娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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お気に入り登録、感想ありがとうございます!
メガベガスのSEダウンロードして、鬼リピしながらノリノリで書いてました。
やっぱりライブのオープニングSEはベガスしか勝たん。異論は認めん。

今回はついにSIDEROSのライブシーンです。めちゃくちゃ気合い入れました。
それではどうぞ


30

 

 

 『あくび…楓子…幽々……私の夢を…聞いてくれる?』

 

 『私の夢は………』

 

 

 ◆

 

 

 ステージのスポットライトが一斉に落ち、静寂が訪れた。

 次の瞬間、MCの声が会場全体に響き渡る。

 

 

 『それじゃあ…最後の一組登場だ!ネット投票1位!10代最強と謳われ、ライブ審査でも圧倒的なライブパフォーマンスを見せつけた……【SIDEROS】だー!!!』

 

 

 歓声と拍手が鳴り響いた。

 ヨヨコが先頭に立ち、ギターを肩にかけ、ゆっくりとステージ中央へ歩み出る。

 その後ろであくびがドラムスティックを軽く回し、楓子がギターを構え、幽々がベースを肩にかけ続く。

 

 4人の足取りは迷いがなく、表情は静かで鋭い。

 

 ヨヨコはマイクスタンドの前に立ち、深く息を吸った。

 会場を見渡すと、数千人の視線が【SIDEROS】に集中している。

 その視線は、重い。

 期待の重さ。

 優勝候補としての重圧。

 

 そして──ここまで来た道のりの重さ。

 

 ヨヨコは、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 『……あー【SIDEROS】です。観客のみんな…暑い中朝からお疲れ様』

 

 

 声は低く落ち着いていたが、どこか震えていた。

 会場が少し静かになる。

 

 

 『今立ってるこのステージを…ここを目指したバンドを…今回たくさん見てきました。…どれも良いバンドばかりだった』

 

 

 言葉を切り、唇を軽く噛む。

 

 

 『……そして凄いバンドに…凄いギタリストに出会った。……私は一度…そのバンドに…そのギタリストに完全に負けた』

 

 

 会場が一瞬ざわつく。

 だがすぐに口を閉じ、ヨヨコの言葉に耳を傾ける。

 

 

 『私自身が、負けを認めてしまった。…死ぬほど悔しくて…本気で挫折しかけて…初めて……自信を無くしかけた………』

 

 

 声が少し詰まる。

 ヨヨコは目を閉じ、すぐに開いた。

 瞳に、強い光が宿る。

 

 

 『……でも仲間達のおかげで、また立ち上がれた。…そして…あるバンドに感化されて、もっと上を目指したいと思った…』

 

 

 あくび、楓子、幽々が、ヨヨコを見つめる。

 3人の瞳にも、同じ覚悟が宿っていた。

 

 

 『……それから、今日まで死に物狂いで練習を重ねて、今ここに立ってます!』

 

 

 声が力強くなる。

 会場が再びざわつき、期待が熱に変わっていく。

 

 

 『……下馬評が微妙だろうが関係ない!消化試合扱いされようが関係ない!どんなに凄いバンドが揃ってたって関係ない!【SIDEROS】の音で!ここにいる全員を一人残らず満足させてみせる!!実力で黙らせてみせる!!そういうわけで初っ端から死ぬ気でトばすから!!』

 

 

 ヨヨコはギターを構え直し、マイクに顔を近づけた。

 声が、会場全体に響き渡る。

 

 

 『最後までついてきなさい!!』

 

 

 MCが終わり、ついに【SIDEROS】の演奏が始まった。

 

 最初の音が鳴った瞬間──空気が変わった。

 

 あくびのドラムが、安定感のあるフィルで地面を叩きつけた。

 16分音符のハイハットが細かく刻まれ、キックが重く、しかし正確に響く。

 幽々のベースが低く唸りながらも深く、曲の骨格を完璧に支える。

 楓子のリズムギターが重厚なリフを刻み、バンド全体に厚みを与える。

 

