7〜8月:日本 94万2000人動員/16公演(現在進行中)
・ 9〜12月:ヨーロッパ 149万8000人動員/19公演(予定)
たった9ヶ月 61公演で、総動員数は驚異の420万人。
全公演スタジアム級の会場で、ファイナル以外は2DAYS開催。
平均6〜7万人以上という全公演が大型フェス級という前代未聞の規模。
世界基準で見てもこのツアーは人類最大級であり、【NEW GLORY】は単独で北米・豪州・日本・欧米の巨大スタジアムを埋め尽くす。
それは、グローバルなストリーミング時代に適応したNaokIの音楽性が、言語の壁を越えて心に響いた証拠。
チケットはいつも通り、販売開始から数秒で全会場ソールドアウト。
グッズ販売も異常事態で、各会場に数万単位のTシャツ、パーカー、キャップ、タオル、トートバッグ、ラバーバンド、海外限定CD。
ファンたちは開場前から長蛇の列を作り、グッズブースは戦場と化し、そして…大量に用意していたにも関わらず──開演前に全会場ですべて売り切れ。
総グッズ売上は数百億円規模と推定され、ツアー経済効果は兆単位に上ると推定され、音楽業界の歴史に「日本人ロックのグローバル化の象徴」として刻まれた。
そして12月に行われる、ツアーファイナル。
以前行ったイギリス最大級のスタジアムで5日間公演、予定動員は50万人超。
ステージをスタジアム中央に配置した360度レイアウトを採用し、スタンド席をすべて開放。
アリーナをオールスタンディング仕様にして、1日で10万人という収容人数以上の動員数となった。
(それにしても、2年ツアーじゃなくて本当によかった。半年でも家族に会えないのは堪えるのに…2年とか本当に無理だ)
本来このワールドツアーは、約2年間にわたるロングツアーで、総動員1200万人以上を予定していた。
レーベルは『これだけの規模なら、2年かけて世界を回るべき』と強く推していた。
しかし、直樹は頑として譲らなかった。
(美智代と離れたくない…ふたりの遊び相手になりたい…ジミヘンに癒されたい…ひとりの未確認ライオットのステージ…絶対見届けたい。家族との時間を減らしてまで、ツアーなんてしたくない…)
マネージャーやレーベル幹部は頭を抱えた。
だが世界的ロックスターであり、稼ぎ頭のNaokIの言うことを無碍にできず、結局年内だけのツアーに縮小。
アジア・南米・アフリカなど、今回【NEW GLORY】のツアーに選ばれなかった他の国のファンは──
『【NEW GLORY】来年はアジアツアーもしてくれ!』
『南米にも絶対来て欲しい!!』
『アフリカのスタジアムでも待ってる!』
──とSNSで悔しがる声で溢れた。
直樹は、そんなファンたちの声も胸に刻みながら、家族の元へ帰ることを優先した。
現在、【NEW GLORY】は北米とオーストラリアのツアーを終え、現在は日本公演の真っ只中。
明後日に、神奈川の日本最大級のスタジアムで2日間ライブが行われる。
直樹は車をガレージに滑り込ませ、エンジンを切った。
静かなエンジン音が消えると、耳に残るのは自分の荒い息と、心臓の鼓動だけ。
シートに体を預け、目を閉じて深呼吸する。
(……それにしても、20代の頃は何日徹夜してもなんともなかったのに、僕も年取ったな……)
直樹は東京ドーム以降 ひとりに感化されて、ギターの自主練を行うようになった。
ライブ・楽曲制作・曲のネタ作り・家族団欒の時以外は、毎日ギターを弾いていた。
今回のワールドツアーの合間にも、ずっとギターの自主練を行っていた。
そして
しかし──流石の直樹も年齢には勝てず、自分の体が衰えてる事を自覚していた。
直樹はドアを開けて、スーツケースを引っ張りながら車から降りた。
足元がふらつき、ガレージの壁に手をついて体を支える。
玄関に着き、スマートキーをかざしドアを開けた瞬間、体が傾いた。
玄関先で膝から崩れ落ちそうになり、ドアノブを掴んで耐える。
しかし──玄関のドアを開けた瞬間、直樹の視界がぐらりと揺れた。
スーツケースが手から滑り落ち、ガラガラと音を立てて転がる。
膝から力が抜け、ドア枠に寄りかかったまま体が傾く。
美智代の声が遠くから聞こえた気がしたが、意識が急速に落ちていく。
「……ただいま……ごめん…もう…ね…る……」
それが最後の言葉だった。
◆
昼の12時頃。
直樹はゆっくりと目を開けた。
最初に感じたのは、柔らかくて温かい感触。
顔全体が、ふわふわの雲に包まれているような……いや、もっと柔らかくて、弾力のある……。
(……ん?)
