あれ?これぼっちパパが主役のはずなのに、大体がモノローグでの描写になってる…
俺の書き方が下手なのかな?もっと他の人の見て参考にしようかな…
それではどうぞ
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ
「イライザちゃんって日本に来てまだ3年目なのに、本当に日本語が流暢だね」
「イヤ~私コミマ参加したくて日本きたのヨー!!本当はアニソンのコピーバンドとかもたくさんやりたいネ!!」
「おぉ~アニソンかぁ~!そういや今度アニメタイアップの楽曲制作を任されたんだよね。ほら、最近テレビやSNSでもずっと特集されてて、劇場版も大ヒットしたっていう、あの…」
「Oh!私そのアニメ大好きデスヨ〜!!ヒロインの女の子が最高にキュートで、第8話のバトルシーンの作画なんて文字通り神がかってマシタ〜♪1期も映画も文句なしの覇権獲得デシタネ! 2期の放送が開始されたら、私はテレビにかぶりついて絶対に見るネ〜!」
私、
一部のコアなインディーズ界隈で、カルト的な人気を誇るサイケデリックロックバンド【
普段ステージの上ではおにころラッパ飲みしながら狂ったようにベースを弾き、客席にダイブする破天荒キャラで売っている私だけれど。
今この瞬間に限っては、胃の中にお酒の雫ひとかけらすら入っていない、完全なるシラフだった。
久々のシラフで脳みそが冷酷なまでにクリアすぎる…いや、クリアすぎて逆に死にそうなほどヤバい。
アルコールで脳を麻痺させて隠蔽していた、私の本来の内気で根暗でコミュ症なクソザコ陰キャな性格が、完全大開帳して冷や汗がダラダラ止まんない。
私は愛機のスーパーウルトラ酒吞童子EXを抱きしめたまま、スタジオの機材搬入用の薄暗い隅っこで、ガタガタと縮こまることしかできなかった。
視線を向ければ、ついさっきギターパートの凄まじいファーストテイクを録り終えたばかりの、NaokIさんとウチのギターのイライザさんが、眩しいくらいの笑顔で楽しげに談笑している。
こういう国家規模の緊張が走る現場でも一切物怖じすることなく、天性の明るさで大物の懐にスルリと飛び込めるイライザさんは本当に凄いと思う。
もう日本3年目とはいえ、言葉も文化も違う日本に一人でやってきて大変なはずなのに、酒の力がないと他人の目すら見られない私なんかとは、人間としての基本スペックが大違いだ…
「岩下さんだっけ?悪かったね、ウチのリーダーが…NaokIさんって酔った勢いで結構突拍子のないことしたり、見栄張って変なことすること多いからね。2年前もNaokIさん、自分の娘に対抗心抱いてバカみたいに難しい曲持ってきたから…」
「あっはい!そうなんですね!!」
「そんな緊張しなくても大丈夫だよ。お互いリズム隊なんだし、もっと肩の力を抜いて自然体で挑もう」
「あっありがとうございます!!」
そしてスタジオの中央では、これからドラムパートの撮影を控えているウチのドラムの岩下さんが【NEW GLORY】のドラムの方とお話しており、側で見ているこちらにまで破裂しそうな緊張感が伝わってきた。
あっ…こっち睨んでる…殺意の籠もった鋭い視線がビンビン伝わってくる…本当にすみません…全ては私の不手際、私の全責任です……どうかあのドラムスティックで私の頭を叩き割らないでください…
あーなんでこんなことに…!いやマジでなんでこんなことに…!
