今回は未確認ライオットのファイナルステージです。
それではどうぞ
ついに、未確認ライオットのファイナルステージ当日がやってきた。
あのライブ審査から、【結束バンド】を取り巻く空気は一変していた。
審査会場にいた観客のほとんどが、その日のうちに【結束バンド】のSNSをフォローし、オーチューブの登録者も急激に増え、登録者は8万人を超えた。
特に『グルーミーグッドバイ』のMVは爆発的に伸び、現在では206万再生を突破。
何より、優勝候補大本命と目されていた【SIDEROS】を圧倒したという事実が、ネットを駆け巡り、【結束バンド】は一夜にして「一番の注目株」へと躍り出た。
だが、4人は決して浮かれなかった。
審査の翌日からずっと練習を重ねた。
虹夏はドラムのフィルを何度も叩き直し、喜多はボーカルの息遣いを調整し、リョウはベースラインのニュアンスを磨き、ひとりはギターのフレーズをさらに深く掘り下げた。
言葉は少なく、ただ音を重ね、互いの音を聴き合い、調整を繰り返した。
嬉しさはあった。
でも、それ以上に──「ここで終わりたくない」という強い意志が、4人を突き動かしていた。
そして今日、ファイナルステージ当日。
全員が、万全の状態で会場に立っていた。
───
──
─
未確認ライオットの最終決戦の幕が上がった。
【結束バンド】の出番は最後から2番目で、【SIDEROS】は最後だった。
既に他のバンドの演奏は終わり、4人はすでにステージ袖で待機していた。
虹夏はスティックを指の間で軽く回しながら、深呼吸を繰り返す。
喜多はギターを握りしめ、唇を軽く噛んで緊張を紛らわせる。
リョウはベースを肩にかけ、無表情のまま静かに目を閉じている。
ひとりはSchecterを構え、ゆっくりと息を吐いた。
すると虹夏が、ふと思い出したように口を開いた。
「そうだ!今日は【NEW GLORY】もライブがあるんだよね?」
「あっはい。今日は大阪だったハズです」
「…国立競技場のライブ行きたかった…結局今日の大阪以外は…日本公演のチケット全部落ちたし……」
「今の【NEW GLORY】って、社会現象レベルの人気ですもんね」
「確かに…あの国立のライブ動画凄かったもんね…」
「あっはい…カッコよかったです」
そう──
国立競技場(2日目)のあの夜は、終わった後も終わらなかった。
ライブ終了直後から、SNSは大爆発した。
世界トレンドは【NEW GLORY】一色に染まり、特にNaokIの名前が世界中を駆け巡った。
「国立競技場ライブ」「国立二日目」「Shade Of Gray音源以上」「NaokI覚醒」「全盛期超え」「神回」「伝説のライブ」「ギターソロ神」という言葉が洪水のように溢れ、公式SNSから写真が投稿されると、いいねやコメントが雪崩のように流れていく。
【NEW GLORY】公式イソスタやトゥイッターのいいね数はついに世界一を記録。
翌日に、『We are Alive』のライブ動画が【NEW GLORY】の公式オーチューブチャンネルに最速で投稿された。
再生数は異常な速度で伸びた。
投稿から数時間で10億、1日で40億。
そして現在──202億再生を突破した。
これはオーチューブ史上 最大・最速の記録となり、【NEW GLORY】で一番再生されたMV『Mirror』(現在179億回)を超え、あのRoÉの伝説的なアドリブスラップの再生数(現在201億回)を超え、音楽クリップの新記録を塗り替えた。
コメント欄は多言語で埋め尽くされ、「これは人間の演奏じゃない」「神が降臨した」「一生忘れない」「号泣した」と世界中のファンが、魂を震わせて反応した。
これにより、【NEW GLORY】のオーチューブの公式アカウントの登録者数は一気に跳ね上がり、ついに2億人を突破した。
11th Album『Evolutionary』は、このライブを境に爆発的に売れた。
元々驚異的な売り上げだったアルバムが、ライブ終了直後からストリーミング・デジタルダウンロード・CDが同時多発的に急上昇。
