マジであまりにも起承転結つけられないし、ネタ思い浮かばなくて苦労した…でもやっと形になったわい。
今回からスターリーのクリスマスライブの話になります。
クリスマスライブは結構長編になります。
それではどうぞ
あの『3点不合格中退事件』の衝撃も、秋の深まりとともに少しずつ落ち着きを見せ始めていた。
ひとりは今や、秀華高校を中退して『毎日がエブリディ☆』の身。
高校をやめてからは、美智代から料理を学びつつ、家で掃除洗濯などをこなし、以前よりギターの練習と、ギターヒーローの動画投稿に力を入れる日々を送っていた。
毎日動画1本にショート動画2本更新という成果もあり、ついにチャンネル登録者は200万人を超え、動画一本辺りの平均再生数は100〜200万回越え連発、総再生回数も10億回を突破した。
だが視聴者から『暇なんか?』というコメントを書き込まれ、しばらく落ち込んだらしいがそれはまた別の話。
10月下旬──スターリー。
【結束バンド】の四人は、いつものテーブルに集まってミーティングをしていた。
リーダーの虹夏が、目を輝かせて勢いよく切り出す。
「今年のクリスマスは、自主企画ライブをしようと思います!」
「自主企画ライブ?」
喜多が首を傾げると、虹夏は身を乗り出して解説を始めた。
「そう!いつもはライブハウスのブッカーさんが出演者を決めてるでしょ?自主企画ライブってのは、あたし達がライブハウスを貸し切って、出演者決めから宣伝、チケット販売まで全部自分たちでやるの!」
虹夏は拳を握り、ワクワクした表情で続けた。
「それにお姉ちゃんの31歳の誕生日でもあるし、それを兼ねてやろうと思って!どうかな?」
「へ〜!楽しそうですね!」
喜多の明るい返事に、虹夏はさらにヒートアップする。
「イベント名は題して!」
虹夏は両手を広げ、満面の笑みで大きく宣言した。
【結束バンド 初企画ライブ 生誕31年クリスマスライブ!!】
「略し方雑!!私達がベテランバンドみたいになってますよ!!?」
喜多の鋭いツッコミが飛ぶ。
確かに、文字面だけ見れば地方の演歌歌手か、結成30周年を迎えた大御所ロックバンドのディナーショーのような重厚感がある。
しかし虹夏は全く意に介さず、笑顔で説明を続けた。
「【結束バンド】も結構人気や知名度上がって、スターリーでのライブも毎回ソールドアウトに持っていけてるし、自分たちでイベントをやってみるいい機会かなって!いつもより準備が多くて大変だけど、やりがい十分だよ!成功したら新曲リリース前のちょっとした話題作りにもなるし、頑張ろ〜!」
虹夏の熱意に、喜多は笑いながら頷いた。リョウもいつものクールな表情で小さく頷き、一足先にプロ(ニート)の道を歩み始めたひとりは、少し緊張しつつも、静かにみんなの話を聞いていた。
少し落ち着いたところで、喜多がふと疑問を口にした。
「それにしても…よくクリスマス当日にここ空いてましたね」
「そうなの!ダメ元でお姉ちゃんに聞いてみたんだけど、なぜかこの日だけぽっかり空いてたんだよ〜」
「へ〜!それはラッキーでしたね!」
虹夏と喜多は「日頃の行いがいいからかな?」とキャッキャとはしゃぎながら、早くもイベントの詳細を話し合い始めた。
その様子を、少し離れたカウンターの奥から星歌が静かに見守っていた。
(腐☆腐。サプライズしてくれると思って、クリスマスイブは空けといたぞ♪)
その表情はいつものようにクールだが、内面ではルンルンと鼻歌を歌わんばかりの浮かれた気分でいた。
(大丈夫かな…ここの経営…)
そんな星歌の愛が重すぎる職権乱用を横目で見ていたPAさんは、将来の不安を隠せずにいた。
一方、ひとりは人見知りを爆発させながらも、【結束バンド】の自主企画ライブという響きに、少しだけ心を躍らせていた。