なんか…あの【NEW GLORY】と共同でMV撮ることになってるんだよね。
世界トップのロックバンドと、インディーズで燻っている私たち【SICK HACK】がコラボ…
未だに信じられない…いや、信じたくない。どうして…どうしてこうなったんだろう…
撮影スタジオの空気は、高濃度の緊張感でピリピリと張り詰めている。
私たちの周囲では、世界中を飛び回っているであろう【NEW GLORY】の専属ツアースタッフたちが、見たこともないような最新鋭の超高級機材を無駄のない動きで淡々とセッティングしていた。
彼らのプロとしての手際の良さを見るだけで、私は気後れして吐きそうになる。
そんな修羅場のような空間のど真ん中で、【NEW GLORY】のメンバーの皆さんは、まるで自宅のリビングにでもいるかのように自然体で落ち着き払っていた。
みなさんプロフェッショナルで新参者の私たちに対しても穏やかで、大人の包容力に満ちているけそ、全員オーラがハンパない。
立っているだけで空間の気圧が変わるような圧倒的な存在感。
これが日本の音楽史の頂点、そして世界をひざまずかせてきた本物の覇王の器なのかと、ただただ圧倒される。
そんな中、ウチのメンバーのイライザさんはいつも通りハイテンション。
愛用のギター抱えて、【NEW GLORY】の面々へ恐れ多くも自ら積極的に絡みに行っている。
「それにしてもNaokIさん、作曲の天才ですよネ〜! 私たちの曲、コラボで神になるヨー!」って興奮のあまりその場でピョンピョンと飛び跳ねている。
イライザさん元気すぎる…レジェンド相手にフランクすぎて、側で見ている私の心臓はとっくにマッハで非常事態を告げているってのに…
そして岩下さんは変わらず、ドラムセットの後ろでカチカチに固まってて顔色悪い。
「オイ廣井…これ、マジで大丈夫か…?」って小声で聞いてくる。
岩下さんは【SICK HACK】のバランサーでいつも冷静だけど、今日は緊張でスティックを落としてしまいそうなほど追い詰められていた。
私も同じだ。
しかもコレ、まだ【NEW GLORY】だけのMVだから、後日また【SICK HACK】としてのコラボMVも撮るんだよね……
いっ胃が痛い…!ストレスで胃壁に無数の穴が空いていく音が聞こえる…!アルコールが欲しいッ…!今すぐおにころを原液で胃袋に流し込みたいッ…!
そもそも、知名度も規模も地球とアリんこくらい違うこんなビッグネームと、共同で作品を作るなんて大事件にどうして発展してしまったのか。
全ての元凶となった、あの数ヶ月前の衝撃の出来事。
数ヶ月前のことを思い出すだけで頭痛と吐き気が押し寄せてくるけれど、私の脳裏には、あの運命の日の光景が嫌応なしに蘇ってくるのだった。
◆
──遡ること数ヶ月前。
その日、日本最大級の大型野外ロックフェスティバルが開催され、【NEW GLORY】は広大なメインステージの大トリとして降臨していた。
彼らにとっては実に数年ぶりとなる待望の日本公演──ピットを埋め尽くした数万人の観衆は地鳴りのような歓声で彼らを迎え、ライブは終始、狂熱の渦に巻かれたまま完璧な大成功のうちに幕を閉じた。
終演後の打ち上げは、極上の高級焼肉と目の飛び出るような価格の銘酒が並ぶ贅沢な席だった。
メンバー一同、最高のパフォーマンスをやり遂げた充実感に浸りながら歓談し、夜更けと共にそれぞれの帰路へとついた。
だが、直樹はまだ余韻が残ってた。
久しぶりの国内ライブを無事盛り上げたこと。
そして、愛娘のひとりが自分の力で新しいバンドを始めた嬉しさで、酒に弱いのに飲み足りなくて、一人で大衆居酒屋をハシゴし始めていた。
そして酒カスこと、廣井きくりもまた、いつものように限界まで酔っ払っていた。
【SICK HACK】のライブ後、酒を飲みまくって、千鳥足でフラフラしながら金もない癖に次の店を探してた。
そして、たまたま引き寄せられるように潜り込んだ古びた居酒屋で、直樹を見つけた。
「わーお!いい飲みっぷりじゃん!お兄さんロックだねぇ!!」
「おっ!!そうかい!?いや~嬉しいこと言ってくれるね~!!君もこっちおいで!おっさん一人で飲むより、君みたいな美人さんと一緒に飲む方がお酒も美味しくなるから!!」
「あひゃひゃひゃww!!お兄さんそれ口説いてるの〜ww!!?でもいいよ~!!タダ酒奢ってくれるならね〜www!!」
「な〜んだ!!そんなことか!!いいよいいよ!金は腐るほどあるし!今日は僕の奢りだ!店主さ〜ん!ここのメニューの高い酒全部くださ〜い!!あとこのページのおつまみも!!」
