娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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今回は喜多ちゃん視点でのエピソードとなります。
それではどうぞ


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 「ん〜!やっと駅に着いたね〜!」

 

 「後藤さん、いつもこんな遠くから学校通ってたんですね…」

 

 「そうだね。帰り遅くなるだろうし、あの時、無理にバイト誘わなくてよかったかも…」

 

 

 私は喜多郁代(きたいくよ)

 【結束バンド】のボーカル兼リズムギター担当。

 みんなからは喜多ちゃんって言われてるわ。

 今日は【結束バンド】のライブで着るTシャツをデザインするために、後藤さんの家に集まることになった。

 

 事の発端としては、どこで集まってデザインを決めるかを話してた時、後藤さんが…

 

 

 『あっあの…よければ……私の家に来ませんか?その日は家族みんな…帰るのが遅いので』

 

 

 っと、いつも内気でおとなしい後藤さんが、勇気を振り絞って私たちを家に誘ってくれたの。

 …あの時の後藤さんなんか可愛らしくて、つい伊地知先輩と一緒に抱きしめたわ。

 ふふっ♪あの時の後藤さん…反応も可愛かったわね。

 その事を思い出して、ついくすっと笑みが溢れた。

 その様子を見た伊地知先輩が、私の肩を軽く叩いた。

 

 

 「喜多ちゃん? どうしたの? ニコニコしてるよ〜」

 

 「えへへ♪後藤さんが家に誘ってくれた時のこと思い出してて」

 

 「あ〜!あの時のぼっちちゃん、可愛かったね〜!」

 

 「そうですよね!なんか小動物みたいな愛らしさがあって、つい抱きしめたくなっちゃいました!」

 

 

 私たちはキャッキャと会話しながら、後藤さん家に向かった。

 後藤さん家か〜。どんなとこに住んでるんだろう?

 そして教えられた住所を入力して、マップを見た瞬間、ちょっと違和感を覚えた。

 

 

 「……え?ここ富裕層しかいない高級住宅街じゃ…」

 

 「どれどれ………うわ…マジでこの辺? ぼっちちゃんの家って……こんなところにあったの?」

 

 「とりあえず、行ってみましょうか」

 

 

 伊地知先輩もスマホを見て、目を丸くした。

 地図を見ながら進むと、どんどん家が立派になっていく。

 高級車が何台も停まってたり、門構えがすごい家ばっかり。

 

 そして──到着した。

 

 

 「「え……?」」

 

 

 私と伊地知先輩は、同時に動きを止めた。

 

 目の前に広がるのは、広大な豪邸。

 周りの高級住宅よりも、明らかにグレードが違った。

 門は重厚な鉄製で、高さは3メートル以上。

 周囲の壁はコンクリートと石垣の組み合わせで、まるで要塞みたい。

 壁の上部や周囲には、防犯カメラがずらりと並んでいる。

 

 

 「え?え?すご…なにこれ?その辺の商業施設や銀行より、カメラの数すごくない?」

 

 「なんか凄まじいところですね………………ん?」

 

 「?どうしたの、喜多ちゃん?」

 

 「なんだろうコレ…模様?…………えっ!?もしかしてコレもカメラ!?」

 

 「え?どこ?………あっ本当だ!壁と同化してるし、レンズもほとんど見えないから全然気づかなかった…!」

 

 

 本当に偶然。

 たまたま気づいたけど、壁の中にも超小型マイクロカメラが埋め込まれて設置されてた。

 目視ではほとんど気づかないレベルで、絶対に市販の物じゃない。

 

 そして門の横には、有名な警備会社のセキュリティマークがデカデカと貼ってある。

 「人感センサー作動」「即時通報・警備員駆けつけ対応」って書いてある。

 門の近くまで行くと、黒いカメラがこちらをじっと見つめていて…今、私たちを捉えてる。

 

 更に、家の周囲に黒い制服の私邸警備員が複数人、巡回しているのが見えた。

 門の近くにいた私たちに気づき、インカムで連絡を取り合っている。

 まるで、要人警護みたいな厳重さ。

 私も、伊地知先輩も息を飲んだ。

 

