娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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お気に入り登録、感想ありがとうございます!
遅くなって申し訳ない。
新年度で仕事忙しかったのと、単純にネタ切れで難航しておりました。
絶対エタらないようにして完結まで持っていきます。
今回はぽやみさん視点の話になります。(何気にこのss、ぽやみさん視点の描写が一番多い気がする…)
それではどうぞ


32

 

 

 「えっと…ここを右か…」

 

 

 私はスマホの地図を確認しながら、巨大なビルの影に飲み込まれそうになりつつ歩いた。

 

 私は佐藤愛子。

 ぽいずん♡やみってペンネームでフリーライターをやってる。

 

 音楽ライターを名乗ってるけど、実際は底辺も底辺。

 PV数はいつも低空飛行。

 前まではネタ記事や炎上狙いのゴシップで食いつないでいたけど、ここ最近は昔みたいにまともな音楽記事を書いている。

 …まぁ、数字は一向に伸びないけど。

 読まれない記事を量産してる自分が、なんだか情けなくなる…

 

 でも今日は、そんな日常から少し離れた場所に来た。

 

 

 「ヤバ…ストレイビートのオンボロビルとは比べ物にならない…」

 

 

 私は港区六本木の、まるで空を突き刺すような巨大な高層ビルの前に立っていた。

 

 周囲のビルと比べても明らかに一際大きい。

 ガラスと鋼鉄でできた黒と銀の外観は、威圧感と洗練された美しさを同時に放っていて、ただそこに存在するだけで「ここは特別な場所だ」と主張している。

 

 入り口付近の大きい石碑には、シンプルで洗練されたロゴが彫られてた。

 

 

 レコード会社Fusion(フュージョン) Impact(インパクト)

 

 

 国内最大手のメジャーレーベルで、日本を代表する音楽アーティストや国民的アイドル、大人気ロックバンドなど、国内の音楽チャートの“上位常連”がゴロゴロいるレーベルだ。

 

 最近だと未確認ライオットで優勝した【SIDEROS】も、このレーベルにスカウトされて加入したばかり。

 

 

 何より大きいのは……このレーベルの顔であり、世界を代表するロックバンド…【NEW GLORY】が所属しているという事実。

 

 

 私は今、そのFusion Impactの本社ビルに呼ばれていた。

 そして、私のような底辺ライターがここに呼ばれた理由…

 

 それは──【NEW GLORY】のNaokIさんから、()()()()()()()()()()からだ。

 

 

 「…ふぅ……行くか…」

 

 

 深く息を吐きながら、エントランスの自動ドアをくぐる。

 中は予想通り、静かで高級感に満ちていた。

 大理石の床が磨き上げられ、天井は高く、受付カウンターは黒御影石でできていて、後ろの壁にはレーベルのロゴが控えめに浮かび上がっている。

 空気までもが違う。

 普通のオフィスビルとは明らかに違う、緊張感と品格があった。

 

 受付の女性に近づき、できるだけ落ち着いた声で言った。

 

 

 「こんにちは…佐藤愛子と申します。14時に【NEW GLORY】のNaokIさんとお約束しているのですが…」

 

 「佐藤愛子様ですね……お待ちしておりました。確認の為、メール画面をお見せいただけますでしょうか?」

 

 「あっはい」

 

 

 私は慌ててスマホを取り出して、NaokIさんから送られたメール画面を受付に見せた。

 

 それと今日は“ぽいずん♡やみ”ではなく、本名の佐藤愛子で通している。

 普段はペンネームで活動しているけど、さすがにこの場所で名乗る勇気はなかった。

 

 

 (というか…こんな凄いところで、“ぽいずん♡やみ”って名乗るのは…さすがに私でも恥ずかしい)

 

 

 受付の女性はメールを確認すると、柔らかく微笑んだ。

 

 

 「ありがとうございます。では、エレベーターまでご案内いたします」

 

 

 案内されたエレベーターに乗り込む。…エレベーターの中ですら高級感がすごい。

 木目調のパネルに、柔らかい間接照明、微かに流れるクラシック音楽……全部が「ここは一般人が来る場所ではない」と無言で主張しているようだった。

 

 あと服装も、いつもの痛い格好とは正反対だ。

 黒のタイトスカート、白のシンプルなシルクブラウス、控えめなパールネックレス、黒のエナメルパンプス。

 髪は低くまとめ、化粧も薄くナチュラルに仕上げた。

 

 

 「こちらになります」

 

 「あっはい…!ありがとうございます…!」

 

 

 色々考えてるうちに、気づけば50階に到着していた。

 エレベーターを降りて廊下を進むだけで、空気がどんどん濃くなっていく気がした。

 

 そしてドアが開いた先は──完全に別世界だった。

 

 

 (うわ…ヤバ……)

 

 

 応接室に案内された瞬間、私は言葉を失った。

 

 部屋はガラス張りが基調で、東京の街並みをほぼ360度一望できる。

 昼の柔らかな日差しが差し込み、六本木のビル群や遠くの東京タワーが、まるで宝石のように輝いている。

 広さは50畳以上で天井は高く、床は深みのあるダークウォルナットの寄せ木張りで、ところどころに厚手のペルシャ絨毯が敷かれている。

 中は高級ラウンジ顔負けの設えだった。

 ソファは最高級の本革で、座っただけで体が優しく包み込まれるような柔らかさ。

ローテーブルは一枚板の黒御影石で、表面は鏡のように磨き上げられている。

 照明は柔らかい間接光と、控えめなシャンデリアが融合し、部屋全体を上品な黄金色に染めていた。

 空気中に漂うのは、ほのかに高級なウッドとレザーの香り。

 ここは応接室というより、VIPをもてなすためのプライベートラウンジそのものだった。

 

 

 「時間まで、そこのソファに腰掛けてお待ちください」

 

 「あっはい…!ありがとうございます…!」

 

 

 受付の女性が出ていったあと、私はソファの端に浅く腰を下ろし、膝の上で名刺ケースをぎゅっと握りしめたまま、部屋の中を見渡した。

 

