娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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今回はぼっちちゃんが新曲を作る回です。原作5巻では編曲でしたが、今回は思い切って新曲を一人で作る話にしました。
そして原作で数少ないぼっちパパの出番なので、当然NaokIとして大いに活躍してもらいます。
あと4巻の旅行の話はダレるのでダイジェストとセリフだけで送りたいと思います。
それではどうぞ


33

 

 

 あれから【結束バンド】は目まぐるしく動き出していた。

 

 

 虹夏とリョウは運転免許取得のため自動車学校に通い始めた。

 

 だがリョウは、スターリーでのバイト連勤に内職*1・曲作り・自主練・車校の教習・学科試験の勉強が重なり、今まで経験したことないくらいのマルチタスクをこなした結果──きらら感満載の初期山田状態になり、頭がパンクしていた。

 

 

 そんな中、息抜きを兼ねて【結束バンド】はリョウの実家が所有する、海の近くの別荘に行く話が持ち上がった。

 しかしひとりは、(海なんて陽キャが行く場所…無理だ…)と脳内で拒否。

 

 

 そしてひとりは勇気を振り絞って、『旅行なら、LAにある家に行きませんか?』と【結束バンド】の三人に提案した。

 

 

 当然【結束バンド】の三人は思考が飛んだ。

 リョウは目を見開き、虹夏は口をぽかんと開け、喜多はスマホを落としそうになった。

 三人とも、ひとりの言葉の意味を理解するのに数秒を要した。

 

 当日、【結束バンド】と引率役のぽいずん♡やみは、羽田空港のプライベート専用ターミナル(VVIPターミナル)に集まっていた。

 

 何故やみが、引率役として同行することになったかというと、インタビュー記事の執筆まで時間が空いていたことと、星歌やPAさんはスターリーの仕事で多忙だったことと*2、直樹から頼まれたため*3引率することになった。

 

 移動手段は直樹が個人で所有してる、最高級プライベートジェット。

 機内に入った瞬間、虹夏・リョウ・喜多・やみの4人は完全に宇宙猫状態になった。

 ひとりは【NEW GLORY】のワールドツアーや家族旅行の時に何度も乗っているため、慣れた様子だった。

 

 長時間のフライトの後、5人はLAに到着。

 アメリカは銃社会ということもあり、到着から要人警護クラスの厳重なセキュリティチームに守られながら、LAのベルエアにある後藤家の邸宅へと向かった。

 

 着いた先は、金沢八景の後藤家の数倍の広さを持つ、圧倒的なスケールの超巨大豪邸だった。

 当然セキュリティも日本の比ではなく、完全に要塞と化していた。

 【結束バンド】の三人はなんとなく察していたとはいえ、実際に見て言葉を失った。

 初見のやみは、門をくぐった瞬間に言葉を失い、固まっていた。

 

 その後、5人は豪邸を隅々まで探索したり、レジャー施設顔負けのプライベートプールや高級スパを満喫したり、シアタールームで映画鑑賞したり、一流シェフが作る極上の料理を堪能したりした。

 夜にはヘリポートからヘリコプターに乗り、LAの夜景を空中から楽しむという贅沢も味わった。

 

 それから数日は観光やショッピングも楽しみ、5人はこの上ないバカンスを満喫した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 8月某日。

 虹夏は楽曲の打ち合わせと進捗報告のため、ストレイビートに訪れていた。

 

 

 「お疲れ様でーす。楽曲の打ち合わせに来ましたー。あっ司馬さん、お土産持ってきましたー!」

 

 

 来て早々、虹夏は紙袋を嬉しそうに差し出した。

 中にはLAで買った高級チョコレートに、LAの有名チェーン店の手軽で美味しいティーパック、ローカルブランドの雑貨が入っている。

 司馬は少し驚いた顔で受け取りながら、微笑んだ。

 

 

 「ありがとうございます伊地知さん。旅行は楽しかったですか?」

 

 

 その質問に虹夏の顔がパァッと輝き、『待ってました』と言わんばかりにマシンガントークをかました。

 虹夏は目をキラキラさせ、興奮を抑えきれずに両手を大きく広げて、手を振りながら夢中になって一気に説明し出した。

 

 

 「もう最高でした!!!まず移動がすごくて、Nao…ぼっちちゃんのお父さんが所有してるプライベートジェットに乗ったんですよ!機内が高級ホテルのスイートルームみたいで、座席はフルフラットになるベッドみたいに倒れて、広いリビングエリアに高級ソファベッドに専用のシャワールームまで完備されてて、食事もシェフが作ったコース料理が出てきて、空の上なのにリゾート気分でした!窓から見える雲海とか、夜の星空とか…もう興奮しっぱなしで、ずっとはしゃいでました!」

 

 「主寝室はさすがにぼっちちゃんに譲ったんですけど、それでも他のソファベッドやシートも驚くほど寝心地よくて時差ボケもほとんど感じませんでした!長時間フライトなのに、到着した時にはみんなスッキリしてて、プライベートジェットって本当にすごいんだなって実感しました!」

 

 「で、アメリカに着いたら…もうビックリしっぱなしでした!初めての海外だったんですけど、空港降りた瞬間から超VIP待遇で迎えられて、要人警護レベルのセキュリティチームが待ってて、5人全員を囲むように守ってくれました!アメリカは銃社会で、日本とは比べものにならないくらい危険ってことだったので、SPレベルの本格的な警備だったんです!移動も大型の高級車(黒塗りのSUV(防弾))に乗って、前と後ろに護衛の車を挟んで移動しました。窓から外を見ても、常に周りを警戒してる人たちがいて…なんか映画みたいで、興奮と緊張で心臓がバクバクしてました!」

 

 「そして着いた先がベルエアだったんですけど…!もう、すごすぎて言葉が出ませんでした!まるで海外の大富豪が住んでるような超特大豪邸で…!敷地が広すぎて、庭を歩くだけで疲れちゃうくらいでした!あっでも、玄関は日本みたいに靴脱ぐところがありました!」

 

