なんでも一つ願いが叶うらしい(ただしその条件は鬼畜とする) 作:イーサン・W
ミッション
・多くのプレイヤーの救済
・主要キャラの死亡回避
・ラスボスの討伐
・ゲームクリアをすること
───この条件を全て満たしソードアート・オンライン(SAO)をクリアをした場合、報酬として貴方の所望するどんな望みでも支払われます。
───失敗した場合、貴方の所望する望みは棄却され、貴方は永遠に元の世界に帰還する術を失います。
西洋風の華広やかな街並み。
ガヤガヤとする周りの人達の声。
自身を取り巻く、剣や弓といったファンタジー。
周りの音が雑音として処理され、自身を靡く強い風を感じながら静かに冷や汗を流す。
自身の目の前に浮かぶ画期的なウインドウ。
そしてそこ書かれた内容。
「……………は?」
思わず困惑の声が溢れてしまう。
つい先程まで家でゴロゴロとしていた筈なのである──が気づいたらこの西洋風の街の中に居た。
目の前に浮かぶウインドウ。
四つの条件と《ソードアート・オンライン》というワード。そして成功した際の報酬と失敗した際の罰。
「……………は?」
再度、困惑の声が溢れてしまう。
程度の悪い何かのドッキリかであってくれとさえ思ってしまう。
だがその思いを否定するかのように目の前に浮かぶ非現実的なウインドウ。そして自身の視点の左上にある≪a≫というネーム、レベル1、HPがここが現実世界ではないとその事実を叩きつけてくる。
「これは夢……なわけないよな………」
身体の視覚が、聴覚が、触覚が、これは夢ではないと言うように鮮明に伝わってくる。
これが夢である筈がなかった。
一旦落ち着く為に目の前に浮かぶウインドウへと視点を移す。
ミッションと書かれた四つの項目。
内容から察するに《ソードアート・オンライン》に関するミッションだと分かるが、その内容が問題だ。
《ソードアート・オンライン》
その言葉が確かならここは≪アインクラッド≫。
物語の最初の舞台であり、命を賭けたデスゲームの舞台。一度でもHPが0になってしまったら現実でも死んでしまう、そんなゲームの舞台。
「いや……無理ゲーですやん………」
普通に考えてそんなデスゲームの世界でこの内容のミッションは鬼畜だ。プレイヤーの救済、主要キャラの死亡回避、ラスボスの討伐、ゲームクリアとまできた。
《ソードアート・オンライン》という物語を知っている人なら、如何にこのミッションの難易度が難しいか分かるだろう。
(しかもミッションをクリアした時の報酬……つり合ってなくね?)
ミッションを成功した際の自身の所望するどんな望みでも叶えられるというのはいい。
だが失敗した際の、所望する望みが棄却され、
要は元の世界に帰りたければ、このクリアした際の願いの報酬を使うしか手段がないという事である。
失敗した際には、望みが棄却され永遠に帰還する術を失うということは、それしか逆に手段がないという逆説にもなるのだ。
どんな望みでも──とあるが実質、願いはもう元から決まっているようなものだ。
報酬が『元の世界に帰れつつ、どんな望みでも叶えられる』なら文句はなかったというのが本音である。
というかそれじゃないとミッションの難しさと報酬がつり合っていない。
「なんだこの鬼畜ゲー……」
所謂、ゴミゲー、クソゲー、鬼畜ゲーである。
どうやら俺は元の世界に帰るためにこのSAOの世界で死ぬ気で頑張らないといけないみたいだ。
時間というのは大変優秀だ。
最初は訳も分からず混乱するだけだったが、ただ突っ立っている訳にもいかず色々と情報収集している内に、だんだんと冷静になることができた。
そしてその情報収集で幾つか分かった事があった。
ます一つ目は、この世界がSAO《アインクラッド》で確定だということ。二つ目は西暦が2022年11月6日──つまり原作開始日であるということ。
現在の時刻は13時34分。茅場晶彦の強制転移イベントは確か17時30分ぐらいに起こる。
約4時間。
プレイヤー同士のリソースの奪い合いになるまでの猶予。
ミッションにある多くのプレイヤーの救済。
それを達成する為にも俺はこの時間の間に経験値を多く手に入れとかないといけない。
茅場からSAOの本来の仕様が説明されれば、多くの人たちが混乱に落ち入り、自殺やモンスターに殺される人たちが大勢出てくる。
俺はその人たちを
そのためにはこの時間の間に俺が強くなる事が必須なのだ。
本来ならこんなことはやりたくない。