 そして、壁一面に設置された宝石店のように厳重なガラスショーケースに、目が釘付けになった。

 

 その中に…世界の頂点を極め続けた証が、圧倒的な輝きを放って並んでいた。

 

 

 全て、【NEW GLORY】が総ナメした音楽賞だ。

 

 

 まず最初に飛び込んできたのは、【NEW GLORY】とNaokIさんが獲得した(ほぼNaokIさんの功績だけど…)グラマー賞のトロフィーが43個。

 

 【NEW GLORY】として23回受賞、NaokIさんが個人で楽曲提供した作品で20回受賞。

 

 ノミネート回数も世界一で、最重要3部門(Album of the Year / Record of the Year / Song of the Year)では史上最多を記録している。

 

 金色に輝く像の群れは、ただの賞ではなく、音楽史そのものだった。

 Best Rock Album、Best Rock Song、Best Rock Performanceはもちろん、Best Alternative Music Album、Best Engineered Album、Producer of the Yearまでもがズラリ。

 個人提供部門では、世界的大人気シンガー達(Ed Sheer○n、Justin Bie○er、Brun○ Mars級)はもちろん、世界最高峰の歌姫達(Tayl○r Swift、Ariana Gr○nde、Lady Gag○、Adel○級)や世界的有名なラッパー達(Emine○、Dra○e、Wiz Khali○a級)、K-POPアイドル達(○TS、BLACKPI○K、TW○CE、Stray Kid○級)海外のロックバンド達(Bring Me The Horiz○n、C○ldplay、Linkin Par○級)への楽曲でSong of the Yearを複数回、Record of the Year、Best R&B Song、Best Rap Song、Best Dance/Electronic Albumまで総ナメにしている。

 

 

 その隣のショーケースに並ぶのは、ビラボード・ミュージック・アワード。

 

 ここでも【NEW GLORY】とNaokIさんは、途方もない受賞数を記録していた。

 

 ロックバンドとしてここまで到達した例は世界中を探しても存在しない。

 Top Biraboard 200 Album、Top Hot 100 Song、Top Rock Artist、Top Rock Album、Top Rock Song、Top Alternative Artist、Artist of the Year…

 ポップの女王であるTaylor ○wiftと肩を並べ、しかもロックというジャンルでこれだけの数字を叩き出すなど、常識では考えられない。

 

 

 さらに奥の特別スペースにはNM○ Awardsのトロフィーが並んでいた。

 

 イギリスの権威ある音楽賞「N○E Awards」でも、【NEW GLORY】とNaokIさんは最多受賞記録を保持している。

 

 Best International Band、Best Album、Best Live Band、Best Track、Best Music Video、Hero of the Year、Best Festival Headliner、Outstanding Contribution to Music…

 ○ME Awardsはイギリス発祥でありながら、世界中のロック・インディーシーンに大きな影響力を持つ賞だが、日本人ロックバンドがここまで圧倒的な最多記録を打ち立てている事実は、異常ですらあった。

 

 そして、それだけでは終わらない。

 

 ショーケースの残りのスペースは、その他の音楽賞で埋め尽くされていた。

 MT○ Video Music Awards、iHe○rtRadio Music Awards、Br○t Awards、Americ○n Music Awards、Juno○n Awards、R○ck and Roll Hall of Fame関連賞、Ker○ang! Awards、○ Awards、M○JO Awards、W○rld Music Awards、Lati○ Grammy…

 

 文字通り総ナメだった。

 

 世界中の主要音楽賞を、【NEW GLORY】とNaokIさんは、ほぼ全て制覇し続けている。

 結成わずか20年余りで、これだけの偉業を成し遂げることの凄さは、言葉では到底表せない。

 

 普通のバンドなら、10年活動してようやく国内で名前が知られる程度。

 20年続けばベテランと呼ばれるが、世界の頂点に君臨するなど夢のまた夢だ。

 

 それが【NEW GLORY】は、結成1〜2年でドーム制覇。

 そのまま飛ぶ鳥を落とす勢いで規模を拡大し、スタジアム・国立クラスへ移行。

 その後も一切停滞することなく、海外進出を果たし、アリーナツアーやスタジアムツアーを連発。

 そして今や、グラマー、ビラボード、NM○最多、その他世界中の音楽賞を総ナメにするモンスターバンドに成長した。

 日本人ロックバンドが、ここまでグローバルに総ナメするなど、音楽史上前例がない。

 英語圏中心の音楽業界で、日本のバンドがこれだけの数字を叩き出すことは、単なる人気ではなく、音楽そのもので世界の基準を変えたという証明だ。

 

 

 (グラマー43回受賞…ビラボードにN○Eも最多…他の音楽賞も総ナメって…結成20年余りで日本のロックバンドがここまでやるなんて…本当に人間業じゃない……そんな凄い人に…今日呼び出されたんだ…)

 

 

 その時、静かにドアが開く音がした。

 

 私はハッとして我に返り、慌てて立ち上がった。

 心臓が一気に跳ね上がり、喉がカラカラに乾く。

 

 入ってきたのは、【NEW GLORY】のNaokIさん本人と、黒いスーツを着た女性だった。

 

 女性は【NEW GLORY】のマネージャーだとすぐにわかった。

 二人とも、穏やかな表情でこちらを見ている。

 私は咄嗟に頭を下げ、震える手で名刺ケースを開いた。

 いつもの手作り感満載で派手な名刺ではなく、業者にちゃんと発注したシンプルで清潔な名刺を二人に差し出した。

 

 

 「さっ佐藤愛子と申します…!本日はお呼びいただき、ありがとうございます…!」

 

 

 声が上ずっているのが自分でもはっきりわかった。

 

 顔が熱い。

 

 目もまともに上げられない。

 

 NaokIさんは優しく微笑みながら名刺を受け取り、軽く会釈を返した。

 マネージャーの方も穏やかな笑顔で「よろしくお願いします」と挨拶したあと、名刺交換に応じてくれたが、私の頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。

 

 