 そして──ヨヨコの声が、鋭く、切なく、魂を乗せて突き刺さった。

 

 

 『!!?』

 

 

 会場全体が、一瞬で息を呑んだ。

 今まで【結束バンド】一色で、優勝ムードに包まれていた観客たちの空気が、一変した。

 歓声が止まり、誰もがステージに釘付けになる。

 

 ヨヨコの歌声は、ライブ審査の時とは比べ物にならないほどに進化していた。

 ハイトーンなのに、喉が潰れるような叫びではなく、感情がそのまま刃になって胸を抉る。

 言葉のひとつひとつに、悔しさと覚悟と…魂が乗っている。

 ギターのリードはキレがあり、NaokIの影響を色濃く受けながらも、ヨヨコ独自の色を出していた。

 タッピングの連打、ピッキングの速さ、ビブラートの深さ──全てが命を削るように、魂を削るように、音に乗せられている。

 

 あくびのドラムは安定感が異常で、高速のバスドラを維持しながらも一切の揺らぎがなく、フィルインのたびに会場が震える。

 

 幽々のベースは、深く、重く、バンド全体を支えながらも細やかなニュアンスで存在感を放つ。

 

 楓子のリズムギターは重厚なリフでグルーヴを刻み、ヨヨコの歌声とギターを完璧に引き立てる。

 

 観客たちは、息を呑んでステージを眺めた。

 

 

 「マジか…もう海外レベルじゃん…」

 

 「やっぱ…【SIDEROS】スゲェな…」

 

 「てか大槻…ライブ審査よりも声の調子めちゃくちゃよくない?」

 

 「確かに…上手く言えないけど、めちゃくちゃ響く」

 

 「いや大槻だけじゃない…!他の演奏隊もこの前の比じゃないくらい上手い…!」

 

 「【結束バンド】で勝ち確と思ったのに…ここに来て番狂せかよ…」

 

 「ヤベェぞ…!これマジで…どっちが勝つか想像もできねェ…!」

 

 

 歓声が、再び爆発した。

 でも、それはただの熱狂じゃない。

 緊張感。

 期待感。

 

 そして──覚悟。

 

 ヨヨコはギターを弾きながら、会場を見渡した。

 数千人の視線が、自分たちに集中している。

 その視線は、重い。

 でもヨヨコは、その重さを全て受け止めた。

 

 

 (やってやる!!…あの夜の約束を…夢だけで終わらせない!!絶対現実にしてみせる!!…だから!まずはここにいる全員惹きつけるくらいの…最高のライブをやってみせる!!!)

 

 

 ヨヨコはギターをかき鳴らしながら、あの夜の出来事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国立競技場でのライブが終わった後、【SIDEROS】の4人はほとんど言葉を交わさずに会場を後にした。

 

 歓声の残響がまだ耳に残る中、夜の街を歩く足音だけが響く。

 あくびは眠たげに前を見据え、楓子はスマホを握りながら俯き、幽々は人形を抱き抱えながら静かに歩く。

 ヨヨコは先頭を歩き、視線を地面に落としたまま進む。

 

 道中での会話はない。誰も口を開かない。

 

 でも、4人の足は自然と…ある場所に向かっていた。

 

 あの公園。

 

 ヨヨコが初めて仲間たちに弱音を吐き、泣きじゃくった場所。

 誰も提案しなかったのに、誰も反対しなかったのに、4人の足は自然とそこへ進んだ。

 公園にたどり着くと、ヨヨコがぴたりと足を止めた。

 街灯の薄い光がベンチを照らし、夜風が木の葉を揺らす。

 あの夜と同じ、静かで誰もいない公園。

 

 他の3人も、ヨヨコの後ろで足を止めた。

 あくびが眠たげな目を少しだけ開いて、ヨヨコの背中を見つめる。

 楓子はスマホを握った手を胸に当て、幽々は静かに息を吐く。

 しばらくの沈黙が続いたが、ヨヨコがようやく口を開いた。

 

 

 『…………さっきのライブ…本当に凄かった…』

 

 

