娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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今度は虹夏ちゃんとリョウの視点の話です


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 あたしは伊地知虹夏(いじちにじか)

 

 【結束バンド】のドラム担当で、バンドのリーダー。

 お姉ちゃんのライブハウス『スターリー』を手伝いながら、自分のバンドを組んで音楽をやってる。

 

 今日はいよいよ、あたしたちにとって記念すべき【結束バンド】の初ライブの日だ。

 

 ベースのリョウと二人、スタジオ代を工面しながら血の滲むような練習を重ねてきた。

 不安よりも、自分たちの音が初めてフロアに響くことへの楽しみで胸がいっぱいだった。

 

 ──なのに、こんな最悪のピンチが突撃してくるなんて夢にも思わなかった。

 

 

 

 ギターボーカルの喜多ちゃんがバックレた…

 

 

 

 思えば今朝から嫌な予感はしていた。

 集合時間が近づいても、喜多ちゃんからの連絡が一切スマホに届かない。

 おかしいなと思ってリョウに確認してみても、「知らない」と素っ気なく一言返されるだけ。

 嫌な胸騒ぎに耐えかねて何度も電話してみたけれど、無機質な電子音が虚しく響くだけで、ついに彼女が約束の場所に姿を現すことはなかった。

 

 頭の中が真っ白になった。

 

 初ライブのステージなのに、フロントマンであるギターボーカルがいない。

 そんなの、ハナからバンドとして成立するわけがない。

 観客も集まってきてるのに、どうしよう……

 

 

「ごめんリョウ!ちょっと代わりのギター探してくる!」

 

「えっ…!ちょ…虹夏…!?」

 

 

 背後で普段は崩さないポーカーフェイスを珍しく慌てさせているリョウの制止を振り切り、あたしは藁にもすがる思いで、下北沢の街へと全速力で飛び出した。

 とはいえ、楽器の街・下北沢だからといって、都合よく代わりのギタリストが道端に落ちているわけもない。

 息を切らしながら周囲を捜索して、諦め半分で近くの小さな公園に差し掛かった時のことだった。

 誰もいない公園のブランコ──そこに、ギターケースを背負って、限界まで背中を丸めて縮こまっている一人の女の子を見つけた。

 

 その子は、スマホの画面を眺めてニヤニヤ笑っていた。

 

 

「うへ…wうへへへぇ…wwまた海外からもコメントたくさんきてる…!私は世界を揺るがす女…!プロフェッショナル、後藤ひとり…!……………あっ…このぽいずん♡やみって人、またギターヒーローを絶賛したネット記事…書いてくれてる…う……うへへ…ww」

 

 

 スマホ見ながら独り言ブツブツ言ってて、少し変な子だと思ったけど、こっちも切羽詰まってたから、背に腹は変えられないと思い、思い切って声をかけた。

 

 

「それギターだよね?弾けるの!?」

 

「……!」

 

「…お~い?」

 

(しゃ…喋るの久しぶりすぎて、こっ声が…!)

 

 

 声をかけた瞬間、その子はハトが豆鉄砲を食ったような顔であたしを見つめ、借りてきた猫のようにカチコチに硬直してしまった。

 その子──後藤ひとりちゃんは、会話が成立するか怪しいレベルの重症なコミュ症っぷりだったけれど、あたしの必死の懇願と説得(多少強引だったけど…)に気圧されたのか、彼女は小刻みに震えながらも、なんとかスターリーへと連行されてくれた。

 

 スターリーで待っていたリョウは、ひとりちゃんを一瞥すると、「ま、いいんじゃない?」といつも通りマイペースなトーンで合意。

 さっそく今日のセトリと楽譜を渡して、ぶっつけ本番のセッションがスタートした。

 

 でもひとりちゃんの演奏は、あたしの想像を絶するほどバラバラだった。

 リズムは先走り、フレーズの噛み合いもズレまくっている。

 初ライブのプレッシャーと焦りもあって、あたしは演奏が終わるなり、つい「ド下手」とキツい感想を口にしてしまった。

 でも聴いてるうちに、なんか聴いたことある感じの音だなって思った。

 

 聞いたら、売れ線の曲を片っ端からカバーしてるってのを聞いて、あたしの脳内にある一つの、あまりにも巨大なアカウントの存在が弾けた。

 

 

「なんかそれギターヒーローみたいだね。そうだひとりちゃん…ギターヒーローって知ってる?」

 

 

 ひとりちゃんは首を傾げて「え…?」と、完全に思考が停止したような声を漏らす。

 よし、知らないならこの素晴らしさを布教する絶好のチャンス!