「うひょおおおおお!!お兄さん太っ腹〜www!!よっしゃー!タダ酒だぁぁぁぁwww!!!」
といった感じで、泥酔した勢いそのままに、きくりは直樹のボックス席へと猛然と乱入した。
直樹は直樹で、この破天荒な娘の底なしの飲みっぷりに深く感心し、気がつけば二人は初対面であることも忘れ、狂ったようなピッチでお互いのグラスを乾杯し合い、爆笑しながら酒を酌み交わしていた。
そこから酒のピッチが上がって、アルコールが限界まで回り、会話のグルーヴが最高潮に達した頃、二人の話題は自然と互いのバンドへとシフトしていく。
「ヘェ〜!お兄さんもバンドマンなんだ〜!なんてバンドなの〜?」
「【NEW GLORY】っていうバンドだよ〜!ギター担当で作曲と編曲は僕が全部担当してるんだ!」
「おおー!【NEW GLORY】だったのかー!お兄さんすごいね〜!超有名人じゃん!私は【SICK HACK】ってインディーズバンドやってるよ!私はベースボーカルやってるよ~!あと私も楽曲全般担当してるんだ〜!」
「【SICK HACK】か〜聴いたことないな〜。どれどれ〜…………………………………おおっ!すごいじゃん!!こんなレベル高いサイケ久々に聴いたよ!」
「ありがとね〜♪ねぇねぇお兄さん!これも何かの縁だし、よかったらお互い楽曲提供し合ったりコラボしたりしない!?絶対面白いよー!」
「そりゃナイスアイディアだね!よーし!早速ウチのメンバーとマネージャーにロインで聞いてみるよ!」
「今、【NEW GLORY】って聞こえなかった?」
「いや気のせいでしょ………!!?え!?えッ!!?本物!!?マジでNaokIじゃん!!」
「つーかあの女の人、【SICK HACK】の廣井さんじゃない!?」
「マジ!?声かける!?あっ…でもプライベートだったら声掛けちゃまずいかも…」
後方のテーブル席で一般客たちが血相を変えてひそひそと携帯を弄り始めていることなど、目の前のアルコールしか見えていない二人が気づくはずもなかった。
そのあとお互い酔っ払った勢いと、その場のノリだけでコラボの約束を締結させてしまった。
そのままスマートフォンの画面を突き合わせ、お互いの個人連絡先を交換。
勢いそのままに、【NEW GLORY】の全メンバーと【SICK HACK】の面々、さらには双方のマネジメントスタッフを強制的に巻き込んだ、恐るべき「合同コラボ制作・連絡用ロイングループ」が爆誕した。
そして、きくりもNaokIも記憶がないまま、トントン拍子で曲のテーマが決まって、いいフレーズがポンポン浮かんで解散。
翌朝──案の定、きくりの記憶は飛んでいた。
水を飲み、少しだけシラフを取り戻した頭で、枕元に転がっていたスマートフォンの画面ロックを解除した瞬間、彼女の心臓は危うく停止しかけた。
液晶画面に並んでいたのは、これまで見たこともない、そしてインディーズの分際で絶対に存在してはならない不穏な名前のグループロインだった。
参加メンバーの欄には、【NEW GLORY】の全メンバーの名前と、志麻とイライザ、そして自分自身のアイコンが綺麗に並んでいた。
【SICK HACK】のグループロインのトーク画面を遡れば、事態を把握した志麻からの『廣井お前!!いったい昨夜何をやらかしたんだ!!?いやマジでやらかすにも限度ってモンがあるだろ!!?』という、冷や汗が画面越しに伝わってくるような怒号のメッセージが何件も送られており、一方でイライザからは『世界一のバンドとコラボ!?すごく興奮!神展開デス!』と、いつも通りのハイテンションなスタンプが連打されている。
対する【NEW GLORY】側も、『NaokIさんが酔った勢いでまた安請け合いしたか…』──と呆れていたが、添付されていた【SICK HACK】の過去のライブ映像やMVを観るなり「レベルの高いバンドだな」とインディーズの枠を完全に逸脱した彼女たちの圧倒的な演奏力に深く感心し、最終的にはバンド総意として、この奇妙なコラボレーションを正式に快諾する旨が綴られていた。
ちなみに余談だが、昨夜の直樹はとにかく気分が良く、ひとりの父親としてもバンドの先輩としても絶頂に達していた。
そのため、帰り際に自身の財布から、新札の1万円札がずっしりと詰まった50万円の束をポンときくりにチップとして手渡していた。
翌日、きくりが自分の薄汚れた財布を開け、そこに入り切らずに自己主張している天文学的な一万円の束を見て、顎が外れるほど驚愕したのは言うまでもない。
それから、あの酔った夜から爆誕したグループロインは静かに、しかし凄まじい速度で着実に動き始めていた。