 「そこから部屋に荷物置いた後、家の中を探索したんです!部屋は100部屋近くあって、どこも高級スイートルームみたいに広くて豪華でした!あとシアタールームもあって中は映画館みたいに広くて画面も大きくてリョウも大満足してました!プールは広くて、夜もライトアップされてて綺麗で…!スパに至っては、ぼっちちゃんの家の何倍も広くて、ジャグジー、サウナ、マッサージチェア、全部揃ってて…もう毎日入ってました!食事も一流シェフの人がわざわざ来てくれて、目の前でライブクッキングしてくれたんですよ!A5ランクのお肉とか…口に入れた瞬間、ほっぺたが落ちそうなくらい美味しくて…デザートも本気で感動しました!」

 

 「夜は特にすごくて…ぼっちちゃんの家の敷地内にあるヘリポートからヘリに乗って、LAの夜景を空中から眺めたんです!初めてヘリに乗ったんですけど、みんな大興奮で叫びながら夜景を見てました!街の灯りが宝石みたいに広がってて…本当に夢みたいでした!」

 

 「それからLAを観光したり、ショッピングに行ったり…本当に毎日が楽しすぎて、帰りたくなかったです!一生忘れられない最高のバカンスになりました!」

 

 

 虹夏はアホ毛をブンブン回しながら、最後に締めくくった。

 司馬は資料を片付けながら、苦笑いを浮かべた。

 

 

 「そっそうですか。楽しかったなら何よりです……そういえば…引率役の佐藤さんもしつこいくらい自慢してきましたね。『LAの夜景が~』とか『ナイトプールが~』って、3日くらい延々と…」

 

 「そうそう!やみさんも同じようにずっと興奮してましたよ〜!」

 

 

 司馬は内心で深く息を吐いた。

 

 

 (…それにしても、後藤さんの家は一体どうなってるんですかね?プライベートジェットに要人警護クラスのセキュリティ、シアタールームにプールにスパ、ヘリポート付きの超巨大豪邸……よっぽどの大富豪なんでしょうか?)

 

 

 司馬はまだ、ひとりの父親があの【NEW GLORY】のNaokIだという事実を知らなかった。

 ただ『とんでもない資産家か世界トップクラスのCEO』だという印象だけが、強く残っていた。

 

 虹夏は興奮冷めやらぬ様子で旅行の話を続けていたが、ふと我に返ったように手を叩いた。

 

 

 「っと……!話が逸れましたね!すみません、旅行の話ばっかりしちゃって…」

 

 

 司馬は苦笑いを浮かべながら、パソコンを開いた。

 

 

 「いえ、楽しかったようで何よりです。……それでは伊地知さん、楽曲の進捗をお聞かせください」

 

 「はい!分かりました!」

 

 

 虹夏は姿勢を正し、目を輝かせて報告を始めた。

 そこから本格的な打ち合わせが始まった。

 

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 

 「この曲のデモの方はこれで大丈夫です。それで新曲の件ですが…」

 

 「はい!新曲の制作をぼっちちゃんに頼んでるところです!予算出して貰えるなら、みんなで色んな曲作りたいなって。喜多ちゃんが作詞に挑戦したり、ぼっちちゃんが作曲したり!今回はぼっちちゃんが一人で一曲作ってみたいって言ってたんで、任せることにしました!」

 

 「了解です。予算の件は前向きに検討しましょう。新曲の方向性や、作る曲のコンセプトについても、詳しく聞かせてください」

 

 「はい!!」

 

 

 司馬は頷きながらメモを取り、虹夏は真剣な表情で新曲のイメージや、メンバーそれぞれの役割について熱心に語った。

 司馬も時折質問を挟みながら、プロデューサー目線で的確なアドバイスを送る。

 二人の会話はスムーズに進み、打ち合わせは本格的になっていった。

 

 ひと段落ついたところで、司馬はふと顔を上げて言った。

 

 

 「……ところで伊地知さん。話が変わりますが、うちでバイトでもします?」

 

 「…………え?」

 

 

 虹夏は一瞬、固まった。

 司馬は至って、真面目な顔で続ける。

 

 

 「主な内容は、データ入力や書類整理みたいな簡単な事務作業とオフィスの掃除です。時給2000円ほどですが…どうです?」

 

 

 虹夏は数秒間、無言で司馬を見つめる。

 やがて頰をぴくぴくさせながら、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 「……曲作らないメンバーは暇って思ってます?」

 

 「?違うんですか?」

 

 「…………」

 

 

 司馬は平然とコーヒーをすすりながら一言。

 一瞬の沈黙の後、虹夏は両手を机に叩きつけて立ち上がった。

 

 

 「ちょっと待ってくださいよォォォォォ!!!?あたしリーダーなのにバイト!?!?しかも『曲作らないメンバー』って…!!あたしそんなに暇そうに見えます!!?」

 

 「…え?………すみません」

 

 「うわぁぁぁぁん!!!謝られたら余計に惨めじゃないですかァァァァ!!司馬さんナチュラルに失礼ですよ!!それに、みんなが楽曲制作頑張ってる横であたしだけ事務作業とか…なんか悲しすぎるんですけど!!?」

 

 

 司馬はコーヒーカップを置いて、至って冷静に答えた。

 

 

 「冗談です。…まぁやる気になったらいつでも来てください」

 

 「割とガチで言ってるじゃないですか!!?うわーん!!」

 

 

 オフィスに虹夏の悲鳴のようなツッコミが響き渡った。

 

 

 「なになに?盛り上がってるじゃない。私も混ぜなさいよ〜」

 

 

 すると打ち合わせの最中、ルーチンワークを終えたやみがオフィスに入ってきた。

 司馬はパソコンから顔を上げ、軽くため息をついた。

 

 

 「佐藤さん…仕事は終わったんですか?」

 

 「とっくに全部終わらせたわよ。データはPDFで送っといたし、書類もファイル別でちゃんと分けといたし、部屋も全部片付けといたわよ。ホラ…証拠の写真」

 

 「……………確かに。完璧です」

 

 「まぁ…()()()()()()()()だし。いつも以上に気合い入れてやったんだから」

 

 

 そう──

 

 やみは今日でストレイビートのバイトを辞めることになっていた。

 

 理由は明確だった。

 