やりたくないがやらないといけない。
元の世界に帰るためにはやるしかないのだ。
「あああああ!!!」
自身の気持ちを表すように叫びながら、フレンジー・ボア目掛けてソードスキル《スラント》で一刀。その瞬間、フレンジー・ボアは切り裂かれ、ポリゴンとなって消滅する。
現在受けているクエストは《フレンジー・ボア》20体の討伐クエスト、《ダイアウルフ》12体の討伐クエスト、薬草の採取クエスト、《イエロー・ワスプ》15体の討伐クエスト、《フォレスト・ワスプ》の12体の討伐クエスト。
俺はこの4時間で多くのクエストをこなしていかないといけない。そしてレベルを上げ、経験を積み、強くならないといけない。
だが下手をしたら待っているのはdead end ──つまり死だ。強くなる所の話じゃなくなる。だが───
「やるしかない……やるしかないんだよなあ?!コンチクショーがァァ!!!」
剣を振りモンスターを狩っていく。
型なんてない、形だけの素人の剣術。だが一刀、一刀、確実にモンスターに叩き込むことを忘れずに、走るように戦闘を行う。
俺には危険な茨の道しか残っていない。
だが俺はその道をとことん前に進むしかない。
「帰ったら!絶対!ぜぇぇェーッたい!!可愛い女の子に慰めて貰うんだああああ!!!!」
脱童貞せずして何が漢か。
先人は言った。子孫を残せぬ敗北者だと。
「瓜坊ちゃーーん!!!今からお前を猪鍋にしてやるからさっさとその命寄越しやがれ!!」
フレンジー・ボアは攻撃のモーションが分かりやすく、難なく討伐完了。
所詮は獣、人間様には勝てないってことよ。
「この獣様如きが!!俺は童貞捨てるまで死にたくないんだよ!!」
フィールドボスである大イノシシ。一度突進によって吹き飛ばされ瀕死になるもなんとか討伐完了。
所詮は獣、人間様には勝てないってことよ。(死にかけ)
「お前ら集団で襲ってきて恥ずかしくないの?!獣の誇りとかないんか!!」
ダイア・ウルフは集団で襲ってきて、最初は対処困難で逃げ回ることになるが、なんとか一体一体始末することで討伐完了。
所詮は犬っころってことよ。(震え声)
「お前ら現実のハエみたいな動きしてんじゃねぇよ!気持ち悪りぃな!!」
イエロー・ワスプは不規則な動きで翻弄はされたが、一太刀すれば大体死ぬのでハエ叩きの要領で討伐完了。
所詮は蟲、人間様に叩き潰されるってことよ。
「毒飛ばすのとか反則だろ!!こちとら剣一本だけやぞ!!」
フォレスト・ワスプは不規則な動きに加えイエロー・ワスプより耐久値も高く、その上毒も飛ばしてくる。一度毒のせいで死にかけだが、なんとかポーションのお陰で耐え、その後ヒットアンドアウェイの要領で討伐完了。
所詮は蟲、余裕で叩き潰せるってことよ。(死にかけ)
「フゥ………」
一度、大きく息を吸い込み、息をゆっくりと吐き出す。
このクエストの過程で死にかけた回数はなんと2回。
HPがレッドゾーンに突入した回数がなんと2回。
大事な事なので何度でも言う。
死にかけた回数がなんと2回だ。
「厳しいって!このままだと第一層で死ぬって!」
流石はデスゲーム。普通に難易度が鬼畜だ。
ソロでこんなことをやるのはただの自殺行為だと見ていいだろう。
ただしキリトは別。あれは一人だけ別の次元に立っているんじゃないだろうか。流石は主人公といった所だ。是非このミッションを引き継いで貰いたい。
「っと。……そろそろ時間か」
時計に目を向けると時刻は17時29分となっている。
まあ自分がやれる分のクエストは大体こなすことが出来たんじゃないだろうか。レベルだって1も上げる事も出来た。
「………来たか」
ゴーンという鈍い鐘の低音が鳴り響くと共に自身の身体が蒼白い光に包まれていく。強制転移イベント。つまりSAOがデスゲームの世界であるという宣言がされるイベント。
これから多くの人が絶望に叩き落とされる阿鼻叫喚の地獄へと変化する。
ここ一ヶ月は死人が止まらない事になるだろう。
俺の目的はその死人を最小限にすること。
全部とは言わないが、なるべく多くの人を死なせないようにする。その為にこれからはずっと俺はフィールド上を駆け巡ることになるだろう。
「さあ気張っていくか………」
自身の目の前に広がる大勢の中央広場に集まる人々。これから何が起こるか知らない人々はあちこちで笑顔が溢れている。
空へと視点を向ける。
空は赤色に変色し、これから起こる不幸を示すようにwarningと空中に多数表示される。