きくりは翌朝、記憶の断片と財布の50万円を見て「やっちまった……」と呟きながらも、NaokIの個人アカウントから送られてきた、『昨日の件だけど。まずは曲の方向性どうする?』というというシンプルなメッセージに、きくりは震える指で返信した。
もちろんおにころをキメながら。
『うちの強みはサイケだよ。トリッピーなギターのレイヤーに歪んだベースのうねり、ドラムはトリップ感重視で、歌詞は現実と幻覚の狭間みたいな感じ。NaokIさんならそこに【NEW GLORY】の衝撃的なメロディ乗せたらヤバいことになると思うんだけど…どう?』
NaokIからの返信は早かった。
『了解。サイケの核は絶対殺さない。まずはデモ送ってくれ』
きくりは早速スタジオを手配し、冷や汗を流す志麻と目を輝かせるイライザに囲まれながら、丸一日使ってデモを作成した。
きくりらしいサイケデリックなベースラインがうねり、そこへ空間を隙間なく埋め尽くすように、歪みきったフィードバック音が強烈に重なっていく。
イライザのギターはサイケ特有のトリッピーなアルペジオを幾重にもレイヤーとして重ね、志麻のドラムはあえて単調な四つ打ちを絶妙に崩した、中毒性の高いトリップビートで全体を心地よい浮遊感で包み込んでいく。
きくりは現実と幻覚の境界線で溺れているような、半分は耳元での囁き、もう半分は魂を掻きむしるような悲痛な叫び──彼女の真骨頂とも言える不気味で美しいボーカルスタイルを吹き込んでいく。
完成したデモファイルをNaokIのアドレスへ送信した瞬間、きくりは「これでダメだったら終わりだ……」とシラフの肉体からドッと冷や汗を流し、祈るようにスマホを握りしめた。
翌日、速攻でNaokIから編曲されたトラックが返ってきた。
「…えっ?早すぎない?デモ送ったの昨日の今日だよ…?」
「……道理で自分のバンドと並行して、世界中の色んなトップアーティストに楽曲提供出来てるわけだよ。クオリティもそうだけど、制作スピードが段違いすぎる……」
「ワァ〜すごいデース!早く聴きまショ!!」
「う…うん!わかった…!」
きくりは緊張で引き攣る指先で、スタジオのメインPCに同期されたオーディオスピーカの再生ボタンを押し込んだ。
その瞬間、スタジオの大型モニターから解き放たれた音は、3人の脳髄を容赦なく叩き割るほどの衝撃を孕んだ、完全に別次元へと生まれ変わった怪物のトラックだった。
まず、【SICK HACK】のサイケの核を残しつつ、【NEW GLORY】の代名詞である「脳に衝撃を与える」メロディを注入されている点だった。
元のトリッピーなギターレイヤーをそのまま活かしつつ、NaokIのシグネチャーである「一度聴いたら頭から離れない」キャッチーなリフをサビに追加。
サイケ特有の浮遊感が、【NEW GLORY】らしい静寂から爆発へと一気に突き抜ける静→爆のダイナミクスによって、天を衝くほどの高高度へ昇華されていた。
次に、ボーカルワークによって中毒性が極限まで引き上げられていた。
きくりの持ち味である、耳元で呪いをかけるような囁きボーカルのトラックを美しく残しつつ、そこに【NEW GLORY】のフロントマンによる圧倒的なクリーンボーカルと、天を裂くような重厚なスクリームを幾重にも重ねる重層的なデュエット構造へと変貌を遂げていた。
きくりの幻覚的な歌い方が、【NEW GLORY】のボーカルの圧倒的な表現力によって、現実と幻覚の境界線をより鮮明に、かつドラマチックに描き出していく。
特に楽曲のブリッジ部分に挿入された凶悪なスクリームパートでは、きくりが「これ、私の声がベースのはずなのに、【NEW GLORY】のボーカルで完全に上書きされてる…!」と鳥肌を立てて震え上がるほどの凄まじい緊迫感を放っていた。
さらにベースでダブステップ×サイケの低音うねりを強化。
きくりが弾いた歪んだベースのうねりをベースラインに置きつつ、【NEW GLORY】のベーシストによる、超絶技巧のスラップとダブステップワブルで再構築。
ドロップ前のビルドアップでフレンチコア調の高速キックを挿入し、サイケのトリップ感を「身体が勝手に動く」レベルに引き上げていた。
そしてドラムで感情の深みを追加。
志麻のトリップビートを基調に、【NEW GLORY】のドラムのパワフルで激情的なフィルインを贅沢にレイヤード。
静かなパートでは繊細に、爆発パートでは全力で叩きつける。
結果、サイケ特有の「浮遊」と【NEW GLORY】の真骨頂である「感情爆発」が完璧に融合を果たしていた。
