娘のバンドと対バンしたい   作:肉野郎

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お気に入り登録、評価、感想くれた方、ありがとうございます!
今回は打ち上げ回です。
あまり話は進展してませんが、色々変更されたところも多いです。

それではどうぞ


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 全てのバンドの演奏が終わり、ブッキングライブは終了した。

 

 そして、楽屋でのんびりしていた【結束バンド】に、星歌は声をかけた。

 

 

 「よし、今日はこのまま打ち上げだ。近くの高級焼肉店、予約してあるから行くぞ」

 

 「………え!?お姉ちゃん、高級焼肉店予約したの!?いつの間に!?」

 

 「おぉ〜…!さすが店長太っ腹!今日は食い溜めしてやる!」

 

 「きゃ〜!ライブの後の打ち上げって、なんだかバンドマンみたいね〜!」

 

 「あっはい」

 

 

 【結束バンド】のメンバーたちは驚きつつも、素直に喜ぶ。

 

 そのあと、スターリーの戸締りをし、【結束バンド】と大人組は高級焼肉店に向かった。

 

 参加人数は【結束バンド】4人(ひとり、虹夏、リョウ、喜多)と大人3人組(星歌、PAさん、きくり)の計7人。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 スターリー近辺にある、個人でやってる隠れ家的な、高級焼肉店に到着した。

 

 店内は落ち着いた照明で、大きめの個室に通される。

 

 当日での予約だったが、台風のため丁度キャンセルが出ており、奇跡的に大部屋の個室を確保できた。

 

 

 「わぁ〜すごい!本当にここで打ち上げするんだ!お姉ちゃんありがと〜!」

 

 「肉のいい匂いが漂ってくる。今日は草も食べれなかったから嬉しい…!」

 

 「すごいですね!初ライブの打ち上げをこんなすごいところで行うなんて!ねっ後藤さん!」

 

 「あっはい」

 

 「…店長。本当に大丈夫ですか?お金とか」

 

 「まぁ…ちょっと色々あってな。金のことは気にするな」

 

 「……」

 

 

 そのあと、全員が席に着き、思い思いに注文し始める。

 

 テーブルには鉄板がセットされ、店員が次々と肉を運んでくる。

 

 

 

 最初に運ばれてきたのは、最高級のA5ランクの特選ロース。

 サシが細かく入った美しい霜降りで、脂が白く輝いている。

 

 次に、特上サーロイン。

 厚めにスライスされ、脂の甘い香りが部屋に広がる。

 

 さらに、和牛ハラミ。

 赤身の旨味が強く、噛むほどに味が広がる。

 

 タン元、タンシチュー、タン塩、ミスジ、トモバラ、etc……次々に高級部位が並ぶ。

 

 サイドには、キムチ、サンチュ、ナムル、冷奴、ユッケジャンスープ。

 

 主食に白ごはんが大きい御櫃ごと届く。

 

 飲み物も、ビール、日本酒、ハイボール、ソフトドリンクが次々と届く。

 

 

 『わぁ〜!』

 

 

 全員が目を輝かせ、肉が焼ける音と香りが部屋を満たす。

 

 

 その時、きくりがシラフのまま、ビクビクしながら星歌に尋ねた。

 

 

 「…あっあの、先輩。私……本当にここにいてもいいんですか?…何もしてないのに……場違いじゃ…ないですか……?」

 

 

 きくりは肩身が狭そうに縮こまり、目を伏せた。

 

 星歌は、優しく微笑みながら、きくりの肩を優しく叩いた。

 

 

 「気にすんな、お前も楽しめよ。そもそもぼっちちゃんが…お前の事も、今回の打ち上げに呼んで欲しいって言ってたんだ」

 

 「……え……ひとりちゃんが……?」

 

 

 きくりは目を丸くして、ひとりの方に振り向いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ライブ本番の少し前。

 

 ひとりは深呼吸して、カウンターでノートPCをいじってる、星歌の元へ向かった。

 

 いつもなら、絶対に自分から話しかけないひとり。(そもそもそんな度胸ない)

 

 でも、今日は違った。

 

 足が震えながらも、ゆっくり近づく。

 

 

 『あっ店長さん…今、お時間よろしいでしょうか……?』

 