 

 「……伊地知先輩…これ本当に、後藤さんの家……ですよね?」

 

 「……うん。…聞いてた住所と合ってる…でも、こんな豪邸!?警備員まで!?」

 

 

 伊地知先輩も、マップを何度も見返して固まったまま頷く。

 私たちは、恐る恐るインターホンを押した。

 ピッという電子音が鳴り、カメラがこちらをズームしてるのがわかる。

 心臓がドキドキする。

 すると、スピーカーから低い男性の声がした。

 

 

 「伊地知虹夏様、喜多郁代様ですね?」

 

 「は、はい!!」

 

 「そ、そうです!!」

 

 「本人確認のIDチェックを行います。身分証をカメラにご提示してください」

 

 「「わ、わかりました!!」」

 

 

 私たちは、慌ててマイナンバーカードを取り出した。

 カメラがズームして、写真と私たちの顔を照合。

 数秒経って、「本人確認完了」「許可」と短いやり取りが聞こえた。

 ようやく、ロックが解除される音がして、門がゆっくり開いた。

 警備員の一人が、門の前で立って私たちを見ていた。

 私たちは、緊張しながら中に入った。

 

 中に入ると──さらに驚愕。

 

 広大な庭。

 学校の中庭の倍は広い。

 芝生は完璧に手入れされ、噴水や石畳の小道、立派な植栽が並んでいる。

 家自体は、モダンで高級感のある3階建て。

 庭の周りや玄関前にも、防犯カメラが複数あって、死角はない。

 門から玄関までの距離だけで、普通の一軒家2〜3軒分くらいある。

 

 

 「……うそ……でしょ……」

 

 

 

 伊地知先輩が呟く。

 私も、言葉が出なかった。

 

 

 (後藤さん…こんな豪邸に住んでたの!?いつもぼっちっぽくて、学校でも友達いないのに…でも、家はこんなに…!?しかも、こんなセキュリティまで!?)

 

 

 内心で失礼な事を考えつつも、私は驚愕していた。

 玄関のドアが開き、後藤さんが顔を出した。

 いつものピンクジャージに、パーティー用のグッズをつけ、クラッカーを持っていた。

 

 

 「いっいええぇええい!ウェウェルカ〜〜〜〜〜ム!」

 

 

 後藤さんのはっちゃけた招待をよそに、私たちは恐る恐る中に入った。

 

 玄関ホールは、まるでホテルのロビーみたい。

 大理石の床、高い天井、シャンデリアまである。

 玄関にまで空調が効いてて、入った瞬間心地良くなった。

 

 

 「あっ立ち話もなんですし…上がってください…」(スベった…)

 

 「あっ…ありがとうぼっちちゃん…」

 

 

 そこで私は、家の周囲にいたセキュリティについて聞いた。

 

 

 「…ねぇ後藤さん?後藤さん家の周辺や門の前に、セキュリティの人たちが巡回してたよね?カメラもすごい数あったし……あれって、いつもあんなに厳重なの?」

 

 「あっはい。お父さんがいない時や、子供だけで留守番の時は、大体家の周囲に契約してるセキュリティを配置してます……」

 

 「嘘っ!?じゃあほぼずっといるってこと!?」

 

 「あっはい。…といっても家族全員いる時はいませんけど…多分」

 

 「後藤さん、すごく心配されてるのね…」

 

 「……お父さん…家族が何よりも大切で…私がぼっちで…学校でも友達いないし…一人で家にいるとき、危ないんじゃないかって…だから、いつもセキュリティを常に何人か配置してくれて…」

 

 

 私は、思わず息を飲んだ。

 

 

 (後藤さん……お父さんにそんなに大事にされてるんだ。豪邸のセキュリティも、全部…後藤さんや家族を守るため…)

 

 

 伊地知先輩は、目を潤ませて言った。

 

 

 「ぼっちちゃんのお父さん……めっちゃ優しいんだね。家族思いなんだ…」

 

 「あっはい。世界一優しくて、大好きな…お父さんです…」

 

 