 数週間前、NaokIの指名でFusion Impactから直接オファーされた【NEW GLORY】公式ブックレット用の超ロングインタビューという、フリーライターとしては一生に一度あるかないかの超特大案件が舞い降りた。

 

 さらに9月から『NEW GLORY Evolutionary Tour』のヨーロッパツアーに同行し、密着取材を行うことが決定した。

 期間は3〜4ヶ月以上になる可能性が高く、その間のギャラもかなり高額とのこと。

 移動・宿泊・取材に必要な機材などは全てレーベル側が負担してくれるため、バイトを続ける意味が完全に消失したのだ。

 

 司馬はやみが送ったPDFのデータを確認しながら、ふと顔を上げ、穏やかな視線をやみに向けた。

 

 

 「確かに、こちらも全て完璧です。……それにしても、今日で最後ですか…」

 

 

 司馬の表情を見たやみは、得意げに胸を張り、口元に浮かんだ笑みが抑えきれずに広がった。

 目が細くなり、頰が自然と緩む。長年の夢がようやく叶うという実感が、胸の奥からじんわりと温かく広がっていくのを感じていた。

 

 

 「いや〜悪いわね〜w急に辞めることになっちゃって〜wでも私もう、ワールドワイドな音楽ライターだから☆」

 

 

 言葉は軽いが、その声の奥には“本物の喜び”が滲んでいた。

 【NEW GLORY】の公式インタビューという大仕事。さらにヨーロッパツアー同行という、フリーライターとしては奇跡のようなチャンス。

 底辺ライターだった自分が、ついに“本物のステージ”に立とうとしている。

 その嬉しさが、表情にも声にも溢れていた。

 

 

 「にしても…まさかあんたがそんな事言うなんてね〜。意外と可愛いとこもあるじゃないwもしかして私がいないと寂しいのw?」

 

 「いえ全く」

 

 (……コイツ可愛げねェ〜)

 

 

 しかし司馬は至って冷静に、真顔で答えた。

 やみは軽く肩をすくめる。

 

 

 「あっそ…あんたも精々頑張りなさいよ」

 

 「言われずともそのつもりです。………それより佐藤さん」

 

 「なによ?」

 

 

 司馬は改めてやみの方に向き直り、真剣でありながら温かみのある眼差しで言った。

 

 

 「長年の夢が叶って良かったですね。【NEW GLORY】のインタビュー、頑張ってください」

 

 

 その声には、ただの社交辞令ではない“本気の祝福”が込められていた。

 やみは感極まり、目を細めて笑顔を大きくした。

 長年PV数に苦しみ、炎上記事を量産し、自分を嫌いになりかけた日々。

 その全てが、今この瞬間に報われた。

 

 

 「やっぱりあんた、なんだかんだで可愛いとこあるじゃない!なんか困った事があったら連絡してもいいわよ〜☆今回の件で本当に大手の業界にコネが出来たからね〜♬」

 

 「結構です。自力でやれますので」

 

 (…やっぱコイツ可愛げねェ〜)

 

 

 司馬は即座に、にこりともせずに答えたが、内心で小さく微笑んでいた。

 やみのこれまでの苦労を知る者として、彼女がようやく大きなチャンスを掴んだことを心から嬉しく思っていた。

 

 司馬はコーヒーカップを手に取りながら、ふと真面目な表情に戻った。

 

 

 「話を戻しますけど、作曲に挑戦するのは良いですが…いきなり一人でやって上手くいくものですか?年明けから順次配信予定ですし。多少余裕があるとはいえ、時間は有限なので……」

 

 

 すると虹夏は、胸を張って即答した。

 

 

 「安心してください!!ぼっちちゃんはやる時はやるんで!!」

 

 「そうよ!ギターヒーローさんなら、作曲の才能も絶対あるわよ!!」

 

 

 やみも横から自信満々に割り込んできた。

 司馬は二人の勢いに少し押されながらも納得した。

 

 

 「…お二人がそこまでおっしゃるなら……」

 

 「それに新曲に関しては、本当に心配しなくても大丈夫よ……ね☆」

 

 「はい!」

 

 「?」

 

 

 虹夏とやみはさらに自信満々な表情を浮かべ、目を輝かせた。

 

 

 「「曲作りのことなら、世界一の人がついてるから!!」」

 

 

 虹夏とやみは、まるで秘密を共有している子どものように目を輝かせて言い切った。

 司馬は目を点にして首を傾げた。

 

 

 「……世界一の人?」

 

 

 虹夏はにへらっと笑い、やみは口元を押さえてくすくす笑う。

 

 

 「えへへ♪」

 

 「ふふっ♡」

 

 

 二人は意味深な笑みを浮かべたまま、司馬に答えを濁した。

 司馬は額に軽く手を当て、ため息をついた。

 

 

 「……まぁいいでしょう。期待していますよ」

 

 

 虹夏とやみは顔を見合わせて、こっそりガッツポーズをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃の後藤家。

 

 

 地下のレコーディングスタジオでは、ひとりがDAWの画面をじっと睨みつけていた。

 

 期待とは裏腹に、新曲の制作は中々思うように進まなかった。

 

 ひとりが任された曲はミニアルバムの先発曲で、疾走感のあるエネルギッシュな曲。

 メロディやリフの基盤はある程度出来上がっていたが、アウトロのフレーズが特に難航していた。

 コード進行が単調で締まりが悪く、全体の流れがぼやけてしまう。

 ひとりはキーボードを叩きながら、何度もMIDIノートを打ち直していた。

 

 

 (うぅ……ここ違う…なんか微妙だ…)

 

 

 画面上でピアノロールを睨みながらコードを変更し、リズムを微調整する。

 しかし、再生ボタンを押すたびに「なんか物足りない」という感覚が拭えない。

 ひとりはため息をつき、再度MIDIノートを一つ一つ修正し始めた。

 

 

 (ダメだ…修正したけどパッとしない。コード進行が予想通りすぎて意外性がないし、締まりが悪い感じがする…)

 

 

 指が止まる。

 もう一度コードを一つ変えてみるが、今度はメロディが浮かない。

 また元に戻し、別の音を入れてみるが、全体のバランスが崩れる。

 

 

 (……やっぱり私に作曲は無理なのかな………いや、弱気になるな後藤ひとり!こういう時は気分を変えるんだ!明るい人間になりきれ!私は陽キャ!ナイトプールでサーフィンする女!!)