 あたしは胸の奥のファン心理を大爆発させ、一歩、また一歩と彼女に詰め寄りながら興奮気味に捲し立てた。

 

 

「ギターヒーローって、オーチューブで超有名なギタリストのチャンネルがあるんだよ!登録者120万人超えてて、日本の売れ線の曲や海外の有名な曲もいっぱい弾きこなすの!特に一番再生されてる動画なんて驚異の1億再生突破だよ!?【NEW GLORY】のギターソロやリフのアレンジした弾いてみた動画がすごいんだよ!!日本だけじゃなく海外からのコメントもいっぱいで、他の動画も何個か、数千万再生の動画がゴロゴロあるの!技術が神レベルで、完コピどころかアレンジ入れて速く正確に弾くの!激ムズ曲も一発でクリアしてるし、コメント欄でファンのみんなは『ギターヒーローの弾き方に外れなし』って大絶賛してるんだよ!!!」

 

「虹夏、ストップストップ。ひとりちゃんも困ってるって…」

 

「え?あぁ…ごめんごめん!とにかくすごいギタリストなんだよ!」

 

「あっ……いやぁ…wそんな、大したことは…うへへへへ…wへへ…w」

 

「?なんでひとりちゃんが照れてるの?」

 

「!?あっ…!いや…!その……なん…でもない…でし!!」

 

「ひとりちゃん落ち着いて!最後噛んでるよ…ってわぁ!!なんかドロドロに溶け出したんだけど!!?

 

 

 話が熱くなりすぎて、ちょっと逸れちゃった。

 

 ひとりちゃんは突然尋常じゃない量の脂汗を流しながら、物理的にスライムのようにドロドロに溶け崩れてしまった。

 そのまま部屋の隅へと胞子状に四散したかと思えば、最終的には手のひらサイズのメンダコ姿に変形し、涙目でガタガタと震え出した。

 

 ……自分でも何いってるかわからないけど、これは目の前で起きた紛れもない現実だった。

 

 ハッとなって、あたしは自分の大人気ない早口オタクムーブを激しく反省した。

 初対面で、しかもこんなに繊細で怯えきっている子に、プロレベルの基準を押し付けるような真似をしてしまった。

 あたしは慌ててメンダコ姿のひとりちゃんに近づき、しゃがみ込んで優しい声をかける。

 

 

「話逸らしてごめんね。でもさ、ギターヒーローさんだって最初は初心者だったはずだよ。みんなそうでしょ?あたしだってドラム始めた頃はヘタクソだったし、ひとりちゃんもこれからあたしたちと音を合わせていけば絶対上手くなるよ!一緒にがんばろう!」

 

「あっはい」

 

 

 ひとりちゃんは元の人間の形に戻りながら少し頰を赤らめて、頷いてくれた。

 よし、これでいける!

 

 

 それから、いよいよライブの本番、あたしたちの出番がやってきた。

 肝心のひとりちゃんはというと、極限まで膨れ上がった緊張と対人恐怖から逃れるため、リョウが持ってきた「完熟マンゴー」の段ボール箱を被ったままステージに降臨するという、前代未聞のスタイルで演奏していた。

 

 まぁミスりまくったけどね。

 

 

 終演後、フロアの隅で生きた心地のしていないぼっちちゃんと、ホッとした勢いのままロインを交換した。

 ちなみに、ぼっちちゃんというのはひとりちゃんの新しいあだ名だ。

 リョウがその場で何気なく命名したあだ名だったけれど、不気味なくらい本人も喜んでいたので、あたしたちそのままぼっちちゃんと呼ぶことになった。

 その後、せっかくだからと初ステージの打ち上げに誘ってみたものの、ぼっちちゃんは物凄いスピードで気配を消して帰宅してしまった。

 でも、ぼっちちゃんもまた来てくれるって言ってたし、まぁいいか!