 言葉がゆっくりと零れ落ちる。

 

 

 『特に最後なんて…全員が…全盛期を超えていた…Lavielの咆哮で心を鷲掴みにされた…RoÉのベースは、地鳴りみたいでグルーヴの中心を支配してた…Kyoyaのドラムは精度も感情も爆発してて、バンド全体を引っ張ってた……そして、NaokIのギターは…世界の頂点そのものだった……あの時本気で…魂が震えた』

 

 

 声は低く、震えていた。

 いつもならツンツンして、素直に褒めないヨヨコなのに今は違う。

 静かで穏やかで、でもどこか切ない。

 

 

 『あんな音が出せて…あんなに大勢の人たちを惹きつけて…あんなに…命を削るような演奏をして…本当に凄かった………あれが、世界一のバンドなんだ…』

 

 

 声が少し詰まるが、ヨヨコはゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

 『…本気で、憧れた………』

 

 

 いつもなら悔しさを怒りに変えるヨヨコなのに、今は素直に、静かに、ただ憧れたと言った。

 

 

 『私もあんな風に音を出したい。あんな風に仲間と魂をぶつけ合いたい。……あんな風に…観客全員を【SIDEROS】の色で染めたい』

 

 

 3人は黙って、ヨヨコの言葉を聞いていた。

 茶化すことなく、笑うことなく、ただ真剣な目でヨヨコを見つめていた。

 

 ヨヨコはゆっくりと振り返った。

 

 あくび、楓子、幽々──3人の顔を見る。

 

 

 

 『あくび…楓子…幽々……私の夢を…聞いてくれる?』

 

 

 

 ヨヨコは深く息を吸い、口を開いた。

 

 

 

 

 

 『私の夢は……… 【NEW GLORY】すら超えて…一番になること』

 

 

 

 

 

 声は、震えていた。

 でも、言葉ははっきりしていた。

 

 

 『でも…それは私だけじゃなくて、あくびと…楓子と…幽々…【SIDEROS】の4人で叶えたい。……この4人じゃないと…到底叶えられない…』

 

 

 ヨヨコは目を閉じた。

 胸の奥が熱い、痛い、でも──嬉しくてたまらない。

 

 

 『…今から言うことは、みんなの人生を凄く左右させるような事で…私の完全な我儘。断られても文句は言えないし、無視されても仕方ないと思ってる…でも聞いてほしい』

 

 

 ヨヨコはゆっくりと目を開いた。

 3人の顔を、一人ずつ見つめた。

 

 

 

 

 

 『あくび…楓子…幽々…私の夢に、付き合ってください』

 

 

 

 

 

 ヨヨコは声を詰まらせ、涙が溢れそうになるが、はっきりと言葉を伝えた。

 

 

 『色んな人にバカな夢だって笑われるかもしれない…!色んな人に無謀だって思われるかもしれない…!色んな人から悪口たくさん言われるかもしれない…!それでも私は…!この4人で世界を獲りたい!!』

 

 

 ヨヨコは3人に向かって、深く頭を下げた。

 初めて誰かに頭を下げた。

 リーダーとしていつも強がっていたヨヨコが、初めて3人を頼った。

 

 

 

 『お願いします!!私に…力を貸してください!!!』

 

 

 

 静寂が公園を包んだ。

 3人の息遣いが聞こえ、ヨヨコの心臓の音がドクドク鳴る。

 

 あくびが、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 『何バカなこと言ってンすか』

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、ヨヨコは顔を歪めた。

 あくびの冷静な言葉が、胸に突き刺さる。

 目頭が熱くなり、涙が溢れそうになる。

 

 

 『…………そっ……そうよね……こんなバカなこと…付き合うわけないよね…………やっやっぱさっきのなし!!今の話は忘れて……』

 

 

 ヨヨコは慌てて言葉を重ねた。

 

 胸が痛い。

 喉が締め付けられる。

 自分の夢なんて、誰かに押しつけるものじゃない──

 そう思ってしまった。

 そう言いかけたその時──

 