 

 星歌は、ノートPCをいじっていた手を止め、ひとりに振り返る。

 

 ひとりが自分から話しかけてくるなんて、初めてのこと。

 

 星歌の目が一瞬大きく見開かれ、内心で驚愕が走った。

 

 

 

《ぼっちちゃんが自分から…!?いつも目も合わせないのに…何の用だ?アドバイスでも欲しいのか?それとも……ついにスターリーでバイトしたくなったのか!?》

 

 

 

 頭の中は一瞬で《ぼっちちゃん可愛い》だの、《メイド服着せたい》だので埋め尽くされた。

 

 でも、表情には出さない。

 

 クールに目線を合わせて、静かに聞いた。

 

 

 『どうした?ぼっちちゃんから話しかけるって珍しいな』

 

 

 ひとりは目を逸らしながら、震える手で封筒を差し出した。

 

 それは、父の直樹が、ひとりに渡してくれたもの。

 

 

 『あっこれ…お父さんが、このお金を店長さんに渡して欲しいって…ライブ終わった後の…打ち上げに使いなさいって…』

 

 

 星歌は、いきなりお金を渡してきたひとりに、少し眉を上げた。

 

 

 『えっ?いやそんな悪いよ…お金なんて』

 

 『あっお父さんが……『娘が世話になってるバンドや、ライブハウスにお礼がしたい。遠慮はいらないから、これで美味しいものを食べて、英気を養い、次もまた頑張って欲しい』って…言ってました……』

 

 

 ひとりは、目を逸らしたまま…でも必死に伝えた。

 

 星歌は、封筒を握ったまましばらく黙った。

 

 そして、静かに息を吐いて微笑んだ。

 

 

 『ぼっちちゃんのお父さん……いい人だな。…わかったよ。ありがたく受け取るよ』

 

 『あっはい』

 

 

 ひとりは、ホッとしたように肩を落とした。

 

 でも、まだ言い足りないことがあった。

 

 さらに小さな声で、続けた。

 

 

 『あっあと、お姉さん…きくりさんも……是非、誘って欲しいです……ここだけの話…お姉さんには、チケット売るために一緒に、路上ライブを手伝ってもらったり……チケット2枚も買ってくれて……そして台風の中、わざわざ見に来てくれたり……だから……お礼としてお姉さんにも…来てほしくて…』

 

 

 星歌は、ひとりの言葉を聞いて、胸が熱くなった。

 

 

 《こんなに恥ずかしがり屋で、いつも縮こまってるぼっちちゃんが……こんな優しいことを、ちゃんと伝えてる》

 

 

 星歌は、内心で感動しながら、あっさり頷いた。

 

 

 「……わかった。あとで廣井も誘うよ。…ぼっちちゃんは優しいな」

 

 「……あ、ありがとうございます……!」

 

 

 ひとりは顔を真っ赤にして、慌てて頭を下げた。

 

 用事が済み、ひとりは【結束バンド】のメンバーの元へ向かい、楽屋に戻った。

 

 星歌は、封筒を握ったまま、しばらくひとりの背中を見送った。

 

 

 《……そういや、いくら入ってんだ?やけに封筒厚いけど…》

 

 

 そして、中を開けてみた。

 

 

 「!!!??」

 

 

 中には、50万円入っていた。

 

 

 「……47、48、49、50……マジかよ……」

 

 

 星歌は、呆然とした。

 

 でも、すぐに笑みが浮かんだ。

 

 

 《ぼっちちゃんのお父さん……本気で娘のバンドを応援してるんだな……せっかくのご厚意だ。高級焼肉店、当日予約入れとくか……あと、お釣りは絶対ぼっちちゃんに返すぞ》

 

 

 星歌はスマホを取り出し、すぐに高級焼肉店の予約を入れた。

 

 ちなみにきくりは、カウンターとは離れた隅の方で、一人ポツンと立っていたため、会話は聞かれなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「おっお姉さんは、あの日、私を支えてくれて…チケット買ってくれて…台風の中……見に来てくれて…だから今回の打ち上げ…楽しんでほしいと思って…」

 

 「……ひとりちゃん」

 

 

 きくりは、涙目になった。

 

 ひとりの目をちゃんと見て、震える声で言った。

 

 

 「……ひとりちゃん……ありがとう…すごく嬉しい……」

 

 「あっはい。…なので、お姉さんも今回は遠慮せず…楽しんで欲しいです…」

 

 「あっうん…ありがとね……」

 

 

 そんな様子を見ていた、喜多、虹夏、PAさんは、二人のやりとりを微笑ましそうに見ていた。

 

 星歌は、二人の内気で初々しいやり取りを見て、内心キュンキュンしていた。

 

 

 (こいつら可愛すぎるだろ…!)