 後藤さんは、ますます顔を赤くして下を向いた。

 私は、心が温かくなった。

 いつもぼっちっぽくて、学校でも一人でいる後藤さん。

 でも、家では……こんなに守られて、愛されてるんだ。

 【結束バンド】のメンバーとして、後藤さんのことをもっと大事にしなきゃって、改めて思った。

 

 

 「ぼっちちゃん……あたしたちも、ぼっちちゃんの味方だよ!これからも、一緒にがんばろうね!」

 

 「そうですね! 【結束バンド】は、第2の家族みたいなもんですから!」

 

 

 後藤さんは照れくさそうに、でも嬉しそうに小さく頷いた。

 

 

 「……ありがとう…ございます…虹夏ちゃん……喜多さん…」

 

 「うん!えへへ、なんだか心があったかくなったよ〜」

 

 「なんだか絆が深まった気がしますね!」

 

 「そっそうですね…あっ…早速…私の部屋行きましょう」

 

 「あっうん。わかっ……えっ!?ぼっちちゃん!家の中にエレベーターあるけど!!?」

 

 「あっはい。の…乗りますか?」

 

 「えっいいの後藤さん?…それじゃあ…………なんか、普通のショッピングモールくらい、大きいエレベーターね…」

 

 「え?あっはい」

 

 

 私たちはそのままエレベーターに乗って、後藤さんの部屋に向かった。

 そこで、【結束バンド】のデザイン作成が始まる──

 

 

 ◇

 

 

 後藤さんは、私たちを2階の自分の部屋に案内した。

 そして──後藤さんの部屋に到着。

 

 

 「「……え?」」

 

 

 部屋は、学校の教室とほぼ変わらないくらい広い。

 天井が高く、窓も大きい。

 部屋の中自体はシンプルだけど、隅にキングサイズのベッド。

 壁にはウチの家の数倍は大きい、大型テレビが掛けてあり、両サイドに質の良さそうなオーディオもあった。

 テレビの前には、高級ホテルのラウンジにありそうな、座り心地の良さそうな8人掛けのL字のカウチソファに、ローテーブル。

 大きめのL字ゲーミングデスクに、また座り心地の良さそうなゲーミングチェア(派手すぎず、部屋の外観を損なわないシンプルな単色)。

 

 そのデスク上に、A○pleの最新型フルスペックのPCが全種類、ずらりと並んでる。

 

 ・最新のiM○c(M5 Maxチップ、最高スペック、80GB統一メモリ、8TB SSD)

 ・M○cBook Pro 16インチ(M5 Max、128GB統一メモリ、8TB SSD)

 ・○acBook Pro 14インチ(同じくM5 Max、フルスペック)

 ・Ma○ Studi○(M5 Ultra、最高構成)

 ・○ac mini(M5 Pro、フルスペック)

 モニターはAp○le Studio Displayが3台。

 キーボードはMa○ic Keyboard、トラックパッドもM○gic Trackpad。

 デスクの下には、ハイエンドのオーディオインターフェースとスピーカーまで置いてあった。

 

 

 「え?すご…こんなのBIKAKINの動画でしか見た事ない…」

 

 「本当にすごいですね…ん?あれ服?」

 

 

 部屋の奥には、10畳くらいのウォークインクローゼット。

 中をチラッと見たら、綺麗に衣服がしまってある。

 でも、よく見たら全部有名ブランドの服ばかり。(シャ○ル、クッチ、ルイ・ヴィ○ン、サンローラ○、ディオー○、プ○ダ、etc…)

 でも、後藤さんはピンクジャージを好んで着てるよね?

 いやでも、ジャージはよく見たら質がいいし…

 この前、ノルマ代回収した時に見た財布…確かサン○ーランのだったような…

 

 さらに驚いたのは、棚の上。

 限定モデルのハイブランドや、イソスタで見たような高級アクセサリーが、無造作に置かれてる。(カルティ○、ティ○ァニー、ハリー・ウィン○トン、etc…)

 中には未開封の箱に、少し埃をかぶってるものもある。

 あっ…クロロハーツのアクセだけ綺麗に飾ってある…

 

 

 (後藤さん……これ、興味ないの?)