 

 

 

 

 夜も更けた頃。

 客が一人もいなくなった薄暗いスターリーのフロアで、あたしたちはモップをかけたりゴミを拾ったりと、静まり返った空気の中で後片付けに追われていた。

 作業の手を動かしながら話題は自然と、さっきまでステージの段ボール箱の中でギターを抱えていた、あの不思議な少女のことへと移っていく。

 その時、それまで気怠げにテーブルを拭いていたリョウがふと手を止め、いつになく真剣な眼差しであたしを見つめて口を開いた。

 

 

「虹夏。さっきのぼっちの演奏…虹夏はド下手とは言ったけど…あれは他人に音を合わせるのが下手なだけで、純粋な演奏技術や音作りは完璧だったよ。正直ぼっちが本来の実力を発揮したら、プロの中でも上澄の実力だと確信してる」

 

 

 あたしは驚きのあまり目を見開いて、持っていたモップを落としそうになった。

 自分が興味を持った音楽以外には一切の関心を示さない、あの気難しくて偏屈なリョウが、出会ったばかりの素人の女の子の技術を手放しで、ここまで圧倒的に絶賛するなんて異例中の異例だったからだ。

 

 

「え?そう…かな?」

 

「うん。あれだけリズムがブレてパニックになっていたのに、コードの押さえ方はミリ単位で正確だったし、右手のピッキングの基礎も完全に肉体に叩き込まれてた。普通の高校生が数年練習したくらいじゃ絶対に手の届かない領域だよ」

 

「………確かに…言われてみれば、走ってるだけで音がズレてたりとかもなかったし、濁ったりした瞬間は一度もなかったかも…」

 

 

 リョウの指摘を脳内で反芻するうちに、あたしの背中に冷たい鳥肌が立ち始める。

 しかし、リョウのプロファイリングはそれだけでは終わらなかった。

 

 

「でしょ?それにぼっちのギターのフレージングやピッキングの独特な癖…どっかで聴いたことあると思ってずっと引っかかってたんだけど、一つだけ心当たりがあった」

 

「え?心当たりって?」

 

「ギターの弾き方や癖が【NEW GLORY】のNaokIに、不気味なくらいそっくりだった」

 

「………えええ!?【NEW GLORY】のNaokIに!?」

 

 

 心臓がドキッとした。

 【NEW GLORY】──それはあたし自身にとっても人生のバイブルと言えるほど、大大大大大好きなロックバンドの一つだったからだ。

 

 お姉ちゃんがまだ現役でバンド活動をしていた頃、当時のお姉ちゃんがそれこそ狂ったようにドハマりしていて、その影響をまともに受けたあたしも、気づけば底なしの沼に落ちていた。

 【NEW GLORY】のCDはシングルからEP、ミニアルバム、フルアルバムまで全部持っているし、擦り切れるほど何度も何度もライブ映像を見返してきた。

 

 でも肝心のライブとなると、あたしたち一般のファンにとっては絶望の二文字しか浮かばない。

 

 【NEW GLORY】は人気が完全に世界基準になってしまい、ツアーのほとんどを海外のアリーナやスタジアムでしか行わなくなっていた。

 そもそも日本で奇跡的に公演が開催されたとしても、チケットの抽選倍率は天文学的な数字になり、あたしは毎回のように画面の前で落選の文字を見て凹んでいた。

 

 今年の夏、久しぶりに日本でアリーナツアーが開催されるという公式アナウンスが流れた時も、あたしたちは狂喜乱舞して全日程に応募した。

 

 ──けれど、結果は無慈悲にも全公演落選。

 

 そういうわけで、実は一度も生のライブ見たことないんだよね。

 

 ちなみに隣にいるリョウですら、何度も落選の憂き目に遭い、これまでに足を運べたのはたったの1~2回らしい。

 それでも一般販売されている中で一番値段が高い、前方ブロック確定の超高額なVIP席を実家の財力にモノを言わせて勝ち取ったことがあるっていうんだから、世の中の不条理を感じずにはいられないけれど。

 

 

 話を戻すけど、映像越しであっても【NEW GLORY】の楽曲と圧倒的なライブパフォーマンスは、あたしたちの世代の脳髄を完全に破壊するほど圧巻だった。

 特にあたしは、あのバンドのドラマーのプレイスタイルに激しく憧れて、今こうしてスティックを握っている。

 ただパワフルなだけじゃなく、精密機械のような超絶テクニックの奥に胸が苦しくなるほどの感情の深みがあって、重低音だけでバンド全体の凶暴なサウンドを完全に支配し、支えている感じが最高に格好いい。