 

 「店長店長!早く食べよう!お腹すいた!」

 

 「わかったって山田…そう急かすな」

 

 

 そんな二人を横目に、星歌がジョッキを掲げ、乾杯の音頭を取った。

 

 

 「…みんな。今日は台風の中、よくがんばったな。【結束バンド】の初ライブ、最高だったぞ…それじゃあ乾杯!」

 

 「「「「「「かんぱーい!」」」」」」

 

 

 全員がグラスを合わせ、笑顔で飲み干した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 肉が次々と焼き上がり、みんな思うままに楽しんだ。

 肉がジュージューと焼ける音と、香ばしい匂いが部屋を満たす。

 

 

 「うわっこのロース美味しい!口の中で旨味が溶けていくよ〜!」

 

 「きゃー!綺麗な盛り付けで、すごく映えるわー!」キターン!

 

 「うめ うめ うめ」

 

 「はぁ〜。やっぱり、いいお肉食べながら飲むビールは格別ですね〜♪あっ後藤さん。この辺のお肉焼けましたので、どうぞ」

 

 「ふぅ…こういうのも悪くないな。ほら、ぼっちちゃんもいっぱい食べな、ごはんよそってやるから。今日は本当によく頑張ったな」

 

 「あっはい。いただきます。…〜っ!美味しい…」

 

 

 虹夏は、早速ロースを頬張り、満面の笑み。

 

 喜多は、キタ〜ン!と張り切ってイソスタ用の写真を撮り。

 

 リョウは、『えっ今日は全員カレーライス食っていいのか!?』というテンションで、泣くほど喜びながら静かにタンを味わう。

 

 PAさんは、ミスジを堪能しつつビールをちびちび飲み、ひとりに肉を振る舞う。

 

 星歌は、日本酒をロックで味わい、御櫃から白ごはんをよそって、ひとりに渡す。

 

 ひとりは、PAさんと星歌から焼き上がった肉と白ごはんを受け取り、美味しそうに食べ、笑顔になる。

 

 

 

 そして──

 

 

 

 きくりが、ビールを一気に飲み干した。

 

 

 「……ふぅ……」

 

 

 次の瞬間、きくりの目がキラーンと光った。

 

 いつものハイテンション酔っ払いモードにスイッチオン。

 

 

「うっひょー!!! うまっ!!!これこれ〜! 酒うめぇぇぇ!焼肉最高〜!!!先輩、もっと焼いて焼いて〜!すみませ〜ん!生ビール、大ジョッキでおかわり!」

 

 

 きくりは、幸せスパイラルを噛み締めながら、追加でビールを注文。

 

 そして、星歌にダル絡み開始。

 

 

 

 「先輩ってさ〜、いつもクールぶってるけど本当は優しいよね〜wwなんかヤンキーが雨の中、子犬を見捨てられない感がめっちゃ出てたわwwwあと、ひとりちゃんのぼっちちゃん呼び可愛いよね〜?てかぼっちちゃんってなんだよ〜!うける〜!あははははwwwwwwwwwwwwwwww」

 

 (う…うぜぇ…!こいつ酔うとクソうぜぇ…!でも、誘ったのはこっちだし……今更下手なこと言えねぇ……)

 

 「あっ…お姉さん、楽しんでもらえて何よりです…」

 

 「ぼっちちゃんもありがとね〜wwwあっ!私もぼっちちゃんって呼ぶね〜!…にしても、ぼっちちゃんって…あひゃひゃひゃひゃひゃ!!おもしれ〜wwwwww」

 

 「あっはい」

 

 「お前しばらく会わないうちに面倒くさい奴になったな…

 

 シラフの時はあんな可愛かったのに…」

 