 (…なんで、私がここに呼ばれたんだろう…)

 

 

 私は数日前の出来事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 未確認ライオットの会場で【結束バンド】に謝罪して、和解した数日後。

 あの日以降、【結束バンド】は他のレーベルからもオファーが届いた。

 

 【結束バンド】は本格的にレーベル選びを始めた。

 

 複数のインディーズレーベル、そして何社かのメジャーレーベルと面談を重ねたらしい。

 条件、バックアップ体制、契約内容…もちろん大事だったが、彼女らが一番重視していたのは「自分たちの音楽を尊重してくれるかどうか」だった。

 

 

 最終的に選んだのは、ストレイビートだった。

 

 

 マネージャーの司馬さんが「【結束バンド】のみなさんがやりたい音楽を、【結束バンド】らしく届けるお手伝いをしたいと思ってます」と言ったのが決め手になった。

 無理に商業的な方向に曲げようとせず、【結束バンド】の意思を一番に考えてくれる姿勢が、4人の心を掴んだようだ。

 

 

 (やっぱり、あの子たちは本物だ…)

 

 

 未確認ライオットで優勝を逃した直後でも、【結束バンド】はすぐに前を向いて動いている。

 しかも、ただ勢いだけでレーベルを選んだわけじゃない。

 ちゃんと自分たちの活動スタイルに合ったところを、冷静に判断して決めた。

 

 

 (私も、できる限りサポートしていきたいな…)

 

 

 私はスマホを握りしめながら、小さく微笑んだ。

 これから【結束バンド】は、本格的に音楽の世界に足を踏み入れる。

 ストレイビートというレーベルで、どんな音楽を届けてくれるのか…

 私はライターとして、ちゃんと見届けたいと思った。

 

 

 (………それにしても…たった1年未満でよくここまで成長したわね…)

 

 

 私はふと、これまでの【結束バンド】の活躍を思い出した。

 あのスターリーでの一夜から、【結束バンド】は何があったのか知らないが、急激に成長していった。

 

 最初は、ギターヒーローさんのおまけみたいな印象だった。

 

 でも気がつけば、ギターヒーローさんの演奏が安定しただけでなく、他の三人…虹夏ちゃん、喜多ちゃんも、目に見えて実力が上がっていた。

 元々上手かった山田さんなんて、今じゃスタジオミュージシャンクラスの腕前だ。

 

 SNSでの発信はもちろん、路上ライブで自分たちを宣伝したり。

 池袋のブッキングライブでは完全にアウェーな環境で、それでもその場の客をほぼファンに変えるほどの演奏を見せたり。

 ネット審査では初登場で6位という快挙を成し遂げたり。

 そしてライブ審査では、会場全体を一瞬で飲み込むような圧倒的な演奏を披露した。

 ファイナルステージでは、惜しくも【SIDEROS】に僅差で負けたが、あのステージに立った4人の姿は、既にプロとしてもやっていけるレベルに達していた。

 

 

 (……本当に、すごい子たちだ……)

 

 

 職業柄色んなバンドを見てきた私から見ても、【結束バンド】のここ数ヶ月での成長は異常だった。

 技術的な面だけでなく、4人全員から本気でプロになろうという気概が強く伝わってくる。

 

 

 (それにしても、私の書いた記事…なんの意味もなかったわね)

 

 

 ネット審査の投票が始まってすぐの頃、私はいつもの調子で記事を書いていた。

 

 

 タイトルは『【絶対バズる!】次くる若手バンド10選【まとめ】』

 

 

 その中に、もちろん【結束バンド】も入れていた。

 でも今振り返ると…本当に意味なかったなと思う。

 あの記事なんて、ただの「次に来そうなバンド」の一つとして並べただけ。

 まさかあの直後にライブ審査で会場を震撼さふせ、ファイナルで【SIDEROS】と僅差の死闘を繰り広げ、レーベル契約まで決めてしまうなんて、想像もしていなかった。

 

 

 (まぁ多少は反響よかったけど、あの子たちは私なんか関係なく、自分たちの力でここまで来たからね…本当に凄い…)

 

 

 私はベッドに寝転がりながら、スマホをぼんやり眺めていた。

 

 

 「さてと、明日はストレイビートのバイトもないし…またバンドの取材でもするかぁ〜。…そろそろ寝よ」

 

 

 そう呟いて、スマホを置いて布団に潜ろうとした瞬間、着信音が鳴った。

 

 

 「………もう!せっかく寝ようと思ったのに誰よ!…え?マジで誰?」

 

 

 着信画面に表示されたのは、知らない番号だった。

 

 

 「…ひょっとしてまたアンチかな?ここ最近はこういうのなかったのにな………はぁ」

 

 

 私はため息をつきながらも、仕事の電話かもしれないと思い、一応通話ボタンを押した。

 

 

 「はい」

 

 『あっもしもし…夜分遅くにすみません。ぽいずん♡やみさんの番号ですよね?』

 

 

 ……………………え?

 この聞き覚えのある低くて穏やかな声って…もしかして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『後藤直樹と言います。【NEW GLORY】のNaokIと言えばわかりますか?以前スターリーで会った時、名刺を貰ったので掛けさせてもらいました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓が止まるかと思った。

 

 

 「な…なななななななななななななななNaokIさんッッッッッッッッ!!??!!!!!??!?!?!?!?」

 

 『あっはい。お久しぶりです』

 

 (え?え!?ええ!?え?!え!!?なっなななななななんでNaokIさんが私に!!?ていうか……え?スターリーで…名刺?)

 

 

 そこで私は、あの日のスターリーでの出来事を、フラッシュバックのように思い出した。

 

 


 

 

 『こ…これ…私の名刺です。もう二度と邪魔しません…!誰にも言いふらしたりしません…全部、ここだけの話にします…!【NEW GLORY】のこと…NaokIさんのこと…世界一大好きです…!NaokIさんの事、死ぬほど愛してます…一生NaokIさんのファンでいます…うぇぇぇぇん!!』*1

 

 

 


 

 

 (………………………………あっ!!!!!!あの時かッッッ!!!!!そういやそんな事あったような気がするし…なかったような気がする!…あの時、NaokIさんに言われた訴訟と出禁って単語で頭ぐちゃぐちゃになってたのと、泣いてる私の頭をナデナデしてくれて…家帰ってからキュンキュンしまくって、めちゃくちゃ興奮してたから全然気づかなかった!)