そしてそこから赤黒い何かが飛び出し、赤いローブを羽織った茅場晶彦が登場する。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ───』
茅場晶彦の長ったらしい説明が始まる。人々は何事かとざわざわし始め、周囲に不穏が広がっていく。
俺は即座に行動出来るように出入り口の方へと移動した。
『───それでは最後に私からプレゼントだ』
周囲の人々が光に包まれ、元の姿──現実の姿へと変わっていく。
(俺の姿は………元々リアルの姿だし変化なしか)
俺の姿は元々初めから現実の世界の姿だった為、これといった変化はない。ただ周りの人たちの変化のしようは酷く、女だった奴が男にといった感じで次々とネカマプレイヤーが見つかっていく。
「!………あれは……」
周囲を見渡すと赤茶髪と黒髪の青年二人の姿が目に入る。俺の予想が正しければあれはクラインとキリトだろう。
つまり原作主要キャラだ。
関わりを持っておきたいが、まだ時期早々。今は別の事に集中しなければならない。
(まっ、攻略に参加してればいつか関わり持てるだろ)
俺は二人から視線を外し、これからの事について考える。
俺はこれから多くのプレイヤーを救わなければならない。そのためにはこの一ヶ月は1秒たりとも無駄にする事はできない。
『───以上で《ソードアート・オンライン》正式チュートリアルを終了する。諸君の健闘を祈る。
これはゲームであっても遊びではない』
茅場晶彦の姿が先程まで何もなかったようにふと消える。
空は元の色を取り戻し、色鮮やかな沈みかけの太陽は光で中央広場を照らす。
「………いや……いやああああ!!!」
「まじか………」
「ふざけんなよ!!ここから出せよ!!」
一度溢れたら止まらない水のように、人々の不安や恐怖が、怒声や罵声、悲鳴となって溢れ出す。
これはゲームであっても遊びではない。
このゲームで死ねば、現実でも死ぬ。それが重荷となって人々に漠然としない不安を与える。
「人命救助………やりますか」
さあ俺。
ここ一ヶ月はまともに寝れないことを覚悟しろよ。
「お前そんな見え見えの罠に引っかかんな!俺の仕事増やしやがって!!」
洞窟内で無数のコボルトに囲まれ襲われていた。後少し遅ければ相手も、俺も死んでいただろう。
「俺は早く……早く家族の所に行かなくちゃ……」
「こっから飛び降りてか?そんなことしたら家族に二度と会えなくなるぞ」
「お前に何がわかるんだ!!!」
「さあ?お前が飛び降りたら死ぬって事はわかるな」
フィールド外に飛び降り自殺をしようとする多数の人を無理矢理にでも引き留めた。そしてゲームクリアをするまで絶対にログアウトする事は出来ないとも改めて伝えた。
「いいかいコペル君?《PK》は駄目だよ、《PK》は!俺じゃなかったら死んでたよ?というか俺が居なかったら君死んでたよ?見てみなよこれ……俺のHP。レッドゾーンだよ……レッドゾーン。こりぁ慰謝料請求もんだなあ?というわけで有金とドロップした《リトルネペントの胚珠》全部寄越せ」
原作ではキリトのことを《PK》しようとしたコペル君。
そんなコペル君に俺はホルンカの森でキリトよりも先に出会い、組んだら案の定、《PK》されそうだったので必死にコペル君を守りながらリトルネペントを排除した。
この時の俺は普通にHPがレッドゾーンに行って死にかけたので少しキレた。
《リトルネペントの胚珠》二つと1260コルは美味しかった。
「いいか?このゲームに《隠しログアウトスポット》なんて物はない。そんなガセネタに踊らされてたら死ぬぞ」
《隠しログアウトスポット》などというデマが広がり、そこに来る人々をモンスターにやられないよう何度も助け、説得した。
この時の俺はほぼ4日も寝ていなくてヘロヘロだったのを覚えている。
仮眠を取ったりもしてるが、いつ人が死ぬかわからない為、基本はフィールドを駆け巡っていた。
ここ一ヶ月は自殺所望者などが減ってきているので、後少ししたら、ぐっすりベッドで休む事が出来るだろう。
「お前馬鹿だろ?絶対馬鹿だろ?何?死にたいの?俺の仕事が増えるからやめろ。いや、やめてくださいお願いします」
迷宮区の最奥で一人、コボルトと乱闘している奴を見つけた。何日も迷宮区に籠っているようで動きがフラフラで、いつ死んでもおかしくない状態だった。
俺が助けると、余計なことはするな、と言われた。
俺からすると勝手に死なれたら困るので是非やめて頂きたい。
命大事に!!