最後にトランスコア要素の挿入によって中毒性が極限化されていた。
曲の中盤にトランスコア特有の超高速ブレイクダウンが展開され、サイケ特有のどこまでも続く反復性と融合。
頭がぐるぐる回るような感覚が、【NEW GLORY】らしい「病みつき」体験を生む構成になっていた。
スピーカーから放たれる最後の一音が、スタジオの壁に心地よい残響を残して消えていく。
完全な静寂が戻ったスタジオの中で、きくりは呆然とモニターを見つめたまま、その大きな瞳からポロポロと涙を流していた。
「凄い…これ【
「本当にすごいな…!あのデモでここまで昇華させるのか…!」
「ヤバいヨー!これライブでやったら会場壊れるヨー!!」
3人が興奮と感動で肩を震わせていると、タイミングを見計らったかのように、スマホの液晶にNaokIからのシンプルなメッセージがポップアップした。
『【SICK HACK】のサイケ最高だった。殺さずに昇華させたつもりだけど…どう?』
きくりは涙で視界を滲ませながら、まだ冷たい興奮でガタガタと震える指先を必死に動かして返信を綴った。
『最高なんて言葉じゃ足りないくらい最高だよ! 本当に、本当にありがとう!! NaokIさんマジで神!!』
『こっちこそありがと。僕も手につけたことのないジャンルで面白かった』
──次はNaokIの番だ。
【SICK HACK】にトラックを渡した翌日。
きくりのスマホの通知音が鳴り、画面にはまたしてもNaokIから、仲介のマネージャーすら通さない直接のメッセージがポップアップしていた。
『今度は僕から【SICK HACK】に曲を渡したい。【NEW GLORY】のジャンルを中心に作ったけど、サイケの核は任せる。廣井さんなら、絶対に昇華できると思う』
きくりはその文面を読んだ瞬間、文字通り全身の毛穴が収縮するような衝撃を受け、手に持っていたスマホとおにころを床へ同時に落としそうになった。
「え……NaokIさんが、私たちに曲を……?」
すぐさま添付されていた音声ファイルを再生する。
スピーカーから溢れ出してきたそのデモ音源には、【NEW GLORY】というバンドが20年間かけて構築し、今や世界の音楽シーンの一大ジャンルとして君臨する「脳に直接衝撃を与える構造」の全てが、高濃度で凝縮されていた。
・静寂から始まるポストハードコアの内省的なギターリフ。
・突然のスクリームとラウドロックの爆発。
・トランスコアの高速ブレイクダウン。
・ダブステップの重低音ドロップ。
・オルタナティヴなメロディックサビで締め。
まさにファンや批評家の間で『【NEW GLORY】という独立した完成された音楽ジャンル=NGコア』の教科書のような、完璧無比な王道の破壊神のような楽曲だった。
けれど、きくりはその圧倒的な音圧に気圧されそうになりながらも、一人の表現者として、その構造の裏にある「致命的な壁」に即座に気がついていた。
「これ……【NEW GLORY】の色が強すぎる。このまま私たちが歌って演奏しても、私たちのサイケが完全に埋もれちゃう……」
きくりはすぐさまスタジオに籠もり、志麻とイライザを巻き込んで編曲を始めた。
今までのきくりであれば、このような世界基準の重圧に直面したとき、現実の恐怖から逃避するためにパックの酒を浴びるように飲み、アルコールの狂気とハイテンションだけで強引に突っ走っていたはずだった。
けれど、今回は違った。
眼前のモニターに並ぶNaokIの美しい波形と対峙した瞬間、きくりの脳内からはお酒など必要としないほどの、純粋なアドレナリンとインスピレーションが爆発的に噴き出していた。
アルコールを口に含む時間すら惜しいと水分補給すら忘れ、彼女はただひたすらに、目の前の音を貪るように没頭していった。
「ここに、もっと歪んだベースのうねりを入れて……トリップ感を残さないと」
「イライザのギターアルペジオ、もっとエグい空間系のエフェクトを何重にも重ねて、現実と幻覚の境目を曖昧に……」
「志麻のドラム。ここは綺麗な四つ打ちをあえて徹底的に崩して、重力から解放されたような浮遊感を前面に出して…でも、サビに向かうビルドアップでは、【NEW GLORY】みたいな魂を掻きむしる感情の爆発も、絶対に殺さずに残したい」
きくり自身、自らの肉体に起きている変化に驚いていた。
酒を飲まなくても、インスピレーションが止まらない。
NaokIの衝撃的なメロディラインを、【SICK HACK】のサイケで包み込む作業が、楽しくて楽しくて仕方なかった。
「私……成長してる?」