 

 

 次の瞬間、ひとりは椅子から立ち上がり、突然テンションを爆上げした。

 

 「ウェイウェイウェイウェイウェ〜〜イ☆☆☆ウェイヨ〜卍!お前ら盛り上がってっか〜!?みんなバイブスあげてこォ〜!!テキーライッキしてやンぜェ〜卍!」

 

 

 何をとち狂ったのか、ひとりは星形サングラスを取り出してかけるやいなや、休憩ブースの冷蔵庫からテキーラ*4を取り出してイッキ飲みし、バンギャも真っ青なヘドバン*5をしながら爆音でEDMを流し始めた。

 地下スタジオは一瞬で狂気のダンスフロアと化した。

 重低音が響き渡り、ひとりは椅子に座り直すと、ヘドバンしながらキーボードを叩き始める。

 

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 

 (ヤバい━━━━━ッ!!いつの間にかとんでもない事になってる!?ここのドラムとベースのパートノリノリで手直ししたけど、よく見たら凄い人間離れしてる!!それにシンセが強すぎて、ドラムもベースも完全に埋もれてる!!アルペジオ速すぎて音割れてるし、グリッチが不規則すぎて耳が全然追いつかない!!)

 

 

 しかし、それも束の間──EDMが止まった後、ひとりは再び画面を見て戦慄した。

 

 画面上のDAWには、恐るべき難易度のドラムとベースのMIDIデータが並んでいた。

 

 

 ドラムパート(虹夏が叩く想定)の難易度は極めて高い。

 

 右手と左手の高速オルタネイト連打が16分音符で延々と続き、アクセントの位置が極端に不規則。

 ハイハットとスネアの複雑なポリリズムが絡み合い、突然の超高速フィルインで手が完全に別行動を取る。

 タム回しが16分音符の3連符と32分音符が混在した鬼畜なパターン。

 クライマックス部分では、片手でハイハットを高速連打しながら、もう片手でスネアとタムを高速で打ち分ける超人的な同時処理。

 

 

 ベースパート(リョウが弾く想定)はさらに絶望的だった。

 

 超高速のタッピングとスラップが交互に襲ってくるハイブリッド奏法。

 16分音符の連続スラップと、複雑なコードタッピングが同時に要求される。

 指板を上下に激しく移動しながら、正確なハーモニックを入れつつリズムを刻む鬼畜フレーズ。

 特にアウトロ直前のソロ部分は高速レガートとタッピングが融合しており、プロのベーシストでも「練習半年は必要」と言われそうな難易度。

 

 

 シンセの打ち込みに至っては、明らかに他のパートが完全に飲み込まれていた。

 

 超高速のシンセ・リードによるアルペジオが、16分音符の鬼畜な連打で随所に散りばめられており、グリッチ的なフレーズが不規則に挿入されては音が急に切れたり歪んだりするエグい効果が多用されている。

 特にドロップに移行する瞬間、緩急の差が極端に激しく、突然のガバキック*6が炸裂するパートが何度も出現していた。

 さらに気がついたら、トランスコア並みのSuper Sawのトランスレイヤーを大量に重ね掛けしていた。*7

 10本以上のSuper Sawが重なり合い、ポルタメントをかけながら高速で上下する狂った動きを繰り返し、サイドチェインも極端に効かせてキックに合わせて音が激しくパンピングする。

 

 その結果シンセの壁があまりにも厚く、ドラムやベースの音がほとんど埋もれて聞こえなくなるほど支配的になっていた。

 

 ひとりは椅子に座ってぐるぐる回りながら本気でパニックになった。

 

 

 (があああああ!!!!私のアホ!!ゾウリムシ!!お前は所詮口だけか後藤ひとり!!?シンセ暴走してドラムとベースが埋もれてるし、Super Saw 10本以上重ねてガバキック連打とか完全に頭おかしい!!というか【結束バンド】のジャンルに全く合ってないじゃん!このビッグマウス陰キャ!!ナメクジ!!ミミズ!!)

 

 

 ひとりはそのまま椅子から転がり落ち、床をゴロゴロと転がりながら自己嫌悪の嵐に飲み込まれた。

 そのまま床の上でじたばた暴れ、しばらく悶えたあと、床に大の字になって動かなくなった。

 

 

 ──数分後──

 

 

 「……はぁ」

 

 

 急に冷静になったひとりは、ゆっくりと上半身を起こした。

 髪はボサボサ、目は虚ろ。

 床に座り込んだまま、膝を抱えて小さくなった。

 

 

 「………一から何かを生み出すのって、こんなに大変なんだ。…リョウさんは未確認ライオットのデモ作った時、こんなプレッシャーにずっと耐えてたんだ…」

 

 

 改めて、痛いほど実感が湧いてきた。

 

 リョウはいつもこの作業を一人でこなして、この辛さを味わっていたと。

 曲作りの苦しさ、納得いかないフレーズとの格闘、完成しない苛立ち…それを毎回、淡々とでこなしているリョウの姿を思い浮かべ、胸が締め付けられた。

 

 そして──

 

 

 「………お父さんは…これを20年以上も続けてるんだ…」

 

 

 大好きな父親の顔が脳裏に浮かんだ。

 世界一の作曲家でありながら【NEW GLORY】の活動を続け、さらに世界中のトップアーティスト達に楽曲を提供し続け、常にトップを維持し続けている異常な才能と努力。

 

 

 「……お父さんの娘だから…私も才能あるんじゃないかって思ってたけど……甘かった。…やっぱりそんな簡単にいかないんだな………なんか急に…みんなに曲聴かせるの…怖くなってきたな…」

 

 

 ひとりは膝を抱えたまま、呆然と天井を見つめた。

 地下スタジオに、ひとりの小さな溜息だけが静かに響いていた。

 

 

 その時──地下スタジオのドアが静かに開いた。

 

 

 「ただいま〜ひとり。母さんから聞いたよ〜新曲作ってるんだって?」

 

 