 NaokIのギターが脳細胞に直接衝撃を与えるメロディなら、あのドラムは聴く者の心臓そのものを物理的に揺さぶってくる。

 

 

 そんなNaokIのプレイスタイルそっくりで、あの耳の肥えたリョウが手放しで褒めちぎるほどの技術の持ち主って…

 ぼっちちゃん…本当に人知れず凄まじい腕前を磨き上げてきたバケモノなのか、それともあたしたち以上の熱狂的な【NEW GLORY】の信者なのか、あるいはその両方だったりするのかな?

 

 …まぁどっちもあたしの勝手な推測だけど、どっちにしても凄い子をバンドに引っ張り込んじゃったことだけは間違いなさそう!

 今度ぼっちちゃんがスターリーに来たら、【NEW GLORY】の話しようかな?

 

 もし聴いたことがあるなら、どの曲が一番好きで、メンバーの中で誰が好きなのか聞いてみたい!

 そして聴いたことないなら、今度あたしのCD貸してあげよう!

 あたし個人としてのイチオシは、5枚目のフルアルバムがオススメかな!

 ファンからは「一番売れてるし定番曲ばっかり収録されてて、にわかっぽいチョイス」って言われちゃうかもしれないけれど、あのアルバムに詰まっている黄金のメロディラインは、絶対に初心者の心にもブスリと刺さるはずだからオススメ!

 

 

(あ〜そんなこと考えたら、ぼっちちゃんに会うのが楽しみになってきたな〜♪)

 

 

 フロアにモップをかけながら、あたしは自然と鼻歌を歌っていた。

 まだまだ課題は山積みだし、バンドとしてはド下手くそ。

 おまけにギターボーカルがバックレるという最悪の滑り出しだったけれど、あたしたちの【結束バンド】には、何だかとんでもない可能性を秘めたギタリストが仲間入りしてくれた気がする。

 

 とにかく【結束バンド】を、これから盛り上げていこう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下北沢の喧騒を離れ、静まり返った実家の自室へと帰宅した。

 だが、今日のライブの熱気がまだ残ってる。

 

 私、山田リョウは、ベースをいじる手を止めて、ふと自分の部屋に戻ったことを思い出した。

 いや、正確には「今、ここにいるのは私の部屋だ」って認識が戻ってきた。

 それほどまでに、今日のライブの熱気が、まだ肉体の芯にジンジンと残っていた。

 

 

 今日、急遽入ってきたサポートギター。

 

 後藤ひとり──あだ名はぼっち。

 

 私がその場で思いつきであだ名をつけた、おもしれー女だ。

 

 

 リハの時、虹夏が「ド下手!」って叫んでたけど、私の見解は少し違った。

 あれは半分は正解で、もう半分は致命的なほど的外れだ。

 

 

 確かに本番のステージでも、ぼっちは相変わらず1人で勝手に走りまくっていた。

 ステージ上でダンボールに入ったまま器用に右往左往して、タイミングを外して周囲の音を無視してミスを連発していた。

 普通なら、ただの初心者バンドの事故映像だ。

 

 でも私は、演奏に集中する片手間で、ぼっちの音をずっと聴いてた。

 

 驚くべきことに、彼女の指先は寸分の狂いもなくコードを押さえていた。

 パニックに陥りながらも、ネックを握る指のポジションはミリ単位で正確。

 激しく動いているのに、ギターのチューニングは1曲を通して一切ブレていない。

 

 それだけじゃない。

 

 アンプに叩きつけられるピッキングの角度、弦を振動させるアタックの強さ、音の歪ませ方──その全てにおいて、完璧な基本が肉体に染み付いていた。

 今日演奏した拙い私たちの楽曲をカバーする時でさえ、時折挟み込んできたオブリガード(助奏)のアレンジセンスは、凡百のギタリストを嘲笑うかのように光り輝いていた。

 どれほど速く、複雑なパッセージであっても、ぼっちの弾く音はどこまでもクリーンで、それでいて聴く者の胸を締め付けるような、鋭い感情の深みが乗っている。

 