 

 

 酔っ払って、幸せスパイラルをキメたきくりは、もう止まらない。

 酔いが回るにつれ、声がどんどん大きくなっていく。

 

 そんなきくりの豹変ぶりに、虹夏と喜多、PAさんは、目を丸くした。

 

 

 「えっこの人、酔ったらこんな感じになるの……!?」

 

 「最初はあんなに内気な感じだったのに、酔ったらこんなにハイテンションなんですね…!」

 

 「飲み会覚えたての大学生に通ずるうざさがありますね」

 

 「いや……これでこそ、廣井さんだな」

 

 

 しかしリョウは、腕を組んで静かに頷いた。

 そして、リョウは茶碗を持ったまま、きくりの横に座り、話しかけた。

 

 珍しく、声に熱がこもっている。

 

 

 「廣井さん。私、よく【SICK HACK】のライブ行ってました…!」

 

 「え?ほんと?君見る目あるね〜!」

 

 「はい…!アルバムも全部持ってます…!…ところで、何であの時シラフだったんですか?そんなこと、今まで一度もなかったのに…」

 

 「あ~それね!前までは将来への不安とか、全部忘れられるから飲んでたんだけどさぁ~。もう、それなりに安定した収入もあって、金にも困らなくなったから、今は自分へのご褒美の時か、ライブ前後に気分が高揚した時だけ飲んでるんだよ~!」

 

 「そういう経緯が…廣井さんの秘話が聞けて嬉しいです…!」

 

 「えへへへ~、ありがとね~!」

 

 「…あの、リョウ先輩…この人のバンド、やっぱり人気なんですか?【NEW GLORY】とのコラボ曲聴いて、演奏も声も一級品ってのは知ってますけど…」

 

 

 

 珍しく興奮しているリョウに、喜多は【SICK HACK】がどんなバンドなのか尋ねる。

 

 そんな喜多の質問に、リョウは珍しく目をカッ開き、声を荒げる。

 

 

 

 「!?何言ってんの()()!!この人、廣井きくりさんがいる【SICK HACK】は、今日本で一二を争うくらい、勢いのあるバンドなんだよ!曲聴いたならちゃんとバンドもリサーチしないとダメだよ!

 

 

 

 

 ()()!!!」

 

 

 

 

 

 「!!?」

 

 

 

 そして、リョウの突然のカミングアウトに、一瞬で体が固まる郁代w

 

 いきなり知らない名前が出てきて、疑問を口にするきくり。

 

 

 「え〜?郁代って誰だっけ?」

 

 

 

 「へ…へへへ…だっ誰でしょうねぇ…そんなしわしわネーム…だっ誰の事かな?郁代ちゃーん出ておいで…」

 

 

 

 「お前の名前だろ」

 

 「あ〜喜多ちゃんかぁ〜」

 

 「その顔、後藤さん以外にも伝染するんですか」

 

 

 

 星歌は、郁代を呆れた目で見ながら酒を飲み。

 

 きくりは「郁代ちゃんかわいい〜!」と茶化し。

 

 PAさんは苦笑しながら肉を焼いている。

 

 

 「あ〜あ!ずっと隠してたのに!!この名前嫌なんですよ!それにダジャレみたいでしょう!?きた〜!行くよ〜!ってあははあほか〜〜いwwww」

 

 

 「喜多ちゃんぶっ壊れた…」(というかあたし…ぼっちちゃん家に行った時、身分証提示で喜多ちゃんのフルネーム聞いてたし…)

 

 

 郁代は両手で顔を覆い、テーブルに突っ伏してじたばた。

 

 虹夏は、ひとりの家に訪問した際に、フルネームを把握していたが、それを口には出さなかった。

 

 

 「私のフルネームは喜多喜多です…」

 

 「何か弱ってるの新鮮で面白い」プスプス

 

 「お前性格悪いな」

 

 「ああああああ!!!!そ、それよりリョウ先輩!!【SICK HACK】の説明お願いします!!ねっ!?ねっ!!?」

 

 

 郁代のテンションが、名前の如く、しわしわになっていく。

 

 その様子を見たリョウは、いつもテンションの高い後輩のギャップを見れて、ご満悦。

 