 入ってきたのは直樹だった。

 まだツアーの疲れも残っているはずなのに、穏やかな笑顔を浮かべている。

 

 

 「あっお父さんおかえり。どうしたの?」

 

 「いや、今から新曲のメロディライン作ろうと思ってね。帰りに凄いフレーズ思いついたから…あとひとりの様子を見に…」

 

 「…え?休まなくていいの?昨日やっと、日本公演終わったのに……」

 

 「今すぐ形にしたくてね。それに完成したらメンバーにも早く聴いてほしいし」

 

 

 そこでひとりは、改めて自分の父の凄さを実感した。

 曲に対してのストイックさ、一切の妥協のなさ。

 日本公演を終えたばかりだというのに、すぐに次のアイデアを形にしようとする姿勢。

 

 自分はまだ、曲を人に見せることすら怖がっているのに。

 

 

 「……やっぱり…お父さんすごいね」

 

 「?どうしたんだ急に?」

 

 「あぁいや……制作スピード早いしセンスも抜群だし。たかが一曲で手こずったり、みんなに曲聴かせるのを怖がってる私とは大違いだなって……へへ」

 

 

 ひとりは自嘲気味に笑いながら、視線をパソコンの画面に戻した。

 画面には未完成のまま放置された、鬼畜なシンセとドラムとベースのパートが表示されている。

 直樹は少し目を細めて、娘の様子を優しく見つめた。

 

 

 「お父さんも最初から上手く行ってたわけじゃないよ。昔は今のひとりみたいに悩んでたことが多かった。自信満々で持っていった曲がボツになった回数なんてしょっちゅうだったよ。多分20や30じゃきかない」

 

 「そっそうなの…?」

 

 

 ひとりは少し驚いた顔で父を見た。

 “完璧な天才”だと思っていた父にも、そんな時代があった。

 失敗して、悩んで、それでも作り続けてきた。

 直樹は、ひとりの隣にしゃがみ込んで言った。

 

 

 「それでヤケ酒しながら作った半日クオリティの曲をそのまま提出したら大ウケしてな。ありがたい話、今でも動画やストリーミングの再生数伸びてるよ…話逸れたな…要するに、自分のいいと思ったものが必ずしもウケるとは限らないし、その逆だってある。やっつけで作った曲が大ヒットしたバンドとか、よく聞くだろ?」

 

 

 直樹は優しく微笑みながら、ひとりの肩に軽く手を置いた。

 

 

 「出さない限り、誰の感性に刺さるかわからないんだから。だからまずは誰かの耳に届けないと」

 

 

 直樹の言葉を聞いた後も、ひとりはまだ画面をじっと見つめたまま、唇を軽く噛んでいた。

 

 

 「……でも、やっぱりちょっと…自信なくて……」

 

 

 声が小さく震えていた。

 自分の作った曲を誰かに聴かせること自体が、急に怖くなった。

 直樹は少し間を置いて、穏やかに続けた。

 

 

 「……ひとり。【NEW GLORY】に『Mirror』って曲あるだろ?」

 

 「え?うん…【NEW GLORY】の代表曲の…」

 

 「あれ実はな…ひとりが7歳の時に、適当に弾いてたフレーズを参考にしたんだよ」

 

 「…………え!!?そうだったの!!?」

 

 「ホントホント。いや〜さすがにあのフレーズには度肝を抜かれたなぁ〜」

 

 

 ひとりは完全に驚愕し、目を丸くして父の顔を見つめた。

 『Mirror』──MVは現在、再生回数210億回超え。ストリーミングも配信当初から世界1位を10年以上維持し続ける、人類史上最も再生された伝説的な楽曲。

 

 その曲の核となるメロディの原形が、自分が7歳の頃に適当に弾いていたフレーズだったなんて。

 

 

 「その結果、世界で一番再生された人気曲になった。だから大丈夫だよ…ひとりには絶対才能がある。それは僕が保証するよ」

 

 

 直樹は優しく頷き、少し声を柔らかくして続けた。

 

 

 「それに…【結束バンド】のみんなは今更見栄を張る仲じゃないだろ?どんなものでも受け止めてくれるよ」

 

 

 その言葉は、ただの励ましではなく、20年以上トップを走り続けてきたバンドマンの、確かな実感が込められていた。

 ひとりは父の言葉を噛み締めるように、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

 「……うん」

 

 

 まだ完全に自信が戻ったわけではなかったが、胸の奥にあった重い塊が、少しだけ軽くなった気がした。

 直樹は娘の肩を軽く叩き、急にテンションを上げた。

 

 

 「さぁ行けひとり!!当たって砕けろ!!ブロークンぼっち!!」

 

 「うっうん。頑張る……(砕ける前提…)」

 

 

 若干ハイテンションすぎる父親の姿に、ひとりは(やっぱりお父さん、まだ疲れてるな…)と、内心で苦笑した。

 

 

 

 

 ───

 

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 

 

 ─

 

 

 

 

 当日──スターリーに【結束バンド】4人が集まっていた。

 虹夏は椅子に座り、期待を隠しきれない様子で身を乗り出した。

 

 

 「で!完成した曲がこれなんだね!?」

 

 「あっはい…」

 

 

 ひとりは少し緊張した面持ちでMacBo○k Proを開き、MP3ファイルを再生した。

 

 曲名『Don't(ドント) Worry(ウォーリー) My(マイ) Friend(フレンド)

 

 スタジオに曲が流れ始めた。

 BPM180前後の猛烈なスピードで駆け抜けるアップテンポのナンバーだった。

 

 最初の暴走気味だったドラムとベースは、難易度をかなり下げて控えめにしたものの、独自の強みや色はしっかりと残っていた。

 虹夏が叩ける範囲に調整されたドラムは攻撃的でキレのあるビートを刻み、リョウが弾けるラインに落とし込んだベースは、グルーヴを保ちつつ低音で曲をしっかり支えている。

 特にサビでの「4つ打ち」の疾走感は圧倒的で、シンセサイザーのレイヤーと重なり合い、まるで人間業とは思えない「サイボーグ的な質感」を生み出していた。

 

 サビでは一気に視界が開けるような、メジャーキーを感じさせる明るく突き抜けたメロディラインが登場し、聴き手に強烈なカタルシスを与える。

 