視界が徐々にクリアになると、そこは夫婦の寝室だった。
カーテンが薄く閉まり、柔らかな日差しが差し込み、部屋を優しく照らしている。
そして──直樹の顔は、美智代の胸に深く埋まっていた。
美智代の大きな胸が、枕のように直樹の顔を優しく受け止めている。
柔らかく、温かく、甘い香りが鼻をくすぐる。
直樹は慌てて体を起こそうとした。
「美智代…!?あれ…僕…いつの間に……!?」
だが美智代は優しく、直樹の頭を両手で抱き寄せた。
母性に満ちた柔らかな表情で、静かに囁く。
「いいのよ。無理に起きなくていい…今は私しかいないんだから……ゆっくり休んで」
その言葉に、直樹の体から力が抜けた。
4ヶ月ぶりに触れる妻の温もり。
ツアーの喧騒、時差、睡眠不足、すべてが一瞬で溶けていく。
直樹は年甲斐もなく──いや、夫として当然のように──美智代の胸に顔を埋め、ひたすら甘えた。
「……美智代………疲れた………もう…うごけない……」
美智代は直樹の髪を優しく撫でながら、穏やかな声で。
「うん…知ってるわ。あなた…ずっとがんばってたものね。今日は何もしなくていい…私が全部、受け止めてあげる……」
直樹は目を閉じて、美智代の胸に顔を押しつけた。
柔らかな温もりと甘い香りが、疲れ切った体を優しく包み込む。
意識がぼんやりとする中、頭の奥で、遠い記憶が蘇った。
◆
直樹が20代前半の頃──
【NEW GLORY】は日本で軌道に乗り出し、順調に人気を集めていた。
結成1ヶ月でメジャーレーベル加入、一枚目のフルアルバムは飛ぶように売れ、1年半でドーム制覇というロックバンドとして初の快挙を成し遂げた。
だが──どんなに人気のバンドにも必ずアンチはつきものだ。
ネット掲示板やまとめサイトは、容赦ない書き込みで溢れていた。
1:名無しの音楽好き ID:LetyrDLUc
どうせすぐ廃れるやろ
2:名無しの音楽好き ID:p6xOKIF/j
それな。目新しいだけの音楽で中身がまるでない…つまり…ゴミwww
5:名無しの音楽好き ID:YmGpy8XWs
こんな曲出して恥ずかしくないんか?なんやこの海外バンドのパチモンは?
14:名無しの音楽好き ID:UVlMGsY/X
流行りに乗っかったミーハー共が騒いでるだけだろww
16:名無しの音楽好き ID:S4PFZ8WkF
今時の音楽ってこんなゴチャゴチャしてるのか?
20:名無しの音楽好き ID:5kXQcR7w8
ジャンル混ぜすぎて変な感じ…長続きはしなさそう
22:名無しの音楽好き ID:E1I3fuNqh
過大評価w
28:名無しの音楽好き ID:BNk83su3m
ドーム制覇つっても、どうせ客席ガラガラだろww
29:名無しの音楽好き ID:qOpVzdmzu
いや写真見たら結構埋まってた。…でもこんなのがドーム制覇ってリスナーの耳腐ってんのか?