『Evolutionary』のCDは世界累計1億枚を突破し、世界で最も売れたアルバムに認定された。
『Evolutionary』はまさにタイトル通りの「進化」を体現した。
10年前の全盛期を超えたサウンド、覚醒したギター、メンバー全員の限界突破。
まさにアルバム名に相応しい、進化したライブだった。
この一夜が、アルバム全体に新たな命を吹き込んだ。
他のアルバムも連鎖的に再燃。
過去作も含めたCD総売り上げは跳ね上がり──
ついに4億枚を突破した。
結成からたった20〜21年で4億枚という数字は、現代の音楽シーンにおいて、音楽の歴史を根底から覆すレベルの異常事態となった。
ストリーミング再生数、デジタルダウンロード数も記録を次々と更新。
世界中のトップアーティスト達が束になっても、【NEW GLORY】の足元にも及ばない程の差を広げ、誰にも抜かれることはなくなった。
音楽チャートは【NEW GLORY】で完全に独占され、世界トップに君臨し、不動のものになった。
今や【NEW GLORY】は、全盛期の10年前以上の人気を有し世界中で社会現象になった。
21世紀の人類史上最も売れたアーティストと言っても過言ではなかった。
「あ〜!!やっぱりあの国立競技場のライブ見たかったよ〜!!」
「ふーちゃん達は二日目当たったって言ってましたもんね…いいなぁ…」
「ていうか店長とPAさんもしれっと国立ライブ行ってたよね…羨ましい」
「あ〜そうそう!しかもお姉ちゃん!当選したことあたしに黙ってたんだよね!行く前に文句言おうとしたけど、『虹夏は東京ドーム行けたんだからいいだろ』って言われて何も言えなかったよ」
「そういえば店長…あの日からずっと上機嫌ですね」
「確かに…堂々とサボっても目をつけられなくなった」
「…いや、何も言わないだけでちゃんと評価つけてたよ「そんな殺生な!!?」しかもお姉ちゃん…昔のギター引っ張り出して、空き時間は毎日練習してるんだよね〜」
「…画面越しでも凄かったのに…あんなの生で見たらそりゃ燃え上がりますよ。それに1号さんと2号さんも、SNSで色々投稿してましたね」
「知ってる。しかも結構ステージに近かったらしいし…羨ましいよ〜」
【結束バンド】の3人は前回言われた通り、本当に贔屓などされず公平にチケット抽選を行われて、見事3人とも落選して落ち込んだ。
ひとりは、もし望めばいつも通り関係者枠で見れたはずだった。
でも今回は、未確認ライオットのファイナルステージに向けた調整を最優先にした。
ひとりの自宅のスタジオに籠もり、みんなと音を合わせ、感情を磨き上げる日々を選んだ。
そして──翌日。
ひとりの部屋で、4人はパソコンを囲んで『We are Alive』のライブ動画を再生した。
最初のギターリフが鳴った瞬間──全員が息を呑んだ。
画面の中のNaokIは、明らかに進化していた。
全盛期を遥かに超え、覚醒したギター。
ピッキングの鋭さ、ビブラートの深さ、タッピングの連打、ベンドのニュアンス──全てが、以前とは次元が違っていた。
Lavielの声はさらに魂を乗せ、RoÉのベースはより深く、Kyoyaのドラムは爆発的に。
4人の音が共鳴し、グルーヴが会場を支配する。
88000人の歓声が、画面越しでも胸を震わせた。
虹夏と喜多は大興奮で可愛く飛び跳ね、リョウも興奮気味で聞いてもいない演奏の解説をしていた。
そして──ひとりは画面を見つめたまま、目をキラキラさせていた。
《やっぱり…お父さんはカッコいい…!》
あの未確認ライオットの審査で、ひとりは初めて「お父さんに追いついた」と思った。
でも、あのライブ動画を見て──お父さんは、さらに高く飛んでいた。
急激な進化。
全盛期を超え、娘の音に触発され、覚醒した姿。
ひとりは、胸の奥で熱いものが込み上げてくるのを感じた。
(あのライブ審査で…お父さんに追いついたと思ったけど、お父さんはさらに進化してた…悔しいけど…それ以上に嬉しい…!やっぱり…お父さんは世界一凄い!!………私も負けてられない!今回のファイナルステージで…私ももっと強くなる!!)