中退という人生の崖っぷちから飛び降りた今、このバンドこそが唯一の居場所なのだ。
(自主企画ライブか…なんだか少し楽しそうかも…)
しかし話が進むにつれて、ひとりの淡い期待は急速に削り取られていった。
「じゃあ、何か提案ある人〜!」
「はいは〜い!私、サンタコスしたいです!」
「おっ!面白いね〜!いいよいいよ〜採用〜!」
「え〜ダル」
「あっ……」
虹夏と喜多のキラキラしたやり取りに、リョウの気だるげな拒絶が混ざる。
ひとりはコスプレという単語を聞いただけで、全身に蕁麻疹が出そうな恐怖を覚えた。
「クリスマスソングをロックカバーしたりとかどうかな?」
「いいですね〜!楽しそ〜!」
「あとはそうだね〜あっお客さんにクッキーのプレゼントを配るとかは?」
「んじゃ、ハズレはワサビ入りね」
「えっ……」
ひとりの表情は、一秒ごとに曇っていった。
みんなの意見が飛び交うスピードに、ひとりの思考回路は全くついていけない。
(あっ前言撤回…これ地獄の文化祭の出し物決めと同質の疎外感だ…まさか学校やめてまでこの空気を味わうとは………)
企画が具体的に、そして楽しげに決まっていくほど、ひとりは影のように小さく縮こまっていく。
自分には何の案も出せないし、かといって反対する勇気もない。
ただ、機械的に「あっはい」と頷くことしかできなかった。
そんな淀んだ空気などお構いなしに、背後から弾けるような声が飛んでくる。
「何か面白そーな話してますね!!」
「えれたちも混ぜてくださーい!」
「ヒッ…!大山様…!」
反射的に身を強張らせたひとりの視線の先にいたのは、満面の笑みを浮かべる猫々と、もう一人の少女だった。
以前、池袋のライブで共演した地下アイドルグループ【天使のキューティクル】のメンバーであり、今は猫々と共にスターリーでバイトをしている。
恵恋奈は熱狂的なリアコガチ勢夢女で、会話は常に難解なオタク用語の嵐だ。
猫々とは違うベクトルのヤバさに、ひとりは彼女を本能的に避けていた。
「あっ!ヒッピー先輩!!突然学校辞めちゃって心配しましたよ!!ウチの友達紹介したかったのに!!」
(ひぃぃぃ!中退した事もう広まってる!!)
猫々の無邪気な追及に冷や汗を流すひとりを放置して、恵恋奈が自信たっぷりに胸を張る。
「えれも集客なら協力できますよ〜!宣伝チラシとか作るの得意なので〜!うちわとかフラスタとかよく作るんです〜!」
「わ〜助かる〜!」
喜多が応じる横で、猫々が鼻息荒く身を乗り出した。
「じゃあ、ウチはさっそく外で呼び込みしてきまーす!!」
「それはいいかな……!」
「じゃあ当日までみんなを応援しますね!!ファイオ〜ッ!!」
「静かにしてくれるのが一番助かるかも!!」
虹夏の切実なツッコミも虚しく、嵐のような活気がテーブルを包み込む。
ある程度話が進んだところで、喜多がふと手を挙げた。
「伊地知先輩。コンセプトはいい感じですけど、出演バンドはどうするんですか? 自主企画ってことは、自分たちでオファーするってことですよね?」
「もちろん!出演バンドに関しては、【SICK HACK】や【SIDEROS】とか、あたしたちと親交が深いバンドにお願いしようと思って!」
「………そんなに簡単に集まるかな?」
虹夏の明るい返事に、リョウが珍しく真剣な表情で水を差す。
「みんな自分たちのライブもあるし、【結束バンド】の企画を優先してくれるかどうか…それに【SICK HACK】はイブの日………」
そこまで言いかけたところで、虹夏が勢いよく声を被せた。
「大丈夫だよ〜!廣井さん優しいし、【SIDEROS】のみんなもきっと来てくれるよ! とにかく!みんなも知り合いのバンドに声掛けてみて!」