 そして郁代は、話を逸らすために、【SICK HACK】についてリョウから聞き出した。

 

 一刻も早く、この話題から抜け出したくて必死だった。

 

 

 「もっと弄りたいけど…まぁいいや。観客に酒吹きかけたり、泥酔しながらのライブ最高です…!顔面踏んでもらったのもよい思い出です…!」

 

 「ありがと〜!実は9月からZIPPERツアーやるんだ〜!ZIPPER羽田とZIPPER新宿、東京でも2公演やるから遊びに来てね〜♪…あっ!もう全公演売り切れてたわ!あははははは!人気者は辛ぇ〜www」

 

 「はい…!【NEW GLORY】とのコラボ曲もMVも最高だったし、最新のフルアルバムは、CDもデジタルダウンロードも全部買ったし、今度始まるリリース記念のZIPPERツアー……新宿は落選したけど、ZIPPER羽田のワンマンはチケット取れたので、絶対見に行きます…!」

 

 

 きくりは、目を丸くした。

 

 そして、承認欲求が満たされて、酒のピッチがさらに上がった。

 

 

 「えええ!? マジで!?ありがとう〜!!!うぇ〜ん!!! ファンにそう言ってもらえると嬉しいよ〜!生きててよかった〜!!!」

 

 「バカテクバンドなのに…実力あるのに売れなくて残念だったけど…ようやく大衆にうけ始めて、日の目を浴びる事ができて嬉しいです」

 

 「うおおお!君ほんといい子だね!あとZIPPERの間に、新宿FOLTでもワンマンやるから来てね!チケット残しといてあげるから!よっしゃ〜先輩! もっとこの子に肉焼いて!ごはんもよそってあげて!山田ちゃんだっけ?どんどん食べてね!」

 

 「はい…!いただきます!あとFOLTのライブも絶対行きます!」

 

 「……お前、ほんと面倒くせぇな……」

 

 

 星歌は、ため息をつきながらも、渋々肉を焼いていく。

 

 そして、虹夏と喜多はきくりの言葉に驚いていた。

 

 

 「え?ZIPPERツアーって…この人そんなすごい人だったの!?…しかも全公演ソールドアウト…!?」

 

 「………伊地知先輩!オーチューブで【SICK HACK】のチャンネル調べたら、一番人気のやつは8000万以上も再生されてますよ!他のMVも、1000万が一個と、数百万再生のが何個か……というかこのチャンネルでも【NEW GLORY】とコラボ曲出してたんですね!?私、【NEW GLORY】のチャンネルしか見てなかったから気づかなかった…」

 

 「ええ!?そうなの!!?あっあたしもあとで見てみよう…!」

 

 「あぁ^〜心がぴょんぴょんするんじゃぁ〜〜!私の最初のライブの時、二人しかいなかったのに。出世したわ〜♪」

 

 「今やお前のバンド、洗練されたファンがどんどん増えて、超絶ヘンタイバンドになったよな」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 しばらくしてみんなが笑い疲れた頃、ひとりのすぐ横の壁の方から、くぐもった声が聞こえてきた。

 

 

 

 「……はぁ……人生って……何なんだろうな……」

 

 「…俺も、必死に勉強して…いい大学まで入ったのに……大手は軒並み落ちて、結局聞いた事ないブラック企業に行って、安い賃金で毎日こき使われてる……」

 

 「毎日会社行って、夜遅くまで残業してンのに、給料も大して上がらず、ボーナスも雀の涙程度……彼女もいないし、家と会社行き来するだけ……気づけばもうすぐ27……唯一の趣味は二次創作のネット小説読み漁るだけ…ガチで終わってンな俺……」

 

 「……とりあえず飲もうぜ。せっかく奮発して、こんな高級な焼肉屋来たのに…」

 

 「……そうだな………俺、どこで間違えたんだろ…」

 

 

 

 ひとりは、耳を澄ませた。

 隣の個室から、サラリーマンが人生に嘆いている。

 ひとりの顔が、みるみる青ざめていく。

 

 

 (人生とはどこまでも地獄なのか…!)

