Tail of Twin 作:グラコ口
「何故だ、何故解らぬ! 寂しいと死んでしまうという儚さをその身に宿した天使の―――」
「グランドブレイザ―――――ッ!」
ブルーの如く問答無用、見敵必殺で放ったオーラピラー、そしてグランドブレイザーがラビッドギルディを塵に還す。
どう考えてもラビッドギルディにテイルホワイトを倒せる実力などなく――――しかしそれでも、聞かずにはいられなかった。
「トゥアール! ホワイトの
「―――――…ダメです、変化ありません」
僅かに落胆するが、それは戦いがまだ終わっていないのでは。という予測に変わる。
日本だということくらいしかわからない、山の中―――。
まさかラビッドギルディは野生のウサギまで守備範囲だったのだろうか。僅かにそんなことを考えながらも、周囲への警戒は怠らず。
「――――ッ!」
背筋に冷たいものが走る感覚とともに空を見上げ、咄嗟に地面を転がってその場を離れ――――――直後、地面が爆裂した。
「お、前は――――っ!?」
そこにいたのは、3メートルに届くのではと思わせるほどの巨躯。
どこか竜を思わせる黒い甲冑のような怪物。ただ立っているだけだと言うのに、その威圧感はこれまでに見たどのエレメリアンでも比較にならない、隔絶した実力を誇示している――――!
「――――…ほう、流石は多くの我が部下を討った戦士、そうでなくては困る」
「う…っ」
コイツは、コイツなら――――。
「我が名はドラグギルディ! 全宇宙全世界全てを並べ、ツインテールを愛するにかけて我が右に出るものはないと自負している!」
「――――ひとつ、聞かせろ! ホワイトのツインテールを奪ったのは、お前か!?」
コイツなら、ドラグギルディにならホワイトが敗れていても不思議はない。それなら、コイツさえ倒せれば――――そう考えてブレイザーブレードに力を込め。しかし、ドラグギルディから返ってきたのは僅かに困惑するような気配だった。
「――――なに? 我が出た時点ではまだ確かにホワイトのツインテール属性は存在していたはずだが」
「………な、なんだって!? トゥアール、どうなってるんだ!?」
『――――…わかりません。ですが、とにかくそれに勝てなければ元も子もありません! 総二様、どうか目の前の敵に集中を!』
たしかに、目の前の相手にはそれだけの威圧感がある。
ドラグギルディはラビッドギルディが消えた空間を見つめ、呟く。
「……馬鹿者。我が行くと行ったものを……!」
その言葉とともに剣を構え、その体から闘気が吹き上がる。思わず身を守るようにブレイザーブレードを掲げさせられるほど暴威と共に、宣告される。
「――――不甲斐ない部下たちが退屈をさせた。……だが、大事な同胞に変わりはない。仇は討たせてもらう! お主の
「勝手に攻めてきて、何が仇だ! 俺は……大切な
最早こちらを押し潰そうとするかのような威圧に負けじと、ブレイザーブレードが炎を帯びる。その熱による気流と、満ちる闘気でツインテールが揺れ――――。
「――――…參る!!」
「な…っ!?」
その巨躯が信じられない速度で動く様は、まさに山が動くかの如く。
瞬時に0になった距離に、反射的に振るったブレイザーブレードが振り下ろされた大剣と激突し、耳障りな金属音とともに激しく火花が撒き散らさる。
「―――――ぅ、ぐぅぅぅっ!?」
剣で受けられたのは、ほとんど偶然のように思えた。防御膜であるフォトンアブソーバーの受け止められる限界を超えているのか、テイルギアを纏って初めて感じる痛みが腕に走り。押し切られた身体が大きく後ろに後退する。
「……そんな力任せの受けで刃こぼれ一つせんとは。――――頑丈だな、とても人間の作ったものとは思えん!!」
なんて馬鹿力だ!? 守ったら、負ける――――!
そもそもが体格が違いすぎるのだ。咄嗟に守勢は不利と判断し、巨躯の懐に飛び込まんと放った斬撃は、ドラグギルディのまるで何気なく振るっているかのような剣にあっさりと受け止められて阻止される。
「こそばゆいぞ? 我にじゃれついているのか、幼子よ」
「――――ッ!」
「そうら、少し速くするぞ!」
瞬間、その剣が牙を向いた。
目で追えない疾さで振るわれる大剣が分裂したかのように襲いかかり、まるで嵐がそのまま襲いかかってくるかのような錯覚を覚える。
もう知覚して防げる限界を超えているのでは、と思えるその速度に呼吸さえ忘れて剣を撃ちつけ、それでも防げなかった斬撃が腕や腰のアーマーを掠め。その度に鋭い痛みが走る。
「うわぁぁっ!?」
放たれた刺突を剣の腹で受け、無理に受け止めるのではなく流されるように後ろに跳ぶことで衝撃を殺す―――――それでもトラックに撥ね飛ばされたかのような衝撃が全身を突き抜け。それでようやく距離を取ることができた。
――――なぜ無事なのか。
自分でもそれが不思議に思えるほどの猛烈な斬撃の嵐に晒されても、不思議と相手の太刀筋を感じ取れたからだと自答する。
(そう…だ! この剣の軌跡は――――!?)