「わかりました!」
「あっはい…」
(………虹夏がこうやって突っ走る時って、大抵失敗するフラグなんだよな…)
若干楽観的すぎる虹夏に、リョウは内心で危機感を抱いていた。
そして数日後──
リョウの予想は、見事に的中した。
大槻さん
『ごめん その日ライブあるから無理』
廣井さん
『伊地知虹夏様
いつも大変お世話になっております。
この度は、お誘いをいただき誠にありがとうございます。
ぜひ伺いたいところではございますが、あいにく当日は先約があり、どうしても都合がつきません。
せっかくお声がけいただいたのに、ご期待に沿えず申し訳ございません。
当日の盛会を心よりお祈り申し上げます。』
案の定二人とも丁寧に、そして容赦なく断ってきた。
【SIDEROS】はクリスマスイブ当日に、ZIPPER Shinjuku(1500人)で過去最大規模となるワンマン公演を実施する為、見事に断られた。(完売済み)
そして【SICK HACK】は、9月から12月のクリスマスまでアリーナツアーを敢行中だった。(全公演完売済み)
全国の主要都市が中心になっており(札幌→仙台→福岡→名古屋→大阪→千葉→東京→横浜→埼玉)9ヵ所・18公演で開催され、予定動員数は驚異の30万人という【SICK HACK】最大規模の大型ツアーである。
そしてクリスマスライブ当日とクリスマスはツアーファイナルとして、スーパーアリーナ(74000人)での公演が決まっており、参加は不可能だった。
虹夏はスマホの返信画面を眺めながら、頭を抱えて項垂れた。
(全然集まらない!!そういえば【SICK HACK】って今アリーナツアーの真っ只中だった!それに前にあくびちゃん達と遊んだ時に、ZIPPER Shinjukuでワンマンやるって言ってたの忘れてた!)
さらに軽い付き合いのある他のバンドにも声をかけたが、見事に全滅。
後日──スターリーに集まった四人の間には、数日前の明るい雰囲気とは打って変わり、重苦しい空気が漂っていた。
「というわけで…バンドの伝手が全滅しました…」
「ほらね」
正確には机に突っ伏したまま動かない虹夏から、物理的な重圧を伴う鬱屈したオーラが放出されている。
そして、予言を的中させたリョウが淡々と言い放つ。
「いっ伊地知先輩…元気出しましょ…!そっそうだ!こうなったら、いっその事ワンマンライブに変更するとかどうですか!?今の私たちならワンマンでもソールドアウトできますよ!」
喜多はなんとかこの場を立て直そうと、精一杯明るい声を絞り出した。
「いや…クリスマスイブにワンマンを成功させられるほど、あたしたちの集客はまだ安定してないよ。…というかワンマンできるほど曲数多くないし…MCで繋ぐにも限度がある。…それに企画ライブをワンマンに切り替えると、箱代だけで十数万はかかる。そうなると、チケットノルマは一人5万円近くになっちゃうけど……」
現実的な数字を聞いた瞬間、喜多の顔から血の気が引いた。
「5万円!?いやぁぁぁぁぁ!!キャンセル━━ッ!!伊地知先輩、今すぐキャンセルしましょう!!!ひとりちゃんはともかく、私たちじゃ5万円なんて払えませんよ!!」
喜多の悲鳴が店内に響き渡る。
その絶叫に弾かれるように、虹夏も勢いよく顔を上げた。
「そうだね!!今ならまだ間に合うかもだし!まだ引き返せるうちに!!お姉ちゃ……ッ」
「ええ!?店長もうクリスマスの飾り付けしてるんですか!?まだ11月に入ったばかりですよ!?」
PAさんの驚愕の声が店内に響く。
虹夏はその光景を目の当たりにし、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
(うわああああ!!ガッツリ外堀埋められてる!!)