完成したトラックは、【NEW GLORY】の「脳に衝撃を与える」鉄壁の構造を強固な骨組みとして敷きながらも、その上に肉付けされた【SICK HACK】のサイケデリックな浮遊感と、地獄の底から這い出るような歪んだベースのうねりが、完全に主役となって前面に踊り出るという、奇跡の怪物ソングへと変貌を遂げていた。
静寂のポストハードコアから始まり→脳をマッサージするようなサイケ特有のトリップビルドアップを経て→突如としてリミッターを解除されたトランスコア×フレンチコアの、理性を粉砕する狂ったヘヴィドロップへと突入。→そこへきくりの気だるげな囁きボーカルと、世界の破壊的なスクリームが最高潮のダイナミクスで交錯するサビが炸裂し→最後は鼓膜をじんわりと焦がすような歪んだベースの残響と、ディレイの効いた空間系ギターの旋律が混ざり合いながら、幻覚の終わりを告げるように静かにフェードアウトしていく。
NaokIのメロディは残しつつ、【SICK HACK】の「現実と幻覚の狭間」が、これ以上ないほど凶悪かつ芸術的な次元へと最大限に昇華された瞬間だった。
ファイルを送信した数分後、スマートフォンの画面が明るくなり、NaokIからの短くも、最大のリスペクトが込められた一言が届いた。
『廣井さん完璧だよ。僕たちの作ったNGコアが、完全に君たちのサイケに支配されたよ』
こうして【NEW GLORY】と【SICK HACK】、互いのバンドのプライドと才能が正面衝突した、歴史的な両楽曲の提供・共同制作フェーズは、完璧な大成功のうちにすべて完了したのだった。
◆
…で、今に至る。
これから始まるのは、今回の合同MVにおける最大の見せ場──両バンドのメンバー全員がステージに集結し、一斉に音を掻き鳴らす「全員演奏シーン」の撮影だ。
【NEW GLORY】のNaokIさんがギターを構えて、ボーカルが白の有線マイクを握りしめ、ベース重低音が低く唸り、ドラムがテストで叩かれる。
彼らがただそこに佇み、楽器に触れているだけで、スタジオ一帯が巨大なライブハウスの最前列のような、濃密な音楽の磁場へと変貌していく。
私はシラフで、相変わらず内気な小心者モードが全開のままだ。
岩下さんは緊張でスティック握りしめ、イライザはハイテンションで場を和ませてるけど、私の冷や汗は止まらない。
でも……なんかワクワクする。
酔った夜の出会いが、こんなコラボを生むなんて。
【SICK HACK】と【NEW GLORY】が一緒に音楽を作るなんて、夢みたい。
よし、がんばろう。
シラフの私でも、ベースは弾けるはずだ。
撮影スタートの合図が響いた。
そして心の中で──酔った自分に感謝した。
数週間後。
事前の予告は一切なし、文字通りのゲリラ爆撃の形で、【NEW GLORY】と【SICK HACK】それぞれの公式オーチューブチャンネルに、共同制作された2本のMVが同時公開された。
NEW GLORY/
SICK HACK -
画面が明るくなり、世界同時配信のシークバーが動き始めた直後、ネット上の音楽コミュニティやSNSのタイムラインは、文字通り未曾有のパニックに陥り、騒然となった。
【SICK HACK】のファンたちの反応
『えっ嘘!?【NEW GLORY】と!?』
『どういうコラボだよ!?』
『異色すぎる…』
『ジャンル違うけど、本当に合うのか?……………なんだコレェェェェェェ!!!!!!!』
『サイケが【NEW GLORY】の衝撃と混ざってる……神曲すぎる』
『廣井は酒カスだけど、やっぱこういうセンスはピカ一だわ!』
【NEW GLORY】のファンたちの反応
『うおー!!!【NEW GLORY】の新曲きたー!!』
『よっしゃよっしゃよっしゃよっしゃよっしゃ!!』
『【NEW GLORY】単体でフィーチャリングとか初めてじゃね?』
『コラボ相手誰?』
『【SICK HACK】?なにそれ?』
『調べたら【SICK HACK】ってインディーズバンドって書いてあったけど、大丈夫か?』
『どうせ【NEW GLORY】のお零れだろw まぁ聴くだけ聴いてみるか…………うおおおおおお!!!!!!』
『待って、これヤバい……【SICK HACK】のサイケ、こんなにハマると思わなかった』
『【NEW GLORY】のメロディがサイケに飲み込まれてるのに、逆に【NEW GLORY】の衝撃が増してる……』
『この廣井きくりってボーカルの囁きと【NEW GLORY】のスクリームのデュエット、鳥肌立った』
『個人的にはこれ、【NEW GLORY】よりハマってるわ……【SICK HACK】舐めてた』