 

 実家の金にモノを言わせて、プロのライブや前線で戦うスタジオミュージシャンの演奏をそれこそ数え切れないほど特等席で観てきた。

 だからこそ、わかる…あのレベルは上澄みだ。

 はっきり言って、今すぐにプロの世界に放り込んでも、上位のランカーに食い込むだけの実力はある。

 

 

 ──そして何より、ぼっちのギターには、どうしようもないほどの「既視感」があった。

 

 コードに対するリフの組み立て方。耳から離れなくなるような変則的なメロディラインの刻み方。

 そしてフロアの空気を一瞬でジャックする、あの鮮烈なギターソロの入り方が、不気味なくらいにそっくりだったのだ。

 

 

 【NEW GLORY】のNaokIに。

 

 

 あの独特の、脳を直接破壊してくるような、暴力的で、衝撃的なギターの音。

 一度聴いたら、麻薬のようにリピートを求めてしまう圧倒的なメロディセンス。

 ぼっちの指先が弦を滑る様子や、音楽に没頭して目をつぶって集中してる横顔が…重なるんだ。

 

 

 NaokIの作曲センスは、もはや多彩という言葉すら生ぬるい。

 自らのバンドだけでなく、海外の第一線で活躍するトップアーティストたちに提供した楽曲の数々も、例外なく世界の音楽チャートでトップ3の常連となる。

 「NaokIの書くメロディに外れなし」というのは、世界の音楽シーンにおける絶対的な常識であり前提だ。

 

 

 特に2年くらい前にリリースした曲、『Shade Of Gray(シェードオブグレイ)』は個人的に一番好きだ。

 あまりの格好良さに一度コピーしようと弾いてみたが、私は最初の数小節の運指を解析した時点で早々に匙を投げてしまった。

 いやなんなんだ…あの変態的な構成は…せめて人間が弾ける曲にしてくれよ…

 

 まぁ虹夏が言ってたギターヒーローとやらは、リリース当初に速攻で完コピして、おまけに自分なりの超絶アレンジまで付け加えて動画をアップしていたけど、あれひょっとしたらNaokIよりも上手い? 

 どちらにせよバケモノにも程がある。

 とにかく、私もいつかNaokIのような天啓に満ちた作曲ができるようになるために、フレーズや曲のネタをストックしていこう。

 

 

 …話を戻して、ぼっちの演奏、NaokIの影響を相当受けてるんじゃないか?

 それとも天才的な偶然か。

 

 

 そこまで考えて、私は改めて【NEW GLORY】という存在の底知れなさに思考を乗っ取られていた。

 

 4人組のベテランで、今年で結成20年目のバンド。

 

 徹底してメディアへの露出をゼロに絞っているにもかかわらず、その知名度は地球の全人類に行き渡っている。

 誰も彼らの私生活を知らないのに、誰もが彼らの曲を知っているのだ。

 

 CDの総売上は2億2000万枚以上で、サブスク全盛期の今この瞬間もその数字を爆発的に伸ばし続けている。

 オーチューブの登録者は6500万人越え。

 一番再生されているMVは85億再生以上で、他のMVも50億〜60億再生越えが何個かあり、他のMVも軒並み数十億越えで埋め尽くされている。

 

 ライブを行えば、日本の武道館から海外の巨大スタジアムまで、告知から数秒で全席が即ソールドアウト。

 会場の周囲にはチケットを持たない何万人ものファンが押し寄せ、音漏れを求めて地鳴りのような歓声を上げる。

 

 噂では、NaokIの推定年収は数百億を余裕で超えていて、家は超豪邸だとか言われているけれど──正直、そんなのはどうでもいい。

 私はただ純粋に、彼らの作り出す音楽の、神の領域に達した圧倒的な完成度を愛しているのだ。

 

 

 特に、あのバンドのベーシスト……あの人は本当にヤバい。

 

 ステージの中央で重低音を統べる圧倒的なカリスマ性と、他の追随を許さない冷徹な存在感。そして何より、常軌を逸した超絶技巧の持ち主だ。

 特にあの人が魅せるスラップの切れ味は文字通り神がかっている。

 