 

 「あっ…今からお茶菓子とジュース持ってくるので、ゆっくりしててください」

 

 「えっ!あぁ、うん!」

 

 「あっ…ありがとうぼっちちゃん!」

 

 

 後藤さんは茶菓子を取りに、下に降りて行った。

 後藤さんが見えなくなったところで、伊地知先輩がぼそっと呟いた。

 

 

 「………そういえばぼっちちゃんって、バンド活動の話し合いの時、ノルマの金額伝えても、全然狼狽えてなかったな…」

 

 「え!?そうなんですか!?」

 

 「うん。『そんなに安いんですか?』って聞いてきたよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡る事数ヶ月前。

 ひとりが【結束バンド】に加入して、すぐの頃。

 その日はバンド活動の話し合いのため、スターリーに集合していた。

 

 

 『というわけでライブのノルマ代稼ぐためにバイトしよう!』

 

 『バイト!?』

 

 《絶対いやだ!働きたくない!!社会が怖い!!》

 

 

 ノルマ代を稼ぐためにバイトの提案をされ、ひとりの体がピクッと震えた。

 顔が一瞬で青ざめて、目が泳ぎ始める。

 

 

 『あっあああああの…!ちなみに、ノルマっていくらくらい…かかるんでしょうか…!?』

 

 《100万とかだったらどうしよう!?10回までなら賄えるけど、それ以上やるんだったら私の貯金がすっからかんになってしまう!!全財産叩いて宝くじ買う!?それとも毎日仮病使ってバイト休む!?どうしよどうしよ!!?》

 

 

 ひとりは震える声で、恐る恐る虹夏に聞き返した。

 

 

 『ファンが増えるまでは、当分……ライブ1回につき、数万は必要かな。毎月2〜3回ライブやるとして、月10万前後とか……みんなで分担すれば、1人あたり3〜4万くらい?』

 

 『……え?』

 

 《え?…3~4万?もっとかかると思ってた…でも3~4万だけ?そんなに安いの?毎月のお小遣いだけで余裕で賄える。…もしかして…桁ひとつ間違えてない…?》

 

 『だから、ぼっちちゃんもここでバイトすればいいよ!あたしもリョウも居るから怖くな……』

 

 

 『あっあの…そんなに安いんですか?…桁ひとつ、少なくなってません…?』

 

 

 店内が、一瞬静まり返った。

 ひとりの発言に、虹夏はぽかんとして固まった。

 

 

 『…え?』

 

 『ぼっち…今、何て言った?』

 

 

 リョウもスマホをいじっていた手を止めて、じっとひとりを見た。

 するとひとりは、慌てて手をブンブン振った。

 

 

 『あっ…い、いえ! なんでもないです!3〜4万ですよね?大丈夫です!私出せます!』

 

 

 虹夏は、信じられない顔で言った。

 

 

 『ぼっちちゃん。3〜4万って、毎月出す額としては結構大きいよ?あたしたちだって、バイト代から出してるのに…ぼっちちゃん他にバイトとかしてないよね?』

 

 『あっはい。でも…大丈夫です……それに片道2時間なので、これ以上帰りが遅くなったら…家族が心配すると思うので…』

 

 『う〜ん、でもな〜』

 

 『虹夏…無理強いするのはよくない。ぼっちが大丈夫って言ってるなら信じよう』

 

 『リョウ……そうだね。じゃあぼっちちゃんはバイトは無しってことで!…でもあたしたちとここで一緒に働きたくなったら言ってね!』

 

 『あっはい』

 

 『……ぼっちから、金の匂いがプンプンするな…』

 

 『こらリョウ!変な事言わない!』

 

 

 このあとリョウはひとりに媚びへつらい金を借りようとしたが、虹夏にキムラロックを掛けられる。

 その後もバンド活動の話し合いが進み、バイトの話はうやむやになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……っていうことがあったんだ」

 

 「だからノルマ代払う時、後藤さんだけ余裕そうな顔してたんですね」

 