そんなひとりを横目に、虹夏は感慨深く呟いた。
「今考えたら…あの東京ドームの一夜って…本当に特別だったよね」
「そうですね…あんな凄いバンドから…エールをもらったんですよね」
「あの人たちのおかげで、私たちは急激に成長することが出来たと思う…あれがなかったら、多分ライブ審査で落ちてたと思う…」
「そうだね。………思えば一年前って…本当にド下手だったな~。ノルマ20枚でヒーヒー言ってたし、台風ライブの時なんてお客さんほとんどいなかったし」
「懐かしいですね。あの頃は友達や知り合い呼んでやりくりしてましたもんね。今じゃたくさんのファンの人達が応援してくれて…そしてこんな大舞台で…数千人の前に立って、演奏するんですもんね…」
「郁代なんて初ライブバックれてたからね」
「あああああ!!!!ごめんなさいごめんなさい!!あの日の無礼をお許しください〜!!!」
「ちょっ喜多ちゃん!ここで土下座は止めなって!?」
ひとりは3人の言葉を聞きながら、ステージ袖から会場を見渡した。
人で埋め尽くされていた。
会場は、予想以上の規模だった。
フィールドのピットエリアは、遥か遠くまで隙間なく詰まった観客で埋まっていた。
(すごい…本当にこんな大勢の前で…私たちが演奏するんだ…)
一年前の【結束バンド】では、絶対に想像できなかった光景に、ひとりは息を呑んだ。
一年前まで、【結束バンド】は無名もいいとこだった。
初ライブで喜多はバックれ、急遽ひとりがサポートギターに加入するもミスりまくり。
ひとりはギターヒーローの実力を全く発揮できず、虹夏はミスるとテンパる事が多く、リョウは自分の世界に入り込む癖があった。
4人揃っての台風ライブでは、客がほとんど入らずノルマ以下。
そして──ぽいずん♡やみがやってきて、初めて現実を知った。
(そして、私とお父さんとの関係がバレて…とんでもないことになったんだよね…でも、あれのおかげで…みんなとここまで来れたんだ)
そして、東京ドームでの一夜。
【NEW GLORY】 の4人が本気で向き合ってくれたあの瞬間──
あのエールが、【結束バンド】を変えた。
音が変わった。
姿勢が変わった、
そして──覚悟が変わった。
そこから【結束バンド】は徐々に巻き返した。
どんどん腕前と知名度、人気を上げた。
そしてライブ審査では、10代ナンバーワンの【SIDEROS】を圧倒して、ファイナルステージまで進めた。
(………あれから、もう半年以上も経ったんだ…)
胸の奥が、熱くなる。
悔しさも、焦りも、壁にぶつかった日々も、泣いた夜も、逃げたくなった瞬間も────
全てが、今この瞬間に繋がっている。
虹夏が瞳を潤ませながら、ゆっくりと顔を上げた。
でもその涙は弱さではなく、強さの涙だった。
「だからこそ…今日は絶対に優勝しよう!もうこれは、あたし達だけの問題じゃない!」
「……そうだね。あそこまで親身になって指導してくれて、レコーディングまでしてくれて、ここまでお膳立てしてくれたんだ…絶対負けられない」
「はい!!それにここまで応援してくれた1号さんに2号さん!他のファンのみなさんの為にも…絶対勝ちましょう!!」
リョウは静かに目を細め、喜多も胸に手を当て深く頷く。
ひとりは、3人の顔を見回した。
虹夏の真っ直ぐな瞳。
リョウの静かな闘志。
喜多の揺るぎない笑顔。
そして──自分の胸の奥にある、燃えるような決意。
あの東京ドームの一夜から、全てが変わった。
【NEW GLORY】が、世界の頂点にいるバンドだと知った夜。
自分たちが、その頂点からエールを送ってもらった夜。
あの瞬間から、【結束バンド】は“ただの高校生バンド”ではなくなった。
(今なら…お父さんたちに胸を張って言える。“私たち、ここまで来ました”って…)
ひとりはギターを握りしめながら震える声で、でも確かな意志を込めて言った。
「……あっ…みっみなさん…!今日のステージで、お父さんに胸張って報告できるように…絶対グランプリを取って…恩返ししましょう!!」