 

 

 そして、ひとりの頭の中で、いつもの妄想が爆発した。

 

 

 

 進学できるほど頭良くないし、大学行っても目的がないから勉強のモチベーションが湧かない。

 だから高校卒業後は一旦就職するしかない。

 

 でも就活失敗したり、企業リサーチも碌にせず、とりあえず内定貰ったブラック企業に入って……成果が出せずに、居場所もなくなり…自主退職。

 

 父親のおかげで一生遊んで暮らせて、一生食うに困らないとはいえ、親の金を食い潰す罪悪感と自己嫌悪に浸りながら、現実逃避のために酒に溺れる。

 

 しかもニートであっても、家族はみんな優しく接してくれるから、余計に惨めで辛い。

 

 

 

 (…だったらお父さんみたいに、16~17歳くらいで一人で海外渡り歩いて、武者修行でもする…!?いやいやいや!【NEW GLORY】のワールドツアーにちょこちょこ着いて行って、ある程度の日常会話なら英語話せるけど……日本以上にコミュ力が必要な海外には……とてもじゃないけど行けない!!!)

 

 

 

 ひとりの顔が、どんどん崩壊していく。

 

 目がぐるぐる回り、口が溶け出し、頰がしわしわに、最終的に体全部ぐにゃぐにゃに溶け始める。

 

 

 

 「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃやああああぁぁぁぁ!!!!!!!売れなかったら…!!!!ニートで酒飲みで…!!!親の金食い潰して…!!!!最悪の穀潰しになってしまうぅぅぅぅ!!!!うわあああああああ!!!終わりだぁぁぁ!!!死ぬ!!!死んでしまう!!!ぎえええええええええ!!!!!!!やっぱりニートああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 「「「「「!!!!!??」」」」」

 

 

 ひとりは全身が胞子状に散らばって大発狂。

 

 部屋が一瞬静まり返り、すぐに騒然とする。

 

 

 「ぼっちちゃんまたいつもの発作か…!?」

 

 「あっこれいつもなんだ」

 

 

 「早くギターで食べれるようにならないと私はニート…」

 

 

 「仕方ない…紙やすり頂戴」

 

 「毎回この作業大変ですよね…」

 

 「お前ら手慣れてんな…」

 

 

 そんなこんなで、一悶着あったが、大人たちに励まされて、少しづつ落ち着いていった。

 

 

 

 

 ◆

 

  

 

 

 やがて、メインの肉は一通り食べ終わり、シメのデザートを全員楽しんでいた。

 そんな中、ひとりはふと気づいた。

 

 

 「……虹夏ちゃんが…いない……?」

 

 

 テーブルを見回すと、虹夏の席が空いている。

 ひとりは、そっと立ち上がり、個室を出て廊下を歩いた。

 

 

 ひとりは、店の外に通じる非常口の近くで、虹夏を見つけた。

 

 虹夏は、一人で外の空気を吸っていた。

 

 軒下に立って、雨の匂いを吸い込んでいる。

 

 ひとりは、そっと近づいた。

 

 

 「あっ虹夏ちゃん…何してたんですか」

 

 「!ぼっちちゃん。ちょっと外で涼んでたんだ」

 

 

 虹夏は振り返り、少し驚いた顔をした。

 ひとりは、そのまま隣に立って、虹夏に話しかけた。

 

 

 「さっ最近はもう、夜は涼しいですね…」

 

 「そうだね〜。あ〜あともうちょっとで夏休みも終わりか〜」

 

 

 虹夏の言葉にひとりは、現実逃避するように呟いた。

 

 

 「何も聞こえない何も知らない夏休みは終わらない私は学生なんかじゃない木…水…惑星…銀河…」

 

 「ぼっちちゃん現実を見て!!」

 

 「……うう…」

 

 

 

 虹夏は、コミカルにツッコミを入れ、ひとりは、肩をすくめた。

 

 そして虹夏は、ふっと真剣な顔になった。

 

 

 「あのさ…今日の演奏みて気づいたんだけど…ぼっちちゃんがギターヒーローなんでしょ?」

 

 

 唐突な正体バレに、一瞬体が固まるひとり。

 

 慌てて手を8本に増やしブンブン振った。(たこぼっち)

 

 

 「えっうっあの…ちがちが…」

 

 「あのキレのあるストロークを聴いたら分かったよ…今更だけどギターも一緒だし」

 