振るった剣が今度こそドラグギルディの大剣と互角に打ち合され、続けて放たれようとした斬撃を掻い潜るようにして接近し――――放たれた蹴りによって大きく弾き飛ばされた。
「――――――ぁ、ぐぅぅっ!?」
「――――っ、まさかこの僅かな結び合いで見切るとはな…!」
大きく吹き飛ばされ、蹴られた腹部をおさえる。
しかし、ドラグギルディの脚にも僅かながらこちらの放った斬撃による傷がたしかについていた。
そうだ、もう間違いない――――。
「ドラグギルディ……お前の、剣は――――」
「そう、我が振るうは――――」
「レッド、大丈夫!?」
テイルブルーが、愛香が大量の
「「――――ツインテールの
愛香もその衝撃の事実に驚いたのか、つんのめって転びそうになっていた。が、その動きさえも利用して戦闘員を吹き飛ばすのは流石としかいいようがない。
「なるほど、今日の敵はそーじ系か……やばそうね……」
「ああ、手強いぞ!」
ブルーが俺の隣に並び、ドラグギルディが手で戦闘員を抑えつつ言う。
「テイルレッド、恐るべき幼女よ。我が神速の斬撃……これほど早く見切ったのはお主が初めてぞ!」
「見くびるなよ、どんなに速くたって、それがツインテールである限り見えるに決まってるぜ。俺は、いつだってツインテールを心に
「敵ながら天晴れ! ――――ならば、極めに極めた我が
その踏み込みは地面を爆砕し、それによってもたらされる加速たるやまさに神速。テイルギアの力をもってしても力の差を完全に埋めることはできず。それなら死中に活を――――この舞い散る
「―――――う、おおおおッ!!」
「レッド!?」
視界を埋め尽くす剣の中を、小さくなった身体を活かして掻い潜る。
即座に放たれる愛香の援護もあって、今度こそドラグギルディの巨躯が仇となる
「――――見事だ!」
その言葉と共に、放たれる無数の剣。
―――――まだ、全力じゃなかったのか!?
視界を埋め尽くす無数の剣の煌きが、まるで夜空の星の軌跡が織りなす星座のように、
「う、おぉぉぉぉぉぉッ!」
―――――
生半可な剣では、そのまま押し切られる――――!
半ばまで無理矢理に発動させたグランドブレイザーが星も燃えよとばかりに業火をまき散らし、爆炎は衝撃波となって両者を引き剥がす。
「……見事なツインテールだ! 本当に、敵として出会ったのが実に口惜しい!」
「………それは、こっちのセリフだぜ」
敵として出会わなければ。心からツインテールについて語り合える友達がいればどんなによかったか――――。
「だが、少々無茶をしすぎたようだな?」
「く――っ!?」
完全開放した状態、しかも不安定な姿勢で無理にドラグギルディの剛剣を受け止めたのが祟ってか、ブレイザーブレードにヒビが入っていた。
これでは、よくて後一撃受け止めるのが限界だ――――!
「さらばだ、テイルレッドよ――――!」
油断など微塵もなく、ドラグギルディの巨躯から渾身の一撃が放たれる。
先ほどの激突によって吹き飛ばされたブルーは間に合わない。
そしてその一撃は、とてもヒビの入った剣で受け止められるものではなく―――――しかしその瞬間、一陣の風が吹き抜けた。
「………させません…!」
身にまとうのは、白と水色を基調とした装甲。
蒼銀に輝く二房の髪をなびかせ、翡翠色の瞳は憎悪を宿して燃える。手に握るのは美しい光沢を帯びた刀。
「――――ほう。来たか、テイルホワイトよ…!」
なるほど確かに、その姿はまさしくテイルホワイトだろう。
けれど、けれども。
俺には、そのツインテールがいつもとは異なっていることをはっきりと感じ取っていた。
「―――――…お前は、そのツインテールは……誰だ…っ!?」
その言葉に答えはなく、押し寄せる
―――――――――――――――――――――
「――――――そうら、どうした!?」
「……し…っ!」
神速の剛剣と神速の居合剣。
襲いかかるドラグギルディの剣を迎え撃つホワイトの刀は、その全てを射程に入ると同時に迎撃し――――しかし、それだけだった。
押し寄せる嵐を止めようと抗う脆弱な人間――――。
ただ暴威を受け流すだけで反撃の気配も糸口もなく、ただ体力だけを消耗していく。間違いなく、レッドの方が数段は脅威だろう。
そしてそのレッドは、ブルーと共に3対1は流石に不利としたドラグギルディの指示により押し寄せた無数の
「……その程度か。いつぞやの時からまるで変わっておらん――――いや、あの時の方がマシであったな。今の貴様の
「――――…っ!」
その言葉とともに振るわれた薙ぎ払うような一撃――――今の攻防が小手調べに過ぎなかったのだと如実に語る剛剣が、ホワイトの小柄な身体を大きく吹き飛ばす。
「そう、ですね――――…わたしの、ツインテールへの愛はあの時に曇ってしまったのでしょう」
ホワイトが刀を再び鞘に収め、居合の構えを取る。