30:名無しの音楽好き ID:uWedzLoQP
今だけ今だけwwどーせすぐ飽きられるwww
39:名無しの音楽好き ID:qIdONLLAc
数年後には鳴かず飛ばずでバイト生活してそうwwww
そんな言葉が、毎日のように直樹の目を刺した。
その当時【NEW GLORY】は、大人気漫画原作の…実写映画の大型タイアップを受けており、主題歌と劇中の挿入歌の楽曲制作を行っていた。
しかし、直樹は深いスランプに陥っていた。
自信満々で出したデモが何度もリテイクを食らい、プロデューサーからダメ出しされ、突き返される。
レコーディングの日が迫り、焦りが募る。
ある夜、ついに耐えきれなくなった直樹は──家を飛び出した。
目的もなくバーを巡り、ヤケ酒していた。
そして4件目の路地裏の小さなバーで一人、カウンターに突っ伏していた。
既にベロベロで、頭がクラクラし、視界が揺れる。
直樹の心は──限界だった。
《…もう…音楽辞めてしまおうかな……ギター弾くのも…嫌になってきた……》
そんな暗い考えが頭を支配していた。
その時──
『あの〜大丈夫ですか?顔、真っ赤ですよ…?』
隣の席から優しい声がかけられた。
直樹は、ゆっくりと顔を上げた。
ぼんやりとした視界に映ったのは、ピンクのロングヘア、優しい目元、穏やかな笑顔の…20代前半の美しい女性。
酔っているはずなのに、心臓がドキドキと鳴った。
見た目も顔も……直樹の好みそのものだった。
『あっ…すみません。ちょっと…飲みすぎて………』
『無理しないでくださいね。水飲みます?』
『あっじゃあ……』
直樹は頷きながらも、ヤケになって頼んだウォッカのストレートがカウンターに置かれたのを見て、冷や汗が出た。
少し冷静になり、流石にこれは飲めない……と思った瞬間──
隣にいた女性がグラスに手を伸ばした。
『これ……私が代わりに飲んじゃいますね』
女性は、迷いなくウォッカを一気に飲み干した。
喉を鳴らし、軽く咳き込みながらも、笑顔で直樹を見た。
直樹はその瞬間──心を奪われた。
目の前の女性が、ただ優しく、ただ強く、ただ美しい。
酔いが醒めるどころか、心臓が激しく鳴り、頰が熱くなった。
そこから少し会話が弾み、お互い自己紹介した。
『私、○○美智代って言います。大学生です』
『僕…後藤直樹って言います…【NEW GLORY】ってバンドやってて…まだ駆け出しですけど……』
『知ってます!何回か聴いたことありましたけど、どの曲もカッコよかったです…!』
直樹は初めてのアンチ以外の言葉に、胸が熱くなった。
美智代の笑顔が、暗闇を照らす光のように感じられた。
『ありがとう…君の言葉……すごく嬉しい』
『頑張ってください。私はずっと応援してます』
直樹は、美智代の言葉に救われたような気持ちで、カウンターに置かれたウォッカストレートのグラスを前にした。
美智代が代わりに飲み干してくれた後、二人は話が弾み、店を出る頃には直樹の足元は完全にふらついていた。
『……美智代さん……会計……僕が……』
『いいですよ。私も…』
だが直樹は、酔った勢いで自分の分と美智代の分をまとめて払い、店を出た。
外の冷たい空気が顔に当たった瞬間、視界がぐらりと揺れ──
『…あっ……ヤバ…』
膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。
意識が急速に遠のいていく中、最後に見たのは美智代の心配そうな顔だった。
◆
──目が覚めると、そこは人気のない広い公園のベンチだった。
頭の下に柔らかな感触。
直樹はゆっくりと目を開けると、美智代の膝枕だった。
美智代は優しく微笑みながら、直樹の髪を撫でていた。
『え…?ここ…は…?』
慌てて体を起こそうとしたが、美智代は優しく頭を押さえ、穏やかな声で。
『無理しなくていいですよ。まだ酔ってるみたいですし…ここ…静かでいい場所でしょう?』
直樹は美智代の膝枕で、ゆっくりと意識を取り戻した。
公園のベンチは静かで、夜風が優しく頰を撫でる。
美智代は変わらず髪を撫で続け、穏やかな声で。
『大丈夫ですよ…ゆっくり……』
直樹は彼女の膝に頭を預けたまま、ぼそぼそと話し始めた。
スランプ、アンチの声、曲が書けない焦り、音楽を辞めようかと思ったこと……
すべてを、初対面の美智代に吐き出した。
美智代は何も言わず、ただ静かに聞き続けた。
言い終えた後、美智代は無言で直樹の頭を優しく撫でた。
『…辛かったんですね……』
変に慰めの言葉をかけるでもなく、ただ静かに寄り添ってくれた。
その温もりが、直樹の心を溶かした。
こんな出会い、二度とないと思った。
直樹は勇気を振り絞って、美智代の前に立ち上がった。
『美智代さん。僕…あなたに惚れました……僕と付き合ってください』
美智代は少し驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