『【SICK HACK】他の曲も中毒性高いわ…アルバム全部買お…』
世界中のタイムラインがジャックされ、お互いのファンがネットの海で興奮の殴り合いを演じる中、数字は残酷なまでの大爆発を記録していった。
【NEW GLORY】側のMVは、世界中のリスナーが瞬時に群がったことで、もはや彼らの定位置とも言える数十億再生のカウントへと安定のロケットスタートを決めた。
一方で、特筆すべきは【SICK HACK】名義のアカウントに投稿された動画だった。
破竹の勢いという言葉すら生ぬるい大爆発を起こし、アングラなバンドの動画としては前代未聞の、公開からわずか1週間で3000万再生の壁を軽々と突破。
その勢いは留まることを知らず、瞬く間に世界中へと拡散され、最終的には8000万再生という、インディーズの歴史を根底から覆す天文学的な数字を叩き出したのだ。
【NEW GLORY】の巨大なファン層から、【SICK HACK】という底なしの沼へのリスナーの流入が、文字通りブラックホールのように爆発的に発生。
彼女たちのチャンネル登録者数は数日ごとに桁が変わり、世界中からその音楽性を絶賛するコメントが分刻みで殺到し続けていた。
そんな、世界が自分たちの音を中心に回転し始めた激動の数週間後。
薄暗い安アパートの部屋できくりは、静かに自分のスマホの画面を見つめていた。
「これ……私、酒飲んでないのに、こんなに頭回ってる……」
現実感が湧かず、きくりは自分の平手を、パチンと、少し強めに自らの頬へと叩きつけた。
確かな痛みが、彼女の意識をさらに冷徹に引き締める。
いつもなら、現実のプレッシャーや恐怖から逃げるために、朝からおにころをキメて脳を麻痺させていたはずだった。
けれど今、彼女の視界を覆っていたアルコールの重い霧は、跡形もなく完全に晴れ渡っていた。
素面のままでこれほどまでにクリアに、世界の美しい音楽の粒子が鼓膜の奥に聴こえるなんて、一体いつ以来のことだろう。
いや。お酒の力を一切借りていないというのに、五臓六腑を焦がすような「次に私が作りたい、叩き出したい新しい音」のアイデアが、鮮明なビジョンとなって脳裏にドクドクと溢れかえってくる感覚は──彼女の人生において、これが本当の初めてのことかもしれない。
きくりはそこで、何かが変わったことに気づいた。
「私……酒なしでも、曲作れるんだ」
それから、きくりは止まらなくなった。
覚醒を遂げた翌日から、彼女はアパートの自室にも戻らず、スタジオの狭いブースへと寝食を忘れて籠もり始めた。
おにころの代わりにベースを握りしめ、狂ったように譜面を書き殴るきくりの姿を見て、イライザは「きくりが一本も酒を飲まないで、シラフのままで曲を作ってるヨ!?今年最大の天変地異デース!」と目を丸くして驚愕。
一方で志麻は、彼女の眼の奥に宿る見たこともないほど澄んだ青い炎を見て、「これヤバいぞ…!廣井の奴本気だ…!」と、額の冷や汗を拭いながらその背中を息を呑んで見守り続けた。
インスピレーションが、止まらなかった。
NaokIと正面から殴り合ったことで、彼女の音楽回路の限界値が完全に引き上げられていたのだ。
1曲、2曲、3曲──そして9曲、10曲、11曲と、驚異的なペースで新曲の山が築き上げられていった。
その間きくりは、自分が大好きだったはずのお酒を飲むことすら、完全に忘れていた。
いや、飲もうと思わなかった。
喉が渇いても、水で十分だった。
なぜなら今の彼女の頭の中は、音だけで100%満たされていたからだ。
「これNaokIさんの影響…?いや違う…私の中にも、こんな火が眠っていたんだ」
きくりは鏡に映る自分を見て、フッと満足げに笑った。
シラフのきくりは本来なら内気で、病的なほど恥ずがり屋で、他人の視線から逃げるためにいつもアルコールで世界を誤魔化していた。
けれど今、彼女は泥酔というプロテクターを脱ぎ捨て、剥き出しのままで自身の音楽と真正面から向き合えている。
その事実が、たまらなく嬉しくて、楽しくて、同時に眩しすぎて少しだけ怖くもあった。
【SICK HACK】の音楽は、明らかにこれまでのインディーズの次元を超越した領域へと進化を遂げていた。
ベースにある退廃的なサイケデリックを強固な基盤として敷きながらも、そこに【NEW GLORY】から直に盗み取った「脳に衝撃を与える」緻密なメロディラインと、破壊的なダイナミクスが見事に融合。
静寂と爆発のコントラストはカミソリのように研ぎ澄まされ、かつてのドロドロとした浮遊感は、全人類の鼓膜を強制的にハックするような洗練された「中毒性」へと姿を変えていた。