 コード進行は王道のカタルシス(VI-IV-I-V)を基調にしながら、イントロやAメロ、ブレイクダウンではあえて半音階的な動きや、シンセによる不協和音に近い鋭いリフを差し込み、焦燥感とバイオレンスな雰囲気を演出していた。

 

 ラスサビに向けては一瞬の静寂からキーを上げ、コードの厚みを増すことで爆発的なブーストがかかり、ブレイクダウンでは地響きのようなダウンテンポに落とし、コントラストを極限まで強調していた。

 

 シンセパートも若干調整を加え、Super Sawのレイヤーを少し抑えめにしながらも、キャッチーさと攻撃性を両立させたメロディを前面に押し出していた。

 グリッチや不協和音のスパイスも適度に残し、全体として「ひとりらしさ」がしっかり昇華された曲に仕上がっていた。

 

 

 「うわっこれめっちゃいい!!ドラムの存在感がすごい!でもちゃんと歌を邪魔してなくて、めちゃくちゃ聴きやすい!キレがあってサビの疾走感がヤバいし、これ叩いたら絶対気持ちいいよ!!」

 

 「ひとりちゃん凄いわ!よくわかんないけど、なんか体が勝手に動いちゃう!バッキングは私でも弾けるレベルなのに全然埋もれてないし、曲をしっかり支えてる感じがする…!めっちゃカッコいい〜!!」

 

 「あっありがとうございます…へへ…」

 

 

 虹夏は最初のサビで目を大きく見開いて、喜多は体を自然と前後に揺らしながらはしゃいだ声を上げた。

 

 曲が流れ終わった後、リョウはヘッドホンを付けたまま、無言でノートパソコンの画面を見つめていた。

 リョウは「もう一回」と小さく呟き、再生ボタンを押した。

 

 1回目:全体の流れを把握。

 2回目:ギター・ドラム・ベースの土台を確認。

 3回目:シンセとメロディの絡みを分析。

 4回目:コード進行と展開のバランスをチェック。

 

 そして5回目──リョウは目を閉じて、もう一度最初から最後まで通しで聴いた。

 やがて彼女はヘッドホンを完全に外し、静かに口を開いた。

 

 

 「……いい曲だったよ。ぼっち」

 

 

 リョウは珍しく柔らかい表情で、はっきりと言った。

 

 

 「まずメロディがすごくキャッチー。サビの明るくて突き抜ける感じが耳に残るし、王道のカタルシス(VI-IV-I-V)を基調にしながら、Aメロやブレイクダウンで半音階の不協和音を上手くスパイスにしてるのがいいね。BPM180近く出してるのに意外とポップで聴きやすいし、ちゃんと感情が乗ってる」

 

 

 リョウの声にはいつものクールさの中に、素直な賞賛が込められていた。

 彼女は指を一本ずつ折りながら、具体的に言葉を続けた。

 

 

 「特にサビの4つ打ちが気持ちよく突き抜けてくるし、Super Sawのレイヤーも厚いのにメロディが埋もれてない。グリッチの使い方もセンスいいよ。不協和音を散りばめてるから、ただの速い曲じゃなくてなんか攻撃的で危うい雰囲気が出てる」

 

 「ブレイクダウンからラスサビにかけての一気にブーストがかかるところ…あそこは鳥肌が立った。静寂のあとでキーが上がってコードが厚くなる瞬間は爆発感がすごい」

 

 

 冷静に分析を加えたあと、リョウは最後に温かい眼差しでひとりを見つめた。

 

 

 「全体のバランスも整ってるし、何より【結束バンド】の色がしっかり出てる。初めての作曲でここまでクオリティ高いのは…正直すごいと思う」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、ひとりの顔がぱっと明るくなった

 

 

 「あっへへ…ありがとうございます。お父さんの娘なので、これくらいは朝飯前ですよ〜…なんて…へへ…」

 

 

 照れくさそうに笑うひとりに、リョウは静かに首を横に振った。

 

 

 「今はNaokIさんは関係ないよ。これはぼっちが自分の力で、一から編み出して作り上げた曲なんだ。もっと自信持っていいんだよ」

 

 

 リョウの言葉は穏やかだったが、芯の強さを感じさせるものだった。

 彼女は珍しく真剣な眼差しでひとりを見つめ続けた。

 

 

 「それにしても…ぼっちの脳内は奇想天外で面白いね。フレーズ設計はかなり高度だし、サウンドデザインがガチ勢の領域だし、音圧の作り方も的確だ」

 

 

 そしてリョウは、少しだけ口元を緩めて言った。

 

 

 「これから作曲で困ったら、“最終兵器”としてぼっちを頼らせてもらうよ」

 

 「最終兵器…!?」

 

 

 “最終兵器”というワードに、ひとりの琴線がビビッと反応した。

 感性が男子小学生レベルのひとりは、その言葉を聞いた瞬間、目をキラキラと輝かせた。

 頰を赤く染め、両手をぎゅっと握りしめて小刻みに体を震わせる。

 

 

 「あっはい!リョウさんありがとうございます!私、最終兵器として頑張ります…!へへ…!」

 

 「うん。楽しみにしてるよ」

 

 

 彼女は完全に舞い上がっていた。

 照れくささと嬉しさで顔を真っ赤にしながらも、明らかにテンションが上がっているのが丸わかりだった。

 

 

 「ぼっち。もっかいこの曲聴いていい?」

 

 「あっはい!どうぞ!」

 

 

 リョウは再生ボタンを押し、サビ前のブレイクダウンに差し掛かった瞬間、目を細めて呟いた。

 

 

 「……………やっぱりいいね。特にこのサビ前のブレイクダウン…コード進行をVIからIVに落としたあとで、半音上げのポルタメントを入れたのはかなり効果的だと思う。…でもここでSuper Sawのレイヤーをもう一段厚くして、サイドチェインのリリースを少し遅めにしたら、もっと爆発力が出るんじゃない?」

 

 「え?………あっ確かに。今はリリースが早すぎてキックの裏で音が薄くなってますね。…あとアルペジオのオクターブを交互にずらして、グリッチを入れるタイミングももう少し不規則にした方が…」