▼▼
初めて私がその人に会ったのは、私が《隠しログアウトスポット》の事を聞きつけ、その場所に出向いた時の事だった。
「───いいか?このゲームに《隠しログアウトスポット》なんて物はない。そんなガセネタに踊らされてたら死ぬぞ」
どうやらその場には、私より先に先客がいるようだった。ただ空気感が不穏で、私は身を隠し、ただ聞き耳を立ていた。
「あ?どうしてそんなことが分かるのかって?だってあの茅場晶彦だぞ?そんな道、残してるわけないじゃん。普通にこんな場所に留まってたらただモンスターに殺されて死ぬぞ。家族に会いたいんだろ?なら今さ、頑張って生きようぜ。…………分かったらさっさとお家に帰りな。真っ直ぐ帰宅、go homeだ」
どうやらその場には二人の先客が居たようで、片方がもう片方を説得しているようだった。
その時に彼に私は出会った。
彼は私と同じように《隠しログアウトスポット》を聞きつけてやって来た人たちを何度も、何人も説得して追い返していた。
今はさ、頑張って生きようぜ?──意味がわからない。どうしてこの世界で頑張って生きようと思えるのか、私には理解出来い。
そして彼は最後に決まってこれを言っていた。
「俺が絶対にこのゲームをクリアまで導いてやる。だから絶対に死のうなんて思うんじゃねぇぞ」
馬鹿なんじゃないのかと思った。
なんせこのゲームをクリアするなんて夢物語を本気で語っていたのだから。
私にはその熱意も真意も全く理解する事は出来なかった。
二度目の邂逅は私が迷宮区に篭っている時の事だった。
何日も篭り、モンスターを狩る。ただそれの繰り返し。
最初の街に引き篭もって、ゆっくりと腐っていくなら最期まで全力で戦い抜いて、私は満足して死にたかった。
ただそれを彼は邪魔をした。
「お前馬鹿だろ?絶対馬鹿だろ?何?死にたいの?俺の仕事が増えるからやめろ。いや、やめてくださいお願いします」
彼は私とモンスターの間に割って入り、私の事を勝手に助けた。
余計なことを、この時は本気でそう思った。
私は戦って死にたい。だというのにこの男は私を助けてくる。
ただ私は腹立たしかった。
「余計なことを!それにいきなり割って入るなんて失礼だと思わないの?」
「そんなフラフラで何言ってんの、お前?死ぬぞ」
「そんなこと貴方には関係ないでしょ!放っておいて!」
「いや関係あるわ!死なれたら困るの!」
「何が関係あるのよ!」
「うぇ?……んーと、ゲームクリアとか?」
衝撃のあまり目を見開いた。
ゲームクリア。
それを本気で言っているのかと思った。この二ヶ月、たった一層ですら突破出来てないのに、そんなことを本気で言っているのかと。
「その前にどうせ皆んな死ぬのに?遅いか、早いかの違いでしょ」
「ああ、いつか人は死ぬ。でも今じゃない。そしてまだまだ死んでやるつもりも俺にはない。目的も達成出来てないしな」
彼の真っ直ぐな瞳を見ていると、本当に嫌な気持ちになってくる。彼のこのゲームクリアに対する思いが、自分の愚かさを象徴してくるように感じてしまい、最早自己嫌悪に陥ってしまう。
「とりあえず一旦帰って休め。お家のふかふか……ではないけどベッドが待ってるぞ」
「そんなこと言われても従うと思う?」
「できれば従ってほしいな」
「なら無理よ。私は戦っていたいの。戦って、戦って……」
「最後に死にたいのか?」
「………ッ」
自分の思いが当てられ、思わず顔を顰める。
戦って、戦って、戦い抜いて死にたい。
それの何がいけないのだろうか。
どうせこのゲームはクリア出来ない。
皆んな死ぬだけだ。
なら、それなら、自分が戦ったという証だけでも残したっていいじゃないか。
「なら明日、近くの《トールバーナ》って街に行け。そこで第一層ボスの攻略会議が開かれる。戦いたいならうってつけだろ?」
「………そこに貴方も行くの?」
「さあ?どうだろうな?」
「はっきりしなさい!」
「なら明日来て確かめるんだな」
そこで私は強く感じた。
私はこの人が嫌いだと。