 あくびが静かに、でもはっきりと続けた。

 

 

 

 

 

 『ウチはとっくに…ヨヨコ先輩に付き合う気満々ですよ』

 

 

 

 

 

 ヨヨコは一瞬固まった。

 

 

 その一言で、頭の中が真っ白になった。

 涙が溢れそうに…いや、もう溢れてる。

 頰を伝って、ぽたぽたと落ちる。

 ヨヨコは慌てて涙を拭うが止まらない。

 

 あくびはいつもの眠たげな目で、でも熱のこもった目で、ヨヨコをまっすぐ見つめた。

 

 

 『バカな夢? 無謀? 悪口もたくさん言われる? だからなんすか? そんなもん【SIDEROS】入った時点で、ウチはとっくに覚悟してますよ。それに…【NEW GLORY】を超えたい?いいじゃないすか…だったらとことんやっちゃいましょう』

 

 

 楓子と幽々は、ヨヨコの手を握りながら強く頷いた。

 

 

 『私も、ヨヨコ先輩と一緒なら…どこまでも行けます!ヨヨコ先輩を…一人にはしません!』

 

 『幽々もヨヨコ先輩に人生預けます〜。一緒に夢叶えましょ〜』

 

 ヨヨコは3人の顔を見て、涙が溢れた。

 胸が熱くて、痛くて、でも嬉しくてたまらない。

 あくびが眠たげな目を細めて、ヨヨコの頭をよしよしと撫でる。

 

 

 『あれ? ヨヨコ先輩…また涙出ちゃったんすか?』

 

 『…なっ泣いてないし!』

 

 

 ヨヨコの声が上ずって顔が真っ赤になる。

 楓子と幽々も微笑ましそうにヨヨコを見つめて、少し空気が緩くなる。

 ヨヨコは3人の顔を見て、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

 『…ありがとうみんな。…絶対約束する…絶対【NEW GLORY】すら超えて、一番になって見せる!そして【SIDEROS】全員で最高の舞台に立ちましょう!』

 

 

 『はい!』

 

 『は〜い♪』

 

 『どこまでもついていきますよ。……その代わり、ウチらにいい夢見させてくださいよ…ヨヨコ先輩』

 

 

 ヨヨコは涙を拭いながら、3人の顔を見渡して強く宣言した。

 

 

 

 『誰にモノ言ってンのよ!私は大槻ヨヨコよ!!あんたら全員、世界の頂点にまで連れてってやるから、しっかりついてきなさい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはや【SIDEROS】の演奏は、ライブ審査の時とは比べ物にならないほど上がっていた。

 ヨヨコはギターをかき鳴らし、歌いながら、胸の奥で様々な想いが溢れていた。

 

 

 (国立ライブの後から…私たちは死に物狂いで練習した…夜通しで【NEW GLORY】の演奏を何度も見た…NaokIのピッキング、Lavielの声の抜け方、RoÉのベースライン、Kyoyaのドラムのタイトさ、全部参考にして…自分達の短所も矯正した…指が血まみれになるまで…声が枯れるまで…体が動かなくなるまで…それでも…止まらなかった…止まれなかった…!)

 

 

 ヨヨコはステージを見渡しながら、静かに思いを巡らせた。

 

 

 (そして私は…喜多郁代に頭を下げた…クリスマスライブで聞いたメモを共有させてもらった)

 

 

 ヨヨコの歌声が、会場全体に響き渡る。

 クリアで伸びやかなハイトーンは、息継ぎのタイミングすら完璧で、ピッチの揺らぎはゼロだった。

 

 

 (……自分を負かしたライバルに、しかも今回の対戦相手に頭を下げるなんて馬鹿馬鹿しいし…そもそも敵に塩を送るような事、普通なら応じるわけないって思う…そして…以前の私なら死んでもそんな事しなかった)

 

 

 低音域から高音域への移行は滑らかで、感情の起伏がそのまま音色に乗る。

 サビの盛り上がりでは、声に熱と切なさが混じり合い、聴く者の胸を抉るように響く。

 言葉ひとつひとつに魂が宿り、会場全体の心に直接届く。

 

 

 (でも今の私には、信じてついて来てくれる大切な仲間がいる!あくび…!楓子…!幽々…!私に人生を預けてくれた大切な仲間!そんな最高の仲間たちに、負け戦なんてさせたくない…!だからプライドを捨てて強さを求めた!!)