 

 

 二人はDAWの画面を覗き込みながら、完全に編曲モードへ突入した。

 コードの機能、シンセのレイヤリング、ダイナミクスのコントロールなど専門的な用語が次々と飛び交い、会話はどんどん高度になっていく。

 さらに深く作曲の話に没頭していき、二人の世界が出来上がっていた。

 

 

 「ぽるた…めんと?さいど…ちぇいん?ぐりっち?……リョウ先輩もひとりちゃんも、何言ってるのか全然わからない…それに二人だけの世界に入っちゃってるし…」

 

 

 喜多は少し離れたところで、頰をプクーと膨らませて二人を眺めていた。

 

 音楽の話自体は大好きだったが、理論的な部分になると会話に入る隙間が全くない。

 喜多は急に置いてけぼりにされたようで、少し寂しくなった。

 

 

 「喜多ちゃん諦めな…それにリョウは、普段ここまで曲の話についていける人がいないから嬉しいんだよ…」

 

 「……むぅ」

 

 

 虹夏はそんな喜多の様子を見て、くすっと笑いながら隣に寄り、喜多の頭を優しくポンと撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デモ曲の感想が一段落したところで、リョウがふと首を傾げた。

 

 

 「……あれ?ぼっち、このMP3どうしたの?」

 

 

 リョウはノートパソコンの画面に表示されたファイル名を指差した。

 ファイル名は「Untitled_07」ではなく、「For_Endband_Final」となっていた。

 

 

 「なになに?まだ何かあるの?」

 

 「もしかしてひとりちゃん、もう一曲作ってきたの?」

 

 

 虹夏と喜多も気になり出して近づき、ひとりに質問する。

 

 

 「え?あっいや…これ実は、お父さんが【結束バンド】用に作った曲で…」

 

 

 その瞬間、スタジオに一瞬の静寂が落ちた。

 

 次の瞬間──三人の叫び声がほぼ同時に爆発した。

 

 

 「えええええええ!!!?」

 

 「うそ!?NaokIさんが!?」

 

 「マジで…!?」

 

 

 ひとりは慌てて手を振りながら説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『さぁ行けひとり!!当たって砕けろ!!ブロークンぼっち!!』

 

 『うっうん。頑張る……(砕ける前提…)』

 

 

 若干ハイテンションすぎる父親の姿に、ひとりは(やっぱりお父さん、まだ疲れてるな…)と、内心で苦笑した。

 

 

 『まぁ冗談はこのくらいにして…僕も作業に入るから、ひとりもほどほどにな』

 

 

 そう言ってひとりの頭を優しく撫でた後、直樹はコントロールルームに向かおうとした。

 その背中に、ひとりが小さく声をかけた。

 

 

 『あっ、お父さん…』

 

 『ん?どうしたひとり?』

 

 『あっいや……その……』

 

 

 直樹は足を止め、振り返って優しく微笑んだ。

 

 

 『大丈夫だよ。言ってごらん?』

 

 『あっ…えっと……』

 

 

 ひとりは少し迷った後、意を決して口を開いた。

 

 

 『…………もっもし……お父さんが【結束バンド】の曲作るとしたら…どういう風にする?』

 

 

 その瞬間──

 

 直樹の表情が、ぱちんとスイッチが切り替わったように変わった。

 さっきまでの優しい父親ではなく、世界最高峰の作曲家・NaokIの顔だった。

 

 

 『…指定とかある?』

 

 『え?…あっ…えっと………アルバムの一曲目だから…… ストレートで疾走感のある曲…かな?』

 

 『…なるほど。う〜ん…そうだなぁ〜お父さんだったら…』

 

 

 NaokIはそう言いながら、既にコントロールルームの椅子に腰を下ろしていた。

 手慣れた動作でM○cの電源を入れ、DAWを起動する。

 指先がキーボードを軽やかに滑り、瞬く間にピアノロールが開かれる。

 

 NaokIの目が、完全に“作曲家モード”へ切り替わった。

 

 地下スタジオに、再び創作の空気が満ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっと…それで…お父さんに『もしお父さんが【結束バンド】の曲を作るとしたらどういう風にする?』って聞いたら、一瞬でスイッチが入って作曲モードになって…ノリノリで1時間くらいで作っちゃって、『こんな感じかな』って渡してくれて…」

 

 「1時間!?1時間で曲作ったの!?」

 

 「NaokIさん、ほんとに人間なの…?」

 

 「化け物すぎる…!制作スピード半端ないとは前々から思ってたけど、1時間って……」

 

 

 スタジオは再び大騒ぎになった。

 【結束バンド】のメンバーたちは、NaokIが作ったという新曲に興奮と驚きで目を輝かせていた。

 

 

 「あたしたちの曲をNaokIさんが……ぼっちちゃん!早速聴いてみようよ!!」

 

 「私も聴きたい!!ひとりちゃん聴かせて!!」

 

 「ぼっち早く…!」

 

 「あっはい」

 

 

 ひとりが少し緊張した声で再生ボタンを押すと、スタジオにNaokIが作った新曲が流れ始めた。

 

 最初の瞬間から、強烈な印象が全員を襲った。

 

 曲名『IGNITION(イグニション) 

 

 BPM180〜190前後の猛烈なスピードで駆け抜けるアップテンポのナンバー。

 重厚でありながらクリアなギターリフが一気に炸裂し、攻撃的なリフが耳を突き刺す。

 そこにNaokIのシグネチャーである「一度聴いたら頭から離れない」キャッチーなメロディが重なり、疾走感と中毒性が同時に襲いかかってきた。

 

 曲はギターリフを前面に押し出しながらも、決して他の楽器を埋もれさせない完璧なバランス感覚を持っていた。

 ドラムが生きるスペースをしっかり確保し、ベースは低音で曲を太く支え、バッキングギターも存在感をしっかり発揮している。

 

 シンセのレイヤーはSuper Sawを8〜10本重ね、ポルタメントとサイドチェインを細かく調整しながら、「人間業とは思えない厚み」と「クリアさ」を両立させていた。

 グリッチや不協和音のリフも的確に配置され、ただ速いだけの曲にならない危うさと中毒性を加えている。

 