 

 『それで少し…お話ししたいことが………あの〜、もしもし?』

 

 (………………………しゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!よっしゃよっしゃよっしゃよっしゃよっしゃよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!マジでナイスだよ私!!!!!土壇場で最高のファインプレーじゃん!!!!!!!ガチで私天才!!!神!!!!!いや〜、やっぱフリーライターって夢あるわ〜www)

 

 『もしもし〜……あれ?聞こえてないのかな?』

 

 「あっ!!すみません!!大丈夫です!!聞こえてます!!!」

 

 『ああ…よかった…』

 

 

 一瞬で顔が真っ赤になり、頭の中が真っ白になった。

 あの混乱の最中、泣きながら渡した名刺を…まさか本当に取っておいて、番号を登録してくれていたなんて…!

 私はスマホを両手で握りしめ、声が裏返りながらも必死に言葉を絞り出した。

 

 

 「そ…それより!名刺持っててくださってたんですね!?うっうわぁ…!本当に…本当にNaokIさんから電話…きてる……!?夢…?夢じゃないですよね…!!?」

 

 

 電話の向こうで、NaokIさんが小さく笑ったのが伝わってきた。

 

 

 『覚えていますよ。あの時はこちらも少し取り乱してしまってすみませんでした。やみさん…今度、少しお時間いただけますか?直接お話したいことと、頼みたい事がありまして』

 

 

 私はベッドの上でガバッと起き上がり、興奮で声が完全に裏返ったまま答えた。

 

 

 「は、はい!!いつでも大丈夫です!!NaokIさんのお時間に合わせます!!」

 

 

 心臓が爆発しそうだった。

 頭の中は「NaokIさんが私の番号を…私の名刺を…」という言葉で埋め尽くされている。

 電話の向こうのNaokIさんは、相変わらず穏やかな声で続けた。

 

 

 『では近日中に日程と時間を調整して、また連絡します。…それでは、失礼し…』

 

 

 あっやばい!!切られる!!

 その前に伝えておかなきゃ!!

 

 

 「あっあの!!」

 

 『?はい。なんですか?』

 

 「あ…あの…私の名前…佐藤愛子と言います…できれば、ペンネームじゃなくて…そっちの名前で呼んでいただけると…それと…前会った時みたいに…敬語は使わなくても…大丈夫です…」

 

 

 私は震える声で、なんとか言葉を絞り出した。

 NaokIさんは少し間を置いて、優しく言った。

 

 

 『わかった…あとで場所と日程のメールを送るね。夜遅くにごめんね。それじゃあまたね…愛子ちゃん』

 

 

 通話が切れた瞬間、私はスマホを両手でぎゅっと抱きしめて、ベッドに勢いよく倒れ込んだ。

 

 

 「……うわああああああああああああああああ!!!!!!!!!NaokIさんが…!!NaokIさんが…!!!私の番号に直接電話かけてきてくれたぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

 心臓が爆発しそう。

 顔がカァァァァッと熱くなって、耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。

 足がばたばた動いて、枕に顔を埋めながら体をくねくねさせてしまう。

 

 

 「きゃあああああ!!!しかもNaokIさんが私の名刺、ちゃんと取っておいてくれた!それに私の名前呼んでくれて…えへへ…えへへへへへ♡♡♡♡♡」

 

 

 私はスマホを胸に押し当てて、ベッドの上で転がり回った。

 限界オタク全開で、誰も見てないのに頰を両手で押さえて悶絶する。

 

 

 「ってこうしちゃいられない!!連絡先!!」

 

 

 私はすぐに起き上がり、スマホを両手で握りしめたまま、興奮で体を小刻みに震わせた。

 すぐに連絡先を登録した。

 名前は迷わず「NaokI様♡」と入力。

 NaokIさんの仕事用の番号だろうが、プライベートの番号だろうが、そんなことはどうでもいい。

 世界で最も希少な連絡先であることに変わりはない。

 

 

 「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!まさか…こんな底辺ライターの私に、NaokIさんが直接会ってくれるなんて!!!あぁもうマジ最高!!!!」

 

 

 その夜は、完全に眠れなかった。

 ベッドに横になっても、頭の中はNaokIさんの声でいっぱい。

 時々スマホを取り出しては、また着信履歴と連絡先を見て、一人で悶絶する。

 

 着る服も真剣に考え始めた。

 いつもの痛い格好は絶対にやめておこう。

 ちゃんとした大人っぽい服装にしなきゃ…でもいい女に見られたい…!

 クローゼットを開けて、何度も服を出し入れしながら悩み続ける。

 

 

 「NaokIさんに会うんだから…ちゃんと準備しないと…でも、緊張しすぎて死にそう………うう…でもそれ以上に……嬉しい…♡♡♡♡NaokIさんしゅき♡♡大しゅきぃ…♡♡♡♡♡」

 

 

 結局、朝までほとんど眠らず服選びをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 …で、今に至る。

 

 私は応接室のソファに浅く腰掛けたまま、目の前のNaokIさんをまともに見られないでいた。

 胸の鼓動がまだ収まらず、興奮状態だった。

 

 

 (やっぱり…NaokIさんカッコいいなぁ…♡♡あの国立の演奏が鮮明に蘇る…♡♡♡……って!おっ落ち着け私…!今は仕事…仕事の場なんだから…!!)

 

 

 私は深呼吸をして、なんとか声を絞り出した。

 

 

 「あっあの…今回は本当にお呼びいただき、ありがとうございます。そっそれで一体どのような用件で……?」

 

 

 するとNaokIさんは、穏やかな表情のまま静かに言った。

 

 

 「その前に、個人的に少し話したいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 「え…?あっはい!」

 

 

 私は慌てて頷いた。

 心臓がまたドキッと跳ねる。

 

 

 (個人的に…?なんだろう…?)