星歌は鼻歌を歌いながら、ルンルンとした手つきでクリスマスの飾り付けを始めていた。
カウンターには赤と緑のオーナメントが並べられ、フロアの隅には既に巨大なツリーが鎮座し、きらびやかな電飾が巻き付けられている。
その浮かれようは、キャンセルなど万に一つもあり得ないという無言の圧力だった。
「あの〜…何かお困りなら、えれのバイト先紹介しましょうか?」
どん底の空気に、恵恋奈が追い打ちをかけるように提案してきた。
「実はえれ、コンカフェでも働いてるんですよ〜。お話しするだけで時給3500円ですよ〜」
「合法なのに一番ヤバそう!!」
虹夏の絶叫を無視して、恵恋奈は熱心に言葉を重ねる。
「大丈夫です!!まぁ人気によって変動しますけど…!それにひとりさんのビジュアルに抜群のプロポーションなら、すぐに人気出ますよ!!オドオドした陰キャ美少女はオタクやチー牛から需要ありまくりなので!!」
(ひぃぃぃぃぃ!!嫌だ!!絶対働きたくない!!せっかく土下座してバイト回避したのに!!!!)
ひとりは自分の将来がセンシティブなバニー地獄に飲み込まれる妄想に震え、涙目で首を振った。
「でも先輩たち、本当に大丈夫ですか!!?顔色悪いですよ!!」
「もしかして、お先真っ暗ぴえん系ですか〜?」
猫々と恵恋奈の後輩コンビに心配され、虹夏は引き攣った笑顔を必死に保った。
「ちょっ………超順調だよ〜。はははははは」
一組も出演者が決まらないまま、企画が頓挫しかけているという事実は、彼女たちのプライドをじわじわと削っていった。
とりあえずの解決策として四人は出演者募集のビラを作成し、スターリーの入り口に掲示した。
しかし、それは抜本的な解決というよりは、単なる問題の先送りに過ぎなかった。
さらに、皮肉な追い打ちが彼女たちを襲う。
「あっ。企画ライブ出演者募集だって〜」
「へ〜、暇だし出てみる?」
通りすがりのバンドマンたちがビラに目を止める。
しかし、その視線がイベント名のところで止まった。
【結束バンド 初企画ライブ 生誕31年クリスマスライブ!!】
「…って!バンド生誕31年!?超ベテランじゃん!!」
「絶対ノリ合わねェよ…なしなし。若手のふりしたお局バンドとか一番怖ェわ」
「誤解!!」
ビラに大きく書かれたイベント名を見たバンドたちは、ほぼ例外なく誤解した。
「31年目の超ベテランバンドの企画ライブ」と勘違いされ、「俺らみたいな新人が出る場所じゃない」とスルーされるケースが続出した。
結果、応募はゼロ。
貼ったビラはただ埃を被り、虹夏はカウンターに突っ伏して頭を抱える日々が続いた。
それから2週間が経った。
◆
11月中旬、夜20時。
ひとりは自室のゲーミングチェアに深く腰掛け、起動したiMa○の画面を見つめていた。
画面の向こう側では、久しぶりにビデオ通話をつなげた父、直樹が穏やかに微笑んでいる。
「あっお父さん。今日ライブ頑張ってね」
『ありがとうひとり。あとツアーもパリとロンドンだけだから頑張るよ。……うぅ…早く日本に帰りたいよ!家族に癒されたい…!』
「あはは…」
画面越しに映る直樹は、少し疲れた顔をしていたが、娘を見る目はいつも通り優しかった。
今日はフランス・パリにある8万人収容のスタジアムでのライブ本番を控え、外からは既にファンの大歓声が聞こえてきていた。
二人は近況を話し合い、しばらく穏やかに会話を続けた。
しかし、ひとりの表情はどこか浮かないままだった。
直樹はその微かな変化を見逃さなかった。
『どうしたひとり?何か浮かない顔だな?』
「あっうん。…………実は…」
ためらいながらも、ひとりは正直に事情を話した。
【結束バンド】の自主企画クリスマスライブの告知から2週間が経過したのに、未だに他のバンドからの音沙汰はほとんどないこと。