 

 

 そしてヨヨコは、ギターソロに入った。

 指がネックを駆け巡る速度が、まるで自分の意志を超えている。

 ピッキングが火を噴くように連打され、弦が悲鳴を上げる。

 タッピングの連打が火花を散らし、ビブラートが深く、感情を乗せて揺れ続ける。

 ベンドのピッチが完璧にコントロールされながらも、微妙な揺らぎで人間の苦しみと覚悟を表現する。

 

 ヨヨコの体は、勝手に動いていた。

 音が、勝手に溢れていた。

 頭の中が、真っ白になる。

 

 いや、真っ白じゃなくて──真っ赤に燃えていた。

 

 

 その輝きに、3人も一気にボルテージが上がった。

 

 

 幽々のベースが、突然深みを増した。

 低く唸る音が、まるで地響きのように会場を震わせる。

 ラインの正確さ、存在感、決めの完璧さ──全てがヨヨコのギターに呼応するように、バンド全体を支えながらも、埋もれることなく存在を主張する。

 幽々の指が、弦を強く押さえ、ピックが正確に弦を弾く。

 

 音がヨヨコのリードを引き立てながらも、独立した魂を持っていた。

 

 

 (幽々の好きなものって、みんなにバカにされがちだけど…信じて本気で怖がってくれる。ヨヨコ先輩の…そんな純粋なとことか…)

 

 

 楓子のリズムギターが、より重厚で高速なリフを刻み続ける。

 ヨヨコの鋭いリードを際立てながらも、決して埋もれない。

 コードの響きが、厚みを増し、グルーヴの土台を固め、バンド全体に重みを与える。

 楓子の指がネックを滑るように動き、ピッキングが力強く、しかし繊細に弦を叩く。

 

 音がヨヨコの輝きをさらに引き立て、バンド全体を一つの生き物のようにさせる。

 

 

 (いつもは可愛いけど…今みたいに、ライブ中は皆を引っ張ってくれる。ヨヨコ先輩の…そんなリーダーシップのあるところとか…)

 

 

 あくびのドラムが、完璧なフィルでバンド全体を引っ張った。

 バスドラの高速キープが、一切の揺らぎなく続き、フィルインのたびに会場が震える。

 スネアのクラック音は鋭く、まるで鞭のように空気を裂き、ハイハットはシャープに閉じ開きを繰り返し…グルーヴに息吹を与える。

 あくびのスティックが、まるでヨヨコのギターに呼応するように動き、バンドの心臓を刻む。

 

 音がヨヨコの輝きに触発され、爆発的に加速する。

 

 

 (海外フェスの大トリだの、世界チャート一位だの、ましてや【NEW GLORY】を超えて一番になるなんて…ほぼ無理ゲーなのに大真面目に目指してる。他の人にはない素直なとことか………みんなヨヨコ先輩のそういうとこが好きなんすよ。だから先輩の夢が一番になる事なら……ウチ等はその夢を、全力でサポートするっす)

 

 

 ヨヨコは、ギターを弾きながら、3人の音を感じていた。

 あくびのドラムが胸を叩き、幽々のベースが背中を支え、楓子のリズムギターが腕を引っ張る。

 

 

 (…幽々…楓子…あくび…ありがとう…みんなが居てくれれば…何も怖くない!!)