きくりは今、自らの手で「全く新しい【SICK HACK】」を紡ぎ出しているという、確かな手応えを感じていた。
そして完成したのは、全曲新曲のフルアルバム
『
全12曲中、1曲が「Eclipse of Sanity feat. NEW GLORY」
そして残り11曲は、きくりが酒なしで生み出した、進化した新時代のサイケサウンドの結晶。
アルバムをリリースしてから翌週、オリコソチャートが更新された。
そこには、インディーズバンドとしては日本の音楽史上、前代未聞の異例中の異例となる──『週間ランキング2位』の文字が、堂々と刻まれていた。
1位はもちろんメジャーの超大物アーティストだったが、配信全盛期の現代において、名もないインディーズが純粋な音のクオリティだけで2位にまで駆け上がったというその驚天動地の数字は、【SICK HACK】というバンドの歴史を、そして廣井きくりという一人の音楽家の運命を、根底から塗り替える決定的な大快挙となったのだった。
ツアーも即発表。
ZIPPER(ゼ○プ級ライブハウス)ツアー、全国7公演(北海道、東京(羽田、新宿)、神奈川、愛知、大阪、福岡)を駆け抜ける強気のツアー。
インディーズバンドとしては無謀とも言える規模だったが、チケットは発売開始からわずか数日で、全会場・全公演が完全にソールドアウトを記録した。
特に東京公演においては、合同MVで脳を焼かれた【NEW GLORY】の狂信的なリスナー層が津波のように大量流入し、会場周辺は開演前から未だかつてない異様な熱気と、張り詰めた興奮に包まれていた。
そして迎えたツアーファイナル──ZIPPER Shinjuku。
超満員の観客で埋め尽くされ、フロアの酸素が薄くなるほどの圧迫感の中ステージに立つきくりは、愛機のスーパーウルトラ酒吞童子EXをしっかりと胸に抱え込んだ。
お酒の匂いは一切しない。
鋭く研ぎ澄まされたシラフの瞳でフロアを見据え、マイクに向かって静かに、しかし絶対の自信を込めて告げた。
「みんな。今日はヤバい音聴かせられるから……全員置いていかれないように覚悟してて」
直後、ステージの全照明がパッと落とされ、静寂が訪れる。
──最初の一音が解き放たれた瞬間、ZIPPER Shinjukuの空間全体が、文字通り狂乱の渦へと一気に飲み込まれていった。
きくりの指先から繰り出される歪んだ重低音のベースラインが地響きとなって床をうねり、イライザのギターが放つサイケデリックな旋律が空間の歪みを生み出し、志麻の叩き出す獰猛なドラムビートが観客の感情を激しく掻きむしる。
セットリストの中盤、あの伝説のコラボ曲『Eclipse of Sanity』が始まると、スピーカーから【NEW GLORY】のボーカルの圧倒的なスクリームと歌声が鳴り響き、客席からは割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
けれど、この夜の観客を最も圧倒し、魂までひざまずかせたのは、決してレジェンドのネームバリューなどではなかった。
お酒の霧を晴らしたきくりが、その剥き出しの才能だけで生み出した【SICK HACK】の進化した新曲群こそが、フロアの全人間を完全にトランス状態へと叩き落としていたのだ。
割れんばかりのアンコールの拍手と地鳴りのような歓声が鳴り響くステージの上で、きくりは溢れそうになる涙を堪えきれず、目元を滲ませながら最高の笑顔で笑った。
「私…お酒がなくても、ここまで来れたんだ…」
あの酔った夜の出会いが、きくりを変えた。
NaokIの曲が、きくり自身を覚醒させた。
【SICK HACK】は、ただの「酒飲みサイケバンド」ではなかった。
「進化したサイケ・ロックバンド」として、新たな伝説を刻み始めた。
「酒を飲まなくても、音楽はこんなに楽しいんだ」
満天の照明の光を浴びながら、きくりはベースのネックを愛おしげに撫で、静かに、そして誰よりも美しく微笑んだ。
すげー長くなりました。
あとNEW GLORYのジャンルに関しては、完全に自分の好みです。
ぼっちちゃんに続き、きくり姐さんも強化が入りました。
他の作品だと、大体が師匠枠だからたまにはいいかなって思って書きました。
ちなみに後方でひそひそ話てた人達は、廣井きくりの深酒日記の一話に出てたバンド女子達です。
そして、チップの50万は酒代ではなく、今までの機材の弁償代に充てたそうです。
今回も見てくれた方、ありがとうございました。