さて、これはおぼろ入道との戦いを終え三日ほど経った頃のことである・・・
普段俺が木刀を使うのは一重に、力を出しすぎない為だ。俺が本気で振るえば、木刀を壊すのと同時に相手の命まで奪いかねない。故に俺は、昨日まで一度たりとも喧嘩にて木刀を手放したことはない。まあ、そもそも人間相手に口喧嘩以外の喧嘩をしたことなど一度たりともないが。
だからといって、俺が前からあそこまでの力を出すことができるかと言えば否だ。そもそもあんな馬鹿力を使えるのなら、もっと簡単にミツマタノヅチを倒すことも出来ただろう。いや、余りに過剰な力ゆえに出し渋って負けていたかもしれないが。
ともかく、急に
そんな俺は今、鍛錬後の休息にゆきおんなの人間に化けた姿であるユキノとそよかぜヒルズにあるひょうたん池博物館に赴いている。まあ、所謂デートと言うヤツである。
ユキノ「高成!あの刀!教科書で見たことはあるけど、きっと本物はもっと凄いんだろうね〜」
高成「・・・」
ユキノ「高成?」
高成「あ、ああすまない。ちょっと気が抜けてた。」
・・・とまあ、彼女自身には誤魔化したが俺は子供らしくはしゃぐ彼女に見惚れていた訳だ。
いつから惚れていたのかは、わからない。しかし、彼女が普段から見せてくれる可愛らしい姿や俺に尽くしてくれる献身的な姿勢、優しくもしっかりとした性格に俺は惚れたのだ。しかし、彼女は死者であり俺は生者。そもそもが決して結ばれてはならないのだ。
だが、俺はそれでも彼女と結ばれたいと思ってしまっている。この気持ちは、この想いは、【罪】なのだろうか?
そう思っていると、同じく博物館に来ていたのであろう、干治とたまたまバッタリ出くわした。
高成「よお、干治じゃないか。」
ユキノ「あ、カンチくん!」
・・・噂?
高成「いや、俺たちは普通に勉強に来ただけだぞ?」
ユキノ「あの、カンチくん。その噂って?」
妖怪のせいだろうな・・・って馬鹿正直に言っても変な目で見られるだろうからか適当に同意しておく。
高成「まあ、そんな所だろうな。」
高成「ああ。」
ユキノ「うん。」
そして、存分に楽しんでから外に出て帰ろうとした、その時だった。
うんがい鏡「高成さん・・・」
高成「お前は確か・・・うんがい鏡だったか?」
うんがい鏡「はい。覚えていてくださり光栄です。それで実は・・・」
うんがい鏡曰く、ネズミ型の妖怪が頭をカリカリカリカリと齧ってきて迷惑を被ってるとのこと。そして、対抗しようにも資料保管庫にある鎧を操作して暴れるので手のつけようがないと言うことになってるらしいのだ。
そこで、また職員らが居なくなった時間帯にうんがい鏡の力を借りて、鎧を操るネズミ妖怪と戦うことになったのだった。
・・・
そこで行われたのは、死闘だった。
薙ぎ、突き、斬る。向こうも操る能力は高いらしく、凄まじい勢いで剣を振るう。剣を振るうのに誇りなぞいらない。必要なのは相手を如何に効率良く殺せるかだ。
高成「ハハハハハ!中々やるな!」
鎧「!?」
名も無きネズミ妖怪は、ものを操ることと修復することにおいて、右に出る者はいないと思うほど凄まじい腕を持っていた。こと、ものを操ることに関してはかつての使い手の技を再現することができるほどである。自身のその力に誇りを持っていたその妖怪はしかし、どれだけ攻撃しても受け流され攻撃を受ける。ただの物に取り付いたならまだしも、その鎧の使い手は嘗てその武勇を持って、無双の名を欲しいままにした強者のものである。ネズミ妖怪でも再現に手こずるような剣術の数々。にもかからわらず、その年若い少年は恐れるどころか嬉々として己を蹂躙している。
あまりの
・・・
・・・いけないな。最近、力に振り回されることが増えてきた。もっとちゃんと自制できるようしなければ、何か大切なものを失いかねない・・・
そう思い、自戒した俺は明日の修行を思いながら、うんがい鏡を使って自分の家に戻るのだった。
・・・
・・・きっとボクは、高成が好きで好きでたまらないのだろう。好きになったのはきっとボクを見つけてくれたあの時から。それから、まだ他人の間柄だったのにも関わらず力を抑えすぎて夏バテしていたボクにアイスを奢ってくれたり、友達の作り方を間違えていたわすれん帽を諭したり、ジバニャンたちをバカにしたネクラマテングに激怒したり、悪いことをした友達のクマくんの為に怒ったり・・・そんな高成のただ甘いだけじゃない本当の優しさにボクは惚れたんだ。
時にはその加減を間違えたりすることもあるけど、そんな所も含めてボクは高成が好きになったのだからもう救えないだろう。
それから博物館の反応で確証を持ったばかりだけど、高成もボクのことが好きで好きで堪らないみたいだ。
───だけど、この気持ちは一生、この胸に閉ざして、この命がまた尽きるまで出さないつもりだ。
ボクがあの時、遭難した雪山を乗り越えて生きていれば、高成と結ばれた可能性もあったと思う。なんならボクの生前であった女と高成は二つしか年の離れていない。生前であったなら、そう思うとあの時死んでしまったことを悔やんでならない。
でも、どうあれボクはあの時死んでしまった。ボクたちの世界は本当なら、決して交わることはできない。ならいっそ、このままこの恋は心の氷にてに閉ざすべきだと一妖怪としての理性が働きかける。
しかしどうしてもこの恋ばかりは理性の吹雪がどれだけ吹き荒ぼうとも、燃え盛り消火する気配が見えない。
───
読んでいただきありがとうございました。