虹夏が豆電球のように萎び、命の灯火が消えかかって憔悴しきっていること。
自分も虹夏の力になりたいと必死に考えているのに、結局何もできないまま時間だけが過ぎていくこと。
話を聞き終えた直樹は、画面越しに優しく微笑んだ。
そして、まるで何でもないことのように言った。
『じゃあお父さんが出ようか?』
「……………え?」
ひとりは画面の前で思考を停止させた。
直樹は驚きで固まった娘を安心させるように、穏やかな口調を崩さずに続ける。
『ワールドツアー終わったら1月中旬までオフだから、スケジュールは全く問題ないよ。そうだ。どうせならラヴィたちにも声かけようか?あいつらも1月まで完全に休みだって言っていたしね』
「え?…………おっお父さん…本当にいいの?体だって疲れているのに…それに…私たちの問題なのに……」
申し訳なさに押しつぶされそうになり、ひとりは画面の中で小さくなった。
世界中を熱狂させる父の貴重な休日を、自分たちの未熟なトラブルのために使わせてしまう。その重圧が彼女の心にのしかかる。
しかし、直樹ははっきりとした声でそれを否定した。
『迷惑だなんて思っていないよ。ひとりや【結束バンド】のみんなが困っているのに、放っておけるはずがないじゃないか』
「……お父さん…」
ひとりの声が小さく震えた。
すると直樹は、少し照れくさそうに笑ってみせた。
『それに…テレビ番組とかでよくあるじゃん?大物アーティストが小さいライブハウスや結婚式とかのお祝いの席で、いきなりサプライズライブをするやつ…実はああいうのにずっと憧れていてね!一度やってみたかったんだよ!』
「あっそうなんだ……」
父の意外な告白に、ひとりは思わず小さく吹き出してしまった。
どこまでも温かい優しさと、少年のような遊び心が混ざり合った言葉が、冷え切っていた彼女の胸にじんわりと広がっていく。
『だから遠慮はいらないよ。お父さんも、ひとりのライブが見たいんだ』
ひとりは画面を見つめ直し、ゆっくりと力強く頷いた。
「……うん。ありがとうお父さん」
すると、画面の向こう側から聞き覚えのある声が聞こえた。
『NaokIく〜ん。ケータリング適当に持ってきましたよ〜』
『あっラヴィさん!私が運びますよ!』
『いいよいいよ。ありがと佐藤ちゃん』
『おぉ悪いなラヴィ。愛子ちゃんもありがとう』
『いっいえ!お役に立てて光栄です!』
『丁度昼だし…愛子ちゃんもここでご飯食べなよ』
『あっ…ありがとうございますッ!!いただきます!!』
画面の向こう側に、NaokIの分の食事を抱えたLavielと、密着取材中のぽいずん♡やみが姿を現した。
『あれ?ひとりちゃん?久しぶり〜元気?』
「あっはい。ラヴィさんお久しぶりです…」
『あっ!ギターヒーローさん!お久しぶりです!チャンネル登録者200万人突破、おめでとうございます!あと昨日の海外バンドのカバー最高でした!!』
「あっはい…ありがとうございます…」
NaokIの隣に腰を下ろし、食事を始める二人。
特にやみは、NaokIとギターヒーローが親しげにビデオ通話をしている様子を間近で見て、内心で猛烈に感動していた。
最推しと推しが親子として会話している──その尊すぎる光景に、彼女は取材者としての理性を保つのが精一杯だった。
『丁度いいや。実はね……』
NaokIは、Lavielに手短に事情を説明した。
【結束バンド】が企画ライブで困っていること、そして自分が出ようと思っていることを。
『へぇ〜いいね!面白そうじゃん!出よ出よ!俺も一度、そういうのやってみたかったんだよね~!俺からRoÉ君とKyoさんに声かけておくわ!二人とも完全にオフだし、二つ返事でオッケーでしょ!』
Lavielもまた、子供がいたずらを思いついた時のような顔でノリノリの参加表明をした。