 

 

 ついに曲の終盤。

 

 4人の音が、完全にフュージョンした。

 

 ヨヨコの指がネックを駆け巡る速度は、もはや限界を超えていた。

 トランス状態の果てに意識の外側で音が生まれ、弦が悲鳴を上げ、フィードバックが空気を焼き切る。

 

 あくびのドラムは機械の正確さを超え、感情の爆発そのものになりながらも一切崩れない。

 

 幽々のベースラインは、ただの低音ではなく、バンドの心臓そのものとして脈打ち、ヨヨコのギターを支えながらも独立した輝きを放つ。

 

 楓子のリズムギターは、ヨヨコのリードを際立たせながら決して埋もれず、重厚なコード進行で会場全体を包み込む。

 

 全員が、命を削るような演奏をしていた。

 

 魂のこもった音。

 

 悔しさと、憧れと、負けたくないという気持ちが音に乗っている。

 

 

 会場が、震える。

 観客の歓声が、再び爆発する。

 

 でもヨヨコの耳には、もう届かない。

 ただ【SIDEROS】の音だけが、世界を埋め尽くす。

 

 

 

 (絶対負けない!!

 

 今度こそ…絶対勝つ!!

 

 今日のライブ…私たちが一番盛り上げる!!

 

 オーディエンスの興味も視線も、全部掻っ攫ってやる!!

 

 

 私たちはもっと、高く飛ぶ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【SIDEROS】が、一番になる!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ステージの照明がゆっくりと落ち、静寂が訪れた。

 最後の歓声の余韻がまだ会場に残る中、MCの声が響き渡る。

 

 

 『みんな待たせたな!それでは…未確認ライオットファイナルステージ、結果発表だー!!』

 

 

 私はステージ袖で、虹夏ちゃん・喜多ちゃん・リョウさんと肩を寄せ合っていた。

 手が冷たくて…指先が震える…

 胸の鼓動がうるさくて…耳の奥でずっと鳴り響いてる。

 

 みんなの顔を見た。

 

 虹夏ちゃんは祈るように両手を握ったまま唇を噛み、喜多ちゃんは胸に手を当てて目を閉じ、リョウさんは無表情のまま視線をステージに向けている。

 

 誰も何も言わず、ただ息を殺して待っていた。

 

 

 【SIDEROS】の演奏は、圧倒的だった……

 

 

 大槻さんの歌声とギターが炸裂した瞬間、会場全体が飲み込まれた。

 

 長谷川さんのドラム、本城さんのリズムギター、内田さんのベース──全てが魂を削るように響いて、オーディエンスの心を鷲掴みにした。

 

 

 観客の反応は半々だった。

 

 

 【結束バンド】を応援する歓声と、【SIDEROS】に心を奪われた歓声が交錯し、どちらが勝つか、本当に想像もつかなかった。

 

 それでも私たちは…自分たちの演奏を信じた。

 

 ライブ審査の時の…あの手応えは感じなかったけど、それでもギターヒーロー時と遜色ない実力を出せた。

 

 私たちは持てる力の全てを出し切った。

 

 ミスなく、感情を乗せ、4人の音が完全に一つになった。

 

 

 私たちの絆は、【SIDEROS】にも負けない自信があった。

 

 

 あの東京ドームの一夜から、【NEW GLORY】に…お父さんにエールを貰い…それぞれ指導を貰い…ここまでやって来た。

 

 私たちは、負けられない。

 

 絶対負けたくない。

 

 絶対優勝して、お父さん達に恩返しするんだ。

 

 

 そしてMCの声が、再び響く。

 

 

 『まず、準グランプリからの発表だ!!未確認ライオット、準グランプリを制したのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【結束バンド】だー!!!』

 

 

 

 

 

 ……………え?

 

 

 

 

 

 『そして…今回の未確認ライオットのグランプリを制したのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【SIDEROS】だー!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

 え??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………え?




ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
SIDEROSのジャンル、メタルなのは知ってるけど…どんな曲調か分からなかったのでアドリブで書きました。(Unlucky Morpheusの「Black Pentagram」とかBABYMETALの「Road of Resistance」みたいな感じのメロディを想像しました。はよアニメで聴きたい…)

そして、前から結束バンドとSIDEROSどっち勝たせようか迷ったんですけど、SIDEROSにしました。
あと書いてて思ったけど、つっきーが王道漫画の主人公みたいになってもうた…
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