 

 

 NaokIさんは少し間を置いて、静かだけど真剣な声で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あの日…ひとりの帰りが遅かったから、スターリーで何があったのか聞いたんだ……君が【結束バンド】に言ったこととか全部…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ終わった。

 

 

 私をわざわざ呼び出した理由が、ようやくわかった…

 

 

 これあれだ…死刑執行しにきたんだ。

 

 

 私は頭の中で瞬時に結論を出した。

 ギターヒーローさんが、あの日のことを全部NaokIさんに話したんだ。

 

 

 (よくよく考えたら…私みたいな底辺ライターを、わざわざツアーの合間を縫ってNaokIさんが呼ぶ理由なんて、それしかないわ…そら大事な娘を傷つけるようなやつ、NaokIさんが野放しにするわけがない)

 

 

 そう脳が理解した瞬間、全身から血の気が引いた。

 私は膝の上でスカートをぎゅっと握りしめ、涙が溢れそうになりながらも、震える声で謝罪しようとした。

 

 

 「あっ…その…その節は大変…もっ申し訳…!」

 

 

 その時だった。

 NaokIさんが静かに、でもはっきりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 「ありがとう」

 

 

 

 

 

 突然のお礼の言葉に、私は固まった。

 頭の中が真っ白になる。

 

 

 「え……?」

 

 

 NaokIさんは優しく微笑みながら、穏やかな声で続けた。

 

 

 「あの日、スターリーで君が【結束バンド】に指摘してくれたことだよ…本当にありがとう。あれがきっかけで、彼女たちは大きく変わったんだ」

 

 

 私はぽかんとして、NaokIさんの顔をまじまじと見つめてしまった。

 

 

 (ありがとう…?叱られるんじゃなくて…お礼…?)

 

 

 目がうるうるしてきて、声が上ずる。

 

 

 「え…えっと…あの…私はただ…自分の意見を…キツく言ってしまって…」

 

 

 NaokIさんは少し間を置いて、穏やかだけど真剣な目で私を見た。

 

 

 「確かに……話を聞いた限りでは、あまり褒められたことではないと思ったよ」

 

 

 私はビクッと肩を震わせた。

 しかしNaokIさんは、静かに首を横に振った。

 

 

 「親として贔屓目で見たら…正直言い過ぎだと思った。ひとりが大切にしている仲間を、かなりキツく突き放すような言い方をしてたらしいからね」

 

 「……でも…それはそれとして、一バンドマンとして…プロの目線で客観的に見たら…君の指摘は何も間違っていなかったし、とても的確だったと思ってる」

 

 

 NaokIさんはそこで少し息を吐き、静かに続けた。

 

 

 「去年までの【結束バンド】は、確かに『身内同士の馴れ合い』が強く感じられた。練習もライブも楽しむことはできていたけど、『プロとしてどう成長していくか』という明確なビジョンや、外部に本気度を伝える努力が不足していたと思う」

 

 「SNSでの発信もほとんどなく、活動目標も曖昧で、『ただ友達同士でバンドやってる』という印象がどうしても外から伝わってしまっていたんだ。そういうバンドはたとえ演奏が上手くても、業界の人やリスナーに『この子たちは本気だ』と思ってもらいにくいんだ。僕としてもひとりが入ったばかりの頃は、嬉しくて応援していた反面…ほんの少しだけ……心配していた部分があった」

 

 

 NaokIさんはそこで軽く微笑み、言葉を続けた。

 

 

 「君が指摘した『ガチじゃない』という言葉や『お遊びバンド』という言葉は、確かにキツかったかもしれない…彼女たちを傷つけた部分もあったと思う」

 

 「……でも、身内だけじゃ絶対に見えなかった部分を、第三者の視点でズバリと言ってくれた。あの言葉がきっかけで、彼女たちは自分たちを客観視できるようになったんだ」

 

 「『ただ楽しい』だけじゃなく、『どうすればもっと多くの人に届くのか』『プロとしてどう在るべきか』を本気で考えるようになった」

 

 「結果としてライブ審査での演奏にも、その変化が如実に表れていた。技術的な向上はもちろん、演奏に『覚悟』と『熱量』が加わっていた」

 

 

 「だから…本当にありがとう」

 

 

 NaokIさんが、親としての贔屓目とプロとしての客観的な目線を、内と外ではっきりと割り切りながら話してくれている。

 そしてその上で、私の言葉を成長のきっかけとして認めてくれている。

 

 胸の奥が熱くなって、目頭がじんわりする。

 

 世界一大好きな人が、私の失言を言い過ぎだったと認めながらも、プロ目線で価値を認めてくれている……

 

 嬉しさと申し訳なさと照れがごちゃ混ぜになって、声が震えた。

 

 

 「そっそんな…!お礼を言われるようなことはなにも…!あの時の私は、ギターヒ…いや、ひとりさんを引き抜きたい一心で…人の気持ちも考えずに、ただ感情的になって…キツい言い方をしてしまいました…」

 

 

 NaokIさんは優しく微笑んだ。

 

 

 「それでもだよ。プロとして長く活動していると、身内だけじゃ見えない部分がどうしても出てくる。第三者の率直な意見は、時に一番大事なんだ。だからこそ…ちゃんと感謝を伝えたかった」

 

 「……NaokIさん…」

 

 

 NaokIさんからお礼を言われた瞬間、私は胸がいっぱいになった。

 

 でも…それと同時に自分の胸の奥から、強い罪悪感が込み上げてきた。

 

 

 (………ダメだ。それでもあの時の私は……明らかに言い過ぎだった。【結束バンド】のみんながどれだけ嫌な思いしたか…NaokIさんが親としてどんな気持ちでその話を聞いてたか…ギターヒーローさんがどれだけ怖い思いをしたか…考えもしなかった…)

 

 