 

 正体がバレてしまい、ひとりは、涙目でうなだれた。

 

 

 「えっと…そうです…でもわざと隠してたんじゃなくて…」

 

 「……今の私……実力の十分の一も出せてないんです……性格、直してから……話したかったんです…」

 

 

 虹夏は、優しくひとりの肩に手を置いた。

 

 

 

 「ぼっちちゃん……ギターヒーローだって知られて、ショックだった?」

 

 「…い…いえ…虹夏ちゃんが……嫌いになったり……しないかなって……怖かったです」

 

 

 虹夏は、ひとりの目をしっかり見て言った。

 

 

 「むしろぼっちちゃんでよかったよ。それに、ギターヒーローじゃなかったとしても、あたしはぼっちちゃんに救われた」

 

 「……虹夏ちゃん……」

 

 

 ひとりの目が、うるっとした。

 

 虹夏は、少し遠くを見て、静かに話し始めた。

 

 

 「私……小さい頃、お母さんが亡くなって……それから、ずっと寂しかった」

 

 「そんな私を、お姉ちゃんがライブハウスに連れてってくれて……音楽に救われたんだ。…お姉ちゃんはそんな私のために、スターリーを作ってくれた。全部……私のために……」

 

 

 ひとりは、静かに聞いていた。

 

 虹夏は、笑顔で続けた。

 

 

 「だから……私の本当の夢は、お姉ちゃんの分まで【結束バンド】を人気にして、スターリーを有名にすること!……でも駆け出しで、無謀な夢だってわかってる。今日のライブでも……自信なくなりかけてた」

 

 「でも……ぼっちちゃんが助けてくれた。あのギターソロで……みんなの心、取り戻してくれた」

 

 「そして最後は、今までで一番の手応えだった!そんなみんなの道標になってくれたぼっちちゃんは……私には本当のヒーローに見えたよ!」

 

 

 ひとりは、涙をこぼした。

 

 

 「……虹夏ちゃん……」

 

 

 虹夏は、ひとりの手を握り、真っ直ぐ見つめた。

 

 

 「ぼっちちゃんがいれば……夢を叶えられるって確信した。

 

 だから……もっと、導いて欲しい。私……ぼっちちゃんについてて欲しいの!」

 

 「だからこれからもたくさん見せてね。ぼっちちゃんのロック…

 

 

 

 ぼっちざろっくを!」

 

 

 ひとりは、涙を拭きながら、頷いた。

 

 

 「……はい……私も……虹夏ちゃんたちと……ずっといたいです…ギタリストとして…皆んなの大切な【結束バンド】を最高のバンドにしたいです」

 

 「うん!これからもよろしくね!ぼっちちゃん!」

 

 「あっはい!」

 

 

 二人は、静かに微笑んだ。

 

 台風の通り過ぎ、綺麗な星空が広がる。

 

 【結束バンド】の夢は、まだ始まったばかり。

 

 

 

 でも──ここにいる仲間たちがいる。

 

 

 

 それだけで、ひとりの胸は、温かかった。

 

 ひとりは、虹夏の手をぎゅっと握り返した。

 

 

 「……一緒に……がんばりましょう…!」

 

 「うん! その意気だよ!!【結束バンド】は最高のバンドになる!」

 

 

 二人は、店内に戻った。

 

 みんなの笑い声が、温かく迎えてくれる。

 

 未来への希望が、ひとりと虹夏の心に、静かに灯っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直樹は、福岡のホテルルームでソファに深く腰を沈めていた。

 アリーナ公演の前日リハが終わり、メンバーたちもそれぞれ部屋に戻った後、一人になった部屋は静かだった。

 

 窓の外には、福岡の夜景が広がっているが、直樹の視線はスマホの画面に固定されていた。

 

 

 (今日は、ひとりの…【結束バンド】のライブだったな)

 

 

 娘の【結束バンド】の、4人揃っての初ライブ。

 

 家族で行けなかったことが、心にずっと引っかかっていた。

 

 ツアーのスケジュールが詰まっていて、福岡入りせざるを得なかった。

 前日入りでリハ、機材チェック、スタッフミーティング……すべてが終わった今、ようやく息をつける時間になったが、胸の奥に不安が残る。

 