瞑目し、大きく息を吐き。―――――鞘から溢れだす白銀の冷気がその周囲を包むように広がり、半球状の結界を作り出す。
「……守陣、
「ふん。己が敗北を認めておきながら、なぜ立ちはだかる!」
精神生命体であるエレメリアンにとっては、己の核である属性力への想いに曇りが生じるというのは力を失うに等しい。“かつて戦った時”よりも数段の衰えを見せるホワイトに失望の色を隠そうともせず、ドラグギルディはその神速の踏み込みで斬りかかり―――。
「―――――…それは、わたしが臆病者だったからです」
「――――なっ!?」
白い、どこまでも白い輝き――――鞘から迸った溢れんばかりの
圧倒的な属性力を得たその一撃は先程までの比ではなく。激しくぶつかり合った剣戟は僅かに油断を、失望を抱いてしまっていたドラグギルディの剣を押し切り。
返す刀で、しかしほぼ同時に放たれた
「ば、馬鹿な―――――どこにこれほどの属性力が!?」
「―――――せやぁぁぁあああッ!」
答える義理はない、とばかりに連続して放たれる斬撃が、先ほどドラグギルディがやってみせたように、地上にあるべからざる
「――――…ここで散れ、ドラグギルディ…っ!」
「舐、めるなぁぁぁぁ!」
負けじと膨れ上がった闘気がホワイトの纏う純白の輝きと激しくせめぎ合い、膨れ上がった属性力によって格段に力を増した剛剣と剛剣が真っ向から鬩ぎ合う。
そしてその純白の輝きは、レッドにとって常に隣にあったものだった――――。
「……トゥアール! あれは、あれはホワイトのツインテールの光だ! 一体何がどうなって――――…トゥアール…!?」
常ならばすぐにでも返事のある通信が、トゥアールが何の返答も寄越さない。
「――――ああ、もう! レッド、今はそれどころじゃないわ!」
「……ぐっ」
洪水のように押し寄せる戦闘員をどうにかしなければ、落ち着いて通信を取ることも、ホワイトに問い質すこともではしない。
ただ焦りだけが募っていく戦場に、また剣戟の火花と戦闘員が散った。
――――――――――――――――――――
―――――焼けつくように、身体が熱かった。
無理矢理に詰め込んだツインテール属性が、半ば暴走しているのだろう。
高熱を出した時のように視界は揺れ、手は震え。熱いのか、寒いのか。徐々にそれさえ曖昧になってくる。
(――――…それ、でも)
―――――かつて、憧れた人がいた。
たった1人で世界を守ろうとする
襲われて、怖くて泣くことしかできなかったわたしに、ツインテールが好きだと、ツインテールにしてくれている子が好きだと笑顔で語ってくれた。
『――――貴女が、ツインテールを愛する限り』
必ず、私が助けに来ちゃいますから。
そう冗談めかして、けれど真剣に言ってくれたわたしの
それから、それからだ。
なんとなく好きだったツインテールは、
臆病で、愚鈍で、少しだけ勉強ができるだけで、周囲にも溶け込めずにいた根暗な女の子は、ツインテールが大好きな女の子になった。
そのおかげで友達ができて。やる気が出て。親に褒められて。全部ツインテールの、そして
――――そのせいでエレメリアンに襲われてばかりで、いつも怖くて泣いてしまったけれど。その時はいつも、頭を撫でてもらって。
『―――――貴女が、世界で私の次に強いツインテール属性を持っているんです』
どんなに嬉しかっただろう。浮かれていたのだろう。
その日、わたしはテイルホワイトになった。
戦って、戦って、戦って。辛くても、苦しくても、嬉しかった。
―――――あの日が、来るまでは。
『アルティメギルはツインテールの戦士を活躍させることでツインテール属性を広め、最後にはそれを収穫しようとしている――――』
そしてそれが、世界を。あの人の本当の笑顔を殺した。
『私は、ツインテールが大好きです。けど、やっぱり――――ツインテールにしてくれている子も、同じくらい好きなんです』
――――特に、ずっと、最初から一番のファンでいてくれる女の子とかですね。
………………………
「―――――わたしが! わたしが奪ったんだ…っ! あの人が愛した世界を…! ツインテールへの愛なんて……ツインテールなんて、いらない…っ! エレメリアンなんていらないっ!」
ホワイトの、リィリアの振り絞るような叫びとともに、そのテイルギアがドス黒く染まっていく。――――それだけではない。その蒼銀に輝いていたツインテールもまた、闇に呑まれるかのような漆黒に変わる。
そして、鞭のように振り回された漆黒のツインテールがドラグギルディの巨体を大きく吹き飛ばし、付近の山肌に叩きつける。
「……ツインテールが、好き? 好きだから、奪う……? ……なら、自分も奪われてみればいいんだぁぁぁ―――――っ!」
「―――――…ちぃっ!」
迸る黒銀の属性力。
血反吐を吐くような叫びとともに、流星の如き暴威がドラグギルディに襲いかかった。