 この前、【NEW GLORY】の公式ショート動画にゲリラ的にアップされた、イギリスのスタジアムライブでのアドリブスラップソロの15秒ほどのクリップ動画は、公開から信じられない短期間で60億再生という狂った数字を叩き出していた。

 他のショート動画の再生数は把握してないが、おそらく世界トップだろう…………あっなんか見返したら、再生数また2億くらい伸びてる。

 

 低音のグルーヴが、怪物バンドの全アンセムを完璧に支え、NaokIの獰猛なギターの音色を限界まで引き立てている。

 私は【NEW GLORY】のベースの影響でベースを始めたようなもんだ。

 

 あのテクニックは本当に圧巻の一言に尽きる。

 まだ【NEW GLORY】のライブ自体は1〜2回ほどしか見たことがないけど、あの音を聴いたら本当に圧倒される。

 だからこそライブの抽選が何度も外れた時は、本気で悔しかった。…転売ヤーは許すまじ

 

 

 そんな、世界を支配するバンドのギタリスト。

 もしも、今日出会ったあのぼっちのギターが、本当にNaokIの演奏を完璧に継承しているのだとしたら。

 

 私たちの【結束バンド】は、化ける。

 

 

 私はベースケースの蓋のロックを静かに閉め、深く息を吐き出した。

 今日のライブの帰り道、虹夏はまだ興奮冷めやらぬ顔で、ぼっちに「ギターヒーローみたい!」って言ってたけど……私は違う視点で見てた。

 

 ただ他人に音を合わせるのが、致命的に下手くそなだけ。

 アンサンブルの波に乗れず、1人で勝手にリズムの先頭を走り抜けてしまう。

 孤立するのを恐れるあまり、他の楽器の隙間を無理やり強烈なリフで埋めようとして、逆に空回りして全体のバランスを壊してしまう。

 

 

 でも、そんなものは単なる経験不足の問題だ。

 

 スタジオに入り、他人の音を聴く耳さえ育てば、そんなズレは一瞬で修正できる。

 なぜなら、それを支える技術そのものは、すでに恐ろしいほどの精度で完成されているのだから。

 

 もしぼっちのポテンシャルが完璧な形でこの世界に解放されたとしたら──

 【結束バンド】は、ただのインディーズじゃなくなる。

 

 

 私のベース。

 

 虹夏のドラム。

 

 郁代のギターボーカル。

 

 そして──ぼっちのギター。

 

 

 この4人が揃えば、どこまでだって昇り詰めていける気がすると、自分の中で強い確信があった。

 

 

 ………まぁ肝心のフロントマンである郁代は、一度もスタ練に顔を出さず、挙げ句の果てに当日バックれて、今どこにいるのかもわかんないけど…いつか、戻ってきてくれたら嬉しい。

 それまで、毎日お線香あげよう…

 

 

 私はスマホを取り出して、今日交換したばかりのぼっちの連絡先をもう一度確認した。

 まだトーク画面は真っ白なままだ。

 けれど、いつか私から、最初のメッセージを送る日が来るだろう。

 その時は「おもしれー女」って、私の言葉で呼んでやる。

 だがそれ以上に、私の胸の奥には静かで、ひたすら深い感謝の念が湧き上がっていた。

 

 

 ぼっちが入ってくれて、本当よかった。

 

 

 このバンドに、絶対に欠かすことのできない最後の、最強のピースがやってきたのだ。

 

 私は愛用のベースケースを部屋の隅へ、まるでガラス細工を扱うように大事に立てかけ、壁のスイッチを押して部屋の明かりを消した。

 一瞬で静寂な暗闇に包まれた部屋。

 ベッドに深く身体を沈めても、今日のステージで鳴り響いたあの爆音が、いまだに鼓膜の奥から離れてくれない。

 

 ぼっちの剥き出しのギターの旋律が、私の紡ぎ出した低音のグルーヴに激しく絡みついて、心地よい残響となって熱く脳裏に居座り続けている。

 

 あの音が、もっと上手くハマる日が必ず来る。

 

 その光景をこの目で証明するその日まで、私は何度でもベースを弾き続ける。

 

 

 【結束バンド】は、まだ始まったばかりだ。

 

 




虹夏ちゃんやリョウもぼっちパパの音楽に脳が焼かれたファンにしました。
そして、書いてて思ったけど、ぼっちちゃん化けモンすぎて草
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