 「そうだね。そりゃこんな大富豪ならバイトする必要なんてないよね」

 

 「あとリョウ先輩が、いつも後藤さんをキラキラした目で見てた理由がわかりました」

 

 「そうだね〜。………明日リョウに、ぼっちちゃんにお金を無心してないか聞いとこ」

 

 

 そのあと茶菓子やジュースを持って戻ってきた後藤さん。

 後藤さんの懐事情に驚きつつ、私たちは【結束バンド】のTシャツデザインの作成に没頭していた。

 

 ノートPCの画面にスケッチを並べて、伊地知先輩が「ここもっとシンプルな感じにしよう!」って熱く語り。

 私はもっと学園祭のような一致団結したデザインにしたいって意見を出し、後藤さんは縮こまりながらも、中学生男子が好んで着てそうなデザインを提案してくる。

 ……正直ダサかったけど、口にはしなかった。

 

 最初は部屋の広さと豪華さに圧倒されてたけど、作業が進むにつれて、だんだん集中できるようになってきた。

 ある程度進んだところで、伊地知先輩が手を叩いた。

 

 

 「ちょっと疲れてきたし、みんな休憩しよう!せっかくぼっちちゃんが茶菓子とジュース持ってきたし、食べよ食べよ!」

 

 「あっはい…虹夏ちゃん、喜多さん、遠慮なくどうぞ」

 

 「ありがとう後藤さん。…おいしい!このお菓子すごく美味しいわ!」

 

 「本当だ!こっちのジュースも美味しくて、すごく飲みやすい!」

 

 「あっありがとうございます…」

 

 

 美味しいお菓子やジュースを堪能しつつ、改めて後藤さんの部屋を見渡した。

 伊地知先輩は、部屋の隅にある巨大なテレビに目を止めた。

 

 

 「うわ…!このテレビ改めて近くで見ると、超大型じゃん!オーディオもヤバい…サラウンドシステム完備してる…!」

 

 

 伊地知先輩がテレビの下の棚を覗き、突然目を輝かせた。

 

 

 「え!?待って……これって!」

 

 

 棚には、【NEW GLORY】のライブDVDとBlu-rayがずらりと並んでいる。

 海外公演のもの、日本公演のもの、限定版のものまで。

 伊地知先輩は興奮で声を上げた。

 

 

 「【NEW GLORY】のライブBlu-ray……! ぼっちちゃん、めっちゃファンじゃん!うわっ!しかもコレ、2年前のロンドンの○2アリーナのやつだ!どこのチカレコやCDショップ行っても品切れで、他の通販サイトも全部在庫切れだったやつ!あたしこれだけ持ってなかったんだ〜!」

 

 

 伊地知先輩はBlu-rayを手に持って、後藤さんに詰め寄った。

 

 

 「ぼっちちゃん!やっぱり【NEW GLORY】好きなんだ!? あたしも大好き! 同じ趣味の人に会えて嬉しい〜!」

 

 「あっはい……大好き……です……」

 

 

 後藤さんは顔を真っ赤にして、頷いた。

 伊地知先輩は可愛く飛び跳ね、アホ毛がクルクル回っていた。

 

 

 「やったー!仲間増えた!ぼっちちゃんメンバー誰が好き? あたしはやっぱりドラムの人が好きでね!あとNaokIもギターヒーローさんみたいにすごいと思ってるんだけど!」

 

 「あっはい。私も、NaokIが一番…大好きです…」

 

 「やっぱりぼっちちゃんはNaokI推しか〜!同じギタリストだもんね!それでどんな曲が好きなの!?あたしはやっぱり~──」

 

 (伊地知先輩可愛い。飛び跳ねてる……)

 

 

 そんな二人を前に、私は正直に言った。

 

 

 「あの〜。私【NEW GLORY】の名前は知ってますけど……実は一回も曲聴いたことないんですよね…」

 

 

 後藤さんと伊地知先輩が、同時に驚いた顔をして私の方に振り返った。

 伊地知先輩は、目を丸くして私に説明を始めた。

 

 