特に断る理由もなかった。
むしろ直樹の真っ直ぐな瞳を見て、心が動いた。
『……はい。不束者ですが、よろしくお願いします』
二人は夜の公園で、静かに抱き合った。
それから、直樹の頭の中はクリアになった。
美智代の存在が、スランプを吹き飛ばした。
アンチの声は、ただの雑音に変わり、主題歌と挿入歌の制作は一気に進んだ。
革命的なフレーズが次々と生まれ、完成した曲は爆発的に売れた。
アンチは手のひらを返すように評価を変え、『これは本物だ』『天才だ』『アンチ共 息してる〜?ww*1』と褒め称えるようになった。
そして1年後──
【NEW GLORY】は、国立競技場(旧)で初のワンマンライブを実施。
二日間で16万人を動員し、大成功を収めた。
ステージ上で直樹は汗だくになりながら、最後の曲を弾き終え、会場は大熱狂した。
ライブ終了後──
直樹は美智代を連れてドライブし、初めて告白したあの夜の公園へ向かった。
星空を見上げながら、直樹はポケットから小さな箱を取り出した。
中には、シンプルだが美しいダイヤの指輪。
『美智代さん…僕と結婚してください。これからも…ずっと一緒に生きていきたい』
美智代は目を潤ませながら、嬉しそうに頷いた。
『はい…私も直樹さんと…ずっと一緒にいたい…』
直樹は生まれて初めて、歓喜に満ちた大号泣をした。
涙が止まらず、声を上げて泣きながら、美智代を抱きしめた。
美智代も涙を流しながら、直樹の背中を撫でた。
その夜、二人は近くのホテルに寄った。
二人は何度も何度も繋がり、愛を確かめ合った。
そして──のちに、ひとりが生まれる。
◆
(懐かしいな…今も昔も……僕はずっと…美智代に支えられてるな…)
直樹は改めて胸から顔を上げ、美智代の顔を見つめた。
30代後半とは思えない若々しい美貌、優しい目元、穏やかな笑顔。
あの夜のバーで出会った時と、変わらない温かさが、そこにあった。
「美智代。僕と結婚してくれて…本当にありがとう」
美智代は少し驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
直樹は声を震わせながら続けた。喉が詰まり、涙がこぼれそうになるのを必死に堪えながら。
「僕は君と出会ってから…毎日幸せだ。世界一可愛い大好きな娘たちに囲まれて…家に帰ったら、美味しいご飯作ってくれて…毎日家を守ってくれて……辛い時は寄り添ってくれて…君には…一生かけても返せないくらいの大切なものを……たくさんもらった。本当にありがとう…」
涙が一筋、頰を伝った。
直樹は恥ずかしそうに顔を伏せたが、美智代は優しく直樹の頰に手を当て、涙を拭った。
美智代の目が潤み、優しく直樹の頰に手を当てた。
「…私も……あなたを愛してる…家族のために必死にお金を稼いでくれて…私たちの幸せを何より優先してくれる…そんな直樹さんが…大好き。私もあなたがいて…ひとりちゃんやふたり、ジミヘンに囲まれて…毎日幸せよ」
二人は、互いの額を寄せ合い、静かに抱き合った。
「これからもずっと…僕のそばにいてくれ」
「もちろん。生涯…あなたの隣にいますよ」
寝室は穏やかな日差しと、二人の吐息で満たされていた。
◆
「………ところで美智代…」
「ん?どうしたの?」
「………なんでひとりの…秀華高校の制服着てるの?」
そこにいたのは、ひとりの秀華高校の制服を着た美智代だった。
美智代はベッドの端に座ったまま、悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふっびっくりした?最近まで【結束バンド】のネット投票の時に、この制服着て女子高生に擬態して布教活動してたの〜♫」
チャコールグレーのブレザー、赤いリボン、プリーツスカート。
ひとりの予備のために購入した制服(美智代が自分で着るために買った)を着た美智代は、まるで高校生のように見えた。
いや、30代後半の年齢を感じさせない若々しさで、20代前半にしか見えない美貌が、制服と相まって異様な可愛らしさを放っていた。
「審査も無事通って、お役御免だったけど着てるうちに楽しくなって、家でも制服姿でいるようになったの〜♫」
「……………美智代」
直樹は、ゆっくりと息を整えていた。
疲労が体を重くするはずなのに、妻の温もり、柔らかな感触、甘い香りが、直樹の体に別の火を灯した。
妻の制服姿が、疲れを吹き飛ばすどころか…
「ん?どうしたの直樹さん?……きゃ♡♡」
9ヶ月後──
後藤家に新たな命が誕生するが、それはまた別の話である。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
次回は未確認ライオットのライブ審査に移ります。
初めてぼっちパパが結束バンドのライブを観戦出来ます。