その軽やかすぎるやり取りを横で聞いていたやみは、手に持っていたスプーンを落としそうになる。
『え!?え!?えええええ!!!?【NEW GLORY】がスターリーでライブを!!!?!?!?!?わっ私も行っていいですか!!!』
一介のライブハウス、それもインディーズレーベルに入りたてのガールズバンドの自主企画に、世界最高峰のロックバンドが降臨する。
その事態の異常さに、やみは興奮を隠しきれなかった。
そこからの展開はまさに電光石火だった。
Lavielから事情を聞いたRoÉは平然と承諾し、最後に話を聞いたKyoyaは困惑しながらも、最終的には「放っておいたら何するか分からない」と呆れ混じりに参加を決意した。
◆
一方、伊地知家のリビング。
虹夏とリョウは、机の上に広げたクリスマスライブのタイムテーブル案と格闘していた。
星歌は既にスターリーの夜勤に出勤しており、家の中には二人きりの少し焦燥感の混じった空気が流れている。
「はぁ…二組はなんとか見つかったけど…まだ足りない。せめてあと二組……いや、あと一組バンドがいれば形にはなるんだけど…」
虹夏はペンを置き、天井を仰いだ。
「しじみ帝国と…もう一組は誰?確か虹夏が見つけてきたんだよね?」
「まぁちょっとね…当日のサプライズだよ。……それよりどうしよう…喜多ちゃんもなかなか見つけられないし、ぼっちちゃんに至っては身内しか斡旋してこないし……」
虹夏は、手元のスマホでひとりから送られてきたロインの履歴を改めて確認した。
ぼっちちゃん
『お父さん達出られるそうです!』
『おばあちゃん俳句でなら出演可能です!』
『ふたり きらきら星なら歌えます!しかもタンバリンも叩けます!』
『お母さんの妹の近所のおばさんの娘さんの婦人会の奥さん達がアカペラいけるそうです!!』
「はぁ…本当にどうしよ…」
「……え!?待って…!ぼっち…今、とんでもないこと書いてなかった!?」
スマホの画面を横から覗き込んでいたリョウが、ピクリと眉を動かした。
「確かに…最後なんてもう身内ですらなくなってたね。婦人会のネットワークにまで手を出すなんて、ぼっちちゃんも追い詰められてたのかな…」
「いやそうじゃなくて!え!?お父さん出られるの!?」
「?どうしたのリョウ?そんなに狼狽えて」
感情の起伏が少ないはずのリョウが、珍しく目を見開いて声を荒らげている。
虹夏が不思議そうに問い返すと、リョウは真剣な顔で虹夏の肩を掴み、その目を真っ直ぐに見つめた。
「虹夏…落ち着いて聞いて。ぼっちのお父さんのことを思い出して…」
「え?NaokIさんだけど……」
「そう。そしてNaokIさんの居るバンド名は?」
「え?【NEW GLORY】だけど…………」
「「…………………………………」」
静寂が、重くリビングに落ちた。
数秒前まで「身内の斡旋」として聞き流していた情報が、急速に意味を成し、一つの巨大な爆弾となって彼女たちの脳内を揺さぶる。
そして──
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!??!??!?」
虹夏の絶叫が、夜の住宅街に木霊した。
ただの「バンドメンバーの父親」が、世界最高峰のロックバンドのリーダーであることを、今の今まで彼女たちは「クリスマスの出し物」という文脈で完全に失念していたのだ。
今回も読んでくれた方、ありがとうございました!
というわけでNEW GLORYもクリスマスライブに参戦します。
原作で数少ないぼっちパパの出番なんでね。もう派手にやります。
それより表向きの動機をどうしようかな…原作と違ってぼっちパパのバンドが世界的すぎて、普通に考えたら なんでインディーズのガールズバンドのライブに? ってなるからなぁ…
まさか自分の考えた最強設定に苦しめられるとは…