 「喜多ちゃん、【NEW GLORY】知らないの!?今世界で一番勢いと人気があって、歴代でも世界トップのロックバンドだよ!」

 

 「ああ…はい。ですから名前だけは…」

 

 「CD総売上2億4000万枚以上で、オーチューブの登録者は7500万人以上で、MVで一番再生されてるやつは95億再生!この前のイギリス最大級のスタジアムライブからさらに再生数も登録者も売り上げも伸びたんだよ!他の曲も70億〜80億超えとかで、平均数億再生とかザラ!スポチファイのストリーミング再生も世界歴代再生不動の一位だし!肝心のライブの集客力は武道館から日本最大級のスタジアムまで即完で、外に音漏れファン大勢!ノルマ20枚でヒーヒー言ってるあたしたちとはミジンコと宇宙くらいの差があるの!NaokIの作曲は、一度聴いたら脳に衝撃与えて病みつきになるメロディで、ファンの間ではNaokIの曲に外れなしって言われてて、ギターの腕も多分世界最高峰の技術で、唯一対抗できるのはギターヒーローさんくらいなんだよ!?ボーカルの歌声は突き抜けるようなハイトーンにシャウトやスクリーム、デスボイスも完璧で、カリスマ性抜群!ベースはスラップが特に神技で、イギリスのスタジアムライブのライブクリップのショート動画は100億再生以上!!オーチューブで世界一再生されたショート動画なんだよ!特にドラムはパワフルで感情深くて……もう、とにかく!ドラムは全部が神なんだよ!!!!!」

 

 

 私は、伊地知先輩の熱弁に圧倒された。

 

 

 (そんなにすごいバンドだったんだ…後藤さんの家にBlu-rayがいっぱいあるのも納得かも…)

 

 

 後藤さんは、恥ずかしそうに頷くだけだったけど目が少し輝いてる。

 伊地知先輩は、興奮冷めやらずに提案した。

 

 

 「じゃあせっかくだしみんなで見ようよ!ここにある映像作品どれでもいいから!」

 

 「あっじゃあ…虹夏ちゃんが持ってないって言ってた…○2アリーナのにしますか…」

 

 

 2年前の海外アリーナ公演──○2アリーナのライブBlu-ray。

 私たちはソファに座って再生した。

 

 画面に映った瞬間──衝撃。

 

 まず、ライブの勢いを一気に加速させるような疾走感のあるSEが鳴る。

 この時点ですでに、テンションが上がりまくった。

 後日、リョウ先輩に詳しく聞いたら、エレクトロニック+ダブステップ+トランス+インダストリアルの要素が強く、【NEW GLORY】の音楽性そのものを凝縮したような音作りをしてるらしい。

 後半に急激にBPMが上がったり、ドロップ的な展開が入ることが多く。

 サビでメンバーが一気に登場するタイミングで会場や私たちのテンションも一気に爆発した。

 

 まだ、曲も始まってないのに、オープニングのSEだけで、もう心が躍ってる。

 

 胸の奥が、ざわつく。

 

 これは…何?

 

 

 そして──照明が落ちたステージに、最初の歌声が突き抜けた。

 

 

 クリアで、鋭くて、でも温かみのあるハイトーン。

 

 まるで空を切り裂く光の刃みたい。

 

 一瞬で会場全体を支配する。

 

 その声はスクリーン越しなのに、私の全身を震わせた。

 

 

 (……何これ……すごい……)

 

 

 ボーカルは、ただ上手いだけじゃない。

 感情が、全部乗ってる。

 ハイトーンで叫ぶ瞬間、胸が締めつけられるような切なさ。

 スクリームに切り替わった瞬間、背筋が凍るような怒りと絶望。

 デスボイスが入ると、地面が揺れるような重みと恐怖。

 

 でも、どの声も──美しい。

 

 中毒になる。

 

 離れられない。

 

 一音一音が、魂を直接揺さぶる。

 

 ステージ上で、ライトに照らされて、有線マイクの白いロングコードが舞う。

 

 全てが魅せられる。

 

 そこにいるだけで、圧倒的なカリスマ。

 

 視線を奪う。

 