 私は思わず立ち上がり、深く深く頭を下げた。

 声が震え、目頭が熱くなって、涙が溢れそうになるのを必死に堪えながら。

 

 

 「本当に…本当に申し訳ありませんでした…!あの時、私はただ自分の感情をぶつけるだけで…【結束バンド】のみんなをすごく傷つけるような、キツい言い方をしてしまいました…!」

 

 「正しい部分もあったのかもしれませんが、もっと優しく、もっと建設的に伝えるべきでした…」

 

 「NaokIさんの大事なひとりさんを…大切な家族を怖がらせるようなことをしてしまって…私は本当に、許されないことを…してしまいました………」

 

 

 声がどんどん小さくなり、喉が詰まる。

 頭を下げたまま、涙が一筋、頰を伝った。

 罪悪感が胸を抉るように痛くて、息をするのも苦しい。

 

 

 「NaokIさんがどんな気持ちで、娘さんのことを見守っていたか…私はちっとも考えていませんでした…正論を盾に…ただ自分の正義を振りかざして…本当に…最低です…心からお詫びします…!」

 

 

 私は腰を折ったまま、肩を小さく震わせた。

 

 世界一大好きな人に、こんな形で謝罪をするなんて…

 

 でもそれが今、私にできる精一杯だった。

 

 NaokIさんは静かに私の謝罪を聞き終えると優しく、でもはっきりとした声で言った。

 

 

 「……ありがとう。ちゃんと反省してくれているのが、ひしひしと伝わってくるよ…この件は水に流そう。僕自身は何も責めることはないから」

 

 

 私はゆっくりと顔を上げた。

 NaokIさんは、穏やかな目で私を見つめながら続けた。

 

 

 「ひとりから、あの日のことを全部聞いたよ。君が未確認ライオットのファイナルステージのあと、【結束バンド】のみんなにちゃんと謝罪したこと…そして、筋を通してケジメをつけていたこともね」

 

 「君が責任を取って向き合ったことを知って、僕は安心した。だから……もういいんだよ」

 

 

 その言葉と優しい眼差しに、私はまた胸がいっぱいになった。

 NaokIさんはこんな私を責めずに、謝罪を受け入れてくれて、認めてくれた。

 私は涙を堪えきれず、ぽろっと一筋零しながら、小さく頭を下げた。

 

 

 「ありがとうございます…本当に…ありがとうございます……」

 

 

 NaokIさんは小さく微笑み、話を本題に移した。

 

 

 「話が逸れてしまったね。それじゃあ本題に入るよ」

 

 

 私は慌てて顔を上げ、目を瞬かせた。

 

 

 「(……本題?やっぱり、何かあるんだ…)はい…!あっあの…なぜ、私をここにお呼びになったのか…お聞きしても…?」

 

 

 すると、今まで黙っていたマネージャーさんが、初めて口を開いた。

 

 

 「ここからは私が説明いたします。実は数週間前の国立競技場二日目のライブを、円盤化する予定なんです。その特典として、『Evolutionary』の制作秘話とワールドツアーに焦点を当てたロングインタビューを収録した、スペシャルブックレットを作りたいと考えています。

 そのインタビュー記事を、佐藤さんに書いてほしいんです」

 

 

 「…………え?」

 

 

 私は一瞬、頭が真っ白になった。

 

 インタビュー記事?『Evolutionary』の制作秘話?

 

 あの伝説のアルバムのロングインタビューを…私に……?

 

 マネージャーさんは私の困惑などお構いなしに、淡々と話を進めた。

 

 

 「もちろん、こちらから正式にオファーさせていただきますので、予算は一切気にせずお考えください。詳細はこちらにまとめておりますので、ご確認ください」

 

 

 そう言って、彼女はテーブルの上にA4サイズの書類を一枚、丁寧に滑らせて置いた。

 私は震える手でそれを受け取り、目を落とした。

 

 


 

 

 【業務委託契約 報酬内訳(税抜)】

 

 ・ 取材・拘束費:1日あたり150万円(【NEW GLORY】メンバー4人及びスタッフとの調整日を含む)

 

 ・執筆・構成費:超ロングインタビュー(原稿枚数無制限)600万円(構成・校正・レイアウト監修・写真選定込み)

 

 ・特急料金:納期短縮の場合200万円

 

 ・修正対応:回数無制限 無料

 

 ・ロイヤリティ:ブックレット販売部数に応じて 8%(初版10万部想定で初回印税 約1,200万円程度)

 

 


 

 

 私は資料を握ったまま、指先が小刻みに震えた。

 

 

 (…150万円に600万円…ロイヤリティ8%…初回だけで1200万円…?これ本気なの…?私みたいな底辺が、1回の仕事で…こんな金額……?破格にも程がある…)

 

 

 頭がくらくらする。現実味がまるでなかった。

 マネージャーさんはさらに、別の厚めのファイルを取り出してテーブルの上に置いた。

 

 

 「もし引き受けてくださるなら、こちらの契約書にサインをいただきたいと思います。機密保持契約書、業務委託契約書、著作権譲渡契約書、専属(独占)執筆合意書、その他諸々の重要書類一式です。内容はすべて事前にご確認いただけますのでご安心ください」

 

 

 ファイルの表紙を見ただけで、私の頭は完全にオーバーヒートした。

 

 

 (…機密保持…著作権譲渡…重要書類一式…?ちょ…ちょっと待って!話が急に現実的すぎる…!いやそれよりも…なんで私に…!?こんな大規模な公式ブックレットのインタビューを…!?『Evolutionary』の制作秘話にワールドツアーの概要を…あの伝説のアルバムの記事を…私が!?)

 

 

 もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 私は慌てて姿勢を正し、震える声で言った。

 

 

 「あっあの…失礼ですが……なぜ私なんですか?自分で言うのもなんですが…私はネットにもアンチが多くて、炎上系の記事も書いていたような底辺フリーライターです…実績のあるベテランライターさんや、もっと信頼できる方に任せた方が…絶対にいいと思うんですけど……」

 

 

 声が小さくなっていく。

 尻込みしながら、膝の上でスカートをぎゅっと握りしめた。

 

 

 (こんな大手レーベルなら、とっくに私の素性なんて調べ尽くしてるはず…それなのに、なぜわざわざ私を?)