「「「もちろん!!!」」」
4人の声が重なった瞬間、
ステージ袖の空気が一気に熱を帯びた。
もう迷いはない。
もう逃げない。
もう後ろは振り返らない。
【結束バンド】は、今ここで“
「【結束バンド】さーん!転換終わりました!アナウンスがなり次第、ステージに上がってください!」
「あっは~い!!」
スタッフの声が響いた瞬間、4人の心臓が同時に跳ねた。
虹夏がいつもの明るい笑顔で振り返る。でもどこか引き締まった声で叫ぶ。
「みんな!!準備はいい!?」
「「「OK/はい!あっはい!」」」
4人は手を重ね、リーダーの虹夏が声を張り上げる。
「みんな絶対グランプリ獲るよ!!!!行こう!!!!」
『おー!!!』
その声は、緊張でも不安でもなく──覚悟の叫びだった。
MCの声が響く。
『それじゃあ次のバンドの登場だ!!ネット投票初登場で驚異の6位!ライブ審査では他を寄せ付けない圧倒的な演奏を披露したバンド!!そして…優勝候補大本命間違いなしのバンド!!今大会のダークホース!下北沢発の【結束バンド】だー!!!』
ステージに上がった瞬間、スポットライトが4人を包み込んだ。
会場はすでに熱狂の渦だった。
ひとりはSchecterを構え、虹夏はドラムスティックを握りしめ、喜多はマイクを両手で包み、リョウはベースの弦に指を添えた。
4人の視線が交差する。
一瞬の静寂。
虹夏が軽くスティックを鳴らし、最初の音が鳴り響いた。
ひとりのギターが、感情を乗せて炸裂した。
あのライブ審査でNaokIの全盛期を超える音を聴いた日から、ひとりは必死に練習を重ねた。
でも──このステージでは…ライブ審査でのあの領域には届かなかった。
指がネックを駆け巡る速度、タッピングの連打、ビブラートの深さ──
全てを追い求めたが、あのライブ審査でひとりが踏み込んだ領域には程遠かった。
それでも十分、ひとりは手応えを感じていた。
自分の限界を超えようとしている手応え。
音に魂を乗せている手応え。
ギターが、虹夏のドラムと、喜多の声と、リョウのベースと、完璧に絡み合う手応え。
虹夏のドラムは力強くタイトに、感情を爆発させながらも一切の揺らぎなく会場を支えた。
喜多のボーカルは伸びやかで切なくでも力強く、観客の心を掴んで離さない。
リョウのベースは低く唸りながらも細やかなニュアンスで、グルーヴの土台を完璧に作り上げた。
4人の音が共鳴して、会場全体が震えた。
演奏が終わった瞬間、大歓声が響いた。
序盤から既に熱狂していた会場が、さらに爆発した。
「やっぱ【結束バンド】すげェぜ!!!」
「これ優勝だろ!!?」
「ひとりちゃ〜ん!みんな〜!最高だったよ〜!!」
「すげぇ鳥肌たったよ…」
「やっぱレベル高ェわ…!」
そして【結束バンド】が初見の観客たちも、完全に飲み込まれていた。
「うわマジかよ…」
「こんなバンドいたの!?」
「【SIDEROS】超えたって…本当だったんだ…」
「この4人ヤベェよ…マジで優勝候補じゃねーか…」
「これガチでグランプリ取ってもおかしくねーぞ!?」
「つーかこれ…もう【結束バンド】が優勝じゃね?」
拍手と歓声と叫びが、鳴り止まない。
ひとりはギターを下ろし息を荒げながら、ステージを見渡した。
虹夏はドラムセットの後ろでスティックを握ったまま、涙を堪えて笑みを浮かべる。
喜多はマイクを握りしめ瞳を潤ませながら、観客に頭を下げる。
リョウはベースを肩にかけ無表情のまま、静かに頷く。
4人はステージ上で互いの顔を見た。
誇らしげだった。
ミスることなく、自分の持てる力を十分に発揮できた。
そしてオーディエンスは、【結束バンド】がグランプリ獲ると確信していた。
【SIDEROS】が出てくるまでは………
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
次回はついにSIDEROSのライブシーンをやります。