 サビに入った瞬間フィルが一気に増幅し、音の粒が渦を巻くように広がっていく。

 その爆発に呼応するようにメロディの密度が跳ね上がり、シンセの壁が一気に広がった。

明るく突き抜けるメロディラインが視界を切り開き、聴き手に強烈なカタルシスを与える。

 NaokIの強みである「脳に直接響くようなメロディ」に「感情を揺さぶるコード進行」、そして【結束バンド】の強みが最大限に活かされていた。

 

 全体として、疾走感がありながらもクリアで何度もリピートしたくなる魅力が詰まっており、バラバラな個性が完璧に融合した、攻撃的かつキャッチーな楽曲だった。

 

 

 曲が終わった後、一瞬の静寂に包まれた。

 だが次の瞬間── スタジオは一瞬で、NaokIが作った新曲の熱気に包まれた。

 

 「うわあああああああ!!!やばすぎる!!!デモでこれって…めっちゃカッコいいんだけど!!サビの疾走感がエグい!!体が勝手に動いちゃうよ!!」

 

 「きゃああああ!!すごいすごい!!メロディが頭にガンガン残って、なんか一気に鳥肌立って心臓バクバクする!!NaokIさん天才すぎる!!」

 

 

 虹夏は最初のサビで目を丸くして飛び上がり、興奮のあまりその場で軽くジャンプしながら手を叩いた。

 喜多も目をキラキラさせて、体を前後に激しく揺らして虹夏と一緒にキャッキャと声を上げていた。

 

 一方、リョウはヘッドホンを付けたまま、珍しく興奮した表情でノートパソコンの画面を凝視していた。

 

 

 「ヤバい… メロディのキャッチーさと攻撃性のバランスが完璧すぎる。コード進行の厚み、シンセのレイヤー、ブレイクダウンからの爆発的な展開…全部が計算され尽くしてる。それにNaokIさんの色がしっかり出てるのに、【結束バンド】の強みも全く埋もれてない。むしろ【結束バンド】の演奏が最大限に活きるように作られてる………今の私じゃ到底再現できない領域だ」

 

 

 リョウは感嘆の息を吐きながら、静かに呟いた。

 ひとりは3人の反応を聞きながら、照れくさそうに頰を赤らめ自分の事のように喜んだ。

 

 

 「あっへへ…あっありがとうございます…」

 

 

 スタジオは【結束バンド】の大興奮で、まるでお祭りのような賑やかさに包まれていた。

 しばらく興奮が収まらない中、虹夏が勢いよく提案した。

 

 

 「これもミニアルバムに入れようよ!!この曲ライブで披露にしたい!!みんなも絶対この曲聴いたら興奮するって!!」

 

 「伊地知先輩それナイスアイディアじゃないですか!?これ入れたら最高のアルバムになりますよ!!」

 

 

 二人がキャッキャとはしゃぎながら大盛り上がりしている中、リョウだけが冷静にヘッドホンを外した。

 

 

 「いや、それはやめておこう」

 

 「「えっ!?」」

 

 

 リョウは真剣な目で二人を見据え、はっきりと言った。

 

 

 「この曲のクオリティは確かに凄まじい。虹夏や郁代の言う通り、この曲をミニアルバムに入れたら音楽史に残るレベルの名盤になると思う………でも、今の私たちの実力じゃ到底再現できない。もしこれをミニアルバムに入れたら、他の6曲がどうしても霞んでしまう。リスナーの期待値が異常に上がって、ライブで同じクオリティを出せなくなったら逆に【結束バンド】のイメージを落とすリスクがある。私たちはまだこの領域に自分で到達できていない。だからこそ…この曲は封印して、いつか自分たちだけでこのレベルに辿り着くための目標にしよう」

 

 

 その言葉は、興奮していた虹夏と喜多の熱を一瞬で冷ますほど、理路整然としていた。

 

 

 「……うん、わかった。リョウがそこまで言うなら…」

 

 「確かにそうですね………すみません。私そこまで考えてませんでした…」

 

 

 リョウは小さく頷き、静かに微笑んだ。

 

 

 「いつか自分たちだけで、この曲を超える曲を作れるようになろう。ね…ぼっち」

 

 「え…あっはい…!」

 

 

 その言葉にひとりは少し照れくさそうに、でも力強く頷いた。

 すると、リョウが勢いよく立ち上がった。

 

 

 「まぁそれはそれとして…この楽曲、私にもちょうだい!帰って細かく分析したい!」

 

 

 リョウの目はすっかり音楽オタクモードに入っており、既にこの曲の虜になっていた。

 虹夏と喜多も目をキラキラさせて飛びついた。

 

 

 「ぼっちちゃんあたしも!!またじっくり聴きたい!!」

 

 「ひとりちゃん私にも送って!お願い!」

 

 「あっはい…!」

 

 

 四人は顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。

 こうしてNaokIが作曲したこの楽曲は、【結束バンド】の4人だけの秘密として、特別に共有されることになった。

 

 スタジオにはまだ曲の熱い余韻が静かに、けれど確かに残っていた。

 

 4人の未来を照らすような、温かな光のように。

 

 

*1
ハイエンドベースのローン

*2
二人とも死ぬほど羨ましそうにしてた

*3
あとは羽休めしてほしいと直樹が誘った

*4
中身はただの麦茶

*5
ぼざろアニメ一期、12話レベルのヘドバン

*6
超高速キック連打

*7
パリピ精神に引っ張られて




今回も読んでくれた方、ありがとうございました!
原作ではミニアルバム5曲でぼっちちゃんは編曲でしたが、ここではぼっちちゃんに作曲させたくて6曲になりました。
ついにぼっちちゃんの作曲センスが浮き彫りになりました。あとここのぼっちちゃんは、お父さんの仕事風景をずっと見てた影響でDAWの使い方も理解してて、リョウの会話にも普通についていけます。
そしてここで世界的作曲家・NaokIとしての実力が十分に発揮されました。
多分出せばエグい大ヒット曲になって、印税は年間数億〜数十億円の規模になると思います。
ちなみに楽曲のジャンルとかは完全に自分好みにしてあります。

ネタ切れしたので、また話考えてから更新します。
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