 

 

 マネージャーさんは優しく微笑みながら、静かに答えた。

 

 

 「今回のインタビュー記事は、NaokIさんがあなたを直接指名されたんです」

 

 「……………………………………え?」

 

 

 私は目を丸くして、思わずNaokIさんの方を見た。

 NaokIさんは穏やかな表情のまま、静かに頷いた。

 

 私はますます混乱した。

 

 

 (え?え?え?NaokIさんが私を指名??いやなんで?めちゃくちゃ光栄だし、死ぬほど嬉しいんだけど…それ以上に分からなくなってきた…私なんかで、本当にいいの……?)

 

 

 胸がざわつく。

 嬉しさと困惑と不安がごちゃ混ぜになって、中々言葉が出てこない。

 それでも私は、震える声でなんとか尋ねた。

 

 

 「あっあの…NaokIさん。なぜ…私なんかを?」

 

 

 するとNaokIさんは、私の困惑した顔を優しく見つめながら、静かに話し始めた。

 

 

 「君を指名した理由ちゃんと話すね。実はばんらぼに投稿されてた君の書いた記事を…全部読ませてもらったんだ」

 

 

 私は一瞬、息が止まった。

 

 

 「………え?」

 

 

 頭の中でその言葉が反響する。

 

 全部?

 

 炎上狙いのネタ記事も、PV稼ぎのゴシップ記事も、初期の頃の音楽記事も…全部?

 

 軽く数百件は超えるはずなのに…?

 

 NaokIさんは穏やかな声で続けた。

 

 

 「ツアーの合間の移動時間やホテルにいる夜などに、時間を見つけては読んでいたよ。確かにネットで炎上を狙ったような記事や、ネタ目的のものもあった。…でも最近の記事、そして初期の頃に書いていた音楽記事は本当に熱意があって、そのバンドのことをちゃんと深掘りして書かれていた」

 

 

 NaokIさんは少し目を細め、具体的に言葉を続けた。

 

 

 「例えば、あるインディーズバンドのライブレポートでは『このバンドのボーカルは、ただ歌が上手いだけではなく、MCの合間に見せる一瞬の表情や、観客の最前列にいる高校生に向けた眼差しに、音楽で誰かを救いたいという強い意志が感じられた』と書いていた」

 

 「ただ『盛り上がった』と書くんじゃなく、ステージ上の空気感、メンバーの表情、音の裏側にある想いまで丁寧に描写していて、読んでいて『このバンドを、もっと多くの人に知ってほしい』という君の気持ちが、文章全体から強く伝わってきたんだ」

 

 

 彼はもう一つ、別の記事の例を挙げた。

 

 

 「別のバンドのインタビュー記事では、『彼らはまだ無名だけど、ライブ後の楽屋で『いつかこの曲が誰かの暗い夜を照らす灯りになればいい』と話していた。その言葉を聞いた時、このバンドの音楽はきっと、誰かの人生に深く寄り添うものになると確信した』と書いていた」

 

 「そういう表面的な感想ではなく、バンドの本質や、彼らが音楽に込めている想いを深く掘り下げて、読者に届けようとする姿勢が、とても印象的だった」

 

 

 NaokIさんは静かに微笑みながら、最後に言った。

 

 

 「ただ数字を稼ぐためじゃなく、心の底から音楽が大好きで、ちゃんと届けたいという純粋な意思が…君の記事からすごく感じられた。だからこそ、君の視点で書いてほしいと思ったんだ」

 

 

 私は完全に固まった。

 頭が真っ白で、言葉が出てこない。

 

 

 (NaokIさんが…私の記事をそんなに細かく読んで「深掘りされてる」「届けたいという意思が伝わってきた」って…具体的に、記事の内容まで覚えていてくれた…?)

 

 

 胸の奥が熱くなって、目頭がじんわりする。

 世界一大好きな人が、私の過去の記事を全部読み、

 しかも「熱意」や「届けたい」という部分を、こんなに丁寧に評価してくれている。

 私は震える声で、なんとか言葉を絞り出した。

 

 

 「…ほっ本当に…私でいいんですか?PV数の低い記事が…ほとんどで…誰にも評価されなかった…私なんかで…?」

 

 

 NaokIさんは私の目をまっすぐに見つめながら、静かに、しかしはっきりと続けた。

 

 

 「PV数は確かに少ないかもしれない…でも少なくとも、僕の胸にはしっかり届いたよ。こんなに熱意のある記事を書く人を、埋もれさせるのはもったいないと思ったんだ」

 

 

 その言葉が、私の胸に突き刺さった瞬間──

 

 心の奥底にずっとあった、誰にも言えなかった想いが、一気に溢れ出した。

 

 気がついたら、頰を伝う涙が止まらなかった。

 

 

 「う……うぅ……」

 

 

 私は慌てて両手で顔を覆ったが、涙は指の間からどんどん零れ落ちる。

 NaokIさんやマネージャーさんの前だというのに、嗚咽が漏れてしまう。

 NaokIさんは優しく力強い声で、最後にこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「君の頑張りも熱意もしっかり届いた。だから…もう報われてもいいだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉が決定的だった。

 

 NaokIさんの言葉が、私の胸の奥深くに突き刺さった瞬間──堰を切ったように、涙が溢れ出した。

 

 

 「…あ……あぁッ……!!」

 

 

 最初は堪えようとした。

 NaokIさんの前で、こんな情けない姿を見せるなんて。

 

 でも、もう限界だった。

 

 

 

 

 

 「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 私は両手で顔を覆い、肩を激しく震わせて大声で泣きじゃくった。

 嗚咽が止まらず、鼻水まで垂れてきて、惨めなのに、こんなに嬉しいのは初めてだった。

 