 心を奪う。

 

 脳を、焼き尽くす。

 

 

 (これが……ボーカル……?私……こんな声、出せたら……どんなにいいだろう……)

 

 

 気がつけば、涙が頰を伝っていた。

 伊地知先輩も、後藤さんも、みんな無言で画面を見つめている。

 曲が終わるまで、誰も一言も発しなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 エンドロールが流れ、映像が終わった瞬間──私は立ち上がって叫んだ。

 

 

 「【NEW GLORY】本当にすごかったです!!私ファンになりました!!CDとライブBlu-ray、全部買います!!」

 

 

 すると伊地知先輩が、目を潤ませて可愛く飛び跳ねた。

 

 

 「やったー! 喜多ちゃんも仲間入り!!ね!ね!やっぱり【NEW GLORY】すごかったでしょ!?」

 

 「はい!なんで今まで聴かなかったんだろう…!」

 

 

 後藤さんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。

 きっと自分の好きなバンドが褒められて、心から嬉しいんだろうな。

 私は、胸を押さえながら呟いた。

 

 

 「…本当にすごい…!…特にボーカル…!!…私もあんな声が出したい…!!」

 

 「喜多ちゃんなら絶対なれるよ!【結束バンド】で一緒にがんばろう!」

 

 「はい!!」

 

 

 私は強く頷いた。

 そして、心に火がついた。

 

 【NEW GLORY】のボーカルが、私の目標になった。

 

 いつか私もあんな風に、みんなの心を焼けるようなボーカルになりたい。

 

 すると何かを思いついたのか、後藤さんが下の階に降りて行った。

 しばらくすると綺麗な紙袋を3つほど持って戻ってきた。

 

 

 「あっ喜多さん…これあげます」

 

 「なにコレ?…え!?これ【NEW GLORY】のCDとライブDVDとBlu-ray!?しかも…封が切られてない新品!?」

 

 「あっはい。家にいっぱいあるので…よかったら…」

 

 「で…でもこんなに、さすがに悪いわよ…」

 

 

 後藤さんも大ファンなはずなのに、こんな簡単に譲るなんて…

 でも後藤さんは、恥ずかしそうに笑いながら呟いた。

 

 

 「き、喜多さんが…おとう……【NEW GLORY】のこと好きになってくれたのが嬉しくて。だ…だから、コレは喜多さんがもらってください」

 

 

 私は後藤さんの心遣いに感謝した。

 そして、涙目で受け取った。

 

 

 「……ありがとう後藤さん。私、これ一生大事にするね!」

 

 「あっはい」

 

 「え〜いいな〜喜多ちゃん!私も欲し……ってコレ!!海外限定シングルやデビュー前の廃盤のものまであるじゃん!!」

 

 「え?そんなにすごいんですか?」

 

 「すごいなんてもんじゃないよ!!マニアの間じゃ超激レアなんだよ!!オークションに出したら30〜40万はするよ!」

 

 「ええ!?そんなにですか!!?」

 

 「あっ…虹夏ちゃんとリョウさんの分も、用意してます…よかったらどうぞ……」

 

 「ええ!!?いいの!!?ぼっちちゃんありがと〜!!大好き!!」

 

 「私も、後藤さんの事大好き!!」

 

 「え!?わわっ!」

 

 

 感極まった伊地知先輩が後藤さんに抱きついて、私もそれに便乗して、後藤さんに抱きついた。

 そして、みんなで笑った。

 後藤さんの部屋は、広くて豪華だけど……

 ここにいる後藤さんは、いつもの後藤さんのまま。

 少し照れくさそうで、でも優しくて、温かい。

 

 【結束バンド】のデザインと、【NEW GLORY】の衝撃を知った日。

 

 私たちの絆は、また少し深まった。

 

 そして私の心に、新しい夢が灯った。

 

 いつか、私も──みんなの心を、焼けるようなボーカルになる。

 

 

 まずは、今度のライブを盛り上げないとね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがライブ当日、東京に台風が直撃した。

 

 

 




次回は台風ライブの話になります。
今回も見てくれてありがとうございました!
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