 

 (台風……東京の方は直撃だって聞いたけど、大丈夫だったかな……スターリーは屋内だけど、雨が強ければ客も来ないかも……ひとり、緊張してたろうな……)

 

 

 直樹はスマホを握りしめ、ロインを開いた。

 ひとりからのメッセージは、まだ来ていない。

 ライブは夕方からだったはず。

 もうとっくに終わってる時間だ。

 直樹は、何度も画面を更新した。

 

 その時──通知音が鳴った。

 

 ひとりからだ。

 

 直樹は、慌てて画面を開いた。

 メッセージはシンプルだった。

 

 

 

 『お父さん、ライブ……成功したよ』

 

 

 

 続いて、写真が送られてきた。

 

 写真の場所は焼肉屋で、打ち上げ中なのか、【結束バンド】のメンバー全員が笑顔で写っている。

 

 虹夏が笑顔でピースサイン。

 

 喜多がカメラを持って自撮り。

 

 リョウがクールにドヤ顔しながら、親指を立てひとりと肩を組んでいる。

 

 ひとりは少し照れくさそうに、でも満面の笑み。

 

 後ろには店長の星歌、PAさん、きくりがいて、みんな楽しそうに笑ってる。

 

 みんな、興奮冷めやらぬ様子。

 

 

 

 直樹は、写真を拡大して、ひとりの笑顔をじっと見た。

 

 胸が熱くなった。

 

 涙が、にじんだ。

 

 

 「……よかった……本当に、よかった……」

 

 

 直樹は、スマホを胸に当てて、深く息を吐いた。

 

 不安が、一気に溶けた。

 

 娘が、初ライブを成功させた。

 家族で行けなかったけど、ひとりはちゃんとステージに立って、笑顔で終わった。

 メンバーたちと、大人3人組と一緒に、楽しそうに。

 

 直樹は、笑みが溢れた。

 

 

 (僕も……負けてられないな)

 

 

 明日は福岡のアリーナ公演1日目。

 

 明後日は2日目。

 

 いつも通り、満員の会場を熱狂させる。

 

 

 

 いや──いつも以上に。

 

 

 

 娘の笑顔を思い浮かべて、もっと熱く、もっと強く、みんなの心を揺さぶる。

 

 直樹はスマホを置いて、立ち上がった。

 窓の外の夜景を見ながら、決意した。

 

 

 (ひとり……お父さんも、ライブがんばるよ)

 

 

 余談だが、【結束バンド】のライブと【NEW GLORY】のアリーナツアー福岡公演前日のその日、ツアーの追加公演として発表された。

 

 6大ドームツアーのチケット販売が始まっていた。

 

 11月から2月までで、計4ヶ月にわたるドームツアーを敢行。

 

 東京→大阪→名古屋→札幌→埼玉→福岡と、全国6ヵ所、12公演で計62万人動員予定。

 

 スタンド席以外をオールスタンディングに変更し、収容人数以上のチケットを用意するも、販売開始から数秒で全公演ソールドアウト。

 

 直樹は、それを知っても驚きはしなかった。

 

 ただ、心の中で思った。

 

 

 (僕たちも……もっと上を目指そう。

 ひとりに、胸を張れるように……そして、

 

 NEW GLORY(あいつら)】と…世界一になる!)

 

 

 福岡の夜に、娘への想いを乗せて、改めて決意を固めた。

 

 明日のステージで、最高の音を届けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ!!チケット買うの忘れてた!!」

 

 「あぁ!!もう東京公演、売り切れてる!!というか全公演ソールドアウトになってるし…!」

 

 「ああああ……!なんで忘れてたんだ……!!このカラカラの脳みそが憎いッ…!!」

 

 

 ちなみに【結束バンド】のライブでそれどころじゃなかった、虹夏、喜多、リョウの3人。

 

 【NEW GLORY】の6大ドームツアーのチケット販売のことをすっかり忘れており、打ち上げ終わりの帰宅後に、ようやく気づいたが、既に全公演ソールドアウト。

 

 全員頭を抱えており、その中でも特にリョウは、一番悔しがっていた。

 

 

 




ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!
次回から結構、時系列が飛びますので、ご了承ください。
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