 NaokIさんは静かに立ち上がり、私の隣に腰を下ろした。

 そして、まるで自分の子どもをあやすように優しく私の背中をトントンと叩き、もう片方の手でそっと頭を撫でてくれた。

 

 

 「いいんだよ。泣いていい」

 

 

 その温かい手のひらと優しい声が、私の心の壁を一瞬で崩した。

 

 これまでの想いが、一気に溢れ出した。

 

 

 ライターになった当初は、本当に純粋だった。

 

 

 いいバンドをもっと多くの人に知ってほしいという一心で記事を書いていた。

 

 夜通し取材して、朝まで原稿を推敲して、熱意を込めて投稿した。

 

 

 でも、現実は残酷だった。

 

 

 心に響くバンドに出会っても、PVは一向に伸びない。

 

 「誰も興味ない」「読まれない」「炎上狙いの記事の方が稼げる」…そんな現実が、私の熱意を少しずつ削いでいった。

 

 気づけば炎上狙いのしょうもない記事を量産する自分がいて、そんな自分に心底嫌気がさしていた。

 

 ネットではアンチばかり増えて、周りからも疎まれて、自分が何をしているのか分からなくなった。

 

 

 “何のために音楽ライターをやっているのか“

 

 

 毎日のように自問自答して、自己嫌悪に押しつぶされていた。

 

 音楽が好きだったはずの気持ちすら、汚れてしまった気がして、もう何も書きたくないと思う日が何度もあった。

 

 『私は一生、こんな底辺のままなんだ…』

 

 そう思って、夜中に一人で泣いたことも…数え切れないほどあった。

 

 

 なのに──

 

 

 世界一のバンドマンが、世界一のギタリストが、世界で一番大好きな人が…私の記事を、全部読んでくれた。

 

 「熱意が伝わってきた」「届けたいという想いが感じられた」と……認めてくれた。

 

 

 「うぅ…うわああああ…!!NaokIさんッ…!ありがとう…ございます…本当に…本当に!!私…ずっと…頑張ってたのに…誰も…見てくれなくて…!…嫌になって…!自分を嫌いになって…!それでも音楽が好きで…やめられなくて…!!」

 

 

 NaokIさんは何も言わず、ただ静かに私を抱きしめてくれた。

 大きな手で頭を優しく撫で続け、時々「大丈夫だよ」と小さな声で囁いてくれる。

 マネージャーさんは少し離れたところで、微笑みながら黙って見守ってくれていた。

 私はNaokIさんの胸に顔を埋めたまま、声を上げて泣き続けた。

 

 今までの挫折、自己嫌悪、孤独…全部が溶けていくような…

 

 やっと「報われた」と実感できる、人生で一番温かい涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……どれくらい泣いていただろう。

 

 数分が経ち、ようやく嗚咽が小さくなっていった。

 私はNaokIさんの胸からゆっくり顔を離し、慌てて両手で涙を拭った。

 顔がぐちゃぐちゃで、鼻水まで垂れていて、目も真っ赤に腫れているのが自分でも痛いほどわかった。

 

 

 (…やばい…めちゃくちゃ泣いちゃった…NaokIさんの胸に思いっきり顔埋めて…恥ずかしい…死ぬほど恥ずかしい……!それにただでさえツアー中で忙しいのに、わざわざ貴重な時間を割いてくれたのに、こんなに奪っちゃって…本当に申し訳ない…!)

 

 

 私は小さく縮こまり、ソファの端に体を寄せてうつむいた。

 耳まで真っ赤で、視線を合わせるのも怖い。

 世界一大好きな人の前で、こんな情けない姿を見せてしまった罪悪感と羞恥で、胸が潰れそうだった。

 しかし、NaokIさんとマネージャーさんは全然気にした様子もなく、二人とも優しく微笑んでいた。

 NaokIさんは穏やかな声で、まるで子どもをあやすように言った。

 

 

 「大丈夫?落ち着いた?」

 

 「あっはい…ありがとうございます……そっそれよりすみませんでした…私の涙でNaokIさんのお召し物を…」

 

 「いいよ。気にしてないから」

 

 

 その優しい声と、さっきまで私の背中をトントンしてくれていた温もりが、まだ残っている気がして、私はまた胸が熱くなった。

 

 マネージャーさんが柔らかい笑顔で聞いてきた。

 

 

 「それでは佐藤さん…どうしますか?インタビュー記事の件ですが…」

 

 

 私は涙を拭った後、深呼吸を一つして、顔を上げた。

 目がまだ少し腫れているけど、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。

 私は拳を軽く握り、はっきりと言った。

 

 

 

 

 

 「…やります!やらせてください!!絶対に、最高のインタビュー記事に仕上げます!NaokIさんの想いも、【NEW GLORY】の音楽への情熱も、全部ちゃんと読者に届くように…全力で、命を懸けて書かせていただきます!」

 

 

 

 

 

 声に力が入っていた。

 さっきまで大泣きしていたのが嘘みたいに、急にやる気で胸がいっぱいになった。

 

 

 (…この仕事、絶対に失敗できない!NaokIさんが私を指名してくれたんだから…今まで報われなかった分も全部込めて…最高のものを絶対に作ってやる!!私の音楽への愛も、NaokIさんへの想いも…全部、ちゃんと届けたい!!!)

 

 

 マネージャーさんは嬉しそうに頷き、NaokIさんは優しく微笑んでくれた。

 その笑顔を見た瞬間、私はまた胸がきゅんっとなって、

 今はぐっと堪えて、プロの顔を保とうと必死だった。

 

 でも心の中ではもう、『NaokIさんのために、絶対にいい記事を書く』という決意で燃えていた。

 

 

*1
13話参照




今回も読んでくれた方、ありがとうございました!
今回はぽやみさんのオリジナル回で、ぽやみさんの根っこを救う回になりました。
ぼざろ二次でも大体ヘイトキャラにされがちだし(まぁ自分も大概ひどい扱いしてたけど…)ガチで大好きなキャラなので報われて欲しいと思い、今回の話を作りました。
よかったね、やみちゃん。もうライターだけで十分食べていけるよ
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